Gambler In Sword Oratoria   作:コイントス

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※二話連続で投稿しています。もしかしたらこの前の話を読んでないかもしれません。


015

「本当なんだって!!」

「おいおい、そんな冗談が通用するほど俺たちゃボケてねえぜサイクスよお」

「だから、冗談じゃねえって言ってるだろ!! 本当に()を聞いたんだ!」

 

 フィリア祭も終わり、モンスターが街に現れた騒動も終わってしまえば死傷者ゼロというあまりにも歪な結果となった。その事を怪しがる奴らはたくさんいるが、誰も傷付かなかったことに安心している人間の方が余程多い。

 かく言う俺もその一人で、今日も適当な酒場で酒を飲んでいる。

 

 そんな時だ、俺がその話を聞いたのは。

 

「ダンジョンでんな聞き惚れるほどの歌が聞こえっかよ!? 大方モンスターにビビって頭が可笑しくなっただけだろうが!!」

「び、ビビってなんていねえよ! ちょっとハグれて殺されかけたが、俺が聞いた歌は本当だ!」

「はいはい、【法螺吹き】って二つ名を付けられたくなきゃもう黙るこったな」

 

 店の中央に近いにテーブルに座る四人組の冒険者達の話だ。一人の男、サイクスと呼ばれていた、がダンジョンで体験したありえない状況を話し馬鹿にされている。それだけ見れば、本当に有り触れた光景だ。そしてそれを誰も信じようとせず、馬鹿にするという光景も荒くれ者の多い冒険者達にとっては当たり前と言っていい。煽ってなんぼ、そんな考えをする冒険者もいるのだ。

 しかし、暇を持て余していた俺はその話に少し興味が惹かれた。聞いてみたい、そう思った。

 

 そして、そう思ったら行動するのが俺だ。

 

「おいおい、兄弟いけねえぜ! 仲間の話はちゃんと信じてやれや!」

「あん? 誰だてめえは?」

「俺のこたあどうでもいいだろ! おい姉ちゃん、このテーブルの奴らに一番高い酒だ!」

「は~い」

 

 猫撫で声で返事をしてウェイトレスはオーダーを取り、急いで厨房へと足を運んでいった。

 

「おいおい、いくら酔わせたってサイクスの法螺なんて信じねえぜ?」

「そうだサイクス、その話を俺に聞かせてくれ! ダンジョンで歌を聞いたんだって?」

「そ、そうだ! 21階層、あそこでこいつらと数分間ハグレちまってモンスターから逃げてる時、すげえ綺麗な歌声を聞いたんだ!」

 

 話を聞いてくれる俺が現れたのがそんなに嬉しかったのかサイクスは勢い良く話し始めた。

 

「どれだけ良い声だった?」

「そ、そりゃあ、もう言葉にできねえくらいだ! 劇場の女優だって素足で逃げる、歌の女神にだって勝るとも劣らない声だった」

「ほほう、そりゃあ興味深い……是非俺も聞いてみてえもんだぜ」

「ダハハハハッハ!! 兄ちゃん、そりゃ無理ってもんだぜ? なんたってこのサイクスは今日から【法螺吹き】のサイクスって名前になったんだからなあっ!」

 

 仲間の一人の言葉に他の二人も大笑いを上げる。悔しそうに顔を歪めながらサイクスは黙るしかなかった。これ以上の不和を望むほどサイクスも信じて欲しいわけじゃなかったらしい。

 

「は~い、お待ちどう様!」

「お、いいねいいね! やっぱ酒は高いのに限るぜ。ほれ、姉ちゃんチップだ」

「わあっ、お兄さんありがと!」

「何、酒は運んでくる人によっても味を変えるんでな。チップはその分だ」

「お兄さんってばいいこと言う!」

 

 上機嫌な足取りでウェイトレスは他のテーブルにオーダーを聞きに行った。四人はその後姿を見て、そしてその後に俺を見た。

 

「兄ちゃん女慣れしてんな! 口説き方とか教えてくれや!」

「おいおい、俺は別に口説こうとしたわけじゃねえぜ?」

 

 そう言って俺はグラスを傾けて酒を口に含んだ。この店で一番高い酒、それはついこの前会って願い事まで聞いた女神デメテルの【デメテル・ファミリア】が栽培した葡萄を使ったワインだった。

 

「酒には礼を持って接しろ。感謝しながら飲め、それだけだ!」

「ガハハハ! いつも安酒を飲んでる俺達にゃできねえことだぜえ!!」

「確かになッ!」

 

 何がそんなに面白かったのか、四人は笑いながらワインを飲み始めた。俺は一人一杯を考えていたのだが、あのウェイトレスはその上を行った。

 

「まあ、今夜の俺らには高い酒が()()()であんだ! いい女も釣れるかもなあ!!!」

「そうだそうだ!! 兄ちゃんに感謝、乾杯!!」

「乾杯!」

 

 ()()()()()()持ってきたウェイトレスに、俺は敬意を払ってチップを渡したのだ。チップを貰ったウェイトレス以上に上機嫌になった男達は大声を上げながら夜を飲み明かす。

 だから女が寄り付かないのだろうということに、四人が気付くことはないだろう。

 

 

 

「だかああらああ!!! マジなんだってばああ!!」

「嘘言え!! ぜってーに嘘だね! ダンジョンで歌なんて聞こえるわけがねえ! そう思うだろ兄ちゃん!」

「・・・・てめえら酔いすぎだろ」

「だろう!? ほら兄ちゃんもこう言ってんだ、てめえの嘘ってことだ!」

「言ってねえだろうが!?」

 

 夜も更け、ボトルも空けその上何度も注文をして酒を飲んだ奴らは更に酔っ払った。繰り返し同じ話をしているということに気付かないくらいだ。サイクスも最早不和を気にせず大声で自分の体験を語り続けている。

 まあ、こう酔っ払ってちゃ誰も覚えてないだろうから問題はねえだろうな。

 

「嘘じゃねえ! あの歌声は本当だ!」

「ハッ! 法螺吹きもここまで来ると滑稽だぜえ!! ()()たって良い、てめえの言っていることは嘘だ、サイクス!」

 

 何気なく、その言葉を発したのだろう。普通であれば、誰もが聞き流す有り触れた会話の中に潜んだその言葉を、しかし俺が聞き逃すはずがない。否、聞き逃していいはずがない!!

 

 

 

「ほう」

 

 

 

 雰囲気の変わった俺を男達はぎょっとした目で見る。今の俺は、つい先程までとは違う笑みを浮かべているだろう。きっと俺の浮かべている笑みは、獰猛でそれこそ常人とは思えないものだろう。

 

「その賭け、のった」

「な、何言ってんだ兄ちゃん?」

 

 俺が言ったことが分からなかったのか、それとも今の俺から溢れている雰囲気に戸惑ったのか、しどろもどろと男達は俺に聞いてきた。

 しかし、どうだっていい。

 

「この俺、【賭け狂い(Mr. Gambler)】ニコライ・ティーケの前で賭けをするたあ、いい度胸じゃねえかてめえら!! その賭け、全力でのった!!」

「ハアッ!?!?」

 

 自分達の目の前にいる男が【ロキ・ファミリア】というビッグネームに所属する冒険者だとは露ほども思っていなかったのか、酒を吹き出しながら男達は何かを恐れるような目で俺を眺めた。

 

――【賭け狂い】

 

 その名は、神々だけでなく人々の間にまで浸透している最強で最凶、最高で最幸の馬鹿(ギャンブラー)に与えられた――悪名高き二つ名だ。

 

「てめえらがサイクスの話が、ダンジョンに響く歌が嘘だって言うならなあ――」

 

 酒を煽り、そしてテーブルにジョッキを叩きつける。それは戦いを始めるコングだ。

 

「――俺はこの命を賭けてでもその歌が本当にあるってことを、証明してやらあ!!!」

 

 後に俺はアイズに語ることになる。

 

――酒って、怖いな

 

 アイズは俺に答える。

 

――ニコは普段からそんな感じ

 




二巻プロローグって感じ。

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