ベビパニ・アナザー~君が主で執事が俺で~   作:高嶺 蒼

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第4話

 んく、んく、とベニが入れてくれたオレンジジュースをレオが美味しそうに飲む。

 その様子を見ながら、広間に集まった面々は誰一人例外なく相好を崩した。

 

 

 「ほら、レオ。クッキー、食べる?」

 

 「食べるっっ」

 

 

 ベニの言葉にぱああっと顔を輝かせるレオ。

 その笑顔が年上のお姉さま&お兄さま達の胸をきゅぅぅんっとうずかせる。

 

 

 「じゃあ、ほら。あーん」

 

 「あー」

 

 

 まるで雛鳥のように開いたレオの口に、ベニが手作りのクッキーを押し込んだ。

 もしゃもしゃと口を動かしながら、レオは幸せそうににこぉっと笑う。

 

 

 「おいしーね。ベニー、ありあとぉ」

 

 

 舌足らずなそんな言葉に、ベニは少し照れたように頬を染め、そんな反応を隠すように指先でレオのぷっくりしたほっぺをつついた。

 

 

 「あ゛ー。反則的な可愛さだなぁ」

 

 「あうっ、あうっ」

 

 「ずるいぞ、ベニ。私もレオにおやつを与えてみたい」

 

 

 唇を尖らせ主張する主を見上げ、ベニは手に持っていたクッキーを渡してやる。

 すると、喜々とした森羅がレオにクッキーを差し出した。

 

 

 「ほーら、レオ。クッキーをやるぞ」

 

 「クッキー!」

 

 

 ぱっと顔を輝かせたレオが森羅の方に顔を向ける。

 そんなレオに、森羅はそっと手の平を差し出した。

 

 

 「お手」

 

 「う?」

 

 「お手、だよ。ほら、私の手に手を乗せるだけだ。簡単だろう?」

 

 

 にこにこする森羅の顔と手を見比べて、プックリした可愛い手がゆっくりと伸ばされる。

 だが、その小さな手が森羅の手に到達する前に褐色の肌の大きな手が森羅の手に重なった。

 ん?と森羅が顔を上げると、期待に満ちた南斗星の顔。

 

 

 「お手!お手しましたよ!!森羅様」

 

 

 だから早くおやつを下さいとばかりの南斗星にきらきらした目で見つめられ、森羅は反射的に持っていたクッキーを南斗星の口に突っ込んでいた。

 それを見たレオの目が、驚愕の思いとともに見開かれていく。

 そしてその大きな瞳に、みるみると涙が浮いてきた。

 

 

 「レ、レオの、レオのクッキー・・・・・・」

 

 「し、しまった!!」

 

 「あ!!!!」

 

 

 それを見た森羅と南斗星がほぼ同時に声を上げる。

 今にもこぼれそうな涙に混乱した南斗星が、一度は口の中に納め、己の唾液にまみれたクッキーを取り出し、

 

 

 「ご、ごめんね、レオ君。ほ、ほーら、クッキーだよ~?はい、あー・・・・・・」

 

 

 しかし、ん、まで言うことなく、南斗星が吹っ飛ぶ。

 

 

 「なにするつもりよっ!!」

 

 

 吹っ飛ばしたのは横から全力で蹴りを入れたベニだ。

 

 

 「まったく、姉さんも南斗星も、子供なんだから」

 

 

 言いながら歩み出た未有が、美鳩から抜かりなく手渡された新たなクッキーを手に、レオの元へ歩み寄る。

 

 

 「ほーら、レオ。お姉さんな私がクッキーをあげるわ。お食べなさい」

 

 

 未有の差し出したクッキーを両手で受け取り、きゅるんとした目で未有を見上げた。

 それから少し考えるようにした後、未有の手の上にそっと自分の手の平を乗せた。

 

 

 「ん?なに?」

 

 「お手?」

 

 

 首を傾げた未有を見上げながら、レオも首を傾げる。

 その様子があまりに可愛くて、思わず抱きしめようと伸ばした未有の手がレオに届く前に、その視界からレオが消えた。

 

 

 「レオくぅーん。可愛すぎですぅ~~~。私を萌え死にさせるつもりですかっ?そうなんですねっ」

 

 「あうっ」

 

 

 レオの可愛さに理性が飛んだ美鳩に抱き上げられてほおずりされ、レオは目を白黒させた。

 そんなレオを愛おしそうに見つめながら、ちゃっかりと己の膝に乗せ、

 

 

 「ささ。レオ君。クッキー、食べていいんですよぉ」

 

 

 そう言って促し、レオが両手で掴んだクッキーを小動物の様にかじる様を特等席で眺めるのだった。

 そんな2人を見ていた森羅は無言のまま、美鳩の膝からレオを取り上げて自分の膝に座り直させると、その柔らかな髪を撫でながら真面目な顔で一同を見回す。

 

 

 「さて」

 

 「あーん。森羅様、ずるいですぅ~」

 

 「ミュー」

 

 「美鳩、今は堪えなさい。うっ、そんないじけた顔しないで。・・・・・・後でちゃんと借りてきてあげるから」

 

 「う~、わかりました。今はミューちゃんで我慢しますぅ」

 

 

 己の主の説得に、美鳩は微妙に失礼な返事を返しつつ、未有の体に後ろから抱きついて唇を尖らせた。

 

 

 「くっ、美鳩。私のミューを・・・・・・」

 

 「美鳩ってある意味大物ですよねぇ。自分の主にあの態度。とはいえ、とりあえず場は静まりましたね。ささ、森羅様」

 

 「うむ」

 

 

 ちょっぴり羨ましそうに美鳩と未有のふれあいを見つめつつ、こほんと一つ咳払いをした森羅は、

 

 

 「さて、お遊びはこのくらいにして、レンの居場所を割り出すために、レオの話を聞いてみようじゃないか。尋問係には、そうだな。美鳩が最適だと思うのだが、どうだ?」

 

 

 そういって皆の顔を見渡した。

 だが、特に異論の声も挙がらず、森羅は一つ頷き美鳩を見た。

 

 

 「異論は特にないようだ。美鳩、頼めるか?」

 

 「わかりました。やってみます。レン君の為ですもんね。でも上手く聞き出せた暁には、森羅様?」

 

 「ああ。レオの貸し出しを検討しよう」

 

 「嘘はだめですよ~?」

 

 「私を誰だと思っている?久遠寺の森羅だぞ?嘘などつかん」

 

 

 森羅の言葉に一応は納得し、美鳩は未有から離れてレオの前に膝をついた。

 目線をあわせてレオの顔をのぞき込み、にっこりと幼児の心をとろかせるような笑みを浮かべる。そして、優しく尋問を開始した。

 

 

 

 「ね、レオ君は今日は誰と一緒に来たの」

 

 「んとね~、乙女ちゃんと」

 

 「他には?」

 

 「えーっと、後はお姫しゃまとなごみちゃん」

 

 「ふんふん。乙女ちゃんと、お姫様と、なごみちゃんと遊びに来たのね?どこからどうやって来たの?」

 

 「んーっと、電車できたの。ゴトン、ゴトンって」

 

 「電車かぁ。なんていう駅から乗ったか分かる?」

 

 「駅?」

 

 

 首を傾げるレオを見て、鳩子は頷き質問を変える。

 

 

 「えっと、じゃあ、今日は乙女ちゃんと何をしてたの?」

 

 「んっとねぇ、乙女ちゃん、いっぱい色々買ってたの。あっちも~、こっちも~って」

 

 「乙女ちゃんは何を買ってたのかな?お洋服?」

 

 「んーん。ご飯」

 

 「ご、ご飯?」

 

 「ん。どれもうまそーって」

 

 

 レオの言葉に、その場が静まり返った。

 みんなの目が、何となく南斗星に集中する。

 

 

 「な、なに?」

 

 「・・・・・・なんだか南斗星みたいなやつね~。レオの乙女ちゃんって」

 

 「ベニ・・・・・・」

 

 「何か文句でも?間違ったことは言てないでしょ?」

 

 

 南斗星の視線を受けたベニがニヤニヤ笑う。

 

 

 「うん、間違ってない。何だかお友達になれそうだな~、その乙女さんって人」

 

 

 にこにこ笑って、なんの邪気もなくそう返す南斗星に、あー、はいはい、と返しつつ、ベニは思案する。

 

 

 「でも、上手いものがたくさんって聞いて一番に浮かぶのはやっぱり中華街ですよね。レオとその乙女ちゃんは中華街に来てたんでしょうか」

 

 「うーむ。その可能性は高い気がするな。私がレンとレオを取り違えたのは、中華街から駐車場に向かうわずかな間だったからな」

 

 「なるほど。じゃあ、これでレオが誰と、どこに来てたかは分かったわね。後はどこからきたかが分かれば事件解決よ。さ、美鳩。尋問を再会しなさい」

 

 

 うんうんと頷きながら未有が進み出て、びしっと美鳩に指示を出す。

 

 

 「はぁーい、ミューちゃん。さ、レオ君ここからが本番よ?」

 

 「う?」

 

 「レオ君がすんでる町の名前は?」

 

 「んー?」

 

 「おうちの住所とか、分からないわよねぇ?」

 

 「じゅーしょ??」

 

 「・・・・・・近所でよく行く場所は?」

 

 「んっとね~、乙女ちゃんのがっこーと~、なごみちゃんのお花屋さん?」

 

 「そ、そっかぁ。学校の名前とか、お花屋さんの名前とかは、わから、ないわよねぇ?」

 

 「うん。わかんない」

 

 

 元気のいいレオの返事に、美鳩は肩を落とした。

 

 

 「森羅様・・・・・・」

 

 「ふむ。このあたりが限界、か。最後に私から一つだけ聞こう。レオ?」

 

 「なぁに?」

 

 「電車で来たと言ったな?電車にはどれくらい乗ったんだ?今日の朝、家を出たのか?」

 

 「うん。朝ね~、ご飯食べたら、乙女ちゃん、遊びにいくぞーって」

 

 「ふむ。そうか。レオ、頑張って答えたな。偉かったぞ」

 

 

 言いながらレオのほっぺたをふにふにと撫で、抱き上げたレオをベニの腕に預けた。

 

 

 「ベニ、レオにご褒美だ」

 

 「はいっ、森羅様」

 

 

 答えたベニがレオを連れてキッチンに去るのを見送り、それから改めて一同を見回した。

 

 

 「さて、明確な情報を得ることは出来なかったが、推理の材料はそこそこ手に入ったな」

 

 「推理の材料?」

 

 「そうだ。レオは今朝家を出て、電車に乗ってここ、七浜まで来た。そして昼過ぎには中華街に居た訳だ。ということは、少なくとも電車で数時間圏内にはすんでいるという事だろう?」

 

 「なるほど~。シンお姉ちゃん、さすがの推理だね」

 

 「ふふ。そんなにほめるな、夢。少し考えれば分かることだ。そしてその乙女とやらは、レオをよく学校に連れて行っていた。と言うことは、通学時間は比較的短いと考えられる」

 

 「ってことは、ここから数時間圏内の場所で、近くに中学・高校・大学のいずれかがある場所を探せば良いってことね。レオを連れてここまで遊びに来れるって事は、そこそこの年齢でしょうし」

 

 「そうだな。ミューの言う通りだ。大佐、知り合いにそういう調べ事が得意な人材はいるか?」

 

 「まあ、2、3、心当たりはありますぞ。早速連絡を取りましょう」

 

 「ああ。頼む。とりあえず調査結果が出るまで、レオは我が家で面倒を見ることとする。それぞれ、協力して面倒を見てやるように」

 

 

 そういって家長らしく森羅がしめると、各々真面目な顔で頷いた。

 こうしてレオは久遠寺家へ迎えられ、しばし久遠寺家の一員として過ごすことと相成ったのであった。

 




読んで頂いてありがとうございました。

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