Operation Racoon City. Scenes U.B.C.S   作:オールドタイプ

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9月28日
Mission report13 PM16:00i


「本当にこんなところに博士はいるのか?」

「装置に反応がある。以上確認する必要がある」

「ここなら食い物には困らない。隠れるなら絶好の場所だな」

「もしかしたらドクターを食っちまったゾンビがIDをぶら下げているのかもな」

「どちらにせよご対面といきたいところだね」

 

 

 よりによってこの私が何故このようなことに.くそっ! 

 

 ラクーンシティ。とある区画のとある倉庫。一台のジープと5人の男達がそこにいた。

 

 U.B.C.S.隊員4名と眼鏡をかけた線の細い学者タイプの男。その男は手に握られている装置を見ながらU.B.C.S.の隊員達に確信を持って発言している。

 彼等の目的はただひとつ。ラクーンシティ内で行方不明となった研究員とその実験サンプル。

 ラクーンシティの外れに位置するこの場所は、他の場所に比べ感染者の数が少ない。

 

 スッ.

 

 ベレー帽を被ったチームのリーダーは、ベストに取り付けられているクロスドローホルスターからP220拳銃をぬきとり、左手で両引き戸の倉庫の入り口に2名着くようハンドサインを送る。

 

 サイン通り配置に着いた2名はノッドでタイミングを合わせ、勢いよく倉庫の扉を開き、そのままコーナークリアを行う。

 

 倉庫一帯は明かりがなく、薄暗い。作業の途中だったのか、フォークリフトが無造作に放置されている。穴の空いた天井から差す僅かな陽の光と銃につけられたライトが頼り。

 

「散開して周囲の捜索にあたれ」

 

 缶詰や果物といったものの出荷前の保存倉庫のようであり、幾つかの段ボールは地面に落下しており、中身が飛び出している。それに群がる形で蛆やゴキブリといった虫も足元を徘徊している。

 

 積み上げられた段ボールの山の隙間を通り、区画内の探知を行うU.B.C.S.隊員。ファイヤリングラインを意識しながら同一に進んでいく。射線による銃口管理を行うことでブルーオンブルー防止に繋がるためである。

 

 薄暗い室内をローライトテクニックを駆使し奥へ奥へと進み続ける。その際、ライトを点灯させながら進む。こうすることで人数の撹乱及び位置の撹乱をすることができる。

 

 ライトを点けるのは短時間。その間に視界内をサーチ。ライトが消えている間に速やかに移動することで、相手を錯覚させる。

 訓練に訓練重ねることで、チームは均一の移動速度を維持しつつ、アイコンタクト、ボイスコンタクトをすることなく意志疎通も図れる。

 

「臭いな.何の臭いだ?」

 

 ある隊員が耐え難い異臭を感じ取る。それは人間の腐った臭いと、夏場等ではよく起こり得る食品の腐った臭いが混ざり合った悪臭。

 この時点で異臭の報告をチーム内に挙げていれば、もう少し長生き出来たのかもしれない。チームでの行動はほんの僅かな異変でも報告を挙げるのが常。それを怠ることは致命的なミスになりかねない。

 

 悪臭の方へと足音を立てないように近づく隊員。その先にはフォークリフトが止まっており、運転席には一人の男性の死体があった。その死体は動き出す素振りはない。

 

 隊員は悪臭の発生元は死体ではなく、その先にあると感じ更に先へと単独で進む。

 そこで積み上げられた段ボールの内の一つが閉じられていないことに気付き、中身を確認する。

 梱包されかけた段ボール内にはオレンジが詰められている。悪臭の発生元はこのオレンジからだと確信した隊員は段ボールに顔を近づけ、オレンジを1つ取ろうとする。

 

 そして.

 

「ぐぁぁぁぁぁ!」

 

 突如、段ボールの中から3本のワインレッドの触手が隊員の顔面を貫く。圧倒的な触手の力に貫かれたまま持ち上げられる隊員。2本の触手は隊員の額と右目から脳を貫いており、残りの1本は口内から後頭部を貫いている。

 

 これだけの致命傷を受けても即死ではなく、隊員は声にならない苦痛を伴った悲鳴をあげる。握られているM16A1ライフルで抵抗することも叶わず、体を捩らせるだけである。

 

 徐々に声が小さくなっていく。段ボールの下から3M近い巨体の化け物が姿を見せる。全身が触手と同じ色、全身が触手で覆われているような姿をしている。

 

 隊員の滴る血液量が手遅れであることを告げる。倉庫の端に投げ飛ばされる隊員。

 

「な、なんだコイツは.!?」

 

 な、なんだこのB.O.Wは! こんな奴本社のデータにもなかったぞ! キャメロンのウイルスか? それとも偶発的な二次災害か? 

 

 眼鏡をかけた男は脳内で幾つもの可能性を交差させる。願わくばサンプルを確保したいと欲が顔を見せるが、そんな状況ではないと冷静になる。

 

 そんなことを考える男性とは別に、2発チームのリーダーが頭部に射撃するが、まるで効かない。

 

「どいてろ! このザリガニ野郎!」

 

 遅れてやってきた二人の隊員の内のもう一人が、M16A1に装着されたM203グレネードランチャーを発射。円軌道を描く榴弾は化け物の腹部に直撃すると、呆気なくバラバラに霧散。

 

 榴弾の破裂の衝撃は他の隊員達にも伝わる。衝撃に戦き尻餅をついた眼鏡の男性。落とした追跡装置を拾い上げると、反応が移動していることを確認した。

 

「反応が移動している。まだ近くにいる」

 

 これ以上何処かに行くなよ.こんなところ早く出たいのだから.

 

「中はこんな有り様だ車で移動した方がいい。車に戻るぞ」

 

 あんな化け物がいるって知った以上私もこれ以上危険を犯したくはない。

 

 一同は倉庫を後にし、ジープへと戻る。そんな彼等の会話を聞いている存在がいることも知らずに。

 

 その二匹はそれぞれ違う視点から彼等の姿を捉えている。1つは足元から。もう1つは段ボールの陰から。

 

 しかし、その視点の持ち主は1つである。彼等の声を聞き、何処へ行くのかどうやって移動するのか。それは既に"彼女"の手の内である。

 

 1匹は倉庫のマンホールから地下へ。もう1匹は彼等の後を追い動向を監視。ともに小さな体で手足を思うように動かすこともできない不便さがあるが、気づかれることはない。

 

「俺達はあんな化け物がいるなんて話は聞いていなかったがな」

 

 すると、倉庫の1匹が眼鏡の男性とチームのリーダーが揉めているのを目撃する。それを段ボールにしがみつきながら観察する。

 

「やめろ.私には任務がある。私には関係ない」

 

「本社のお偉いさんかなんか知らないが、口の聞き方には気を付けることだな。こっちは部下を殺されて気が立っているのでな」

 

 そんなことこっちだってそうだ。"ゴードン"め.こんな役回りを私に押し付けて.自分の部下の尻拭いぐらい自分でしろよな! 

 

 内心毒づく彼だが、本性はただの小心者であるため、面と向かって感情を表すこと、本心を伝えることができない。

 

 一通りやり取りを見終えた1匹は再び動き出す。そこへ、ネズミが1匹、"彼女"の前に現れる。"彼女"は新しい体を見つけるや否や直ぐに入れ換えを始めた。

 

 まず、自身をネズミに食させることで体内組織に侵入し、細胞レベルで全てを乗っ取る。

 

 体の隅々まで行き渡ると、意識を呼び出す。更に俊敏になったことで着々と近づいていく。そして車に最後に乗ろうとする人物に噛みつこうとするが、タッチの差で車に乗る方が早く、新たに体を移すことができなかった。

 

 しかし、まだチャンスは残されていた。彼等が気まぐれで撃ったカラスにまだ息が残っていたのだから。

 

 ネズミを見つけたカラスは体を震わせながら鳴き声をあげる。見計らって彼女はネズミの口から触手をカラスの嘴から体内へと伸ばす。

 

 触手が脈打ちながらカラスの中にウイルスをおくりこむ。カラスの意識はやがて彼女の意識へと移り変わる。

 

 羽を手にした彼女は飛び方を理解すると、直ぐに彼等の後を追跡。

 

 もし、ここでカラスが息絶えていたのならば、彼女は彼等を追跡することは不可能であった。彼女の乗り移りは、"生きている生物にしか作用しない"。だからこそ、彼女はゾンビではなく、昆虫や小動物だけに宿っているのだ。

 

「待て、反応がここで止まっている」

「鬼ごっこもここまでですね」

「鬼が三人も捕まえに行くんだ.必ず捕まえるさ」

 

 街の一角で止まるジープ。マンホールを開け地下へと降りていく彼等。ここまで彼女の予定通り。鬼だと思い込んでいる者達は、自分達が追い詰められている側だとは到底理解し得ないであろう。

 

 標識の上で出入口を見張る隊員を見つめながら鳴く彼女。

 

 ふふふ、ありがたい。新鮮なカラダを残してくれて.これでまた一歩人間に戻ることに近づける.

 

 彼女は三人が地下に行ったことを確認すると、出入口を見張る隊員にしかける。

 

 突然の奇襲に不意をつかれる隊員。銃を乱射するが狙いが定まらない。

 

 それもそのはず。何故ならば.

 

 な、なんだこれは! 

 

 カラダがおかしく.気持ち悪い.

 

 ナニかが俺のカラダ二ハイッテクル。

 

 ジブンガジブンデハナクナルカンカクガ.イヤダ。シニタクナイ。キエタクナイ! 

 

 "もう.あなたのカラダはワタシのもの."

 

 "逃れることはできないわ。さぁ、そのカラダを頂くわ。"

 

 彼女は啄むと同時に、隊員にウイルスを注入し体の自由を奪っていっていたのである。徐々に彼女に浸食される隊員は思い通りに動けない。

 

 ただただ彼女に乗っ取られるのを待つだけ。

 

 "あと二人."

 

 

 "私は人間に戻る研究を続ける。アンブレラにこのデータは渡さない"

 

 彼女の目的は人間に戻ること。その為にはどんなものも利用し、どんな手段でもとる。残りの二人も時間の問題でしかなかった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「見えた.あれがウォーマットの店だ」

 

 誰一人として欠けることなく目的地に辿り着けた。ここに来るまでに何体かの生物兵器に遭遇したが、何とか退けてきた。

 

 まさか、生物兵器と遭遇するとは思いもよらなかったが、この青年達の協力のお陰か。こうして生きている。

 

 アンブレラ本社からのB.O.Wと、元々研究用に保存されていたB.O.Wが野に放たれられて既に数時間。この他の生存者達もゆくゆくは、B.O.Wとの遭遇は余儀なくされるであろう。

 

「みすぼらしい店だな」

 

 遠目からでもわかるみすぼらしい店。汚れた看板に、ボロい木材の家屋。事件発生前でもゾンビが出没しそうである。

 店内は見た目に反して小綺麗.といかず、見た目通りの小汚なさ。おまけに妙な臭いもある。ゾンビや死体の臭いとは別の。

 

「ゾンビのマイホームかここは?」

「お前のアソコより酷い臭いだ」

 

 登山用品店で拝借したザックを下ろし、目的のブツの回収を始める。

 

「ははは、見ろよこれ。年代物だぜ。うーん、うまい!」

 

 青年達の言った通り、この店からは何でも出てきた。

 

 銃にドラッグに酒にポルノに人間の臓器まで。床下や天井裏、机の二重底の下といった至るところから何から何まで。

 

 何処からこれだけのモノを収集したのか。舌を巻く一方である。

 

「ウォーマット! いねぇのか? ウォーマット!」

 

 物色する私たちとは反対に、青年はずっと店主を呼び掛けていた。昔からの付き合いか心底心配しているようだ。この仲間意識の高さ、仲間の気遣い、状況への順応力、将来有望だな。

 

「ここにねぇものは裏のコンテナの下にあるはずだ。俺はウォーマットを探す。アイツが簡単にくたばるはずがねぇ」

 

 我々の返答を待たずに青年は1人店の奥へと消えていった。単独行動は危険であるため、私は部下に後を追うように指示。

 

 その間に私は他の青年達と回収作業を続ける。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「ウォーマット! こんなところにいたのか.いるなら返事ぐらいしろよな」

 

 青年は店主を2階の店主の自室で発見した。店主は部屋の角に膝をつき頭を垂れた状態である。両手は口元である。

 

「ゥ.」

 

 何かを発しているが、細い声であるため聞き取れない。どちらかというと、喉を鳴らす音、何かを飲み込む音の方が大きかった。

 

「何してんだ? ウォーマット。おまえを迎えに来たんだ。こんなところさっさとおさらばしようぜ?」

 

 青年の声には反応せず、相変わらず「ゥゥゥ.」といった小さな声と食事の音しか返ってこない。

 誰がどう見ても彼は人間だった店主ではなく、変わり果てた姿になってしまっている。しかし、青年は呼び掛け続けた。

 

「無視すんなよウォーマット。なぁ」

 

 たまらず彼は店主の肩を掴み無理やり振り向かせる。

 

 青年は信じたくなかった。この目で見るまで店主が店主でなくなったことを認めたくなかった。

 

 もしかすれば.

 

 そんな希望は所詮は希望でしかなかった。どれだけ否定しても、どれだけ認めたくなくても事実は何一つ変わることはない。

 

「ウォーマット.」

 

 振り向かせた彼の顔を見た青年は、あまりにも無惨に変わり果てた店主の顔にショックを隠しきれず、その場にへたりこんでしまった。

 

 青白く血の気も生気もない顔。食いちぎられた部分からは生肉と血管が見え、目は茶色く濁っている。口元には何かの臓器だったモノらしい肉片が食べかすとしてこびりついていた。

 

 食事に夢中だったようで、本当に青年の存在に気づいていなかった元店主。

 無理矢理振り向かせられたことで、元店主は青年に気づくことができた。手に持った肉塊をその場に落とし、右手を伸ばし、青年を掴もうとする。

 

 青年は後退りし、その手から逃れる。空を切った元店主はその場にうつ伏せに倒れる。「ゥゥゥ.」と又もや細い呻き声をあげ、その場に立ち上がる。

 

「よせ.よせよウォーマット!」

 

 両手を伸ばしながらにじりよる元店主。尻餅をついたまま後退りする青年。部屋の角に追い詰められ、逃げ場をなくす。

 

 そんな青年に覆い被さる元店主。肩を掴み食いつこうとするが、青年も必死に抵抗する。しかし、青年が元店主を右手で持つ銃で撃とうとはしない。

 

「よせよブラザー!」

 

 揉みくちゃになりながら部屋中で転がり回る二人。腹部を足裏で蹴り押すことで組みつきから青年は逃れる。

 

 青年は立ち上がり銃をようやく指向する。その手は小刻みに震えている。恐怖にではなく、元店主を撃ちたくないという悲しみに震えている。

 

 そんな状況に駆けつけるU.B.C.S.の隊員。元店主を確認するとホルスターから拳銃を抜き頭部に照準を合わせ、シングルアクションにし、引き金に指をかけるが、青年に発砲は静止される。

 

「.待ってくれ。ウォーマットは俺が撃つ」

 

 U.B.C.S.隊員には目もくれず、青年に向かう元店主。隊員も青年の意思を汲み、ディコック後銃をホルスターに戻す。

 

「恨むなよウォーマット!」

 

 青年と元店主の顔が1mまで近づいたところで元店主の額は45口径の弾丸に貫かれる。弾の衝撃は射出口を大きく広げ、脳漿が床にぶちまけられる。

 

 再びその場に座りこむ青年。ゆっくりと引き金から指を離す。

 

「やっちまった.この手でウォーマットを.!」

 

 悲痛にうちひしがれる青年は頭を抱え込む。そんな青年に近寄り促すU.B.C.S.隊員。仲間を友を撃ってしまった時の苦しみは彼らも重々承知している。

 

 青年を立たせ、背を軽く叩く隊員。悲しんでいる暇はないと現実に戻させる。

 

 先程の銃声を聞き付けた集団が店に集まりつつあった。

 

 チームは合流を果たすと、来た道を真っ直ぐに戻り始める。

 

「ブレイクコンタクト!」

 

 号令に即応し、U.B.C.S.隊員達は援護射撃と後退を交互に繰り返し、ゾンビの集団を撃退していく。

 

 逃亡劇の中、友を撃った青年はまだ見ぬ、このようなことになった原因に怒りを覚え、仇を討つという新たな決意を見いだしていた。

 


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