ハクになるはずだった男の日記(打ち切り)   作:秋羅

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7話

〓月◆日

 

 俺は帝都に着いたらダラダラと怠惰に過ごしつつ大内裏内大書庫で情報収集に勤しむ筈だった。

 なのにいつの間にか白楼閣という旅籠屋で働くことになっていた。

 

 昨日は帝都に入ったあと、白楼閣で行われた巡視兵たちの打ち上げに参加した。

 その打ち上げを大いに楽しみ、この旅籠屋の自慢でヤマトでは珍しい湯船を有した大浴場を満喫し、オシュトルが取ってくれた部屋に戻るとオシュトルと妖艶な美女が居た。

 

 オシュトルめ、こんな時間に女なんて連れ込みやがってけしからん奴だ!なんて馬鹿なことを考えているとオシュトルにこの旅籠屋の女将だと紹介された。

 

 なんだつまらん

 

 兵の連中に「風呂から帰ると友人が美女と××(チョメチョメ)していたんだが」的な話をして盛り上がろうと思ったのに。

 

 そんな事を考えているとオシュトルに睨まれ、座るように促された。

 まったく勘の良いやつである。

 

 そんな俺らのやり取りを見て、女将はクスクスと笑いながら、仲がいいんですのねと聞いてきた。

 俺は座りながら、もはや心の友と書いて心友ですよと返し、改めてその姿を見る。

 

 今まで見たこともないくらいの美女である。

 その物腰は優美で落ち着いており、異國の雰囲気を伴っている。

 そしてその品のあるしゃべり方と相まって、どこかの皇族なのではないかと思うほどだ。

 だが、その首には鎖のついた大きな枷がついており、とてもアンバランスな様相を呈している。

 しかし、逆にそれが彼女の美しさを引き立たせているように感じた。

 

 とりあえず挨拶を済ませると女将(カルラさんといらしい)に杯を渡され酒を注がれた。

 それを一口飲むとフルーティーな香りと濃厚でコクのある味が広がる。

 

 うん!うまい!

 

 なんというか、洗練され雑味の少ない味わい深い酒である。

 なんでも女将の故郷の酒でわざわざ取り寄せているとか。

 こんな酒があるだなんて女将の故郷は羨ましいなと考えながらもう一口飲み、そういえばとオシュトルの方を向いて女将が俺の部屋にいる理由を聞いてみた。

 

 なんでも俺に仕事を紹介してくれるらしい。

 

 

 

 ハ?

 

 

 

 いやちょっと待て。俺はこれから(怠惰に過ごしつつ)情報収集をだな・・・と返そうと思ったが100%善意で言ってくれているオシュトルからのそれを断るのは気が引けた。

 それにその話をする場に女将がいるということは恐らくここで働くということなんだろう。

 

 うん。ダメだ。断れない。

 

 友人がわざわざ紹介してくれた仕事をその職場の女将が目の前にいる状態で断るなんて俺には無理だ。

 

 俺は渋々礼を言うとオシュトルは頷き、改めて旅籠屋の仕事を紹介してくれた。

 

 こうして俺は無職でなくなった(泣)

 

 

 その後、俺の就職祝いと称して3人で夜が更けるまで酒盛りをして、今日、仕事内容と雇用条件の確認を行い、正式に雇用されることとなった。

 仕事の内容は基本的には村でやっていたのと同じだ。

 給料は月給制で休みは週2回。

 そしてここで働いている間、この部屋に住まわせてもらうことになった。

 

 うん。仕事内容が同じなのは良かった。だが、村と此処とじゃ規模が違うから仕事量も多そうである。

 しかし、休みがしっかりしているのと住む場所が決まったのは良かった。

 部屋代は給料から天引きらしいが、こんな良い部屋に住めるならば文句はない。それに部屋を綺麗に使い、掃除なども自分でするなら部屋代を安くしてくれるそうだ。

 職場としてはこの上ないのではないだろうか。

 

 

 

 

〓月◎日

 

 仕事は明日からということで今日は帝都見物をすることにした。

 本当ならオシュトルに案内を頼みたいところだが、仕事があるそうなので一人で適当にぶらつくかと思っていたら、トウカという女子衆(おなごし)さんが案内を買って出てくれた。

 

 仕事の方は大丈夫なのかと聞いてみたところ、女将に「仕事が増えるからできるだけ働くな」と言われており、手持ち無沙汰らしい。

 

 おいおい、働かなくていいなんて羨ま・・・じゃなく、なんでそんな事を言われるような人が女子衆(おなごし)をやっているんだと思ったら、女将とは腐れ縁の仲で、元々は白楼閣で用心棒をしていたが、平和な帝都では出番が殆どなく、しょうがないから女子衆(おなごし)になったらしい。

 

 まさかこんな娘が用心棒をしていたのには驚きだが、それ以上に働かなくていいのに自分から働きたがるとは・・・。コイツ、変態か?

 

 思わず、女将がいいと言っているなら働かなくていいんじゃないかと聞いてみたところ

 

 「働きたいでござる!絶対に働きたいでござる!!」

 

 と必死に訴えられてしまった。

 

 うん。彼女は俺と正反対のタイプだな。

 

 俺が仕事ができる怠け者だとしたら、彼女は仕事ができない働き者だ。

 

 俺の場合は仕事ができる分マシだが、彼女の場合は頑張って働くが空回りして周りに迷惑をかけるタイプだ。

 そんな彼女が仕事の多い女子衆(おなごし)なんてのをやったらどれだけの被害がでることか。

 

 うん。やはり彼女は女将の言うとおりなるべく働かないほうがいいんだろう。あるいは自分の能力を生かせる仕事に就くべきだな。

 

 そんな風に思いながら、落ち込んでいる彼女を慰めつつ帝都見物に出かけるのだった。

 

 

 まず最初に向かったのが大内裏門だ。

 こいつは(ミカド)が住む御所であり帝都の中枢である大内裏に通ずる門で、その左右には仮面の者(アクルトゥルカ)を象った巨大な像が門を守るように立っている。

 俺が行こうとしている大内裏内大書庫もこの中にあり、使用する際は門衛に申請して許可を得る必要があるようだ。

 

 ちなみに仮面の者(アクルトゥルカ)とは(ミカド)から仮面(アクルカ)という超常の力を持つ仮面を授けられたヤマトの武人のことである。

 現在は八柱将のヴライとムネチカ、右近衞大将のシモン、左近衞大将のハラキがその所有者らしい。

 だが、シモンとハラキは老齢で近いうちに引退し仮面(アクルカ)も返上するのではないかと言われているそうだ。

 

 しかし、超常の力を持つ仮面ねぇ・・・。

 そんな仮面の事を何かで見た気がするんだがなんだったか・・・。

 まぁ、そのうち思い出すだろう。

 

 

 その後俺たちは帝都を流れるオムチャッコ川や聖廟などの観光名所を巡り、市を冷やかしつつ屋台で買い食いしたりした。

 そして日が傾き始めた頃大通りの中央に据えられた(ミカド)の石像の前までやってきた。

 

 この石像は(ミカド)が壮年であった頃の姿を象って作られたもので、(ミカド)の姿を知ることができる数少ない物の一つだそうだ。

 

 それにしても(ミカド)か・・・。

 

 帝都を一人で拓き、戦では超常の力をもって戦った全知全能の存在でヤマトの樹立以来数百年を生き続けていると言われている生き神様だそうだが、一体何者なのかね。

 

 像の姿を見る限り普通のオッサンっぽいが・・・。というか、どっかで見たことのある顔な気が・・・。

 それに気のせいか獣耳と尻尾が無い気がするんだが。まさか人間だったりするのか?

 

 そうだとしたら何とかして話をしたいもんだが、俺なんかじゃとてもじゃないが会うことはできないだろう。

 

 とりあえず(ミカド)についても調べるかと考えながら(ミカド)の石像の前をあとにして、トウカおすすめの飯屋で夕飯を食って帝都観光は終わり・・・だったらよかったんだが、まさか酒を一杯飲んだだけで酔いつぶれるとは。

 

 「働きたいでござる~。絶対に働きたいでござる~。」と、うわ言にように言い続けるトウカを背に俺は白楼閣に帰るのであった。

 

 

 

 

 

 




・右近衞大将シモン(オリキャラ)
 名前の由来はアイヌ語の右。原作でオシュトルが被っていた仮面(アクルカ)を着けている。
 イメージはマスターアジア。
 

・左近衞大将ハラキ(オリキャラ)
 名前の由来はアイヌ語の左。原作でミカヅチが被っていた仮面(アクルカ)を着けている。
 イメージは年老いた関羽。

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