破界せよ、総てを   作:アゴン

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第七話 そうだ。熱海行こう。

 

 

 

 ソレスタルビーイングなる謎の組織からの犯行声明から数日後。相も変わらず世界は回り続けている今日、リモネシアは復興作業に勤しんでいた。

 

 国連を最初に、OZや更にはブリタニアの一部までが太平洋上に浮かぶ小さな島国であるリモネシアの復興に支援すると言われ、これがニュースになった時は結構な話題になった。

 

OZはAEUの一部、ブリタニアは大国ユニオンの片割れ、更に国連迄もが支援に乗り出すと言うのだ。

 

話題になるというのも当然だろう。

 

 何故そんなにまで小さな島国に其処まで関わろうとするのか? 世界各国の見えない真意にマスメディアは翻弄され、リモネシア大使館は連日マスコミの対応に追われていた。

 

 そして今日も取材を申し込んできているメディアの対応に大使館スタッフが追われている中。

 

「……で? 一体何をしに来たのです? カルロス=アクシオン=Jr」

 

「何ってシオニーちゃん、僕が遊びに来たのがそんなに嬉しいの? やだなーもう」

 

 目の前にいる羽織の良さそうな男性に、シオニーは既に疲れとストレス、そして怒りで爆発寸前となっていた。

 

「……私は今、世界中のマスメディアの対応に追われて忙しいのですが?」

 

「ん? 知ってるよ。だから来たんじゃない」

 

 何を言ってるんだと言いたげな目の前の男に、シオニーは軽く殺意を覚える。

 

最近の自分はブロリーのクソ硬い頭に日々ツッコミを入れているのでハリセンの扱いは一級のモノとなっている。

 

そこら辺の悪漢風情なら、圧倒出来る自信がある。そう思いシオニーは手元にある相棒(ハリセン)に手を伸ばす。

 

「だってシオニーちゃん最近じゃ国連の会議に出てないじゃない、“僕達”としてはもっと世界中の紛争を煽って欲しいのにさ。ダメだよサボタージュは」

 

 口調は相変わらずふざけた態度をとっているが、それでも目を細めた彼の瞳には一種の意志が宿っている。

 

それに気付いたのか、シオニーは執務室の窓を閉め、誰にも聞かれない様細工をすると、表情を険しくしてカルロスと向き直る。

 

「大丈夫だって、誰もここには通さないようにしてあるから」

 

「まさか、また使ったのですか? 良くもまぁ飽きないものですね」

 

「金ってのは万能だからね。ちょっと警備員に握らせると何でも言う事聞いちゃうんだもの」

 

 カルロスの物言いにシオニーは頭が痛くなった。金に屈する警備員もだが、金に物を言わせてやりたい放題のコイツに一言言ってやりたくて仕方がなかった。

 

だが、それだけの財力があるのもまた事実。アクシオン財団と言う世界最大企業の総裁であるカルロスはまさに世界一の大富豪と言えるだろう。

 

「祖国の為に奔走するのもいいけど、本来の仕事もきっちりこなさなきゃ、折角《彼》が用意してくれたポストなんだから有効活用しないと……」

 

「そんな事は……っ!」

 

 分かっている。そう言おうとする彼女だが、頭の中に残るモノが脳裏を過ぎり、口を閉じてしまう。

 

様子のおかしいシオニーにカルロスは首を傾けると。

 

「……カルロス、本当に私達の計画で世界は変わるのでしょうか?」

 

「《彼》が言うにはね。にしてもどうしたの? もしかして今更怖じ気付いたのかい?」

 

「だって、次元震は最近ここばかり起きているみたいだし、WLFだって……」

 

「あー、その事については気の毒だとは思うよ? だけど僕の会社にもWLFのテロ被害があったんだから、お互い様じゃない?」

 

「けど!」

 

「……あれ? でも変だな? そんな災害に見舞われているのにこの辺りは大した被害は出ていない……ここの貧弱な警察組織では太刀打ちできない筈なのに……」

 

 しまった。シオニーは余計な口出しをしてしまった自分の口を両手で抑えるが、既に遅し。厭らしい笑みを浮かべて此方に滲み寄ってきた。

 

「シオニーちゃん、何か隠し事していない?」

 

「別に、何も?」

 

「ソレスタルビーイングとか謎のロボットの登場で有耶無耶になっているけど、ここも相当な不思議があるんだよねー」

 

「……………」

 

「ねぇ、WLFや次元獣をこの国はどうやって退けたの?」

 

「さぁ、当時の私は会談でこの国を離れていたので詳細は分かりませんが、多分その謎のロボットやらが助けてくれたのでは? あれは負けている側を助けるそうですから…………」

 

 無論、彼女が言っているのは全て出鱈目である。その時は彼女も現場近くにいたし、誰がテロ組織を撃退したのもこの間の次元獣の出現によりそれは確実のモノとなっている。

 

睨み合う二人、張り詰めた空気が執務室に充満していくと。

 

「分かったよ。今回は聞かないでおくよ」

 

潔く引いたのはカルロスの方だった。帽子をかぶってソファーから立ち上がり、ドアの取っ手に触れる所で振り返り。

 

「シオニーちゃん、隠し事もいいけどお仕事の方も忘れずにね」

 

「分かっています!」

 

「おお怖、それじゃあねー」

 

 いけ好かない笑顔を残して去っていくカルロス。苛立ちの種が漸くいなくなった事に安堵するも、シオニーの顔は依然として暗かった。

 

徐に立ち上がると、シオニーは自分の仕事場である机に向かい、引き出しを開けると。

 

其処には分厚く束ねられた書類が厳重に保管されていた。

 

書類な表紙に書かれている文字は唯一言、“プロジェクト・ウズメ”と記されている。

 

「教えてアイム、私は本当に………貴方を信じていいの?」

 

 シオニーの呟きは誰もいない執務室に広がり、当然ながら答えは返ってこず。

 

「ねぇ、ブロリー、貴方は……どう思う?」

 

彼女の問い掛けは、やはり誰も答えはしなかった。

 

─────そして、そのブロリーはと言うと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、気持ちいい……です」

 

 現在、この男はエリア11とは異なるもう一つの日本、その中でも温泉街として知られる熱海へと来ていた。しかも彼が今浸かっているのは老舗の温泉旅館で有名なくろがね屋の露天風呂。

 

 外から一望できる熱海の街と海の眺めは晴れ渡った青空と相成って正に絶景、贅沢にも二人で貸し切り状態の為に幸福感アップである。

 

「いやー、いつ来てもここの露天風呂は最高だわい。雨の日も中々捨てがたいものもあるがやはり晴れが一番じゃて」

 

「そうなんですかぁ?」

 

「そうなんじゃよ。……ところでブロちゃんは何しに此処へ? 見かけん顔じゃが此処には観光かい?」

 

 向かい側の湯で浸かっている老人、顔に付いた大きな傷が厳つい印象を受ける老人だが人当たりは良さそうな人物で、現に此処にくる途中一緒になった時色々と会話をしている内に仲良くなり、今は上記のような愛称で呼び合う仲となっていた。

 

それは兎も角、老人の問い掛けにブロリーはフフンと胸を張ると。

 

「俺は、お使いに来たのです」

 

「ほう? 誰かの使いかい?」

 

「はい、光子力研究所へです」

 

光子力研究所。その言葉を聞いた瞬間、老人の目がスッと鋭くなる。にも気付かず、ブロリーは初めてシオニーから頼まれたお使いの内容についてベラベラと語り出す。

 

 因みに、ブロリーのお使いに関するそれは全てシオニーの嘘である。

 

光子力エネルギーは実用化の一途を辿っているとはいえ未だ研究中の代物、流石の彼女もそれに手を出す考えはなく、今回ブロリーを単身日本に送ったのはひとえにカルロスの目から逃れる為である。

 

 余計な真似をされる前にブロリーを海外に送り出す彼女の選択は正しく、そして間違っていなかったと言えよう。

 

そんな事とはつゆ知らず、初めて護衛以外に頼って貰った事に喜んだブロリーは意気揚々と光子力研究所のある熱海へと来ていた。

 

 もし万が一、またリモネシアで次元震やWLFが騒ぎを起こせば例の金ピカ形態になって飛んで行けばいい。あの状態になれば一分も懸からず往復出来るだろう。

 

因みに、此処に来るときは黒髪状態で約三分程掛かった。

 

そして、ブロリーの今回のお使いに関する事を全て話す頃、老人は風呂から上がり。

 

「そんじゃあ儂はこの辺りで失礼するよ。ブロちゃんもお仕事頑張ってな」

 

「はい……十蔵も元気で」

 

 互いに簡単な挨拶を済ませ、兜十蔵と呼ばれる老人は浴場を後にした。

 

「……俺も行きますか」

 

そして、その数分後にブロリーも風呂から上がり、光子力研究所に向かうのだったが……一部始終を見ていた湯殿係の安は思う。

 

(ありゃ無理だ)

 

 実際、それは事実となり、ブロリーは光子力研究所に入る事は叶わず、門前払いを受ける事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁい、お疲れ様でーっす!」

 

「お疲れ様でしたー」

 

 時刻は既に5時を過ぎ去り、夕日の赤い光が熱海を照らし、撮影終了の合図が人気のない海岸に木霊する。

 

トップモデルの仕事を終えたF01レーサー、飛鷹葵は一度伸びをすると、何気なく空を見上げる。

 

朱色の染まる空、解散していく撮影スタッフの片付け音をBGMに葵は一人呟く。

 

「今日も、終わりかぁ……」

 

 飛鷹葵は生まれこそ普通の人とは違うものの、それ以外は全て良好だった。トップモデルとして、更には過激なスポーツとして知られるF01のレーサーとして名を連ね、近い内に大きな大会を控え優勝確実とまで言われている。

 

 順調に進んでいる人生、不自由などあり得はしない暮らしだが、何故だか彼女の心は空虚だった。

 

満たされない。どんなに刺激的な体験をしても、どんな危険な局面でも限界を超えての熱さを体験する事が出来ないでいた。

 

自分の中にある穴、それを埋めてくれる何かに出逢えぬまま、彼女の1日は終わりを迎えていた。

 

「………帰ろ」

 

 そう言って着替えを終えた彼女は愛車のバイクの下へと向かい、鍵を差し込もうとするが……。

 

「………ん?」

 

 ふと、視界の隅に入ってきた一人の男性、トボトボと情けなく海岸沿いを歩くその姿は情けないの一言に尽きる。

 

だが、何故だか葵はその男が気になった。男にしては肩にまで掛かった長い黒髪、弱々しい横顔、葵の好みの男性とは少しかけ離れている。

 

 なのに、その男が気になって仕方がなかった。……理由は自分でも分からない。だが、気が付けば自分の足は男に向かって歩き始めている。

 

「……偶には、いっか」

 

 他人に対してはトコトン無頓着な葵。そんな自分自身に戸惑いつつも、葵は男の下に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ」

 

 深い溜め息と共にやるせなさを吐き出すブロリー。既に日は傾け始め夜の帳が幕を下ろし始めた頃。

 

事前に光子力研究所へアポを取っていないブロリーが研究所に入れる筈もなく、受付の呼び出した警備員に連れられポイッと締め出されてしまう始末。

 

 折角意気込んで来たというのに、これでは無駄足もいい所である。

 

 尤も、 光子力研究所の所長である弓所長とあった所で会談や話し合いなど全く無経験なブロリーにとても務まるとは思えないのが、シオニーの本音である。

 

 記憶は未だ戻る気配はなく、世話になっているシオニーに何かしらの役に立ちたいと思い、遙々この日本へと赴いて来たのだが(とは言っても、片道三分の短い道のりだったが)。

 

剰りにも役に立たない自分にブロリーは再び溜め息を零すと。

 

「ねぇ、そこの貴方」

 

「?」

 

「貴方って地元の人? もし良かったら案内してくれないかしら、近くに旅館があるって聞いたんだけど迷っちゃって」

 

 振り返る先にいたのは赤みを帯びた長髪の女性。その外見やスタイルからして相当な美人だと言うのが見て分かる。

 

しかしブロリーは記憶喪失者、欲情という感情すら忘れてしまっているこの男が目の前の美女に対し、大した感想も抱かず。

 

「ここを真っ直ぐ行って左へ曲がり、突き当たりを右に行けば着きます」

 

 それだけを告げるとブロリーは深くため息をこぼし、踵を返すが……。

 

「……ねぇ、そこまで連れてってくれないかな?」

 

 回り込まれ、行く手を阻まれてしまう。エリア11といい目の前のこの女といい、赤い髪をした女性に何故こうも絡まれるのだろうか?

 

 それとも、自分はそう言う星の下に生まれてきたのか? 記憶のない自分だが、流石にそれはない……と、思いたい。

 

(……面倒、くさいです)

 

 などと、ブロリーに日本屈指の美女が面倒くさいと思われている一方で。

 

(な、なんで私こんな事しているの?)

 

こちらもこちらで、平静を装う一方で、内心かなりの焦りを見せ始めていた。

 

 らしくない、全く以てらしくない。他人に差して興味を持てず、一人を好む彼女にしては今自分が行っている行動に自分自身混乱している。

 

(というか、何この人、逆ナンされているのにノーリアクションって……)

 

こう言っては何だが、自分はこの日本に於いて結構名の知れた人間だと思っている。

 

この熱海に来てからも撮影の合間にサインを強請られる事もしばしばあったし、何よりレーサーとしての取材を受ける日々が続き、テレビや雑誌にはそこらのアイドルよりも映ったり乗ったりしている。

 

うん、ぶっちゃけ自慢話である。しかし、だからこそ後には引けないのかも知れない。

 

見知らぬ男性に逆ナンとかゴシップ誌にデカデカと載せられる内容である。

 

しかもその記事が“トップレーサー兼モデルの飛鷹葵、逆ナンするも敢え無く撃沈”なんて書かれたりしたら堪ったものじゃない。

 

 世間が自分をどう思うかは知った事ではないが、それでもここで引いたら負けた気分になりそうだ。

 

自分は負けず嫌いで欲しいモノは何だろうと自身の力で手に入れる。この男が欲しいとかはさて置き、それを信条としている彼女としてはやはり引くわけにはいかない。

 

「………はぁ」

 

「っ!」

 

 目の前で盛大にため息を吐くブロリー。明らかに面倒くさいと言っている彼の態度に流石にカチンときた。

 

 ……上等だ。こうなったら何が何でもこの男をモノにしてやる。内心で敵対心をメラメラに燃やしながら、葵はブロリーに挑発的に話しかける。

 

「それとも、貴方は薄暗い街中をたった一人、しかもか弱い女の子を放って置くつもりなの?」

 

「………か弱い?」

 

 か弱いという言葉が当てはまる女性とは出会った事のないブロリーは一体誰の事なのだろうと小首を傾げた。

 

─────その時。

 

 

 

 

ズガァァァァァ……ン

 

 

 

「「っ!?」」

 

 突如として起こった爆発と轟音、何事かと思い振り返ると、先程までの街並みが一変し、熱海の街は炎の海に包まれていた。

 

「何……これ?」

 

突然の事態に混乱する葵、呆然とする彼女の前に一体の巨人が降り立つ。

 

その風貌は古代の剣闘士。手に持っている剣が月光に照らされ妖しく煌めく。

 

一体、二体と、瞬く間に増えていく巨人の群れ、熱海が正体不明の巨人に埋め尽くされた時。

 

『さぁ、愚かな人間共よ! Dr.ヘルに恐れおののくがいい!!』

 

二つに重なった奇妙な怒声が熱海の街に木霊した。

 

 




ここでダンクーガノヴァのパイロット、飛鷹葵さんの登場。既に原作とは違うキャラになりつつありますが、それは対象が未知の塊であるブロリーたから……ということで納得してください。

さて、ここで勝手ながら皆さんにアンケートを取りたいと思います。

内容は原作に於ける分岐をブロリーでどちらに介入させようかと言うこと。

暗黒大陸で黒の兄弟と一緒に獣人狩りをするか、それとも宇宙にいってマクロスでキラッ☆させるか……未だに迷っています。

皆さんはどちらが良いと思います?

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