ぐだぐだあーと・オンライン   作:おき太引けなかった負け組

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前回のあらすじ
ノッブ「病室で暇しとるじゃろうからプレゼントじゃ!」

おき太「はいはい。ツンデレ乙です。一緒に遊びたいなら素直に言えばいいのに」

ノッブ「ツンデレではないわ!」

以下殴り合い。


ぐだぐだデスゲーム

―――――沖田総司。

 彼女は剣術道場である家に生まれた。

 その名から推測できるように、かの新選組一番隊隊長、『沖田総司』を輩出した、沖田家の人間である。

 ちなみにこの『総司』は雅号のようなものであり、先祖の名誉を称えるため、一族の長子に付けられている。

 正直、女の子につけるような名前ではないが彼女自身は気に入っているのであまり気にしていない。

 そしてその、『沖田総司』の才能を最も受け継いだと言われ、世が世なら剣豪として名をはせていたであろうとすら言われていた。

 その才は『沖田総司』が使ったとされる、『三段突き』すら再現でき、同世代どころかただのひとりとして万全の状態の彼女を打ち負かすことが出来た者はいなかった。

 だが、受け継いだのは良い才能だけではなかった。

 彼女は『沖田総司』の病弱な部分も受け継いでしまっていたのだ。

 そのため、よく体調を崩し、ひどい時には入院することもあり、また、スタミナもあまりないため一日に何度も試合を行う大会などではあまり良い結果が残せていない。

 それでも全国大会には何度か出場するなどしているが彼女の才を見ればそれ以上を期待してしまい、良い結果に見えないのもしかたのないことだろう。

 故に、不世出の天才として親族から惜しまれる存在であった。

 そして、そんな彼女は一人、ゲームの中でさまよっていた。

 

「信長さんどこですかー。というか、アバター作れるのに見た目で分かるんですかね?」

 

 そう、この『ソードアート・オンライン(SAO)』と言うゲームはアバターを自由に変えられるため、たとえリアルで知り合いであろうとも見た目から分かるわけがない。

 また、プレイヤーネームも自由に決められるので名前でも判断することは出来ないだろう。

 そんなわけで沖田は始まりの街で友人である信長を探しているというわけだ。

 

「絶対、信長さんアバター作りこむタイプですよねえ……。待ってるってこの街、結構広いですしどこに居るんですか……」

 

 しかし、そう言う、彼女の姿は現実世界と違いがなかった。

 スキャンした姿そのままである。

 リアルバレする危険性があったりしてあまり推奨されていない行為ではあるが、そんなことは彼女は気にしていなかった。

 斬り合いに見た目は関係ない。

 それが彼女の持論であるため、斬り合いだけが目的なのにアバターを作るなんてそんな面倒なことをしていられない。

 もともとやりたいこと以外はしない面倒くさがり屋の性格もあって彼女はアバターを一切弄らなかった。

 まあ、彼女の見た目は結構な、というか普通に暮らしている人間にはお目にかかれないような美人であるので、()()()()()()()()周りからは頑張って作ったアバターなのだと思われているのは幸運だっただろう。

 ネカマか何かだな、と、そう周りの人には思われていた。

 そんなこともつゆ知らず、町中を歩く沖田。

 そうして町中を歩くこと数十分、探すのが面倒になったため、彼女は友人を探すことを諦め、目立つところ、噴水のある広場に向かうことにしたのだった。

 

 

 

 

 所変わって、沖田が目指している広場。

 そこに苛立ちながら立っている背の高い男がいた。

 

「……遅い!」

 

 どうやら誰かと待ち合わせをしているようだった。

 その風貌は勇ましく、口元にはヒゲを生やしている。

 いわゆるカイゼル髭を少し短く、細くした感じで顎が細くシャープな男によく似合っていた。

 はたから見ればかっこ良く、また、渋いというような感じではあるが、男から漂う雰囲気がそれを打ち消す。

 「あれが魔王だ」、そう言われれば納得するような禍々しい男だった。

 『彼女』の名前は織田信長。

 その姿を見て『彼女』というのはおかしいが、仕方のないことだった。

 『彼女』は現実世界においては女である。

 現実では小柄で小さい、ともすれば可愛らしいと言われるような少女であるが、彼女自身は自らの先祖である、戦国武将『織田信長』のことを尊敬しており、自分のイメージする『織田信長』を忠実に再現したアバターがこの姿なのだ。

 まあ、戦国時代の武将の身長はあまり高くないとされているが身長を結構高く作ったのは現実世界でのコンプレックスもあるのだろう。

 そんなわけで、大柄の猛々しい男は苛立ちながら友人が来るのを待っていた。

 

「何をしておるのじゃ……。直ぐログインしろ、といったであろうに……」

 

 ぶつぶつとつぶやきながら苛立つ信長。

 待ち続けてもうすぐ一時間になるだろう。

 そして、もう待つのをやめて先に行ってやろうかとした時、その視界に見たことのある姿が目に写った。

 桃色の髪、いや少し薄いので桜色と言ったほうがいいだろうか、そんな髪の少女が現れる。

 その姿を見るやいなや、信長は彼女の元に動き出す。

 

「来るのが遅いぞ!何をしておった!」

 

 彼女に怒り心頭と言った様子で話しかける。

 

「あ、えっと、信長さんですか?」

 

 いきなり見知らぬ、大柄の男に話しかけられたことで戸惑う沖田。

 そして彼女はチラリとプレイヤーネームを見る。

 そこには『TENMA』と書かれていた。

 

(……第六天魔王からとったんですかね?信長さんの趣味は知ってますけど、どうなんでしょう、これ)

 

 そんなことを考えながらひょうひょうとしている。

 普通そんな男に話しかけられると戸惑いそうなものだが、実家で道場を開いている彼女はそう言った人間と接する機会も多いので彼女はそう言った対応には慣れていた。

 

「そうじゃ!そんなことより何しておった!早く来るように言ったはずであるが!もう後、数分来なければ先に行っていたところだぞ!」

 

 怒りを隠そうともしない信長。

 

「まあまあ、というかお医者さんの許可取らないと遊べませんでしたし手間取ってしまって……。それにこっちも数十分探したんですよ?姿変わってますしプレイヤーネームも教えてくれなかったじゃないですか!私だけの責任じゃありませんよ」

 

「ム……ソレは仕方ないが、それならもう少し目立つところに居ればいいではないか!そなたは姿変えておらんようじゃし、プレイヤーネームもそのままじゃ。わしの責任だけではない!」

 

 そういってチラリと名前を見る。

 そこには『OKITA』と書かれていた。

 まあ、彼女はこういうのは無頓着なので凝らずにそのまま名前を入力したのだろう。

 そんな様子が伺える。

 

「まあまあ、また今度埋め合わせしますから、今回はこの辺で、ね?遊ぶ時間無くなっちゃいますし……」

 

 癇癪を起こす信長に対してなだめるように言う沖田。

 しかし尚も激高する信長。

 

「沖田はいつもそうじゃ!わしを子供扱いしおって!いつもわしがどれだけ―――

 

 だが、その言葉は続かなかった。

 その瞬間、いきなり周りに人が転移してくる。

 しかし、そう言った転移するようなアイテムがあることを信長は前情報で知っていたため、それが一人や二人ならそういうこともあるだろうと驚かなかっただろうが、その数が違った。

 一人、二人どころの騒ぎではない。

 数十人、いや数百人、ヘタをするともっとだろうか。

 それほどの人数の人たちがいきなり周りに現れていた。

 

「……なんでしょうか?初日のイベントみたいなものですかね?」

 

 突然の様子に戸惑いながらも推論を述べる沖田。

 

「分からん。じゃが、イベントにしては様子が変じゃ」

 

 即座に怒りを収め、冷静になる信長。

 普段は結構、というかかなり、短気な性格だが、こういった突発的な事態に対しては冷静に考えることが出来るのは次期当主としての教育の賜であろう。

 そうして、静かに周りの様子を伺う。

 耳を澄ませてみれば、辺りでは「ログアウト出来ない!」などといった声が聞こえた。

 

「……バグか?何らかの問題が起こったから全員を集めたのじゃろうか?しかし初日からログアウトできないなどと言った、S級バグを引き起こすなど、アヤが着いた気分じゃな」

 

 そう言って呆れ返る信長。

 先程までの怒りはどこかに行ってしまったようだった。

 そして、二人でしばらく待っていると空に人影が投影される。

 真っ赤なローブを着た、巨人。

 顔は全く見えない。

 まあ、投影されている画像のようなので拡大されているだけなのかもしれないが、どうやらゲームマスターのようだった。

 

「プレイヤー諸君、私の世界へようこそ」

 

 そう、挨拶をするゲームマスター。

 その不気味な風貌はまるで倒すべき敵のような圧迫感、不快感をプレイヤー達に与える。

 

「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

 

 それを聞き、不安そうにプレイヤー達はざわめく。

―――――茅場晶彦。

 このゲームを初日からプレイしようと思う人間ならば知っていて当然の人間だ。

 まあ、例によって沖田は知らないがそんなことはどうでもいいだろう。

 数年前まで、数あるゲーム会社の一つに過ぎなかったこのゲームの、『ソードアート・オンライン』の制作会社である『アーガス』が、最大大手とまで言われる原因となった人物だ。

 天才量子物理学者でありながら、このゲーム開発ディレクターであり、ナーヴギアの基礎を設計した男である。

 そんな大物の登場に皆、一様に息を呑む。

 

「プレイヤー諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消失していることに気づいていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。これはゲームの不具合ではなく『ソードアート・オンライン』本来の仕様である」

 

 それを聞いてプレイヤーたちの不安は更に高まる。

 「仕樣?どういうことだ?」そんな声が辺りから聞こえてくるが、しかし、彼らはその最悪の事態をなんとなく理解していた。

 いや、むしろそれを考えたくないために声に出してわからないふりをしているのかもしれない。

 

「諸君は今後、この城の頂きを極めるまで、自発的にログアウトすることは出来ない」

 

 そんな、期待に答えるように茅場は続ける。

 頂きを極める。

 つまりクリアするまで出られないということだろう。

 その言葉を聞きプレイヤーたちは様々な様相を見せる。

 信じないと現実逃避するもの、聞きたくないと頭を抱えるもの、愕然と立ち尽くすもの、喚き、がなりたてるもの。

 多種多様な反応を見せるがその根底にある感情は皆同じだ。

 

「また、外部の人間によるナーヴギアの停止、あるいは解除もありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し……」

 

 茅場は不安を煽るように言葉を区切る。

 死刑宣告を待つような気分で、ゆるやかに、時間の流れが遅くなったかのように次の言葉が遠い。

 

「生命活動を停止させる」

 

 そうして、ギロチンのような絶望を茅場はプレイヤーたちに振り下ろす。

 これが、デスゲームとなった『ソードアート・オンライン』の真の始まりだった。

 そして、それを聞いた彼女らの表情は、下弦の月のようにニヤリと歪んでいた。




書いてて思ったけど、結構シリアス気味。
タグに入れといたほうがいいのだろうか……

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