Operation Racoon City. Scenes U.B.C.S 作:オールドタイプ
September 27 days Street.
警察署から6km程離れた大通り。事件発生当初、大勢の警官隊が出動し、治安維持のための、感染者の侵攻を防ぐための決戦の場であった。
選りすぐりの精鋭。S.T.A.R.S.に負けず劣らずの者達で編成された部隊であったが、出動初日で一人の生存者を出すことなく全滅。大通りには彼らの一部の死体と武器並びに車輌が残されているだけであった。
感染者側はかなりの数たったらしく、警官隊が倒したであろう感染者が十数名ほど同じように倒れている。完全に活動を停止しているらしく、起き上がる気配はない。
そんな大通りを角から角へと警戒しながら移動する集団の姿がある。
昨日、生き残った警察と合流したU.B.C.S.隊員二名と、警察の二名からなるチーム。
彼らの目的は警官隊が出動に使用した大型輸送トラックを警察署まで持ち帰ることである。
少数ながら警察署にはU.B.C.S.警察、民間人の生存者が肩を寄せあっている。バリケードを設置し、安全なエリアと化した警察署であったが、警察署近辺を彷徨く感染者の数が増大していることと、バリケードそのものが破られ、侵入を許してしまった経緯から警察署は安全と呼べなくなってしまった。
結果生存者全員で警察署から脱出し、生存者の回収地点へと向かうことにしたのだ。
そのためにも輸送トラックは必要不可欠である。防弾仕様な上に、障害物等の中を平気で走行できるよう頑丈に作られているトラックならば、事故車や感染者で溢れた街中を安全に移動することができる。
大人数で動けばその分気付かれやすい。それが少数で動く理由である。
「あった、あれだわ」
通りの中央、一際目立つ位置でトラックは停まっていた。
周囲に展開している無人のパトカーの間を通りながらトラックへと近づく。万が一に備え、死体の警戒は外さない。その過程で警官隊が装備していた武器は拾得。警察組織の銃器は基本、軍属とは違い制圧確保を第一にしてるため、MP5が中心となっている。
「クリア」
「車輌周辺は今のところ安全だな」
乗り捨てられたトラックのエンジンを始動させ、燃料の確認を行うと同時に、車底部やその他の箇所に故障が無いことの確認も行う。
「ラジエーターやバッテリー、大元のエンジンにも問題はないな」
「あとは、中身をスマートにさせるだけだな」
特殊部隊の運用のための車輌であるため、トラック内部には指揮車輌としての運用も兼ね備えているため、コンソール等の通信機器が設備されている。
脱出用の車輌とするにはスペースを無駄に取っている邪魔な設備。それらをこの場で取り外し、生存者全員が収用できるだけのスペースを確保しなければならない。
当然、周囲が安全とはいえ、外は危険と隣り合わせ。全て取り外ししている暇はない。最低限の作業だけ実施する予定。
警察署に戻ってから実施すれば良いのかもしれないが、トラックの移動に感染者が引き寄せられる可能性も否定できない。何よりも、警察署周辺そのものの安全が確保されていない。
始めの内は掃討を実施していたのだが、どれだけ掃討しても次から次へと湧いて出てくるためキリがなく、無駄であることが判明してしまったのだ。
「工具」
「ほらよ」
バックパックから持参した工具を取りだしトラック内の警官に手渡す。婦警が作業。男性警官は取り外した設備の撤去。U.B.C.S.の隊員で作業終了までの警護。
「どれぐらいかかる?」
「30分もあれば十分なスペースは確保できる」
「長いな。20分で終わらせろ」
「.了解」
彼らにしてみれば20分でも長い方なのだ。だが、切り詰め過ぎても杜撰な作業になってしまう。求められるのは迅速かつ確実な仕事。
他人にそれだけを要求するのだから、彼らもプロとして確実に警官を守る義務がある。
二人で護衛を務める関係上、個々に分かれる必要があった。しかし、こうした活動において単独はタブー。前後に配置につくが、お互いの状態の確認をするため時折顔を見せ合う方法を取る。
そして10分が経過した。トラックの側に積まれる数々の部品。コンソールのような大型の設備は運ぶことはおろか、取り外しも容易ではないためそのままである。
恐ろしいぐらいに閑静な大通り。ゾンビの呻き声、徘徊する足音、自分達以外何者も存在しないのかと錯覚してしまうほど何もない。
それが逆にU.B.C.S.に警戒心を募らせる。何もかもが予定通り過ぎる。何かしらの予兆、嵐の前の静けさ。大通りは何kmも先まで続いている。警察車輌以外にもトラックの先には数え切れなき程の事故車の山がある。
にも関わらず、何もいないのだ。
「.もういい、作業を打ち切り帰投するぞ」
二人のU.B.C.S.は肌で何かを察知していた。僅かな空気の変化。二人は見逃していなかった。
何かが来る。ゾンビではない何かが。
二人に緊張が走る。心拍数は徐々に上がり、体が強張る。呼吸数は上げない。冷静な判断、適切な対処を求められるのため、冷静でなければならない。
そんな四人をじっと見つめる複数の影があった。建物内、路地裏、四人のいる場所から遠方の通り。
何もいないわけではなかったのだ。それらが気配を上手く隠し、ずっと伺っていたのだ獲物を。
まるで野性動物のように。ここは彼らの狩場。集団で移動しながら狩りをしていたのだ。そして運悪く彼らは彼らの狩場に入り込んだ。通りに来た時からずっと狙われていたのだ。
よくよく注意していれば気付けた。通りの途中に放棄された車輌の中に、【警察犬】を運ぶ車があったことを。その檻はもぬけの殻で、檻が内側から破られていたのを。
地面には建物や路地裏に引き摺られていった血の痕があったのを。
「まだ半分程度だぞ?」
警察の二人はU.B.C.S.のように何かを感じ取れてはいない様子。
「いいから急げ!」
二人の剣幕に圧倒、感化され、警察の二人もただ事ではないと察する。しかし、遅かった。
【6匹】の影が一斉に駆け出す。その影に四人はまだ気づいていなかった。
◆◆◆
「何をしている?」
警察署のオフィスで、専用の個室のデスクで書き物をする警官。
「報告書だ。救出した民間人の中に宝石泥棒がいたのでな」
関心にも警官はこんな状況下でも職務を全うしていた。既に市民救出のため身を粉にして働いているため今更感はあるが。
「その宝石は?」
「ロッカーの中に一時的に保管している」
ダイヤルロック式のロッカーに保管されているようだ。
「間違っても変な気は起こすなよ。俺は最後まで警官でいるつもりだからな」
「関心だな。だが、生憎と、今更宝石の一つや二つじゃ割りに合わないな」
街に投入される前に報酬金の半分は前払いされていた。残りの半分は帰還後に支払われる。しかしながら、銀行振込な上に、滅多に外に出られないため、前払い金も使う暇はなかったのだ。
はなっからアンブレラは金を払うつもりなどなかったのかもしれない。
だが、今は金よりも生き残ることのほうが先決。下手な強欲で身を滅ぼすのは真っ平ゴメンだ。
数多い隊員の中にも比較的まともな人間はいる。自らの利に走り、非行を行おうとする隊員は少なくともこの警察署にはいなかった。
「.本当に警察は全滅したのか?」
「.鎮圧に出た警官は全員な。他にも各地域で市民の救出や誘導に当たっている者もいるが、ここには戻ってこない。各人の判断で街から脱出させるよう指示をした」
「投げやりだな」
「ここの警官は全員優秀だ。俺はあいつらを信じてそう指示したのだ。一番危険な中心街のこの付近に集めるよりも脱出の可能性は高いしな」
ラクーンスタジアムでの暴動への鎮圧及び、大通りでのゾンビの対応時に出た警官隊は一人残らず全滅。
しかし、通信が途絶えた直後に巡回中の警官に全員に上記の指示を出した結果、各地で生存者を集結させているとの情報が入っていた。
しかしながら、その後の情報は何一つ入ってきてはいない。
「俺達U.B.C.S.も街中に展開している。纏まった生存者を見たと言う連絡は来てないが、アイツらなきっとうまくやっているだろう」
「俺達もあんたら警察と同じさ。だが今は自分が助かることが優先だ。あんたもいつまでも他人の心配ではなく自分の心配をすることだな」
既にU.B.C.S.はほぼ壊滅状態。生存者は少なからず存在するが、お互いの生死を確認する手段がない。
何故かは不明である。突如として装備されていた無線機が交信不能となっていたのだ。街に降りてから1日と少しは使えた。バッテリー切れも疑えるが、どうにもバッテリー切れのそれとは違う感じがしてならない。
定期的に監視員には本部を通してアンブレラ本社からの情報提供がなされていたからである。まだ世間一般には浸透してない小型のデバイスを通しての。しかし、それも今はなされていない。
これが意味するのはアンブレラにとって彼等が必要では無くなったことを意味しているのではないだろうか。
「ところでだ、署長はどうした?」
「いきなりなんだ?」
「ここのトップがずっと姿を見せないのは不自然だ。現場に出ることもないのにな」
この街で市長に次ぐ二番目の権力者でもあり、R.P.Dの統括でもある『ブライアンズ署長』その人のことである。
本来ならば彼の立場上このような災害に見舞われた際には、全体の指揮に当たるべき人物。
「署長は行方知れずだ。本来ならばこのようなNBC攻撃に際して、地方公共団体や州軍、医療関係、消防、保健所といった組織と連携するために指揮をとらなければならない人だが災害が起きてから一向に消息が掴めない」
この場にいるU.B.C.S.の隊長は署長がどんな人物なのか把握済みである。その裏の顔のことも。それはU.B.C.S.所属でありながら、友人であるアンブレラ幹部から幾つかの情報がリークされているからである。
「.あんたは署長のことを何処まで知ってる?」
「アンブレラコーポレーションとのコネがあるぐらいだ」
「.そうか」
この場で全てを打ち明けてもよいのかもしれないが、士気の低下と更なる混乱を招きかねない爆弾をわざわざ投下する必要ない。
「意味深なことを聞く。一介の兵士であるあんたが何故そんなことを?」
「兵士であるが故にだ。このような事態に陥った時の訓練は正規軍時代によくこなした。だからこそ街がこのような事態になっていながら各組織と連携が全くとれていないことに疑問を感じたのだ」
自然な振る舞いでやり過ごせたのかもしれない。警官は何かに引っ掛かりつつも、U.B.C.S.隊長の言葉はでたらめではなく、正論であるため、それ以上追及してくることはなかった。
二人の会話を割くように、突如警察署二階の窓ガラスが割れる音がする。
二人の他の警官達も一斉に二階を見上げる。そして辺りに緊張感が走る。今現在二階には誰もいないのだ。生存者達は直ぐに脱出できるように、警官の目が行き届くように一階に移していた。
誰も言わずとも答えは分かっている。ナニかが侵入してきたのだ。人間以外のナニかが。
「確認に向かうぞ。二名を残し後は私に続け」
黒人の警官を筆頭にゾロゾロと二階へ向かう警官。その後をU.B.C.S.隊員も追う。
「民間人の皆さんは部屋から出ないように」
先程の音には民間人も気付いたようで、部屋から出て不安そうに警官と二階を見つめている。
子供を抱き抱える母親、祈りを捧げる老夫婦、ただただ呆然とする男性、部屋の片隅で怯える小太りの中年男性
その中で一人だけ異質な者がいた。椅子に深く腰掛けタバコを吹かすその男性はR.P.Dのロゴが入った制服とベストを着用していた。
「何を寛いでいる。お前も来るんだ」
この男性は民間人を引き連れ警察署までたどり着いた外からの生存者。愛用の45口径を片手に生存者を引き連れここまでたどり着いたことから高い能力があることは察することが出来る。
それもそのはず、彼はラクーン警察の中でも射撃の腕は随一の実力があり、何度も大会で優勝している。その腕前を売りに『S.T.A.R.S』の選抜試験を二度受けているのだが、二回とも落ちている。
「一仕事前の一服ですよ」
現在の状況から喫煙所は外ではなく室内であり、その場所というのも生存者達が集められている部屋。
元々休憩所でもあったこの部屋。生存者用の部屋になってからは喫煙するものは気を遣ってか、一人もいなかったが、この男性だけは別であった。
煙たがる生存者に謝ることはあっても止めることはなかった。
本人の性格は楽観的であり、遅刻や欠勤もざらであり、能力は高いが性格上の問題があって選抜試験が受からないのである。
「いい加減にその楽観的な考えを直せ。非常事態だぞ」
「非常事態だからこそ自分のスタイルを貫き平静を保つんですよ。だからこそ生き残れた」
灰皿にタバコを入れ、斥候の警官達の列に加わる。
「時にそれが命取りになるかもしれないぞ」
「その時は腹をくくるさ」
薄ら笑いをする警官。軽口を叩いてはいるが、内心彼も一定の緊張感と集中力は持ち合わせている。
黒人の警官も彼がその辺りのことを確りとしているため、注意こそするが、決して批判的にはならない。
それは彼の態度こそ褒められたものではないが、能力に関しては認めているからである。もし、彼に能力もなければ対応もまた変わってくるであろう。
「ここか.」
二階へと上がった彼等は音の出所を探った。
二階通路、S.T.A.R.Sオフィスに繋がる扉付近の窓ガラスが割られているのを発見。
割られた窓から侵入してきたモノは人間並のサイズであることが判明。天井の通気口が床に落ちていることから侵入者は、警察署内を天井を使って徘徊しているようだ。
「.入って来たのはゾンビではないな」
それまでゾンビとしか遭遇してきてない警官にとって、この侵入者は全くの未知の存在。得体の知れない存在に一人一人が恐怖する。
「どうしますか?」
「入ってきたモノを捜索し排除する」
黒人の警官はどうやら侵入者を排除する考えのようである。
「しかし、脱出までもう少しなのですからわざわざ危険を犯さなくても」
当然周囲からは反対の声が上がる。
「気持ちはわかる。だが、脱出を目前に未確認の脅威をのさばらしにしておくわけにもいかない。脱出までの安全を確立させるためにも侵入者は対処しなければならない」
黒人の警官はあくまでも脱出前の安全を確保するための行動らしく、無茶をするつもりはないとのこと。故に捜索範囲もオフィスから会議室周辺までに限定し、捜索メンバーも今の人員を半々にして、極力少数にならないようにするとのこと。
ここまで生き残れてきたのも、黒人の警官の適切な指揮の元であったがために、警官達は直ぐに納得してしまった。
U.B.C.Sの隊員達は乗り気ではないが、意見を違えて揉める時間も惜しいため顔や声には出さないが渋々追従することとした。
「捜索の前に一度オフィスに戻るぞ。そこで各員に無線を配る。何か見つけたら逐一報告するんだ」
一行は一旦オフィスに戻り無線機を装備する。その途中で民間人の護衛に務めていた警官と民間人にもそのことを説明。
ここで民間人にも説明したのは無駄に隠して余計な不安を与えることが望ましくないからである。
「脱出までもう少しだ。皆ここが踏ん張りどころだ」
侵入してきたものが何であれ、対処できると黒人の警官は自負していた。それはここまで生き残ってきたことによる自信。
だが、その自信が彼等を更に窮地に追いやってしまう。