インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版 作:天津毬
皆様お久しぶりです。天津です。
今年から社会人になってしまい、仕事の疲れから投稿頻度が大幅に低下してしまった事、誠に申し訳ございませんでした。
…今回から3話ほど、福音事件まで前日譚的なストーリーが続く事になります。
…あと、本格的にモナーク機関が物語に絡んで来ます。
2021年7月7
神奈川県新東京箱根市(旧箱根町)
芦ノ湖南岸・白浜口遊泳場
––––––そこには、深紅のISを誇らしげに黒い髪の少女にプレゼンテーションするピンク髪のウサギ頭の女…という、シュールな光景があった。
「第四世代型IS紅椿!私が対バケモノ用に心血を注いで作り上げた最高傑作にして、箒ちゃんが乗ること前提の最終決戦兵器!。
右手に持ってる『雨月』と左手の『空裂』は単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出させ連続して敵を蜂の巣に!射程距離はなんとアサルトライフル並で––––––」
「射程が短過ぎます。対巨大不明生物用なのに有効射程距離500mなんて話になりません。せめて有効射程を西側の艦艇のほとんどに搭載されているCIWSと同じ、2km以上にしてから出直して下さい。
それに連射性能、速射性能どちらも先述のCIWSや戦闘機のバルカン砲のほうが上です。引き金を引くだけ構いませんから。
だというのに、兵器において極めて重要な整備性とそれに伴うコストパフォーマンスが悪い専用装備では弓矢以下です。まだ打鉄の大型近接長刀に
「つ、次に『空裂』ね!こっちは対集団仕様の武器で斬撃に合わせて帯状の攻勢エネルギーを放って攻撃するんだよ!振った範囲に自動で展開するから超便利––––––」
「刃が長過ぎます。重心が不安定となって振りかぶるまでに時間が掛かりすぎ、有効射程範囲内から逃げられてしまいます。
そして振った範囲と言うことは標的が前方にいなければ効果は見込めないということですよね?
宇宙空間での使用を想定して設計されているISの戦闘スタイルは三次元立体機動が基本です。上下に逃げられたら掠りもしない上に、大振りで隙だらけになっては敵の射撃による反撃に対処することが限りなく困難です。
加えて言えば、閉所での戦闘も有り得る対巨大不明生物戦では取り回しすら出来ずお荷物にしかなりません。」
「そ、そ、それだけじゃないんだよ!箒ちゃん!なんとなんと!この紅椿は全身の装甲を天才の束さんが作ったオリジナル兵装『展開装甲』にしてあるのです!システム最大稼働時にはスペックデータはさらに激アツ倍プッシュに––––––」
「消費する電力…エネルギー量まで倍になる、などというオチまでないでしょうね?ただでさえIS唯一…いいえ、
1体1で連戦の無い戦闘である事が前提のモンド・グロッソならいざ知らず、通常戦闘、それも、対巨大不明生物戦という不測の事態が恒常的に発生する状況の最中にエネルギー切れなんて起こされたら目も当てられません。動かないIS…いいえ、動かない兵器なんてただの廃材、あるいは棺桶です。」
「ち、ちなみに紅椿の展開装甲は即時万能対応型で、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能。つまりパッケージ換装を必要とせずにあらゆる戦況に対処出来るという現在絶賛机上の空論中のもので––––––」
「机上の空論中と言うことは、運用やこの機体を用いた戦術、味方同士の連携に至るまで何一つ研究されてないのですね?
1から研究を始めるとしても私の専用機である以上、私は研究機関の実験動物扱い、つまり––––––私を被験体にしての人体実験ですか、そうですかそうですか……。」
「ほ、箒ちゃん…目、目が怖いんだけど…」
「貴女がどんな風に私を見ているか、よーく分かりました。
––––––それと、高性能な武装は完全に使いこなす為には高い技量と膨大な時間と予算が求められます。
世界最高性能で最新装備とくれば、それこそ織斑先生でもない限り使いこなせませんが…これは私の専用機なんでしょう?私は1年で適正ランクCで実戦訓練においては––––––特別好成績と言うわけではありません。
––––––あらゆる面で信頼性マイナスですよ、この新型機。」
そこには、ぐうの音も出ない程に顔を引きつらせた天災と。
それをただ冷ややかに見る少女––––––箒の姿だけがあった。
(––––––なんでこうなったんだっけ…。)
思わず千尋は
◇◇◆◇◇◆◇◇
––––––3日前。
2021年7月4日
新東京箱根市桃源台
市営芦ノ湖水上バス桃源台埠頭停泊所
『桃源台埠頭––––––桃源台埠頭です。新東京箱根市営芦ノ湖水上バスをご利用いただき、誠にありがとうございました––––––当バスはこの停泊所までです。』
船内放送を耳にしながら、千尋と箒は外へと歩き出す。
程静かな水のせせらぎ。
視界に映るは緑の山々の狭間に顔を覗かせる、人工物の群れ。
仙石原という箱根の山奥––––––だった場所。
今は新東京箱根市という都市へと変貌している。
市街地には地上80階建てのツインタワービルを中心に高層ビルやタワーマンションといった現代都市の象徴から、かつての古き良き営みを残す住宅地や森林、小規模ながら繁華街や電気街もある他、御殿場と小田原、延いては東京を繋ぐ弾丸高速道路が東西に街を貫いている。
それだけの施設があるからか、地元の人間や休暇で羽を伸ばしに来た自衛官や国連軍将兵で賑わっている。
街の起点も、碁盤目に区画整備された仙石原が中心になっており、そこから放射状に道が伸びている。
「しっかし、なーんで今時碁盤目に道路引くんだろうなぁ…京都の平城京じゃあるめぇし。」
ふと、街の案内図を見ながら千尋は呟いた。
それにすかさず––––––
「千尋、京都は平安京だ。」
「あ?そうだっけ?」
––––––箒はツッコミを入れる。
「ああ。それに、碁盤目––––––条里式土地区分制度も、メリットはある。」
「…どんな?」
「まず、三角地など利用しづらい不定形な土地がなくなる。次に住所を東西南北を走る道を基準に付けるので、わかりやすくなる。最後に見通しが良くなるので防犯性が高まる。
––––––とまぁ、とにかくビルや家を敷き詰めたいという目的で都市を構築するならば、最も適した方式だ。合理的に都市開発を行い、土地の有効活用が行える。
…ただ、もちろんデメリットもある。
まず、土地の起伏を無視しているため、傾斜地では使いづらい区画が発生する。次に斜め移動でも大回りを余儀なくされる。
この事から、大規模渋滞が頻発するという欠点があるし、傾斜地が多い箱根では土地のかさ上げが必須となる街区が出て来る事。
それらを鑑みた結果、仙石原地区以外の街区…例えば、強羅副都心や元箱根、小涌谷、箱根湯本では従来の放射状道路方式を使った方が有効的と判断されたんだろうな––––––…聞いてるか?」
「––––––スマン、途中から頭に入ってなかった。」
「…お前な……!」
聞いてきたから話していたというのに、聴いてきた本人がこの様相であることに箒は少しイラっと来る。
だが––––––それをかき消すように、眩い4本の光が眼前に聳え立つ。
否、それは光ではない。
それは––––––高さ200メートルもの、太陽光パネルを表面に敷き詰めた巨大なソーラータワーだった。
「でっか…ていうか、眩しッ!」
「ああ、中々眩しいな…肌が焼ける程ではないが…。」
2人の言う通り、ソーラータワーは––––––まだ試験段階なのか、太陽光パネルの角度調整ミスによる光漏れで、一部は辺りに反射光を撒き散らしていた。
「…まぁ、あれ程のソーラータワーを作ることなんて日本では中々無いし、その辺の技術が海外と比べると劣っているのは否めないからな…。」
箒が呟く。
確かに、太陽光発電は日本ではあまり主流ではない。
…というのも、日本は台風が頻繁に飛来する。
太陽光発電パネルは台風の強風に耐えられる程強力なものではなく、台風が飛来する度に破壊されて高価な粗大ゴミと化す事例が多々あった。
加えて台風や地震といった自然災害で壊れ易い上に、平野部の少ない日本では山を切り開いて作るしかない。
しかしそうすると、毎年飛来する台風の雨を吸うはずだった山が太陽光発電所にされたせいで雨水を溜め込めず、土砂崩れを引き起こしてしまうという事例が相次いだ。
…つまるところ、太陽光発電は日本の立地・気象条件と非常に相性が悪く、更に言えば却って環境破壊の原因にもなってしまうという、本末転倒な現状となっていた。
その為、日本の太陽光発電事業は海外と比べると遅れている。
だからこのようなソーラータワーを作る技術力が不足しているのだろう。
––––––
「それより……買い物、付き合ってくれて…ありがとう。」
ふと、照れながら箒が口にする。
それに千尋は悪戯めいた微笑みを浮かべ、
「みーずクセェ事言うなや。せっかく楽しめる時なんだ。しっかり楽しまねぇとな!」
––––––そう告げる。
…それを見て、箒は胸にしこりが溜まる錯覚を覚えた。
自分の義弟の笑顔。
それは、箒が願う幸せのカタチ。
箒が戦う理由。
視界に映る彼は––––––快活で、けれど触れたら壊れそうな程の儚さを秘めていた。
…もし、この笑顔が喪われる時が来てしまったら、その時は––––––、
(––––––いや…)
––––––その時は、私が
…きっとこの先の未来は––––––そうしなければ千尋も人類も生き残れないような、そんな気がして。
、
、
、
––––––(ダカラ私ガ全部背負ッテ
、
、
、
そう、ふと考えて––––––
「ああ––––––そうだな…。」
ぎこちなさを拭い去るように笑顔を浮かべ、箒はそう応えた。
◇◇◆◇◇◆◇◇
––––––同時刻
新東京箱根市直下・ジオフロント
モナーク機関極東第3支部箱根基地
––––––同・第2会議室
リノリウム製の茶色い床に白い壁。
内装は円卓型事務用デスクが並ぶだけ。
パイプ椅子に腰掛け、アイリは眼前のノートPCに視線を固定していた。
PCの画面には、アイリのいる極東第3支部箱根基地以外に、
––––––マウントウェザー統合参謀本部
––––––北米本部シアトル=タコマ基地
––––––北米第1支部フェニックス基地
––––––北米第2支部アトランタ基地
––––––中米第1支部プエブラ基地
––––––南米第1支部リオデジャネイロ基地
––––––バミューダ/司令母艦「サラトガ」
––––––欧州第1支部エディンバラ基地
––––––欧州第2支部ミュンヘン基地【閉鎖】
––––––欧州第3支部ヴィルヘルムス軍港
––––––極東第1支部東京基地
––––––極東第2支部雲南省基地【閉鎖】
––––––極東第4支部ネリュングリ基地【閉鎖】
––––––極東第5支部ギジカ基地【閉鎖】
––––––インド洋第1支部ラッカディブ基地
––––––アフリカ支部ゲベルバルカル基地
––––––南太平洋/司令母艦「ナカジマ」
––––––日本海溝/司令潜水艦「ムサシⅡ」
––––––司令潜水艦「スコーピオン」
––––––オーストラリア/空中司令船「アルゴ」
それらのビデオ通話画面が表示されている。
…要するにこれは、テレワークによる定例会議だ。
…【閉鎖】と表示されているものは、文字通り巨大不明生物の侵攻状況により施設が放棄された為に空いた枠の事だ。
『…他には?』
『––––––欧州方面管区は、第69封印保管基地のリヴァイアサンが安定中。第4封印保管基地のヴァルドギドラと第67封印保管基地のメトシェラは若干封印状態が不安定になりつつあります。』
第4封印保管基地は
第69封印保管基地も同様で、こちらはイギリス領スコットランド・ネス湖に所在する。
『アメリカ大陸も同様で、北米方面管区は第55封印保管基地のスキュラ、第56封印保管基地のティアマトが封印不安定となっています。不幸中の幸いは、南米方面管区の第58封印保管基地のベヒモスは辛うじて維持出来ている点です。』
第56封印保管基地はアリゾナ州セドナ、第56封印保管基地はジョージア州に所在する––––––こちらも、アメリカ合衆国国内の巨大不明生物封印施設だ。
同じく第58封印保管基地も、ブラジルに所在する封印保管基地となっている。
––––––モナーク機関はこうした巨大不明生物封印設備を多数保有しており、現在稼働中のものだけでも世界に数十ヶ所は存在する。
…日本にも、富士樹海の縦穴洞窟を丸ごと改造した第91封印保管基地、芦ノ湖湖底部の第99封印保管基地が存在している。
そしてアイリのいる極東第3支部箱根基地は、第91・第99封印保管基地の司令部を兼ねた施設となっていた。
『では極東第3支部、状況を。』
ふと、連絡の順が回って来る。
「はい––––––極東方面管区は最前線ながら、第91封印保管基地のコード:カインおよびコード:アベル、第99封印保管基地のコード:イリスの3体共、比較的安定しています。
ただ、第91封印保管基地は補修工事が実施される為、一部封印設備が不安定化する恐れがあります。
…私からは以上です。」
『では次に、アフリカ方面管区の状況を––––––…』
その57秒後––––––モナーク機関アフリカ方面管区ゲベルバルカル基地との通信は途絶した。
今回は短いですが、ここまでです…。
次回もできる限り早く投稿致しますので、よろしくお願い申し上げます。