Operation Racoon City. Scenes U.B.C.S 作:オールドタイプ
これで20......いや30か?
額から入っていく弾丸が化け物後頭部から突き抜け、弾の威力によって、射出口となる後頭部が大きく弾け飛ぶ。
元々死んでいる為、死臭も半端ないが、脳ミソをぶちまけた後の臭いは、体から発せられる臭いよりも酷いものだ。
鼻がひんまがりそうだ。顔を歪めながらも集団に対しての照準は外さない。
「そうだ。頭だ頭だけを狙え。距離がある奴に無理に狙おうとするな。近いやつから片付けていけ。ライフルも拳銃もそれは変わらない。有効射程は10程度だと思え」
円を組むようにして連中を迎え撃つ私達。恐怖から狙いすぎて逆に当たらないもの。また、逆に一定の緊張感と恐怖によってよく当たるものがいる。
倒せない相手では絶対にない。倫理や道徳に外れ、生物系の輪の中から外れていても、一応は"生物"。兵器であるが生物として活動をしているため、殺せる。尤も既に死んでいるのだが。
「へいへい、兵隊さんよぉ、何時まで続ける気だ! キリがねぇよ。このままじり貧を続けてたら......弾だって限りがあるんだろ!?」
空になった弾倉を抜きながら隊長の方を向く。青年の言う通り、ここで連中を相手し続ける必要はない。今はまだ弾があるが、応戦を続ければものの数分で残弾が0になるだろう。
青年の言葉を聞きながら隊長は首を回し、何やら周囲を観察しているようだ。
「東側の扉......そこから外に出れるか!?」
隊長がある一ヶ所に視線を釘付けにさせる。そこは他の場所よりも比較的、奴等が闊歩している数が少ない。
「工場の反対側、路地裏に続いている!」
「道案内を頼めるか!?」
悠長に話しているように思えるかもしれないが、こうしている間にも銃撃は継続している。
銃声に声がかきけされる為、隊長は近くにいる青年に近寄り、耳元で大声を出して何かを伝えている。残念なことに私は距離が離れているため、隊長と青年が何を話しているのかは不明だ。
「他の連中にも移動することを伝えろ!」
会話を終えた黒人の青年が、生き残っている他の青年達に伝言を回していく。
「回したぞ!」
「全員一斉射撃!」
これ以上ない怒号を浴びせる隊長。弾倉が丸々1つ無くなるまで射撃を行う。
それまで精密に行っていた射撃ではなく、あくまでも合図。"敵"を倒すためのものではなく、後退、逃げるための攻撃。足止めさえ、時間さえ稼げればいい。
耳が張り裂ける勢いの銃声。奴等のうめき声も、私達の声も何も聞こえない。聞こえるのは銃声。そう、銃声だけだ。
その銃声もいつしか聞こえなくなる。射撃が止んだからではない。いつしか無声映画を見ているかのように只映像だけが過ぎていく。
にじりよる死者が力なく崩れ落ちる。ピクピクと痙攣。そして再び立ち上がる。そんな死者もいれば二度と動かなくなる死者もいる。何もかもが只の映像に成り下がる。
「よし! 行くぞ!」
弾が切れたことを私は開放されたままの薬室を見て初めて気づく。それでめ指は引き金にかかりっぱなしだ。
先程よりも光景がスローモーションに映る。直ぐ真横にいた仲間を見ると私に向かって何かを叫んでいる。
だが、声が聞こえない口がパクパクとしか動いていない。
その仲間の更に後ろを走り去っていく青年達。そこで初めて私は撤退を開始したことに気づいた。見れば私以外が全員脱出口に向かっている。
「早くこい!」
しかめっ面に大きく開かれた口。右手を大きく仰ぎ急かしている。
弾が切れたM4A1を手離す。スリングに繋がれた武器は私の体に密着するようにぶら下がる。
何も聞こえない。全てがスローモーションに見えるなかで私は同僚の元まで走る。
レッグホルスターに納められた拳銃を抜き、視界に入る、掴みかかろうとする死体に向かって発砲。
糸の切れた人形のように倒れる死体。その濁った白い目が私をじっと見つめているのが見えた。
私が来たことを確認した同僚が先を走る。
隊長や青年達はその前にいる。青年の一人が死体に首もとを噛み付かれた。
前を走る同僚が青年に噛み付いた死体を、拳銃で撃ち抜くが手遅れだった。
辛うじて息がある青年。しかし、噛み付かれた首もとから夥しい量の出血。
泣きそうな青年が私に何かを懇願してくる。しかし、私はその声を聞き取れない。先程の銃撃で耳でもやられたのかもしれない。
私は半泣きになる青年の額を拳銃で撃っていた。しかし、私は青年に対して何も感じていなかった。哀れみも何も。
出口が見えてきた。外では、他の仲間が私達の撤退を援護するために、弾倉を交換したライフルを構えている。
頭を下げ、姿勢を低くしながら出口に向かって走る。
仲間のライフルのマズルフラッシュが目を眩ませる。
後方を少し覗いて見た。そこには蟻のように際限なく沸いている死体の群れがあった。そこから私はもう後ろを振り返らなかった。
出口を抜けた。仲間が出口の扉を閉め南京錠で施錠する。だが、直ぐに破られるであろう。
出口抜けた先はフェンスに囲まれた廃車の山だった。
フェンスの一部をナイフでくりぬく青年達。外に繋がる道が出来ると私達は我武者らに、何処へ行くのか宛もなく走った。
走って、走って、走り続けた。ふと気が付いた時には私の瞳に映る光景は元に戻り、音も聞こえるようになっていた。一目散に走り去るブーツが地面を蹴る音が。
あの奇妙な感覚、現象は何だったのだろうか。私にそれを探る術は無かった。
◆ ◆ ◆
PM20:00 south street westerntheater.
ある1つの劇場に十数名の兵士が集結していた。皆疲弊しきった疲れを隠せないでいる。
市民救出部隊の内の3チーム内の生き残り達であった。人の多いと思われる大通りに降下した彼等を待っていたのは市民ではなく、変わり果てた姿の者達だった。
運良く逃れた彼等。体勢を立て直す為の算段を考えている最中である。
「地図上ではここは市庁舎から南西に15kmの位置だな」
「迎えのヘリは任務終了までの3日の内、定時の9時と12時と15時と18時と21時の5便が来ることになっている」
「あと一時間後に今日の最後の一便か」
「だが、市庁舎周辺は化け物で溢れているのだろ?」
「あぁ、だがしかし、無線が逃げるときにか、破損してしまった。本部との交信が不能。ヘリの要請場所を変えることは出来ない」
各部隊に1人通信員として無線を装備しているのだが、この集団の通信員は1人だけ。他の2チームの通信員は途中で死んでいた。残った無線も破損したため、手詰まり。
劇場のロビーで今後の方針を考える兵士達。思いもよらない事態にも冷静を何とか保つ彼等。
ラクーンシティ全体図を広げ議論を交わすが、中々方針が定まらない。市民の救出を第一にしているが、その市民達がどの辺りにいるのかも見当がつかない。
建物を一件一件捜索している暇はない。移動手段もない彼等は、ある一定のポイント毎に市民の救出に当たっている。人が集まりそうなところを指定して。
しかし、それが思うようにいかず行き詰まっている。人が多く集まるところには常に死体が闊歩。今のところ彼等は市民と遭遇していない。
「次の便には間に合わない。一晩ここで過ごして改めて市民の捜索を行おう」
一番最年長と思われる白髪混じりの男性兵士の言葉に頷く一同。どうやら彼がこの集団を引っ張っているようだ。
一先ずこの劇場で過ごすことが決定した彼等は、ほっと束の間の休息に胸を下ろす。
そんな彼等が気を抜いた瞬間、銃声が劇場内に響いた。単発の一際デカイ音。それは外から、劇場の屋上から聞こえるものだった。
「誰か見張りに言ってこい。無闇矢鱈に発砲するなと」
呆れ返る白髪の男性。そんなことを気にする素振りも見せずに屋上にいる兵士は発砲後の狙撃銃のコッキングレバーを引き、薬莢を排出し、酒を口にしている。
気晴らしのためか、ラジオからは音楽が流れている。
見張りの兵士は劇場の外でうろうろしていた感染者を狙撃。頭部が吹き飛んだ死体が転がるが、それは1つではなく、幾つもの死体が同じように転がっていた。
「どっからでも来な化け物共。弾はまだまだあるぜ」
銃声が彼等を引き付けるのだが、彼はそんなことは気にしてはいなかった。感染者を殺すことで精神の安定をはかっている。
だが、彼の放った銃弾が引き寄せたのは感染者ではなく、もっと違った別の"ナニか"だった。
影が見えた見張りの兵士は狙撃銃のスコープを覗く。そして、そこに映ったモノを見て目が点になっていた。
「何だよ......アイツは......」
ボソッと口から溢れた彼の言葉。彼が見たモノは感染者よりも一回りも大きく、全身が黒コートような物を纏った生物だった。
「何だあれは?」
それは劇場内にいた兵士達も気づいていた。ゆっくりと近づくソレの胸に穴が空いた。
僅かに血を流しただけで、止まることなく、変わらない速度で近づいてくる。
屋上の兵士は苛ついていた。それまでほぼ一撃で仕留めていた彼。様子見の為に、足止めの為に胸に狙撃したが謎の生物は気にも止めていない。
続けて二発目。今度は致命傷となる頭部への狙撃。完全に脳髄を捉え、手応えを感じたが、その生物は足こそ止めたものの、倒れることはなかった。
その事実に彼は生物に対する睨みを強くした。
謎の生物と目があった彼。謎の生物の顔は人間のような皮膚をしているが、鼻や唇というものがなかった。剥き出しの歯茎に、膨れ上がった皮膚が目元を覆い、細く鋭い眼光が屋上の彼を捉えていた。
「ウグゥァァァァ!」
感染者よりも低いうめき声を上げた生物は、屋上の彼に向かって右手の武器を、ロケットランチャーを構える。
屋上の彼は目を見開くが退避行動が取れない。謎の生物の武器は狙撃越しに見えていたが、頭を撃てば死ぬと考えていた彼は、対して脅威を感じてはいなかったのだ。
その誤った判断が彼の動きを鈍らせた。
ロケット弾は屋上を簡単に炎上させる。直撃を受けた彼は当然粉々に、跡形もなく吹き飛ぶ。
劇場全体が大きく震動。謎の生物を脅威として見定めた彼等の動きは早かった。
「展開して防衛体形をとれ。奴を殺せ」
次々と外に展開する兵士達。柱や看板等の遮蔽物に身を隠しながら銃口を向ける。彼等は逃げるよりも戦うことを選んだ。
「撃て!」
謎の生物に対して複数の銃口が一斉に火を吹く。5.56mm弾が次々に謎の生物の体に命中。しかし、全くダメージが無いのか、怯む様子がない。
「頭を狙え」
頭部に命中する銃弾は胴体よりはましなのか、たじろぐ謎の生物。だが、やはり、倒れることはない。
「撃ち続けろ!」
後先考えず撃ち続ける兵士達。半ばやけくそのようになっている。
謎の生物の左手がゆっくりと上がる。その手には小型のガトリングガンが握られている。
自分達に銃が向けられているのが見えていないのか、兵士達は一心不乱に弾をばら蒔き続ける。
謎の生物の人差し指が、ガトリングガンの引き金に添えられる。
引かれる引き金。歯止めが効くことなく、兵士達を何千もの弾が襲い掛かる。反動に全く影響を受けることなく安定した姿勢で、薙ぐようにガトリングガンが振られる。
被弾した兵士達の体が引き裂かれる。叫び声を上げながら1人、また1人と無情な暴力によって散っていく兵士達。
引き金を引いたまま倒れる兵士達。被弾の衝撃でライフルに掛かった指が引き金を強く引くのだ。
弾が切れた後も引き金から指は離れない。
劇場にいた十数名の兵士は誰1人と、生き残ることなく、その全員が一瞬で絶命することとなった。
動かなくなった彼等を一瞥すると、謎の生物はその場から静かに離れていった。
◆ ◆ ◆
PM20:30 underground serverroom.
済まないな諸君。私はこんなところで死ぬわけにはいかないのだよ。手にいれた戦闘データーをクライアントに渡すまではね。
部下の1人の足を拳銃で撃ち抜く。悶える部下と私を追う残りの二人。だが、一歩遅かったな。
オートロックの扉を閉める。外からしか解錠できない扉。中の部下達は閉じ込められる。
もう少し生き残らせる予定だったが、少々感染者の数が多すぎた。手に余る。だから部下を囮にすることにした。
ここまで共にした同胞を犠牲にするのは心苦しいが、致し方あるまい。
扉を越えた私は一先ず落ち着く為に安全な場所を目指す。勿論私個人の為だ。市民などどうでもよい。
影に隠れながら感染者達をやり過ごす。いかに私といえど、大勢の感染者の相手をするのは骨が折れる。
幾つもの扉を越えて私は地下の配管整備場に出た先に蠢く影が7。そこにいた影の正体は感染者ではない。見覚えのある黒装束に見慣れたロゴマーク。彼は彼らが誰なのか一瞬で判断する。
「待て、銃を下ろせ。彼はU.B.C.S.よ」
ほほぉ、これはこれは。まさかこんなところでU.S.S.とお会いするとは。
どうやら会社は本腰を入れて情報の隠蔽に出てきたようだな。早い段階で事態の収拾が不可能と判断。これは近い内にB.O.Wも投入されるだろう。
表向きは市民救出の為の兵士だが、私には"監視員"という裏のもう1つの顔がある。これは会社と、私と同じ監視員しか知り得ないことだ。無論目の前の彼等も私の正体は知らされてないだろう。監視員が何をすることなのも含めて。
「こんなところで何をしている」
「既に街は大勢の感染者で溢れている。私は一先ず安全な場所を探していたところだ」
裏の顔をまだ出す必要はない。コイツらは使えるかもしれないからな。ここは一旦平凡で従順なアンブレラの兵士として振る舞おうじゃないか。
「安全な場所など何処にもない」
「君達が来たということは会社も相当焦っているようだな」
「答える義理はない」
そうだろうな。我々U.B.C.S.とU.S.S.は水と油のようなもの。考えていることも違えば、忠誠を誓う相手も違う。尤も私に忠誠を誓う相手などいないがね。クライアントと言えど、只の商売相手。
「どうする? ここでやっちまうか?」
「始末した方がいい」
どうするかは構わんよ。この場を切り抜ける方法など幾らでもある。
「その必要ない。どうせ1人では生き残れない」
「弾も無駄だ」
私の横を通りすぎていくU.S.Sの面々。彼等は情報の隠蔽を図っている。ゆくゆくは私の邪魔ともなろう。その時は此方から始末させてもらう。それまでは精々私の目的の役に立って貰うとしよう。
「諸君に幸あれ」
彼等に背を向ける私だが、笑いが止まらなさそうだ。つくづく私は運が良い。
U.B.C.S.生存者85名。死亡者35名。