光の戦士がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ウィリアム・スミス
久方ぶりになる
今、人々の間では
そんな注目度No.1であるヘスティア・ファミリアの主神ヘスティアはというと……
現在……
絶賛……
土下座中だった。
*
「頼むッ! この通りだ! 僕に、僕達に君の力を貸してくれ!!」
額を床に擦りつけながら、たった今帰還したばかりである“隣人”にヘスティアは懇願した。
同種である神でも、自身の眷属でも、ましてや他の神の“子”ですらない、神の恩恵さえも授かっていないただの一般人に神が土下座をするというのは前代未聞の行為である。
“隣人”の背後にいた仲間達の顔が驚愕の表情に変化する。“隣人”の顔には特に変化は無い。
「もう僕達には頼れる人は君しかいないんだ! お願いだ、僕達を助けてくれ!」
神が人に助けを乞う──これは本来であれば有るはずのない……いや、有ってはならない事であった。
人と神との関係を覆しかねない、とんでもない行為であった。
ヘスティアの後ろに控えているベル・クラネルが悔しそうな顔を浮かべる。
「自分勝手で都合の良い事だっていうのは重々承知の上だ!」
そうだ、これは──
それを自らの我儘を押し通すために彼女を巻き込もうとしている。最悪糾弾されても文句は言えないだろう。
「君には散々お世話になった! 武器も防具も薬品だって全部君に作って貰った!」
貧しいながらもヘスティア・ファミリアがこれまでやって来れたのは“隣人”の助けがあったからだ。
彼女の武器は恐ろしい程切れ味があった。
彼女の防具は驚くべき程護りが硬かった。
彼女の薬品は信じられない程効果があった。
それらが無かったら今頃どうなっていただろうか……。
「その上、
そう、
今のヘスティア・ファミリアの惨状は、住む家すらも他人の世話にならなくてはならない程に追い詰められていた。
決して大きいとは言えない自宅に、穀潰しが二人も増えて“隣人”の負担は相当なものだろう。
「君の好意に甘えてばかりいる僕達が、その上こんな事を頼むだなんて虫の良すぎる話だっていうのは理解しているッ!!」
“隣人”から貰った借りは数知れず、返した借りは一つもない。
しかも更にここに来て、かつて無い程特大の借りを作ろうとしている。
恥知らずの痴れ者め、と罵られても否定しようが無かった。
「おまけに僕達には碌な財産が無いッ! 君にあげられる報酬は何も無いッ!!」
ヘスティア・ファミリアは貧乏だ。いっそ清々しい程に何も持って無かった。
こつこつと貯めた僅かな財産は
「それでも……それでも、僕達はなんとしてでも勝たなくちゃならないんだ!」
例え、『唯一の眷属』に醜態を晒そうとも……。
例え、『他の神の“子”』に失態を目撃されようとも……。
例え、『ただのヒト』に頭を下げようとも……。
それで少しでも勝ち目が上がるなら、万に一つでも、億に一つでも、兆でも京でも、例え那由多の彼方でも勝率が上がるならヘスティアは構わなかった。
その程度で勝ち目が見えるならこんな頭幾らでも下げる所存だった。
「お願いだ! 僕はどうなっても構わない!」
ようやく見つけた大切な眷属のささやかで儚い夢を、ここで終わりにしてしまう訳にはいかなかった。
僅かに灯った夢の灯火をこんな所で消してしまう訳にはいかなかった。
「僕達の……
(僕が出来る事は──
──これくらいしかないから)
……君も参加してくれ!」
更に額を床に押し付けてヘスティアは言った。
それは神としての言葉ではなく、ファミリアの代表としての言葉でもなく、何者でもないただの“愛する者がいる女性”としての言葉だった。
ヘスティアの心からの懇願に対し“隣人”──ルララ・ルラは……
華麗なジャンプをして
──その動きに淀みはなく
膝を折り曲げると
──その動きに迷いはなく
空中で姿勢を正し
──その動きはまさに芸術であり
そのまま着地すると
──その動きは華麗だった
腰を折って額を床に押し付けた
──それはまさに土下座だった。
ヘスティアの誠心誠意を込めた必死の土下座に対し、ルララは最大級の敬意を払いララフェル族伝統の土下座で応えた。
これ以上にこの場に相応しい返答は他に存在しないだろう。
両者の間にもはや言葉は不要だった。
神と人、種族や身分を超えた友情が確かにここに結ばれていた。
自然にどちらからという訳でもなく両名は抱き合った。
ヘスティアは結ばれた盟約を確かめるかのように小さな冒険者を強く、強く抱きしめた。
その時、心なしか“隣人”の顔がヘスティアの、そのたわわに実った胸に迷うこと無く向かっていた様な気がしたがきっと気のせいだろう。
何はともあれ、こうしてルララ・ルラの
*
ヘスティアが藁をも掴む思いでルララに懇願したのには当然理由がある。
当初はヘスティアも己のファミリアだけでなんとかしようとしていた。何もかも他人に頼るほどにはまだ落ちぶれていないつもりだった。
その程度のプライドを気にするほどにはまだまだ精神的余裕があったとも言える。
だが、そんなみみっちいプライドすら気にしていられないほどの事態が起きたのだ。
それはヘスティアがルララに土下座した日の午前中、
*
「……一対一、一対一だ。今回の
そんな
神々は今その会議の真っ最中というわけだ。
基本的に
あくまで公平、公正。出来るだけ戦力の差が出ないようにするのが通例だ。
でなければ今回のような弱小ファミリア対強豪ファミリアの
そんな事、地上生活を娯楽と捉える神々には容認しがたい事だ。
だが、所詮それも
世の中いくら公平にしようとしても、圧倒的に戦力差があり、派閥勢力にも尋常で無い差がある場合、どちらか一方の意見が優先される。
「他の
ヘスティアの明瞭な声が会場に響く。
一騎打ちの決闘──圧倒的に戦力の劣る『ヘスティア・ファミリア』に勝ち目があるとしたら“コレ”以外に無い。
事実、見るに耐えない程に力の差が存在するこの戦いを、なんとか見るに耐えうる戦いにするには、ヘスティアの提案した形式以外に無いだろう。
「……まぁ、それしか無いか」「ああ、私も賛成だ」
ヘスティアの声に合わせ、幾つかの神が同意の声をあげる。だがその声はあまり大きいとは言えなかった。
精々ヘスティアと親交のある神々が僅かに声を上げただけ。それ以外の神々は皆押し黙っている。他に積極的にヘスティアを援護する神はいないようだ。
あまりにも冷たい沈黙が周囲に流れる。
そんな中賛同を得られずにいたヘスティアに追い打ちをかけるようにアポロンが反撃に出た。
「……ヘスティア、君のファミリアの構成員が少ないのは君の怠慢に他ならない。君が
尋問する様にアポロンが問い詰める。
ヘスティアに
「君がもっと本気を出していればこんな
確かに
本気を出せばもう一人、二人眷属を増やして、眷属一人居なくなったらもうお先真っ暗なんて事態を回避することは簡単だった。
でもそれをしなかった。ヘスティアの自分勝手で
ベル・クラネルと二人きり──このシチュエーションを維持したいと言う自分の欲望を優先した結果が今の有り様だ。
結局のところヘスティア・ファミリアの現状はヘスティア自身が招いた“自業自得”であると言えた。
「…………ぐっ」
図星を突かれて何も反論できないでいるヘスティア。
「……そんな君の
氷の様に冷たい声でアポロンが締めくくる。
「それもそうだな」「うむ、確かに一理ある」「アポロンの意見に一票!」
アポロンの言葉に口々と神々が同調する。
さっきまでだんまりを決め込んでいた神々がここぞとばかりに口を開いていく。
「やっぱ
結局のところ、彼等は面白ければ何でも良いのである。
彼等は面白そうな事の味方で、つまらなさそうな事の敵だ。
Lv.1の冒険者の地味な決闘と、ファミリアの総力を結集した派手でドンパチな戦い……どちらが面白そうかなんて明白だった。
自分勝手で自由奔放に生きる不死身の
『勝手気まま』──これこそが彼等の本質なのだから。
所詮、彼等にとって“今回の遊戯”はどこまで行っても他人事でしか無く、結果がどう転がろうと面白ければそれで問題無いのだ。
彼等は自分以外の誰かがどうなろうが知ったこっちゃ無かった。自分さえ楽しめればそれで万事オッケーだった。
刹那的に生き、己の快楽を最優先する生き方は、まさに“神らしい”生き方と言えた。
これこそが“神”、それでこそ“神”と胸を張って彼等も言うだろう。
それに付き合わされる眷属達の方は堪ったものじゃないだろうが、それはある意味
つまり、眷属達は
だからこそ神々を咎める者は何処にも存在しない……当然だ。だって相手は『神』なのだ。反抗するだけ無駄というものだ。
「んじゃ今回の
全くやる気のない声で神々が会議を踊らせる。
まあそれも仕方のない事だろう。
実のところ今回の
そりゃそうだ。
この
アポロン・ファミリアの勝利──これで確定だ。
結局のところこの会議はただのお膳立てに過ぎす、後はどう落とし所を見つけるかでしかなかった。そんな期待も興奮も無い議論が白熱しないのも当然であった。
これで実はアポロンがヘスティアを手籠めにするための壮大な前振りであったとか、件の冒険者が実はとんでもないレアスキルを保持していたとかならまだ興奮しようもあるのだが、そんな事あるはずも無く、ただだらだらと時間を浪費するだけであった。
この
ヘスティアの神友であるヘファイストスですらそう思ったのだから、もはやヘスティアの抵抗は悪足掻き以外の何者でも無かった。
退屈過ぎるこの時間を一刻も早く終わらせるために、無言の圧力がヘスティアに集中する。
孤立無援な状態に追い込まれるヘスティア。
こんな絶体絶命の危機に、助け舟を出してくれる友好的ファミリアを作ってこなかったのも彼女自身が招いた事態だ。
それでもなんとか反論しようと、顔を上げ、口を開こうとするヘスティア。
「でも……」
「だがッ──!!」
しかし、ヘスティアの言葉に被せる様に再びアポロンが口を開いた。
出鼻を挫かれたヘスティアを片手で制しながらアポロンが続ける。その仕草はどこまでも優雅で、どこまでも憎たらしかった。
「──だが、君の言い分も分からないでもない。一方的な
「……じゃあどうするって言うんだい」
困惑しながらもヘスティアは問う。
「ヘスティア、この
それは? アポロンの言葉に興味を取り戻した神々が身を乗り出して繰り返す。
「──くじ引きで決めようじゃないか!」
*
アポロンの提案に、だらけきっていた
もしかしたら『僕が考えた最強の戦闘形式』が採用されるかもしれない──その事実に神々は熱狂した。
いわゆる、これぞ本当の“神”頼みというやつだ。
圧倒的戦力差のあるファミリア同士が如何に公平に戦うか──これを各々が考え投票する。
まさに両者の運命は“神”のみぞ知る、だ。
「おーっし、じゃあみんなこの箱に投票していってくれ!!」
用意の良い神により、あっという間にくじ引きの準備は完了した。
(これが最後のチャンス……お願いだ! 頼むぞ、僕の運命力!!)
当然ヘスティアも『一騎打ち』とでかでかと書いて懇願する様に投票した。神である彼女が一体誰に祈ったのか知るすべはない。
「くじを引くのは僕にも、君にも息のかかっていない者にしようじゃないか……そうだな
「同意しよう、ヘスティア。ならば、考えられるのは
初めて両者の意見が一致した瞬間だった。
二柱の視線がある女神に集中する。
そして両者は同時にその女神の名を呼んだ。
「「フレイヤ!!」」
ヘスティアとアポロン双方の要請に、この
確かに、この中で唯一絶対に中立と言えるのは『最強』の彼女以外に考えられない。
彼女ほど、この
誰しもが納得の行く
それに答える様に、会議の初期から全く喋らず悠然と佇んでいた銀色の女神が初めて口を開いた。
「……良いでしょう」
小さく、だがとても透き通った美しい声でフレイヤは短く答えた。
それを神々は拍手をもって歓迎する。
「……では僭越ながら
少し芝居がかった物言いでフレイヤがそう言う。
彼女は静かに立ち上がると、ゆっくりと箱の前に移動し始める。
「……このくじ引きは数多の神々が見守る中、執り行われる神聖なもの……」
まるで歌うように、語るように、フレイヤが
「……例えどんな結果になろうとも、何者にも抗う事は許されず、何者にも否定する事は出来ない」
そう、それが例え『神』であろうとも、我が“名”と“子“に誓って容認しない──そう最後に締めくくり渦中の二柱に目を配らせる。
「よろしいかしら? お二方?」
「ああ、勿論だとも!」「……異存は、無いッ!」
「……そう、それじゃあ……」
フレイヤのその細くて、美しく、穢れ無い白魚の様な手が、そっと箱の中に入れられる。その様子を、固唾を呑んで見守る神々。
暫しの静寂の後、フレイヤはゆっくりと一枚の羊皮紙を箱の中から取り出した。
そして、その紙に書かれた内容を確認すると……フレイヤは舌をぺろっと出して、テヘっといった感じの表情を浮かべた。
「ごめんなさいね、ヘスティア……」
そう言いながらフレイヤは他の神々にも見えるように高々と羊皮紙を公開した。
多くの神々が興奮した声をあげ、アポロンが勝利を確信し、ヘスティアの顔が絶望へと変わる。
フレイヤの手に持つ羊皮紙には、短いながらも堂々とした文字で確かにこう書かれていた。
『殲 滅 戦』
*
(終わった……何もかも……おしまいだ……)
公開された無慈悲な三文字にヘスティアは絶望した。
何度も何度も確認しても『殲滅戦』の三文字に変化は無い。
問答無用で押し付けられる理不尽な現実に、もはや何もかもを諦めて現実逃避に走る。
ヘスティアの輝ける瞳からハイライトがみるみるうちに消えていく。
(うふふ、ああ、楽しかったなぁ、あの頃は……)
ヘスティアの脳裏に、愛するベル・クラネルと共に過ごした日々が走馬灯のように過ぎ去っていく。
たった二ヶ月程の期間だったけど本当に楽しくて充実した日々であった。
「ハハ……ハハハハ……」
涙目になりながら乾いた笑いを浮かべるヘスティア。
もはや真っ白に燃え尽きたヘスティアに声を掛ける神は誰もいない。
流石に悲惨すぎて掛ける言葉も無いのだ。
お気楽で脳天気で無責任に煽り立てるだけだった神々も、今回ばかりはヘスティアに同情した。だが今更変更は不可能である。慈悲はない。
殲滅戦──文字通り相手か自分の眷属が一人残らず殲滅されるまで続けられる戦闘形式。
たった一人しか眷属のいないヘスティア・ファミリアにとって、最低最悪の戦闘形式であった。
「ねえ、アポロン。流石にこれは酷すぎではないかしら?」
見るに見かねたヘファイストスがアポロンに言う。
これが『攻城戦』や『フラッグ戦』などの一発逆転が可能な戦闘形式であったなら静観する構えであったが、よりにもよって『殲滅戦』である。彼女の友神として動かない訳にはいかなかった。
「う、うむ……だがしかし決定は決定だ。神聖な儀式をやり直す……なんて事は出来ないだろう」
この結果には色々と策を弄してきたアポロンも口を濁らせる。
この
せめてもの慈悲として、ヘスティアにも勝てる可能性が芽生えるかもしれない『くじ引き』なんてものをやってみたのが、これが功を奏したと言えば良いのか、はたまた裏目に出たと言えば良いのかなんとも言えなかった。
どうやらヘスティアは相当『勝利の女神』に嫌われていたらしい。彼女達の仲がそんなに悪いとは衝撃の事実だ。全くもって現実は非情である。
これには対戦相手であるはずのアポロンですら少しヘスティアに同情してしまった。もっともそれでベル・クラネルに対する情熱が衰えるなんて事は無いが。
「ええ、それは私も異論は無いわ。でもこれはヘスティアがあまりにも気の毒よ。どうか彼女に
あくまでも戦闘形式は変えずに、何かしらヘスティアに有利になるようなルールを付け足そうと言うのだ。
ヘファイストスの提案にアポロンは少し思案して言う。
「確かにこのまま勝っても勝利の美酒に酔いしれることは出来ないだろう。それではあまりにも美しくない……良いだろう! して、その“チャンス”とやらは何だね?」
圧倒的有利な立場に置かれているアポロンはヘファイストスの要求を飲み、提案を聞いた。
「助っ人よ……殲滅戦に助っ人制度を設けるのはどうかしら?」
「ふむ……なるほど……確かに悪い考えではない……」
ヘファイストスの提案を聞きアポロンは考える。
彼女の提案は他のファミリアから協力者を募り助っ人として
そして、それ以上にアポロンには他のファミリアの協力を認められない、認めてはいけない事情があった。
実はアポロン・ファミリア、今回の
「……だが、
ヘスティア・ファミリアを追い込むために連日仕掛けた襲撃は『神の宴』から暫く経った後ではなくて、当日から開始されていた。
そしてその襲撃は見事なまでに空振りしていて、全く関係のない冒険者の家を延々と襲撃し続けていたのだ。
勘違いで襲われた冒険者は恐らく都市外のファミリアに所属する冒険者(なんせ誰も顔を見たことが無かったのだ)で、まず間違いなく第一級クラスの力を持っていた。
意気揚々と襲撃に出かけたアポロン・ファミリアのエース『ヒュアキントス』が、ものの数秒でボコボコになって返り討ちになる位には強かった。
そしてそんな不幸な勘違いは、アポロン・ファミリアの人員半数以上が戦闘不能になるまで続いた。
最終的にあれ、もしかして俺達間違えてね? と誰かが言い出して事なきを得たが、その頃には百十数名いた団員が再起不能で辞め104名までその数を減らしていた。
『だから私が散々注意をしたのにッ!!』とアポロン・ファミリアでも数少ないLv.2のヒーラーちゃんが憤慨していたが、彼女は普段から妄言が絶えない子なので誰も信用していなかった(むしろ彼女のせいで気付くのが遅れた様な気もする)。
そんな事があったので、件の冒険者に恨みを買っているのは容易に想像できた。
最後の方なんてまるで勝ち目が無いので、彼女の自宅を荒らしたり家具を勝手に移動(何故か持ち出すことは出来なかった)させたりする地味な嫌がらせを繰り返していただけだが確実に恨みは積み重なっていたはずだ。
他派閥冒険者の助っ人制度なんて許した日にはこの冒険者がしゃしゃり出てきて何もかも台無しにしてしまう可能性が大だ。
散々痛めつけられてトラウマを植え付けられた団員達に、それだけは絶対に避けてくれ、と懇願されては流石のアポロンもそうするほか道は無かった。
「だったら!!
さっきまで真っ白に燃え尽きていたヘスティアがいつの間にか元気を取り戻し叫ぶ様に言った。
「……確かにどこのファミリアにも入っていない者なら問題無いだろうが、それを認めると極論ではあるが都市の一般市民全員が参加可能になってしまう。それではあまりにも規模が大きくなり混乱を招きかねない。もし一般市民から助っ人を募るとしたら、そうだな……一人までとしようか」
何だか眷属の一人に『絶対ヘスティア様に助っ人冒険者を利用させては駄目ですからねッ!? 絶対、駄目ですからねッ!!』と泣きながら言われたような気がするが、無所属冒険者に限定すれば問題無いだろうと高を括ってアポロンはヘスティアの要求を飲んだ。
むしろ、ちゃっかり人数を一名に制限したのでナイスプレイと褒めて欲しいくらいだ。
今更Lv.1でも無いただの冒険者が一人増えた所で何ができようか。
そんなヤツ探して連れて来るよりも、素直に眷属を増やす努力をした方が何倍もマシだ。
アポロンの言う助っ人制度は有っても無くても変わらない無意味な制度だった。
それじゃあ何も意味が無いじゃないとヘファイストスが反論しようと口を開いたが、ヘスティアの「ああ、それで良いさ! それで僕は構わない!」という同意の言葉にそれ以上は何も言えなかった。
(ちょっとヘスティア、貴方、正気なのッ!?
(……大丈夫だ、ヘファイストス! 僕にイイ考えがある!)
(いや、それって一番駄目なフラグ……)
ヘスティアとヘファイストスがひそひそ話を始める中、それを無視してアポロンが宣言する。
「それでは一週間後……一週間後だ。
謎の冒険者に傷めつけられた団員の回復はまだ万全ではない。
最低でも後三日、準備なども考えれば一週間は時間が必要だった。
何だかんだ言ってアポロン・ファミリアも随分余裕そうに見えたが、その実、結構薄氷の戦いだったのだ。
主要メンバーは軒並みベッド中で療養中だし、薬品の消費も半端じゃなかった。
これで一対一で明日決闘だ! なんて事になっていたらアポロン・ファミリアもLv.1のペーペー冒険者を出すはめになっていたかもしれない。
そして準備期間が長いのはヘスティアにとっても好都合だった。
「ああ、良いだろう!!」
アポロンの宣言にヘスティアがそう答えて今回の
結局、今日の
ヘスティア・ファミリア対アポロン・ファミリアの
参加人数はヘスティア・ファミリア1名(+1名)に対し、アポロン・ファミリア104名。
戦闘方式は全員参加の殲滅戦。
果たして『勝利の女神』が微笑むのはどちらになるのか。
それは“神”ですらも知らない。
全ては一週間後に明らかになる。
取り敢えずヘスティアはもう『勝利の女神』の事は信用しないで、信用に足る“隣人”に頼ることに心を決めた。
カサンドラさん「あれだけ注意していたのに主神が助っ人を容認した件について」