Gambler In Sword Oratoria   作:コイントス

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※2016/02/19 010の【二律背反(Trade Off)】を【赤黒上下(Two Tone High And Low)】に変更。


011

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」

 

 西のメインストリートに数多く存在する酒場の一つ『豊穣の女主人亭』で【ロキ・ファミリア】の遠征打ち上げは行われた。

 

「おつかれえええええい!!」

「お前は昨日散々叫んだだろうが……」

「昨日の叫びは昨日の分、今日の叫びは今日の分だ! 俺はまだまだ本気を出しちゃいねえぜえええ!!」

「頼むからやめてくれ」

 

 俺の隣で顔を顰めながらも手に持ったグラスを差し出したリヴェリアと乾杯をする。続いてフィン、ガレス、レフィーヤとも乾杯をして一気に果実酒を飲み干す。

 

「ぷはあああ、やっぱここの酒は美味いッ! 流石ロキッ! 本当の目的はウェイトレスの制服だろうけど、良い店だあああ!」

「おうおう! 褒めたって料理と酒しか出てこおへんで!」

 

 自分の審美眼が褒められたと解釈したロキは俺のコップに波々と酒を注いで飲むように勧める。逆らうことなく、俺はロキと乾杯をして酒を飲む。

 

「いつも通りいい飲みっぷりやなあ! ガレスも飲もうや! 飲み比べやでええ!」

「望むところだああああ!」

「ふんっ、いいじゃろう、返り討ちにしてやるわい」

「勝った奴にはリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利付きやァッ!!」

 

 ロキの一声で俺、ロキ、ガレスという恐ろしく酒を飲むメンバーでの飲み比べを静観していた男性冒険者達に飽きたらず数人の女性冒険者までもが一気に飲み比べに我先と参加を表明する。そんな光景を見ながらリヴェリアは呆れ溜め息を吐く。

 

「アイズ、お前も飲め!」

「えっと……」

「やめておけニコライ。お前とてアイズに酒を飲ませるとどうなるか知っているだろう?」

「すげー悪酔いして暴れまわる」

「知っているなら止せ」

「だが断る!!!!」

 

 ロキに教わったその言葉を使って俺は自分の意志を押し通すことにした。

 アイズのコップを奪い取り、その中に注がれていた果実水を飲み干し、勝手に酒を注ぎアイズに差し出す。

 

「飲め」

「……いや」

「なんだとう!? 俺の酒が飲めねえって言うのかお前は!?」

「うわぁ、面倒くさい酔い方してるなあニコってば」

 

 アイズの隣にいたティオナが俺とアイズの間に身を差し込んでアイズを逃がした。

 

「飲むんならあたしが一緒に飲んだげるから、ね?」

「誰がてめえみたいな女と飲みてえって言った! というか女?」

「むっきー! いくら酔ってるからってそれは酷いでしょ!? ロキ、お酒!! もう、怒ったからね! 絶対ニコのこと潰してやるんだからああああ!!」

「ハッハアア!! 良いぜ、来いよ来いよ! 俺は逃げも隠れもしねえぜええええ!!」

 

 そこから勃発した俺とティオナの飲み比べは、当然俺が勝ちティオナは酔ってテーブルに突っ伏していた。

 

「勝者! 俺えええええ!!!」

「いいぞニコーーー!! もっとやれええええ!!」

「おっしゃあああ! 次はレフィーヤ、君に決めた!」

「え、ええええ!?!?」

「さあ、俺と飲み比べだ! 勝ったらアイズの秘密を教えてやろう!!」

「負けられない戦いです!」

「おおお!! 今日はレフィーヤも乗り気やなあ!! はい、二人とも注いで――レディ・ファイッ!!」

 

 ロキの掛け声で同時に飲み始め、一杯二杯目と飲んでいく。だが目に見えてレフィーヤの方が遅い上、俺は酔ってからが強いと定評のある厄介な酔っぱらいらしい。むしろ普段から酔っ払っているんじゃないかと疑われたこともある。

 

「うぅぅっぅ……」

「勝者ああああ!!!」

「ニコラーーーーイ!!」

 

 【ロキ・ファミリア】だけでなく、店内にいた他の客までその勝負を見守っていたのか、俺の勝利に店中が湧いた。

 

「最後にかんぱーーーい!!」

「「「「乾杯!!」」」」

 

 立ち上がって自分の勝利に乾杯した俺に続いて観客もそのコップを傾けた。苦しんでいたレフィーヤが可哀想に見えたのか、リヴェリアは回復魔法まで使って介抱していた。そのおかげもあってレフィーヤは俺を睨むだけの体力は回復したようだった。

 コップを差し出したらレフィーヤは青くなって逃げていった。

 

 

 

 

 酔って机に突っ伏して寝てしまっていた俺を起こしたのはベートのムカつく声だった。

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。……じゃあ、質問を変えるぜ? あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

 強引な話題の方向転換だったのだろう、それに呆れる者もいれば怪訝な顔をする者もいた。かく言う起きたばかりの俺もこいつは頭がおかしいんじゃないかと思ったが、酒が入ればそんなものだ。きっとそんなことを言ったら、だからお前はずっと酔っ払っていると思われているんだとリヴェリアに言われそうだ。

 

「……ベート、君、酔ってるの?」

 

 言った本人も少し酔っていたが、その場にいる大体の人間がベートにそう言いたかっただろう。普段のベートも雑魚雑魚言う口の悪い野郎だが、今のベートは輪をかけて糞野郎に思えた。どういった話の経緯でこのセリフが出たのか分からないが、頭が悪い。

 

「うるせえ。ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

 

 その時アイズはベートを睨んでいた。嫌悪を隠そうともせず、答えなど分かっているという顔だ。そして、それは周りの人間たちも同じことだ。こんな状況でベートを選ぶ奴がいたら、ぜひ呼んできて欲しい。

 

「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

「ブハッ!! クックク……アハハハッハハハ!!!!」

 

 予想通りの答えをしたアイズに俺は大笑いをしてしまった。テーブルをバンバン叩き、腹を抱えて笑う。

 

「ちょっ、ベート、起きたばっかなのに笑わせるなよ!! ひーっ、苦しい苦しい!! 変なとこにつば入った気がする!!」

「ぶっ殺すぞてめえ!!!!」

 

 威嚇するように牙を剥き出しにするベートに対して、俺は飄々と席を立ってアイズの後ろに回った。アイズには威嚇できないのか、それだけでベートは牙を引っ込めた。

 

「てめえには言っておくことがあるぜ、ベート君! いや、ベートきゅん!!」

「ぶっ殺おおおおおおす!!!」

 

 突っ込んでこようとするベートをアイズでブロックする。ベートが右に動けばアイズの肩を持って右に動かし、左に動こうとすれば左に動かす。若干ベートが楽しそうだったのが癪だったのですぐにやめた。

 

「アイズはなあ、誰のもんでもねえ! この――」

「そもそもものではないだろう」

 

 的確なリヴェリアのツッコミを無視しつつ、俺はその続きを口にする。

 誰もがおれが『この馬鹿野郎が』とでも言うと思ったことだろう。頷こうと準備している奴すらいる始末だ。だが、残念だったな! 俺はお前らの上を行くぜ!

 

「――俺のだ!!!」

「そうだそうだっ! って、ええぇぇえ!?」

 

 頷きかけて固まった者、頷いて怪訝な顔をした者、賛同する声を上げてその後叫んだ者。様々な反応が返ってくる。

 

「こいつは俺の弟子で、俺の家族で、俺の妹みてえな奴で、俺の娘みてえなもんで、そして()()()()()!! つまり、大体俺のだ!! アイズに手出したいんなら、まずは俺より強くなるこったなああああ!!!」

「に、ニコ?」

「……ニコライ、君酔ってるね」

「大体俺のって……意味が分からないわ」

 

 ベートに対してはまだ尋ねる感じだったが、俺に対してはフィンは断定した。

 

「酔ってねえし!!! 絶対に俺は酔ってねえぞ!! 酔ってねえのはアイズだ!」

「アイズは酔わせちゃだめなタイプだから。そして酔ってる人は大体酔ってないって言うよ」

「うるせえなあ! とにかく、アイズ! お前も飲め! 他の奴らが言うことは気にするな! もうベートが十分やらかしてんだから何やっても大丈夫だ! もう何も怖くない!!」

「それは見当違いにも程があるだろう!?」

 

 果実酒の入ったコップをアイズに差し出す。他の奴らが止めようとしてきたが、すべて跳ね除けた。伊達にLv.6の冒険者をやっていない。酔っ払っていても戦える。むしろ酔拳とか使っちゃうぜ。

 

「大体だなあ、お前らはアイズを怖がり過ぎだ! 俺と飲む時のこいつはそんな暴れねえぞ!」

「いつアイズと飲んでるんだい君は」

「カジノの帰りとか。知ってるか? ジャガ丸くんって結構酒に合うんだぜ!? 勝った後にジャガ丸くんを食べながらの麦酒……最高だああああ!」

「ほ、本当にニコライと二人で飲んでんのかアイズ!?」

「は、はい」

 

 必死に真相を聞き出そうとしたベートにアイズは何ともなしに肯定の意を示した。一対一(サシ)でアイズと飲んだことのないベートは圧倒的敗北感から絶望した。

 まあ、一対一でアイズと飲んだことがあるのは俺とロキくらいのものだろうがな!

 

「俺の勝ちだなベート・ローガ!! 今日のお前は最高に負け犬だなあああ!!!」

「死ね、死ねえええええ!! 殺してやるぜえええニコラアアアアイ!! 酒持って来い!」

「誰がてめえなんかと酒を飲むか、この馬鹿野郎!! アイズ、一緒に飲もうぜ!! 暴れ出したら俺がなんとかしてやっからよ!!」

 

 ベートが自棄酒をするという珍しい状況にロキは嬉々として参戦し、ベートを潰しにかかった。そこにガレスも参戦したことでベートの負けは確定した。

 

「ほれ、ちょっとだけでいいから、な!」

「で、でも」

「この程度で酔うやつなんていねえって、心配すんなよ。俺と飲んでる時はなんともないだろ?」

「じゃ、じゃあ」

 

 おずおずと酒の入ったコップにアイズが手を伸ばす。ゆっくりとコップを口元まで持って行き、そして――

 

「ニーーーコーーーラーーーイ!!!」

 

――横からぶつかってきたベートに押された俺がアイズにぶつかり、体勢を崩したアイズは予想以上の量の酒を飲んでしまった。

 

「なんだよ、ベート! 野郎が俺にひっつくんじゃね、気持ちわりい!!」

「いつもいつもアイズを独り占めしやがって!! この糞野郎がああああ!!」

「ベートが! ベートがめっちゃ本音出しとる!!! プククク、これは明日弄るネタができたで!!」

 

 俺にしがみつきながら日頃の鬱憤を吐き出すベートにそれを見てゲラゲラと笑うロキ。相変わらずフィンを酔わせて何をしようとしているのかまる分かりのティオネに、呆れた顔で周囲を見渡すリヴェリア。そして、酒を飲んでしまったアイズを心配するレフィーヤとティオナ。

 

「んぅ」

「あ、アイズさん、大丈夫ですか?」

「ちょっとニコ何してんの、もうっ!!」

「俺は悪くねえッ!!! ベートがやったんだ!」

「そもそも飲ませようとしたのがニコでしょ!!!」

「いいじゃねえかよ!! 一人だけ飲めないなんて可哀想じゃねえか! なあ、アイズ!!」

 

 邪魔だったベートを蹴り飛ばし、俺はぼーっとしているアイズの顔を覗き込んだ。いつも通り表情の動かない顔だったが、頬は少し朱に染まり目が垂れていた。

 

「ニコ」

「あん?」

「眠い……」

「え、マジで? ここに来て眠い? いやいや、夜はまだまだ長いっすよアイズさん」

「寝ていい?」

「ちょっと待て、ここで寝るな! 寝るなよ! 絶対に寝るなよ!」

 

 寝るなと三度も言った俺にもたれかかりながらアイズは寝てしまった。僅かな酒気を帯びた息を吐きながら、俺の肩を枕にして寝やがった。

 

「と、まあ、アイズが俺と飲むと大抵こうなるぜ!!」

「その、どうだ! とでも言わんばかりの顔をしないでください! こんな所で寝たら風邪をひいてしまいます!」

「俺が温めてやる!」

「アイズさんから離れてください、この変態!!」

「温めたら何か産まれるかな!? アイズの雛とかかえるんですか!?」

「もうこの酔っぱらい嫌だ!!」

 

 その後レフィーヤとティオナによってアイズと俺は引き離され、俺は再びロキやガレスと酒を飲み、アイズは二人に介抱された。因みにブレないティオネはずっとフィンの相手をしていた。

 

 

 翌日、事の顛末を聞いたアイズに一発殴られたが、あれは照れ隠しだと俺は信じている。

 




※2016/02/19 010の【二律背反(Trade Off)】を【赤黒上下(Two Tone High And Low)】に変更。

みんなアルコールの摂取には気を付けましょう。

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