インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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明日シンゴジラを見に行く前に突貫作業で作ったモノになります。

いつか言ってた機龍関連の 【あの時】についても書いてみた今回、また10000文字越えです。






EP-25 共鳴するGたち

IS学園・会議室

 

そこには光以下、山田先生と千冬、楯無が集められていた。

 

「日米臨時編成軍艦隊と欧州連合極東派遣艦隊の監視レベルを下げる?」

 

「そうだ。」

 

山田先生の問いに光が応じる。

その顔は、本人はできるだけ顔に出さぬように努めているつもりだったが、酷く鬱陶しそうな顔をしていた。

 

「ど、どうしてまた急に––––––?」

 

「––––––学園に艦隊規模の戦力を集中させた結果、さして敵が現れなかった事とタッグトーナメント間近であるのに生徒の環境に宜しくない……とIS委員会が判断して直々に命じてきた為だ。もちろんこちらは却下したが…何かしら向こうが手を打ったんだろう…長期駐屯は緊張を高めるだけだから、まぁ一理あるといえば一理あるが……あとは、館山市からクレームが寄せられたこともあるな。」

 

やはり忌々しそうに光が言う。

 

「そんな…守って貰ってるのにクレームだなんて……。」

 

山田先生が信じかねるような顔をして言う。

 

「学園が出来て、学園が行事を開くことで館山市に観光客が来て落としていった金を収入としている以上、間接的に国家財産に繋がるが故に観光客を威圧するような雰囲気を醸し出す自衛隊にはお引き取り願いたい––––––と言ったところでしょう。」

 

光が先程よりは少しマシだが、やはり忌々しそうに、それでいて少し諦観を含んだ雰囲気を纏って言った。

 

事実、館山市の相模灘沖合にIS学園が出来て学園が行事を開く事によってかつては過疎地域だった館山市が学園の行事を目的にやって来た者達が寄り道がてらに寄って札束を落とす事で発展しているのだ。

向こうからしたら、稼ぎ時なのに自衛隊や米軍な威圧感剥き出しでは客が来ない––––––と考えて退いてもらうようにクレームを言って、尚且つ財務省も防衛省にクレームを言う事で艦隊を退かしたのだろう。

既に3回も侵入を許しているのに商売だのなんだと言っている暇ではない気がするが、怪獣が暴れまわってる地域の惨状を彼らは知らないから仕方ない…と言えなくもない。

ただ、ここまで来るともはや【平和ボケという名の病気】にかかっているようにすら思えて来る。

 

信じかねるような顔をする山田先生や千冬に対して、楯無が口を開いた。

 

「…まぁ、今回は防衛省とそれをバックアップする私達情報庁も引き下がらずを得なかったんです。…国土交通省と進めている非常政策を実行する為にも…。」

 

「…非常政策?一体どういうモノだ?」

 

千冬が訝しげに楯無に視線を向けて聴く。

楯無は光の顔を見て、説明して良いか否かを確認する。

光は、あっさり承諾した。

––––––だから、楯無は口を開き、内容を発した。

 

「––––––最前線になる可能性が高い北海道、北九州の国民を沖縄、グアム、サイパン、ハワイ、カムチャッカ、アラスカ、台湾、パラオ、インドネシアに退避させる、大規模疎開政策です。」

 

「「––––––な⁈」」

 

思わず、千冬と山田先生は声を上げて驚く。

––––––疎開。

そんな言葉が出てくるのはもはや先の大戦以来––––––。

いやそれ以前に、あまりにスケールが大き過ぎて2人は理解が追いつかない。

そもそも、そんなことが可能なのか––––––。

 

「そ、そんなことをしなくてはならないんですか…?」

 

山田先生が光に困惑に満ちた顔を向けて、聴く。

 

「––––––ああ。数日前に確認された巨大生物の新規データや分布、現在位置、予想される能力、進行状況からして––––––最悪、年内に日本全土が戦場と化す可能性がある。」

 

それを聞いた山田先生は酷く青ざめる。

無理もない。

年内に日本全土が戦場と化すなど、想像もつかない。

もし、日本全土が戦場となれば––––––負傷者、死者・行方不明者、倒壊建築物数、被害総額、その全てが想像を絶するモノになる。

だからこそ、最悪の事態を回避するための疎開政策だった。

確かにそれなら、国土を失っても日本人は失われない。

 

「––––––だが、なぁ…」

 

しかし、光は溜息を吐きながら呟いた。

 

「疎開政策がいつ実行に移せるか…そして疎開先の受け入れ態勢が整い、実行しても––––––全ての国民を逃すのは…ほぼ、不可能だ。」

 

光が言う。

確かにそうだ。

日本には1億2千万人もの人間がいる。

その中には移動の難しい高齢者や障がい者もいる。

さらにそんな大勢の人間を国外に逃がせるだけの輸送手段がなく、何より疎開先のキャパシティを超過するものになるのは目に見えていた。

その現実を知り、千冬も山田先生も顔が曇る。

 

「––––––話が逸れたな。」

 

閑話休題、と光はその話題に終止符を打つ。

 

「––––––もう一つの方もまた…重大なんだ。」

 

光のその言葉に息を飲む。

 

「この学園に特自の【対G決戦兵器】を搬入することになった––––––。」

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

半年前––––––2020年12月5日。

その日に ” あの時 ” の出来事は起きた。

 

特務自衛隊・八広駐屯地

B12F・第4実験場

【3式機龍無人稼働実験】

 

 

鳴り響く警報。

それに対処すべく飛び交う怒号。

そして眼前に移るは暴走を開始した異界の産物––––––3式機龍。

 

「ISコア、不安定化‼︎」

「パルス逆流‼︎」

「拘束具だけでは抑え込めません‼︎」

 

––––––灰色のコンクリートに四方を囲まれた立方体型の第4実験場を見下ろす形で壁に設置された実験場管制室は喧騒と混乱に満ちていた。

行われていたのは、ISコアを搭載し、遠隔操作による無人稼働を検証する実験だった。

既に厳重な確認を20回以上行い、実験に臨んだ––––––だが、あろう事か起動臨界領域に到達した瞬間に機龍は暴走を開始。

今は壁に固定している自身を抑え込む拘束具を引きちぎろうとしている––––––いや、もう引き千切られる寸前だ。

 

「緊急停止信号を送信‼︎」

 

アイリが焦燥に満ちた声音でオペレーターに怒鳴る。

そしてオペレーターもそれをすぐさま実行する––––––。

 

「…ッ!エラー⁉︎ダメです、信号拒絶‼︎」

 

しかしそれは阻まれ、オペレーターが悲痛な声で叫びながら報告する。

瞬間、機龍は拘束具をひきちぎってしまう。

 

「キシャアァァァァァァ‼︎」

 

––––––機龍が機械が擦れるような咆哮を放つ。

 

「––––––3式機龍、制御不能‼︎」

 

「第4実験場内の作業員は速やかに退避‼︎」

 

「––––––非常用電源回路遮断および事故対応用爆薬起爆。」

 

混乱と焦燥に満ちたオペレーターやアイリとは対照的に、光は落ち着いて言い放つ。

オペレーターは光の命令をすぐ実行する。

コンソールを素早く叩き、機龍に繋がっていた電力供給ケーブルが爆砕ボルトで接続口を爆破することで切断––––––。

さらに機体表層部を覆っている黒い動力ケーブルの各部位の重要箇所に万が一の事態に備えてあらかじめ仕掛けておいた爆薬を起爆––––––連鎖する爆炎と爆音。

そして第4実験場を包み込む爆煙––––––。

それで管制室からは機龍は見えなくなった。

あとに残されたのは、静寂––––––。

このまま何も無ければ機龍は3分程度で活動を停止する。

––––––何も無ければ。

 

「––––––やった、の…?」

 

女性オペレーターが沈黙を破り、呟く。

その問いには誰も答えない。

否、答えられれない。

第4実験場内部がどうなっているか分からないのだ。

耐爆ガラスの向こうに見えるのは爆煙だけ。

第4実験場内部のセンサーは先程故障したらしく、内部を確かめるには直接入るか、天井のダクトから爆煙を排出して中を晴させるか––––––。

 

「天井ダクトをオンにして。爆煙の排気を––––––…」

 

アイリが命じる––––––だが、それを遮って。

 

「––––––総員、退避!」

 

光の命令が響いた––––––と同時に、先程の第4実験場内部から拘束具を引き千切る時に生じた音よりはるかに大きな金属の擦れる音が響き、コンクリートの砕け散る音がそれに重なるように響き––––––爆煙を切り裂くようにして、鋼鉄の拳が管制室の耐爆ガラスに叩き付けられた。

 

––––––ドォン‼︎

 

地震のような衝撃が管制室を襲う。

耐爆ガラスは砕け割れて飛散し、窓辺の天井や床の金属フレームは変形して一部は耐爆ガラスと共に後方に飛び散る––––––。

 

「きゃあああああ‼︎」

 

先程の女性オペレーターが悲鳴を上げる。

それを皮切りに先程より遥かに混乱している状況になる。

 

––––––ドォン‼︎

 

さらに追い討ちを掛けるように第2撃が放たれる。

再び管制室を襲う衝撃。

次の瞬間、アイリは信じかねるような顔をして、さけんだ。

 

「光ちゃん!なにしてるの⁉︎早く下がって‼︎」

 

光は先程から一歩も動いていないのだ。

耐爆ガラスの破片が右の頬をザックリと切って、そこから血が流れているが、それにすら気にかけずに機龍を悠然と眺めているだけだ。

アイリの呼びかけにも応えない。

 

「キシャアァァァァァァァァァァアァア‼︎」

 

機龍の咆哮。

空気を振動させ、体が吹き飛ばされそうな衝撃が襲い来る。

 

「光ちゃん‼︎」

 

アイリが呼びかける。

だが光は応じない。

ただ一言、こう告げただけだった。

 

「総員退避、と伝えたはずだぞ。…行け。」

 

有無を言わせない、威圧を孕んだ声音。

 

「––––––了解…。」

 

そういうなり、全員は出入り口に駆け出す。

瞬間、第3撃が管制室の耐爆ガラスの壁を叩く––––––だが今度は拳ではない。

––––––爪による薙ぎ払いだ。

それで耐爆ガラスの窓枠も壁も抉り取られ、光と機龍を隔てるものは、何も無くなった––––––。

それは恐怖でしかない。

死が迫り来ている––––––そんな状況ではもはや、常人なら逃げ出すしかない。

だが、光は逃げ出さない。

むしろタバコを取り出し、火を点け、口に咥えて煙を吐く。

 

「––––––なんというか、またこのパターンか……」

 

光は自嘲する。

部下を逃がす為の囮役になってみたが、それがあの時の出来事に近いモノになろうとは。

かつての千尋––––––ゴジラに殺された時もこんなシチュエーションだった。

あの時は新宿のビルだったが、1人でゴジラに間近で面と向かっているという意味ではあの時と同じだ。

 

(そういや、あの時はゴジラーーーー‼︎…なんて、叫んでたっけ……。)

 

タバコを咥えたまま、苦笑いを浮かべて内心呟く。

 

「さて––––––」

 

(どうする?まだ逃げるという手はある。さっさと逃げるか?あの時みたいに、柴田に言われたりする前に。)

光は内心審議する––––––だがそれをすぐに打ち切る。

 

「キシャアァァァァァァァァァァア‼︎」

 

機龍が爪を突き立てるようにした手を振り上げて––––––今にも、振り下ろそうとしていた。

 

(––––––間に合わない。)

 

光の脳がそう判断する。

アレは避けようにも間に合わない。

ギリギリで一歩下がっても、アレは私を殺せる。

私に逃れる術はない。

ではこの避けようのない死を受け入れるか––––––それもいいかもしれない。

いや、それ以外に何が出来ると言おうか。

 

「死ぬのはこれで2回目だ。別に臆する事なんかない––––––。」

 

タバコを吸いながら、光は悟ったように言葉をタバコの煙と共に吐き出す。

瞬間、機龍はその鋼鉄の爪を比較目掛けて、振り下ろす––––––。

––––––しかしそれは光から数メートルずれて、コンクリートの壁を粉砕した。

凄まじい衝撃と轟音が響き、弾け飛んだコンクリート片が乾いた音を鳴らしながらパラパラと落ちる。

 

光は額をコンクリート片が切り裂いたが健在だった。

鮮血が額から流れ、滴り落ちる。

光は動かない。

呆気に取られたのもあるが予想外な出来事だったから。

 

ふと、機龍が背後を振り返る。

そこには、金属製の渡り廊下でその光景を見て唖然としている––––––千尋。

 

「…グルル……」

 

機龍が威嚇するように唸った––––––と同時に、第4実験場の支柱表面と壁が炸裂する。

 

「‼︎」

 

炸裂した箇所からは【ポリプロピレン・ワイヤー】が飛び出し、機龍の各部位に巻き付く。

それは、一本や二本ではなく無数に––––––。

さらに天井のスプリンクラーからは【硬化ベークライト】が降り注ぎ、機龍の関節などのり絡まり、瞬時に固まっていき、機龍の動きを封じて行く。

 

「グォォキシャァァアァァア‼︎」

 

機龍は四肢の自由を奪われ、もがき苦しむ。

まだ自由な尻尾を振り回し、それで天井を覆い尽くす大型LED証明群を次々と砕き、破壊して行く。

そして動きを封じられても、手足を動かし、固まったベークライトから手足を引き千切り、再び自由になる。

しかしまた硬化ベークライトとポリプロピレン・ワイヤーが絡み付き、また自由を奪う。

 

『3式機龍活動停止まで、あと20秒。』

 

アナウンスが響く。

 

機龍はなおも狂ったように何かを求め、拘束を引き千切る。

そして向かう先にあるのは––––––千尋、だった。

千尋はその光景を見て逃げようとしない。

否、逃げてはならないと思わされていた。

見なくてはならない何かがそこに––––––自分に迫り来る機龍の中にあるような気がして––––––。

 

––––––手が迫り来る。

 

『活動停止まで5秒!』

 

千尋は動かない。

 

『4…』

 

機龍の足に電力が供給されなくなり、それ以上の進行が無理になる。

 

『3…』

 

それでも機龍は進もうとする。

 

『2…』

 

機龍は手を伸ばそうとする。

 

『1…』

 

だがその手は新たに射出されて絡まったポリプロピレン・ワイヤーによって阻まれた所為で、届かなくて––––––。

 

『––––––ゼロ…』

 

機龍の活動が、止まる。

千尋はまだ動けない。

動こうとすれば動ける。

今すぐこの場から離れるべきだ––––––理性がそう警告する。

しかし、千尋の感情がそれを拒絶した。

 

「––––––お前、誰なんだよ…?」

 

千尋は物言わぬ機械仕掛けの龍に問う。

懐かしいような、それでいて嬉しいような、哀しいような、そんな感情がごちゃ混ぜになった声音で問いかける。

機械仕掛けの中にいる、ナニカに問いかける。

 

––––––だが、機械仕掛けの龍は答えない。

知る必要はないと言わんばかりに、沈黙を貫く。

 

「––––––答えろ。」

 

瞬間、千尋は低い、妙に大人びた、それでいて荒々しい獣のような声を放った––––––。

––––––その刹那、機械仕掛けの龍は再び起動––––––。

拘束されていた腕を、引き千切り––––––掌に僅かな空間を保ちながら、千尋の周りに指の爪を食い込ませるように––––––壁を、叩き付けた。

––––––凄まじい衝撃が走る。

––––––金属製の渡り廊下がひしゃげる音が響く。

––––––コンクリートの壁が砕け、破片が飛び散る乾いた音が響く。

––––––千尋は壁に叩き付けられた。

 

「か、はっ…!」

 

衝撃で一瞬息が出来なくなる。

それと同時に。

 

『…全く、口の悪いクソガキだ。』

 

––––––呆れるような。

––––––嗜めるような。

––––––叱るような。

そんな声が響いた。

幻聴––––––というには程遠いくらい酷く鮮明で。

それは、とてもとても懐かしくて、それでいて憐れむような声で––––––。

千尋が求めていた存在の声で。

その声の持ち主は––––––

 

「親、父……?」

 

確認するように呟く。

その時に何か聴いたような気がしたが、壁に叩き付けられた衝撃が引き起こした痛みが千尋の意識を暗闇に引きずり込むことで途絶えてしまった––––––。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

––––––現在・2021年6月20日

IS学園。

第2シャフト最深部・超々大型輸送車両プラットホーム。

 

そこでは特務自衛隊墨田駐屯地から輸送されて来た3式機龍の搬入作業が行われていた。

万が一、学園が巨大生物の襲撃を受けた際の最終手段として配備が開始されることになったのだ。

––––––千尋は、その光景をぼんやりと眺めていた。

機龍を見ていると、あの日のこと––––––機龍の暴走事故を思い出してしまう。

自分が今箒の次に気にしている事だから、いつも見に来ているのだが、いざ学園にまで持ってくるとなると何故か気が引ける。

––––––こんな所には、来るべきじゃない––––––何故か、理性が詳細な理由と共に判断を下すより前に、感情が感化されて動くより前に、本能的にそう感じた。

この学園の場所を中心に世界からナニカが零れ落ちて行くような、そんな感覚を覚えさせられる。

 

「あれ、家城一尉、帰られるんですか?」

 

後ろから声が聞こえた為にふと振り返ると、そこには山本三尉が燈に話しかけている所だった。

 

「ええ。でもすぐに帰ります。英理加ちゃんのお見舞いに行くだけですから。」

 

英理加––––––燈の友人らしいが今は入院しているらしい。

詳しくは聴いていなかいが。

 

そうしていると山本三尉との会話を終える。

そして、山本三尉が千尋の隣にやって来た。

 

「千尋…おまえ例の件、聴いてるか?」

 

山本三尉が千尋に聞く。

その顔には重苦しいものを孕んでいた。

 

「ええ。…片桐一佐から聴きました。」

 

その光すらもやるせない感情を露わにした顔で千尋に伝えていた。

––––––3式機龍の臨時操縦士。

千尋に向けられた例の件とは、それの事だった。

つまり、千尋が機龍に乗って動かせ––––––と。簡単に言えばそういう事だった。

 

「なんでまたお前に苦労をかけさせなきゃならんのか……本当に、スマン。」

 

山本三尉が至極申し訳無さそうに謝る。

だから千尋は慌ててしまって。

 

「あ、いやいや!山本三尉の謝ることじゃないですよ‼︎」

 

山本に心配をかけさせないように必死に無邪気な作り笑いを浮かべて応じた。

 

「––––––そう言ってくれると、助かるっちゃ助かる…。すまん、そろそろ行く。」

 

そう言って山本三尉は去って行った。

残された千尋はふと溜息を吐く。

統合機兵のテストパイロットをしつつ、緊急時は機龍の操縦士も努めなくてはならない。

疲れるというのが正直な話だが、それ以上に酷く複雑な心境だった。

––––––自分の父親が武器にされている…という事に。

確かに機龍くらいの兵器がなくては人類は生き残れないだろう。

分かってる。

分かってはいる。

だが、しかし––––––。

千尋は酷く悩まされる。

けれど半年前の暴走事故以来、機龍の中に在る者の存在を感じられない以上、どうしようもない。

 

「……悩んでたって仕方ない。」

 

ふと呟く。

 

「…今はとりあえず、タッグトーナメントに…」

 

タッグトーナメントに集中しよう…そう、言おうとした瞬間、それは遮られた。

––––––ナニカを感じたから。

同時に機龍を格納していた区画からも警報がなる。

機龍に異常が生じたのだ。

そして、ゆっくりと、けれど確実に学園に迫り来る存在を千尋と機龍は感じた。

黒い、黒い––––––かつての自分に似た巨獣と、蔦などを身に纏い幾つもの子供が入った植物の存在を感じた。

 

「…来た––––––。」

 

千尋はふと、呟いた。

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

中央太平洋

ウェーブピアサー型輸送艦【大戸島】

 

「朝倉さーん、ゴジラは?」

 

篠ノ之束のラボがあったキャロッ島から奪った流線形フォルムのウェーブピアサー型輸送艦輸送艦【ウサギ丸】改め––––––輸送艦【大戸島】の艦橋で艦の航行を制御している倉田自作のスーパーコンピュータ【MAGI】の整備をしている倉田が艦橋デッキに出て外を見ている朝倉に聴く。

 

「潜ってるみたいですね。…水深はだいたい……うーんと、200メートルくらいですかね…」

 

朝倉が言う。

 

「ははぁ…ゴジラ細胞と自然同化したらそんな細かくも分かるんですかぁ…」

 

倉田が気持ち悪い笑顔を浮かべながら朝倉に言う。

 

「ええ、でも、私の言いなりに出来たりとかはしませんよ?あくまでゴジラという始祖と、私という下僕の関係ですから。」

 

卑下するように朝倉は言う。

 

「卑下し過ぎじゃありません?」

 

「あはは」

 

「––––––ところで、朝倉さんは人類を滅ぼす気なんですか?」

 

倉田はさらりととんでもない事を聴く。

朝倉はクスリと笑う。

 

「いいえ。何人かは残って貰います。」

 

「何故?貴女は人間が嫌いなのに?」

 

倉田は判りかねるような顔をして聴く。

 

「ええ。嫌いですよ、大嫌い。…でも嫌いというだけであって、興味が無いわけではない。」

 

朝倉は妖しい、妖艶な笑みを浮かべて倉田に言う。

 

「––––––好きの反対を人はよく嫌いだと言う。…でも、私は違うと思うんです。対象への反応や印象は確かに好きの方とは違うけど、嫌いの方は興味を示さなければ思わないはず。好きも嫌いも同じ様な存在で、本当に対になるのは無関心、だと思うんですよね。」

 

やはり妖艶な笑みを浮かべたまま続ける。

 

「だから私は人間は嫌いでも無関心ではない。つまり人間に興味が無いわけでは無いってことです。」

 

それは朝倉なりの回答。

朝倉の人類に対する印象。

束の所為で世界中の人類の敵に祭り上げられて迫害の対象にされてもなお、朝倉は人類に興味を抱いている––––––。

奇妙な話だ。

 

「––––––まぁ、最後に私が世界の王になって君臨するとか、そんなアホな事はないですから、その辺は安心して下さい。」

 

「えぇ…何故?」

 

朝倉が言うと、倉田はさらに不思議そうな顔をして聴く。

それに朝倉は今度は妖艶な笑みではなく真剣そのものの顔をして倉田に向けて声を放つ。

 

「もし、世界が滅ぶ寸前の事をして人類を一定数残して間引いて、世界を変えちゃっても、それは私という存在が秩序を破壊するという悪行を成すことで出来ることです。…そんな私が、のうのうと生きていて良い筈が無い。必ずなんらかの贖罪を迫られるべきです。…世界を変えたという罪科を償うのに手っ取り早いのが死ぬことですから、私は最終的に死ぬつもりですよ。世界が変わろうと、変わらまいと…。」

 

それはつまり、何があっても朝倉は死ぬという意識表明だった。

 

「それは無駄死にじゃありません?せっかく自由とかを手にしたら、好き放題やりまくれば良いじゃないですか。」

 

せっかく天災に一泡吹かせて自分に害を与える存在が居なくなった後には自身は救われるべきだと考えている倉田は異を唱える。

 

「ええ、そんな自由があれば…の話ですが…。」

 

朝倉は少し悲しいような、寂しいような顔をして言った。

––––––何故なら、どう足掻こうと朝倉に残された余生は今年中に終わりを迎えてしまうという避けようのない現実があったから。

 

「私には限定された自由と終結に近い余命しかありませんからね。…どうせなら、派手な事をやってのけよう…なんてクチですが。」

 

––––––ふと、朝倉が海に視線を向ける。

それと同時にゴジラが海面を突き破って現れる。

 

「グルル…」

 

唸り声を上げながら、北の方角を睨みつけるように見る。

何か、得難い難敵を得たような顔をしているその顔を朝倉が見て––––––ふと、その存在が朝倉の脳裏にもフィードバックする。

 

「へぇ、ゴジラと似た存在が ” 3つ ” も…そしてどれも日本に集結しつつある…。当然、ゴジラも向かう…なら」

 

思いついたように朝倉は倉田に顔を向ける。

 

「倉田さん、進路を日本に設定できます?」

 

「勘弁して下さいよ…レッチ島に向かうはずでしょ?」

 

「なんだか、面白くなってきたんです。それに、レッチ島の天災なら、どうせそのうち日本に来ますよ。」

 

妖艶な笑みを浮かべて言った。

 

「なんで分かるんです?」

 

倉田はつまらなさそうに聴く。

そして朝倉は悪戯っぽく笑いながら言った。

 

「オンナの勘です。」

 

 

––––––そんなやり取りをしている朝倉達を他所に、ゴジラはもう既に日本に向けて動き出していた。

––––––自分と同じモノを感じさせる者達を求めて、漆黒の巨獣は進撃を開始する––––––。

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

ロリシカ・沿海地方

旧ダリネゴルスク

 

天気は曇天。

相変わらず降り止まない雪。

いや、ロシアが戦略核を乱発した所為でさらに悪化した。

放射性物質を含む塵が舞い上がり、積乱雲にまで発展し、太陽光を遮るカーテンと化しており、辺りは極寒の冷気と明かり無き暗闇に支配されていた。

『プチ【核の冬】』…とでも言うべき事態に、国境付近の地帯は見舞われてしまっていた。

放射能を含む雪が降り積もり、土壌は重金属粉塵による汚染のみならず放射能にまで汚染されてしまっていた。

その中を黒塗りで通信アンテナと観測装置が強化された【MF-4Rガンヘッド強襲偵察型】が2機、跳躍ユニットのスラスターを吹かしながら寒気を切り裂くように駆け抜けて行っていた。

 

『こちらチェーニ01、HQ、観測位置に着いた。指示を乞う。』

 

ロシア語で影を意味するコールサインを持つガンヘッド強襲偵察型分隊の指揮官がダリネゴルスク沖の日本海に展開しているモナーク機関の情報収集艦【プエブロⅡ】に置かれた前線指揮所に通信を行う。

 

『HQよりチェーニ01、衛星から動きが確認され次第観測を開始。それまで待機せよ––––––』

 

HQのオペレーターが告げる。

 

今回観測する対象はいつもと同じ。

––––––とはいえ、今回はいつもとは様子が違っていた。

対象が、日本を目指して進撃しているのだ。

そして対象とは、モナーク機関が重金属粉塵による多臓器障害を患った子供たちを対象に新薬実験を行っていた旧ダリネゴルスク––––––今はバルゴンの支配下にある––––––にあったモナーク機関の破棄された研究所を破壊して出現したバケモノ。

 

瞬間、広域マップに旧ダリネゴルスクから小規模なバルゴン梯団が接近して来る事を知らせるマーカーが表示される。

 

『––––––⁉︎中尉、ダリネゴルスク方面からバルゴン梯団が––––––‼︎』

 

チェーニ01の僚機であるチェーニ02が言う。

だが、チェーニ01は落ち着いて返す。

 

『案ずるな。アレはどうせ対象のエサになる。』

 

瞬間。

––––––地面を埋め尽くしていた雪がバルゴンを巻き込みながら轟音と共に空高く舞い上がる。

何故なら、それはバルゴン梯団の真下––––––地中から現れたそれが地面に突き出した瞬間に発生した衝撃で吹き飛ばされたから。

 

『HQよりチェーニ01、対象確認。観測を開始せよ。』

 

『チェーニ01、了解。』

 

そう応じると、ガンヘッド強襲偵察型の観測機器をフル動員して、ソレを観測する。

 

––––––ソレは蔦を全身に纏い、腹部と思しき場所にはオレンジ色に輝きながら鼓動する器官を持ち、所々ハエトリグサのような顔を持つ触手が生えていて、頭部と思しき部位の形はまるでワニのような形。

植物と爬虫類を合体させたような姿をしていた––––––。

 

「キュウヴォオォオオォォォオォオオ‼︎」

 

ソレは荒々しく、そして何処か儚げな咆哮を灰色の曇天が支配する空に向けて放つ。

まるで大地を汚した人間を憎むように、人間にそうさせたバルゴンを蔑むように––––––。

だが、次の瞬間にその雰囲気は反転した。

 

「アハハ…」

 

「キャハハ…」

 

ソレの本体から生えている触手の先端のハエトリグサのような顔が無邪気な子供らしい笑い声に近いモノし放ったのだ。

 

「…おねーちゃん、えりかおねーちゃん…」

 

「だっこ。だっーこ。」

 

「おなか、スイタ…」

 

「ねぇねぇ、あのね…」

 

それだけではない。

完全にヒトの言語を理解しているとしか思えない声を発したのだ。

 

「おねーちゃん…えりかおねーちゃん、どこ?……おにいちゃん?」

 

ふと、触手のひとつが疑問符を呟く。

 

「おにーちゃん……ちひろおにーちゃん!」

 

「えりかおねーちゃん、ちひろおにーちゃん…どこ……?」

 

まるで迷子の子供が親や兄弟を探すように触手が次々と声を放ち出す。

そして本体にあたる部位が触手達の総意を反映するように、数十万トンの巨体を、根を動かし、地震のような地響きを鳴らしながら、動き出す。

ソレは––––––コード:【ビオランテ】は、雪原を薙ぎ倒すように、進撃を開始した––––––。

 

 

 

 

 




今回はここまでになります。

機龍、ゴジラ、そしてゲオザークさんのビオランテを登場させてみました。
あ、燈さんかお見舞いに言った英理加ですが…最後のビオランテ見たらなんとなく分かるかもしれませんが…。

あと序盤に「障がい者」とありましたがこれはミスではなく、自分の高校時代の友人が障害を持っていて、
「字に書くにしても『障害者』なんて書かないで欲しい。私なんも悪いことしてないのに何で害みたいに言われなアカンの?せめて『障がい者』って表記して。」
とかつて人権の授業で言っていたからです。

明日、シンゴジラを見てタッグトーナメント辺りの話を再修正するので次回は少々遅くなります。

明日のシンゴジラ楽しみです。




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