神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第96話 それぞれの意志

 通常であれば何かしらの音が聞こえるはずの交戦は珍しく静かな立ち上がりとなっていた。

 お互いの隙を突く攻撃は常に一進一退の様相を見せている。本来であれば援護するはずのシエルでさえも、この状況を一刻も早く打破したかったものの、常に立ち位置が変わる攻防に手を出す事を憚られていた。

 時折聞こえる音は精々が互いの攻撃を往なす際に発生するだけ。耳を澄ましてさえ聞こえるのは、大気を斬り裂く音だけだった。

 

 

「随分と余裕がありそうだな」

 

「…………」

 

 北斗の問いかけに墜ちた者は口を開く事はなかった。肌が罅割れているからなのか、時折細胞の一部が剥がれ落ちていく。

 この場に無明が居ればそれが何なのかは予測の一つも立てる事は可能かもしれな。しかし、今の北斗にとってそんな事よりも気になるのは、こちらに向けれる眼だった。

 まるで何かを観察するかの様に常に視線は腕や足に向けられる。これまでにアラガミとの戦いに於いてそんな事をされた経験は一度も無かった。

 捕喰欲求による視線はこれまでに何度も向けられている。しかし、今回の様に観察する様な視線は一度も向けられた事が無い為に違和感だけが付きまとう。

 一挙手一投足の動きが常に視線の先にある様に向けられる。アラガミと戦っていると言うよりも、寧ろ教導で対峙している様な感覚が北斗に伝わっていた。

 

 

「シエル。周囲の様子はどうなってる?」

 

「今と所は問題ありません。どうやらエイジさん達の加入が大きいかと」

 

「エイジ………キサラギカ」

 

 何気に話したはずの会話に出た名前。まさかそれに反応するとは思わなかったからなのか、北斗だけでなくシエルもまた同じく驚きを見せていた。

 元々何一つ言葉にしないと考えていたはずが突如としてその名前に反応する。一言だけにも拘わらず、口にした言葉が自分では無いからなのか、北斗は少しだけ苛立った感情を見せていた。

 

 

「エイジさんと知り合いだとでも」

 

「………キサマニハナスヒツヨウハナイ」

 

 お互いが会話の為に口を開いた瞬間、一筋の白が北斗を襲っていた。

 先程と同様に槍状の腕は連続して突きを繰り出す。先程と同じ事をするつもりは最初から無いのか、墜ちた者は最後だけ返しを出すのではなく、最初から全ての攻撃に返しを付けていた。

 放たれると同時に引き戻す攻撃は北斗の精神を僅かながらでも削り取っていく。先程までの様な最後だけとは違い、全てがそうさせるからなのか一つ一つの攻撃に対し紙一重の回避が出来なくなっていた。

 大きなモーションは時として本人の意識しない部分で致命的な隙を作る。お互いの攻防では明らかに致命的なミス。それが北斗に牙を剥いていた。

 

 

「北斗!背後に気を付けて下さい!」

 

 連続した突きの最後は北斗自身が意図しない攻撃へと変化していた。

 元々槍だけだとは誰も口にしていない。だとすればそれは完全に墜ちた者の作戦だった。

 先程までは死角を突く様に攻撃をしかけたはずが、一転して堅いはずの槍がグニャリと歪む。シエルの言葉に気が付いた時には既に遅かった。

 

 硬質化した槍ではなく、柔軟性に富む鞭の様な動きは完全に北斗の意識をそうだと植え付ける事に成功している。だからなのか、北斗は鞭の様にしなるそれを回避するだけの距離は失っていた。

 盾を展開する事は出来ない。だからと言ってそのまま直撃すれば待っているのは明確な死だった。元々この墜ちた者はアラガミを餌として生まれた経緯だけでなく、事前にこれまでに無い学習能力を身に着けていた。

 

 データベースで参考にした本部とアメリカ支部のゴッドイーターのデータ。それだけであれば既に勝敗はついていたはず。しかし、今こうやって北斗を追い込んでいるのは紛れもなく墜ちた者だった。

 鞭の様な攻撃をなりふり構わず回避する。泥臭い回避の方法ではあったが、戦場では自身が生き残る事が先決だった。これまで汚れる事が無い制服が土に塗れている。紛れもなく堕ちた者は歴戦の熟練者と同じだった。

 時間の経過と共に動きが少しづつ洗練されていく。まるで初心者が武道を始めた様な感覚は北斗に違和感だけを植え付けていた。

 幾らアラガミと言えど、こう短期間で状況が変化するのだろうか。得も言えない感情のこもった視線は逆に墜ちた者へと向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでは………」

 

 北斗と墜ちた者が戦闘しているものの、今のシエルにとっては援護のし様が何処にも無かった。

 常に変わる立ち位置と攻防による激しい動きは狙撃の援護を躊躇わせている。仮に銃撃を放った所で確実にそれが当たるかと言えば、答えは否としか言えなかった。

 

 事実、北斗に当たったとしても純粋なダメージがある事はない。

 元々オラクル細胞を使用した銃弾はフレンドリーファイアをする事はなかった。

 しかし、ダメージが無いだけで衝撃までもが完全に消え去る訳では無い。

 常にめぐるましく変わる立ち位置は即ち同等レベルの証。ここで自分の放った攻撃によって隙を作るのは得策では無かった。

 お互いが自分の命を天秤にかけ、生存競争の如く戦っている。ここで致命的な隙を作れば待っているのは明確な死だけ。それを一番理解しているからなのか、シエルはただ見守る事しか出来ないでいた。

 

 

「北斗!」

 

 俯瞰的に見ていたからなのか、膠着した攻防がどちらの天秤に有利に傾いているのかが見て取れた。

 それと同時に、あまりに自然すぎたからからなのか、対峙している墜ちた者は動きが徐々に洗練されている。まさかとは思うが、それでも可能性を考えればあり得ないとは言い切れなかった。

 3本の白い筋が北斗を貫くかの様に放たれる。最後の1本を見た瞬間、半ば本能的にシエルの口から北斗の名が出ていた。

 

 

 

 

 

 攻撃方法が変わった事により、北斗は内心舌打ちしたい気持ちになっていた。

 相手が想定外の攻撃をしたからではない。寧ろ、それ以外の攻撃は無いと勝手に自分が判断した事だった。

 これまでの教導でも途中で武器が変わる事は無かったが、時折最接近するクロスレンジの攻撃の際には蹴りや膝が出てくる場面は何度かあった。

 常に実戦を想定しているからなのか、教導の間は常に色々な部分に神経を使う必要があった。

 事実、初期の頃の教導では完全に向けられた刃に意識を向けと思われた瞬間、強烈な蹴りが鳩尾に入る事が何度もあった。それはエイジだけでなく、ナオヤもまた同じだった。

 意識をコントロールする技術は一朝一夕には身に付かない。最近になって漸く回避も可能となっていたが、まさかこんな場面でそれを思い出せるとは思ってもいなかった。

 北斗は改めて呼吸を整え墜ちた者と対峙する。最初は気が付かなかったが、冷静に見れば熟練者の体術をこなす体勢に落ち着いていた。

 

 

「ザコデハナカッタカ」

 

「漸く話したかと思えばそれか。随分と上からの視線だ……な!」

 

 言い終える間際、北斗は再び墜ちた者へと距離を詰める。本来であれば神機を前面に出して移動するのが通常だが、北斗は敢えて神機を隠すかの様に行動していた。

 目の前に居るのはアラガミではなくエイジやナオトと同じ存在。自身にそう言い聞かせ、これまでにないフェイントを駆使しながらの接近だった。

 

 

 

 

 

 思考を切り替えてからの攻撃は既に何かを決定付けていた。

 アラガミだと言う認識を一旦切り捨てると同時に次は教導の認識に改める。既に北斗の中には討伐の文字は無かった。

 アラガミとの戦いではそれほど先の未来まで考える事はないが、教導では常に十手先まで予測しない事には瞬時に叩きつけられる。

 その結果、肉体だけでなく頭脳もまた自分が生き残り、確実に相手を叩きのめすかの様に思考が切り替わる。この時点で北斗は無心となっていた。

 

 槍を躱し、背後から襲い掛かる鞭をも躱す。時折変化を付ける為に墜ちた者は異なった攻撃を仕掛けるも、全てを回避し続ける。ゆっくりではあるが、先程までの攻防とは違い、今度は北斗の方に天秤が傾きかけていた。

 先手と先読みによって決定的な隙を強引に作り出す。既にどちらが優勢なのかは北斗よりもシエルの方が理解していた。

 改めてシエルは銃口を向け、タイミングを計る。ターゲットの動向が読めない狙撃するかの様に、いずれ来るであろう未来を待ち続けていた。

 

 

「ここです!」

 

 お互いのタイミングは何も言わないままに実行されていた。

 事前に打ち合わせたのではなく、純粋に戦闘の流れを追った結果だった。北斗の一撃が墜ちた者の右腕を斬り裂く。

 斬られた事によって距離を離した瞬間だった。初弾と同じく眉間に着弾したからなのか、墜ちた者の頭部は破裂していた。

 

 

「これで終いだ」

 

 北斗もまたシエルの手によって作られた隙を逃す様な愚かな事はしなかった。

 先程と同様に銃弾が直撃した事によって頭部は事実上の結合崩壊を再び起こす。既に攻撃を繰り返した分だけ修復の速度は遅くなっていた。

 このまま止めを刺す。そう考え一気に距離を詰めた瞬間、背筋がゾクリとした感情を走らせていた。

 

 

「ホウ……アレヲサケルトハ…ナ」

 

 神機の刃が届く寸前、北斗は突如として横へと方向転換をしていた。

 先程まで居た場所に構える事無く槍状のそれが飛んでいく。無心が故に感じた僅かな殺気。

 完全に回避した事に感心したのか墜ちた者は修復が完了したばかりの口元が僅かに歪んでいた。

 

 

「よくある手だ。実にくだらない」

 

 当然とばかりに北斗も答えながらも行動が止まる事は無かった。

 小さく跳躍した為にそれ程大勢は崩れていない。右足が地面に着いた瞬間、それを軸に一気に方向を前方へと変化させていた。

 一輝に詰まる距離に墜ちた者は腕を刃に変え、斬撃を防ぎ切る。完全に意識が北斗に向いた瞬間だった。

 

 

「キ……サ…マ」

 

「まさか卑怯だとでも言うつもりでしたか?」

 

 墜ちた者の胸にはブルーグリーンの刃。気配を完全に殺しきったシエルのデファイヨンが胸を貫いていた。貫通した刃は引き抜かずにそのまま肩口を駆け上がるかの様に上部へと動く。必殺の一撃は先程までの攻防を一気にひっくり返していた。

 

 

「じゃあな」

 

 北斗は一瞥したかの様に自身の純白の刃で頸を刎ねる。完全に接近した一撃は二人に返り血を浴びせながら、そのまま絶命していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした」

 

「ああ。お疲れ様。でもよく分かったな」

 

「それは……いつも見てますから、当然です」

 

 墜ちた者は絶命した瞬間、間を開ける事無く霧散していた。

 元々オーバードースした個体は肉体の器を完全に凌駕している。生命力によって支えられたそれは、力を失った事によって一気に時間が進みだす。制御できないからなのか、自己崩壊を起こしたかの様に消滅していた。

 

 

「そうか……」

 

「ええ。そうですよ」

 

 先程までのギリギリの戦いが嘘だったかの様に穏やかな笑顔をお互いが浮かべていた。

 戦場に於いて仮定は意味が無いが、もし、意識が切り替わっていなければ確実にあの姿は自分だったはず。事実上の以心伝心に近いそれは、お互いの意識が極限にまで高まった結果でしかなかった。

 北斗の耳朶には既に帰投した他の人間からの通信が途絶える事無く伝わってくる。ここで漸く厳しい戦いの幕が終わりを告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事実上の極秘任務だった墜ちた者の討伐はそのまま情報管理局案件となった為に事実は闇へと葬られていた。

 元々は脱獄した時点で犯罪に於ける内容は極刑に変わっている。実際にどうなったのかを知っているのは無明を含め片手でも足りていた。

 

 

「今回の任務は厳しい物でしたね」

 

「そうだな。まさかアラガミがあんな事を考えるとは思わなかった」

 

 本部でも今回の襲撃は想定外だったからなのか、出動したゴッドイーターを労う為に、珍しくゲスト用ラウンジを開放していた。

 元々外部の人間が使用する為の施設が故に殆どの人間は足を運んだ事は無い。本来であれば一般用のラウンジを使用すれば良かったが、今回の緊急ミッションに関して尉官級が誰一人出動しなかった為に、軋轢を生む可能性があった。

 折角の宴に水を差す必要は何処にも無い。だからなのか、今日一日だけの限定で開放されていた。

 

 

「お二人ともお疲れ様でしたね。私達が交戦した個体よりもはるかに強度が高いって聞いてましたので、大丈夫ですか?」

 

 既に話を聞いていたからなのか、アリサもグラスを片手に北斗とシエルの下へと来ていた。

 今回の件で教団に関する事実と、アドルフィーネ・ビューラーに関する事実は一部の人間を除き完全に秘匿されている。厳密に言えば、北斗とシエルが戦った墜ちた者についても同様だった。

 

 

「実際に戦って分かったんですが、一言で言えば厄介でしたね。戦闘中にまるでこちらの技術を学んだかの様に洗練されていきましたので」

 

「アラガミが……ですか」

 

「はい。こちらも意識を切り替えて漸くでしたので」

 

 アリサに対する言葉は紛れもなく本音だった。一合ごとに洗練されていく攻撃は僅かでもこちらの意識が緩めば確実に命を刈り取る様に攻撃が飛んでくる。

 もしあのまま続けていればどうなったのかは正直な所、考えたくは無かった。結果的には勝利を収めてはいるが、それでもやはり冷や汗をかいた事実に変わりは無かった。

 ほんの僅かに意識が沈む。気が付けばアリサの隣にはエイジが来ていた。

 

 

「こっちはそれ程じゃなかったんだけどね。やっぱり完成体と言うだけの事はあったんだろうね」

 

「完成体……?」

 

「そう。兄様から聞いたんだけど、作られたのは全部処分したんだ。で、そっちに向っていたのが完成体だよ」

 

 エイジの言葉にアリサは無意識に袖を掴んでいた。幾らアラガミだと言っても忌避感は完全には消えない。心の整理はこの時間までには着けたつもりだが、それでもやはり口にされるとあの状況を思い出していた。

 エイジもまたアリサの心情を理解しているからなのか、具体的な事は何も言わない。

 少しだけ空気が沈みそうになった瞬間、背後からの声によってこの雰囲気が一瞬にして崩壊していた。

 

 

「如月中尉。お疲れ様です。明日からの予定はどうなってるんですか?」

 

「明日からは基本的には教導に入る事になるよ。事前の通りだとすれば残りの滞在は三日程あるみたいだからね」

 

「だったら、明日からお願い出来ますか?」

 

「来る物に関しては拒まないから、問題無いよ」

 

「じゃあ、お願いします!」

 

 自分の言いたい事を言いきったからなのか、青年は元のメンバーが居た場所へと戻っていた。本部に居るにしては珍しく裏表の無い青年。だからなのか、エイジだけでなくアリサにも印象が残っていた。

 そんな青年をキッカケにしたからなのか、エイジの下には数人が近寄って来ていた。

 

 

 

 

 

「やっぱりここではエイジさんは慕われてるみたいだ」

 

「正規では無くても技術を見せれば誰もがその指導を受けたいともうのは当然ですよ」

 

「……そう言われれば確かに」

 

 シエルの言葉に北斗もまた連日の様にナオヤとやっている事を思い出していた。

 神速とも取れる速度で飛び交う槍の穂先は僅かでも気を抜けば自分の意識を一気に持って行く。常に戦いの中でありながら考えを止めれば、たちまち餌食になっていた。

 連日やっても届かない頂き。今回はその経験が役立つとは思ってもいなかった。

 思考が徐々にそちらへと流れていく。そんな瞬間、北斗は現実に戻されていた。

 

 

「あの……あの時はありがとうございました。お蔭で助かりました」

 

「ああ、あの時の。俺は特に何かした訳じゃ無いけど」

 

 北斗に声をかけたのはコンゴウの乱戦の際に助けた一人だった。乱戦になった際に、指揮系統は一瞬にして瓦解している。幾らそれなりに経験を積んだとしても乱戦に於いてはその経験は役に立たない事が殆どだった。

 目の前だけに集中すれば地面からの攻撃の餌食になる。常に気を張った戦いは通常以上に消耗が激しかった。

 そんな中での北斗の攻撃はギリギリだった展開を一気にひっくり返す。北斗としては当然の行為ではあったが、目の前の神機使いにとっては当然ではなかった。

 

 

「いえ。あのお蔭で私だけじゃなくて部隊全部が助かりました。それで……お礼と言う訳ではないんですが、明日一緒にここを見て歩きませんか?折角ですから案内させてください」

 

「……え?」

 

 目の前の女性は頬を少しだけ赤くしながら北斗に提案していた。その言葉の意味が分からない訳では無い。その言葉がキッカケになったからなのか、北斗の周りには女性陣が集まっていた。

 

 

 

 

 

「あの、俺と一緒に動いてもつまらないと思うんだが……」

 

「そんな事ありません。少なくとも私の恩人みたいな物ですから、是非」

 

「ちょっと抜け駆けはダメよ。私だって同じなんだから!あの、私も助けられた様な物ですから……」

 

 北斗の周りを取り囲む女性陣にシエルは少しだけ呆然としていた。それと同時に不意にアリサの言葉が脳裏を過る。あれを言われたのは確か極東にまだ居た時の話。アリサは何をどう言っていたのだろうか。そんな取り止めの無い事を考えていた矢先だった。

 

 

「あの、アランソンさんですよね?俺、感動しました。あんなに優雅に動けるなんて、同じ神機使いとして一緒に学ばせて下さい」

 

「……あの、私に……ですか?」

 

「勿論です。他に誰が居るとでも?」

 

「アリサさんも同じかと」

 

「アリサさんは……まぁ……」

 

 まさか自分にも声がかかるとは思っていなかったからなのか、気が付けばシエルの周りにも輪が出来始めていた。しかし、誰もがみんな男性陣ばかり。突然の出来事に何が起こっているのかを理解するには時間が必要だった。

 気が付けばグラスの中身は既に空になっている。それを利用したからなのか、シエルだけでなく北斗もまた同じ様に行動していた。

 

 

 

 

 

「やっぱりこうなりましたね」

 

「アリサは知ってて言わなかったんじゃないの?」

 

「当然です。ここで介入したらこの場所が無くなりますから」

 

「考えすぎだよ」

 

「いえ。私は離れませんから。エイジはもう少し周囲に気を配って下さい。それとも、一緒に居るのは……嫌ですか?」

 

 身長差があるからなのか、アリサは自然と上目遣いになる。こんな顔でお願いされたからなのか、断ると言う選択肢はエイジからは消え去っていた。

 

 

「嫌じゃないよ」

 

「じゃあ、こうしていましょう。あの2人に関しては暫く様子見ですから」

 

 北斗とシエルを見ながらアリサは少しだけニヤニヤしていた。

 気が付けば先程までの項垂れた雰囲気は消え去っている。かつて自分も通ったからなのか、2人に対し、余程の事が無ければ介入するつもりはなかった。

 もちろん、その間にもエイジの左腕には自分の胸があたる位に近いポジションを確保している。ここで離れれば北斗達の二の舞になる事を理解しているからなのか、常に動く際には寄り添っていた。

 

 

 


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