ベビパニ・アナザー~君が主で執事が俺で~   作:高嶺 蒼

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大変お待たせしました。
今回は「きみある」メンバーは錬だけですが、次回はフルメンバー登場の予定。
明日も更新しますので、もう少々お待ちください。


第2話

 思わず拳を振り抜いた乙女は、倒れてピクピクしてるレンを見て、そこでやっと正気を取り戻す。

 

 思わず取り乱して殴り飛ばしてしまったが、一般人になんて言うことを、と思いつつ、宙に飛んでいた食べ物をきちんと回収して丁寧に地面に置いてから、音速で倒れたままの少年へ駆け寄った。

 

 あ、食べ物はちゃんと回収するんだと思いつつ、そんな乙女を呆然と見守る姫。

 色んな事が立て続けに起こったせいで、思考が追いついていなかった。

 

 良かった、食べ物が無駄にならなくてと思いつつ、乙女を見守るのはなごみだ。

 こちらは比較的冷静。

 さっさと乙女にあの男を締め上げてもらってレオの居場所を吐かせないと、とそんな事を考えているとは思えない無表情でじっと乙女の行動を見つめている。

 

 一方、乙女は混乱の極みにあった。

 可愛い可愛いレオと、楽しい買い食いツアーのはずだったのに、なにをどう間違えてこうなったと思いつつ、倒れた少年の顔を見下ろした。

 

 年の頃は、レオの本当の年齢と同じくらいだろうか。

 気を失って目を閉じた顔は思いの外あどけない。

 その頬に残った拳大の真っ赤な跡を気まずげに見ながら、乙女はその体を揺すった。

 

 

 「す、すまん・・・・・・つい手加減なしで殴ってしまった。大丈夫か?頼むから目を覚ましてレオの事を話してくれ・・・・・・」

 

 

 レオは今頃どうしているのだろうか。

 親切な人が保護してくれていればいいが、きっと心細い思いをしているに違いない。

 なぜ自分はレオの手じゃなく、こんな見ず知らずの男の手を握って連れてきてしまったのか。今思い返しても悔やまれた。

 そんなことを考えながら、未だに目を覚まさない男の頬をぺちぺちと刺激する。

 

 

 (嗚呼、レオ、お前は今、どこにいるんだ!?無事なのか?)

 

 

 「乙女先輩、乙女先輩」

 

 

 ぽんぽんと、姫が乙女の肩を叩く。

 

 

 「なんだ、姫。私は今、この男の介抱で忙しい」

 

 

 物思いにふけったまま、反射的にそう答えると、

 

 

 「介抱?拷問の間違いじゃないですか?」

 

 

 反対側から今度はなごみの声が響いてきた。

 拷問?なんのことだーと己の手元に目を落とせば、色々思い悩んでいるうちに、力加減を失敗していたらしい。

 最初は優しく叩いていたはずの頬を、気がつけばベチーン、ベチーンと思い切り張っていたようだ。

 

 襟首を捕まれた少年の頬は見事なまでに真っ赤になっていた。

 最初に殴った場所の名残など、もうかけらも残っていなかった。

 

 

 「はっ、しまった!!」

 

 「しまったって・・・・・・」

 

 「どんなうっかりですか」

 

 

 両隣から呆れたような眼差しを向けられ、乙女はだらだらと冷や汗を流す。

 だが、乙女の与える容赦ない刺激が効果を発揮したのか、彼女に襟首を捕まれた少年が、小さくうめいて目を開けた。

 

 

 「おお!目を開けたぞ!!!!」

 

 「さすが乙女先輩です」

 

 「さ、早く拷問・・・・・・いえ、尋問のつづきを」

 

 「うむ、そうだな!!」

 

 

 姫のおだてとなごみの提案に頷いて、乙女はぼんやりとこちらを見上げる少年に目を落とした。

 

 

 「少年、大丈夫か?」

 

 

 とりあえず無難にそう声をかけてみる。

 

 

 「なんか、やけに顔が痛いんだけど……」

 

 「とっ、とりあえず命に別状はない、はずだ。安心しろ、少年。もう大丈夫だぞ!!」

 

 

 至極まっとうな少年の発言に、乙女はやや焦ったようにそう返す。

 両脇から飛んでくるつっこみ感満載な視線を意志の力で弾き飛ばしながら。

 そして、意識をはっきりさせるように頭を振る少年にそっと問いかける。

 

 

 「私は鉄乙女という。高校三年生だ。お前の名前は?その、お前はどこから私と一緒にいたんだ?」

 

 

 その言葉に少年・・・・・・レンはぼんやりと首を傾げた。

 

 

 「オレの、名前??」

 

 「そうお前の名前だ」

 

 

 がしりとレンの肩を掴んだ乙女が頷く。

 そんな乙女の目の前で、レンはひとしきりうーん、うーんと唸り、それから困ったように乙女の顔を見上げた。

 

 

 「ここはどこで、オレは一体何者なんだ?」

 

 

 そんな爆弾発言と共に。

 

 

 「なっ!!!」

 

 

 衝撃を受けた乙女が叫ぶ。

 その両横から、好奇心いっぱいの姫と忌々しそうななごみが揃ってレンの顔をのぞき込んだ。

 

 

 「これって、もしかしなくても記憶喪失ってやつ?初めて見たわ~」

 

 「ちっ、これじゃあレオの居場所が聞き出せない」

 

 

 そんな2人の声を両耳で聞きながら、乙女はわなわなと震えた。

 そして雄叫ぶ。

 

 

 「なんだとぉぉぉぉ~~!!!」

 

 

 そしてそのままがくりと崩れ落ちた。

 そんな乙女の横で素早くどこかと連絡を取り合った姫は、再起不能なまでに落ち込んだ乙女の肩にぽんと手を置いた。

 

 

 「乙女先輩、落ち着いて」

 

 「だがっ、レオっ、レオがぁぁ」

 

 「レオの事は心配ですが、まずは情報源のメンテナンスから始めましょう。病院を手配したのでとりあえずはそこで治療を」

 

 「しっ、しかし、レオが泣いてるかもしれない。私はここに残って」

 

 「いえ、まずは病院です。彼が情報を思い出しても、乙女先輩の記憶と組み合わせないと情報の精度は低いでしょうから。レオの事は、ちゃんと人手を回してそれらしい迷子がいないか探させますから」

 

 「そのほうが、効率的ですよ。きっと。できれば私も残ってレオを探したいですが、まずは病院でその男を締め上げましょう」

 

 

 ぎらりと、妙に迫力がある眼差しで、なごみがレンを睨む。

 うひぃと身を縮めたレンをちらりと見て、乙女も渋々頷いた。

 元はと言えば、自分の不注意が引き起こした事態だ。

 少年の記憶喪失の原因を作った負い目もあり、責任感の強い乙女は彼が元に戻るまではつき合う義務があると決意した。

 

 

 「・・・・・・わかった。まずは病院だな。すまないな、姫、椰子。せっかくの休みなのに、迷惑をかける」

 

 「レオのためだから良いですよ、と言いたいところですが、とりあえず貸し一つ、ですよ。後でちゃんと返して貰いますからね」

 

 「レオが帰ってきたら、レオと一日遊ぶ券を請求します」

 

 「なるほど。それもいいわね。ナイスよ、なごみん。乙女先輩、私もそれ!それにします!!」

 

 「ふ・・・・・・わかった。ただし、レオの意志を確認してから、だぞ?」

 

 

 3人は顔を見合わせて頷き、一刻も早くレオを探し出さねばと決意する。

 車を呼んであるという姫の後を、なごみが買い集めた食べ物を両腕に抱え、乙女は怪我をしたレンを肩に担いでついて行く。

 レンは訳が分からないまま、抵抗する暇もなく、3人に連れ去られたのだった。

 だが、不幸なことにその様子をレンの知り合いが見ることはなく、彼の行方についての情報が久遠寺家にもたらされることはなかった。

 

 その後、病院にてレンの症状は正式に記憶喪失と診断された。

 一時的なものではあるが、その記憶がいつ戻るかは分からないとの医師の言葉に、レオをこよなく愛する3人が頭を抱えたのは言うまでもない。

 

 




読んで頂いてありがとうございました。
次回はいよいよ久遠寺家inちびレオでございます。お楽しみに(笑)

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