光の戦士がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ウィリアム・スミス
「──さぁ、ついにこの日がやって参りました! 数多くの因縁を抱えたヘスティア・ファミリアVSアポロン・ファミリア!! たった一人の眷属を賭けた
ギルド本部の前庭に設置された特設ステージで、褐色肌の青年が魔石製の拡張器に向かって吠えた。
今日は
この場所以外にもオラリオ中の至るところに人が溢れている。皆一様に今日の戦いを心待ちにしていたのだ。
「ご覧の通り天候は快晴で
今日のオラリオは澄み渡る青空が広がる雲一つない快晴。
「申し遅れましたが、今回の
己の二つ名に不満があるのか。自分の主神への愚痴をオラリオ中に垂れ流すイブリ・アチャー。
止めどなく流れ出る文句を聞くかぎりじゃ散々馬鹿にしているその二つ名も間違っちゃいないと思えるのが不思議である。アチャー!
「そして解説には、今オラリオで最も注目されている男! 前代未聞の
「……どうもリチャードです」
やけにハイテンションで喋るイブリ・アチャーの隣──解説者の名札立てが置かれている席──に肩身を狭そうに座っているリチャードが言った。
「随分と冷静ですね、リチャードさん!
イブリ・アチャーはきっと入るファミリアを間違えたのだろう。
彼が入るべきファミリアはガネーシャ・ファミリアとかじゃなくて、マツオカとかシュウゾウとか言う太陽神のファミリアだ。
まあ、そんな神様いないんだが。
「お、おう。相変わらずお前は情熱的というか熱血的というか本当に熱い男だな」
「まあ、それだけが取り柄みたいなもんですからね! 今更変える気は無いですよ!! さて、戦いが始まる前に今回の
「そうだな、ただ何となく盛り上がっているだけの人が何人かいるだろうからこれを機会に
まぁそれでも多くの冒険者達や、一般人はそのルールを良く理解していない。
多くの人々はノリやテンションに任せて盛り上がっているだけなのだ。
「今回の
そうイブリが言うと空中に巨大な鏡が出現し、両陣営の戦力図が展開された。
ステージ以外にもオラリオ中の酒場や、宿舎、広場などにも鏡が出現する。この鏡は
「参加可能人数に制限が無いから戦力差が物凄いことになっているな」
「ヘスティア・ファミリア2名に対してアポロン・ファミリアが104名ですからね……戦力差は圧倒的とも言えます。そこらへんどうお思いでしょう? リチャードさん」
『神の鏡』を見上げながらイブリが聞く。
ヘスティア・ファミリア側には小さな光点が二つ点滅しており、アポロン・ファミリア側には数多くの光点が点滅している。
一見しただけでも戦力差は圧倒的な事が分かる。
「現代戦において重要なのは数よりも“質”だ。ぱっと見の戦力差なんて幾らでも覆すことが可能だ」
たった一人の高Lv.冒険者が、精強なる軍隊を蹂躙するなんてことがこの世界では起こりうるのだ。
戦いは“数”よりも“質”が重視されるのはもはや子供でも知っている常識だ。
「ええ、ですがその“質”に関してもヘスティア・ファミリアの陣営は圧倒的に不利であると言えます!」
そう、その質に関してもヘスティア・ファミリアは圧倒的に敗北していた。
ヘスティア・ファミリア唯一の眷属ベル・クラネルは未だLv.1。
それに加え、助っ人で参加したルララ・ルラとか言う冒険者に至っては
笑っちゃうぐらいクォリティの低いラインナップだった。
「Lv.1の冒険者に無所属の冒険者だからな……まあ、不利っちゃあ不利だよなぁ……」
「ええそうです! それに引き換えアポロン・ファミリアの方は団長であるヒュアキントスさんのLv.4を先頭に、Lv.2が複数名と数、質ともに充実した戦力で固めてあります」
それに対しアポロン・ファミリアの面々はそうそうたるメンバーであった。
ここに来てランクアップを果たした団長のヒュアキントスを筆頭に、ヒーラーが複数名、キャスターも数を揃え、アタッカーも充実している。攻守ともに完璧な布陣だった。
「見ていて悲しくなるくらいの戦力差だな……色んな意味で」
『神の鏡』には次々と出場する戦士のプロフィールが映し出されている。それを眺めながらリチャードは呟いた。
ちょうど映ったルララのプロフィールには、ただ『冒険者』とだけ記載されている。
映し出された彼女の映像は実に奇妙な仮面を付けていて、服装と合わせるとまるで狼を模している風に見える。
「そう言えば、ヒュアキントスさんに関してはつい最近ランクアップしたばかりのようですね。彼といい、リチャードさんといい、最近の冒険者は気軽にランクアップし過ぎでは無いでしょうか? ランクアップのバーゲンセールかよ! って感じですよ!」
「うん、まあ、そんな時もあるんじゃないのか?」
ここ最近ランクアップした人間の殆どと関わりを持っているリチャードには、その原因に心当たりがありまくりであったが『実はそこに映っている子のお陰なんですよ!』なんて言っても誰も信じてくれないだろうから彼は口を噤んだ。
「是非とも何か秘訣があれば伺いたいところですが、今は
その内の一つが『神の鏡』──千里眼の能力である。
これによって遠く離れた地で行われている戦場の一部始終を覗くことが出来るのだ。
オラリオ以外でも世界中の至る所で今回の
「その他にも今回の『殲滅戦』に重要な『撃破判定』をする為の特性魔石も
今回の
今回の魔石製品は何でも“上質の魔石”が多数入荷したためかなり高性能な代物になっているそうだ。
「はい、なんでも今回配られた特性の魔石は所持者のステイタスから情報を読み取り、気絶するか、もしくは体力がゼロになったと判断したら自動で破裂し、所持者を登録した場所に自動転移させる機能があるそうです!」
「登録した場所ってのは各陣営のスタート地点になっている。そこには治療チームも待機しているからもし重傷を負っても死ぬ心配はないぞ」
「それ以外にも『神の鏡』と連動して戦士たちの現在位置や、残存数などが直ぐに分かるようになっています」
これによって今回の
最悪、即死級の魔法や攻撃を喰らっても魔石の効果によりなんとか一命を取り留める事が可能だ。
ぶっちゃけいって革命的発明だが、これを利用できるのは様々な理由によりこの
「生憎、無所属であるルララさんには特性魔石は配布されていません。彼女にはステイタスが無いので持っていても意味が無いですからね。運営側は今からでもファミリアに所属することを勧めているそうですが、頑なに拒んでいるそうです。何故でしょう。意味不明です。命知らずとはまさにこの事ですね!」
特性魔石はステイタスと
安全性を考えるなら強制してでもファミリアに所属させるべきだが、誰も強制はしなかった。
所詮一般人に対する安全管理なんてその程度のものなのだ。
ただの一般人が馬鹿みたいに冒険者の戦場に混じって討ち死にしようがしまいが、ぶっちゃけあまり興味は無かった。
「もしくは必要ないものかもしれないな……」
「もし、そう考えているならかなりの大物でしょうね。小人族なのに大物とはこれいかに!?」
そう、おどけた口調でイブリが言う。
彼等冒険者からしてみればルララの行為は自殺行為にしか見えないだろう。
ならばせめてもの手向けとして笑い話の種にでもするのが人情というものだ。
イブリのジョークにそこかしこで笑い声があがる。
大して面白いジョークでもなかったが絶賛ハイテンション中なオラリオでは、もはやどんなジョークでも笑い飛ばされる状態にあった。
「ちなみにルララさんの撃破判定は彼女の生死または自己申請によって判断されるそうです。まあ、それぐらいしか判断材料無いですからね」
「願わくば無事に戻ってきて欲しいな。面白い奴等も多かったし……」
しみじみといった感じでリチャードが言う。
彼が心配しているのはヘスティア・ファミリアの事か、もしくはアポロン・ファミリアの事か……。真相は闇の中である。
「さて、戦場となる『シュリーム平原』についてですが、リチャードさん! 何かありますでしょうか?」
話を切り替えてイブリが問う。
真っ昼間から彼等の命運を思って黄昏れていたリチャードは解説役である自分の職務を思い出して自身の持つ知識を披露した。
戦場や、ルールの詳細なら彼女に散々付き合わされてしっかり覚えたので抜かりはない。
「『シュリーム平原』はこれといった森も丘も存在しないまっ平らな平原だな。唯一あるのは中央の『シュリーム古城跡地』であとは特に大きな起伏も遮蔽物も無い。それだけ見たら数で勝るアポロン・ファミリアに有利だと言えるな」
「その『シュリーム古城跡地』を中心にして正反対の位置が各陣営のスタート地点になります。これはやはり最初は如何に古城跡地を奪うかに掛かっているのでしょうか?」
戦闘開始地点は両陣営に不利有利が無いように『シュリーム古城跡地』を中心にして全く逆の位置からスタートする事になっている。
なので、想定される戦いは『シュリーム古城跡地』を中心にして展開されると思われる。
「そうだな、跡地を占拠出来れば守りは堅強に出来るし持久戦に持ち込みやすくなる。遮蔽物や隠れる場所も多い。トラップを仕掛けても良いし、誘い込んでタコ殴りにしても良い。どちらにせよ戦況を優位に進められるのは間違いないだろう。屋根が“ある”ってだけでも十分なアドバンテージだ」
「成る程、今回の
あまりにも長期間
その為、今回の『殲滅戦』には時間制限が設けられている。
丸三日──その期間内に敵勢力を殲滅するか、もしくは戦闘終了時に残存戦力が多い方が勝者となる。
ちなみに人数差を考慮に入れ、ヘスティア・ファミリア側は一人52ポイント、アポロン・ファミリアは一人1ポイントという形でバランスをとっている。
なので何もしなければ自動的にアポロン・ファミリアの勝利となるなんて事にはならない。
極論すればヘスティア・ファミリアがアポロン・ファミリアの戦士を一人倒し、そのまま三日間逃げ続ければ勝利することも可能であるという事だ。
ヘスティア・ファミリアに勝ち目があるとすればそのパターン以外には考えられない。というのが観客達の総意だ。
そういった意味でも拠点の確保は最重要事項と言えた。
「まあ、そんなまどろっこしい事しないで本隊に突っ込んでいけば一瞬で勝負が着きそうなもんだがな」
「ハハハ、ですよねー。戦力的にも戦場的にもルール的にも圧倒的に有利ですからね。アポロン・ファミリアの皆さんには是非とも速攻戦術で勝負を決めて欲しいものです」
そして、粗方のルール説明を終えたリチャード達は最後にこう付け足した。
「そんでそれ以外のルールは関しては基本的に
「まあ冒険者同士の代理戦争ですからね、使用するアイテムや装備に制限はありません!」
『何でもあり』──その言葉を聞いた時“ある冒険者”の顔が未だかつて見たことが無いレベルで輝いたのを見たリチャードは、彼等に対して同情の念を送らずにはいられなかった。
「あとはまあ、“賭け”の話くらいか?」
「そうですねー皆さんも“それ”に一番興味があるんじゃないでしょうか?」
どちらのファミリアが勝利するのかがメインの賭博対象であるが、今回の
一日なのか、二日のなのか、三日なのか、はたまた当日なのか、もしくはもっと速いのか。
人々はそれぞれ思い思いの『時間』を賭けていた。ちなみに一番人気なのが開始一時間で終了である。
「ちなみにリチャードさんはどちらに賭けたのですか?」
「ん? 俺か? 俺は……まあ、安定志向の安全第一だからな。絶対に勝つ方に賭けたよ。全財産な」
「おお! 全財産とは随分と男前な事をしますね! まあ、確かにこれ程勝負の見えた
朗らかに笑いながらイブリは言う。
そんなイブリを残念な子を見る様にリチャードは見つめた。
「ああ、それは、まあ、ご愁傷様で……」
「えっ!? 今、何か言いましたか!?」
「……いや、何でもない」
テンプレ的な返しをしながらリチャード、イブリの話は続く。
「オッズをみても圧倒的にアポロン・ファミリア有利の情勢です。というかヘスティア・ファミリアに賭けた人が少なからずいるという方が驚きです!!」
「聞いた話じゃ、フレイヤ・ファミリアとか、ロキ・ファミリアとか、ヘルメス・ファミリアとかが賭けたみたいだな」
ヘスティア・ファミリアに賭けたファミリアの全てが
「おお、流石大御所ファミリアと言ったところでしょうか。他の神々たちが『流石に今回は』と敬遠する中、己を曲げぬ超大穴狙い! 博打打ちもここに極まれりと言ったところでしょうか」
「……むしろ死ぬほど堅実とも言える」
真に博打打ちならきっと別の結果になったはずだ。そう思いながらリチャードは答えた。
「さてさて、そんな熱狂に包まれるオラリオですが
「はい! こちらミィシャ・フロットです! こちらでは……」
映像がギルド前の特設ステージから戦士達が控える待機場所へと移動する。そこには戦いに備える戦士達が最後の準備に追われていた。
そんな様子を見て、観客達のボルテージも高まっていく。多くの喧騒に包まれながら、かつてないほどの熱狂と興奮が世界中を渦巻いていく。
時刻は午前11時30分。
*
「ふん、下らん」
『シュリーム平原』に設置された特設待機場で煩わしいギルド員のインタビューを適当に往なしながら、アポロン・ファミリアの団長ヒュアキントスは言った。
本当にまるで下らないお遊戯だ。
たった二人の軍勢に対しファミリア総出での出陣。弱い者いじめと揶揄されても言い訳のしようがない状況だ。
そこまでしてアポロン様はベル・クラネルという冒険者が欲しいというのか。ヒュアキントスにはそれほどの価値がベル・クラネルにあるとは思えなかった。
アポロンが考えている事がヒュアキントスには理解不能だった。
「……こんな無駄な戦い直ぐに終わらしてやる」
明らかに不満一杯の表情でヒュアキントスが呟く。
そんな彼の声が聞こえたのかある女性が声を掛けてくる。
「そんな事いって一人だけ突出して敵の罠に嵌まるなんて事しないでよ? ヒュアキントス」
ヒュアキントスに話しかけてきた短髪の女性──ダフネ・ラウロスはこのファミリアでも上位の実力者、Lv.2の上位冒険者だ。
「……そんな馬鹿な真似すると思うのか?」
不機嫌な顔を隠そうともせずにヒュアキントスは言う。
「どうだか……それで作戦はどうするの?」
「私が先行しベル・クラネルをヤる。幸い観客もそれを望んでいるようだしな」
「あのね、貴方、ついさっき私が言ったこと忘れたの? 私は『一人で突出するな』って言ったのよ」
「ふん、それは罠や伏兵が潜んでいる場合だろう。一斉に指定地点から開始される今回の戦いには関係ないことだ」
ましてや相手は二人。警戒する事すら値しない手合だ。
「それに、足の遅い貴様らにこの私が合わせる義理は無いな」
「……あっそう。じゃあ勝手にすれば」
Lv.4となったヒュアキントスと他の団員の移動速度は隔絶したものがある。
むしろアポロン・ファミリア最強の彼が先行し、殲滅し、占拠した方が効率が良いと言えた。
戦いは数よりも質なのだ。
ヒュアキントスとしては他の有象無象の団員達ですら必要のないものであった。
自分だけいればそれで十分であると言えた。
足手まといの弱者達に合わせてノロノロと進軍する気は少しも無い。
「……それじゃあこっちはこっちで勝手にやらせて貰うよ」
「ああ、好きにしろ。どうせ相手は二人だけなのだ。何があっても我々の勝ちに揺るぎは無い。精々お前は無駄な心配をしているのだな」
用意周到な準備とか、入念な作戦とか、情報伝達方法とか、指揮系統とか、薬品、武器の予備だとか用意するだけ無駄なことだった。
相手は二人。そして正反対の位置に彼等がいる。
それだけ分かっていれば十分だった。
「はいはい。そうしますよ」
手をぷらぷらとさせてダフネはヒュアキントスと別れた。
どうやらダフネの忠告は無駄に終わったようだ。
でも、まあ、ヒュアキントスが負けることなんて万に一つと無いだろうから大丈夫だろう。Lv.4の名と実力は伊達じゃないのだ。
それでも彼女が色々と気を揉んでいる最大の理由は──「ダ、ダフネちゃん! も、もう帰ろう? みんな死んじゃうよ……」──そんな妄言を言う親友がいるためだ。
「はぁ、またそれ? いい加減その妄言止めないと友達無くすわよ? カサンドラ」
「で、でも夢に、夢に見たの……彼女に……白くて赤くて“黒い”冒険者にみんな倒されちゃう」
このところ、カサンドラは寝ても覚めてもそんな事ばかり言う様になってしまった。
カサンドラは“あの冒険者“に倒されたのが恐ろしかったのだろう。まあ、確かに件の冒険者はヒーラーであるカサンドラを執拗に狙っていたのでさもありなんである。
きっと悪夢を見るくらいトラウマになってしまったのだろう。
「はいはい、でも安心しなさい。あの“冒険者”は今回、出れないから怖くないわよー。本当、感謝しなさいよね。本当はオラリオ外のファミリアなら助っ人を認める予定だったのにカサンドラがどうしてもって言うから、アポロン様が気を利かせて他ファミリアの眷属はみんな出れなくしたんだから」
カサンドラ的には全ての助っ人を無しにして欲しかった。
というか一番肝心な部分が穴だらけで完全に無防備だった。
だからほら、待機場所にもある『神の鏡』にばっちし件の冒険者──ルララ・ルラが映っている。
「そ、そんなの全然意味無かったよぅ……」
「何言ってるのよ、カサンドラ。
そのヒュアキントスが瞬殺された光景を間近で見ていた身としては全然信用できなかった。
むしろ何故みんなそんな脳天気でいられるのか不思議でならなかったカサンドラであった。
「そ、そうだ! ねぇ、ほら見てダフネちゃん! この人“あの冒険者”そっくりだよ? きっと本人だよ!! これはもう勝てないよ! 帰ろう!」
カサンドラは最後の手段にして最強の切り札──『神の鏡』に映ったルララの姿──という動かぬ証拠を切り出した。
これだけ露骨な証拠があればきっと皆も納得してくれるはずだ!
「あのね、カサンドラ。確かに“あの冒険者”は小人族だったけどこんな趣味の悪い変な仮面は付けていなかったし服装も全然違うわよ。それに“あの冒険者”は高Lv冒険者。この
「うぅ……なんでそうなるのぉ」
カサンドラは予知夢を見ることが出来る。でも代わりに、その話を誰にも信じて貰えない。
そういったスキルを彼女は持っているのだ。
でも、これは別に彼女の予知夢の話でもなく、動かぬ真実であるはずなのに誰にも信じて貰えなかった。
それもそのはず、このところ
だから団員達は一同にしてこう思ったのだ『ああ、またあいつの妄言が始まった』と。
ああ、可哀想にカサンドラ。恨むべきは彼女の低すぎる信用度だ。
普段から予知夢について話していたのが仇になった。
オオカミ少女は肝心な時に誰にも信用して貰えないのである。
「やだ! やだ! 戦いたくないぃいいいいい」
「そんな事言ってないで行くわよ、カサンドラ。ヒーラーのあんたが行かないで誰が治療すんのよ!」
「いやぁだぁあああああ」
カーン、カーン。
カサンドラの絶叫と共に正午を知らせる予鈴の鐘の音が鳴る。この鐘が鳴ったということはあと五分だ。あと五分で正午となる。
あと五分で
運命の時が近づいてきている。
「さて、ヘスティア……今ならまだ降伏の言葉を聞いてやっても良いが……どうする?」
「今なら泣いて許しを請えば助けてやらなくもないぞ?」
「…………」
「……なるほど、無視か。まあいいさ、どちらにせよ我々が勝利する事には変わりはない。精々つまらぬ意地でも張っているのだな、ヘスティア」
アポロンはその美しく輝く金髪をかき上げながら薄ら笑いを浮かべた。
「どんなに粋がろうが──」
そして──カーン、カーン、カーン、カーン。
「──足掻こうが……」
遂に、運命を知らせるの鐘の音が、戦いの始まりを告げる大鐘の音が世界中に響き渡った。
「──この
流石、アポロン様! 実に優雅です!!