神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第85話 束の間の休日

 支部長室には珍しい来客は、何時もとは違った光景が広がっていた。

 ここ最近の出入りした人間はクライドルやブラッドのメンバーが殆ど。しかし、今この場に居るのは普段であればアナグラにすら居るのかも怪しい人物だった。

 まだ暑い日が続くからなのか、出された緑茶は冷たさの中に特有の苦みが口の中を広がっていく。

 普段は口にしないからなのか、今回呼ばれた理由が未だに見えない。防衛班大隊長の大森タツミは榊の考えを理解するには至らなかった。

 

 

「それは有難い話ですが、そんな場所がありました?」

 

「厳密にはこれからになるんだよ。ただ、現地調査をしない事にはどうにも話が進まなくてね。折角だから君達防衛班のスケジュールを上手く活かしてみたらどうかと思ってね」

 

「まぁ、そうまで言われるのであれば一度確認はしてみます」

 

「そうかい。是非、良い結果を待っているよ」

 

 緑茶と一緒に出された水羊羹を食べながらタツミは改めて考えていた。榊からの提案は確かに魅力的な様にも思える。しかし、それと同時に違和感もまた同じくらいに感じていた。

 本来であれば新たな場所の選定は防衛班ではなくクレイドルがメインとなってやっているはず。にも拘わらず、防衛班に話が回る事自体、何かあったと言っている様な物だった。

 

 

「そうそう。回答に関してはスケジュールの兼ね合いもあるから、早めにお願いしたいと思ってるんだ。済まないが今週中に宜しく頼むよ」

 

「了解しました」

 

 既に言いたい事を言い終えたからなのか、榊だけでなく弥生もまた書類の整理を始めていた。既にボールはこちらに投げられている。タツミもまた全員に連絡をすべく、支部長室を後にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう。で、俺達にその話が回って来たって事か?」

 

「また随分と珍しいわね。でも、そんな場所がどこにあるのかしら?少なくとも私は何も聞かされていないわよ」

 

 カレルとジーナの言葉にタツミは榊から言われた通りの言葉を返していた。

 元々今回の内容に関してはタツミ自身もどこか懐疑的な部分を持っていた。

 今回の最大の目的は、防衛すべき場所が何時もとは違う点だった。元々防衛班の役割はサテライト候補地の防衛やサテライトそのものの防衛が主な任務。しかし、今回の目的地となるべき場所には人の気配が殆ど感じられない場所がメインだった。

 

 人類の守護者でもあるゴッドイーター。ましてやその最前線で盾となるべき部隊がその存在意義すら無視するかの様な内容となれば誰もが警戒するのは当然の事。言われた当初はタツミも同じ考えだったものの、改めて今の現状を考えれば、決して悪く無いと考え始めていた頃だった。

 

 

「何でも例の入り江の場所に近い所らしい。本来であればクレイドルが主任務として動くんだが、生憎と今は手が空いてないって。それで俺達に話が回ってきたって事だ」

 

「でもよ。護る物は何も無いんだろ?それにサテライト候補地だったら、事前にアナウンスがあるはずだぞ」

 

「まぁ、その辺りは何かしらあるんじゃないのか?実際に聞かされた当初もまだ完全に固まってない様にも感じたからさ」

 

 シュンの言葉にタツミは再び疑問を生じていた。このままでは誰一人了承される事無く、任務の内容が伝わらない。そんな嫌な未来を見たからなのか、冷たい汗がタツミの背中を流れていた。

 既に言うべき事は全部伝えている。だからなのか、今のタツミにとって必要なのは起死回生の言葉だった。

 

 

 

 

 

「こんなに暑い日が続くと水辺に行きたいよね」

 

「ですが、今からだと時間も厳しいですし、次の機会の方が」

 

「そうだな。何も無いままに向っても困るのはナナだと思うが。今から食事の準備は流石に無理がある」

 

 困り果てたタツミの耳に飛び込んできたのはブラッドの3人の言葉だった。

 ここ最近の暑さは確実に体力を削り取っている。旧時代に比べれば暑さは多少緩和されているが、それでも夏の季節が暑い事に変わりなかった。

 先程の会話が聞こえたからなのか、シュンが何か呟いている。シュンだけでなくジーナもまた珍しく3人の方を向いていた。

 

 

「ほら、きっと榊博士もそれを狙ってたんだって。じゃなきゃ防衛班としてなんて指名はしないはずだから」

 

「何だから乗せられた様に感じるんだけど……」

 

「俺達がそこに行くメリットは何だ?」

 

 タツミの苦悶を見透かしたのか、カレルだけでなくジーナもまたどこか怪しげな視線を投げかける。榊から言われた訳ではない。

 決して後ろめたい訳では無いが、タツミの言葉に力強さは存在していなかった。

 

 

「仕方ない。もう一度榊博士に確認してみる。言っておくけど、決定後の不参加は認めないぞ」

 

 これ以上何も無いままの説得は事実上不可能だった。

 クレイドルの様にリンドウやエイジが言えば多少の文句は出ても、皆は普通に行動する事が多く、ブラッドに関してもやはり感覚的にはクレイドルに近い物があった。

 元々細かい事を気にしない人間が多いからなのかもしれない。当初は本部直轄の特殊部隊の触れ込みではあったが、今はどちらかと言えば、そっちの方が印象としては強くなっていた。

 

 

「納得できる内容であればが前提だ」

 

「カレルの言う通りだな。俺だって暇じゃないんだぞ」

 

「お前が忙しいなんて初耳だな」

 

「何だと!」

 

 既にやる気すら無いからなのか、カレルの言葉にシュンが乗っかる。ブランダンやジーナに関しては我関せずを貫いている様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、細部に関しての質問は大丈夫ですか?」

 

「どうやらまだ、決まっていない様だね」

 

 支部長室では先程同様に榊が書類の整理を行っていた。元々今回の件だけでなく、他の案件までもが立て込んでいるからなのか、榊の姿はあれど弥生の姿は見当たらない。

 元々書類整理は弥生の職域。恐らくは関係各所に出向いている事だけは間違い無かった。

 

 

「いえ、説明はしたんですが、どうにもこうにも納得出来ないと連中が口にしてるんで、改めて詳細を確認しようかと思ったんです」

 

「なるほど。今回の任務に関しては確かに前にも言ったと思うが、やはり場所が場所なでけにね、改めて説明するよ」

 

 既にこうなる事を見越していたからなのか、榊は改めてタツミに説明をしていた。

 入り江の箇所は確かに人の気配は少ない。しかし、そこから上がる物の重要性を考えれば人命に匹敵する可能性を持っていた。

 改めて聞かされた内容にタツミもまた驚きを隠せない。既に準備だけは完了しているからなのか、後は人間が現地入りするだけとなっていた。

 

 

 

 

 

「ったく。これなら特別に報酬を貰わないと割に合わないな」

 

「だが、意外と良い所じゃないのか?肉体を鍛えるには最適だと思うが」

 

 榊からの説明をした事により、防衛班は事実上回避出来ないままとなっていた。

 元々この入り江のエリアは新たな食料の発掘となる海資源を優先的に接収する為の施設。人が住むには環境的には問題ないが、実際に住もうとすれば色々と問題が発生しやすい場所でもあった。

 

 入り江が故に建築物を建てるには通常の3倍のコストを必要とし、かつ、潮の満ち引きの影響もあってか、長期間住むには適さない場所だった。

 本格的ではなく試験的に稼動しているからなのか、まだ周囲にまではここで取れる食材は出回らない。あくまでに実験的にやっているからと言った大義名分を持っている為に、タツミも詳細までは知らされていなかった。

 カレルだけでなく、ブレンダンもまた目の前に広がる砂浜を見て何か思う所があったのか、それぞれが言いたい事を言っている。

 今回の任務の内容はあくまでも建前にしか思えなかった。

 

 

「そうは言うが、実際には俺達の休暇も兼ねてるみたいだし、偶には良いだろ?」

 

「偶には構わないが、ここで過ごすんだよな。食事の準備とかはどうするんだ?俺達は何も聞かさえていないんだぞ」

 

「その件に関しては手は打ってあるらしいんだけど」

 

 周囲を見渡すも、それらしい建物は着替えと管理する為だけに設置された建物とは言い難い小屋が一つだけ建っている。元々螺旋の樹でも活躍した簡易型の休憩スペースがその存在感を示すだけだった。

 

 

「皆さ~ん。お久しぶりです」

 

「カノンか。まさかとは思うが、今回の件はカノンにも招集が掛かっているのか?」

 

 背後から聞こえる間延びした声にブレンダンだけでなくタツミとカレルも振り向いていた。気が付けばカノンの後ろにはハルオミが居る。恐らくは合同でやる事だけは間違いないと誰もが感じ取っていた。

 

 

 

 

 

「でもさ、何で俺達まで招集されたんだ?」

 

「さぁな。詳しい事は榊博士から聞かされなかったのか?」

 

 特段やるべき事が無いからと、全員はそれぞれ用意した水着へと着替えていた。既に考える事を止めたからなのか、シュンは海の方へと走っている。カレルもまた何か思う所があったからなのか、シュンとは別方向へと歩いていた。

 そんな中、タツミの背後からハルオミの声がかかる。振り返るとハルオミもまた同じく、水着に着替えていた。

 

 

「いや、何も。俺達は基本的に遊撃が多いからな。2人だけだから小回りも利くし、今はアナグラでも緊急事態になる様な事は無かったんでな。精々が休息の代わりだ」

 

 ハルオミが言う様に、今回の任務は実質的な休暇に近い物があった。

 元々防衛班の休みはローテーションを組まない限り取る事は厳しい。しかも部隊長ともなればその傾向は顕著だった。

 部下を優先させて休みを取れば、今度は緊急出動で出撃する事になる。その結果、ローテーションで組まれた休みは砂糖が水に溶けるかのように瞬く間に消え去っていく。

 

 既にタツミだけではないが、カレルやブレンダンもまた長期間に渡って休暇を取っていなかった。強靭な肉体を持つゴッドイーターと言えど、疲労はゆっくりと蓄積していく。

 自分の身体のメンテナンスは必要不可欠ではあるが、それはあくまでも時間にゆとりがある場合の話。

 ここ最近の消耗の度合いは既に限界に近い事をタツミ自身が一番理解している。だからこそ、榊の提案に真っ先に気が付いていた。

 

 

「そっか。結構気を使ってるんだな」

 

「だったらカノンだけでなく、他の人間も呼んでくれれば良かったんだが……もっとこう、華が足りないと言うか」

 

 事前に用意されていたからなのか、ハルオミは用意されていたビールを片手にそのまま自分の欲望を隠す事無く口にしていた。視界に入るのは水着姿のカノンだけ。ジーナに関してはまだ出てくる気配すらなかった。

 

 

「あら?華が足りなくて悪かったわね。だったらこのまま引っ込めた方が良いかしら?」

 

「ちょっとジーナさん。私はここに来たのは……」

 

 2人の背後から聞こえたのは、ここには居ないはずの人物の声。まさかとは思いながらもまだアナグラで任務中のはず。突然の展開にタツミは思わず振り向いた瞬間、固まっていた。

 

 

「ひ、ヒバリ。何でここに?」

 

「詳しい事は私も分からないんです。ですが、皆さんに言われて来ただけなので……」

 

 タツミの視界に飛び込んで来たのは青いビキニ姿のヒバリだった。

 パレオが巻かれているものの、完全に隠れる様な事は無いからなのか、どこか顔が赤いままになっている。

 気が付けば隣にいたジーナの手には大きなクーラーボックスがその存在感を露わにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒバリさん。急で申し訳ありませんが、連続ミッションの要請でヒバリさんのサポートを求められています。すみませんが、用意をお願いします」

 

「え?どこの部隊ですか。私の所には何も情報が来てませんけど」

 

 突然のフランの言葉にヒバリは少しだけ戸惑っていた。

 元々連続ミッションが入った場合、戦闘指揮車でサポートする事が義務付けられている。それはアナグラからの指示では間に合わない可能性と、現地でしか分からない何かがあった場合の緊急時の指揮系統の兼ね合いだった。

 その為にサポートが必要な場合は事前にオペレーターにも連絡が入る。

 だからなのか、フランの言葉にヒバリは何も聞かされていないからと、素直に疑問をぶつけていた。

 まさかの正論にフランも少しだけ返答に困る。下手に誤魔化した所でヒバリの権限で確認すれば直ぐに分かる話。だからなのか、フランも表面上は穏やかではあるが、内心では焦りから冷静な判断が困難なままだった。

 

 

「その件なら問題ないわよ。今さっき決まった話だから。それとヒバリちゃんのサポートは先方からの要望なの。このままここで時間を潰される訳には行かないから、早めに準備してくれるかしら」

 

「そうでしたか……分かりました直ぐに準備しますので」

 

 弥生の言葉にヒバリはそれ以上の疑問を持つ事は無かった。

 幾ら弥生とは言え、まさか適当な理由を作る事はこれまでに一度も無かった。ましてや連続ミッションの過酷さがどれ程の物なのかは、ヒバリとて理解している。

 恐らくは厳しい戦いになるに違いない。そんな思いから、先程までの疑問を全て棚上げする事を決めていた。

 用意された名前に第4部隊が入っている。余程新人では荷が重いと判断したからなのか、ヒバリは用意された荷物の確認をする事無く、そのまま出動の準備を進めていた。

 

 

 

 

 

「今日は宜しくお願いします」

 

「あれ?今日はヒバリちゃんなの?」

 

「え?」

 

 ハルオミの言葉にヒバリは僅かに違和感を覚えていた。

 そもそも連続ミッションでない限り、オレペーターが要請される事はこれまでに一度も無かった。確かに、この場にはハルオミとカノンが準備をしているが、それ以外の人間の姿はどこにも見当たらない。

 しかし、戦闘指揮車は出動の準備が完了している。この言い様の無い感覚にヒバリは少しだけ違和感を感じ取っていた。

 

 

「あの……今日は連続ミッションなんですよね?」

 

「え……ハルさん。それって本当なんですか?」

 

 ヒバリだけでなくカノンもまた同じ事を感じ取ったからなのか、視線はハルオミへと向いている。この場に於いてはハルオミが現場のトップ。まさか何も聞いていないはずがないと判断したからなのか、2人の視線が途切れる様な事は無かった。

 

 

「いや。連続ミッションに違いは無いんだけど、今回は対象となるアラガミ云々じゃない。俺が聞いているのは特定の場所の警備なんだが」

 

 ヒバリの内容とハルオミの内容が決定的に違う。まさか騙す様な事は無いとは思うが、ハルオミが嘘を言っている様にも思えない。そんな矢先に改めて詳細の指示が飛び込んで来た。

 

 

 

 

 

「でも、これってどう判断すれば良いんでしょうか?」

 

「でも、海洋資源の専門施設が有るのは事実なんだよ。最近になってラウンジでも結構魚介系のメニュー増えただろ?」

 

「確かに言われてみればそうですけど……」

 

 ハルオミの言葉にカノンだけでなくヒバリもまた改めて思い出していた。

 これまでのラウンジのメニューはどちらかと言えば肉類を主としたメニューが多く、特に魚介系のメニューを目にするケースは少なかった。

 精々が出汁を取るか、偶に出ても形が分かりにくいフライ物が多かった。

 しかし、ここ最近のメニューには明らかに魚である事が分かる様なメニューが大幅に増えていた。

 

 本来であれば出所の一つも確認するのが当然ではなるが、実験農場に代表される様に新たな養殖でも計画しているのだろう程度の思惑があったからなのか、誰もがそれ以上のツッコミをする事は無かった。

 旨ければ何でも良い。適当な考えではあるが、ある意味それが真理でもあった。

 恐らくエイジに聞けば教えてくれるかもしれない。しかし、それを知った所で何かが変わる訳ではない。ハルオミが言うまでは誰もそんな事すら考えなかった。

 

 

「とにかく海洋資源施設の防衛が任務なんだから、俺達はただそこに行くだけだ。時間も押してる。直ぐに出るぞ」

 

 ハルオミの言葉にヒバリとカノンも指揮車に乗り込む。エンジン音と同時に目的地へと移動を開始していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……本当にミッションなんですよね?」

 

「そうね。名目上は海洋資源施設の防衛ね。期間は全部で3日間よ」

 

 戦闘指揮車が停止した先に合ったのは、入り組んだ入り江の入口だった。

 隙間から見せる風景は明らかにこれまでに見た事が無い景色が広がっている。

 時折吹く浜風は潮の匂いを運んでいた。来る途中まで高まった緊張感が一気に霧散していく。

 出迎えたジーナを見たからなのか、ヒバリだけでなく、カノンもまた同じ反応だった。

 

 

「でも、アラガミの姿は見えませんよ」

 

「防衛だけど、周囲の警戒は必要だから、これを要請したんじゃないの?因みに私達は何も聞かされて無いんだけど」

 

「だったら……」

 

「まぁまぁ、折角来たんだし、広域レーダーに反応が無いから今の所は問題無いだろ?気になるなら自動索敵と範囲を大きく取れば、何かあっても対処できるからさ」

 

 困惑する2人を放置する訳には行かないからと、ハルオミが横から説明していた。

 ここに来る際に弥生から聞かされた事実。最近の防衛班の緊張感がピークに達しているのと同時に、上が休まないから下も休めないとの意見で組まれたミッションだった。

 もちろん、サテライト候補地だけあってアラガミの来襲の可能性はかなり低い。

 まだ2人には知らされていないが、既に水着も用意されていた。

 

 

「ですが……」

 

「対象範囲は15キロまで拡大してるから、万が一の際にも直ぐに対応できるよ」

 

 仕事に責任を持っているヒバリからすれば、ハルオミの言葉は解らないでもない。

 しかし、これだけのメンバーが居れば過剰戦力である事もまた事実だった。

 クレイドルやブラッドとは違うが、ベテランが故に持っている感覚は馬鹿には出来ない。ヒバリもそれを知っているからこそ、改めてどうるのかを考えていた。

 

 

「ヒバリ、貴女も少しは気を抜く事を覚えなさい。でないとアナグラに居る3人を認めていないのと同じよ。あの2人も何時までも新人じゃないんだし、フランも居るんでしょ」

 

「そう言われればそうですが……」

 

 ジーナの言葉にヒバリは改めてアナグラに居る3人の事を思い出していた。

 元々今回の連続ミッションに出た時点でアナグラに残留するのは決定している。日程も3日間と知っているからこその言葉であるものまた同じだった。

 これまでに何度も危機を乗り越えている以上、信用しない訳には行かない。

 既にここに来ている以上、今更引き返す事も出来ない。色々な状況を考えた末、ヒバリとしてもここに居るより無かった。

 

 

「早速だけど、もう用意してあるから、ヒバリとカノンはこっちに来なさい。ハルオミは覗かないでね」

 

「オーケー。って言うか、俺ってそんなに信用出来ない?」

 

「出来ないから言ってるのよ」

 

 ハルオミの返事も碌に聞かず、ジーナはヒバリとカノンの背中を押しながら小屋の方へと移動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、どうですか?」

 

「に、似合ってるよ……」

 

 砂浜は一部が影になっていたからなのか、少しだけ他よりも熱量は少なくなっていた。

 事前に用意されていたからなのか、既に周りはバンカスへと突入している。

 ブレンダンは砂浜を走り、ジーナはパラソルの下で寛いでいる。

 余りにも非日常過ぎたからなのか、普段も中々一緒になれないからとタツミとヒバリも同じくパラソルの下で2人並んで外を眺めていた。

 

 結婚したからと言って、ゆっくりと出来た事は数える程しかない。

 事実、アリサ達を見ていればそれは現実だった。タツミの場合は常に現場に出る事が多く、実際にはヒバリと一緒に生活したのは数える程だった。

 そんな中で突如として出来た時間。普段とは違い、水着だからなのか、2人は言葉に出来ないまま時間だけが過ぎていた。

 

 

「そう言えば、ブラッドの人やコウタさん達も結構川に行く事が多いらしいですよ。この前も水着がどうとか言ってましたから」

 

「川?そんな事してるんだ。案外と休憩を取りいれてるんだね」

 

「ええ。この前はブラッドの人とフランさんが行って来たらしいです」

 

 沈黙が続くかと思われた矢先だった。ヒバリから聞かされた情報にタツミは少しだけ関心していた。

 元々極東の夏は暑い。それぞれが涼を取る方法は様々だった。

 実際に防衛班として活動する前はタツミも何かをしていた記憶がある。だからなのか、その言葉を聞いた際には多少の驚きはしたものの、当時とはかなり違う事だけが先に浮かんでいた。

 

 

「じゃあ、ヒバリも?」

 

「私は流石に行きませんでしたけど、結構楽しかったとは聞いてます」

 

「そっか……」

 

 ヒバリの言葉を聞いてタツミは少しだけ申し訳無いと考えていた。

 防衛班と言う特性上、常時警戒をする事が多く、実際に休暇を取るのも最後になる事が多い。

 幾ら結婚したからと言ってそのまま放置するつもりは毛頭無かった。しかし、部隊編成を考えれば時間にゆとりは最初から無い。そんな事もあったからなのか、今回の任務は少しだけ期待する部分も少なからずあった。

 事実、それが実現したからこそタツミの隣にヒバリが水着を着て座っている。皆には申し訳なかったが、今の時点ではこれでも良いだろうと判断していた。

 

 

「俺は、今回みたいなミッションがあって良かったって思ってるんだ。最近は色々な事が起こり過ぎて部隊の中も疲弊している。休みを取らないとダメだって事は理解してたんだけど、中々行動には移せなかったんだよ」

 

「タツミさん……」

 

 心の内を話したからなのか、言葉を交わす度にタツミだけでなくヒバリもまた同じ様に心の澱が消える様な感覚があった。

 確かに気を抜く様なケースはこれまでに無かったかもしれない。しかし、張りつめ過ぎた物は時として急激に破裂する。そうならない為にも一定の休息は必要だった。

 心の褥を全て出したからなのか、今は晴々としている。キラキラと光る海は2人の心の内を表している様だった。

 

 

 


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