破界せよ、総てを   作:アゴン

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第十二話 純血派

 

 

「はぁ、……鬱だ」

 

 最近、こんな台詞ばかり吐いている気がする。

 

先日のブリタニア・ユニオン領内で起こったインベーダーの襲撃事件。世間ではブリタニア軍とユニオン軍の共同戦線により事態が鎮圧されたと報じられており、金色の男────ブロリーに付いては一切触れられてはいなかった。

 

 まぁ、それも当然だろう。どこからともなく現れたヒーローが悪い怪獣をやっつけた。これだけ聞けば聞こえは良いがブリタニア・ユニオンからすれば面白くない事態になるだろう。

 

唯でさえインベーダーという未だその生態が明らかになっていない生命体が襲ってきたというのに、更にそれ以上に謎に包まれている金色の男が介入されたと民衆に知られれば、ブリタニア・ユニオン軍の面目に泥を塗ることになるだろう。

 

そうなれば次なる国連議会に於いて不安材料になりかねない。大国同士のやりとりでは些細な出来事も致命傷になり得るのだ。

 

 ……自分としては互いに牽制し、最終的には共倒れになってくれれば御の字なのだけれども。

 

尤も、そうなってしまえば深く探りを入れられて此方も入らぬ損害を受けてしまいそうなのであまり良いとは言えないが。

 

(まぁ、此方の情報を隠蔽してくれるなら別に構わないけどね)

 

 ただ、問題があるとすれば。

 

「真実は、いつも一つ!」

 

「ママー、あの人コ○ン君の真似してるー」

 

「ホントね、きっと見た目は大人で中身は子供なのね」

 

「おい、何をしている?」

 

 隣で赤い蝶ネクタイに丸い眼鏡を掛けたどこぞの子供探偵気取りのブロリー(バカ)の頭に愛用のハリセンで思い切り叩きつけた自分を、一体誰が責められようか?

 

「犯人捜すときはこの格好だって聞いたんだが?」

 

「よし、まずはその情報は今すぐに捨てなさい。そしてその腹の立つ探偵グッズも外しなさい」

 

 そう言われて渋々とネクタイを眼鏡をしまうブロリーに、私は再び大きな溜息をこぼす。

 

 インベーダーに襲われ、一時は危機的状況に陥るが、そんな時ブロリーの力が発揮された事により事態も鎮静され、安心に思った矢先に奴は現れた。

 

 カノン=マルディーニ。シュナイゼルの側近にして文官。ブリタニア軍屈指の遣り手の一人。

 

彼が寄越してきた依頼内容は皇族の一人、クロヴィス殿下暗殺の首謀者を捕まえる事。既にこの情報自体は世界中に公開されている為公に口にしても誰も咎められないが……問題はそこではない。

 

 最初は断るつもりだったが、その後に聞かされる条件にその依頼はより断り辛くなった。

 

条件は二つ。片方は受けてくれた場合、復興支援だけではなく、その後の国同士による正式な貿易関係。此方の特産品やリモネシアで栽培、或いは造られる物品を輸出する代わりにブリタニア側からはナイトメアフレーム(通称NMF)の兵器開発を始めとした高度な技術力を寄越してくれる───といったものだ。

 

破格過ぎる。とても釣り合うとは思えないその条件に、私は承諾する処か更に警戒してしまう。

 

 そして、シュナイゼルが用意したもう一つの条件。それはこの依頼を断った場合。

 

断った場合、此方の所持しているある情報を世界に公開する────といったものだ。

 

情報。この場合に使われるその情報の内容はほぼ間違い無くブロリーの事だろう。

 

他にも知られてはまずい案件は幾つもあるが、現時点で一番厄介になる情報はそれしかない。

 

そもそも“あの計画”についてはその全てが“彼”が握っている。漏らすようにも漏らせる程の情報はない。

 

(そもそも、何でこのタイミング? やはりシュナイゼルはブロリーの正体を……)

 

そこまで連想して、ゾクリと背筋に冷たいモノが流れる。

 

 ブロリーの話す謎の少年の事といい。剰りにもタイミングが合い過ぎる。やはり金色の男の正体が向こうにはバレているのか?

 

だとしたら不味い。下手をしたらブリタニア・ユニオンと本格的な対立へ発展する可能性だって出てくる。

 

かと言って断りでもすればその瞬間ブロリーの……金色の男の存在は全世界に知られてしまう事態になる。

 

そうなればブリタニアだけではない。世界中が敵になる事だって有り得る。

 

 しかし、このまま黙っていたら弱気な姿勢に漬け込まれそれこそ良いように利用されてしまい、リモネシアはブリタニア・ユニオンの隷属になってしまうだろう。

 

(どうする? どうすれはいい!? 戦争か? それともブロリーの武力を楯に無理矢理にでも交渉に持ち込むか!?)

 

 いや、どちらもハズレだ。戦争した所で勝てる見込みは薄いし、交渉した所でシュナイゼルやその文官に舌で勝てる自信はない。

 

たとすれば道は一つ。この依頼を受けている間に何としても奴らの弱みを握るしかない。もしくは本当に金色の男の正体を彼等が握っているのか確かめる必要がある。

 

 分の悪い賭けだが、“あの計画”が開始される間、何としても大国の魔の手からリモネシアを守らなければならない。

 

「ブロリー」

 

「ん?」

 

「これからはコレまで以上に気を引き締めて掛かりなさい。不用意に力を見せればそれだけ私達の敵を増やすことになる」

 

 だから、少し自重しろと言外に告げるつもりだったのだが。

 

「安心しろ。シオニーの敵は俺が全部叩き潰す」

 

「だから、そうじゃないっての」

 

 拳を握りしめ、やる気を示すブロリーだが、私はそれに溜息をこぼさずにはいられなかった。なんで呆れられたのか分かっていないブロリーは首を傾げると。

 

「お待たせしました。シオニー=レジス外務大臣様とその護衛、ブロリー様でいらっしゃいますね」

 

「はい。貴方が今回の……」

 

「ヴィレッタ=ヌゥと申します。政庁までの案内と警備は私に任せて頂きます」

 

 宜しくと、互いに軽く挨拶を済ませて私達は用意されたリムジンへと乗り込む。

 

そう、既に私達はこのエリア11に足を踏み入れたのだ。

 

「犯人は必ず捕まえる。じっちゃんの名に……」

 

「お黙り」

 

 あんた爺さんいるの覚えてないでしょーが。

 

相変わらずアホな言動をするブロリー。……こんな奴が先日ではインベーダーを駆逐する活躍を見せるのだから世の中は分からない。

 

だから、なのだろうか。

 

(本当に……勝ち目は薄いのかな?)

 

 次元獣を殲滅した。テロリスト達を全滅した。インベーダーを全て排除した。

 

だからどうした? どんなに優れた力を持っていようと世界と戦うにはまだ足りない。世界という壁は、たった一人の人間に壊される程柔くはない。

 

 それが普通、それが常識、それこそが世界を世界たらしめる真理。その常識は喩えブロリーの力を間近で見た今でも簡単に覆る事はない。

 

そう────その筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィレッタという女性騎士に連れられ、シオニーとブロリーは再び政庁の執務室へと通された。

 

ほんの数日前まではここでまだ生きていたクロヴィスと会談をしていたのに……少ししか関わりを持たない間柄とはいえ、やはりどこか心苦しく感じる。

 

 そんな事を考えている内に、執務室にある机に書類らしき紙束を纏めた男性が此方に気付き立ち上がっていた。

 

「これはこれはシオニー=レジス外務大臣殿。この度は遠いところからご足労下さり、誠にありがとうございます」

 

 

「礼には及びませんジェレミア卿。クロヴィス殿下には既に多くの恩恵を受けておりましたから」

 

 此方の意図を探らせないようシオニーは言葉を選び、且つ相手の機嫌を損ねないよう勤める。

 

ブリタニア・ユニオンは大国。優れた技術力を持ち巨大で強大な軍事力を有しており、世界の三分の一を担う超大国である。

 

 中でもブリタニア軍の多くの兵士はエリート意識が強く、他者を見下す傾向がある。国の敗北を知らない彼等常に自分達がこの世界の支配者だと信じて疑わない。

 

故に、少しでも盛り上げればその気になり付け入る隙も出来ると言うもの。

 

 ───尤も、シュナイゼルや帝国最強の騎士“ナイトオブラウンズ”はその類には入らない人種だが。

 

「そうですか。そう言ってくだされば亡きクロヴィス殿下も喜ばれる事でしょう。レジス外務大臣は先日インベーダーに襲われたばかりだと言うのに……律儀な方だ」

 

そう言ってハハハと笑う男。ジェレミア=ゴットバルトにシオニーは笑顔という仮面の向こうで殺意を抱く。

 

(律儀だと? 従わなければ国諸共滅ぼす連中が良く言う)

 

 大国。ただ国の面積が広いだけで世界の支配者の顔をするその存在をシオニーは許さない。

 

特に力で己の従う者には隷属を、そうでない者には死を与えるブリタニアにシオニーは殺意すら抱いている。

 

 ブリタニアに蹂躙されたエリア11、もう一つの日本には同情の念が感じ得ないが、それは他人事ではないのだ。

 

ここで感情的になっても此方が不利になるだけ、ならばこの場面は感情を仮面で覆い隠し相手の機嫌を伺うしかない。

 

 影で臆病者だと、国連の腰巾着と蔑まされようとコレが彼女の選んだ生き方なのだ。

 

祖国の為に感情を殺す。その生き方がどれだけ彼女に深い闇を落とそうとも、彼女自身は変わらない、変えられない。

 

「所で、今日はどう言ったご用で? レジス外務大臣は今自国の復興で忙しいと聞き及んでいましたが」

 

 当然の疑問。予測していた質問にシオニーは予め用意してきた台詞を口にしようとする。

 

ジェレミア=ゴットバルトと後ろに控えているヴィレッタ=ヌゥはブリタニアの中でも種族意識の強い純血派と呼ばれる一員達。ここで迂闊な事を言えば警戒心を抱かれここでの活動を監視付きに制限されてしまう。

 

 だから最善の、それでいて最良の選択を言葉にして告げる。

 

「私達は「犯人を捕まえに来た」 ………………は?」

 

 沈黙。口を開き、いざ言葉を紡ごうとした瞬間、突然として割って入られた声にシオニーは一瞬にして固まる。

 

ギギギと横に振り返るとそこには腹ただしい程のドヤ顔でサムズアップをしているブロリーがいた。

 

(な、何を余計な事をしてくれとるんじゃぁぁぁぁっ!!!???)

 

 絶叫。阿鼻叫喚。内なるシオニーは余計な口出しをしてくれたブロリーにムンクの叫びの如く叫びを上げた。

 

未だブリタニア側に犯人逮捕という情報は流れていない。そんな時にそんな事を言えばブリタニア側は自分達の事を小馬鹿にしているのだと………少なくとも良い印象は持たないだろう。

 

今この瞬間自分達の立場が急激に危うくなり、警戒心も跳ね上がり、即刻対立なんて事も……!

 

 内心でブロリーの発言に対する言い訳を考えながらシオニーは冷静さを装い、最悪の事態を回避する為に脳内で今後の展開をシュミレートしていると。

 

「ふふふ、フハーッハッハッハ!」

 

 突然笑い出すジェレミア=ゴットバルトにシオニーは目を丸くさせる。後ろに控えているヴィレッタも少々呆れた様子で苦笑いを浮かべている。

 

「いや、失礼。まさかそんな事を言い出すなんて……レジス外務大臣の騎士殿は中々ユーモアな方だ」

 

 どうやら今のブロリーの発言を冗談だと受け取ってくれたようだ。

 

(セーーーーッフ!!)

 

これにはシオニーも内心で深く安堵する。そしてこれ以上ブロリーが余計な口出しをしない内に話を切り替えようとするが。

 

「とはいえ、此方の説明不足でワザワザこのエリア11に来て下さったのだ。私の方からも一つ情報を提示しましょう」

 

「情報?」

 

「えぇ、クロヴィス殿下を暗殺した首謀者についてです」

 

「っ!!」

 

 ジェレミアから突きつけられた一言にシオニーは驚愕する。

 

「まさか、既に犯人が?」

 

「現在はここの政庁の地下にある独房で拘束しております。名は枢木スザク、旧日本の最後の首相枢木ゲンブの息子です」

 

「っ! まさか、このエリアを奪還せしめようと?」

 

「事の真意はまだ尋問中の為に定かではありませんが……名誉ブリタニア人になる事で軍内部を把握し、殿下暗殺に踏み切ったのだと」

 

「そう、ですか」

 

「誠に遺憾であります。クロヴィス殿下のお側に我々さえいればその御身を楯となってお守りしたものを……!」

 

 表情を暗くさせ、拳を強く握って悔しさを現しているのを見て、シオニーは目の前の男がただのブリタニアの力に縋る者ではないとその印象を僅かに変える。

 

「しかし、宜しいのですか? 幾らクロヴィス殿下と交流があったとは言え、我々にそこまで情報を流して……」

 

「構いませんよ。これは後ほどこのエリア11に流す情報です。それに彼には明日公開処刑を行いますので」

 

「っ!」

 

平然と処刑を口にするジェレミアにやはりコイツもブリタニアの人間かとシオニーは断ずる。

 

反抗する者には徹底した罰を。名誉ブリタニア人とは言え嘗ての首相の息子が祖国の為に仇敵の一人を討った。

 

その事実は植民地となったエリア11に住む元日本人だった人々から見れば英雄視されている事だろう。

 

だが、そんな彼の死を彼等に見せつける形として絶望をより強く与え、反抗する気概を根本から断つつもりだ。

 

 なんて悪趣味で残虐で効果的な方法をこうも簡単に思い付くのだろう。

 

「しかし、それでは彼を奪還しようと躍起になる組織も増えるのでは? ここエリア11には日本解放戦線を始めとした多くのゲリラ組織があると聞きます。そんな彼等がアストラギウスの傭兵を雇ったりすれば結構な戦力になるかと……」

 

「無論、その点に付いては既に手を打ってあります。犯人を護送し警護するのは我々純血派を始めとしたブリタニア軍。そしてユニオン軍からも要請を出しておきましたので警備は厳重にしております」

 

「成る程、つまりあわよくば彼を餌に食い付いた輩を纏めて狩るおつもりですか」

 

「その通りです。レジス外務大臣は政治だけではなく兵法にも詳しいのですね」

 

「そんな、ただ素人なりに考えたのが偶々当たりを引いただけですよ」

 

 ジェレミアのお世辞に社交辞令で返す。その後少しばかりの談笑を楽しんだ後、シオニーはある提案を切り出した。

 

「ジェレミア卿、クロヴィス殿下暗殺犯の護送警護に一人追加しても宜しいですか?」

 

「なんですと?」

 

「此方に控えているブロリーはナイトメアや機動兵器には乗りませんが生身での戦闘力は中々です。あなた方の万に一つもない戦略布陣には余計な人材かと思われますが………一つ、考えてみては如何です?」

 

「レジス大臣。幾らなんでもそれは……」

 

 シオニーの提案にヴィレッタが意義を唱えようと前に出るが横にいたジェレミアが手で遮る事でコレを制する。

 

シオニーの提案はブリタニアの……更に言えば純血派の人間にとって余計なお世話とも言える内容だ。

 

 何故なら彼等の真の目的はクロヴィスを暗殺した卑劣な犯人と日反抗を企む本人への牽制だけではない。純血派というブリタニア軍内部の派閥がより一層の存在力とその力を示す為のデモンストレーションなのだ。

 

純血派が犯人逮捕、純血派が混乱するエリア11を纏め上げた。純血派がテロリスト達を殲滅した。

 

 そうすれば純血派こそがブリタニアに必要な存在だと認識され、軍内部での発言権も大きくなる。

 

いずれは名誉ブリタニア人の廃止という純血派の最終的な目的も可能となるだろう。

 

だからこそ、ここで余計な異分子を紛れ込ませる訳にはいかない。この行事は“純血派”が指揮するからこそ意味と意義があるのだから。

 

だが。

 

「……お恥ずかしながら、我が国は弱小だけではなく警備体制もザルなのです。WLFなるテロリストに好き放題され、疲弊した我が国ではブリタニアや他の大国の方々に迷惑を掛けるばかり。今後同じ過ちを繰り返さぬよう私としても何らかの手段を講じねばならないのです」

 

 ポツリポツリと語り出すシオニー。今までの彼女らしからぬ弱々しい言動にジェレミアやヴィレッタだけでなく隣で控えているブロリーすら驚きに見開いている。

 

「世界を代表する“ブリタニア”、ひいては純血派を率いるジェレミア卿なら今後のリモネシアの警備体制に良き影響を及ぼしてくれる筈と恥を忍んでお願いしたいのです」

 

 テーブルに手を起き、深々と頭を下げるシオニーに流石のジェレミアも戸惑いを見せる。

 

そして。

 

「……分かりました。そこまで仰るのでしたらブロリー卿の分の警備体制を新たに組み上げて起きましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 了承してくれたジェレミアにシオニーは頭を下げながら礼を述べる。……その一方で。

 

(フッ、チョロいわね)

 

 頭を下げている状態で、それはそれは良い笑顔を晒していた。

 

その横でシオニーが目の前の二人に見えないように不敵な笑みを浮かべているのを何となく分かったブロリーは。

 

(シオニー……怖い)

 

 また一つ、シオニーに逆らえない理由が増えた。

 

 

 

 




今回、シオニー活躍の回。ブロリー無双はもう暫くお時間を!(cv親父ぃ

所で話は変わりますが若干のオリジナル感を出すためにとあるスピンオフ作品も少しばかり絡ませたいと思いますが如何でしょうか?

ヒントはコードギアス。


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