Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.09-01 王の服

 

 

 その報告に、ファルデウスは思わず眉を潜めた。

 キャスターの存在が確認されたらしい。特段驚くことでもない。非力なサーヴァントであろうとサーヴァントに違いはなく、何かしら介入してくるのは十分に予想の範囲内である。

 

 キャスターにできることと言えば、革命時の経験を生かした部隊指揮か、銃の名手としてその腕を披露するぐらいだろう。それだって、キャスターの時代と現代とでは部隊能力と銃火器とに違いがありすぎる。少しばかりパラメーター補正があったくらいでどうこうなるものではない。せいぜい少し上手いという程度でしかない。

 

 餅は餅屋、生兵法は怪我の元。一点特化の英霊はせいぜい足を引っ張らないようすっこんでおくべきである。むしろ姿を見せない方が牽制になるくらいだ。それくらいのことは当然承知している筈。

 

 そんなキャスターが二十八人の怪物(クラン・カラティン)が隠れ潜んでいる場所からおよそ二キロ離れた位置で車を降り、そのまま何の工夫もなく歩いてこちらへと向かってくる。

 

「こうも直接的に介入するとは予想外ですね」

 

 キャスターの傍らには小柄な少女の姿も見えるし、何らかの策であることには間違いない。報告によると昨日の街中央拠点を潰したライダーのマスター、繰丘椿に間違いないという。

 ならば注意するべきはキャスターではなく繰丘椿。情報によると近接戦闘では二十八人の怪物(クラン・カラティン)を圧倒し、不可解な能力を有するらしい。狙撃に対応する能力はないらしく、距離を取れば問題はない。危険度は確かに高いが、充分に対応できる範疇にある。

 

「……ライダーの確認はできますか?」

「周囲一五〇〇メートル圏内に反応があるのはあそこだけです」

 

 サーヴァントの反応は確かにある。キャスターが実際にいるのだから当然であるが、霊体化しているサーヴァントが同道している可能性は捨てきれない。

 

「キャスターの気配に紛れてライダーが侵入しているとお考えですか?」

「確証が持てない以上分かりませんね。ただ令呪を失っているとはいえ、繰丘椿がマスターであった事実に変わりありません。それにあの身体能力の高さが異常なのは確定事項です。ライダーが彼女に何か仕掛けた可能性は非常に高いでしょう」

 

 事実とかなり近しいところまでファルデウスは推測するが、しかし事実には辿り着けない。

 実は、肝心のライダーについての情報は群を抜いて少ないのである。

 

 ランサーと対峙し敗北したという情報もあるが、今現在にあってもその情報精度はDを出ない。対策にはB+以上の多角的な情報精度を必要とするのだから、これがどれほどの脅威か分かるというもの。召喚当時から今に至るまで、ライダーがダークホースであることに変わりはないのだ。

 

「D1、H1、時間差をつけて狙撃。弾頭はC。ターゲットは繰丘椿。キャスターは無視。狙撃後はポイントを速やかに移動。J1は念のため風下での目視観測を継続。L1からO1はフォローをお願いします」

 

 まずは様子見とばかりにファルデウスは容赦なく弱点を突く。

 上空を浮遊させている観測機器からの映像はほんの数秒で狙撃される椿の様子を映像として流す。もちろん、己の弱点を敵が認識していない筈がなかった。この程度の攻撃は予想範囲内ということか。

 

『ターゲットに着弾。効果を認めず』

『直撃したようですが、キャスターの周囲に壁があるように弾かれています。二射目を行いますか?』

「必要ありません。この距離で仕留めるには情報が不足してます。弾は有限です。無駄遣いするのはよしておきましょう」

 

 淡々と結果を告げる観測手にファルデウスは待機継続を指示しておく。

 これで、二人の役割ははっきりした。

 キャスターが昇華した宝具は全て把握している。現在署長とキャスターがその中から持ち出した宝具についても同様である。

 

 今の狙撃を防いだ宝具は、恐らく王の服(インビジブル・ガウン)

 アンデルセン童話で有名な『裸の王様』を原典とした宝具である。誰にも視認できず確認もできない服であり、周囲からの攻撃をある程度無効化する防御宝具。計画の要たる署長を狙撃などの奇襲から身を守るために用意されたのだが、今はキャスターが使用しているのだろう。

 

 裸の王様らしく、見えない服を誇示すべく行進しているわけでもあるまい。

 繰丘椿がオフェンス、そしてキャスターがディフェンス。正面切って相手取るには攻守の力量が不足しているのは明らかなので、戦闘が目的とは思いたくない。この期に及んでこちらを舐めているとも思えない。

 時間は、処刑開始一五分前。とはいえアーチャーが来るかどうかで作戦開始時刻は変化するのであまり余裕はない。

 

「目的は交渉……というわけでもないでしょうね」

 

 独りごちるファルデウスであるが、最初から答えは分かっている。

 “上”は人と英霊との激突を切望しているのである。その意味では平和裏に事が進むのを何よりも恐れている。こんなところで交渉していては、署長どころかファルデウスの首まで危うくなりかねない。交渉の余地がないことなど、署長は百も承知している筈なのだ。

 

 大方、アーチャーを相手にしている隙に人質救出でもするつもりだろう。戦闘能力のないキャスターを前面に出しているのだからその可能性は非常に高い。方舟断片(フラグメント・ノア)の解除コードは着任早々変更しておいたが、キャスターなら解除コードを解除する裏コードを知っている可能性はある。

 情報は不足している。だが、戦力が不足しているわけではない。不安要素は今ここで排除しておくべきだろうか。

 

「……馬鹿馬鹿しい」

 

 そこまで考え、ファルデウスは首を振った。

 いかに英霊といえど、所詮はキャスターである。この対英雄王作戦において彼の存在は誤差の範囲内でしかない。参戦しようとしまいと、作戦になんら影響はない。むしろキャスターを排除するべく本番前に陣形を崩すことの方が、よっぽど影響が大きいだろう。

 

 モニターに表示された周辺地域の概略図、そして兵の配置を確認する。

 現在、ライダーを除いたサーヴァントは《イブン=ガズイの粉末》によって強制的に現界させられている。そしてここは見晴らしの良い砂漠地帯である。幾つもの人の目と音波電波赤外線等の機械を欺きかいくぐって近付くことなど、気配遮断スキルを有したアサシンであっても不可能だ。

 真っ当な作戦を立てるなら原住民と協力関係を結び、その衝突の混乱を利用してアサシンを投入するくらいだと予想していた。そうでなければ人質を助けることなどとても不可能だ。

 

「……北部に動きは?」

「今のところはありません」

 

 確認を取ってみても原住民が動き出す前兆もない。あの監視網を全て欺くとも考えにくく、時間的に見て彼らが南部へやって来るのは不可能だ。

 あと五分もすればキャスターは現地へと到着する。その頃には通信妨害も行うので外部との連絡もほとんどできなくなる。そうでなくとも、キャスターから何らかの電波が出ていることもないし、魔術を使って交信している様子もない。

 あらゆる事態を想定してみるが、ファルデウスにはキャスターが行おうとする策が思いつかない。

 

「西部森林地帯でアーチャーを確認。高速飛翔宝具が現場に舵を切りました」

 

 反面、こちらについては予想通り。

 高速飛翔宝具での強襲。アーチャーらしいやり方ではあるが、リスクの少ない霊体化をしていないということは事前に《イブン=ガズイの粉末》が無効化されている心配は少ないということ。

 となれば、物理攻撃もある程度は有効となる。

 

「分かりました。……では、予定通りといきましょう」

 

 アーチャーの確認によって作戦遂行の条件は揃った。事前準備に抜かりはなく、キャスターと繰丘椿以外は想定通り。一応その二人の情報を伝達し注意を促しておくが、それ以上のことはしない。

 

「状況開始。各員、優先順位を間違えるな。狙うはアーチャーの首ただ一つ」

 

 結局最後までファルデウスは特に何の対策もとることもなく、作戦開始を告げる。現時点をもって砂漠地帯一帯の通信を封鎖。妨害範囲内にいる限り有線通信以外は役に立たない。

 そして、同時に。

 ファルデウスは直上からの轟音に耳を塞ぐことになった。

 

 


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