Operation Racoon City. Scenes U.B.C.S 作:オールドタイプ
September 29th 1300i HIVI Under3 flare leve 3 area.
キメラが徘徊するエリアから更に深部、第3エリア、Practical testing区域へと足を踏み込む一同。先程のエリアは次期B.O.W開発における研究部門であった。そこで研究開発されたB.O.Wがこのエリアで実用に足りるかどうかをテストするのがこのエリアである。
B.O.W同士による戦闘も行われることもあり、各B.O.Wの欠点や相性としたもののリサーチが主目的だが、研究目的というよりは、それぞれの研究員の自信作の御披露目場、開発したB.O.W同士による戦闘を余興とした意味合いが昨今では強かった。
先程のエリアよりも、横に長い長方形のこのエリアには、区画そのものがB.O.Wの保管庫しての機能もあり、種類ごとに区分けさた檻が区画の至るところに間隔を置いて置かれている。人型から動植物型、爬虫類、両生類といった、ラクーンシティを徘徊する全てのB.O.Wが納められていた。檻には高圧電流が流れ、逃亡抑止化がなされている。
B.O.W同士を戦わせるときは、その檻を昇降させ、このエリアと同等の広さの下部空間で戦わせることになっている。それらの観戦は、このエリアのコントロールルーム、区画に降りて直ぐ右隣の部屋からできる。この部屋では、他にも区画の空調、照明、発電器や、檻に備え付けられている外部コントロールによる鎮静剤の投与設備といった機器の制御ができる。万が一の時は、保守設備として銃火器も用意されている。
一行は直ぐにコントロールルームで、弾薬の調達を行う。そして、区画の調査にあたる。
「どういうことだ? なぜB.O.Wが全くといっていいほど姿を消しているのだ?」
誰よりもハイヴのことを知らされていた監視員の彼は、ハイヴを進む上で大きな障害となるこのエリアを一番警戒し、万が一、B.O.W達が脱走していれば、それこそチーム内の半数が生き残れるかどうかも危うい程の危険エリアとみなしていた。そのエリアが、まるで空き家のようにもぬけの殻となっている現状に理解が及ばなかった。
外部から持ち出されたにしては、檻や拘束具が綺麗に地べたに安直され、破壊された形跡も、内側から破られた形跡もなく、綺麗に保たれていることが更に不自然さを際立てる。
「あり得ない。そもそもハイヴは外部と隔離されていた。B.O.Wが自力で外に出る筈もない。我々以外にここに立ち入った者の痕跡もない。どうなっている」
近辺の檻を二列の縦隊で確認しながら、独り言をぶつくさ言い続ける監視員。他の隊員達は心底震え上がっていた。膨大な数の保管庫につい最近まで、化け物共が閉じ込められていたであろう事実と、現在進行形で、その場を探索している自分達が、理解を拒むことが不可能な恐怖の空間に存在していることに。
「ん? 檻の中に穴が空いているぜ」
隊員の一人が、檻のおそらくB.O.Wが立っていたであろう場所に穴が空いていることに気づく。それは一つだけではなく、よく見れば全ての檻に穴は存在していた。
直径2,3mほどだろうか。奇怪な現象に囚われるあまり、それほどの異変を見落としていたのであろう。檻の外からしか穴の存在を認識できないため、その穴の深さ、どこに繋がっているのかは把握することができない。
「この穴は一体」
必死に自分が持ちうるB.O.Wの知識を手繰り寄せるが、これほどまでの穴を掘る習性を持つB.O.Wは、彼が知る限り存在しない。
ハイヴ内で新種のB.O.Wを生み出していたのか? この穴を作った存在がB.O.W達の姿を消させたのかもしれない。いや、そうとしか考えられない。
考えたくも、当たっていて欲しくもない一つの答えが導き出される。直接は確認したことはないが、二次災害による意図しないB.O.Wの誕生が起きてしまったのか?
研究員の数多くの報告書の中に、ごく稀にだが、二次災害による未知の生物の存在が挙げられていた。主に昆虫類や、およそ兵器として利用は考えられない生物によるものだ。
大抵の場合、ウィルスの作用による急激な進化、成長に耐えきれずすぐに死ぬが、さらに稀なケースで生き残るモノもいるらしい。
もし、この穴の作製者が、稀なケースで生き残り急激に成長し、凶暴化してるとしたらかなり不味い。何もデータがない上に、対処法はおろか何の生物かもわからない。しかも、このハイヴの鋼鉄製の床を突き破る程の力を持ち、地下に潜っているとなると、足が着くところ全てが危険なエリアということ。
監視員の冷や汗が止まらない。脱出の為の地下列車でも襲われる可能性もあるだろうし、既に列車が破壊されているかもしれない。だからと言って地上に戻ることもできない。上のエリアには凶暴なキメラも多数いる。
「これから更に慎重に進むぞ。足元にも注意しろ」
動悸が早くなり、声も若干震えている。全て計算外である。そんなことを考慮しているわけがない。
「ここに入った時、地震のようなモノが起きたよな?」
「死体が山積みにもされていたしな。人間や今までの化け物共の仕業じゃないのは何となくわかっていたが」
監視員の注意換気に、それぞれが事態を察して顔が青ざめている。ここはヤバいと。
地震のような地鳴り、死体の山、餌場。まさか。
監視員の頭の中に、ある生物のシルエットが浮かび上がる。しかし、今までの報告にあった昆虫や他の動植物に該当したことはない。あれだけの穴が作れるということはかなりの大きさになっているということだ。しかも一匹とは限らない。
警戒の視線がやや足元に落ちた、彼らの進行ルートに、檻の陰からぬるりと、あるB.O.Wが歩み寄ってくる。
特徴的な濃いめの橙色の皮膚。中でも目を見張るのが、肥大化した右腕部分。鋭利な爪を携え、怒張した血管と筋骨粒々なその腕は、リッカーのそれを更に力強くさせたもののように感じさせる。その逆に左腕部分は腕と呼べるほどのモノがなく、肉芽のようなものがほんの僅かに延びているだけで姿形はかなりアンバランス。
「バカな。バンダースナッチだと?! しかし、アイツはラクーンには存在しないはずだ!」
アンブレラの傑作とも言える、ハンターを凌ぐ性能持つ究極のB.O.W「タイラント」をコストダウンし、量産化を図った廉価版がバンダースナッチと呼ばれるB.O.Wである。
タイラントの更なる量産化を目指して、作製されたのだが、コストダウンに重点を置くあまり、知能が低いことと、適性のあるクローンを用いず、従来のハンターのように普通の人間をベースに開発された。
その過程で、適性がない人間にT-ウィルスを投与すれば、ワクチン無しではゾンビ化するのが常なため、かつてのリサ・トレヴァーのように適量を投与させていた。そして、人体解剖によって、急激な新陳代謝による細胞の作り替えを制御し、細胞が壊死してゾンビ化が起こる前にそれらを取り除く措置がされた。
しかし、それによって大部分の細胞、脳機能を取り除くことになってしまい、ある程度の戦闘能力も遺すため、全体の強化では制御が追い付かず、泣く泣く部分的な戦闘能力の強化となってしまった。その結果が右腕であり、左腕である。
右腕のみに戦闘能力が依存してしまう、予期せぬ結果であったが、当初の予定であった、タイラントのコストダウンそのものは成功し、右腕の筋力はタイラントにひけをとらない。その上、この右腕は伸縮性があり、不意討ち攻撃として腕を伸ばして攻撃することも可能である。
残念なのは、この出来に、アンブレラ上層部は不満であった。タイラントの量産型としては能力の偏りが大きく、タイラントの名に傷がつき、製品価値を下げてしまう恐れがあったからである。そのため、何体かの作製に留まり、本格的な生産は見送られていた。
「気を付けろ! ヤツは腕を伸ばして攻撃してくる! 10m以上絶対に距離をとれ!」
チームの戦闘を歩く二人の隊員が、3番目をある監視員のその言葉を聞き即座にバンダースナッチとの間隔を開くべく後退する。それに合わせて後ろに連なるチームも下がる。
野獣のような声を挙げつつ、バンダースナッチはその大きな右腕を上に振り上げ、一気に右腕を伸ばしてくる。即座に下がった隊員の内の一人の、鼻先をあわやバンダースナッチの爪が掠める。掠めるといってもギリギリ触れていないため、傷もなく、感染もしていないだろう。
「あぶねぇ!」
腕を伸ばしきったバンダースナッチは、腕を戻す動作が伸ばすときよりも遅く、その間は何もできず、タイムラグも弱点である。
前衛二人はバンダースナッチの腕を中心にお互いに左右に半円を描くように短く、瞬時に移動し射線を確保する。巨大な右腕を避けて攻撃するためである。その二人の後ろにいた別の二人も、ニーリングの姿勢を取り、バンダースナッチの腕の下から、下半身を狙う。
彼らのM4カービンが短連射される。半円を描いた二人の何発かは巨大な右腕に阻まれるが、4人の弾はバンダースナッチの頭部から下半身までを捉える。
ところが、流石はタイラントの量産化を目指しただけはある。5.56mを40発ほど受けてもものともしていない。
やがて伸ばした腕を収縮させ、ゾンビのようなゆったりとした足並みで隊員達に近づく。
「くそ、犬や脳ミソ剥き出し野郎なら今ので終わっていたぞ!」
「偉く硬いな!」
マガジンの3分の1程度では効かないことがわかったため、出し惜しみしても仕方がないと、セレクターをフルオートに切り替える。
「補給してもこんな奴等がまだいるんじゃ、弾も足りねぇ」
チームは再び二列の縦隊となる。足早に後退しながらフルオート射撃をする戦闘の二人。その後ろ以外の隊員は後方と、左右の警戒に当たっている。
マガジンが空になったところで、後ろの隊員と交代し、前の二人はそのままチームの最後尾に回り、弾倉を交換する。
交代して最前列にきた二人も残りの20発を全て撃ち込む。合計にした100発近い弾がバンダースナッチに浴びせられる。流石にそれだけの弾を受けたバンダースナッチは、野獣のような短く低い雄叫びを挙げると、仰向けに倒れる。しばらくチームはその場で待機し、バンダースナッチが起き上がらないことを1,2分待って確認する。
「どうやら全てのB.O.Wが、姿を消したわけではないみたいだな」
倒れたバンダースナッチが動かないことを再度、足蹴りで確認しながら、左右を通りすぎていく。
「不意討ちと耐久力に気を付ければどうってことはないが、挟み撃ちにされたらキツいな」
「こうした通路では会いたくない相手だ」
もし仮に通路で挟み撃ちにされた場合は、二人一組の上下の射線による一斉射で倒すしかないだろう。交代もおそらくできないだろうから、拳銃に切り替えて継戦するしかない。
「上層部は当てにならんな。バンダースナッチがいるとは」
未知のB.O.Wに、いる筈がないB.O.W。悩みの種が増えてしまった。
「銃声を聞き付けた他の化け物がくるかもしれない。さっさと下の階層に行こうぜ」
上のエリアから、このエリアに進むためにはパスコードが必要だったが、このエリアから先にはそれがなく、エリアの端の、緩やかな傾斜の道を進んでいくのみ。
途中下車がきかない、地獄への片道列車に乗り合わせ、払い戻しのきかない切符を掴まされている一行。
足を止めたくば、死ぬしかない。死にたくなければ地獄へと突き進むのだ。
最終階層へ至る通路の中腹で、一行は壁際で一組の死体を発見する。南米系なのだろうか、浅黒い肌が特徴的で、二人寄り添うように、肩を抱き合いながら事切れている死体はどうやらアンブレラの研究員のようだ。白衣にアンブレラのロゴ入りのネームバッジと、一目で判断できる。
そんな一組の死体の、女性の方の胸元のポケットに一枚の紙切れが忍ばされている。
隊員の一人がそれを手に取り、紙切れに記載されている文を読み上げていく。
『愛しのメラへ。あぁ、私たちのメラ。愛しいメラ。こんな愚かな両親を許してちょうだい。あなたを置いて二人でこの街に来た私たちが間違っていたわ。
あなたの生活や進学の為とはいえ、あなたの父と母は大きな過ちに荷担してしまった。
ここで行われているのは数々の非人道的な実験。それに関与してしまった私たちがこんな目に合うのは当然のこと。最期にあなたに会うことも、言葉を掛けて挙げることもできないのは、神様が与えた私たちの当然の罰。
私たちがここで死ぬのも然るべきこと。私たちは私たちがしてきたことの報いを受ける。ただ、最期にあなたに対する思いだけはここに記しておきたい。こんな私たちだけど、私たちの娘として産まれてきてくれたことを感謝するわ。願わくば、あなたが、私たちのようなことにならないことと、このようなことに関与することがないことを祈るわ。
さよなら、愛しのメラ。私たちはいつまでもあなたを愛して見守っているわ。ビジー夫妻』
故郷の家族に宛てたメッセージだろう。誰の目に入ることも、本人が目にすることもないだろうが、文言からひしひしと娘に対する思いが伝わってくるのを読み上げた隊員は感じたであろう。
目立った外傷がないため、二人の死因は何なのか特定はできないが、最期まで脱出を諦めずここまで辿り着けたのは娘への思いからなるものだろう。
彼らではないが、隊員は街ですれ違ってきた仲間や、市民を連想する。このように紙に思いを遺すことは稀だが、皆何かしらの思いを残し、志半ばで果てていった。
もし、自分も道中で果てるのなら、何かしらのメモやメッセージを仲間に遺そうと、メモを読み上げた隊員は強く決心したであろう。
読み上げたメモを胸元に戻し、十字を切り隊員達は地下列車が待ち構えている最終階層にようやくたどり着く。後は列車に乗り込み、地下道を通り郊外まで脱出するのみだ。