破界せよ、総てを   作:アゴン

7 / 14
第六話 動き始める世界。

 

 

 

 “AEU”。ヨーロッパ各国の連合であり、ブリタニア・ユニオンと人革連に並ぶ世界三大国家の一つ。

 

 シオニー=レジスとブロリーはそんなAEUの領地であるフランスのパリへと赴いていた。

 

「………はぁ、鬱だ」

 

 文化遺産の一つ、エッフェル塔を前にしてシオニーは盛大な溜め息洩らす

 

先日のエリア11での会談はシュナイゼルが持ち込んできた条件を呑む事で了承し、無事に話は纏まった筈なのだが………。

 

その条件の内容にシオニーは憂鬱な気分になれずにはいられなかった。

 

 『次の日曜、フランスのパリでOZの総帥と会って欲しい』

 

とだけ告げて来た。

 

AEUとは別の軍事組織“OZ”、しかもその相手はそのOZの総帥。

 

更に言えば、その会談には先日の会談でモニター越しの対面となったシュナイゼル本人までもが出席すると言う事。

 

世界を実質的支配している三大国家、そして相手はその中枢にいる者達。

 

(狙いは、間違いなくブロリーか)

 

 ブロリーの持つ力は未だ未知数な部分が多い。その強力さ、圧倒的さは勿論の事。底知れない力を持つブロリーは下手をすれば世界に対する有効な手札となる。

 

無論、そうなればリスクも大きいし不安な部分も多い。だが、それを考慮してもリモネシアにとっては充分切り札となり得る存在である。

 

 彼等がどこまで知っているかは知らないが、こうなった以上は仕方ない。

 

残されたシオニーの手段はブロリーを手に入れようとする輩の魔の手を振り払うこと。

 

(奪われてたまるものか、これ以上、絶対に!!)

 

 一層強く決意を固め、会談に望む意気込みを高めるシオニーだが……。

 

「あれ? ブロリー?」

 

 隣にいる筈のブロリーがいつの間にか消えていた事に気付き、辺りを見渡していると。

 

「アイス、取り敢えず全部くれ」

 

「ぜ、全部ですか?」

 

「お金、足りるか?」

 

「は、はい! ありがとうございましたー!」

 

「何やっとるかー!?」

 

 アイスの屋台でアイス全乗せという挑戦に挑んでいるブロリーに溜まらずシオニーはハリセンを叩き込む。

 

「シオニー、痛い」

 

 頭を抑え、それでもアイスを手放さない辺り、ブロリーの食に対する執念が伺える。

 

「これから往く会談はねぇ、世界のトップが集まる重要な場所なの! しかも奴らは間違いなくアンタを狙って来る! その意味分かってる!?」

 

 世界のトップが狙っている。それ即ち意味するのは、世界がブロリーを狙うという意味と同義。

 

まだリモネシアは国連の中でも弱小の国。発言力は高くなっても軍事力のない国は大国に淘汰される。

 

シオニーはブロリーの胸倉を掴み、揺さぶりながら言い含めようとするが。

 

「よく分からないが、俺はお前から離れるつもりはない」

 

「……え?」

 

「俺はお前を守る。誰が相手でもそれは変わらない……」

 

 黒く、真っ直ぐに見つめてくるブロリーの瞳。そんな彼の瞳を見て鼓動が高く脈打つ自分は単純な女なのだろうか?

 

 全てから守る。つまり、その言葉の意味をする事は……。

 

「全てって……じゃあ、世界が相手でも?」

 

ドクン。心臓の高鳴る音が耳元で木霊する。

 

 口に出してしまった問い。そしてその問いにブロリーの唇が動き出し……。

 

「おほん。……そろそろ、宜しいか?」

 

「ひゃわぁぁっ!?」

 

 突然割って入って来た声に振り返ると、赤い軍服を纏い眼鏡を掛けた将校らしき女性がジト目でこちらに睨みつけてきた。

 

咄嗟に手を離し、慌てるシオニーを余所にブロリーは何事もなく立ち上がる。

 

「誰だ、お前は?」

 

「私はレディ=アン、トレーズ様の御命令により貴君らの迎えに上がった者だ」

 

「あ、ありがとうございます。貴女がトレーズ閣下の副官の……」

 

「はい。では、トレーズ様がお待ちになっていますので……此方へ」

 

 平静を装いながら、シオニーは用意されたリムジンへと乗り込む。

 

ブロリーもまたシオニーに習って乗り込もうとするが……。

 

「あの、アイスの持ち込みは……ちょっと」

 

「駄目ですかぁ?」

 

「当たり前でしょうが!」

 

 落胆した表情でブロリーはアイスをその場で飲み込み、今度こそシオニーの隣へと座るのだった。

 

 ……その際、数十段と積み上げられたアイスの山を丸呑みするブロリーに、レディ=アンの目が点となったのは割と関係のない話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車に乗り込み、一時間程移動した所。森に囲まれ自然豊かな土地にその屋敷はあった。

 

レディ=アンに連れてこられて、案内されたのはOZの総帥の執務室。

 

とうとうこの時が来たと、シオニーは固唾を呑み込み、意を決して扉のドアノブを捻る。

 

そこに待ち受けていたのは……。

 

「やぁ、待っていたよシオニー=レジス外務大臣」

 

「遙々ようこそいらしてくれた」

 

「トレーズ閣下。それにシュナイゼル殿下まで……」

 

 テーブルを挟んでソファーに座る二人の男性。どちらも超の付く美男子で普通の女性ならばその姿を拝見しただけで昇天してしまうだろう。

 

だが、そんな彼等を前にシオニーは敢えて敵意を示す事で対応する。

 

 しかし、決して表情には出さない。感情を表に出したら最後、この会談は二人の独壇場となってしまう。

 

 強い意志で挑まねば。シオニーは目の前の会談という戦場に向けて足を進める。

 

「今回の会談は長くなりそうだからね。シェフに頼んで料理を用意したんだ」

 

「口に合えば良いのだが……」

 

「いえ、お気になさらず。……早いところ始めましょう」

 

 料理? ふざけているのかコイツらは?

 

今自分達のいる場所は戦場、言葉という武器で戦う場所だというのにこの余裕……。これが世界の頂点に君臨する者達の姿勢なのだろうか?

 

 それとも彼等にしてみれば自分など取るに足らない田舎の小娘にしか見えないのだろうか?

 

(だったら好都合。そのまま油断しているがいい。そうしている内に私がお前達の喉笛に噛みついてやる!)

 

 感情を抑えて心を静かに保ち、シオニーは二人の男性の下へと歩み寄る。

 

(待てよ……料理?)

 

 そこでシオニーは思い出してハッとなるが……。

 

「シオニー、これ美味しいぞ」

 

「やっぱりかこんちくしょうー!!」

 

時既にお寿司、いや遅し。テーブルの上に並べられた料理の誘惑に頗る喜ぶ奴がすぐ近くにいる事を失念していた。

 

この男、リモネシアの切り札であると同時にとんでもない足手纏いである。

 

「やぁ、久し振りだねブロリー君。私の事、覚えていてくれたかな?」

 

「ふふいへるふぁっけ?」

 

 せめてちゃんと噛んで、喰ってから喋れよ。なんてシオニーやレディ=アンの思いは届く筈もなく。

 

「今日は君に紹介したい人がいるんだ。こちらが私の友人でOZの総帥である」

 

「初めまして、私はトレーズ=クシュリナーダ。君の事はシュナイゼル殿下から聞き及んでいるよ」

 

「ふろふぃーへふ」

 

「……ふふ、シュナイゼルの言うとおり変わった人だね、君は」

 

「だろう? ……ん? どうしたんだいレジス大臣?」

 

「遠慮はいらないよ。レディ、シェフに追加の注文を頼む」

 

「はい。畏まりました」

 

 残された自分、カオスになりつつある会談にシオニーは最早真面目にする気力もなくなり。

 

「レジス大臣、君はワインは飲めるかい?」

 

「……いただきます」

 

もう、どうにでもなれ。シオニーは色々と諦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なる程。では君はどうして自分がここにいるのか、何故この世界に来たのかは全く覚えていないんだね?」

 

「ふぉーなんれふ」

 

 シュナイゼルの質問にブロリーはひたすら食べながら答える。……正直、今自分達のいるこの空間に対し、突っ込みたい事は山ほどあるが、今は我慢しておこう。

 

洗いざらい喋っているんじゃないとか、食べながら話すなとか、どんだけ食ってるんだとか、少しは自重しろとか、そんな事は今はどうでもいい。

 

 ……レディ副官、お願いだからそんな諦めた様な遠くを見る目は止めて下さい。貴女だけが最後の良心なんだから。

 

 あの後、ブロリーを囲んでの会談は一向に進まず、唯のお食事会なりつつあるこの会談にシオニーはトレーズとシュナイゼル、二人の真意が図れずにいた。

 

既にブロリーについてあれこれ聞いて来ているが、記憶喪失者であり時空振動である事以外は話していない。

 

ブロリーにはその程度の事なら話していいと伝えてはいるし、多少の事実の漏洩は致し方ない。寧ろ下手に事は話せないのはシオニーの方だ。

 

都合の悪い話ならブロリーに記憶喪失者故に“分からない”または“覚えていない”と言い張れば良いと伝えてはいるが、自分はそうはいかない。

 

 記憶喪失者であるブロリーとは違い、自分は保護者の身。ブロリーの行動はある程度把握しなければならない立場の人間だ。

 

下手に誤魔化したりすれば矛盾点を突き付けられ、本当に洗いざらい吐かされてしまう。

 

 目の前にいる二人は事前にブロリーの存在を知っていた。その情報網は侮りがたく、もしかしたらブロリーの例の姿も知られているかもしれない。

 

それが国連大使からの情報だとしたら、実に厄介な事。

 

約束を違える彼もそうだが、それを知りながら敢えて知らないフリをしている此奴等もなんと腹の立つ事か……。

 

 

ギリッと歯軋りの音が耳元で聞こえる。目の前の二人に気取られぬよう極力平静を保っているつもりだが、それでも思わずにはいられない。

 

「所でブロリー君、一つ君に聞きたい事があるのだが……聞いて良いかな?」

 

「さっきから何回も聞いて来たと思うんですが?」

 

 シュナイゼルの度重なる質問に段々嫌気が差してきたブロリー。本来なら皇族相手にこの様な態度を取れば不敬罪で極刑も免れないのだが、そうしないのはこの男の懐の広さ故なのか、それともそれほど迄にブロリーの事を気に入っているからなのか。

 

 ……恐らくはその両方なのだろう。

 

「はは、これは手厳しい。だけど君の言う事も尤もだからね。だからこの質問で最後さ……」

 

「ブロリー君、君はこの世界の事をどう思う?」

 

 今まで、あまり言葉を口に出さなかったトレーズが、ブロリーに最後の質問をシュナイゼルの代わりに投げ掛ける。

 

その瞳は鷹の如く鋭く、人の嘘偽りを映し出す鏡の様に澄んでいた。

 

ブロリーは記憶喪失者、この世界の事は勿論、自分の事すら理解出来ていない不完全な存在。

 

そんな人間に対し、世界の事を聞いて一体何の意味があるというのだろうか?

 

「無論、君の事情は承知している。だから……いや、だからこそ答えて欲しい。何も知らない君だからこそその答えに意味がある」

 

 無知は憐れではあるが罪ではない。寧ろ、下手な思い込みや考えが無い分新しい閃きが生まれる。

 

 だがこの場合、世界という議題によりその答えでブロリーの本質を見抜こうというトレーズの見極めである。

 

 ブロリーを射抜く鋭い眼光、その剣幕にシオニーは息を呑み、執務室は張り詰めた空気に包まれる。

 

先程とは打って変わって剣呑な空気、トレーズの隣にいるシュナイゼルも目を細めて二人を見つめている。

 

ブロリーの答えに全員が注目していると……。

 

「……別に」

 

返って来たのは、剰りにもあっさりしたものだった。

 

ブロリーの答えに、場の空気が一気に凍り付いた気がした。

 

「別に……とは、それはこの世界に興味が無いという事かな?」

 

 

 ブロリーの答えにトレーズは怒り、或いは悲しみの混じった目で見つめてくる。

 

シュナイゼルも落胆したのか、腕を組んで溜め息を零している。

 

「世界が何だろうと、俺のやる事は決まっている」

 

「やる事?」

 

「シオニーを守る。……それだけだ」

 

 再び、訪れる沈黙。だがそれは先程とは違い殺伐したものではなかった。

 

 トレーズとシュナイゼルはポカンとして目を丸くさせ、レディ=アンは眼鏡をズルリと落としていて、シオニーは顔を真っ赤に染め上げて口をパクパクとさせている。

 

「く、はは、フハハハハハ!! なる程、それが君の答えか!」

 

「何がおかしいんだ?」

 

「ふふふ、いや済まない。気を悪くしないでくれ。ただ君が剰りに純粋なものでね」

 

「レジス大臣。君は本当に果報者だね。こんなに君を想ってくれているなんて……正直、羨ましくさえ思えるよ」

 

「い、いや、別にそんな訳では!」

 

 執務室に木霊する笑い声は終始止むことはなく、シオニーはそんな二人にアタフタと弁明を述べていた。

 

そんな中、一人訳が分からないと首を傾けるブロリーにレディ=アンは……。

 

(コイツ、天然か!)

 

冷ややかにブロリーの事をそう評価した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………鬱だ」

 

 本日幾度目のシオニーのため息がリムジン内で空しく響く。

 

 あれから会談らしい話題は出ず、世間話を何回か話しただけで終わり、結局なんの為に呼ばれたのか判らずじまいだった。

 

会談という名の井戸端会議は終わると、そそくさと帰ろうとするシオニーにシュナイゼルとトレーズはにこやかに微笑みながら見送ってくれたのは無性に腹が立ったが……。

 

まぁ、こうして高そうなリムジンで手厚く送ってくれるのだ。 貰えるモノは貰っておこう。

 

幼い頃から身にしみている貧乏根性が最近出始めているように感じるが……それはしょうがないと言える。何故なら、一番金の掛かる存在が一番近くにいるからだ。

 

そして、その金の掛かる厄介者はというと。

 

「おぉ、凄い。この車、テレビがあるです」

 

 備え付けられた目の前のモニター型テレビに目をキラキラと輝かせてはしゃいでいた。チャンネルを弄りまわしているブロリーに呑気なものだと呆れつつ、シオニーは今回行われた会談の内容を思い出す。

 

ブロリーが時空振動で現れた稀有な存在だと言うことは間違いなく知っている。問題はブロリーの力を知っているか否か、だ。

 

知らないのであればそれに越したことはないのだが、如何せんどちらも独自の情報源を持っているだろうし、一を知れば十処か百を理解する超の付く切れ者だ。

 

 しかもトレーズに至っては独断で軍を動かせる権限を持っているし、彼自身も武に秀でた人間だ。その気になれば自分達を分断させ、どうとでも出来た筈。

 

……まぁ、そうなれば野性的本能でシオニーの危機を察知したブロリーが彼等を血祭りに上げるだろうが。

 

となると、やはり知らないという可能性が大きいか?

 

(いや、その考えは危険だ。知らないなら知らないでもっと深くブロリーに探りを入れただろうし、知っているフリをしてこちらの油断を誘っているのかもしれない)

 

 シオニー=レジスという人物は、基本的には慎重且つ臆病な人物である。不足な事態には慌てふためくだけだし、被害妄想が強い一面もある。

 

《ある人物》のお陰もあって今の地位へと登り詰めた姑息な所もある彼女だが、それだけでは外務大臣のポストは務まらない。

 

シュナイゼルやトレーズを前にしても内心は揺れまくりだがそれを表に出さないだけの仮面を持っているし、慎重で臆病な性格が外交に関しては防御の能力として役立っている。

 

最近は色々あって自分のキャラが崩れつつあるが(理由は……分かるな?)、それでもやはり外務大臣シオニー=レジスの能力は健在だった。

 

 そんな彼女が先程の会談について、どこかミスはなかったか、何か此方に対して不利になる言質は取られていなかったか? そんな事ばかり考えていると。

 

「シオニー、シオニー」

 

「何ですか? 今私は考え事で忙しいんですけど」

 

「テレビが壊れた。どれも同じになっている」

 

「はぁ?」

 

 おかしな事を言い始めたブロリーにシオニーは呆れ顔になる。この男、呑気にタダ飯を食らっただけでなく、向こうの備品まで壊したのか?

 

 ……流石にトレーズはこの程度で外交問題にするような人間じゃないと思うが、失態したのは此方だ。先んじて詫びる必要がある。

 

と、その前に一応どこが壊れたのか確かめるため、ブロリーからチャンネルを奪い取り、シオニーは適当に各番組を回してみた。

 

だが、その内容はどれも同じ。更に言えば一人の老人がテレビの真ん中に陣取り動かないでいる。

 

そこでシオニーも気付く。……壊れたんじゃない、どこも同じ内容の番組を─────いや、映像を流しているのだ。

 

 老人────イオリア=シュヘンベルグと名乗る人物は語る。

 

『全ての人類に、報告させて頂きます。我々は《ソレスタル・ビーイング》。機動兵器“ガンダム”を所有する私設武装組織です』

 

 新たな時代の幕開けを、世界に向けて宣言したのだった。

 

「……カンタム?」

 

 ブロリー、それはアカン。

 




ここで漸く原作始動。
だけど未だに主役の苦労さんが出てこない。
早く出したいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。