インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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そういえば最近IS要素皆無だったので、今回はIS関連のシーンを入れてみることにしました。


EP-06 平和の中の異常

 IS学園・グランド。

 そこにはISスーツ…見た目は今風のスク水だが…を着た1組と2組の少女たちと織斑、そして、露出全開のISスーツとは対照的な、航空自衛隊の戦闘機パイロットが着るような、耐G機能を備えたツナギのような外見のフライトスーツに、籠手型やブーツなどに装甲ブロックの着いた、戦略機やISのダウングレード版である強化装甲殻を操縦する際に着る…一応ISの操縦も可能な、09式強化装備服(特務自衛隊仕様)を着込んだ第2学園守備隊の面子…千尋たちが整列していた。

「これより1、2組合同の実習を行う」

 織斑千冬が、号令をかける。

「まずはISの飛行訓練を行う…と、同時に特務自衛隊の強化装甲殻・18式打鉄改二の訓練も行う」

 続けて言う。

 強化装甲殻は間接思考制御やスレイヴ方式で操作する、構造自体はISとそう変わらないため、ISとも訓練はできる。

 違いがあるとしたら、それはISコアを使っていないために、PICがなく、燃料増槽内蔵型の跳躍ユニット、さらには予備増槽なしには、飛行が出来ない上に絶対防御が無いため、基本的に90式戦車のセラミック複合装甲で装甲は作られているし、何より装甲が更に追加されている。

 元々ISとは違い、”純粋なパワードスーツ”として作られた事、生産コストを安価にする事、管理を厳重化して盗難を防ぐ為に拡張領域も、飛行能力も、量子変換して携帯するという能力も切り離して、作られた代物だった。

 もっとも、千尋たちが使う予定の18式打鉄改ニは自衛隊の使う、装備であるが故に軍事仕様で、腕には12ミリバルカン砲まで内臓されている他、対IS用に、強化された跳躍ユニットのスラスターを用いた高機動やセンサーの強化が施されたチューン(改造)型だ。

 ISより、確かにカタログスペックでは劣るが、ISより安価に生産でき、ISよりパイロット候補は多く補充も効くし、何より性別でパイロットを選ばない。

以上の理由で各自衛隊や各国軍に配備され、ここIS学園の警備課で最も多く使われているのが、ISではなくこの強化装甲殻だった。

 …それでもISよりカタログスペックで劣る為に、結局はISに乗りたがる輩が多い…というのが現状だった。

 というか女にとってはISより格下の強化装甲殻に乗る奴は落ちこぼれ、と認識される ケースが多かった。

 致命的欠陥が多過ぎるISと比べれば、性能は劣るものの、機能は充実し、安定している強化装甲殻の方が、”現実的に見れば”、良いと思うのだが…。

「強化装甲殻操縦者の皆さんは装着準備にかかって下さい‼︎」

 強化装甲殻の教導担当である、山田真耶が言う。

 強化装甲殻はISのように量子変換ができない為に、展開能力の即応性も、ISに劣る。

 現に彼方では千冬に指名された織斑が、

「こい。白式」

 先日政府から支給された専用機・白式を、2秒足らずで展開する。

 一瞬、織斑がドヤ顔をして、女子が黄色い悲鳴を上げるが、

「遅い。熟練のIS乗りなら1秒とかからず展開できる」

 千冬がその、少し調子に乗っているような織斑に切り込むように言い、隣の鈴が自身の専用機・甲龍を纏いながら何処か、織斑を射殺すような目線を、向ける。

「な、なんでそんな目で見てるんだよ?鈴?」

 射殺すような目線には気づくが、持ち前の鈍感スキルのせいで、何故なのかは、気付かない。

「…知らない」

 それに、鈴は膨れる。

「さっさと上がれ、2人とも」

「「あ、はい‼︎」」

 織斑の白式と鈴の甲龍が、飛翔をはじめた。

 そうしていると千尋とセシリアが打鉄改ニを纏う。

 …言い忘れていたが訓練用の強化装甲殻は今は2機しかいない。

 一介の生徒に全員分の訓練機を用意する必要はない。時間配分を考えて使いまわせばいいだけだから。

「ではまず、短距離跳躍を行って、そのまま滞空して下さい」

 真耶が、指示する。

 短距離跳躍とは、まぁ簡単に言えば、ある程度の高度まで、跳躍ユニットを吹かして一時的に舞い上がる事だ。

 もっとも、飛ぶわけじゃないから、これは起伏の多い地形の場所で、激しい段差を乗り越える為の動きだ。

 飛行することもできるが、それをすれば機体の推進剤がすぐ無くなってしまう。

 千尋とセシリアは真耶の指示された通り、跳躍ユニットを吹かして、ジャンプする。

「オルコットさんスラスターを吹かし過ぎです‼︎もっと抑えて‼︎」

「は、はい‼︎」

 スラスターを吹かし過ぎのセシリアに、真耶が怒鳴る。

 あまりスラスターの推進剤を使い過ぎてしまっては、後から訓練を行う奴らの分の推進剤も消費してしまうから。

 一応、給油車両が待機しているから推進剤はすぐ補給できる。

 だが補給するにも時間がかかる。

 そうすれば他の者たちの訓練時間を削ってしまう。

 1人のミスが全体に影響する。

 戦略機のシミュレーター訓練の時と同じだ。

 千尋は戦略機で慣れているからスラスターの調節は朝飯前だ。

 とは言っても、スラスターの出力調整には神経を集中させられる。

 バランスを崩せば、重力に引かれて即落下。

 運が悪ければ頭から真っ逆さまに落ちて、首の骨を折るか、頭そのものが、潰れる。

 さらに運が悪ければ、跳躍ユニットのスラスターの炎が増槽タンクの推進剤に引火して爆発…そして周りの奴らも巻き添えを食らって、死ぬ。

 ISとは違ってPICがない分、かなり、気を配らなくてはならないのだ。

 女子がISに乗りたがる理由が、分からない訳でもない。

「…はい、2人とも降りて来て頂いて良いですよ」

 真耶が、言う。

 千尋もセシリアも、スラスターの出力を徐々に下げていき、地面に、脚部ユニットの底をつける。

「…ふぅ…」

「はぁ…はぁ…」

 千尋は溜息をつき、セシリアも緊張で息を止めていたからか、酸素を取り込む。

「…な、なかなか神経をすり減らしますわね…コレ」

 セシリアが、息絶え絶えの状態で言う。

 体力を使った訳ではないが、呼吸を止めるくらい集中していた為に肺に二酸化炭素が溜まりに溜まっていたのだ。

「そりゃあな…戦略機の操縦とやり方は同じでも、大きさとか装甲の強度とか用途とか、全然違うから、神経すり減らすよ」

 千尋がそれに答える。

「オルコットさんは少し推進剤を無駄に吹かし過ぎですね…篠ノ之くんは推進剤には問題はありません。ただ時々バランスを崩しそうになるので、注意が必要です」

 真耶が言う。

 強化装甲殻は戦略機みたいに機体のバランス制御用の補助スラスターなんて贅沢なモノはない。

 だから、跳躍ユニットのみでバランスを取らねばならないのだ。

 千尋は戦略機の補助スラスターで姿勢制御することに慣れているため、跳躍ユニットのみでバランスを維持するのは、未だに難しかった。

 もっとも、ISのように飛行や滞空を目的としないから、今回の訓練内容は不要と言えば不要だが、知っていて損はない。

 いざという時必要になるかもしれないからだ。

「2人の反省点は以上ですね。次回には、克服できるように頑張って下さい‼︎」

 笑みを浮かべながら、言う。

「「はい」」

「では2人とも強化装甲殻を解除し…⁉︎」

 真耶が言いかけるがそれを遮り、空の方を見上げる。

 IS実習の方だ。

「ちょ、どいてくれぇぇぇぇぇ‼︎」

 情けない声を出しながら降下…というか、あろうことか減速せずに加速しながら、白式を纏った織斑が落下してくる。

 瞬間、

「皆さん伏せて‼︎」

 真耶が強化装甲殻の実習組の面子…第2学園守備隊の生徒に向けて叫ぶ。

 神楽は反射的に伏せ、簪は本音が押し倒して覆い被さる形で伏せ、箒は近くにいた真耶が背中を押して、伏せさせた後、真耶が庇うように覆い被さる。

 セシリアと千尋は跳躍ユニットで距離を取ろうとする、が、直後、凄まじい爆音と共に織斑は地面に激突し、地面が抉れ、衝撃で地面から幾つかの破片が曲線を描きながら飛んで来る。

 しかもその先には、箒と真耶が、いた。

「⁉︎クッソ‼︎」

 瞬間、千尋は強化装甲殻の跳躍ユニットを全力で吹かし、地表高速移動をして地面を滑るように移動して、箒と真耶の前方に立ち、腕をX字に交差させて、破片を防ごうとする。

 瞬間、銃弾並みの速度で飛んで来た大きさ2メートル、暑さ30センチの破片が腕に直撃し、装甲を通して、衝撃が浸透し、腕に鋭い痛みが走る。

 千尋はそれに顔を顰めるが、直後に飛んできた大きさ20センチ、暑さ6センチの破片が、千尋の頭部に直撃し–––––強化装甲殻の中でいちばん装甲が薄い頭部装甲を抉り、千尋の左目の瞼から額にかけて、皮膚を切り裂く––––––と同時に衝撃が脳を揺らし、皮膚を裂かれる鋭い痛みと脳震盪による鈍い痛みが千尋を襲う。

「ぐっ…」

 一瞬、後ろに倒れそうになる。

 だが、切り裂かれた額の傷口に涼しい風が当たり、それが脳を刺激した事と、自身の犬歯を唇に食い込ませて出血させた痛みで脳を刺激し、意識を安定させて、耐える。

「ッ……は、ぁ、くそ…痛っ…てぇ…」

 千尋が、前のめりになりながら、痛みで顔を歪めて呟く。

 …当の織斑はというと、地面に深さ3メートルの大穴を開けながらも、無傷だ。

 ISの絶対防御さまさま、といったところか。

 対する強化装甲殻はというと、千尋の打鉄改ニが腕部被弾及び左腕内出血、頭部装甲破損及び頭部裂傷・出血。

 見れば、セシリアの打鉄改ニも後方の給油車を守る為に盾となり、左肩部を損傷・左肩脱臼。

 という有様だった。

 防御装備の追加装甲シールドが有れば、少しはマシな損害だったろうが、まさか入学試験で教官を倒した織斑がこんな事態になるとは予想だにしなかった為に今の打鉄改ニには、装備は近接短刀しかなかった。

 しかも落下した地点や角度が原因で、破片の大半が強化装甲殻側に飛んできていた。

 IS実習組にも破片が落ちてないわけではないが、大半が当たってもほぼ無害なサイズや、千冬が打鉄の刀で撃墜していた。

「織斑くん大丈夫〜?」

 女子たちはそんな風に気楽な声で大穴を開けた織斑に話しかける。

「誰が大穴を開けろと言った、馬鹿者」

 千冬は周りの女子がいるからか抑えているが、顔には明らかな怒気を孕んでいた。

「…ったく、なんでこんなんも分からないのよ…こんなの感覚で出来るでしょう?」

 鈴が言う。

「いや〜あはは…まさかこんなんになるとは思わなくて…」

 織斑は、ヘラヘラ笑いながら、応じる。

 瞬間、真耶がどいた事で起き上がって、IS実習組の一連の会話を見た箒は、寒気を覚えた。

 …異常だ。あまりに異常だ。

 箒は思う。

 今、人が死にかけたのに、実際、大怪我をした人がいるのに、なんだ、彼奴らの態度は––––––

 女にとって落ちこぼれ扱いの強化装甲殻の実習組には目もくれず––––––いや、何人かの、”数える程度の女子”はこちらを心配げに見ている。

 だが、助けようとはしない。

 織斑千冬の授業だから、行きたくても行けないから。

「…狂ってる」

 ISの絶対防御やPIC、IS不敗神話や女尊男卑に感化された女子たちを、『兵器を扱っている自覚の無い人間』を見ながら、箒は吐き捨てた。

 

「2人とも大丈夫ですか⁉︎」

 真耶が千尋とセシリアを交互に見ながら、叫ぶ。

 真耶は千尋にかかり、セシリアは後方に待機していた衛生兵がかかっていた。

 …もう、訓練どころじゃない––––––‼︎

 真耶は内心叫ぶと、千尋の打鉄改ニを、駆け寄ってきた工兵と共に、手慣れた作業で外し始める。

 セシリアの打鉄改ニも、衛生兵について来ていた工兵が外し始める。

 幸い、フレームが歪むほどの損傷は無かったため、あっさり外す事が出来た。

「皆さん、2人を保健室まで運びます‼︎篠ノ之さん、四十院さん、手伝って下さい‼︎」

「あ、了解‼︎」

「了解‼︎」

 真耶が箒と神楽に言う。

「すみませんが更識さんと布仏さんは整備や工兵の皆さんと強化装甲殻の回収を‼︎彼らの 指示に従って下さい‼︎」

「あ、は、はい‼︎」

「り、りょ〜かい…」

 真耶は、キビキビと指示を下す。

 そうして千尋を真耶と箒が担ぎ、セシリアを神楽が担ぎながら、保健室に運んでいった。

 

■■■■■■

 

 IS学園・保健室。

 今日は学園の保健室にいる教師が急遽都内の病院に行っているため、医師免許を持っている真耶が治療に当たっていた。

「良かった…傷も浅いです。縫う必要は有りませんね。絆創膏をして、その上から包帯を巻いたら大丈夫です」

 千尋の傷を手当てしながら、真耶が言う。

 消毒する時に千尋は傷口に染みるために涙目になって顔を顰めるが、我慢して下さい、と真耶に言われて、ジッとするしかなくなる。

「…随分慣れた手つきでしたね…」

 神楽が真耶に言う。

「ええ。今回みたいなのでは有りませんが、強化装甲殻の訓練中の事故で負傷した人を、フレームを剥がして治療した事は、たくさん有りますから。」

 真耶が神楽に応える。

「…当然、私の手の中で事切れてしまった人もいます」

 真耶は少し哀しそうな顔をして、言う。

「私が手を伸ばすより前に亡くなった人も…います」

 泣きそうな顔をして真耶は言う。

「……」

 全員が沈黙する。

 つまり彼女は、そんな地獄を、本来の兵器の恐ろしさを見てきたのだ。

 救った命、救えなかった命、そんな様々な命も、見てきたのだ。

「…今回は、救えて良かったです……」

 真耶はホロリと涙を流しながら、言う。

 真耶も真耶なりに苦労しているのだ。

 千尋の手当てが終わると、今度は脱臼したセシリアの治療を始めた。

「わたくし…」

 セシリアがポツリと言う。

「わたくし…ISがあんな危険なものだと、初めて知りました…」

 そう、呟く。

「絶対防御があるから大丈夫だって…事故をしても大丈夫なんだって…でも、違ったんですね……ISを纏った人間は大丈夫でも周りの人たちは………」

 先の事故を思い出したのか、セシリアは少し震える。

 確かに絶対防御があればISを纏った人間の死亡率は低くなる。

 だが周りの、生身の人間には既存兵器同様、被害が出てしまうのだ。

 セシリアは、それを今回改めて思い知らされた。

 いや、セシリアだけではない。

 強化装甲殻の回収を指示された簪や本音、IS実習で数える程度だったが強化装甲殻の実習組を心配げに見ていた女子たちも、改めて知った。

「そうです。みんな、不思議な事に、絶対防御があるからって言って周りの危険に配慮するという考えが麻痺してしまうんです…何故か…」

 真耶は微笑みながらも、何処か憂う様な表情で、呟いた。

 

 

■■■■■■

 

 ロリシカ軍

 マガダン統合基地

 

 リーナ・ベシカレフ伍長は、ユーゲン・ストラヴィツキー軍曹に連れられて、基地内を見学していた。

 …こんな小さい子に先導されるとなんか恥ずかしいなぁ…。

 リーナは、ふと思う。

 それもそのはずだろう。

 リーナは身長169センチ。対するユーゲンは身長160センチと、9センチも差があるのだ。

 そして、今は戦略機ハンガーに、2人はいた。

 先ほどは試しにシミュレーターを使わせてもらって戦略機の動きに慣れてから、実戦形式の訓練をしたところ、開始から僅か2分58秒で撃墜された。

 思わずリーナは、何が起きたのか理解出来ずに唖然としていた。

 原因は”高高度飛行”をしていたところにバルゴンの”大出力生体レーザー”を放たれて撃墜された事だった。

「…さっきはすみませんでした。低空飛行はロリシカの戦略機乗りの間では常識なので…つい、忘れてました」

 事前に注意するのを忘れていたユーゲンが、謝る。

「…え?あ、いいんです軍曹。…それにしても、こちらにはISが1機もいないんですね…代わりに戦略機や強化装甲殻ばっかり…」

 基本、ロシア軍の基地では必ず1機はいたから、逆にいない事にリーナは驚きだった。

「この国では、どの基地にもいないと思いますよ。なんせ『女しか乗れない』だの『無駄に高い』だの…それにロリシカにはISを導入して教育するだけの予算とかがありませんし…そもそも、アラスカ条約に署名してないからISを導入できませんし…」

 ユーゲンがリーナに言う。

 なるほど、それなら無理だ。

 とでも言うような顔をしてリーナは納得する。

「…でも、これだけ危機的な状況にあるなら…ロシア軍だって助けてあげたって良いのに…せめて援護射撃に核ミサイルでも…」

 リーナは何気ないように言うが、

「同志伍長‼︎」

 ユーゲンは叱責するような顔をして、叫び、リーナの言葉を遮る。

 思わず、リーナは黙ってしまう。

 リーナが周りを見ると、全員の視線が自分に向けられていた。

 …まるで射殺すような、目で。

 不穏な空気が、辺りを包む。

「え…?え、あ、あの…」

「おい貴様––––––」

 困惑したままのリーナに、司令部勤務の士官が声をかける。

 瞬間、ユーゲンがリーナの手を掴み、

「す、すみません‼︎あの、彼女少し頭が可哀想な人で…」

「え、私頭がおかしくなんて––––––」

「しっかり指導しますから、ご安心ください‼︎」

「お、おい待て‼︎」

 しかしその士官の制止を無視して、ユーゲンはリーナの手を掴んだまま、全速力で走りながら、ハンガーを後にして、兵舎に駆け込んだ。

 同時にユーゲンは荒く息を吐き出し、深呼吸をして息を整える。

 今の言動は、たちまち噂として広がってしまう。

 池に投げ込んだ小石が、水面に波紋を広げるように。

 間違いなく政務将校であるイリーナの耳にも入る。

 そうしたらどうなるか–––––考えただけで頭がいたい。

「…ベシカレフ伍長」

「は、はい。」

「今後はロシア軍に増援を求める、とか核ミサイルを使う、とか言っちゃダメです。絶対に‼︎」

 ユーゲンは先ほどよりは穏やかだが、半ば脅迫するような声音で言う。

「ど、どうして––––––た、確かにロシアは女尊男卑だし、ロリシカと仲は悪いですけどあんな怪物の存在を知ったら…それに、あの怪物に抗うにはそれなりの物量が…」

「ロリシカを救済という名目で占領し、併合される––––––どうせ、そういうオチです。これからは、そういうことを口にしちゃダメです。特に人前では」

 ユーゲンが言う。

 …すると、廊下の向こうで、部屋の入り口で荷物を整理している少女とそれを冷ややかに見ている少女がいた。

 ユーゲンは、そちらに向かう。

 リーナはそれに疑問を浮かべるが、ユーゲンについて行く。

「一体、何をしているの?貴女は?」

 冷ややかに見ている少女が、荷物を整理している少女に、問う。

「見て分かんないの?…あいつの遺物整理よ……手紙を書いて、あいつのご両親に届けるのよ……」

 今にも泣きそうな顔で、少女––––––ヴェロニカ・ジトワ伍長は言う。

「随分と、ご苦労ね」

 それに少女––––––ソフィア・ドモントーヴィッチ伍長が、冷たく言い放つ。

「…あんた、やっぱりおかしいよ…人って普通、死んだら悲しむのが普通でしょ⁉︎悔しいと思うのが普通でしょ⁉︎けどあんたは––––––」

 ヴェロニカがソフィアに怒鳴る。が、

「悲しんだところでどうなるっていうの?何か変わる?」

 ソフィアがやはり冷たい、それでいて侮蔑を含んだ声音で聴く。

「迷惑なのよ。あんなにあっさり死なれちゃ。無駄死にも良いところ」

 長い銀髪に囲まれた、まるで氷像のように冷たい顔で、言い放つ。

「なに、いって––––––そんな訳ない‼︎あいつは、ワシーリーは、私を助けて––––––」

 ヴェロニカは声を震わせながら、涙を零しながら叫ぶ。

「だから、無駄死になの。ワシーリーじゃなくて、”あんたが死ねば良かった”のに」

「––––––ッッ‼︎」

 しかし、やはりソフィアがヴェロニカに冷たく、現実を言い放つ。

「友愛?仲間意識?お人好し?どうでも良いけど、無意味な死に方されちゃ困るのよ」

「…し、死んだ仲間を侮辱して…それでも同志なの⁉︎弔いの気持ちは––––––」

「––––––ワシーリーを巻き込む形で殺したのは貴女でしょう?…僚機だった私にも非はあるでしょうけど、大体の原因は貴女じゃない。…責任転嫁するの、やめてくれる?」

 掠れ声で言い返したヴェロニカを、ソフィアは無造作に切って捨てる。

「––––––この際だからハッキリ言うけど、”戦争神経症”の貴女みたいな”頭の壊れた兵士”は邪魔なのよ。中隊の死傷率を上げるから」

「……あっ…うぅ…」

 ついにはヴェロニカは泣きながら黙り込んでしまう。

「…少しは他の兵士を見習って、感覚を麻痺させて、生き残ることだけを考えなさい。でないとやっていけないわ…まともすぎるから貴女は、おかしくなるのよ」

 ソフィアが言い放つ。

 それと同時にソフィアがユーゲンとリーナに気付く。

 ヴェロニカもソフィアの視線につられてユーゲンとリーナを見る。

 ユーゲンはいつもの事だから、もう慣れた顔をしているが、リーナは、突然目の前で起きていた修羅場に呆然としていた。

「その子…補充の……?」

 ヴェロニカが涙を袖で拭いながら、ユーゲンに聴く。

「はい。…その、出身はロシアですが…」

 ユーゲンはヴェロニカに応える。

 すると、ロシア、という単語に反応したソフィアが射殺すような視線をリーナに向ける。

 それにヴェロニカが反応して、

「あんた、今度はこの子を盾として使い潰す気じゃ–––」

「––––––その言葉、そっくりそのまま返すわ。」

 ソフィアに食って掛かるが、ソフィアはやはり、冷たい顔を一切変えずに冷たく言い放つ。

 いつも、こんな光景だ。

 ソフィアとヴェロニカは常に犬猿の仲で、メドヴェーチ中隊の隊長であるニコライも手を焼く程だ。

 数秒の睨み合いと沈黙の後、ヴェロニカはソフィアを無視して、リーナに近付く。

「ごめんね。恥ずかしい修羅場見せちゃって…」

 リーナは怯えながらも、聴く。

「あの、貴女もメドヴェーチ中隊の…?」

「そう、ヴェロニカ・ジトワ伍長。…最近は、お休みしてるけど…」

 辛そうな笑みを浮かべて、言う。

 すると、視界にBDU姿のイリーナと、部隊古参人の1人であるエリザベータ・マツナガ曹長が視界に入った。

「ユーゲン君、その子が補充の…?」

 エリザベータが聴く。

「はい。マツナガ曹長…あと、自分を君付けで呼ぶのやめて下さい。子供じゃないんですから…」

「え〜…そんな事言われると、お姉さん寂しいなぁ…で、リーナちゃんで良いかしら?私はエリザベータ・マツナガ曹長。黄色人種だけど、れっきとしたロリシカ人よ。日系人の。名前は長いから、エリザ、で良いわよ。よろしくね。リーナちゃん。」

 エリザは微笑みながら、言う。

「あ、は、はい‼︎よろしくお願いします‼︎」

 リーナがエリザに言う。

「……さて、自己紹介は終わったな」

 イリーナが言う。

「では本題に入る……貴様よくも我が軍の面子を潰したな‼︎」

「がっ‼︎」

 イリーナはリーナの襟元を掴んで強引に引き寄せる。

「貴様の言動は扇動罪にも等しいぞ‼︎国家の敵とみなされたいのか⁉︎」

「そ、そんな…わ、私は…」

 リーナは呆然としながらイリーナを見つめていた。

「バルゴンを倒すためにロシアの力を借りる?何故私たちが、核兵器や毒ガス、無差別爆撃で我が国の国民を大量虐殺するような国と––––––”赤い帝国(ソヴィエト)の末裔”と手を組まねばならない⁉︎」

 イリーナの激昂を誰も止めない。

 普通のロリシカ人なら、これがロシア人に対する普通の反応なのだ。

「で、でも…核兵器でも使わなきゃ、あんな怪物…」

「核だと!?貴様あの悪魔の兵器を是とするのか!?」

 イリーナの怒りがさらに高まる。

「だ、だって、それでも使わなきゃ……それに、ロシア軍の物量があれば……そ、それに自分が正しいと思ったことを主張して何が悪」

 瞬間、乾いた音が響いた。

 ソフィアが、右手でリーナの左頬を叩いたのだ。

突然の事に、全員が固まってしまう。

「え?…あ、あの、なん…痛ッ!!」

 次の瞬間、ソフィアが左手の甲で右頬を殴りつけ、床にリーナは倒される。

「…ロシアに手助けしてもらえるって…ホントに思ってるの?貴女?」

 冷たく、見下しながら、聴く。

「そ、そうです‼隣国の惨状を知れば、きっとロシアだって…がッ‼」

 言い終わらないうちに、顔面にソフィアが蹴りを入れる。

「口先だけのガキって、嫌いなの。それに、ロシアに従属しようとするあんたみたいな危険思想の持主、ここで殺すべきかしら?」

「ッ‼同志伍長‼もういいでしょう!?」

 ユーゲンが叫ぶ。

 リーナは先の蹴りで意識を失っていた。

「…ふん」

 ソフィアはそっぽを向いて立ち去り、

「ちょっとあんた!!」

 我に返ったヴェロニカがソフィアの後ろ姿に向けて怒鳴るが、完全に無視される。

「…少し熱くなりすぎたか…」

 イリーナが後の祭りとなっている現状に頭を抱える。

 どうやら本人はこうまでするつもりはなかったらしい。

「…ストラヴィツキ―軍曹」

「……はい。」

「貴様なりでかまわんから、すまんがベシカレフ伍長に政治的指導をしてくれ・・・」

「……了解」

 ユーゲンは応じる。

 イリーナが先ほどのように熱くなり過ぎたこと、ソフィアが暴行を加えるまでロシアを嫌悪しているのは、理解はできる。

 何故なら、2人ともロリシカの独立戦争時にロシア軍の攻撃で大切なものを無くしているから。




お、おわった…疲れた…

さて前半はIS学園。
後半はロリシカ軍の話でした。

よくよく考えたら一夏の墜落って絶対負傷者でてないとおかしいレベルですよね・・・今回は汎用性では強化装甲殻はすぐれているけど女性がISに乗りたがる理由も付け加えて一夏の墜落事故を描くと同時に、学園の異常さも書きました。

イリーナとソフィアがあそこまでロシアを嫌悪するのは、次回書きます。

不定期ですが次回もお待ちください。

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