神喰い達の後日譚   作:無為の極

67 / 158
第67話 思い出と共に

 早めの食事に入ったのは北斗とシエルだけでなはなかった。

 ロミオもまたリヴィと同じくラウンジで食事を取る事にしていた。元々注文が北斗と同じだったからなのか、ロミオも似たような丼物を頼んでいる。

 目の前に置かれたのは半熟気味のトロトロな親子丼だった。

 

 

「ロミオ、それはメニューには無かったと記憶しているが、どうやって注文したんだ?」

 

「これ?今日はエイジさんだから、要望を言えば大概の物は出来るんだよ。実際にはちゃんとしたメニューを頼むのが筋なんだけど、こっちの方が旨いんだよね」

 

 出された親子丼を目の前に、ロミオは器用に箸を使いこなしていた。事前に食べにくいかもと用意されたスプーンではなく箸で摘まむ。

 一口の大きさが思った以上に大きかったからなのか、リヴィはその姿をジッと見ていた。

 

 

「えっと……そんなに見られると食べにくいんだけど……」

 

「すまない。そんなつもりじゃないんだ。ただ余りにも美味しそうに食べるから…つい」

 

「そうか?だったら少し食べてみるか?これ結構旨いんだよ」

 

 リヴィの言葉にロミオは横に置かれたスプーンで掬い、そのままリヴィへと差し出していた。

 元々リヴィもオムレツを頼んでいる為に、それ程気にした訳では無かった。にも拘わらず気軽にくれた事で、リヴィもまた遠慮なく口にしていた。

 

 

「……これは旨いな。半熟気味なのが更に良いな」

 

「だろ。俺、結構これ好きなんだよね」

 

 

 何時もと変わらない空気を醸し出しながら食事はそのまま進んでいく。そんな中で偶々なのか、ジュリウスと北斗の名前が出た事でリヴィは思わず言葉の発せられた先を見ていた。

 ここでは色々な支部の人間が出入りしている関係上、新しく来ても人間関係については一部を除くと希薄な部分が多分にあった。

 一番の要因は短期間の滞在になる為に、人間関係を構築する前に元の支部に戻るケースが圧倒的に多く、その結果極東支部の所属以外は少なからず構築しようとする気持ちがあまり無い点だった。

 部隊編成が絡めばその限りでは無い。戦いの最中に何も分からないでは戦術の立て様が無い事が一番だった。故に、ラウンジで色々な人間関係に関しての話題は殆どが他の支部の人間だった。

 

 

 

 

 

「ロミオは人気が無いのか?」

 

「へ?何の話?」

 

「いや、先程ジュリウスと北斗の話題が少し聞こえたんでな」

 

 食べる事に夢中だったロミオはリヴィの言いたい言葉の意味が理解出来ていなかった。

 元々リヴィに限らずロミオもまたブラッドとしてここに配属された際には何かと言われた記憶はあったが、既に一戦力としても認知されているだけでなく、何かと話題も多かった事から今ではそれ程気にする部分が殆ど無かった。

 

 

「人気は知らないよ。それにここでの人の噂ってあんまり当てにならないんだ」

 

「そうなのか?」

 

「まぁ、言い出せばキリが無いんだけど……」

 

 食べながらの話は行儀が悪いと感じたからなのか、ロミオは一度箸を止めて改めてリヴィと話していた。

 ジュリウスに関しては以前と何も変わらないだけでなく、北斗もまた部隊長だからと言った側面があった。しかし、それとロミオの言葉に接点はどこにも無い。ロミオがどんな気持ちでそれを言ったのかを察するにはあまりにも材料が無さ過ぎていた。

 

 

「そうか……何だかすまない」

 

「あのさ、それってフォローになってないんだけど」

 

 口ではそう言いながらもロミオは特に怒るでもなく改めて箸を進めていた。

 そんな中、リヴィは改めてロミオを見ていた。

 自分の記憶にあったロミオと今のロミオはどの位違うのだろうか。話せば今も昔も変わらない事は間違い無いが、容貌は大きく変化しているのは直ぐに分かる。

 あの螺旋の樹の探索に於いて自分達が内部を探索するのとは全くの別行動によってロミオは救出されていた。

 経緯に関してはここに来るまでに報告書を読んだだけにすぎない為、詳細については何も分からないまま。時折そんな話をシエルやナナにするものの、やはり内情まで口にする事は無いままだった。

 

 

「そんなつもりでは無かったんだ……」

 

「気にしなくても良いって」

 

 一度そう言った事により、リヴィも改めて自分のオムレツを口にする。ここではムツミとエイジが交代で作るものの、お互いの手順や材料が違う事から、同じメニューでも実際には全く違うなんて事も多々あった。

 それは悪い意味ではなく、良い意味での違いの為に誰もが口にする事はない。

 リヴィとて実感しているからこそ改めて口にした事は無い。しかし、ロミオの食べている親子丼に関しては未だ経験が無かったからなのか、先程の味見は少しだけ驚いた。

 ふとした事で意識が僅かに自分へと向く。そんな際に聞こえた話はリヴィ自身に向けられた言葉だった。

 

 

「そう言えば、同じブラッドでもロミオさんってやっぱり、リヴィさんだけなのかな」

 

「やだ、ロミオさん狙ってたの?」

 

「狙うって訳じゃないんだけど、ほら、着てる物も他の人達とは違うし、如何にも極東支部所属って感じじゃない?」

 

「それは……そうだけどね。あれだって普通に売ってないんだよね。ここの着物は一通り見たんだけど」

 

 何気に聞こえた声にリヴィはおもむろに隣を見ていた。

 元々気にしない性質なのか、我関せずを貫きながら食事を続け居てる。既に丼の中身は無くなったからなのか、味噌汁を啜っている。

 そんなロミオを見ながらリヴィは改めて自分の事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず他の支部の人が来ると同じ反応するね」

 

「確かにそうですね」

 

 先程のシエルの事を眺めながらエイジはアリサと何気ない会話をしていた。元々時間に余裕があるからなのか、アリサは何時もとは違い、随分と穏やかな表情を浮かべている。

 恐らくは先程の会話の内容なのか、アリサは既に何時もと変わらない状態になっていた。

 

 

「でも、ブラッドはこれから大変そうですね。一時期よりも注目度が高いからですかね」

 

「ブラッドに限らずじゃないかな。ここは何も知らない人間からすれば厳しい環境に変わりないんだし、ここに居る時位は良いんじゃないの?」

 

 北斗とシエルは用事があるからと既にこの場から居なくなっていた。

 既に噂をしていた他からの派遣組もこの場に居ない。だからなのか、ふとした事思い出したかの様にアリサは口を開いていた。

 

 

「そう言えば、ロミオが普段着ている羽織ですけど、あれって非売品ですよね?」

 

「ああ、あれね。確かに販売目録には入ってないね。基本的に屋敷で一定以上の教導をした人間にだけ渡す物だから、中々見ないんだよ」

 

 エイジの言葉にアリサも改めて思い出していた。

 基本的には羽織を着る機会はそう多く無い。特にそれがどんな意味を成すのかを理解している人間はここではエイジ以外にナオヤしかいなかった。

 

 事実、男性用の羽織の幾つか販売されているが、ロミオが身に着ける羽織は色合いが特殊だった。

 烏の濡羽色を彷彿とさせる漆黒は闇に紛れやすい様に一切の光沢が入る事が無い色合い。

 羽織を着る着ないは人の自由ではあったが、やはりその姿は色々な意味で異質に見えていた。

 一時期に比べればロミオの髪もかなり伸びたのか、既にポニーテールに近い長さになっている。フェンリルの制服ではなく、見る機会が極端に少ないその姿は注目の的だった。

 何時もであればロミオの話も出る事が多いが、実際にはリヴィと一緒に動く事が多く、それを見た他の人間もまたリヴィが元々どこの所属だったのかを知っているからこそ、それ以上の事は何も言えないでいた。

 先程の話題はイレギュラーでしなかない。アリサとしては自分達に被害が出ないのであればそれは見てるだけで随分と楽しめる物だった。

 

 

「そうだったんですか。でも無明さんは何て言ってるんですか?」

 

「特に何も言わないよ。あくまでもあれは一種の証明みたいな物だからね。気潰しても新しい物は言えばくれるよ……でも、そんな必要は無いかもね」

 

 そう言いながらアリサはエイジの目線をそのまま追いかけていた。

 既に食事を終えたからなのか、ロミオの羽織をリヴィが直していた。リヴィの教導は既にここだけで終わらず、屋敷でやる事が増えてからは洋裁だけでなく和裁も覚えていた。

 元々リヴィの性格を考えれば、一つの事をやり出せば自分の出来る事は覚えていきたいと考える節が多々あった。

 

 事実、当初は自身の神機の効率を考えた延長で舞踊を習っているが、最近ではそんな当初の意味すら置き去りになっている様にもおもえていた。

 既に幾つかの演目を習得してからは格段にその動きが多くなっている。当初の目的でもあった神機の扱いに関しても、やはり細かい動きや体重移動が明確になっているからなのか、以前に比べれば格段に動きは良くなっていた。

 屋敷ではシオと同様に厳しい稽古を付けている事を知ってるからなのか、エイジは少しだけ苦笑いをしていた。そんな部分があるからなのか、今の2人は初々しい雰囲気は既に無く、どこか長い間一緒になった夫婦の様な雰囲気が滲んでいた。

 あの姿を見れば横槍を入れる事は難しい。お互いが知ってか知らないでなのか、周囲を全く気にしていない様にも見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロミオ。その羽織、随分と草臥れてるみたいだな。所々ほつれてる。少しだけ貸してくれないか?」

 

「ああ。良いぜ」

 

 食事を終えた際にジッとロミオを見ていたリヴィの目に留まったのは僅かに袖口が綻んでいる点だった。

 これまでの戦いはどれも楽な相手ばかりではない。時折攻撃を受けて飛ばされる事があるからなのか、着ている服はどの場所を見ても色々な痕跡が残されている様だった。

 連戦に次ぐ連戦では肉体的な物だけでなく、精神までも疲労する。そんな状況下であってもロミオは自身の事よりも他人の事を優先していた。

 神機の組み合わせもあるのかもしれない。しかし、ロミオの本質はリヴィが知っている当時と違っていないからなのか、渡された羽織を繕いながらも口元には僅かに笑みが浮かんでいた。

 

 

「どうした?何か良い事でもあったのか?」

 

「そんな事は無い。ちょっとだけ和裁を習って良かったと思っただけだ」

 

 そう言いながらリヴィの手が止まる事は無かった。なぜなら先程の話の中で自分とロミオの話題がリヴィの耳にも届いていたからだった。

 元々そんなつもりは毛頭ない。しかし、子供の頃に交わした枠約束を考えれると、今の自分がそれだけ助けになっている様にも思えている。そんなささやかな行為がリヴィの為にもなっていた。

 

 

「そら。出来たぞ」

 

「おお!サンキュー」

 

「しかし、随分と大事に着てるな」

 

「そりゃ当然だって。無明さんから貰った物だし」

 

 繕った部分を完全に補修した羽織は貰った当時の様になっていた。全体を見ればやや草臥れた部分が幾つもあるが、それはロミオが戦場で戦った出来た証。

 以前のロミオであれば間違い無く自分の身に着けている物を意識していたかもしれないが、この羽織りを着る様になってからはそれ程気にする事は少なくなっていた。

 それはこの羽織りを受け取る際に無明から入れた言葉に起因していた。

 

 

 

 

 

「ロミオ。生憎とお前の力を完全に伸ばす事は時間的威は難しい。だが、今の気持ちを忘れる事無く精進だけは続けるんだ。お前も知っての通り、エイジだけでなくナオヤも常に時間を作って鍛錬を続けている。1日休めば取り戻すのには最低3日必要となる。それを常に忘れるな」

 

「はい。分かりました。短い期間ではありましたが、ありがとうございました」

 

「折角ここまでやったんだ。自分を常に客観視しろ。焦りや油断は死に繋がる。折角それを経験したんだ。あとは言わなくても…分かるな」

 

「はい」

 

「では、これを渡そう」

 

 相対した所で渡されたのは一枚の羽織。紋付の様に家紋も無ければフェンリルのエンブレムすら入らない漆黒の羽織は、これまでに見た事が無い品だった。

 軽いはずの羽織がロミオの手に渡された瞬間、どこか言い様の無い重さを感じる。だからなのか、これまで感じた事がない感情がロミオの中を駆け巡っていた。

 

 

「これはここで一定以上の鍛錬をした者にのみ渡す物だ。どんな場面に着ても構わないが、それを着る限りここでの事を忘れるな」

 

 無明の言葉にロミオは改めてここでの教導を思い出していた。子供と遊ぶ事で瞬間的な判断力と視野の広さを学び、無明と対峙する事で自身の力量を嫌と言う程に理解させられている。それは当時、北斗やナナを見て自分の立ち位置を見失った頃の事を思い出させる部分がそこにあった。

 しかし、当時と今は決定的に違う。絶対的な力を持つ人間が指導する事で自身の欠点を理解し、それを克服するだけの事を学んでいた。

 時間が足りないと思うのはある意味では当然でもあり、ロミオも本当の事を言えばまだまだやりたいと思う気持ちが無い訳ではない。

 しかし螺旋の樹の探索が佳境に入っている以上、悠長な事も出来ないのも事実だった。いち早く実戦に等投入されても結果を要求される。

 ロミオ自身が自分の立ち位置を完全に理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。リヴィは屋敷でも教導をしてるんだよな。実際にはどんな事してるんだ?」

 

「私か?私は……そうだな」

 

 突然の質問にリヴィは改めて考えていた。まだ情報管理局に居た頃はただ仲間だった人間を屠る仕事だけを命題にこなしていた。自身の異様な能力を最大限に理解しているからこそ出来る任務。

 常にアラガミではなく人間か、若しくは人間だった物を討伐する任務に明け暮れる事によって、周囲の状況が何も見えないままに過ごしていた。

 

 だが、今となっては過去の話に過ぎない。今屋敷で学ぶ事は舞踊や華道。茶道の様な旧時代の習い事と呼ばれる物を習う事が格段に多くなっている。

 元々の動機はともかく、随分と人間臭いどころか逆にここの人間以上に馴染んでいると思う節もある。アリサやマルグリットの様に早々足を運ぶ機会無いかもしれないが、それでも時折向かった際には温かく出迎えられている記憶があった。

 

 

「色々とやってるな。和裁もそのうちの一つだ」

 

「あ~確かに。花見の時のあれも良かったよな」

 

「……そうか。ロミオはああ言うのが好きなのか?」

 

「う~ん。実際の所は分からないけど、やっぱり少しだけ滞在してたから気になるのは間違い無いかな」

 

 当時の事を思い出したのか、リヴィもまた同じく花見の際に出したお茶の事を思い出していた。当時は今よりも手つきは怪しかったが、今では堂に入っているのか随分と安定している。ロミオの言葉に、次回の花見にはもっと本格的にやろうかとリヴィは密かに考えていた。

 

 

「そうか。だったら次は楽しみにしていてくれ」

 

「ああ。楽しみに待ってる」

 

 ロミオの笑顔にリヴィは胸の辺りが温かくなった気がしていた。既に先程聞こえた声の事など自身の記憶から遠くなったのか、気にする事は無くなっている。

 既に2人の空気は他の誰もが入り込めない程になりつつあった。

 

 

 

 

 

 

「何だか2人の世界って感じだよね」

 

「このままあそこに行くのはちょっとだけ勇気が必要ですね。私達は少しだけ離れませんか?」

 

「その方が良いかも。確か極東で言われた言葉があったよね。え~っと。確か馬に蹴られて死んじゃえだっけ?」

 

「ちょっと違いますが、概ねその通りですね」

 

 ナナとフランは珍しく時間が合ったからとラウンジまで足を運んでいた。

 元々フランはオペレーターの為に規則的にはなっているが、ローテーションの関係で食事をするタイミングが重なる事は少なかった。

 そんな事もあってか久しぶりにラウンジへと足を運び、扉を開けた瞬間に飛び込んだ光景に2人はそれ以上の事は何も言わず、大画面ディスプレイの置かれたソファーの場所へと向かっていた。

 

 

「お二人だけなんて珍しいですね。どうしたんです?カウンターの方が良いと思いますけど」

 

「あ!アリサさん。ちょっとあの雰囲気の中であそこに行くのは……」

 

「確かに言われてみればそうですね」

 

 2人を見た事によって移動してきたアリサも改めて2人が座っている席を眺めていた。

 ここに来てからずっとだった事はアリサも知っているが、それ以上何を言ってるのかまでは聞くつもりは無かった。

 楽し気な表情を見れば何を思って話してるのかは大よそ想像出来る。だからなのか、アリサもまずはとばかりに2人の分の飲み物をあらかじめ用意していた。

 

 

「ついでにオーダーなら聞きますよ。何にします?」

 

「今日はエイジさんなんですよね。だったら……あれが良いかも。フランちゃん。偶には変わった物を食べない?」

 

「変わった物ですか?」

 

「そう。中々食べる事が出来ないんだよね」

 

「そんなのがあるんですか」

 

 アリサを見たナナは何かを思い出したかの様に話をフランに振っていた。突然振られた事でフランもナナの思惑に気が付かない。そんなナナの質問にフランも何となくの返事しか出来なかった。

 

 

「あの、アリサさんが食べたのと同じ物を頼んでも良いですか?」

 

「私と同じ物ですか?何時もと変わりませんよ」

 

「それでも良いんです」

 

 ナナの言葉にアリサも疑問を持ちながらも特に意識する事は無かった。しかしアリサは自分の食べるメニュー、特にエイジが作った物しか食べない為に他とはどう違うのかを理解していなかった。

 そもそもアリサが口にするのは殆どが純和食と呼ばれる内容なだけに、他の人間が早々口にする機会は無い。

 一方のアリサからすれば普段と同じでもあり、屋敷で食べるのも最早変わらない物と言った認識しかない。それはあくまでもアリサの目線。他からすれば垂涎のメニューでしか無かった。

 

 

「じゃあ、頼んでおきますね」

 

 そんな言葉を聞いたナナはどこか満足気な表情を浮かべ、フランは未だ疑問を持ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこれ程とは……」

 

「何だか屋敷で食べた時の事を思い出すよ」

 

 用意された食事を見た瞬間、ナナの目は輝き、フランは只々関心だけしていた。

 フランの認識ではこんな食事をラウンジでした記憶は殆ど無い。時折口にする焼魚を中心とした定食を口にする事はあっても、こうまで豪華だと思える物は口にした事は無かった。

 普段の焼魚の様に醤油をかけるのではなく照り焼きになっている事によって味わいが深く、またその他の胡麻豆腐や枝豆を使った豆腐の2色が普段とは違う物だと認識させられている。

 実際には何時もの定食に小鉢を数点付けているだけの品。しかし、調理の手順や見せ方が違うからなのか、ナナだけでなくフランもまた珍しく味わっていた。

 

 

「何時もと同じだと思うんですけど」

 

「アリサさんはそうかもしれないですけど私達にとっては貴重なんです」

 

「そうですね。ここまでの物はここで食べた記憶はありませんね」

 

 美味しく食べる2人を横目にアリサはエイジから貰った緑茶を飲みながらロミオとリヴィをこっそりと眺めていた。

 あのままあそこに居ても良かったが、エイジとて作業を開始すればアリサは手持無沙汰になるしかない。だからと言って他の場所に移動するのも気が引けていた。

 そんな中でナナとフランを発見した事によって自然と移動に成功している。

 お互いが思いやる姿を見たからなのか、アリサもここ最近の仕事内容を改めて確認していた。

 今の段階で抱えたり、緊急となる仕事は何も無い。ここは一つ例の如く屋敷で少しだけ皆と話をするのも悪くは無いはず。今ならサクヤと弥生に話せば問題無いだろうと一人が画策していた。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。