光の戦士がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ウィリアム・スミス
愛用の紀行録 5
良く分からん神様に誘拐されたという友人を助けに行ったと思ったら、何時ぞや喧嘩を売られた「でっかいヤツ」と、その他愉快な仲間達と何故か戦闘する事になり、それが恋愛の
街を追放された。
何を言っているのか分からないと思うが、当事者本人も良く分かっていない。『イシュガルド防衛戦』戦勝祝賀会並の理不尽さを感じた。ちなみに神様は“真”なる神様だった。周回する予定は今のところ無い。多分、
とはいえ、神様がそこら中にいる街で神様をぶっ殺しちゃったのは紛う事なき事実であるので、謂れ無き罪を擦り付けられた訳でも無く、自ら勧誘し、仲間だと思っていた人達から裏切られたり、仲間が全滅したり、友人が殺されたり、世界規模の指名手配犯にされたりなんて事は無かったので結果オーライである。
よくよく考えてみればこの街で神様を殺すという事は、蛮族拠点のど真ん中で蛮神を殺すのと同義である。「何時もやっている事だろうがッ!」と言えばその通りだが、蛮族達の「目に留まったら問答無用じゃ!」な塩対応を見る限り、そりゃ追放の一つや二つされるってもんである。もっとも最近じゃ蛮族達は見て見ぬ振りをしている者もいたりするが……。
むしろ親の仇の如く恨まれて、憎まれて、地獄の果てまで追跡された挙げ句、一族郎党
何はともあれ、ようやく侵入できた
百億ヴァリスは丁度全財産に等しい金額であり、リンクシェルの事も知られている様だ。ヘスティアが言ったとは思えないので、どこからか情報が漏れた様だ。こちらの懐事情を知っている他人なんて、良く取引する『ギルド』くらいなものだが……。
天井を貫き、上層部まで届く巨大なクリスタルが浮かぶ
問答無用で神の審判だとか聖なる審判だとかの物騒な攻撃が飛んで来なくて幸いである。
ヴァリスは失ってしまったが、命よりも大切な装備や所持品は健在で、念願のマイホームもヘスティア達が管理してくれる手はずになっている。そもそも永住する気はさらさら無かったので、この機会にこのまま彼女達に譲渡してしまっても良いかもしれない。どうせ何時かはエオルゼアに帰る身であるし。
リンクシェルの仲間達も、メリュジーヌ討伐以降自信を付けたのか今までの若葉じみたおどおどとした様子は抜け、瞳の死んだ堂々とした立派な
ダンジョンに置きっ放しのリテイナーも、装備は充実させているし、毎日欠かさず依頼を出していたのでレベルも十分上がっている。一人で生きて行くには申し分ない能力はあるはずだ。
唯一の心残りと言えば大迷宮攻略だが、メリュジーヌを討伐出来た事できりが良いし、そもそもこのパーティーはメリュジーヌ討伐の為に結成したパーティーなので、これを機に解散も視野に入れても良いかもしれない。リーダーがいなくなって自然崩壊とか良くある話だし……。
別にそれで彼等との絆が無くなる訳では無い。むしろこのままずるずると固定を組んでいる方が、絆崩壊的にヤバいとも言える。最近忍者とヒーラーの関係が怪しいし、もう恋愛関係の問題はこりごりなのだ。
どちらにせよ会おうと思えば簡単に会えるので、そんなに性急に結論を出す必要も無いだろう。
オラリオからは永久追放となってしまったが、ぶっちゃけ言って侵入する方法は幾らでもあるので大して痛くは無い。テレポでも、デジョンでも、フライングでも、
オラリオは入るのは簡単だが、出るのが難しい都市だ。戦力流出とか情報漏洩とかを防ぐためにそうなっているらしいが、その都市を永久追放された身としては、入るのも簡単で、出るのも簡単になったと言うだけで、むしろ自由度が上がったとさえ言える。
この土地に来て直ぐにオラリオに来てしまった事で、中々外に出る事が出来なくなってしまっていた。唯一外出したのは
世界はとても広く、とてつもなく広大で、まだ見ぬ未知に溢れている。一つの都市、一つのダンジョンに固執する必要は無い。そんな者は冒険者とは言えない。未知を、不思議を、幻想を探求してこそ冒険者と言えるだろう。
それに、いい加減オラリオにはもう
そんな訳で──
光の戦士として みずからに
あたえられた 使命の大きさと
まちうける はらんの運命に
めまいさえも おぼえるのであった
──なんて事は無かったが。
探求の旅は始まったのである。
*
当たり前であるが世界は広い。
所詮一都市でしかないオラリオに比べればそれはそれは広大で、壮大で、膨大で、巨大で、遠大だ。
西にあった港町では漁業に精を出した。
神様と都市代表とギルドが仲良く殴り合いながら運営するその都市は、オラリオの玄関口として機能しているようで、物資や人の流出入が盛んで依頼に事欠かす事は無かった。
三勢力から同時にスパイ活動じみた依頼を受けたりもして、あれよあれよという間に都市運営に関する良からぬ陰謀に巻き込まれたりもしたが、それはこの街の裏の自警団的な組織と協力して無事解決する事が出来た。何でもニョルニョルとか言う神様のファミリアが中心になって結成された組織らしい。
港町で貿易や漁業が盛んである事といい、裏の自警団が存在している事といい、リムサ・ロミンサに似た風情がして少し懐かしい感じがした。
街には小麦色に日焼けした半裸の男性と、やたらと露出の多い褐色肌の女性のカップルがやけに多く。何故かと聞いてみれば、簡単に言えば「軟弱な男になんか負けない!」からの「やっぱり逞しい男性には勝てなかったよ……」的な展開があって、そんな感じになったらしい。
何でも彼女達の神様が何者かに殺害されてしまい、行き場を無くした結果こんな事になってしまったようだ。カーリーとかいう神様らしいが、心当たりは全くないので多分関係は無いだろう。しかし、奇遇な事もあるものである。他にも神殺しをしてた人がいたとは驚きだ。
この都市で釣れる魚類たちはやたらと生命力に溢れており、「ちょっと、お前まで魚類に分類されるの?」というレベルでフリーダムなエオルゼアほどでは無いが、中々に活きの良い魚達が沢山釣れた。
多くの魚は食用に耐えうるものでは無いそうだが、ものは試しで分解してみると細砂とシャードが入手出来た。魚類に関してはエオルゼアとそう大差は無いみたいである。そうとなれば太公望への道を目指している者としては黙っていられない。バンバン釣って、ガンガン分解するまでである。世界中のヌシ・コンプリートを目指すのも良いかもしれない。
そして、結局港町にはニョルニョル・ファミリアの皆さんが「これ以上釣られると魚がいなくなるので、マジでお願いですから出て行って下さい」と言われるまで滞在する事になった。勿論、ヌシは釣りまくった。
*
北では山岳地帯の中にある隠れ里に訪れた。
元々エルフ達が暮らしていたというこの村は、現実に絶望した者や、都市を追われた者、その身の危険から逃げ出してきた者、世を捨て隠居した者、愛の為に駆け落ちした者等々、いわゆる“普通に暮らせ無かった人達”が暮らす最後の理想郷であるという。
基本的に自給自足で、手作り感満載の村の様子は「分かたれし者達」が集うヴァスの塚を想起させるが、村の規模や人種のごった煮感はこっちの村の方が遙かに上であった。
そもそもこの村を訪れた理由は、港町のとある人物からこの村へ物資を運ぶ依頼を頼まれたからだ。何でも「病気がちの村長に“うまい魚”を食わしてやってくれ!」との事らしい。おそらく、山岳地帯の奥底にある村だから、新鮮な魚を食べる機会が少ないと考え気を利かせたのだろう。中々に粋な計らいである。
運ぶ物資の中には『新鮮なうまい魚』が入れられていた。かばんに入れれば腐る事は無いが、もし他の人に頼んだ場合はどうするつもりだったのだろうか? 『新鮮なうまい魚』だったものが『腐ったまずい魚』になって村長さんの命が危険で危ない!
村に着くと案の定村長は死にかけており、「私が村長で……ゴホォ、ガハァ、グフゥ、ゲヘェッ!」と咳き込んでいた。危なかった。もし、その台詞を最後まで言い切ったら、それが村長の最後の台詞になるところだった。
死にかけた村長は『新鮮なうまい魚』を四匹ほど与えるとすっかり元気になった。良かった。これで一緒に世話をした孫娘が、悲しみのあまり崖から身投げして、いかだで大海原に乗り出す、なんて事態にはならずに済みそうだ。
元気になった村長からはお礼として彼の自慢……もとい昔話を聞いたが、殆どが女神様との惚気話だったので話半分に聞いた。もうマジで恋愛問題はこりごりなのだ。
適当に話を聞いていたらあからさまに残念そうな顔を村長がしてきたが、「アラアラ、おじいちゃんまたその話ぃ?」と孫娘が笑いながら呆れていたので何時もの事なのだろう。
その後、今度は孫娘さんの方からこの村の成り立ちや風習などをしっかり教えて貰った。
三大冒険者依頼、黒竜、隻眼、落ちた鱗、守護神、モンスター。そのキーワードから少しニーズヘッグ、そして、その邪竜に取り込まれた仲間の事を思い出した。その『黒竜』というのを一度見に行くのも良いかもしれない。
この村は遙か昔にその竜が落としていった鱗に守られし村らしく、近々その鱗を祀る祭りが開催されるみたいだ。そして当然の如く、その準備を手伝う事になった。
とはいえルララが出来る事と言えば製作と、採集と、狩猟くらいなのでやる事はそれくらいであった。まぁ、要するに“全部やった”、という事だ。
祭事の為の道具や祭壇の準備から、食材の採集に料理の製作。ついでに周辺のモンスターを狩って来る等、やるべきことは枚挙に暇がなかった。
村周辺に出現するモンスターはオラリオのダンジョンに比べれば遙かに弱く、もはや「指先一つどころか爪先一つでダウンさ!」なくらい楽勝だった。この程度で「かなり危険な作業」と言う住民は大丈夫なのだろうか?
採れる食材もそれ相応の物しか採れなかった。栽培された物より自生している物の方が遙かにレベルの高い物が採れるエオルゼアとは大きな違いである。それでも話を聞く限りじゃ、今回採れたものは例年に比べるとどれも良い物らしいから驚きである。
そして、祭りは過去類を見ないほど盛大に行われたようだ。前がどうだったのかを知らないので何とも言えない。だが、月明かりの下で、炎の周りを気恥ずかしそうに踊る多くの男女を見る限りでは、大成功であったのは間違いなさそうだ。
ルララも名前も知らない男性からダンスを誘われたが、丁重にお断りした。恋愛関係はもう(ry。
その代わりといっては何だが、エオルゼアのバヌバヌ族という種族に伝わる伝統の踊り──『太陽の舞』──を披露して見せたところ何故か意外に好評で、最終的には村人全員で『太陽の舞』を踊る事になった。「この燃え盛る太陽の様に勇ましい踊りならば、どんなモンスターでも追い返す事が出来ましょうぞッ!」とは村長の弁である。
斯くして村を護る鱗を祀る祭りは、誰が最も勇ましい『太陽の舞』を踊れるかを競い合うダンス祭りへと変貌していった。
そして、祭りが終わった次の日にこの村を出た。
*
その後も様々な所を巡った。
行く当ても目的も無く、ただ風の向くまま、足の向くまま、気の向くまま。風の様にふらふらと──
とある
怪我をした主役の代打で急遽、「才能を見いだした!」とか、「貴方に光り輝くものを見た!」とかいう劇団長の謎の根拠に基づく超強引な説得で、禄に練習する間も無くぶっつけ本番で劇を演じる事になったのだ。はっきり言って無謀とも言える試みに思えたが、何やかんやあって無事成功を収める事が出来た。
劇の内容は、一人の
演劇の後、劇団長曰く「まるで本人の様であった」と絶賛されたが、「でも、最後のシーンで神様全員皆殺しにしちゃうのは不味いよね」と言われてしまった。だって最後のシーンはまだ完成してないからアドリブでって貴方言ったじゃない。
その後、復活した主役にサインを貰ってこの国を後にした。風に聞いた話では、結局演劇は“あの”内容で演じているらしい。
とあるドワーフの国では共に採掘をした。
炭鉱を掘り進めていく内に古代に封じられたモンスターを復活させてしまったり、掘れども掘れども碌な鉱石が掘れないなんて事があったが、彼等が言うにはそれでも今回の成果は例年に無いほど良いものであったらしい。
その後、遙か昔に竜に奪われた城と財宝を共に奪還しに行ったりもしたが、既に竜は城におらず、遙か昔に巣立っていて城の中はもぬけの殻だった。それでも、いまなお残る大して強くないモンスター達を蹴散らして、彼等の城と財宝は無事奪還された。ドワーフ達曰く、ダンジョン以外のモンスターと
彼等は男女を問わず皆陽気で、大酒飲みで、ひげもじゃで、屈強で、豪快で、そして、幸いな事に白くて禿げてるヤツはいなかった。
そして、ドワーフ達の財宝の一部──ミスリル製の武具──を受け取りこの国を後にした。彼等は今後も枯れた山々を掘り起こしていくらしい。
とある帝国では反乱軍と協力した。
圧政を敷き、民衆を虐げる皇帝相手に反旗を翻した反乱軍は「のばら」を合言葉に今日も戦っていた。何でも「のばら咲く世界を目指しているから」らしいが、敵兵士にその言葉を言うと「きさま、はんらんぐんだな!」と言って襲いかかってくるので、ここまで敵勢力に浸透している合言葉を使っている反乱軍相当にヤバい感じだ。
むしろ合言葉以前に、だいたいほとんどの帝国兵は話しただけでまるでエスパーの様に反乱軍を見分けてくるので、反乱軍のお先は真っ暗状態である。そもそも「のばら」を合言葉にする組織に碌な思い出が無い。地下水道で亡国のお姫様なんか助けるんじゃ無かった。オイオイヨ!
それでも何やかんやあって(反乱軍の主要メンバーが帝国将軍の子供だった事が発覚するとか、結局皇帝は将軍に裏切られ落下死、等)皇帝は倒され、帝国は共和制に移行した。ちなみに、ここまで神様の姿は影も形も無かった。
新体制の元老院最高議長になった娘曰く、オラリオ以外ではそんなもの、みんな世界の中心に夢中、なのだそうだ。
共和国からは光り輝く光刃を賜った。最高品質の魔石を使用しているらしいが、実戦に耐えうる物では無いそうだ。魔石のエーテル保有量がシャード以下しかなかったのが原因だと思われる。
とあるエルフの国では魔法と機械について語り合った。
閉鎖的で、排他的で、排外的で、魔法至上主義と、厳しい階級社会を形成しているこの国では、生まれながらの魔力によってその後の人生が大きく左右され、決定される厳格な国家であった。
そこで出会ったとある貴族の長男坊は、この国の、保有する魔力量によって住む場所も、受ける教育も、就ける仕事も、結婚できる相手も全て決定される現状を憂い、それを打破するために『魔法』に代わる新たな力として、魔力の有る無しに関わらず使用できる『機械』という力に目を付け研究する夢追い人であった。
余所者だと白い目で見る事も無く、持っていた『魔導アーマー』や『騎乗システム』を少年の様な輝く瞳で見つめる若きエルフの熱意と情熱は本物で、彼と、彼を慕う者達と協力する事によって拙いながらも『機工銃』っぽい物は完成した。
「これを応用する事によって魔力の無い者でも、火を起こし、水を生み、風を吹かせ、土を耕す事が出来るんだ」そう満面の笑みで言う長男坊から、彼の夢である『空飛ぶ機械の模型』を貰いこの国を後にした。どうやら、この世界に飛空艇などの機械技術は無いみたいだ。
そして──
とある獣人達の国では共に狩猟をした。獲物はモンスターよりも弱い動物だった。
はるか極東にある国は遠すぎてまだ行けないみたいだ。
とある魔法大国はエルフの国で誕生した『機械』という力を警戒しているらしい。
とある海洋国家は神様に奪われたお姫様を今も探していると聞いた。
とある王国は戦争を始めたそうだ。
テルスキュラという女しかいない国は滅んだらしい。何でもとある王国に滅ぼされたそうだ。
世界はとてもとても広大で、壮大で、膨大で、巨大で、遠大で、そして──何処にもエーテライトは、エーテルの溜まり場は存在していなかった。
*
これまでの道中に大した障害は無かった。何処まで行ってもモンスターも、人もまばらで、採れる素材もどれも元気が無かった。唯一元気なのは釣れる魚──それも海や、汽水湖などの海が近い場所で釣れる魚──くらいであった。
それは、それはオラリオから遠ざかれば遠ざかるほどにより顕著に現れた。
「その魚は『アマゾネスフィッシュ』と言って、アマゾネスの様に暴れ回る事からそう名付けられたんだ」
滅んだテルスキュラ国近くの海岸で釣りをしていると、そう明後日の方向に声をかける青年に声をかけられた。金髪のスカした笑みを浮かべている好青年風の男だ。
確か、拘束艦のクローン生成区画であった──そう考えて『ステルス』を解除し、姿を晒す。最悪、手に持つ釣り竿で対抗するまでである。
「っと、そんな所にいたのか。初めまして、ではないね──マリウス・ウィクトリス・ラキア──だ。ラキア王国の第一王……いや、今では国王かな? をやっている。この間の無礼は許してくれ、光の使徒様」
いくら太公望を目指しているからといって、釣り中に国王が訪ねてくるなんて事しなくても良いだろうに。絶賛戦争中の国王様が一体何の用だろうか?
「いや、偶々君を見つけてね。私も釣りが趣味で、ついつい声をかけてしまったんだ」
直前まで発見する事も出来ていなかったくせによく言う王様である。マリウスは「失礼するよ」と断るとルララの隣に座り、海を見つめた。
ビュンっと、ルララが釣りをする音だけがただひたすらに鳴り響く。それをじっと黙って聞いて、海を見つめるマリウス。静かな時間がゆったりと流れていく。
暫ししてマリウスはゆっくりと口を開いた。
「……海は、生命に溢れている。それこそ君の世界に、負けないほどに──」
マリウスの口調は淡々としていたがその中には確かな憎悪が渦巻いていた。
「モンスターが自由に闊歩する過酷な生存状況に晒された海の生命は、強く、逞しく、堅強に
中には禍々しい姿形に変異した魚類もいたが、それは生き残る為の生命が選んだ手段であって、どこの世界でも見られる極当たり前な現象であると言えた。
「モンスターという存在が彼等をそうさせた。だから海の世界には生命が溢れる事となった。より強く、より速く、より多く、繁栄する事になった。モンスターが、あの忌まわしきモンスターが生命を運び、育んだんだ──それに比べ、
その言葉はルララへ向けたものでは無く、己に問いかけているようであった。
「神の恩恵を受ける僕達はどうだ? 神の力に縋る僕達はどうだ? 神の奇跡に頼る僕達はどうだッ!? 君も、君も見ただろう!? 僕達は、僕達は……あまりにも──
泣き崩れるような声でマリウスが言った。
世界を巡り、世界を旅した。まだ見ぬ場所、まだ知らぬ場所はあるだろうが、確かにどの土地でも“そう”だった。
人も、モンスターも、大地も、空も、生命あるものは皆脆弱だった。風は弱り、火は消えかけ、水は淀み、土は枯れかけていた。一見、姿形は問題無さそうでも、その中身はスカスカで空っぽで空虚だった。
まるで
「確かに君は
結局、成長するのはヒトでは無く、神の恩恵なのだ。それを失った時、残るものはただの空っぽな器だけ。
だから、ヒトの進化は止まった。神の力に頼り過ぎた為に思考は停止し、技術は停滞し、生命の循環は滞った。
「それに気付いた時はもう手遅れだった──今、この世界は死にかけている。長きに渡り蔓延る病魔によって、僕達が願った祈りによって、“この星”は死に絶えようとしている。だから星は僕を選んだ。だから星は僕達を選んだ。だから星は“アレ”を喚んで──そして、君を
そう、はっきりとした口調で言ったのち、マリウスは立ち上がるとルララの方を見て手を差し出した。その手の中には青く光り輝く水晶──光のクリスタル──が握られている。
そして、マリウスは光の戦士らしく言った。
「──君に、
頼まれてしまったからには仕方がない。
*
オラリオの地下深く。メリュジーヌ討伐後に発見したエーテライトに転移したルララは、そのまま拘束艦内を下へ下へと突き進んでいた。
道中に出現するモンスターは一切存在しない。まるで招き入れられているかの様に沈黙を貫く拘束艦は、不気味なまでに静寂に包まれていた。
マリウスの依頼は、「とある人物に会って欲しい」というものであった。そして、その人物は、この“先に”いるという。
無人、無モンスターの艦体中央部を抜け、誰もいない再生制御区画を突破し、そして、拘束艦の第一艦橋へと辿り着く。それは、かつてルイゾワと相対し、フェニックスと戦った“あの場所”そっくりで、その場所で待っていたのは──
「よく来てくれました。光の使徒よ──」
金色の長髪に、白い衣装を纏った女性が、そう囁く。
「私の名は、『アリア』──」
過去にそれを見た初心で純情なベル・クラネルをして、「普通ですね」と言わしめた女性に似た『アリア』がそう、ささめく。
「かつて、人々から『聖なる精霊』と呼ばれ、そして今では『穢れた精霊』と呼ばれる──『星の代弁者』」
ロキ・ファミリアの胸も、身長も、種族も、見た目も普通のヒューマンそっくりの女性が、そう嘯く。
「ずっと、ずっと待っていました。異なる世界の英雄よ──」
そして、その女性の背後には──
「そして、今こそ、今こそ語りましょう。この世界の真実を──竜の神が召喚され、貴方が喚ばれた、その理由を──だからお願い。聞いて、感じて、考えて……」
完全に修復され眠りに就く──
「全ては、千年前──人が願い、生まれた幻想から始まりました──」
蛮神バハムートが存在していた。
そして、物語は終演へと進んでいく。
次回から最終章になります。
要望のあったルララ・ルラの見た目を活動報告に載せてあります。気になる方はどうぞ。