Operation Racoon City. Scenes U.B.C.S   作:オールドタイプ

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Mission report 05 PM21:00i R.P.D

26th(26日) September(9月). 21:00 in the police station(警察署内).

 

  作戦開始から3時間。最後に仲間から通信が入ったのが作戦開始直後。それを境に、通信は届かなくなった。

 殺られたのか。はたまたは、通信をする余裕がないほど切羽詰まっているのか。どちらにせよ我々は市民と同様に孤立してしまっている。

 ラクーンシティ警察の動きは遅くは無かったが、早いともいえなかった。事態が発生してから本格的に鎮圧に乗り出したのもほんの数時間前。

 署長のブライアンズが何故か出動に難色を示していたのだ。その署長の行方は現在不明。痺れを切らした警官が独断で行動。一部の精鋭部隊が鎮圧に向かった。

 だが、誰一人として帰ってきていないようだ。

 

「やはり誰も戻ってこないか」

 

 我々の部隊も通りで警官隊と鎮圧に奮闘したが、結果は無惨なものだった。僅かに生き残った警官と生存者で署内に立て籠り。今は状況を打破すべく会議室内で作戦会議をしているところだ。

 

「輸送車は部隊の出動で全て引き払ってしまいました。まさか、誰も帰らないとは.....」

「ブライアンズ署長も依然として行方知れずです」

 

 たった1日の出来事であったが、我々も警官も酷く疲弊している。頼るべき警官が混乱しているため市民も困惑。我々としても一刻も早くこの街から脱出すべきなのだが、迎えのヘリは翌日以降となる。何よりもここから市庁舎まで行くにはかなりの距離。

 

 会議室内は酷く散らかっている。書類は散乱し、無造作にひっくり返えされた椅子と机。大勢の人間が会議室内を入れ替わりで立ち入り、無意味な衝突を繰り広げていた光景が目に浮かぶ。

 大人数を収容するその会議室内も、今や我々含めたたったの10人しかいない。警官の生き残りは5人。"黒人の年輩の警官"が指揮を執っている。

 収容した市民は別室にて待機させている。

 今こうしている間にも外では奴等の呻き声と、バリケードを叩く音が聞こえる。

 恐らくここも長くはもたいだろう。だが、思うような良い案は未だに出てこない。

 

「保存食は何とか余裕がありますが、警察署そのものが安全ではありません。一刻の猶予もないので私は無理を承知で通りを抜けることを提案します」

 

 一人の若い警官が意見を挙げた。若い警官が挙げた意見は誰もが一度は思ったことだが、それは、あまりにも危険すぎる。バリケードとして築いた車の壁は突破されている。そのバリケードが今度は我々の動きを制限している。

 それに、こちらは市民を連れての大人数。いかに我々と言えどその全員を護りながら通りを突破することは不可能に近い。準備も万全とは言えない。長距離を動くにしては不安要素が多すぎる。

 

「私は有志を募って出動した部隊の輸送車をここに持ってくるべきかと」

 

 次に声を挙げたのは三十路近い婦警だった。

 

 婦警の案が一番理想的だと言えるかもしれない。輸送車トラックならば大人数を一度に収容可能。多少の障害物であれば強引に突破することも出来る。市庁舎までの道のりを比較的安全に進める。

 

「軍人のあんたらにも意見を聞きたい」

 

 警官の中でその案に異論を唱えるものはいないようだ。

 黒人の指揮官が我々にも意見を求めると、我々の中の一人が文句ではないが、アドバイスの一つを発言する。

 

「この暗闇を進むよりも次の日の出を待った方が良いかもしない。無理に夜道を歩くよりも明るい方がよっぽど安全だ。それよりもこの警察署のバリケードは完全ではない。先ずはそっちが優先だ」

 

 夜のラクーンシティ。街灯も看板のネオンも消えてはいないが、それでも外は暗い。季節なのもあるが、街の住人のほとんどがゾンビに変わり果てた。灯りをつける人間が少ない。奴等は視力があるのか、灯りにも引き付けられている。

 警察署周辺に彷徨くゾンビ共がそうだ。一向に立ち去ろうとしない。

 

「バリケード強化と車両の確保を同時にしたらどうだ?」

「もっと大人数ならそれでもいいが、今は人員を割いている余裕はない。ひとつのことに集中して取り組むべきだ。いざというときに戦える人間が少ないんじゃ、どうしようもないからな」

 

 警察署は他の住宅地等に比べれば安全と言えるだろう。広い敷地に強靭な造り。武器も食料もある。

 ただ、それだけ広い敷地となると、全ての場所を見張ることは難しい。常識が通用しない相手。何処から侵入してくるはわからない。

 本来このような事態は想定されていない。となれば、このような事態に対して、警察署という一見安全な場所にも穴となるものは出てくる。

 全てを未然に防ぐことは出来ない。何処が抜けているのか、また、どのようなことが穴となるのかは誰であろうと完璧に見透かすことはできない。

 出来るのは最善を尽くすことだけ。我々は軍人としての経験。警官は内部に詳しいという利点。それらを併せるしかない。

 

「今の意見に対して何か言うことがある者は?」

 

 誰一人として声を挙げることはなかった。

 

「では、明日の明朝に脱出用の車両の確保に出る。最後に車両の確保の人員を決めたい。誰が行く?」

「此方からは二人を選出する」

 

 警官と我々U.B.C.S.内で人員の選出を行うことになった。グループに別れ話し合いを開始する。

 我々は5人。3人も残れば十分。人数が多すぎても行動の制限となる可能性もある。二人というのは妥当な数字だろう。

 

「こっちは決まった。そっちはどうだ?」

「此方からはこの二人が行く」

 

 名乗り出たのは20代後半の我々の部隊の中でも比較的若い二人だ。一人は身長が180cm超えの、ラガーマンのような体型をしている。

 方や、もう一人は身長が160cm代の陸上選手のようなやや小柄な体型。

 体型が真逆の凸凹コンビだが、我々の隊の中で同年齢、出身国が同じということもあり、コンビネーションに長けている。

 

「我々警察からは3人を出す。一人は大型免許を所持し、大型車の運転が得意だ。二人目は交通課の者で道には詳しい。最後の一人は残った私達の中でも射撃が得意な者だ」

「宜しくな」

 

 メンバー同士で握手を交わす。明日の車両の確保は我々の今後を左右する重要な任務だ。彼等の腕に我々の未来が掛かっている。

 

「よし、このあとはバリケードの強化だ。市民を呼び手を貸してもらう」

 

 黒人の警官が市民を呼ぶために会議室の外に出る。残った我々は倉庫に足を運び、ベニヤ板や、インパクトドライバー、釘を会議室内に運び込む。

 会議室を出て、直ぐの通路の一画に倉庫があったため、道具の確保は容易だった。しかしながら、道具の数は限られており、全ての区画のバリケードを強化することは不可能であった。おそらく、前以て設置されていたバリケードに道具を殆ど費やしてしまったのだろう。

 

「市民の協力を得れた」

 

 会議室に戻ってきた黒人の警官。その後ろには生き残った市民5名が立っていた。市民といえど、このような非常時には人手が多い方が助かる。協力してくれて何よりだ。

 

「道具の数があまりありません」

「立て籠る範囲を狭めて、限られた範囲内だけを強化した方がいい」

 

 警察署の出入り口から、会議室までの通路と、暗室のある区画から二階の奥の区画を残し、後は厳重に封鎖することで決まった。

 警察署の奥には武器庫や貯蔵庫等があるが、ここに長く立て籠ることもない。武器も警察隊の出動によって殆ど残っていない。利用することがないため、そこまでに続く通路を封鎖することになった。

 

「バリケードの強化は必ず二人以上で行うんだ。決して単独では行動するな。何かあったら直ぐに助けを呼ぶんだ。以上だ」

 

 ここまで全て黒人の警官の指揮の元に我々も動いている。それは、この警察署内を熟知しているだけでなく、警官のリーダーになっている、彼だからこそだ。

 郷に入れば郷に従え。我々が生き残るためには両者の協力が欠かせない。軍人だからと言って無駄に主張を強くして揉める訳にはいかない。彼等の職場で彼等の街なのだから我々が従う理由としては充分だ。

 

 工具を手にしそれぞれがバリケードの強化の為に散っていく。

 

 任務は3日間。濃い1日だったが、まだ初日。今日生き残れたが、明日はどうかはわからない。常に最善の選択を選ばなければならない。それは戦場でも同じこと。ただ、相手が人間か、そうではないかの違いでしかない。

 

 窓の隙間から月が見える。街のことも我々のことも何も知らずに暢気に昇っている満月。

 

 明日も拝みたいものだ。

 

 .....それにしても、この警察署の異様な仕掛けは何なのだ?

 

       ◆ ◆ ◆

 

26th September 23:00 Raccon hospital(ラクーン病院).

 

「よし、しっかり抑えろ!」

 

 患者を運ぶ台の上に押さえ付けられているゾンビと、それを押さえるU.B.C.S.隊員。

 四肢を両腕で確り拘束し、鎖をつけ手摺に固定するとゾンビから離れる。

 

「猿轡をつけろ、油断するなよ!」

 

 影から現れたナースが持ってきた猿轡が一人の隊員に手渡される。隊員は猿轡を慎重に、手を噛まれないようにゆっくり近づけ、タイミングよく猿轡をゾンビに付ける。

 

「よし、これで安全だ」

 

 猿轡が外れないよう拘縛されたことを確認した他の隊員は胸を撫で下ろす。

 

「手術室に運ぶぞ」

 

 ラクーンシティ病院の二階の手術室にゾンビを運んでいく隊員。

 

 病院の廊下は至るところに血がこびりついている。電気は切れていないため、視界は良好。よく見えるからこそ、病院内の惨劇後の光景が目につく。

 荒らされた病室。ベッドはひっくり返り、タンス等には引っ掻き傷などがある。

 こびりついている血の割合に比べて死体がほとんどない。それは死した者達が甦り、病室中をさ迷い歩いていることを示している。

 

 手術中の赤いランプが点灯する手術室にゾンビを運んだ隊員。中にはオペの格好をした一人の医師と、助手を務める看護師がいる。

 

「それが次の被験体か」

「あぁ、そうだ」

「ならば直ぐに取り掛かろう」

 

 手術道具一式と、採血用の注射器とシリンダー、各種薬剤が並べられている台から注射器とシリンダーを取る医師。

 

「先ずは採血から行う」

 

 手慣れた手付きで注射器をゾンビの左腕に差し込んでいく。シリンダーがゾンビの血液で満たされていく。

 人間の真っ赤な血と比べ、ゾンビの血液はドロドロで、黒茶色に濁っている。

 

「よし、次は体を裂いていく。メス」

 

 看護師からメスを受け取り、胸元から腹部まで縦一直線に、滑らかにメスを走らせていく。

 深々と切り込まれたメスの傷口から先程の濁った血が溢れてくる。

 必死にもがくゾンビ。しかし、それは痛みによるものではなく、目の前の獲物に対して、空腹からくる悶えである。

 ゾンビの血液が体に入り込まないように、感染防護をした手でゾンビの体を裂いていく医師。

 割かれたゾンビの体。内部は鼻がひんまがりそうな悪臭を放っており、臓器と思われる器官は腐っている。特に胃の腐りは異常である。常に空腹なのは胃が満たされないことからきている。

 

「やはりこの個体も痛みの反応もない。臓器も腐っている。なのに骨は異常に丈夫だ」

 

 臓器が腐っても骨だけは残っている。そればかりか、人間の骨の何倍もの強度がある。ゾンビが何故歩けるのか。その理由がこれかもしれない。

 

「痛みの反応がない。神経が通っていない。痛覚だけではなく、他の神経も。胃が腐っているだけではなく、感覚がないことが、彼等が常に空腹である理由なのかもしれない。食べたということが脳に送られていない可能性もある」

 

 手術台のライトでゾンビの内部を事細かに見ていた医師。時折触れてみたり、ピンセットで一部を取り除いてみたりもしていた。

 一旦マスクと手袋を外しU.B.C.S.隊員に経過を報告する医師。

 

「脳からの信号は受け取っているが、脳が他から信号を受け取ってはいないのかもしれない。ウイルスの作用や、感染者の症状は狂犬病にも似ている」

「先生、俺達はそんなことを聞きたい訳じゃない。コイツらの体からワクチンが作れるのかどうなのかが知りたい。でなければ犠牲になった仲間が報われない」

 

 医者が言うのはあくまでも推測に過ぎない。それを元にある程度の推察、考察は可能。

 それ故に医者も医者で、全てのことをたらればの話にするしかなかった。可能性の一部であって、それが決定的なものであると断言するには、まだ材料が足らない。

 

 ゾンビのことを彼等と呼ぶ医者。それは心の何処かで、ゾンビになった市民を救う方法がある。人間として見ることを捨てきれないでいる気持ちの表れかもしれない。

 

 運び込まれた患者達を救えなかった医者達はやりきれない気持ちで一杯だ。

 しかし、兵士であるU.B.C.S.隊員はそんなことはどうでも良かった。犠牲者に同情こそするものの、医者達のように引きずることはない。彼等の任務は市民の救出であるからだ。

 

 病院にいるのはU.B.C.S.のG(ゴルフ)チーム。命からがらに彼等が辿り着いたのがこのラクーンシティ病院。

 逃げ込んで早々、彼等はゾンビに埋め尽くされた病院内を逃げ回る羽目になった。

 その際に、生き残っていた医者や看護師、ナースの助けを受けて今に至る。

 生き残っていた医者達は、ゾンビを捕獲してその体から抗体を、ワクチンを造り出そうとしていた。

 病院に運び込まれる患者から医者達は、この症状を何らかのウイルスが作用していることを突き止めた。ところが、肝心のワクチンを精製する前に被害が悪化。まともに調べることが出来ないでいた。

 そのため、危険を犯してまでゾンビの捕獲をしていたのだ。その折に、Gチームが病院に逃げ込んできた。医者達は彼等にワクチン精製の為の素体の確保を頼んだのだ。

 

 そんな彼等だが、煮え切らなくなりつつあった。それもその筈。医者達の言う通りにしても、何の進展にも繋がっていないからだ。時間と弾薬と仲間だけを消耗している。

 

「それに関しても進めている。この症状は何かのウイルスが原因であることは掴んでいる。有効な薬剤でも見つかれば彼等を安全に倒すことが出来るかもしれない」

「どちらにせよ頼むぜ先生。俺達はまた部屋で休む。この臭いには堪えられないからな」

 

 顔を歪め鼻を摘まむ隊員達。医者達は職業柄慣れているのか、あまり辛そうにはしていない。

 

 ストレスによる苛々を静める為に隊員達は、ポーチの中の煙草を取りだし、それをくわえ始める。医者達はそれを止めようとはしない。

 

 そして次々と手術室から出る隊員。手術室は三階にあり、三階と四階はシャッターで隔離されており、非常階段にも鍵が掛けられ、エレベーターでしか三階と四階には来れない。

 ゾンビを捕獲する時はそれ以外の階まで行かなければならない。彼等が助かったのは偶然医者達がゾンビの捕獲の為に一階のフロアーにいたからである。

 

 隊員達が去った後、医者達は再び作業を再開。ゾンビの体を隅々まで調べたり、あらゆる薬品を投与したりする。

 

U.B.C.S.生存者40名。死亡者80名。

 


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