破界せよ、総てを   作:アゴン

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第十一話

 

 

「こんなものか」

 

 襲ってきたインベーダーをあらかた片づけたブロリーは上空から街を見下ろし、呟く。

 

未だに街のあちこちからは火の手が上がり、建物の多くは倒壊し、半壊している。しかし全てのインベーダーを消滅させた事により人々の混乱は徐々に静まり返っていた。

 

 もうここには用はない。インベーダーを駆逐した事によりシオニーの安全も確立され、混乱が収まりきれない今が姿を消すチャンス 。

 

ブロリーは街を背に飛び立とうとする……が。

 

『待ちやがれ!』

 

 突如鼓膜を刺激する大音量の声に、一瞬驚いてしまう。何事かと思い振り返ると、そこには赤いマントを羽織ったこれまた赤い角付きの巨人が此方を見ていた。

 

『テメェが噂の金色の男か、ジジィや隼人の戯言かと思っていたが……まさか実在していたとはな』

 

「…………」

 

『テメェの目的は何だ!? インベーダーを、俺の獲物を横取りしておいてタダで済むと……』

 

 赤いロボット───ゲッター1のパイロットである流竜馬は目の前の金色の男に向かって吼える。

 

しかし、そんな彼のイチャモンにブロリーが応える筈もなく、ブロリーは明後日の方へ向くと全身に炎を宿し、一瞬にして遙か彼方へと消えていった。

 

瞬きもする間もなく消えたブロリーに、竜馬は……ゲッターのパイロット達は戦慄する。

 

『おいおいマジかよ、消えちまったぞ』

 

『いや、恐らくは“消えた”んじゃない。俺達の脳が奴の去っていく姿を認識できなかっただけだ。……所謂、超スピードってヤツだな』

 

 ゲッターはゲッター線を研究する早乙女博士が作り出したスーパーロボット。未知なエネルギー源であるゲッター線で動くゲッターロボは並の人間では操縦できず、乗り手を選ぶ怪物である。

 

 それを乗りこなす彼ら三人の身体能力は、正しく超人と呼ぶに相応しいだろう。だが、そんな彼等でもブロリーの動きを捉える事は適わなかった。

 

間違いなく奴は人間ではない。かといって人間に敵対する存在でもなさそうだ。

 

 襲われた街の人々を守りつつ、インベーダーを殲滅していく彼の姿には弱い者を守る“正義の味方”にも見えた。

 

(ふ、我ながらバカバカしい事を考えるものだ)

 

 自嘲の笑みを浮かべ、らしくないことを考えた隼人は頭を振り、別の事に思考を移し替える。

 

『そろそろブリタニアの連中が此方に来る頃だ。竜馬、さっさと合流地点へ向かうぞ』

 

『…………』

 

『竜馬?』

 

 此方の声が聞こえていないのか、それともワザと無視しているのか、一向に返事のない竜馬を訝しげに思うと。

 

『あの、野郎……』

 

『おい、竜馬?』

 

『あの男、俺を、俺達を無視しやがった。ゲッターチームの、ゲッターロボに乗る俺達を………!』

 

通信越しから聞こえてくる竜馬の声。その声色からは並々ならぬ怒りが画面越しに伝わってきそうだ。

 

 竜馬はその外見同様に凶暴かつ乱暴な男、早乙女博士と出会う前はその力を己の欲のままに奮い、気に入らないものがあれば手当たり次第に潰してきた。

 

故に彼の周囲はいつも敵ばかり、血で血を洗う修羅のような生き様をし、それは彼にとって一種の誇りとさえいえた。

 

そして、それは竜馬同様他の二人にも言えており、だからこそゲッターに選ばれたのかもしれない。

 

 だが、その誇りが、プライドが、一瞬にしてボロボロにされてしまった。それも、たった一人の男に、だ。

 

『名前は知らねぇが、面は覚えた。次に出会った時は……覚えておけよ』

 

 理不尽とも呼べる竜馬のイチャモンに隼人と弁慶は呆れたように肩を竦め、三人はゲッターを三機の戦闘機へと分離させ、街を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、ちゃんと気付かれなかったでしょうね?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 ブリタニア・ユニオン政府が用意した避難所で合流を果たしたシオニーとブロリー。ブロリーの不安になりそうな返事にやや呆れながらも、シオニーはなら大丈夫だなと確信していた。

 

 ブロリーの身体能力に於ける速さは桁外れなパワーと同様に規格外である。

 

 人間の視力、より深く言えば脳が認識する瞬間すら捉えられず、ブロリーと対峙した者はまるで瞬間移動をしたように消えたと感じるだろう。

 

そんなブロリーの速さを仮に遠巻きで認識しようにも光学カメラでもその姿を捉える事は適わない。

 

 どこぞの光の巨人のように、どこかへ消えた時には既に自分の後ろにいる。つくづくこういう事に関しては便利な奴だなと思いつつ、シオニーはブロリーに向き直った。

 

「本来なら厳罰に処す……と、言いたい所だけど、事態が事態なだけに今回は大目に見ます。現に、私も貴方のお陰で助かったとも言えますからね」

 

実際。ブロリーが来なければ自分はインベーダーに喰われ、この世にはいなかっただろう。街を覆う程の大群で襲われておきながらたった被害が少ないのは間違いなくブロリーのお手柄だ。

 

 まぁ、間違いなく今後金色の男(ブロリー)について世間がまた騒がしくなることは間違いないが……。

 

 疲れた様子でシオニーのため息混じりに吐き出される台詞にブロリーは少し嬉しくなった。これで少しはシオニーに恩が返せたと、そう思えたから。

 

だが、すぐにその考えは払拭される。何故ならブロリーにはシオニーに対して報告しなければならない事があるからだ。

 

「シオニー、これからの事なんだが……やっぱり、会談はするのか?」

 

「どうかしらね。予定していた会場はインベーダーに壊されたし、先方からの連絡もないし、流石に今すぐ行うか事はないと思うけど」

 

「そうか」

 

「どうしたの? 貴方が何かを急かすなんて珍しいじゃない」

 

「…………実は」

 

 それからブロリーは出来るだけ人に聞こえないよう声を抑えてシオニーに話をした。その内容は全て、あの路地裏で現れた少年の事。

 

 自分をナイトオブラウンズに推薦させると言ったり、自分の事を知っているかのような口振りで惑わしたり、なにより……金色の男の、正体を知っていた。

 

「っ!!」

 

全てを、特に最後のブロリーの事について訊くとシオニーは目を見開く事で驚愕を顕わにしていた。

 

「………心当たりは?」

 

「ない」

 

 即答で返す辺り、本当にブロリーにも心当たりはないのだろう。唯でさえブロリーは嘘を付けないし、悪いことをしたら自分から謝り、疑問に思ったことは空気を読まずに口にするのが、この男の美点でもある。

 

そんなブロリーが断言したからにはシオニーは頭の中で他の要因を探る。

 

(ナイトオブラウンズに推薦できると言うからには間違い無くその少年はブリタニア皇帝に関する者、もしくは権力のある皇族。……可能性としてはシュナイゼルが一番高いけど)

 

 シュナイゼルの親族にブロリーが言うような少年はいない。ならば別の皇族か? 訊いた報告の中で一番歳が近そうなのが第五皇女カリーヌと、今はエリア11の極東事変で亡くなったとされるナナリー皇女。

 

二人の皇女がシオニーの脳内に浮かぶが、それはあり得ないと断ずる。

 

 カリーヌは皇女という立場を悪い意味で奮うお嬢様で、とてもナイトオブラウンズに推薦できるような発言力を持っているとは思えない。

 

 シュナイゼルだってカリーヌを“駒”として扱うならもっと確実な方法を取るはず。ナナリー皇女は先の極東事変で亡くなっているとされている為詳しい情報はないが、これもないだろうと判断する。

 

 そもそもブロリーが言ったのは少女でなく少年だ。しかも、ブロリーの拳を受けて平然としているという化け物。

 

 結局、ブロリーの話だけではその少年の正体を探り当てる事は不可能。自分に出来ることはブリタニアという巨大な帝国をより用心する事を心構えるだけ。

 

「分かったわブロリー。その少年に付いては私の方で調べるから、貴方も日頃の自分の行動に注意なさい」

 

「あぁ、分かった」

 

 自分の言葉に頷き、理解するブロリーにシオニーはちょっとだけ逞しく思えた。出会った当初に比べ、少しずつ自分に出来る事を考え、行動し、時には反省しながら変わっていくブロリーに、シオニーは何だか拙い弟の成長を見ている気分になった。

 

「あぁ、此方にいましたかシオニー=レジス外務大臣」

 

「あなたは、確かシュナイゼル殿下の……」

 

「カノン=マルディーニと申します。レジス外務大臣が此方にいるとお聞きしましたので、此方に伺わせていただきました」

 

 ブリタニア軍の制服を身に纏う美男性。カノンと名乗る人物は文官としてブリタニアに名を連ね、シュナイゼルの側近として活躍する実力者だ。

 

そんな人物が、ワザワザこんな所にまで来て自分に一体何用なのだろうか?

 

すると、カノンは辺りを見渡し、此方に視線が向いていない事を確認すると、シオニーに顔を近づける。

 

一瞬、綺麗な顔立ちをしているカノンにドキリとしてしまう。男でこれだけの美貌を持つのだ。ブリタニアという国は美男美女が多い国なのかもしれない。

 

 などと、どうでも良いことを考えていると。

 

「クロヴィス殿下が何者かに暗殺されました」

 

「!?!?」

 

 とんでもない爆弾発言が耳元で囁かれた。

 

暗殺された? あのクロヴィス殿下が?

 

ほんの数日前までは会談で同じ席に座っていた人物の悲報にシオニーは目を見開いて驚愕している。

 

 ブロリーの方は良く聞こえなかったがシオニーの様子ではただ事ではないのだと察し、カノンの方へと見る。

 

そしてシオニーから離れるとカノンはその美貌を真剣な表情へと変化させると。

 

「そして、シュナイゼル殿下からあなた方……いえ、そこのブロリー様にご依頼があると」

 

「俺?」

 

「はい。貴方には再びエリア11に赴き、犯人の逮捕に協力をお願いしたいのです」

 

 その言葉はブロリーに対し、なんとも断りづらい内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄様、本当にスザクさんが……」

 

「そんな筈はないさ。アイツがそんな事する奴じゃないって、ナナリーだってよく知ってるだろ?」

 

「は、はい。そうですよね。きっと、何かの間違いなんですよね」

 

「当たり前だろう。きっと、皆も分かってくれるさ」

 

「はい……」

 

(とはいえ、やはりアイツを助け出すには正攻法では不可能だ。ならばやはり使うしかないだろうなこの、“力”を)

 

 とある日、少年は“力”を得た。何者も平伏す絶対的な力を。

 

それは『王の力』。それを得た少年は魔王となり、やがて世界を巻き込む戦いを引き起こす。

 

ならば相対させよう。『王の力』と『純粋な力』性質は違えど正しく力であるそれらを……。

 

果たして打ち勝つのは────どちらだ?

 

そして。

 

「皆、訊いてくれ! 先日俺達に通信を入れてきた男から連絡が入った!」

 

「ホントかよ扇!」

 

「あぁ、指定する場所はこの後報せるみたいだから他のメンバーにも報せてくれって」

 

「ケッ、どうせブリキ野郎共の罠なんじゃねぇのか? 正体現さずに声だけなんて信用出来るかっての」

 

「勿論それも検討したさ、だが声の主はそれだけじゃなくその内容を提示してきた」

 

「内容?」

 

「あぁ、内容は───『奇跡を起こす』だそうだ」

 

「奇跡だと? 日本解放戦線の?」

 

「いや、違うでしょ」

 

「やれやれ、どうやら声の主様は救世主らしいな。死神の俺とは相性悪そうだ。お前もそう思わねえか」

 

「知らん。俺は俺の任務を果たすだけだ」

 

「ありゃま。そっちのバトリングの兄ちゃんは………て、訊くまでもなさそうだな」

 

「…………」

 

 機械の巨人を駆る少年達と、地獄を見てきた男、彼等との激突の瞬間は……近い。

 

 

 




ここ最近私生活が忙しくて更新出来ませんでした。
すみません。
ここ暫くは更新が停滞しそうです。

本当に申し訳ありません。

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