神喰い達の後日譚   作:無為の極

84 / 158
第84話 初めての経験

 派手な土煙を上げながら1台の車は背後から追われているからなのか、これ以上は出ないと思える程にエンジンが唸りを上げる。既に限界近くまで回転しているからなのか、全速と言って良い程の速度で走っていた。

 元々予定していたはずのルートから外れたのは些細な偶然が重なった結果。単純に運が悪かったからなのか、車を運転している男はバックミラーに映るオウガテイルを忌々しい目で睨みながらハンドルを握っていた。

 

 

「クソッたれが。ツイてねぇな」

 

「そんな事より救援要請は出したのかよ!」

 

「もうとっくの間に出してる!」

 

「その豆鉄砲で何とか出来ないのか」

 

「うるせぇ!とっくの間にやってるさ」

 

 運転した男に悪態を突きながらも、せめてもの抵抗とばかりに手に持っていた拳銃を背後に向けて発砲していた。

 既にオラクル細胞が進化する事によって生まれたアラガミはこの地上を闊歩する様になってからは、人間の作り出した兵器は瞬く間に無意味な物へと成り下がっている。今撃った拳銃も本来であれば大きなダメージを与える事が可能な程の口径だったが、残念な事に車に迫るオウガテイルにとっては小石が当たった程度でしかなかった。

 舗装された道路ならば速力で振り切る事に可能だが、生憎と未舗装だからなのか、床に叩きつける様にアクセルを踏み込んでも、タイヤが僅かに空回りす程度だからなのか、僅かに空転する音だけが耳朶に届くだけ。メーターは既に限界まで振り切っている。

 それでも尚ゆっくりと距離を詰めるオウガテイルを前に誰もが死を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

「目標を発見しました。距離は目視で2キロ。既にオウガテイルの視界に完全に入り切ってる様です」

 

《救援要請はその車から出ている様です。車載された荷物は重要な物ですから、確実に排除して下さい》

 

「了解しました。直ちに開始します」

 

 無線から届く声に、女性もまた同意したからなのか、自身の神機を銃形態へと変形させていた。既に目視している限りでは遮蔽物は存在しない。ヘリからの狙撃を確実にすべく、女性は改めてヘリの中から狙撃しやすい場所へと移動していた。

 

 

「目標を捕捉しました」

 

 女性の視線の先にはオウガテイルが涎をたらしながら疾走している姿があった。

 元々気になる様な事は何一つ無い。何時もと変わらない光景に女性は何も思う事無く狙いを付ける。

 僅かに揺れる台座を計算したからなのか、僅かに細まった目に映ったのは狙撃された事によって大きくよろめいたオウガテイルだった。

 発砲音と同時に頭蓋を突き抜けたからなのか、よろめいたオウガテイルはそのままゆっくりと横たわる。事切れたからなのか、車は暫くして停止していた。

 

 

「目標物の停止を確認しました」

 

《こちらでも生命反応の消失を確認しました。周辺にアラガミの気配はありません。そのまま対象者の保護と同時にアラガミの始末をお願いします》

 

 事切れたアラガミは大型種や中型種であればコアを抜き取るか、そのまま放置すれば勝手に霧散していく。しかし小型種の場合、コアの取り出しが事実上不可能であるからなのか、中型種以上に霧散する速度は早かった。

 既に事切れたアラガミは時間が来たからなのかその姿が徐々に失われつつある。霧散するのは時間の問題でしかなかった。

 

 

 

 

 

「助かった。あんた達、ひょっとしてブラッドか?」

 

「はい。極東支部ブラッド隊所属のシエル・アランソンです」

 

「そうか。俺達は今回の運搬を任された物だ。お蔭で助かった」

 

「いえ、任務でしたので。お気になさらなくても大丈夫です」

 

 既に安全性を確認していたからなのか、先程まで追われていた男達はどこか安堵の表情を浮かべていた。

 この時代、護衛無しでの長距離移動は本当の意味で命がけだった。重要なポジションに就いている人間であれば護衛は必ず就くが、これが一般的な物を運搬する場合はその限りでは無い。

 事実、今回の件もアラガミの動きを十分に探知した後に護衛無しで移動している。

 本来であれば内規に背くやり方は得策ではない。だからなのか、男達もまた命が助かった事実は他の何にも変えようのない最高の結果だった。

 

 

「いや。折角なんだ。外需居住区についたら一杯奢らせてくれ。これでも稼ぎはあんた達程じゃないにせよ、それなりに稼いでるんだ。折角なんだし、少しは俺達の感謝のしるしを受け取ってくれると助かる」

 

「ですが、私はただ任務をこなしただけですので」

 

「若いうちからそんな事言ってるのはどうかと思うぞ。じゃあ、荷物だけ運んでさよならは味気ないだろ。それと、今日の就業時間ももう終わりだ。このメンバーで繰り出すか」

 

 既にシエルの要望が届く事はなかった。元々計画されていたからなのか男達はそのままシエルを連れてどこかへと向かっていく。このままでは何かと困る事になる。そう感じた瞬間だった。

 シエルの付けていた通信機から弥生の声が響いていた。

 

 

《手続きの事なら心配しなくても良いわよ。フランちゃんに伝えておくから》

 

「ですが、今回の任務はこれが目的では無かったはずですが」

 

《その件なら急ぎでも無いから安心して》

 

「ですが……」

 

《その人達なら大丈夫よ。絶対に襲われる事は無いから安心して》

 

「そんなつもりで言った訳では………」

 

 既に弥生の言葉で退路は完全に断たれていた。

 シエル自身、こんな状況下に会う事はこれまでに一度も無かった。自分がやったのはただ忠実に任務をこなしただけの話。にも拘わらず、こうまで感謝される事はこれまでに一度も無かった。

 気が付けば断っているはずの内容が、何時の間にか行く事になっている。あまりの強引さにシエルは呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事があったんです」

 

「あ、その人達なら私も知ってるよ。結構良い人だよね。私の時も色々と奢ってもらったんだ。それに結構美味しい店知ってるんだよ」

 

 当時の事を思い出したからなのか、シエルの話にナナも当時の事を思い出していた。

 運搬を専門とする為に、基本的にはアラガミの対処方法を良く知っている。本来であれば護衛を付けるのは当然ではあるが、付ければ今度は移動時間が大幅に遅れていく。その結果、迅速に運ぶ事になれば必然的に声が掛かり易かった。

 事実、シエルもその存在は理解していたが、実際に会った事は一度も無い。あの当時も結果的には結構飲まされた記憶だけが残されていた。

 

 

「確かにあの人達なら当然だな。ああ見えて運搬に関してはかなりのプロだ。下手に他に任せると時間がかかるからって単独で動く事が多いらしい」

 

「北斗も知ってたんですか?」

 

「知ってるも何も、有名な人達だからな。人付き合いも良いから現場は皆知ってるはずだぞ」

 

 北斗の言葉にシエルも当時の事を思い出してた。未成年にアルコールが出る様な事は無かったが、それでも気の良い人間像はシエルにとっても少しだけ安心する材料があった。

 元々色々なサテライトにも顔を出しているからなのか、話題も富にある。他人との接触はあまり得意ではないシエルも、今回の件に関しては少しだけリラックスしている記憶が思い出されていた様だった。

 

 

「そうでしたか。私はその辺りの情報には疎いので、何も知りませんでしたので」

 

「シエル。少しは酒席とは言わないが、そんな雰囲気も知っているのは悪く無いと思うが」

 

「そうでしょうか?」

 

「そうだよ。実際にここだって普段の食事には利用しているけど、バータイムの時って殆ど使わないよね。だったら少し経験したらどうかな?」

 

 シエルの言葉にリヴィだけでなくナナもまた同じ事を考えていたからなのか、バータイムの事を口にしていた。

 元々カウンターにはムツミがいるが、やはり年齢とスケジュールの都合上、入れない時にはバータイムとしての営業をする事が多々あった。

 事実、薄暗くなった室内のはかなり親密な空気が漂っている。暗い室内ではお互いの顔が近づかないと見えない位のキャンドルの明かりだけが照明の代わりだった。

 もちろん、カウンター内にはピンポイントの照明も備え付けられている。あくまでの作業をする為に用意されているだけの代物だった。

 

 

「ですが、バータイムに未成年の私達が入るのは些か敷居が高い様にも思えますが」

 

「でも、アリサさん達も偶に利用してるみたいだよ」

 

 ナナの言葉にシエルは改めて思い出していた。元々バータイムでカウンターの中に入るのは弥生かエイジ。アリサからすれば身内が入っているから気後れする事は無いとさえ考えている。

 しかし、シエルにとってはやはり抵抗感が強い。だからなのか、ナナの提案に二の足を踏んでいた。

 

 

「一人でダメなら全員で行けば良いだけじゃないのか?だったら俺も一緒に行くぞ。その方が気楽だろ」

 

「ほらほら。ギルだってそう言ってくれてるんだし、一回位は皆で行こうよ」

 

「俺もバータイムのラウンジってあんまり経験が無いんだよな。俺も行きたいんだけど」

 

「ロミオ先輩も行くの?」

 

「何でそこで俺だけ省かれるんだよ。特に気にする要素はどこにも無いだろ!」

 

 何時ものじゃれ合いにシエルも少しだけ笑みが浮かんでいた。

 シエルとて決して嫌だと言う認識は無い。しかし、薄暗い部屋のイメージがどうしても自分にはそぐわないと判断した結果にしか過ぎなかった。

 気が付けば既に行く段取りが決められている。少なくとも、今の居るメンバーで行くのは決定事項だった。

 

 

 

 

 

「へ~中々面白い趣向だね。特にバータイムだからって誰にでもアルコールを提供する訳じゃないから問題無いと思うよ」

 

「因みに次回は何時なんですか?」

 

「スケジュールだと明日だね」

 

「分かりました」

 

 毎日開催する訳では無いからなのか、ナナは手っ取り早くエイジに確認していた。

 元々明日は弥生はカウンターの中でやる事は事前に決まっている。既に夏休みに入ってからはムツミも入りっぱなしだった為に、ここで休みを与える目的があった。

 事前に聞かされている為にエイジも既に知っている。だからなのか、ナナの提案に自分達も似たような事をやっていた事を思い出していた。

 

 

「それと、基本的には騒がない様にしないと弥生さんから注意を受けるから静かにね」

 

「は~い。了解しました」

 

 既に意識は明日へと向かっているからのか、ナナは機嫌よく返事をしていた。

 元々バータイムは数少ない年長者向けの施設として利用する事が殆どだった。もちろん、未成年との線引きは確実にされている。だからなのか、バータイムが開催されている間は案外と人の数は少なかった。

 時折アリサの姿を見かけるも、基本はエイジがカウンターにいる時しか顔を出さない。

 リッカはヒバリに誘われない限り、利用する事は稀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しは見た事はあったけど、改めて見ると何時ものイメージとは全然違ってるね」

 

「そうですね。どちらかと言えば静寂のイメージでしょうか」

 

「そうか。あまり来ないならそう感じるかもな。何でも慣れればまた感じ方が違うさ」

 

 事実上のギルの引率にナナだけでなくシエルとリヴィ、ロミオもまた姿を表していた。北斗とジュリウスはまだミッションに出ているからなのか、姿は見えない。薄暗い室内の空間はどこか何時も見る場所とは違って見えていた。

 

 

「あら?今晩はギルが引率かしら」

 

「引率って程じゃないですけど、まぁ、似たような物です」

 

「じゃあ、サービスしないとね」

 

 弥生の蠱惑の笑みにギルも少しだけ笑みをこぼし返事をしていた。

 元々バータイムでは凝った食事を提供するケースはそう多く無い。事実、弥生が入っているバータイムとエイジが入っているバータイムでは趣向がそれぞれ異なっていた。

 弥生の場合は本格的なカクテルを代表とした明らかに呑む方を優先するスタイルだが、エイジの場合はその雰囲気を壊さない程度の軽食もその場で作っていた。

 勿論、派手な調理をする事は無い。事前に用意された物をアレンジしたメニューが殆どだった。今日は弥生の番だからなのか、置かれている飲み物の種類は何時もとは違う。

 既に秘書の時とは違った白いシャツとベストが全てを物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷が微かに砕ける音がリズミカルに鳴ると同時に、これまではそれぞれが単なるリキュールだったものがシェイカーの中で混ざり、カクテルへと変化していく。既に冷たくなったそれは、そのまま抜栓と同時にグラスへと注がれていた。

 

 

「何だか弥生さんカッコイイね。こう……シャカシャカと振る姿がまた」

 

「案外と難しいのよ、これ」

 

 ナナの言葉に弥生だけでなくシエルもまた同じ様に見惚れていた。

 女性に対し、中々無いが、やはりその姿は自分達が知っている普段とは違い、イメージを持っているからなのか、まるで別人の様だった。

 作られたカクテルはそのままロングタイプのグラスへと入れられ、ギルの前に出される。

 ナナとシエル。リヴィは未成年の為に、用意された物はノンアルコールのカクテルだった。

 

 

「貴女達はこれね」

 

 音を立てると同時に3人の前にはやはりギルと同じ様なロングタイプのグラスだけでなくショートタイプのグラスが置かれていた。

 元々アルコールが飲めない為に、自動的に出された物をそのまま口にする。キリッとした飲み口のそれは、最早一つの作品の様でもあった。

 

 

「何だか大人な雰囲気だよね」

 

「これは、普段から出さないんですか?」

 

「普段の営業では出さないわよ。これはあくまでもバータイムの時に出す物だしね。それにどんな物でも雰囲気は大事よ」

 

 薄暗い中で揺らめくろうそくの焔がグラスの内部を照らしていた。元々容器に入っているからなのか、その灯りも間接照明の代わりとなっている。気が付けばナナ達だけでなく、他のゴッドイーターもまた集まっていた。

 僅かに聞こえるオーダーを弥生は次々とこなしていく。ラウンジの中には最近になって入れられたジュークボックスからは、ゆったりとした音楽が流れていた。

 

 

「そう言えば、この前行ってた場所ってどこだったの?」

 

「私が行ったのは、こんな静かな雰囲気と言うよりも、もっと騒がしい様な感じでした。出てくる物も色々な料理が並んでいましたので」

 

 ナナの言葉にシエルは以前の状況を思い出していた。

 元々顔なじみの店だったからなのか、店員もどこか手慣れた雰囲気が漂っていた。

 元々任務の延長の様な物でしかない。シエルにとってはその程度の認識だった。

 しかし、実際に話をした事によってシエルもまた少しだけ考えさせられる物があった。

 元々ゴッドイーターと一般人の接点はそう多く無い。幾らFSDで触れ合う機会があったとしても、実際に話し込む様な場面は余り無い。だからなのか、その話の内容はシエルが知りえない事ばかりだった。

 

 アラガミとの対抗手段を持ち合わせないのであれば、対峙した瞬間逃げる以外に何も出来ない。実際にシエルがその場面に遭遇したのは今に始まった事では無かった。

 常に何か用心しなければ生き延びる事すら許されない。それがシエルの最大のイメージだった。

 それと同時に気が付いた事が一つ。どんな人にもそれぞれの物語があると言う点だった。

 自分の生き方に疑問を持つ事が無かったシエルからすれば、目的や目標がある生き方は酷く魅力的に見えていた。

 自分は本当にそんな風に生きる事が出来るだろうか。そんな取り止めの無い疑問が次々と脳裏に浮かぶ。これまでの様にアラガミを討伐する為だけに生きているのとは真逆の内容に、シエルは改めて感がる物があった。

 

 

「あ、ひょっとして居酒屋みたいな店じゃなかった?」

 

「居酒屋がどんな店なのかはわかりませんが、酒類の提供も割と有った様に思えます」

 

「常連みたいだったから多分、私が行ったのと同じ店だよ。結構ご飯も美味しいんだよね。……少し何か食べたくなってきちゃった」

 

 飲み物だけの提供では流石に空腹は満たされない。元々弥生の当番の際には事前に用意した物しかなかった。

 だからと言って簡単に済ませる物ではない。用意されたそれもまた、何時もとは違っているからなのか、幾つかのパンやパスタが用意されていた。

 

 

「ナナちゃんはこっちの方が良いわよね。沢山あるから遠慮しなくても良いのよ」

 

「ナナ。済まないが私にも少し貰えないだろうか……これは黒いが大丈夫なのか?」

 

 弥生の出したパスタは普段であれば出てくる事は割と少ないのか、幾分か濃いメニューだった。

 これまでに見た記憶があったのは精々が赤を基調としたパスタだが、出されたそれは黒が見事に乗っている。普段は見ないメニューだからなのか、ナナだけでなくリヴィもまたジッと見ていた。

 

 

「これはイカスミを使ってるのよ。今日の昼に届いたから仕込んでおいたのよ。結構珍しいのよこれ」

 

「これ、食べれるんですよね?」

 

「でなきゃ作らないわよ」

 

 弥生の言葉にナナだけなくリヴィとシエルもまたゆっくりと口にしていた。

 元々普段とは違ったメニューだからなのか、出てくる料理の一つ一つが何時もとは違っている。パスタ以外に出てきたブルスケッタもまた普段は口にする事は無い物だった。

 新鮮なトマトはバゲットの食感と甘みを引き出すのか、かけられたオリーブオイルのアクセントは普段は口にしない物。それだけじゃ足りないからと肉類のメニューも別に用意されている。

 

 

「これ初めて食べたかも」

 

 香草をふんだん使ったグリルの品は、やはりアルコールに合う料理なのか香辛料がしっかりと効いていた。何時もの雰囲気とは全く違うからなのか、ナナだけでなくシエルとリヴィもまたアダルトな雰囲気を味わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜は確かに違うね。知っての通り、メニューも全く違うからね」

 

「え、そうなんですか?」

 

「バータイムはあくまでもアルコールをメインにしてるから、味付けや出す物も昼間や普段とは違うんだよ」

 

 エイジの答えにナナだけでなく、シエルも思わず驚いていた。

 確かに雰囲気は明らかに違うのは直ぐに気が付いたが、まさかそこまで完璧に違うとは思ってもいなかった。

 事実、食事をしていたのはナナ達だけでない。普段はラウンジに見かけない人が多かったのもまた印象的だった。

 年齢層が明らかに違うそれは、これまでに見知ったラウンジとは大きく異なっている。だからなのか、普段とは違った一面に少しだけ驚いていた。

 

 

「私も偶に顔は出しますが、やはり雰囲気は違いますからね」

 

「アリサさんでもそう思うんですか?」

 

「私の場合はカウンターにエイジが居ますから、それ程気にはしませんよ。やはり行くなら男女の方がムードは良いかもしれませんね。弥生さんも気を使ってくれますから」

 

 アリサの言葉に誰もが想像する。確かに仲が良い友人よりもムード満点の場所では男女の方が色々と良いのかもしれない。誰が何を想像したのかは分からないが、それぞれが頬を赤く染めていた。

 

 

「で、でも、私はまだそんな人は……」

 

「別に今すぐにって訳じゃないですから、大丈夫ですよ。それにまだシエルさんは未成年ですからアルコールの提供はされませんし」

 

 昼間のラウンジは明るさを基調としているからなのか、夜のイメージは全く無かった。

 用意されたパスタもトマトの赤を基調としたメニューが並んでいる。何気なく行ったものの、やはり自分達の持っているイメージは大きく変わっていた。

 

 

「でも、凄く良い経験になったよね」

 

「そうですね。機会があればまた行ってみたいですね」

 

「どこに行くんだ?」

 

「じ、実は……」

 

 背後から聞こえた北斗の声にシエルは思わず驚いたままだった。結果的にスケジュールが合わなかった為に、あの晩は北斗とジュリウスは参加していない。詳細は不明だからなのか、楽しく話していた内容が気になって声をかけたに過ぎなかった。

 僅かに赤くなりながらも自分が体験した事を説明する。普段とは違った一面に北斗もまた感心を示していた。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。