ハクになるはずだった男の日記(打ち切り)   作:秋羅

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16話

△月□日

 

 今日はアンジュの帝都デビューの日だ。

 ウルゥル達に選んで貰った町娘の格好をしたアンジュはワクワクといった様子で出発を今か今かと待っている。

 そんなアンジュの首に小遣いとして2,000センが入ったがま口財布をかけてやる。

 今日の散策はただ帝都を見て回るだけでなく自分で買い物をさせて釣りの計算なんかもさせるつもりだ。

 姫なんてやってると買い物する事なんてないからな。今のうちにいろいろ経験させておいたほうが良いだろ。それに暗算の訓練にもなるから一石二鳥だ。

 

 そして、帝都に出たら俺の傍から離れない事を約束し、しっかりと手を繋いでウルゥル達の術を使って帝都まで移動した。

 

 まずはアンジュのリクエストで市へ行った。

 市に立ち並ぶ店とその商品の数々にアンジュは興味津々でアレはなんだコレはなんだと次々と質問してきた。

 特に魚屋が気になるようで店に並べられている魚の名前を店のオヤジにしきりに聞いていた。

 なんでも捌かれていない魚を見るのは始めてだそうで、今まで食事に出てくる切り身の状態で海や川を泳いでいると思っていたらしい。

 

 なんてこった!箱入りの弊害がこんなところに!

 

 まさかと思ってウシ(ペルコ)(ブルタンタ)がどんなのか聞いてみたがこっちは普通に知っていた。

 よかった。肉の塊が陸の上をぴょんぴょん跳ねているとか思っていたらどうしようかと思ったぜ。

 

 

 次に小腹が空いてきたので屋台が立ち並ぶ通りに行ってシュシュケプを食べることにした。

 

 シュシュケプは香辛料に漬け込んだ肉を串に刺して焼いたもので一本140センで売られている。

 

 まずは手本として俺とウルゥル達の分で3本購入した。3本合計で420センなので500センを渡せば釣りは80センである。

 それを見て買い方を覚えたアンジュは早速シュシュケプを2本注文し店のオヤジに1,000センを渡した。

 釣りはいくらだと聞いてみると720センじゃ!と自信満々に答えてきた。

 

 うん。この程度の暗算なら問題ないようだな。

 

 俺は流石だと頭を撫でてやり、シュシュケプを受け取ると手近な腰掛けに座ってシュシュケを食べることにした。

 いつもならそのまま歩いて食べるんだが、今日はアンジュが一緒だからな。

 万が一転んで串が喉に刺さりでもしたら大変だ。

 

 そう思いながらシュシュケプを一口食べる。

 

 うん。漬け込んだことにより旨みが増した肉とスパイスが絶妙なハーモニーを醸し出している!

 まるでシュシュケプ界のファンタジスタや!

 

 なんてグルメレポーターのようなことを考えている俺の横でアンジュも美味しそうにシュシュケプを頬張っている。

 だがその口周りはタレでベトベトになっており、とても姫とは思えない有様だ。

 そんなアンジュの口を隣に座っていたサラァナが拭ってやる。

 アンジュはむーむー言っていたが大人しく拭われ、キレイになるとありがとうなのじゃ!とサラァナにお礼を言っていた。

 それにサラァナもどういたしまして、と返すと二人で可笑しそうにクスクス笑い合っていた。

 

 うんうん。仲が良くてよろしい。

 

 そんな二人を微笑ましく思いながらもう一口シュシュケプを食べようとしたら隣に座っていたウルゥルから腕が伸びてきて口元を拭われた。

 どうやら口の周りにタレが付いていたようだ。

 恥ずかしい。

 

 

 その後、本屋や雑貨屋なんかを冷やかしながら散策し、昼の鐘がなったので昼食を取ろうと定食屋に行こうとしたら何やら前方から騒がしい。

 どうしたんだと思っていると

 

 「ヒャッハー!娑婆じゃーん!これで(ブルタンタ)の餌みたいな不味い飯から解放されるじゃん!今日は脱獄記念に焼肉じゃん!!」

 

 「「「ヒャッハー!!」」」

 

 とモヒカンよろしく奇声を上げるじゃんじゃん一味が現れた。

 

 またお前らか。というか今度は牢屋に入れられたのによく脱獄できたな。

 

 「まぁ、俺の部下には結構優秀な奴がいるじゃん!だからそいつに手引きさせて・・・って、妖怪玉潰し~!?なんでてめぇがここにいるじゃん!?」

 

 誰が妖怪だ誰が。それといきなりデカい声を出すな。姪っ子がびっくりするだろ。

 

 「あっ、悪いじゃん。というかお前姪っ子なんていたじゃんね?結構可愛い子じゃん!・・・じゃなくて!ここであったのがお前の運の尽きじゃん!今日こそは積年の恨みを晴らしてやるじゃん!手始めにお前の姪っ子とやらを捕まえて人質にしてやるじゃん!!」

 

 馬鹿だな。そういうのは口に出さずに実行するもんだ。ウルゥル、サラァナ。

 

 「かしこまりました。」

 「秘術・亀甲縛り」

 「じゃっ!?じゃーん!?」シュルシュルシュル

 

 ウルゥル達が呪言を唱えると光の縄が現われじゃんじゃん一味を拘束した。しかし、縄が六角形や菱形を象りながら野郎共の体に食い込む様は気持ち悪い。

 

 「なっ、なんじゃんこれは!?いったい俺をどうするつもりじゃん!?はっ!まさか俺に乱暴する気じゃん!?猥本みたいに!猥本みたいに!」

 

 キモい事言ってんじゃねえよ。俺がお前にやる事といったら一つだろ。

 

 「まっ、まさか!?止めるじゃん!!これ以上されたら女になっちゃうじゃん!?」

 

 安心しろ。もしそうなったら知り合いのオカマの店紹介してやるから。あそこ時給が良いらしいから盗賊なんてする必要なくなるぞ?

 

 「いやじゃん!そんなのいモガモガモガ!?!?!?」

 

 おっ、ナイスだサラァナ。これで静かになったな。

 よし。それじゃあアンジュ。せっかくだからお前にもできる簡単な護身術を教えてやろう!

 いいか?男には股間に急所があってな。ここを攻撃されるとどんな屈強な男でも一撃で倒せるんだ。

 だから、コイツみたいな奴に襲われたら股間を蹴り上げてやれ。

 こんな風にっ

 

 ゲシッ

 

 「~~~~~~~~~!?!?!?!?!」ガクガクガク

 

 よし、分かったな?それじゃあいっちょやってみろ。

 

 「分かったのじゃ!こうかの?はー!」ゲシッ 

 

 「~~~~!!!!!」ガタガタガタ

 

 ああ、違う違う。もっとこう足を後ろまで下げて思いっきり蹴り上げるんだ。

 

 ブンッ

 

 「くぁwせdrftgyふじこlp」ブクブクブク

 

 「おおう?こうかの?それともこうか?」ブンッ ブンッ

 

 「・・・・・・・・・・・・・・」ビクンビクンビクン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よしっ。これでもう大丈夫だな。もし襲われるようなことがあったらこうやって撃退するんだぞ?

 

 「うむ!すごく勉強になったのじゃ!もし悪漢に襲われそうになったら試してみるのじゃ!」

 

 そんな俺達の背後では死屍累々のじゃんじゃん一味が顔を真っ青にした検非違使(けびいし)に連行されていくところだった。

 周りの住民達も顔を青くして脂汗を浮かべているがどうしたのかね?

 

 まぁ、気にすることでもないか、と再び俺達は飯屋に向けて歩き出した。

 

 後日聞いた話だが、帝都には恐ろしい禍日神(ヌグィソムカミ)が出るらしい。

 なんでもその禍日神(ヌグィソムカミ)は4体で現われ、男を拘束すると笑いながら玉を潰していくそうだ。

 まぁ、どうせ酔っ払いの喧嘩が変な風に広まったんだろうが、男としては恐ろしい限りだ。

 

 

 

 そうしていろいろあった帝都散策だが、いよいよ次で最後である。

 最後に行ったのはオムチャッコ川に掛かる大きな橋だ。

 ここは橋からの景観ととある言い伝えから帝都でも人気の観光スポットで休日になると多くの人が訪れるらしい。

 と言っても世間様は平日なので今日は殆ど人はいなかったが。

 

 橋に着いてすぐアンジュは橋からの眺めに感嘆の声を上げたがふと何かに気づくと橋の欄干に駆け寄っていった。

 

 「のうのう叔父上。橋にいっぱい紙が括り付けられているのじゃ。これはなんじゃ?」

 

 ああ、それはこの橋の言い伝えに自分と好きな人の名前を書いた紙を橋に括り付けるとずっと一緒にいられるっていうのがあってな。ここに来た連中が括り付けていったモンだ。

 

 「ほー!ならば予もやるのじゃ!ウルゥル!紙と筆をくれっ!!」

 

 そう言ってウルゥルから紙と筆を受け取るとアンジュはふんふんと鼻歌を歌いながら紙に名前を書いていく。

 小さくても女の子。好きな奴くらいいて当然か。と思いながら後ろから覗き込んでみると6枚の紙にそれぞれ自分の名前と俺、兄貴、ウルゥル、サラァナ、ホノカ、ムネチカの名前を書き込んでいた。

 

 アンジュ。それは・・・

 

 「うむ!皆予が大好きでずっと一緒にいたい人達の名前じゃ!」

 

 (´;ω;`)ブワッ

 

 天使だ。ここに天使がいるぞっ!

 

 「天子だけに天使。」

 「流石叔父様です。」

 

 ええい!人が感動しているところに変な茶々を入れるんじゃない! 

 

 そうしてウルゥル達にチョップを食らわせた後、アンジュにせがまれ俺逹も同じように紙に書き、一緒に橋の欄干に括り付けた。

 

 このおまじないがどれだけ効くかは分からんが、少しでも長く一緒に過ごせれば良いな。

 特にあとどれだけ生きられるかも分からない兄貴との思い出を作れるぐらいには。

 

 そんな願いを紙に込めて。

 

 

 

 

 

 その後、だいぶ日が傾いてきたので帰ることにした。

 途中アンジュが眠たそうにしていたのでおぶってやるとすぐに眠ってしまった。

 

 今日はすごくはしゃいでいたし、昨日も楽しみであまり眠れなかったみたいだからしょうがないか。

 

 そう思いながら俺は背中のアンジュが起きないようにゆっくりと夕暮れに染まる帝都を歩くのだった

 

 

 

 

 


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