Operation Racoon City. Scenes U.B.C.S   作:オールドタイプ

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Mission report12 PM15:00i

 U.B.C.S.本部

 

 作戦開始から二日。初日の回収便には誰一人生存者は現れなかった。いや、現れることができなかった。

 

 市庁舎近辺にたどり着いたヘリのパイロットの報告では、大量の感染者がたむろしていたと聞く。つまり、当初の予定であった市庁舎の確保は失敗に終わったということ。

 

 あれほど本部に出入りしていたアンブレラ本社の人間も、僅か一日でその姿を見せなくなった。

 

 どうやらアンブレラ本社は、投入された隊員達を見捨てることにしたようだ。しかしながら我々はそう簡単に見捨てるわけにはいかない。

 

 腐っても我々は仲間である。どれぐらいの隊員が生き残っているかはわからないが、最後まで任務に従事し、市庁舎に現れる者もいるかもしれない。

 だからこそ我々も、任務の最終日まで辛抱強くしなければならない。

 

 現地の隊員達と通信が不能なのは恐らく、アンブレラ側による工作活動であろう。ただ見捨てるだけではなく、完全に退路を絶ちにきている。

 

 今どれぐらいの隊員が生き残っているのか、街の状況、任務の遂行の有無、生存者の数、何もかもが闇へと消えてしまった。

 

 二日目の朝を迎えたが、本部は今も待機状態でいる。本社の風向きが変わり、増援の要望が上がった時と、回収時間での救出に向けて。

 そんな願いが通じたのか、本社から新たに人員の派出命令が出た。新たに小隊を陸路から街へと進出させる。不透明な状況から未知の脅威に備えて装備はより強力なものへと改めている。

 

「あんたがここの責任者か?」

 

 出発に向けて慌ただしくなっている本部に一人の男が私の元に訪ねてきた。眼鏡をかけ、弱々しく映る白い肌と華奢な風貌からして本社の人間、それも科学者のようだ。

 

 この場所に出入りするのは、新たにU.B.C.S.に加入したものか、アンブレラの人間しかいない。前者は体つきを見れば一目でわかる。後者も中には武闘派を思わせる者もいるが、大抵は目の前の男のような者達ばかりである。

 

「一体どういったご用件ですかな? 見ての通り我々は準備に忙しいのです」

 

 一応は、雇い主であり、部隊を指揮する我々を統括する側の者であるため、ある程度は腰を低くしなければならない。

 

「チームを1チーム借りさせて貰う」

 

「ご冗談を。今からのチームは街に降りた部隊の増援です。故に人員を割く余裕はありません」

 

 会社の困るところは常に作戦内容や命令そのものが変更されることだ。臨機応変に隊員達は対応するが、少しは考えてからものを言ってもらいたい。

 

「いや、行き先はラクーンシティに変わりはない」

「まさか、貴方もラクーンシティに向かわれると?」

 

 尚更理解が出来ない。どう見ても戦えるような人間でもないこの男が街に行ったところで直ぐに死ぬのがオチだ。

 そんな自殺志願者のために隊員達の命を掛けさせたくない。それが本音であるが、雇い主であるアンブレラからの遣いの指示を無視することも出来ない。

 

 私に出来るのは交渉だけだ。

 

「小隊をお貸しすることは出来ませんが、1分隊でしたらご同行させることは出来ます」

「寧ろ少人数の方が有難い。大勢で移動しては感染者共に気づかれる。そもそも私の仕事はラクーンシティの外れに位置するところに潜伏している研究員の捜索だ」

 

 なにやらまたきな臭いことを。アンブレラも一枚岩でわないことは承知しているが、少しばかり度が過ぎる。

 つい先日もアンブレラの人間が部隊と共に街に降りた。まるでアトラクション感覚。スーツ組の幹部の考えていることは理解できん。

 

「その研究員の詳細は?」

 

 同行させる部隊のためにも、事細かな内容を聞く必要がある。何も知らずに投入するのはもう沢山だ。

 

「T-ウイルスを発展させた新型のウイルスを研究していた科学者だ。彼女とは事件が起きる前から音信が途絶えた。"自己復元機能"を持つ新しいウィルスに、本社の何人かは彼女の研究員に注目していた。だから捜索に向かうのだ」

「そこに貴方が同行する必要はあるのですか?」

 

 内容は納得したが、この男がついていく必要はあるのだろうか。

 

「彼女の研究所は街の外れにある。研究所に入るにはパスコードが必要だ。パスコードは彼女が知っているが、私ならそのコードを破れる」

「もし研究所にドクターがいなければどうする気だ?」

「これがあれば居所は掴める」

 

 男は懐から小型の装置を取り出した。見る限り追跡装置のようである。

 

「彼女の持つIDをコイツで追えば何処に潜もうが必ず見つけられる」

 

 手掛かりはその装置一つか。あの危険な場所で捜索活動を行うとすると確実性がなく不安だ。せめて、向こうから救難信号の一つぐらいあればまだましなのだが。

 

 折角人員を割いてまで送り込んでおきながら全くの無駄足では彼に限らず誰もが思いやられるであろう。ましてや、本部は派遣した部隊の生存が絶望的なのであるから余計に。

 

「......わかりました。部隊を手配しましょう」

 

 そう告げると、男は何かを思い出したかのように「それと」と言葉を口にした。

 

 やはりと言うべきか、こちらの要望がすんなりと通るはずはないと、何かしらの条件を出してくるだろうと踏んでいたが、予想通りだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 PM1300 Racoon city highway.

 

 支援、増援部隊として新たに派遣されたU.B.C.S.2個小隊を乗せた輸送トラックはラクーンシティへと続くハイウェイにいた。

 

 街へと続く唯一の一歩道であるハイウェイは既に州軍によって封鎖され、街へ入ることも出ることも叶わなくなっている。

 しかし、アンブレラ幹部及び株主側には政界と太いパイプを持つ者がおり、その者達の裏工作によってU.B.C.S.は特別な許可の元街へと入ることが許されていた。

 

 アメリカ政府は一連の騒動をアンブレラが根底にあることを掴んではいるが、決定的な証拠及び、政界との繋がりが大きすぎるため完全に排斥しきれていないのだ。

 

「これよりラクーンシティに突入する」

 

 州軍の検問所を抜けた一団は装備の確認を行う。

 

「我々の任務はB.O.Wの回収である。研究施設のB.O.Wを運び回収ヘリに引き渡す。第一目標はB.O.Wであるため、市民及び救出チームは無視しろ。例外は無しだ」

 

 当初の目的であったチームへの増援ではなく、ラクーンシティ内に残置されているB.O.Wの回収へと切り替わっていた。

 アンブレラの研究員が本部から受けていた指示とはこのことであったのだ。

 

「目標を達成したら後は好きにしていいんだな」

「そういうことだ」

 

 送り込まれたメンバーの大半は仲間の救出に尽力するつもりであった。傭兵とはいえ、共に汗を流し、同じ釜の飯を食した者同士の仲間意識は強い。戦場を経験している者達だからこそ、仲間の絆を大切にする。

 

「これが回収リストだ」

 

 手渡されたリストには各研究所に保管されているB.O.Wの詳細が事細かに記されていた。

 

「中でもこの2体は最重要目標だ。優先的に回収する」

 

『type nexes』

 

『type T-103 tanatos』

 

 しかしながら、リストには個体名が記載されているのみ。どういった個体なのか、詳細については意図的に隠されている。

 

 彼等はただ、ターゲットさえ回収すればそれでよい。

 

 その他余計なことは知る必要がないのである。

 

「各人思うところはあるやもしれぬが、今は抑えておけ」

『まもなくラクーンシティに到着します』

「よし、状況開始!」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 しがない一記者でしかなかった俺にまたとないチャンスが訪れたのはここ最近のことだった。

 

 とある筋から入手した極秘のたれ込み。初めは荒唐無稽な話で信用などしていなかった。

 だが、情報筋は幾つものネタを俺に渡してきた。俺自身も話し半分だった"ソレ"を事の大きさから探ってみることにしていた。

 そのかいもあってか、次第に信憑性が増してきた。しかし、俺はペンを動かし続け幾つかのメモにまとめていた。

 

 けど、俺がそれを出版社に持ち込むことはなかった。

 

 たれ込みを働く人物は流した情報の衆知を急いでいた。時間がかかればかかるほど自分の命の危険性が増すことを併せて伝えられた。

 

 そんな中でも俺は彼の希望を飲むことはなかった。ジャーナリストととしての知的好奇心が更なる情報を求めた。

 ジャーナリストとしての性分だけが原因ではない。何よりも達成感、計り知れない名誉を求めた。

 

 世界が誇る一つの分野をひっくり返す可能性を秘めた"コイツ"を上手く起爆させれば俺はかつてない賞賛を得ることが出来るであろうと。淡い期待を抱いていた。

 

 名前を売るためではなく。あくまでも俺がもたらした確かな事実が語り継がれること。それがジャーナリスト冥利に尽きるものであると結論付けていた。

 

 しかし、それも最早過去の話。今では恐怖に怯えなが残された時間を過ごす毎日。

 

 いらない欲をかいたがためにこのようなことになってしまった。あの時彼の言った通り直ぐにリークしていれば......

 

 ある日のことだった。時間を流してくれていた人物と連絡が途絶えた。かなり危険を犯しての行動であったが故に、連絡を取り合ったり密会は頻繁には行われず、連絡がつかないことも何度もあった。

 

 だが、1ヶ月近くも音信不通になることはなかった。

 

 そこで初めて自分もこのヤマに深入りし、かなりの危険を犯していることを自覚した。

 

 彼は常々『自分は疑われている。命の保証がない。一刻も早くこのことを知らしめ、司法機関に取り次ぎ身の保証をしてくれ!』と。

 

 彼が命がけなのはわかっていた。だが自分までもが危険を犯しているとは思いもしなかった。

 

 よくよく考えてみれば、情報で"企業"が非人道的な実験を繰り返していたことを鑑みれば簡単に分かるべきことだった。

 

 彼と連絡が途絶えて1ヶ月と少し。俺の住むマンション周辺を何者かが張っていた。俺が行く先々で何者かが後を付け回していた。

 

 身の危険を感じた俺は一旦ラクーンシティを離れ、知り合いの家に避難した。

 

 "彼女"の家で俺は奴等の目を欺き続けた。彼女は情報元の恋人で、彼女を介して情報の受け渡しも行った。

 

 彼女の存在は奴等も知らないらしく比較的安全に避難生活を送ることができた。

 

 そんな彼女もしきりに俺が持つ情報について知りたがっていたが、敢えて何も話さなかった。

 

 元々、口で伝えきれるほどの内容ではない。同時に恋人の所在についても濁した。

 

 これ以上は迷惑になると思い、ある程度時間が経ってから彼女の家を後にした。

 

 そして俺はラクーンシティに戻ってきた。

 

 

 ◆◆◆

 

 街に戻って直ぐに自宅に向かったが酷い有り様だった。無茶苦茶に荒らされた部屋。書き記したもの全てが破棄されていた。

 

 だが、万が一のことを考えて隠していたものはバレていなかった。

 

 洗面所の鏡の裏の本命を持ち、俺はマンションを後にした。

 

 その時からか、街に化け物が現れるようになったのは。そしてあれだけ嗅ぎ回っていた連中も姿を見せなくなった。

 

 逃げ回っている内に辿り着いたのがここよ。

 

 地下の独房で囚人になった気分だかこの際どうだっていい。流石にあんな化け物共の相手はゴメンだ。

 

 何やら警察が脱出に向けて準備しているようだが、脱出が可能となってから出させてもらうとするか。

 

 少なくとも"アレ"が彷徨いているのに警察署内を移動したくはない。

 

 事前に知っていればこんなところには逃げてこなかったが。

 

「どうだ? 協力してくれる気にはなっか?」

「何度も言ってるだろ。あの化け物がいる限りここから出たくはないって。脱出の手筈が整ってからだったら考えてやるが」

「お前のいう化け物とやらは確認できていない。脱出したくば手を貸すのだな。また来る。その気になったらいつでも言え」

 

 牢の前の警官はそう言い残し背を向ける。

 

「あんたもお人好しだな。放っておけばいいのにな」

「善良な市民だそうもいかん」

「あんた運がいいな。他の所だったらとっくに追い出されてるぜ」

 

 食事の入ったトレイを差し出し、もう一人の警官が嫌味を吐く。パンの乗った皿を取り一心不乱にかぶり付く。腹が減っていたため、警官の嫌味などあまり気にはならない。

 

「あんたのことなら知ってるぜ? 勤務態度最悪の不良警官。S.T.A.R.S.の選考試験を二度落ちたことで有名だからな」

 

「たく、どこで調べたんだか......」

「身辺を洗うのもジャーナリストの仕事なのでね」

 

 フフフ、と顔を綻ばせる二人。

 

 安心できるのは束の間。底知れぬ悪意を孕んだ邪悪なモノ達は人知れず常闇に生存者達は誘う。それは人智を越えた生物達だけではない。

 

 人間の敵はどこまでいっても人間だけでしかない......

 

 

 ◆◆◆

 

 死者の街を我が物顔のように闊歩する集団。全身を黒を基調とした服装に身を包むその者達は、全員が顔をマスクで隠し素顔はうかがえない。

 

 見慣れない装備を持つ彼らは、現在激しい銃撃戦を繰り広げている。

 

 市内を駆け巡りながら標的を追い続ける。逃亡者達も逃走を図りながら応戦するが、追っ手はものともしない。

 

 逃走する二人の警官の内の一人が足を負傷する。

 

 右足ふくらはぎにできた銃創。負傷した警官は痛みに悶え苦しむ。

 

 建物屋上を走るNVGを装備した黒装束の一員が警官を狙撃したのだ。

 

 健在の警官は、負傷した警官を置き去りにその場から離れようとするが、直後に彼は跡形もなく吹き飛んだ。

 

 轟音と火の手が周囲を襲う。負傷した警官にも破片と熱傷の被害が出る。

 

 赤外線による感応式の爆弾。

 

 人並み外れた巨漢の人物が逃亡先を見越して回り道をし、予め仕掛けられていたのだ。

 

 逃げる気力を失った警官は足を押さえながら近づいてくる集団に対して「何故だ?」と問い掛ける。

 

 返答がくることはなく、警官は一団の中でもリーダー格とおぼしき金髪の女性に踏みつけられる。

 

 警官と女を中心に集団が集合すると、リーダー格の女は全員にアイコンタクトを送ると拳銃を抜くと、悶える警官の頭部に2発発砲。

 

「これで20......」

 

 小さく呟くと足を警官から下ろす。

 

「ここから近い場所で生存者が集まりそうなのは?」

「警察署が近いな」

「丁度いい......署長の持つ情報の廃棄の序でに生存者を狩るぞ」

 

 新たな目標を見定めると、一団は隊列を組み全周を警戒しながら街中へと消えていく。

 


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