インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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ドイツ最強のIS部隊(笑)【黒兎隊】、ドイツ最強の戦術機中隊【黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)】が本格的に動き出します‼︎

あ、あとラウラとシャル登場回です。



巨獣行軍編Ⅰ
EP-15 黒兎ト黒ノ宣告


2019年6月8日・ウクライナ東部

ドネツク州・スィエヴェロドネツク

 

闇の中、市街地の全てが獄炎に包まれていた。

あらゆる場所から火の手が上がり、爆発音が轟き、舞い上がる火の粉と煙と幾多もの屍が街を埋め尽くす。

スィエヴェロドネツクは今まさに、ネクロポリス––––––死の都と化していた。

その、死の都を駆け抜ける集団が2つ。

ひとつは鏃のような形の頭部を持ち、4足で時速150キロもの猛スピードで放置車両や死体を踏み潰し、道路を、半壊した建物を粉砕しながら、疾走してくる、ギャオス陸棲体、推定150体以上––––––。

もうひとつは特徴的なトサカ型頭部センサーマストと近接戦と空力操作を兼ねたアームブレードを下腕部に持つ、白い機体フレームのEF-2020ヴァイツァヒンメル戦術機、1個中隊。

ドイツ陸軍第666戦術機中隊シュヴァルツェスマーケンが。

ユニコーンの一角を思わせるブレードアンテナが頭部ユニットに付いたヴァイツァヒンメル指揮官機––––––中隊指揮官のユリア・ホーゼンフェルト大尉が長刀でギャオス陸棲体の首を斬り飛ばす。

その後方に構えている副官エミーリア・カレル中尉が突撃砲の二門同時射撃でさらに後方から突進してくるギャオス陸棲体の頭を蜂の巣にして行く。

その隣では中隊の次席指揮官のクラウス・エルツェンガー准尉が、シェルツェンの爆発反応装甲でギャオスの頭部を殴り付け、頭部を吹き飛ばす。

「各機、まだいけるか⁉︎カレル中尉!状況報告‼︎」

ユリアが落ち着いた声音で怒鳴る––––––即座にエミーリアが応答する。

『全機損傷なし!なれど残弾、推進剤枯渇しつつあり!このままでは…』

焦燥を孕んだ声音で言う。

「––––––だが、引くことは許されない。背後にはまだ避難を終えていない難民や撤退中のウクライナ軍がいる。」

後方のサブカメラからは、軍の輸送トラックに乗せられて避難を行っている難民と、あるものはトラックや装甲車で、あるものは走って撤退しているウクライナ軍の兵士がいる。

彼らの元にギャオス陸棲体が到達すれば、彼らはなす術なく蹂躙され、皆殺しにされる––––––。

だから、ここで食い止めなくてはならない。

これ以上欧州各国に難民が流れ込むのを防ぐという政治的な目的のためにも。

『HQよりドイツ軍第666戦術機中隊へ。貴隊は速やかに退避せよ。米軍が爆撃を敢行する。』

前線司令部からの通達––––––爆撃を敢行するというのだ。

そしてその爆撃の範囲が幾つものサークルマーカーが広域マップに表示され––––––そのサークルマーカーのひとつを見て、エミーリアが絶句する。

『待て!HQ!爆撃範囲にはまだ難民がいる!すぐに中止させろ‼︎』

エミーリアが脊髄反射で叫ぶ。

『HQより第666戦術機中隊、戦況悪化を防ぐために中止は認められない。』

確かに大局を見れば、爆撃を行わねばならない。

そしてその結果、数千人の難民を見捨てなくてはならない。

エミーリアは葛藤する。

「…シュヴァルツ・リードよりHQ、爆撃の遅延は可能か?」

エミーリアの葛藤に歪む顔を通信モニター越しに見て、ユリアが問う。

『HQよりシュヴァルツ・リード、それは出来ない。予定通り爆撃は刊行される。』

「…爆撃機の攻撃予定地もか?」

『いや、ギャオスの密集具合が激しい地域に投下が優先される。』

「…なるほど。」

それを聞いたユリアは悪い笑顔を浮かべる。

『ち、中隊長…?』

部隊最年少の隊員が不安げに声をかける。

「…了解した、HQ。だが難民に近い先鋒のギャオスは我々が漸減させる。米軍にはそれ以外の戦域を爆撃させるように伝えろ。」

ひどく楽しそうな声音で言う。

『ま、待て!シュヴァルツ・リード!そんな命令…』

「密集具合が激しい地域が最優先で叩かれるんだろう?私たちはギャオスを漸減し、難民が脱出する時間稼ぎをする。米軍はその後の残りカスをやればいい。貴官もそう言ったではないか。」

『そんな屁理屈…!』

HQのオペレーターが呆れたような声音で叫ぶが、

『HQ、止しておけ。ウチの中隊長は言い出したら絶対辞めない頑固娘だ。』

エミーリアが、同情するような声音で言う。

『中隊長‼︎』

クラウスが叫ぶ。

見ると、ギャオス陸棲体の群れがなだれ込んでくる。

「食い止めるぞ!中隊全機、突撃にぃぃ、移れぇぇぇぇぇっ‼︎」

ユリアの、裂帛の号令。

瞬間、前方より迫り来る30体以上のギャオス陸棲体に、12機の戦術機タイフーンが、突貫する。

「––––––あたしのケツを、舐めてみろぉぉぉぉぉぉ‼︎」

失せろ、の意味を持つ雄叫びをユリアが上げて、鋭角的な軌道を描いて全長30〜40メートルもあるギャオス陸棲体の隊列に突撃。

エミーリアがそれに水平噴射跳躍で続く。

ユリアが装備しているのは残弾が僅かな突撃砲1丁と長刀、エミーリアが装備しているのは突撃砲2丁とシェルツェン。

残弾が少ないが故に、徹底的に無駄弾を排した精密射撃でギャオス陸棲体の脚部を瞬く間に薙ぎ払いながら、ギャオス梯団を打通する。

そこにも新たなギャオス梯団が迫ってきていた。

「先の梯団後方のギャオスはあたしが!エミーリア、あんたは新手の梯団を‼︎」

『了解‼︎』

 

そして脚部を潰され、地面に這いつくばった個体が障害物となり後ろのギャオスがぶつかり、動きが停滞する。

『中隊後衛全機!120ミリ焼夷榴弾をぶちかませ‼︎』

クラウスが中隊後衛のヴァイツァヒンメルに命じる。

そして梯団に対して120ミリ焼夷榴弾が放たれ、爆発。同時に炎上する。

『後衛各機!突撃開始‼︎』

クラウスが、命じる。

ギャオス梯団を打通したユリアとエミーリアに合流する為に。

いくら2人が中隊のエースであっても、やられない可能性は無かったから。

 

『死ねぇ!忌まわしい鳥もどきがぁ‼︎』

エミーリアが叫びながら、突撃砲の36ミリ機関砲を放ち続ける。

何発かは無駄弾になっているが、気にしている暇はない。撃ち続けなければ、ギャオス陸棲体に張り付かれ、文字通り喰われる。

『はぁぁぁ!』

エミーリアが雄叫びを上げて、シェルツェンの大型スパイクをギャオス陸棲体の喉に突き刺し、力任せに切断する。

それを蹴飛ばし、射撃を再開。

接近しようとするギャオス陸棲体に弾薬をぶち込む。

ギャオス陸棲体を3、4体倒したところで、背後の粉塵から

先程打通した梯団のギャオスが襲い掛かる。

『…っ‼︎』

「––––––近づくなぁっ‼︎」

ユリアは長刀でそのギャオスの首を斬り飛ばす。

ギャオスの赤黒い体液がタイフーンの白いボディを汚す。

「––––––殺されたい奴からあたし達にかかって来い‼︎」

ユリアは、叫んだ。

 

 

 

 

結論から言えば、作戦は成功した。

難民の避難は無事完了し、米軍による爆撃で、ギャオス陸棲体の殲滅もできた。

––––––スィエヴェロドネツクは、瓦礫の山と化したが。

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

2021年・宇宙・衛星低軌道上・ウクライナ上空

ドイツ空軍再突入型駆逐艦【ファルケンベルク】

戦術機カーゴ内

 

 

「ふぅ…」

戦術機カーゴに取り付けられた外部カメラが捉えた映像がヴァイツァヒンメルの管制ユニットに投影されている中、ウクライナの姿を見たユリアは2年前のウクライナ派兵時の体験を思い出し、ため息を吐く。

『どうしたの?大尉。』

エミーリアが通信モニター越しに、問う。

「ああ、エミーリア…いや、ウクライナは今、どうしているのかなって…思っただけ。」

そう言うと、エミーリアも神妙な顔をする。

「ウクライナってさ…ロリシカと同じく、国連から援助すら受けられずにギャオスの肉壁にされてる国じゃない?…それに、あたし達が他部隊と交代する形でウクライナから撤収した後それっきり、あんまり連絡取れてないし…心配だなぁって…」

ユリアの言う通り、ウクライナもまた、5年前から出現したギャオスと対峙し続けている、ロリシカと同様に国連からバケモノの存在を隠匿すべく、国連の援助もなしに、肉壁にされている国家だった。

国連が介入しない理由はやはり、ロリシカと同じく、ISの存在価値が無くなり、自分たちの権力を固める存在が形骸化する事を恐れたから––––––。

そのためにウクライナ軍や欧州連合各国、米軍が犠牲を払うハメになっていた。

当然、ギャオスとの戦闘もロリシカのバルゴン同様に内戦、と処理されていた。

結果として多くのウクライナ将兵が命を落としている。

「…今も、戦っているわよね…ウクライナ軍の将兵たちは…ギャオスと…。」

ユリアが言う。

重い空気が部隊を包む。

『あ、あの…』

すると部隊最年少である少年、ハンス・ブルグスミューラー曹長が声をかける。

「どうした、曹長。」

『こんな状況でなんですが……少し、アネクドート(小話)をしませんか?空気が重いままだとアレですし…』

「…ふむ、それもそうだな。…では、カレル中尉から。」

思わず、エミーリアは驚く。

『なっ⁉︎なぜ私から…まぁ良い…そうだな…』

だが、なんだかんだと言いながらも、ノリノリでエミーリアは始める。

『東西冷戦時代––––––まだベルリンの壁があったころの話だ。牛がベルリンの壁を超えて、地雷を踏んで爆死した。それを三人の人間が見た。一人目、牛が可哀想。二人目、地雷が勿体無い。三人目、ここに俺しかいないのが残念。』

一人目は純粋に牛に同情。

二人目は地雷の補充をしなきゃいけないから面倒くさい。

三人目は、牛が歩いた場所は地雷が無いわけだから、つまり、その先にある西ドイツに亡命できる––––––。

そういう意味だった。

「…ぷっ!」

ユリアは吹き出す。

だが、ハンスは微妙は顔。

「…ハンスはウケなかったかぁ…まぁ、旧東ドイツ出身にしかウケないネタだしねぇ…じゃあ次はあたし。」

今度はユリアが言う。

「さっきと同じように、東西冷戦時代…の宇宙開発黎明期。アメリカとソ連が衛星を打ち上げたわ。両国からの通信が途絶えた後、2つの衛星が出会った時、お互いに口を開いた。『グーテンターク。これでお互い母国語で話せますね。』…と。」

東西冷戦時代の宇宙開発時代、アメリカ、ソ連両国のロケットや衛星が第2次世界大戦のナチス・ドイツの超技術を使っているのは有名な話だった。

『…ぷっ、ふふ…』

今度はハンスはにもウケた。

『…でも、こっちにもネタはありますよ!』

自信たっぷりに言う。

『2年前のウクライナの駐留基地で聴いた話です。イギリス軍の将兵が腹を下したそうです。…そのイギリス兵はギャオスの肉を食べてみたそうですが、腹を下してからこう言いました。「あれはいけない、あれはとても食えたものじゃない…」と。』

イギリス人の舌の味覚崩壊っぷりは有名だが、そのイギリス人すらギャオスの肉は悶絶させるのだ。

加えて飯マズ大国のイギリスが食べて物を不味いという。

なんとも、皮肉な話だ。

「ぶっは‼︎」

『くっ、くく…』

ユリアは大爆笑し、エミーリアも笑いを堪えるのに必死になっている。

場の空気が先程と打って変わって明るくなる。

『築地宇宙センターからの誘導確認。各艦、ランディングに入れ。』

【ファルケンベルク】の艦長が、中隊の戦術機を載せた他の再突入型駆逐艦【シュルトヴェンベルク】、【アンガーミュンデ】と戦術機パイロットに通達する。

「シュヴァルツ・リード、了解。––––––さて諸君、仕事の時間だ。まぁ、軽く退屈なバカンスだと思え。…もっとも、我々の専門分野である敵対存在が現れたら、話は別だがな––––––。」

ユリアは、不敵な笑みを浮かべて、各機に言い放つ。

ドイツ最強の戦術機中隊、ビーストナンバー、死神、選別中隊…様々な別名を持つ、ドイツ国防陸軍第666戦術機中隊、

––––––【黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)】が、舞い降りた–––––––。

 

 

 

 

■■■■■■

 

IS学園・第4アリーナ指揮所テント

 

第4アリーナは現在、特務自衛隊が一時的に使わせてもらっているアリーナだった。

通常のアリーナとは違い、廃棄車両やドラム缶、ベニア板で作ったハリボテの建物などの遮蔽物が置かれていた。

その遮蔽物の中を、這うように移動する影が2つ。

強化装甲殻【打鉄改二】を纏った千尋と箒だった。

2人は打鉄改二のマニピュレーター越しにM2重機関銃を装備して、遮蔽物に身を隠しながら移動して、アリーナ各所に置かれたターゲットであるドローンにペイント弾を撃ち込み、撃破する––––––という訓練の最中だった。

「…よく訓練を受けてくれたものだ…」

光が言う。

「ええ、まったくよ…あと2日くらいは、休ませるつもりだったのに…」

まりもが隣から光に言う。

ロリシカ派兵から帰投したばかりの2人には、休養を命じていたのだが、それよりも訓練を申し出てきた。

「…2人とも、動きに無駄がなくなってきたな…。」

光が言う。だが、それに突っ込むように、

「いや、ロリシカ戦線に行ったのだから…当たり前か…」

自答する。

眼下に見える千尋たちは慎重に、そして的確にドローンを潰して行っていた。

まず遮蔽物に身を隠しながら、ターゲットのドローンに銃撃し、大半を制圧。

その後遮蔽物から飛び出し、撃ち漏らした残存ドローンを的確に潰していく。

それも2人同時ではなく、まず千尋が飛び出して道を横切るように移動しながら銃撃し、ドローンの数を減らしながら向かいの遮蔽物に飛び込む。

そしてその後から箒が飛び出して同じく道を横切るように移動して千尋が撃ち漏らした残存ドローンを銃撃し、殲滅する。

2機による多重攻撃––––––それによって短時間かつ、的確にターゲットドローンを2人は潰していっていた。

そしてターゲットドローンを全て潰し終え––––––、

「CPよりハウンド1、ハウンド2へ。対象の殲滅を確認。繰り返す、対象の殲滅を確認––––––市街地想定訓練を終了する––––––。」

CPオペレーターを務めていた男性自衛官が千尋と箒にそう言って––––––訓練が終わった。

 

 

 

 

第4アリーナ・格納庫

そこでは、空自の戦闘機パイロットが身に纏うフライトスーツを元に作られた、深緑色のツナギの様な格好の【09式衛士強化装備】を纏った千尋と箒が、まりもから訓練の結果を、聞かされていた。

「2人ともよくやった。戦術機のみならず、強化装甲殻の扱いにも慣れてきたな。」

まりもが褒めるように、言う。

「ありがとうございます。」

階級上、千尋より上の箒が応じる。

ちなみに2人はロリシカの件で、少し階級が昇進していた。

千尋は二士(二等兵)から二曹(軍曹)に、箒は一士(一等兵)から一曹(曹長)に、昇格していた。

「先の遮蔽物を利用し、尚且つ2機による多重攻撃によるターゲットドローンの殲滅も、実戦で応用すればかなり役に立つ。今後も、精進するように。」

「「はっ。」」

千尋と箒が敬礼しながら応じた。

「…ところで、」

まりもが、ふと思い出したような顔で言う。

「もうすぐタッグトーナメントだ。よって、今後はそれに訓練を優先するように。」

それを聞くなり、2人はゲンナリして、

「…出なくては駄目でしょうか…?」

千尋が聞く。

正直、くっそ面倒くさい。

箒も同じく、嫌そうな顔をする。

織斑の墜落事故の一件以来、あちら側に関わるのは、酷く抵抗があった。

そしてそれは、他の第2学園守備隊のメンバー…簪やセシリア達も同じだった。

「…気持ちは分かる。ISに不信感を募らせるのも分かる。…だが、一応IS学園の生徒であるが故に、出場しなくてはならない。」

まりもは、さも申し訳なさそうに言う。

だから、2人は仕方なく出ることにした。

 

 

 

 

 

「とはいえ––––––」

千尋はISの訓練が行われている第3アリーナに向かっている途中で呟く。

「どうするよ?強化装甲殻、ISにほぼ近い性能にするっつてたけど…」

「…まぁ、強化装甲殻の実戦テストも兼ねて、参加しなきゃいけないんじゃないかなぁ…。」

箒は苦笑いをして言う。

「…だが、何処か大人の陰謀も絡んでいる気が、しなくもないな…だって強化装甲殻がISに勝てば…」

「…日本は本格的にISから戦術機や強化装甲殻にシフトする。…いや、日本だけじゃない、日本と関係のある国も––––––」

千尋が繋ぐように言う。

そういう政治的目的も絡んでいる––––––。

つまりは、

「…まぁた、内ゲバってか?…本当、政治家って抗争大好きだなぁ…。」

千尋が呆れるように言う。

ふと、目の前に、

「よっ」

織斑がやって来た。

何気無く話しかけるが––––––2人は威嚇するような視線を向ける。

こいつは、織斑は数日前、自分たちを殺しかけたのだから。当たり前だろう。

その殺しかけた張本人が、何もなかったように馴れ馴れしく接してきたら、尚の事。

「…何の用だ?」

箒が問う。

「いや、ただ見かけたから。」

やはり、持ち前の鈍感スキルの所為で、箒の威嚇するような顔にすら気付かない。

「そうか、じゃあ。」

箒は千尋の手を引き、そそくさとその場を後にする。後ろから織斑の声が聞こえるが、無視する。

織斑は殺しかけておきながら、謝罪のひとつすらない。

…腹が立つ。

そう思って千尋の手を引きながら、織斑が視界から消えて、歩いていると、

「おい」

また、声をかけられる。

振り返ると見知らぬ銀髪に眼帯の少女がいた。

だが、素振りや姿勢からして軍人だった。

「…所属と姓名は?」

箒が思わず聴く。

少女は一瞬、箒の聞き方に面食らったようだが、すぐに顔色を取り戻す。

「ドイツ国家代表候補生、ドイツ軍IS部隊黒兎隊隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ。」

そして、そう言う。

だから千尋も、

「…特務自衛隊、第2学園守備隊所属、篠ノ之千尋二曹。こちらは篠ノ之箒一曹。」

一応、紹介する。

ぱっと見だけで、嫌な感じだったから。

 

「ふん、天才篠ノ之束の身内か。さぞ良いご身分だろうな。」

 

瞬間、箒から殺気が溢れる。

箒は、束と一緒にされるのが一番嫌いだから。

 

「…まぁ、所詮は七光りだろうから、実力は知れているがな。」

 

多分、今の箒をほっておけば、酷くマズイ。一瞬で彼奴の目を潰して、首をへし折って殺せる。それだけの殺意が溢れている。しかも厄介なのが、それら全てが無意識ということ––––––

しかも軍人であるラウラは全く殺気を感じていない。

すかさず千尋は箒の手首を強く握る。

それで箒は止まる。

「…単に冷やかすだけなら、もう行きますよ。少佐殿。」

千尋は冷ややかに言うと、箒の手を引いて、立ち去った。

 

 

 

「…はぁ。」

千尋はため息を吐く。

「相変わらず、マシな奴がいねぇなぁ…ココ。」

柵にもたれながら、呟く。

「…彼奴は、入学してすぐの時はいなかった…多分、転校生だろう。」

「あんな奴寄越すとか…ドイツは馬鹿か?」

「…かも、な。」

「…黒兎隊って、ドイツ軍最強…って言われてるIS部隊だっけ?」

先ほど買った缶コーヒーを飲みながら、千尋が聴く。

「…確かな。…よく覚えてないが。」

そう話していると、また、誰かがやって来る。

金髪の…男子生徒だ。

「あ、いたいた。」

2人を見つけるなり男子生徒は駆け寄ってくる。

とりあえず2人は、またか、という言葉を飲み込む。

「はじめまして。僕はフランス代表候補生のシャルル・デュノアって言うんだ。…一応、三人目の男性ISパイロットだけど…」

先ほどのラウラとは正反対の、朗らかで、人懐っこそうな感じだった。

そして、男性のISパイロットときた。

「…ああ、うん。よろしく。」

とりあえず千尋は普通に応じる。

するとシャルルは少し意外そうな顔をして、言う。

「あれ、驚かないんだ。」

「ああ、いや、こっちは戦術機乗りだから、普通に野郎とかいるし。」

千尋は笑いながら、言う。

「あ、そうなんだ…」

シャルルも笑いながら言う。

…だからかして、箒も千尋も少し気分が軽くなる。

今までは学園守備隊のメンツとしか話せなかったから、ある意味新鮮だった。

「あ、ねぇ、トレーニングするならアリーナにいかない?」

「ん、そうだな…そろそろ搬入してもらってるとこだし…。」

「…行くか。」

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

IS学園・第4アリーナ

 

そこで打鉄改ニを纏った千尋と箒、ラファール・リヴァイヴ・カスタムを纏ったシャルルらが訓練をしていた。

主に、射撃訓練を。

的が展開されると、すかさず両手の12.7ミリ機関砲を構え、背部兵装担架の12.7ミリ機関砲をダウンワーズ方式で前面に展開する。

「へぇ〜強化装甲殻って背部兵装担架を前面に展開した射撃も可能なんだね〜。」

シャルルが言う。

「ああ…元々分隊支援火器として作られた戦術機の縮小版だし、純粋なパワードスーツの強化装甲殻は火力がそんなにない。だから数で補うしかないんだよ。」

箒が補足するように説明する。

千尋は両手に構えた12.7ミリ機関砲と背部兵装担架の12.7ミリ2門の計4門によるペイント弾で次々と的を沈黙させていく。

「命中と全てを沈黙させるまでに掛かった時間からして…うん、65点だな。千尋。」

箒が言う。

「う”…射撃は苦手なんだよなぁ…」

千尋がそれに苦笑いしながら言う。

「でも、織斑くんよりは筋があると思うよ?彼は全然ダメだったから…」

シャルルが励ますようにして言う。

「呼んだか?」

「ひゃあ⁉︎」

シャルルの背後から、突然、白式を纏った一夏が現れた。

だからそれにシャルルは驚いてしまう。

そして千尋と箒も、ウヘェ、という顔をする。

だがそこで、周りの生徒がざわめく。

理由は、至極単純だ。

ドイツの第3世代IS、シュヴァルツァレーゲンを纏ったラウラがいたから。

確か、 ” ドイツ最強のIS部隊 ” 黒兎隊の新装備…らしい。

「おい。」

ラウラは織斑に視線を向けて声をかける。

「なんだよ。」

「貴様はクラス代表らしいな。丁度いい、私と勝負しろ。」

「嫌だ。俺にはその理由がない。」

「そうか––––––なら、二度と乗れない体にしてやる。」

そういうと、シュヴァルツァレーゲンの右肩のカノン砲、パンツァーカノニーアを二斉射、穿つ。

「「ッ!」」

千尋と箒がそれを防ぐ為に90式戦車の装甲を流用した複合追加装甲を展開し、シャルルがシールドピアスでパンツァーカノニーアの砲弾を1発ずつ防ぐ。

「…この程度で怒るなんて、ドイツ人の沸点はビールより低いらしいね。」

シャルルがラウラに言う。

「ふん、未だに第3世代を開発できていないアンティーク風情がよく言う。」

「量産の目処すらたってない国に言われたくはないね…」

 

アリーナを微妙な雰囲気が包む––––––がそれはすぐに霧散した。

何故なら、低い、けれども甲高いような、人工の駆動音が響いたから。

「これは…戦術機の、跳躍ユニットの音…?」

箒が呟く。そして箒が空を見上げて、周りがそれにつられる形で、アリーナの上空を見上げた––––––直後、

666のマーキングが施された白い鋼鉄の騎兵が6機、跳躍ユニットの駆動音を響かせながら、上空を通過したから。

「ヴァイツァヒンメル⁉︎」

箒が驚く。

「それに、今のマーキングは… … ” ドイツ最強 の戦術機中隊 ” …【黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)】…。」

千尋が箒につられて、呟いた。

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

IS学園・夢見島飛行場

 

航空自衛隊管轄の、IS学園の敷地の隅に建てられた滑走路に、6機のヴァイツァヒンメルが跳躍ユニットのノズルを真下に向けて垂直着陸を果たした。

「諸君、ご苦労だった。機体を航空自衛隊から指定された仮設格納庫に移動後、自由解散とする。」

ユリアが中隊から選抜した戦術機パイロット–––––衛士6名から成る臨時第1小隊の面々に言う。

全機が主脚移動で歩行しながら戦術機格納庫に向かう。

「––––––時に、ブルグスミューラー曹長。」

ふと、ユリアがハンスに声をかける。

「––––––先のイギリスの肉マズの話––––––あれは何処のだ?」

「確か、ドクチャイェウシカに駐留していた部隊の話です。…間違っても、あっちの部隊の方は––––––ニズネイェ要塞の方は、ネタにできませんよ。」

ハンスが至極真っ当な顔で答える。

 

 

ニズネイェ要塞––––––ウクライナ東部戦線において、ニズネイェに工場と隣接する発電所を改装して作られた、兵士2000人が駐留していた要塞基地だった。

 

だが、ギャオス陸棲種の猛攻の前に補給路は絶たれ、要塞は包囲された。

兵士たちはニズネイェ要塞に立て籠もり、籠城戦を展開した。

だが元は少し堅牢だった工場を改装しただけであり、本格的な要塞より軟弱だったが故に、大量のギャオスが要塞内部に雪崩れ込み、兵士は各部署で孤立。

最初に2000人いた兵士はその時点で200人程度になっていた。

 

そんな彼らに容赦なくギャオスは襲いかかり、容赦なく殺されていった。

さらにその当時はマリウポリに侵攻が集中しており、援軍は期待出来なかった。

––––––そのイギリス兵は、食料が途絶えた為に腹を空かせていた。

食わなければ、死ぬ。

何か食べなければ栄養失調で、死ぬ。

だから…

 

 

まず、衰弱死した友人の死体を食べたらしい。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」そう、何度も謝罪しながら、屍人(グール)のように、友人の死体の肉を、咀嚼した––––––。

だがそれで飢えは一時防げても、飢えを満たすことを覚えてしまった腹は、すぐに次の食料を欲しがる。

だがもう、友人の肉は食い尽くした。

もう残っていない。

もう、 ” 人間 ” の肉は、残っていない。

あるのは、忌むべき敵であるギャオスの肉塊だけ。

それを前にして、腹の飢えを満たしたいという欲望が膨れ上がる。

空腹による渇望を、抑えきれなくて––––––ギャオスの肉塊に食らいついた。

 

 

その兵士が発見されたのはその翌日。

その時に要塞内部で生存が確認されたのは4人だけ。

だが、 ” 最終的に ” 生存したのは、2人だけ。

1人は傷口から入り込んだ菌による感染症で死んだ。

もう1人は脱水症状による衰弱死で死んだ。

助かったのは、ギャオスの肉を喰った少女と下士官の男性兵士の2人だけ––––––。

 

 

それが、ハンスの口にしていたアネクドート(小話)と同じくらい、いやそれ以上に現地兵士たちからしたら有名な、「ニズネイェ要塞籠城戦の惨劇」だった。

そして、欧州連合軍や、その他軍も、この凄惨な戦闘の件を口にすることはしなかった。

その話は、タブー(禁句)だから。

そんな話をしていると、格納庫に到着した。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

千尋たちは、その一連の光景を滑走路外のフェンスの外側から見ていた。

「…ほ、本当に第666戦術機中隊だ…。」

箒が言う。

「そ、そんなに有名なの…?」

シャルが困惑気味に聴く。

「…ああ。…ドイツ最強の戦術機中隊だからな…。しかも、唯一、旧東ドイツ軍から解体もされずにドイツ軍に組み込まれた部隊だし…それだけ練度が高いって事だ…。」

千尋が、歓喜とは言い難いが、それに近い顔で答える。

「…けど、悪い噂もある…デュノア、第666中隊の異名…なんだと思う?」

千尋が聴く。

シャルルは、わからないという顔をする。

「…『死神中隊』に、『選別中隊』。」

千尋は、悪い冗談のように言う。だが、それらの異名は事実だった。

それにシャルルは少し顔から血の気が引く。

「シュヴァルツェスマーケン…『黒の宣告』にもちゃんと意味がある。…由来は、病院とかで患者の負傷具合を示すトリアージタグの黒––––––『手の施しようがない、助からない。』ってものから。」

さらにシャルルの顔から血の気が引く。

箒も黙り込む。

「そして彼らは常に激戦地に派遣されるし、時と場合によっては味方も見捨てる。ようはさ、『敵に処刑宣告を下す部隊』であると同時に、味方からしても、『こいつらが来たら俺たちはお終いだ。もう助からない。』って恐れられる存在でも有るんだよ…。」

「…さらに付け加えるなら、部隊創設者は、実の兄を––––––家族を密告して国家の英雄となった奴だ。」

千尋の解説に、箒がその説明を付け足した事で、シャルルは今まで以上に血の気が引き、困惑する。

「え?密告って…え?」

「…まぁ、部隊創設当時は1970年代後半––––––東西冷静時代の東ドイツだから、あり得るよ。それくらい。…あそこは、国民の10人に1人が密告者という、ナチスのゲシュタポ、ソ連のKGBより厳重な監視体制下にあったから、密告されて粛清––––––なんて日常茶飯事だったらしいから。ようは、今の北朝鮮や中国みたいな状態だったんだよ。東ドイツって。」

困惑するシャルルに、千尋は覚めた声音で言う。

だが、無邪気な笑みに表情を変えると、

「ま、それはもう30年以上昔の話だから、今のドイツはそんなことないし、大丈夫。」

シャルルにそう言う。

「…あ、そ、そうだよね。あはは…」

シャルルも安心したように笑う。

––––––まぁ、東ドイツの秘密警察・シュタージが各国要人や反乱分子の名前やプライベートを記して暗号化されたシュタージファイルという代物は、未だに文章総数9億件近くが解読できていないが––––––という言葉は、飲み込んだ。

 

「ふん、あんなデカブツを派遣するとはな。」

 

ふと、後ろから声が聞こえた為に、千尋達は後ろを振り返る。

そこには、忌々しげな顔をしたラウラと、彼女のサポート役らしい、黒兎隊の隊員がいた。

 

「あんなデカブツなど要らんだろう…国家予算を無駄に食うだけのブリキ風情でしかないのに––––––」

 

馬鹿にするように言う。

箒も千尋も内心鬱憤が溜まり、怒りがラウラに向かいそうになるが、堪える。

仮にも、国家代表候補生だから。

仕方なく、無視しようとした、瞬間。

 

「あら、それは聞き捨てなりませんね––––––役立たずの、穀潰し部隊のみなさん。」

 

ふと、声がしたので、そちらを向く。

そこには、蝶の髪飾りをして、髪を後ろでくくり、ドイツ軍のBDUを纏った、クールビューティーな雰囲気の少女が、いた。

小馬鹿にしたような口調だったが、その根底には、純粋な怒りが篭っていた。

 

「ドイツ陸軍第666戦術機中隊【シュヴァルツェスマーケン】第3小隊隊長、クリスタ・シュタインホフ中尉です。…そちらの所属と姓名は?」

やはり純粋な怒りを秘めた瞳をラウラに定めたまま、聴く。

「貴様に名乗る必要など…」

ラウラは忌々しげに言おうとはしない。

「…ああ、なるほど貴女達にとって下賤な戦術機乗りになんて名乗りたくない––––––そう仰いたいんですね?…自己紹介してきた相手には自己紹介で返す––––––軍隊のみならず、一般常識の範疇ですが?」

小馬鹿にしているようで––––––それでいて噴火直前の火山のような雰囲気を纏いながら、淡々と言う。

「…ぐっ…」

図星を突かれ、尚且つ正論を言われたが故に、ラウラは押し黙る。

「…ドイツ最強のIS部隊…でしたっけ?貴女の部隊は。まぁ、どうせプロパガンダなんでしょうけど。」

「貴様我が隊を侮辱しているのか⁉︎」

「…先に侮辱したのは、貴女の方ですよ?」

「…っ‼︎」

ラウラはクリスタの言ったことに怒りを浮かべたが、あっけなくブーメランを返され、ラウラはまた押し黙る。

「…まぁ、そんなことはどうでもいいです。少しお願いがあったから、声をかけただけです。」

醒めた瞳で、ラウラを見つめながらクリスタは言う。

「…お願い…だと?」

やはりラウラは屈辱に満ちた声音で言う。

「ええ。…今すぐ謝罪して頂けますでしょうか?この場で、今すぐ。」

今度こそ、淡々としていながらも、本気で怒気を孕んだ声音でクリスタは言う。

「ふざけるな!一体何を…」

ラウラが怒鳴るが、クリスタは遮って、

「『前線に出てもロクに機能しない役立たずで、尚且つ他の兵科に守ってもらっている分際で、無礼な振る舞いをして本当に申し訳ありませんでした。』…とでも。」

「…っ‼︎」

口調は最初のような小馬鹿にしたような感じではなく、至極真面目で、怒りを露わにした声音で、クリスタは言う。

実際、ISはアラスカ条約の『ISの紛争地域への投入禁止』により、ギャオスが現出しているにも関わらず、公にしたくない国連が紛争、内戦地域と定めているウクライナにも、ISは派遣できない。

それ故に既存の兵科部隊が犠牲を払ってウクライナと本国を守る為に戦っている。

当然、第666戦術機中隊もだ。

そして、多くの将兵が命を落としていっているウクライナを尻目に黒兎隊は、実戦経験皆無にも関わらず、最強のIS部隊として謳歌している。

そんな連中の為に将兵が命を落としていっているのに、弔うどころか侮辱されては、死んで逝った者達が浮かばれない。

「そ、そんなことを何故私が––––––…」

「 ” そんなこと ” …?……ふざけないでください‼︎」

ラウラが言いかけた言葉がクリスタの怒りにターボをかけ、遂にクリスタが噴火する。

「貴女達を守るだけなら、まだ納得はします!ですが、守ってもらっておきながらその態度は何ですか⁉︎貴女だってウクライナの真実を知らない訳では無いでしょう⁉︎」

「…!」

「今この瞬間にも祖国を––––––ドイツを守る為に私達の同志達がウクライナで血を流している‼︎いえ、ドイツだけじゃない。アメリカやイギリス、フランス、ポーランドなどの欧州各国も血を流しているんです‼︎貴女達はその犠牲の上でのうのうと生きているだけでしょう⁉︎なのに何ですかその態度は‼︎」

「そ、れは…」

クリスタは純然な怒りをラウラにぶつける。

ラウラは予想だにしなかったような感じで憤怒したクリスタに気圧されていた。

そして、その言葉はロリシカに派遣された千尋や箒の胸にも深く突き刺さる。

「––––––その辺にしときなさい。クリスタ。」

ふと、肩まで伸ばした栗色の髪を持つ女性士官がクリスタの肩をつかんで、止める。

「…ユリア隊長…ですが…!」

「ここで口論して、ウクライナの戦況がどうにかなる訳ではないでしょう?そしてIS部隊が ” 内戦状況 ” のウクライナに派遣できるようになる訳でもない。この場で同じドイツ人同士で、厄介事を作るだけよ。」

「…ッ‼︎」

女性士官…ユリア・ホーゼンフェルトが、現実をクリスタに言い、クールダウンさせる。

「ですが…こんなんじゃ、彼奴らが報われません…‼︎」

クリスタが呻くように言う。

それをユリアは憂うように見て、それから千尋達に視線を移す。

「私の部下が騒ぎを起こしてすまなかった。今後は自重させるよう指導しておく。」

そしてラウラにも視線を移す。

「同じドイツ人同士、仲良くやりたいものだな。」

ユリアはそうラウラに告げると、クリスタを引き連れて、夢見島飛行場敷地内に戻って行った。

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

IS学園・第2シャフト内・整備フロア

 

千尋と箒は夢見島飛行場の騒ぎのあと、シャルルと別れてそこに来て、第2学園守備隊の面子と話を、していた。

「第666戦術機中隊シュヴァルツェスマーケン?」

簪が乗機である荒吹壱型丙の整備をしながら、言う。

「座学で山田教官から習いましたわ…ただ、具体的にどのような戦闘をしているのかは…」

セシリアが、言う。

「そっか…」

やはり、バケモノに関しては、触れられていなかった。

つまり、千尋と箒、そしてロリシカ派兵に参加した面子しか知らない––––––。

それだけ徹底した情報管制がしかれている。

しかもクリスタの言っていたことから、その情報管制は、国連主導の可能性が高かった。

 

(国連は…何故、隠そうとする…?ロリシカのような国が他にもあるのに…。)

箒は、内心呟く。

《単純な話。認めたくないからよ。》

ふと、ナニカが言う。

《国連のお上って、女尊男卑主義者とかいうキチガイ集団でしょう?そんな彼女らの権力を支えているのは何かしら?》

(IS…。)

《そそ。…で、ISを派遣せずに何故 ”内戦 ” で始末したのかしら?普通なら最低1機くらいは派遣するハズなのに…どうしてかしらね?》

妖艶な笑みを浮かべながら、聴く。

ふと、箒は思い当たる。

(まさか…)

《貴女が今思い当たった通りでしょうね。ISでは勝てないから。戦術機にやらせて、戦術機の方がISより優位という現実とバケモノを封殺するため。そしてIS不敗神話を継続させて、自分達の権力を支えているものが形骸化するのを防いでいる…って言うところかしらね…》

「こんな時にまで、我が身大事だなんて…」

思わず、箒は口にしてしまう。

「箒?」

だから、簪が気にかける。

「え?あ、なんでもない!気にするな。」

箒は思わず驚いて、そう言う。

「疲れてらっしゃるなら、お休みになられた方が…」

セシリアが心配そうに言う。

「あ、ああ。そうだな…少し、休んで来る。」

そう言うと、仮設生徒宿舎のあるフロアまで続くスロープ型のキャットウォークを登って行った。

「…ちっひーも行けば?」

簪の手伝いをしていた本音が、千尋に言う。

「え?あ、良いのか?」

「勿論ですわ。…貴方にとって、大事な、家族なんでしょう?」

セシリアが言う。

「だったら行った方が、良いと思う…」

簪が、言う。

「分かった。気利かせてくれてありがと‼︎」

そう言うと、千尋は箒の後を追っていった。

「…相変わらず、千尋はワンコっぽい。」

「いや〜ちっひーって本当にほっぴーに一途だよね〜」

「純愛ですねぇ…ロマンというものを感じます。」

そんな千尋を見ながらそういう会話をしていたそうな…。

 

『次のニュースです。1年前から活性化していた西アフリカ、カメルーンのカメルーン火山が、今日、大規模な噴火を引き起こしました。』

ラジオからは、不穏なニュースが流れていた。

 

 

 

■■■■■■

 

大西洋上空・女性利権団体専用ジェット機

 

これからニューヨークの国際連合本部でスピーチを行うべく、女性利権団体の総帥を乗せたジェット機が飛行していた。

 

その、機内。

 

女性利権団体の総帥はファーストクラスと同じ構造のイスがある専用個室の窓辺に座りながら、眼下に見える雲海を眺めていた。

総帥はこうしている時がたまらなく好きだった。

愚かな男共が血を這いずり回っている中、自分はこんなに高い場所にいて、まるで世界を支配している錯覚すら覚えたから。

「総帥、スピーチの原稿の改正案になります。」

「あら、ありがとう。」

秘書の女が総帥に、スピーチの原稿を渡す。

ふと、窓の外に、影が見えた。

「どうしたの?」

「あれ…なんでしょう…?」

見たところ、鳥のようだ。

いや、だが今は高度1万フィート近く。

鳥が飛ぶような高度ではない––––––だが、さして気にせず、2人は事務に戻ろうとした––––––が、ふと、窓の外をもう一度見た秘書は、体が凍りつく。

先程の鳥が、まだ飛んでいる。

だが、その鳥はジェット機に近づくにつれてどんどん大きくなっていき––––––いや、それは当たり前なのだ。

だが、

「総帥…あんなに大きな鳥…いましたっ、け…?」

恐怖に歪んだ顔で聴く。

総帥も、凍りつく。

そして最後の瞬間に見たのは、赤く、巨大な鳥がジェット機の横を通り過ぎる光景だった。

 

直後、––––––機内にいた者は、何が起きたか理解する前に死んだ。

ジェット機が、巨大な鳥の飛行時に発生する粉砕衝撃波(ソニックブーム)と、瞬間的に、鳥が爆発的な熱量を体内で発した為にジェット機全体の水分が蒸発し、機内の乗客が発火。さらにジェット機の燃料も膨大な熱で発火。一瞬後、爆発。

 

それで、ジェット機は粉砕された。

「チュルラァァァァァァッ‼︎」

そして巨大な鳥––––––否、

紅い翼竜––––––【ラドン】は、咆哮を上げながら、ジェット機が目指すはずだった、北米東海岸最大の都市であるニューヨーク目指して、時速7440キロ––––––マッハ6.2もの速さに加速して、風を斬り雲を吹き飛ばし、大気を裂きながら、飛翔した––––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。

ウクライナも実はロリシカと同じように国連に肉壁にされていた…。

ちなみに再突入型駆逐艦【ファルケンベルク】、【シュルトヴェンベルク】、【アンガーミュンデ】はシュヴァルツェスマーケンのオーデル・ナイセ防衛線の要塞陣地が名前の由来です。

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