インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

57 / 65
皆様長らくほったらかして申し訳御座いませんでした(土下座)。

ツイッターで「ゴジラISの怪獣どないなってんの?」と聴かれたことと、妖刀さんの怪獣学に影響してやらかしてしまった(御本人の許可は頂いています)話です。
また今回から以前より許可を頂いて使わせて頂いてた妖刀さんの家城燈さんに本格的に登場して頂きます。

––––––ただし、時系列はタッグトーナメント+αの2日後が舞台となっています。従ってタッグトーナメントのオチに関するネタバレがあります。

また、この世界の初代ゴジラはゴジラ1954のゴジラとは違う結末を迎えている上に当時の国際情勢を考慮した結果、ゴジラ1954とは違う推移を辿っています。
それらを不快に思う方は大変お手数ですが、ブラウザバックを推奨致します。






番外編【怪獣基礎学Ⅰ】ゴジラ

2021年6月15日東京都墨田区八広

特務自衛隊八広駐屯地第6予備棟

IS学園暫定臨時被貸与校舎1階101号室

 

特務自衛隊より貸与された校舎の一室、そこが現時点でのIS学園となっていた。

 

「今日も授業かぁ…」

 

制服を着込み、教室の机に座した千尋が気怠そうに呟く。

何気ないいつもの声––––––しかし左腕にはギプス、左目には眼帯とその下に若干血が滲んだ包帯を巻いた痛々しい容姿をしている。

 

「学業は学生の本分だ、仕方なかろう。」

 

箒が千尋に返すように言う。

その箒も額と右腕に包帯を巻き、左脚にギプスをはめて松葉杖をついている、痛々しい容姿だ。

 

「––––––ま、そういうわけだから諦めなさい。千尋。」

 

ふと、千尋の隣に箒が座ると同時に右斜め前隣に座している神楽が振り向きながら告げる。

 

「そうだな……ところで神楽。」

 

「なに?」

 

「…腕は、大丈夫か?」

 

千尋が神楽の左腕を見ながら聴く。

––––––神楽の左腕は肘関節から下がゴッソリと無くなっていた。

 

「ああ、平気よ。少し体が軽くなった感じね––––––まぁ、幻肢痛に悩まされてるけど……貴方こそどうなの?左腕粉砕骨折に左胸部肋骨2本骨折による肺損傷…あと頭蓋骨左半部損傷に左目眼球破裂––––––常人じゃ即死の重傷って聞いたけど。」

 

神楽は揶揄うように、しかして気にかけるように問いかける。

 

「大丈夫だ。元から、身体は頑丈だからな。」

 

千尋は子供らしい笑みを浮かべながら返答する。

––––––直後、スパーン‼︎という音と共に箒のチョップが頭部に炸裂する。

 

「痛ってぇ‼︎」

 

「この馬鹿‼︎だからと言って無茶をし過ぎるな‼︎……私が、どれだけ心配したか…」

 

瞬間的に箒は怒り、噴火したような声音で言うが、悲哀が勝ったのかすぐに声は萎れていく。

その顔は、すぐにでも泣き出してしまいそうだ。

 

「う”…悪かったって……」

 

千尋はどうしようもない罪悪感を抱き、すぐにでも謝罪する。

箒が泣いてしまうのは、箒が幸せでない時なのだから、幸せでいて欲しい千尋にとってそれは回避したい状態だから。

 

「––––––金輪際、あんな無茶しないと約束してくれ……ホラ。」

 

そう言って、箒は右手の小指を出す。

 

「…わぁったよ……」

 

千尋も右手の小指を出す。

そして、千尋の小指に箒は自分の小指を絡める。

 

「ゆーびきーりげーんまーん、嘘つーいたら……」

 

うーん、箒は少し考えて。

 

「千尋のエロ本さ〜らす。」

 

「オイちょっと待て‼︎」

 

思い掛けない発言に千尋は間髪入れずに抗議の声を叫んでしまう。

だが、無情にも。

 

「ゆ〜び切った。」

 

––––––約定は定められた。

 

「…いや、でも俺エロ本なんて…」

 

千尋はせめて最後の悪足掻きを企もうとする––––––だが、しかし。

 

「あるよな…?宿舎自室のベッド下の裏にマスキングテープで貼り付けてる、黒髪巨乳女子の表紙が掲載されている。」

 

––––––箒は威圧感を纏った黒い笑みを浮かべながら、死刑宣告を告げる。

 

「…やべぇよ……なんで、バレた…?」

 

対する千尋は思わず困惑。

ベッドの下というメジャーな隠し場所しかない宿舎自室で、少しでも工夫しようとマスキングテープでベッド裏に貼り付け、悟られないようにしていたつもりだったが––––––甘かった。

––––––箒の索敵能力恐るべし。

 

「ふーん、千尋も男の子だったのね〜。」

 

神楽も揶揄うように言う。

 

「––––––まぁ、そんな事は置いといて…いつまでここに鯖詰にされるのかしらね…私達。」

 

神楽が言う。

––––––自衛隊から貸与されたこの校舎自体は元来のIS学園と比べれば規模は10分の1…否、100分の1程度の規模だろうか。

何しろ特自の予備施設の一部を使わせて貰っているだけなのだから設備も決して充分ではないし、元来のIS学園校舎と比べれば環境的には不便と言える。

また、他に貸与された設備と言えばIS整備用のプレハブ式仮設ハンガーが第6予備棟隣の空き地––––––元々は訓練場––––––にあるくらいである。

生徒達は「自衛隊はケチ」だと言っているが、それは大間違いと言える。

現に八広駐屯地はIS学園を誘致しただけで基地機能の一部が低下。

またIS整備や模擬戦に伴う過剰電力消費で隊員宿舎が終始強制的節電状態。

さらには食料供給量増加に伴い学園に通常の献立を提供するべく一部隊員らには非常用保存合成食料––––––主にゼリー状栄養食品やカロリーメイト、人工混成肉、ポテトサラダ状のビタミン食物など…ディストピア系創作作品で見るような酷く不味そうな食物––––––を班ごとに日替わりローテーションで食べることを止む無く強制。

…と、ただでさえ予算的に貧乏な自衛隊をさらにひもじくさせているのは他でもないIS学園なのである。

––––––だが国連管理下の設備があり、迅速に対応可能な設備は八広駐屯地しかなく、つくば市の学園予備校舎は国と地方自治体の協議が必要だ。

そのため空いた穴を埋めるにはどうしても八広駐屯地に校舎を置かねばならない––––––そのために現在の現象が起きている。

––––––閑話休題。

現在はこの駐屯地に臨時校舎が映されてから2日目の授業が行われようとしている。

 

(––––––それにしても、この学園も人数が減りに減ったな…)

 

30人分の席が並ぶ教室の一室を陣取る新生1組で、千尋は内心呟く。

現在このクラスの人数は30人。

––––––うち、旧1組の生徒は僅か16人。

残りは旧2組から編入された生徒達だった。

––––––最も、その旧2組も15人しか在校生がいないというのが現実である。

隣の教室に陣取る新生2組の人数は教室の収容人数30名に対して25人。

––––––うち、旧3組の生徒は9人。旧4組の生徒は16人。

1年生は僅か在校生55人––––––と、下手な過疎地域の学校並みにまで在校生の数が激減していた。

その激減した人数––––––実に105名の大半はIS学園と同レベルないしそれ以下の高校への転校や退学。

2年生に至っては3クラス120名のうち24名にまで激減––––––96名のうち、転校や退学を希望したのは1割のみ。

それ以外でここに居ない他の者達は––––––語るまでも無いだろう。

 

「はーい、皆さん授業始めますよー。」

 

ふと、始業のベルと共に家城燈教諭の山田先生に勝るとも劣らない明るい声が教室に木霊する。

そしてこの科目は––––––【怪獣基礎学Ⅰ】。

いわゆる怪獣学だった。

何故このような科目を行うかと言うと、先のIS学園防衛戦で教師部隊および2年生選抜部隊がマトモに対応出来ず、かえって被害を拡大させてしまったという事態を鑑み、急遽組み込まれたのだ。

もちろん、この科目は特務自衛隊主導で行われる。

その為、生徒の後ろで生き残った教員も授業を受けている。

…余談だが、【部隊連携基礎Ⅰ】という科目では陸海空特自衛隊の他に海上保安庁、在日米軍からも顧問を呼んで授業が展開される。

 

「さて…まず今日授業するのはなんだけど…教本の27ページを開いて。」

 

燈が言うなり、生徒達は27ページを開く。

もちろん千尋や箒、セシリア達も開く。

––––––そこに記されていたのは、【ゴジラ】というコードネームの巨大不明生物だった。

 

「これ…⁉︎」

 

「うん…だよね…」

 

それを見るなり、生徒達に動揺と騒めきが奔る。

そこに映っていたのは先日学園を強襲した巨大不明生物と瓜二つの外観をして、熱線のようなもので街を焼き払う、まるで亡者を連想させる––––––黒い、巨大な塊。

その容姿から、先日の事件によるトラウマから顔がひきつっている生徒が何人もいる。

 

「はい、静かに。…みんなも知っての通り、先のIS学園を襲撃した巨大不明生物よ。」

 

燈が講義に戻すべく、ノイズを取り払う。

 

「さてこの巨大不明生物だけど––––––実は、解説に凄く困るのよね…映像資料はほとんどないし。」

 

そう毒付くなり、クラス中から非難の視線が向けられる。

ただ一人、山田先生だけが苦笑いをしていた。

 

「仕方ないじゃない…上陸した1954年当時の記録映像であるフィルムや写真の類は官民問わずみんなアメリカが持って行っちゃったか焼却しちゃったんだから…教本の写真だって、政府が2017年に裏でアメリカから取引する形で奪還してきたモノだし…。」

 

「––––––教諭、質問してもよろしいでしょうか?」

 

そう溜息をつく燈に、神楽が挙手する。

仮にも燈が自衛官であるからか、自衛隊らしい質問の仕方をする。

––––––もっとも、挙手した手が握り拳ではなく平手な辺りが素人らしさを表しているが。

 

「いいわよ?何かしら?」

 

「––––––何故アメリカは当時のフィルムや写真の回収を?当時の日本が連合国撤退直後であり、尚且つ日米同盟締結に伴いアメリカに頼りっぱなしだったとはいえ官民問わずにその措置がとられたのであれば、それは内政干渉では?」

 

片腕を失くしてなお、神楽はいつもと変わらない整然とした態度で声を放ち、問いかける。

それに燈はクスリ、と笑うと。

 

「それは、ゴジラの基本的な解説をした後に当時の世界情勢をあい混ぜながら回答するわ。」

 

––––––そう告げる。

 

「じゃ、まずゴジラの解説をするわ。教本に載っているとおり––––––初出現は1954年。身長は50メートルで体重は2万トン。生体は今のところ不明…だけど恐らく夜行性ね。この辺りは当時の資料の欠落が酷いから詳細までは不明。

––––––この頃は米ソが核開発を競い合い、各地で原水爆実験を繰り返しており、ゴジラはビキニ環礁におけるアメリカの水爆実験の影響により陸上水棲生物が放射能と急激な熱に対応すべく急激な変異を経て進化したとされているわ。

––––––じゃあ教本の図7の地図を見て。」

 

そういうなり、千尋も教本の地図に目を向ける。

––––––そこには小笠原諸島大戸島、房総半島沖、東京都品川、東京都芝浦に赤いバツ印が刻まれ、順に1〜4の番号が振られている。

 

「それがゴジラの日本領海内で出現したとされる位置よ。」

 

燈が告げる。

したとされる––––––と言っているあたり、ここも当時の資料が欠落し詳細不明となっているらしい。

そして欠落した原因は、先程言っていた通りアメリカに当時の資料を接収ないし処分されたからだろう。

 

「本来なら大戸島に上陸したところから話をしたいんだけど––––––ここも詳細不明なの。あとから調査しようにも、当時の人達はもう他界されているからね…」

 

燈は真実を伝えられないことを非常に残念がるように言う。

実際、残念なのだろう。

些細な情報であっても、後世に語り継ぐことで、未来を生き抜く糧に出来るやも知れないのだ。

特に––––––すでに巨大不明生物という脅威が現実化してしまった今なら、尚更だ。

 

「…ここからはあくまで私の推測だけど、ゴジラは大戸島に上陸後、甚大ではないけれど決して微々たるものでもない被害を刻んだと思われるわ。

幸いにも接収されず、広島の放射能研究機関で厳重に保管されていた当時の放射能汚染の測定データによれば、井戸や一部の村が丸々汚染された事や道端に転がっていた家畜の死体からも、高い放射線が計測されていることから、物理的にも放射能の面でも、大戸島にかなりの被害を与えた事が見て取れるわ。

––––––余談だけれど、大戸島はその後1970年まで閉鎖されてしまったの。

––––––調査のため、として米軍主導でね。」

 

だから、当時の惨状語る人が居なくなって、より一層当時の被害が後世に残らなかったのかも知れないわね––––––そう付け加えながら、燈は解説を再開する。

 

「その後ゴジラは房総半島沖に出現。

海上自衛隊のフリゲート艦隊による爆雷攻撃が行われるけど、ゴジラはその後も日本近海に現れてシーレーンを脅かすことになるわ。

––––––けれど、コレも実際は米海軍による海上自衛隊への対潜教導演習…として、事実から抹消されている。」

 

(––––––おかしい)

そしてふと、千尋は思う。

––––––どうしてこんなにもアメリカが介入し、ゴジラ(自分の同族)が出現した地域から人間を遠ざけたり、事実を捻じ曲げているんだ…?

これじゃまるで––––––

まるで、アメリカがゴジラを隠してしまいたいみたいじゃないかと、そう思わされる。

その間にも、燈の解説は続いて居た。

 

「その後ゴジラは2度東京に上陸したとされているわ。

––––––これは当時アメリカが接収し、冷戦崩壊後に返還された一部資料やそれを目の当たりにした当事者の遺族が保管していた手記に至るまで、資料をかき集めた結果、最初は品川を中心に都内を蹂躙。当事者の手記によれば、品川駅に甚大な被害を与えたそうよ。

––––––2度目は芝浦に上陸。新橋、銀座と進行し、永田町へ侵入後に国会議事堂を破壊。その後上野、浅草と移動しテレビ塔などの主要施設を破壊し隅田川を南下。その後、東京湾に向かっていった。

––––––ここまでで、死者は少なくとも10万人に登るわ。

––––––教本の図15を見て。そこには、現在の街とゴジラ上陸後の写真があるわ。」

 

そう言う燈に従って全員が図15を見る。

––––––そこには、今のその場所の写真と、当時のゴジラ上陸の際の写真を比較するように並んでいる。

誰もが信じ難いように交互に2つの写真を見返す––––––ふと、何人かの生徒がこの進行ルートに見覚えのあるだろうか、目を剥くように見開いている。

 

「そして何の因果か、奇しくもこのゴジラ進行ルートは1945年の東京大空襲でのB-29の進行ルートとほぼ一致していた。

––––––教本には必要ないから載ってないけど、私が比較用に用意した画像を渡すから、順に回して行ってね。」

 

燈がそう言って一番最初の出席番号の生徒に手渡した個人資料。

––––––そこに映し出したのは東京の上空からの写真。

しかしどちらも焼け野原になった場所があまり変わらず、それに気づいた彼女は顔中から血が引いていくのを感じながらも、何か思わされるモノがあるのか、固まったまま写真を見つめていた。

 

「そして東京湾にゴジラが没してもなお、被害者は次々と増えていった……」

 

「え⁈ど、どうして…⁈」

 

生徒の1人が驚きの声を上げる。

燈は重苦しい雰囲気を出しながら、口を開き、懺悔のような声音で応えた。

 

「……放射能よ。ゴジラの通過した地域は高濃度の放射線が漂っていて、それによって二次被害が増えていったの––––––さっき言っていた広島の放射能関連研究機関から取り集めた被爆した値、被爆した人間の年齢と性別が書かれた資料と内閣の巨大不明生物対策特設本部から送られて来た情報を見るに、おそらく3から5シーベルトは出ていると推測されるわ。

––––––あ、シーベルトについては教本の図13のグラフと解説を……そうね、篠ノ之箒さん、読んでもらえるかしら?」

 

「はい。【被爆量には大きく分けて、《日常生活における被曝量》と《健康被害をもたらす被爆量》に分類でき、日常生活で一番低いとされる被爆量が『胸部X線の集団検診で受ける被曝量』の0.05ミリシーベルト。そして高く、健康被害を齎らす被爆量は『放射線業務従事者の年間被曝の上限』である50ミリシーベルトである。

しかし、この50ミリシーベルトは健康被害をもたらす被爆量の一番低い値にも含まれており、被爆が蓄積されて行けば、それは日常生活における被爆量から健康被害をもたらす被爆量になりかねない。

そして現在、6シーベルト以上が放射能での致死量とされている。】––––––。」

 

「ありがとう。放射能については皆もニュースや新聞、各種関連書籍とかで聞いたことあるでしょう––––––現に、福島第一原発のメルトダウンの時は頻りに報道していたしね…放射能は微量であれば難病を直す福音にもなるけれど、多量だと生命を殺すことに特化した史上最悪の毒となるわ」

 

今まで日本は数多もの放射能の被害に見舞われてきた。

––––––広島への原爆投下。

––––––長崎への原爆投下。

––––––水爆実験による漁船第五福竜丸汚染。

––––––東海村原子力発電所の事故。

––––––福島第一原子力発電所のメルトダウン・および白騎士事件による同原発へのミサイル攻撃。

これらの災厄に侵されながらも、その都度復興し、日本が何度も立ち上がり、発展を続けて行った。

スクラップ&ビルド––––––破壊と再建。

これで日本という国は成り立ってきたのである。

黒板にまとめたものを生徒たちはノートに板書している。

誰もが必死だ––––––まるで、これを板書して記憶しなくては死んでしまうと言わんばかりに、狂ったようなペン捌きでノートに文字を刻んでいく。

これが先日の襲撃を受ける前ならば、この方面に対して意識がある人間でなければ誰もが授業を気にせず喋っていたりするだろう。

––––––しかし、そんな平和ボケはもう許されないことは、当の本人達が自覚していた。

 

「最終的に朝鮮戦争後に横須賀に配備されていたアメリカ海軍のアイオワ級戦艦ミズーリが艦砲射撃を行いながら追撃––––––なれどゴジラをロスト。

その後はゴジラが何処にいるか、全く分からなかったわ––––––先日のIS学園防衛戦まではね。」

 

そう言って、解説を終える。

––––––言葉を発する者はいない。

 

「……ここまでで質問は…あ、そっか、四十院さんのが有ったわね。」

 

燈が言いかけるが、思い出したように呟くと、神楽を見ながら口を開く。

 

「四十院さんはさっき言っていたアメリカが何故官民を問わずフィルムや写真を接収したのか、そして––––––何故こんな国家非常事態じみた事を今日まで習わなかったのか…そう聴きたいのよね?」

 

「はい。」

 

燈の問いに、神楽が応える。

 

「––––––それはね、当時の世界情勢が影響していたの。」

 

燈が口を開き、語り始める。

 

「当時はアメリカとソヴィエト連邦に分かれて対立し、『世界大戦の一歩手前で軍拡を競い合っていた』冷戦という時代––––––しかも全面核戦争回避のための代理戦争であった朝鮮戦争が休戦してすぐだった…というのがあるわ。

そして日本の仮想敵国であるソ連も北朝鮮も中国も目と鼻の先––––––そんな日本に、軍でも手に負えない、歩く核兵器とも言えるゴジラが現れた…なんて世界中に知れたらどうなっていたと思う?」

 

冷めた声音の問いかけ。

それに一人の生徒が自分なりの考えで回答する。

 

「えっと…日本は危ない国ってレッテルを貼られちゃう…?」

 

「…まぁ、それもあるわね。

––––––でも、もしそうなっていたらソ連は迷わず『自国防衛・ゴジラ討伐のため』に日本に核を落としていたでしょう。」

 

––––––瞬間、教室の空気が凍り付く。

 

「そしてもし日本がソ連からの核攻撃を受ければ、アメリカは日米同盟に基づき核の傘で守っていた以上、報復核攻撃を行わなくてはならないわ。

…もし黙認すれば、他の同盟国から白い目で見られるのはアメリカだもの。

––––––結果として、米ソ両陣営は通常兵器と核兵器を用いて全面核戦争に突入してしまったでしょうね。」

 

––––––そうして、第4次世界大戦は『石と棍棒で殴り合う』時代になっていたでしょうね、と付け足す。

つまりそれは––––––ゴジラの存在が、間接的に人類文明の未来を左右したと言える。

 

「そんな––––––まさか…」

 

誰かが言う。

––––––あり得ないと。

確かにあり得ない。

21世紀に生きる自分達からすればそんなことは想像すらつかない。

––––––しかしそれに、

 

「確かに、今の時代の貴方達なら信じられないでしょうね。

…でも、これから7年後の1961年にはソ連初の原子力潜水艦K-19の事故が起きるんだけど…その時K-19の原子炉が核爆発していれば、K-19に搭載されていた核ミサイルが暴発して全面核戦争へ発展し、人類文明は1時間程度で崩壊していたとさえ言われているわ。

––––––たった1隻の原子力潜水艦の事故が原因で。」

 

燈は釘を刺すように告げる。

––––––たった1隻の原子力潜水艦の原子炉核爆発が原因で全面核戦争に発展する可能性があったのなら、ゴジラが原因で全面核戦争に発展してもおかしくはないかもしれない。

 

「では––––––その為にアメリカは写真やフィルムを接収して––––––⁈」

 

思わず箒は声を上げてしまう。

––––––事情は理解出来る。

だが、これではあまりにも––––––。

 

「そうよ。…それに当時はゴジラの混乱を東京のみに抑え込む為に、アメリカは在日米軍を使って通信設備を破壊して、徹底した箝口令による情報統制を敷いたそうよ––––––…結果として、ゴジラの混乱は東京都心部に限定された。

いえ、もっと言えばゴジラが上陸した事さえ他県民は知らなかったし、ついでに言えばゴジラによる10万人の犠牲者も、ゴジラという存在さえも『最初から存在しなかった』事にされたのよ––––––原因不明の大火災、と処理されてね。」

 

––––––絶句する。

つまりは、ソ連率いる東側からの核攻撃をアメリカとその同盟国が受けることによる全面核戦争への発展を回避するために、アメリカはゴジラによる事件のみならず、『ゴジラそのものの存在』すら消してしまったのだ。

––––––それはまるで、以前千尋と箒が派遣されたロリシカを彷彿とさせるような話だ。

 

「…その後は、ゴジラに関する報道や書籍が出ないかどうかを取り締まる情報庁が設立され、1994年に至るまで、ゴジラ関連の情報が出ないかを徹底的に監視させたそうよ。」

 

––––––40年。

それまでゴジラという存在が歴史から抹消されてしまったのだ。

だが––––––今年まで27年も有ったにも関わらず、今年まで情報統制は解放されていなかった。

––––––何故か。

 

「じゃあ、どうしてそれ以降はゴジラという存在が今日に至るまで俺たちは教わらなかったんですか?」

 

思わず、千尋が問う。

 

「…まず、ゴジラ関連の情報を教科書に載せようにも圧倒的に資料が足りないし、アメリカが2017年まで当時の情報を独占していた––––––というのが大きいわね。

それに、それらの情報返還と引き換えに情報開示のタイミングはアメリカに任せる形にしないと情報は返して貰えなかったし。

仮に開示して教科書を修正するにも莫大な予算が必要になるし、知っての通り日本は不景気から脱することに手一杯でいつしか特自以外は政府機関さえゴジラという存在を忘れていた––––––だから、一概にアメリカが悪いとは言えない。」

 

燈は、千尋を見つめながら告げる。

––––––そこへ。

 

「納得、出来ませんわ…‼︎」

 

震える声音で、セシリアが言う。

 

「…どうして、そこまでアメリカにされなくてはならないのですか…‼︎

確かに、当時の情勢を鑑みれば仕方ないのかも知れません…全面核戦争を回避するためなら仕方ない––––––でも、こんなのはあまりにも––––––‼︎」

 

理性では分かっていても感情が理解出来ない。否、したくない。

だからこそ、様々な感情が綯い交ぜになった声がセシリアの口から零れ落ちる。

––––––それにメスを入れるように。

 

「––––––それは日本が敗戦国だからよ。オルコットさん。」

 

努めて冷静に、燈は告げる。

それに、セシリアは硬直する。

––––––敗戦国。

その立場に立たされているが故にアメリカの言いなりになるしか無かったと、アメリカの核の傘で守られるしか無かったと、だから日本はアメリカの言いなりになったのだと、セシリアは思い知らされる。

––––––2発の原爆で20万人の命を奪われ、水爆の恐怖に冒され、核の申し子に蹂躙され…それでも尚皮肉なことに、日本はゴジラを生み出した核兵器を用いた核の傘に入る以外に、生き延びる道は無かったのだ。

 

「––––––もっとも、本当はもっと込み入った事情があるんだけど、それは授業から逸れるから次の機会にするわ。授業もそろそろ終わってしまうしね。

––––––それじゃ、みんな今回の授業内容をA4レポート用紙に書いて次回提出するように。

以上––––––解散‼︎」

 

燈がそう言うと同時に、終業のチャイムが鳴り響いた––––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。

途中から怪獣学ってか政治っぽくなっていますが、1954年にゴジラの出現した場合、時代が時代だし(ロナルド・レーガン大統領曰く)「悪の帝国」と呼ばれていたソ連やソ連と政治的に対立し、両国間にホットラインが設置される以前のアメリカならやりかねないような気がしたので今回のような内容になってしまいました。
…というか、燈さんが言ってた1961年にソ連のたった1隻の原子力潜水艦の核爆発(正確にはそれに伴う核ミサイル暴発)であわや全面核戦争になりかけたって話は実話だし。

––––––それでどうして千尋vsラウラ戦の続きではないかというと…すみません、課題続きで中々出来てないから(でも、そろそろ何か投稿しないと良けないような気がしたからというのもあります)です。

こんな拙い不定期小説ですが、次回も見て頂けたら…と、思います。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。