ぐだぐだあーと・オンライン 作:おき太引けなかった負け組
アスナ「宿屋に!」
おき太「泊まるとか!」
ノッブ「甘えじゃ!」
キリト「ア、ハイ」
信長がその本性を見せ、凍りついた攻略会議。
もし、仮に自分がベータテスターだ、と言って情報を話したとして、害されないとわかっていたとしても、それを明かすものは現れなかった。
まあ、無理も無い。
たとえ、安全を保証すると言われたとしても怖いものは怖い。
それに、アレは脅しのようなものだろう。
その苛烈な信長の様子を見てもそう思うものもいた。
まあ、現実逃避に近いかたちではあるが。
実際、普段から信長に付き従う沖田は間違いなく彼女は斬るだろうな、と確信していたが、それを心の底から理解できるものは沖田と脅されたであろう、某情報屋以外は存在しなかったのだから。
そして、信長は広場を見渡し、出てくるものが居ないか(彼女自身は出てくるものは現れないだろうなと確信していたが)、これ以上待っても埒が明かないと、信長は言った。
「どうやら、ベータテスターはおらんようじゃな……」
まあ、いないわけがないので、それは居ないということにしておけという、信長からの暗黙の脅しではあったが、そのようにして、その場は収まった。
そして、信長は次の議題を告げる。
それは一部のプレイヤー達に取っての地獄。
すなわち――――。
「では、先ほどの禍根は忘れて攻略のためにパーティを組んでくれ。レイドの関係上5、6人ほどでな」
それを受けて、焦る数人のプレイヤー達。
ほとんどの者達はもともとパーティを組んでいたが、そんな中にも6人に満たない、少数で組む者たちや、ソロプレイヤーも居た。
だが、そんな少数のパーティたちも、同じく少数のパーティの者達と組んでいき、その枠は次第に埋まっていく。
そして、最終的には数分足らずで、7組の6人パーティが出来上がっていた。
そんな様子を満足気に眺める信長。
彼女自身は自分が動かずとも攻略が進む、その状況を求めていたからだ。
また、彼女の能力は先程の演説だけでなく、実務面でも優秀だ。
現実世界においてもそう言った人事はある程度こなしているし、そう言ったことには慣れている。
そして、そのメンバーを見聞し最小限の人数を入れ替えることでバランスの整った、目的別のパーティに仕上げていった。
しかし、そんな中にもあぶれるものというものは居るようで、先ほど矢面に立ったキバオウでさえもパーティを組んでいるというのに、そこには取り残された二人の人間が居た。
一人は黒い服に包まれた、ともすれば少女にすら見えるような少年。
一人はフード付きのローブを被ったレイピア使い。
顔は隠しているが多分髪の長さから女。
その二人だった。
「……どうやらお主ら、あぶれたようじゃの」
それを見て、可哀想な目で見る信長。
その表情は彼女にしては珍しく慈愛に満ちており、聖女のようだった。
だが、それを受けてローブの女は反論する。
「あ、あぶれてなんか無いわよ!ただ、周りが皆お友達だったみたいだから遠慮しただけ!」
そう、述べた。
その声は甲高く、様子を見てとるにどうやら妙齢の女性というよりは少女に近いのだろう。
そんな、僅かな邂逅だけで信長はそう判断した。
「それをあぶれたと言うんじゃがな……。まあよい。もともと、わしとオキタは余ったグループに入る予定じゃったからの。見た感じそなたらは普段ソロで行動しておるのじゃろう?わしらもコンビとはいえど基本的な動き方はソロに近い。故に、遊撃手として様々な班の連携やサポートを取る、といった風になる予定じゃ」
そう、簡単に作戦を告げる。
そして、それを受けてパッと見ただけでそんなことまで分かるのか、と黒服の少年は感心する。
「なに、人を見ることには長けておるからのぅ。勘に近いがまあ外れてるわけではあるまい?」
和気藹々と信長はそう言う。
そして、和やかにチーム作りは終わるはずだった。
その次の瞬間までは。
信長は不意にその黒服の少年の耳元に顔を近づけ、囁く。
「そうじゃろ?ベータテスター殿」、と。
戦慄する黒服の少年。
何か言おうとするが、硬直していたわずかの間に信長は去ってしまっていた。
何かあったの?、とローブの少女は固まる黒服の少年を見る。
どうやら周りには聞こえていなかったらしい。
なんでもないと、少年はごまかす。
また、会話を遮るように少年が目線を反らすと他のパーティと作戦について話す信長と目が合った。
そして、黒服の少年の脳裏から、その信長のニヤリと笑う表情が離れることはなかった。
ある程度、攻略方法について話し終え、ドロップアイテムの配分についても、
「さて、攻略に移りたいところなんじゃが、いきなりと言っても問題があるじゃろう?普段組んでおらぬ、メンバーと組むものもおるし、そう言った人間と慣れることも必要になるじゃろう」
そういって前置きを話す。
まだ、昼の13時ではあるが会議に来ただけで、準備はしておらず今すぐは無理なプレイヤーも多い。
だから、と、信長はそれを述べた。
「まあ、今までわしもオキタもほとんど飯も食っておらんし、あまり十分な睡眠を取ったわけでもない。だから、ちょっと休みたい、というのが本音ではあるのじゃが、明日の朝9時にここに集合して、簡単なディベートを行った後、攻略を開始することにしたいと思っておる」
そう言って、ジョークも交えながら信長は言った。
無論、反論などあるわけもない。
ここまで攻略するのにその精神を削ってまでしてきた立役者である。
そんな意見を言えるはずもないし、それに、明日までの時間を使ってそのパーティでの簡単な動作確認も出来る。
故に、皆、納得した表情で頷く。
「では、これで質問がなければ終わりにしたいと思う。何か皆の前で聞いておきたいことはあるか?」
そうして信長は会議を締めくくろうとするがそこで、一人の男が挙手した。
「発言いいか?」
張りのあるバリトンボイスが昼下がりの広場に響き渡る。
辺りの者はその姿を一斉に見た。
「なんじゃ?」
その声に信長は問う。
発言した男は大きく、身長は190はあるだろうか。
筋骨隆々で肌の色は黒く、また、その顔立ちは彫りが深い。
頭はスキンヘッドであり、人種からして、日本人ではないと、皆が理解できる風貌だった。
「俺の名前はエギルという。一つだけ聞きたいことがある」
そして、エギルと名乗る男は自己紹介もほどほどに質問に移った。
「先程、君達の技量をPvPでみせて貰って気になったんだが、この攻略会議を開かなくても、まして、人を集めなくともその腕前ならクリア出来たのではないか?」
そう、エギルは問うた。
まあ、もっともな質問である。
たった二人ながらボスとの偵察戦をこなし、またここまで最前線も最前線で戦ってきたプレイヤー。
こんな風に人を集めなくともクリア出来たのではないか?と疑問に思うのも仕方のないことだった。
そして、それを聞いて周りの者達も疑問を抱く。
信長は内心、コイツ厄介じゃな、と警戒の意をそっと心のなかに隠した。
「確かにそうじゃな。クリア出来たかもしれん」
しかし、その内心に反して、信長はその疑問に素直に応える。
それを聞きざわめく、周りの者達。
クリアできない、と言うのならば協力することに異議はないが、出来るというのであれば話はまた違ってくる。
故に、その理由を知りたいと思うのは当然のことだった。
「まあ、言ってしまえば流石に無理が出てきたから、ということじゃな。先程も説明したようにわしらは無理に無理を重ねてここまでやってきた。まだ、このプレイスタイルでやっていくことは出来るとは思うんじゃがそれでもどこかで歪みが生じることはあろう。故に今後のためにそなたらを巻き込んだ。そういうことじゃな」
そして、信長はその質問に懇切丁寧に答える。
恐らくその本音を隠して。
しかし、それに気づけるものはその無理を通してきた沖田しか居ないだろう。
最後までこのプレイスタイルで保つだろうと確信している沖田しか。
尚も信長は続ける。
「こうして、わしらはトップを走り続けてきたわけじゃが、もし仮にわしらが倒れてしまった時、そこに残されるのは今までボスを一度も倒していない、プレイヤー達。そんな状況、わしらが無理心中に巻き込むようなものじゃ。だから、わしらの責務として、比較的安全に攻略できるであろう今だからこそ、その経験を積んでもらいたい。そう考えたわけじゃ」
そこに矛盾はない。
集まったプレイヤー達はその意見に同意し、そこまで自分たちのことを考えてくれていたのか、と感激するものも居る。
また、この中に数人潜んでいるベータテスターやLAボーナス(ボスモンスターに最後に攻撃したものに与えられるアイテム)の情報を得て知っている者達は、それを手に入れる機会を得たとばかりにほくそ笑む。
そして、そんなチャンスを不意にする彼女らは、やはりベータテスターではないのだと確信する。
まあ、実際、LAボーナスについては信長は知って居るのだが、そんなものは、この真の目的に比べればどうでもよい。
『善意の第三者』として、攻略に携わり続けるという目的のためには。
ベータテスターと思われることもなく、攻略に尽力したものとして確固たる地位を築く。
それが、信長の目的だった。
そうすれば戦場をコントロールし、出来る限り死者は減らすことが出来るし、そういったものがベータテスターを擁護することで迅速に攻略を進められる。
そう、信長は考えていた。
また、それは沖田と二人で攻略を続けるよりも概算は高い、そう踏んだだけのこと。
そして、それはもう既に九分九厘、完了している。
後は犠牲を出すことなくクリアするだけ。
それについてもうまくいくと言う自信があった。
また、キバオウという乱入者が思いのほか役に立ってくれた。
信長は高らかに心のなかで勝利宣言をする。
このために一週間という時を使ったのだ。
『勝兵は先ず勝ちて然る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて然る後に勝ちを求む』。
孫子の兵法の一節であるが彼女はその通りに準備を重ね実行したのだ。
故にそれが上手くいったことでほくそ笑むのも仕方ないだろう。
しかし、エギルはそんな信長の様子を疑問に思っていた。
先ほどのような苛烈さを持つものが、果たしてそんな善良な理由で動くだろうか、と。
だが、戦は決している。
そのロジックは一分の隙もなく、突くことは出来ない。
また、その牙城を崩すために、エギルが偶然手に入れた情報であるLAボーナスについて聞き、揺さぶりをかけたところで、それを口にすれば恐らく、というかほぼ確実にアイテムを巡っての争いが勃発し攻略に甚大な被害をもたらすであろう。
そんな何も出来ない自分を思ってか、エギルの内心は苦いものだった。
(……完敗だな。先ほど彼女は情報屋やベータテスターに攻略情報を聞いたと言っていた。その方法については話さなかったが恐らく褒められるようなことではないだろう。しかし、それを公に晒すことは出来ない。彼女が何を企んでいるのかは知らないが、それが悪いことではないことを願うほかないな)
そして、エギルは参ったという意思を込めながら「質問に答えてくれてありがとう。これで『安心して』戦える」、と言った。
それを聞き信長はエギルだけに分かるように、フフンと嗤う。
そう言った心理戦を行える相手がいる。
思いの外、そういうことも知れたのでで信長は会議に十分に満足していた。
才あるものは敵を、戦うに値する者を求めるのである。
まだまだ、このゲームは自分を退屈させないな、と心の内で期待しながら会議の終了を宣言する。
「うむ、他には質問はないな?では、これにて、会議を終了する。あと、わしはこの広場近く、そこの建物に宿をとる予定じゃ。何か、疑問ができればその都度聞きに来てくれて構わない。まあ、流石に深夜に聞きに来たら追い出すがの。では、解散」
そうして、一時は殺伐としながらも和やかに会議は終わった。
エギルの見せ場。
まあ原作と違ってベータテスターを擁護しなかったからね。
こういう感じになった。
そしてようやくキリト君出せた……
しかしディアベル君どこ行ったんだろうね?
本当に空気だ……