神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第66話 世間のイメージ

 極東支部に於いてブラッドの位置づけは色々な意味で特殊な部分が多分にある。

 その最たる物はこれまでのゴッドイーターとは違い、投与されている偏食因子が従来のP53ではなくP66偏食因子。

 その結果、右腕に填めらえている腕輪の色も赤ではなく黒。まだ何も知らないに新人でさえも事前情報で聞かされているからなのか、誰もが直ぐに分かっていた。

 そしてそれは日常だけではなく、戦闘に於いても最たる物だった。

 

 

「北斗!受け取ってください!」

 

 シエルから放たれた生体エネルギーを活かしたリンクバーストは瞬時に北斗の身体から青白いオーラを発すると同時に、格段の運動性能を高めていた。只でさえ早く動くそれがリンクバーストによって底上げされる。

 北斗はその恩恵を十分に活かすべくそのまま対峙しているボルグ・カムランへと疾駆していた。

 

 ボルグカムランは基本的に防御能力が高いからなのか、神機の相性が悪い場合、討伐にかなりに時間を必要としている。

 その結果、一部の弱点を攻める事によってこれまでにダメージをあたえるのがこれまでのやり方だった。

 

 

「サンキュー。このまま一気に決めるぞ!」

 

 北斗の言葉にシエルだけではなく、リヴィとロミオもまた同じくして北斗の行動を注視しながら各自の行動に移っていた。

 警戒するボルグ・カムランは自身の尾を振り回し近づけようとするつもりは無い。

 この戦いに於いてどれ程の凶悪とも取れる攻撃が自身の命を脅かそうとしているのかを本能で嗅ぎ取ったからなのか、常に距離を取ろうとしていた。

 丸太以上に太い尾は大きな音をたてながら北斗に向かって放たれる。

 既に攻撃を予測していたからなのか、北斗はそのままの勢いで前方に小さく跳躍を開始する。

 

 本来であれば何かしら当たるはずの攻撃もバーストモードに突入しているからなのか、事も無いままに回避されていた。

 小さく跳躍したからなのか、北斗はそのまま体制を崩す事無く一気に距離を詰める。

 既に大きく回転しているからなのか、ボルグカムランは何も出来ないまま接近を許すしかない。

 事実上の懐に入った瞬間、北斗の持つ『颶風』は赤黒い光を帯びながらボルグカムランの後ろ足を斬り付ける。一合二合と斬撃は常に同じ個所へと責め立てる。幾ら強固な装甲を持つボルグ・カムランも本能で嗅ぎ取ったのか、同じ個所を寸分違わず斬り付ける北斗を振り切らんとその巨体をものともせずに距離を離すべく行動へと移しかけた瞬間だった。

 既に幾度となく襲いかかっているからなのか、この時点で後ろ足の一部は関節を中心に大きな亀裂が入った瞬間、瞬時に斬り飛ばされていた。悲鳴に近いアラガミの声が周囲に響く。

 

 

「今がチャンスだ!」

 

「任せておけって」

 

 それが合図となったのか、北斗の叫び声と共に全員が一気に距離を詰めていた。

 完全に横たわった体躯は強敵のアラガミではなく、只の的に過ぎない。ましてや勝機を逃す様な愚かな真似をする人間はこの場には居なかった。

 既に様子を見ながら心の中でカウントしていたロミオは斬り飛ばした瞬間に倒れるであろう箇所に向かって闇色のオーラを纏った刃を振り下ろしていた。

 ボルグ・カムランの盾ごと大地までもを斬り裂かんと渾身の力で振り下ろす。

 

 既に抵抗出来ないからなのか、倒れた矢先にこれまで絶対の防御を誇っていた盾は容易く破壊されていた。確かな手応えと同時に直ぐに次の行動へと開始する。

 その移動の隙をフォローするかの様にリヴィのサーゲライトもまた横薙ぎに振るった刃は尾の先端部分を激しく斬りつける事で先端部分は分断されていた。

 

 

「これで終わりです」

 

 シエルの言葉少な目な一言は既に横たわるボルグカムランの顔面に向けて一発の銃弾が放たれていた。

 アラガミの生体エネルギーをそのまま生かしたアラガミバレット。

 既に幾度となく隙を見つけては捕喰したからなのか、アーペルシーからの膨大なエネルギー反応は、そのまま留まる事無く放たれていた。

 巨大な針にも見える銃弾はボルグ・カムランの装甲を貫通し、多大なダメージを与えていた。事実上の止めとなったからなのか、ビクンと僅かに動いた瞬間ボルグカムランはそのまま絶命していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《オラクル反応が消失しました。皆さんお疲れ様です。帰投の準備をしますので、ブラッドは周辺地域の捜索と負傷者の手当てをお願いします》

 

「了解。ただちに開始する」

 

 元々今回の作戦領域はブラッドの管轄ではなかった。

 感応種の討伐任務が入った為に、そのまま一気に作戦が開始され、その帰投の途中。

 オープンチャンネルによる救援要請。既にバイタル情報だけでなく、負傷者がその場から動く事が困難な為に半ば時間との戦いが要求されていた。

 瞬時に叩かなければ他の部隊の人間が捕喰される。そんな鬼気迫る内容にも拘わらず、冷静に処理する事に成功していた。

 

 

 

 

「あの…ありがとうございました。お蔭で助かりました」

 

「オープンチャンネルでの救援要請なら気にする必要は無い」

 

「それでも……ありがとうございます」

 

 北斗と話をしていたのは部隊長にしてはどこか違和感を感じる様なタイプだった。

 元々極東支部においては部隊長の権限はあっても早々行使するケースは少ない。

 基本的に一定以上の水準があれば誰でもなれるが、それと同時に資質が無いと判断されれば絶対になれる事はなかった。

 これまでの部隊長を見れば何かしらの資質を持っている。にも拘わらず、目の前に居る女性からはそんな雰囲気すら感じる事は出来なかった。

 

 

「そこまで頭を下げられても……」

 

 救助した女性がひたすら頭を下げ続けた事によって北斗もまた困惑していた。

 元々オープンチャンネルによる救援要請は一刻を争うケースが多く、それが小型種程度であれば気に留める事は無いが、中型種や大型種となれば生命の危機である事は必然だった。

 今回の救援要請もそんな事実が事前に発覚しているからこそ時間を惜しんでいた。その結果、最短とも言える速度での討伐に至っていた。

 

 

「ですが、私達の部隊では倒す事も出来ませんでしたので……」

 

「それでも……」

 

「北斗。どうかしましたか?」

 

 お互い一歩も譲らないと言わんばかりの空気を割ったのはシエルだった。

 既に周辺地域の捜索を終えたからなのか、何時もの様な雰囲気を感じる事は無い。

 むしろその女性に対して疑問を持っているかの様な視線を投げかけていた。

 

 

「あの……救援ありがとうございました。実は私、このミッションは初めて部隊長としてやったばかりだったんで……」

 

「ああ…そうだったんですか。私はこのブラッドの副隊長と勤めてますシエル・アランソンと申します」

 

 その一言で全てを察したのか、シエルは自己紹介をしていた。しかし、幾ら初めてとは言えボルグカムランはこの1体だけ。変異種でもなければ通常種と何ら変わらない内容でしかない。

 ブラッドとしての戦力を勘案したとしても、やはり緊急事態に陥るのは無いだろうと考えていた。

 

 

「わ、私は……」

 

《緊急事態です。その位置から北東200メートル地点にアラガミ反応を発見。個体は不明ですが、その数は2です。現地への到着までの予想時間は30秒。すみませんが速やかな討伐をお願いします》

 

「ブラッド、了解した。直ちに移動を開始する。それと救援者はどうする?」

 

《救援者はこのまま回収しますので、その場から動かない様に指示をお願いします。それと回収までの間は交戦地域に来させない様にして下さい》

 

「到着予定時刻は?」

 

《大よそ15分です》

 

「了解した。直ちに急行する。悪いが君達は回収のヘリが来るまで動かないでくれ」

 

 既に自己紹介のタイミングを失ったからなのか、北斗だけでなく、その場にいたロミオやリヴィもまた臨戦態勢へと突入する。一方のシエルもまた『直覚』によって詳細な場所の割り出しを開始していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大型種はフランの指示通りにその姿を現していた。既に臨戦態勢に入っているからなのか、侵入を確認すると同時に一気に攻めたてていた。

 元々の個体がそう強く無かったからなのか、今のブラッドにとって気にする程の力は見当たらない。

 既に事切れたヴァジュラはコアの消滅に伴い霧散を開始する。もう1体が到着するまでに僅かに時間があった。

 

 

「そう言えば、さっきの部隊って見た事あったか?」

 

「そう言われれば……」

 

 時間にゆとりがあったからあのか、北斗は先程の状況を不意に思い出していた。

 元々ブラッドにもそうだが、この極東支部ではかなりの数のゴッドイーターを受け入れる事が多かった。

 理由はそれぞれだが、一番の要因はその技量の向上しやすい環境にあった。

 どの支部も虎の子とも言えるゴッドイーターを派遣するのは、偏に自分達の防衛能力の向上が影響している。

 仮に同じ支部内で教導を繰り返しても、結果的には絶対的な経験値は不測する傾向にあった。

 本来であればクレイドルの2人を派遣させるのが一番手っ取り早い。しかし、要求される報酬額の事を考えれば呼ぶよりも派遣させた方がマシだとの判断の結果だった。

 もちろん最悪の展開も視野に入れる必要がある。下手にKIA認定されれば手痛いダメージを受けるのもまた事実だった。

 他の地域に比べればアラガミの能力は格段に高い。既にブラッドもここの環境に慣れたからなのか、この地域の異常さを感じる感覚は既に麻痺していた。

 

 

「そろそろ来るぞ。気持ちを切り替えろ」

 

「あれって……ガルムか?」

 

 リヴィの言葉にロミオは来るであろう場所に視線を動かす。どこか狼を連想させるそれは炎の纏っている様にも見えていた。

 これが白い躯体であればマルドゥークだと言えるが、体表は純白ではなく土色。前足のガントレットが象徴する様にガルムの遠吠えは周囲一体に知らせるかの様だった。

 その体躯を誇示するかの様にガルムはブラッドの前に立ちはだかるかの様に降り立っていた。

 既にここに来る前に感応種のイェン・ツイーとボルグ・カムランの討伐を行っている。

 事実上の連戦ではあるものの、誰の表情にも疲労感が浮かぶ事はなかった。

 

 

「このまま止めを!」

 

 シエルの言葉にリヴィはガルムへと一気に疾駆していた。

 自身の全身をバネの様にしならせ、そのままの勢いで跳躍しガルムの頭上を飛び越える。何も知らない人間からすればリヴィの行動の意味が理解出来ないままだった。

 大きく飛び越えた瞬間、リヴィの持つサーゲライトは咬刃展開をしながら、一気に縦回転を始める。その勢いは神機をもっても変わる事は一切無かった。

 迫り来る刃が視界に入らない様に回転する。その瞬間、ガルムの首は稲穂を刈られた様に音も無く落ちていた。                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。それなら他の支部から来たチームじゃないかな」

 

「にしても、こんな時期は珍しいですね」

 

 連続ミッションを終えたからからなのか、北斗達は何時もの如くラウンジへと足を運んでいた。

 既にカウンターにはエイジが入っている。その前には指定席の様にアリサが座っていた。

 

 

「だからですか……我々の事はあまり知らなかったみたいですから」

 

「そうか?結構理解してる様にも見えたけどな」

 

 既に仕事が片付いたからなのか、アリサは早めの食事をとっていた。

 元々自分でも作るが、今日はここにエイジが居るからなのか、ラウンジでの食事を取っている。

 そんなアリサにつられたのか、北斗とシエルはカウンターの端の方に座り、お互いが食べたい物を注文する。ムツミの時とは違い、エイジの時は材料に問題が無ければ大よそ頼んだ物が出てくる。

 だからなのか、アリサの目の前に置かれた胡麻豆腐や焼魚を中心とした夏の御前料理に目が行っていた。

 

 

「エイジさん。アリサさんと同じ物を頼んでも良いですか?」

 

「大丈夫だよ。少しだけ時間がかかるけど良い?」

 

「はい。大丈夫です」

 

 シエルがアリサと同じ物を頼むケースはあまり多く無い。

 一番は頼みにくい事が原因ではあるが、それ以外にも要因があった。

 基本的にアナグラでは珍しい完全な和食は準備にも時間が必要となる。特に一つ一つの大きさが小さく、また個数が多いからなのか、準備に手間がかかる。

 何時もであればここの人数が多い為に頼むのは気が引けるが、今日は人が何時もよりも少ない。そんな周囲の状況を鑑みた結果だった。

 

 シエル自身も料理をする様になったからなのか、その手間暇がどれ程なのかは直ぐに理解できている。一つの作品とも取れる出来栄えは屋敷ではなく、ここアナグラは貴重だった。

 そんな事もあってか出来るまでに時間がかかる。何時もであれば気にならない周囲の会話が珍しくシエルの耳に届いていた。

 

 

「やっぱり極東支部って他とは違うよね。まさかコンゴウがあんなに強いとは思わなかった」

 

「そうそう。私の所もそうだけど、やっぱり世界有数の激戦区は違うのよね」

 

 先程のエイジの言葉に思い当たる様に他からの編入だからなのか、各々がミッションでの感想を口にしていた。

 シエル達ブラッドもここに初めて来た際に感じたのはどんなアラガミであっても自分達の記憶に無い程の強固な個体があまりにも多かった。

 事実、小型種でもあるオウガテイルも堕天種やヴァジュラテイルまで進化した個体は他の地域の中型種以上の脅威を感じ取っていた。

 幾ら事前にシミュレーションしようが、その予想をいとも簡単に上回る。

 だからこそ新人が戦場で簡単に命を散らさない様に教導する意味を初めて理解していた。

 そんな会話を聞いたからなのか、当時の状況が少しだけ思い出される。思えば随分と遠くまで来た物だ。何となくそんな気持ちが浮かんでいた。

 

 

「でもさ、ここの人達って、結構カッコイイ人多いよね。クレイドルの人達が着てるあの白い制服、私達が居た支部でも話題の的だったんだよ」

 

「ああ~それ分かる。だって皆がかなりの実力者なんでしょ。あの制服に袖を通すには結構な実力が必要だって聞いたよ」

 

 シエルは内心冷や汗をかいていた。位置的には今のアリサが見えていないのか、話をしているのはどうやら窓際。完全に背中を向けている為にアリサの存在に気が付かない。

 そんな恐ろしい会話を聞きながらシエルは僅かに北斗を見ていた。北斗もまた同じ会話を耳にしたからなのか、シエルを飛び越え視線はアリサへと向かっている。

 意味深な視線だったからなのか、シエルもまた恐る恐る隣を見ていた。

 

 

「あの……アリサさん……」

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ。何でもありません」

 

 アリサの背中には何か目に見えないオーラの様な物が発生していた。戦闘中でも無いのにバーストモード特有のオーラが見えた気がする。

 これ以上ここに留まるのは危険しかない。しかし既にエイジを見ればもう出される間際なのか、配膳の準備がされている。

 このままでは美味しいはずの食事が味気なくなる。シエルだけでなく北斗もまた同じ事を考えていた。

 

 

「はい。お待たせ。北斗の分はこれから作るから」

 

「あ、はい」

 

「それとアリサ。これ、デザートだから」

 

「ありがとうございます」

 

 エイジもまたアリサの様子を知っているからなのか、気が落ち着く様に注文に無いデザートのシャーベットを出していた。

 元々アリサとてオーラは出すが、それ以上の事は何もしない。精々が話す事しか出来ないと知っているからだった。

 しかし、周囲はそう思わないからなのか、エイジが逆に気を使う。元々注文に無かったからなのか、アリサも驚きはするが、気にする事無く口にしていた。

 

 

 

 

 シエルは出された緑ががった豆腐を口にした瞬間、思わずエイジを見ていた。

 この味は聖域でとれた大豆を使った物なのか、当時の味にかなり近い物だった。

 滋味深い味は当時の事を思い出す。思わず感動しながら食べている隣では既に出されたからなのか、大きなどんぶりで出されたカツ丼を北斗は食べていた。

 これならば味わって食べなければ申し訳ない。そんな事を考えていた瞬間、再びシエルに耳に先程と同じ様な会話が飛び込んで来た。

 

 

「そう言えば、ブラッドの人達も皆イケメン揃いじゃない?あの隊長さんやジュリウスさんなんて格好の好物件じゃない」

 

「あれ?クレイドルの人の方が良かったんじゃないの?」

 

「だってクレイドルの人は皆相手が居るんだよ。リンドウさんはサクヤ教官だし、エイジさんはアリサさんでしょ。絶対に勝てないんだよ」

 

「だよね~私も流石にあの2人の隣には立ちたくない……」

 

 衝撃的な言葉にシエルは思わず箸が止まっていた。

 確かに考えてみればクレイドルの尉官級はそれぞれに相手が存在する。

 リンドウやエイジは既に広報誌にも出ているだけでなく、コウタに至ってはマルグリットは自分の部隊の副隊長。

 ソーマは分からないが時折、着物を着たシオがここに顔を出す事が少なからずあった。

 

 幾ら極東で見慣れた着物姿でも教導で着る浴衣ではなく、正式な着物はあまりにも目立ちすぎる。

 そしてシオ自身も清楚なイメージを世間が持っているからなのか、時折ソーマとラウンジで話す姿が確認されていた。

 基本的にフェンリルは軍隊ではない。厳しい規律が有って無い様な物だからなのか、誰もがそれ以上のツッコミをする事はなかった。

 しかし、何も知らない他の支部からの一時的な出向者にとってはそんな事実は分からない。

 だからなのか、時折聞こえる会話が何時もと違うのはそんな理由があった。

 本来であればシエルもラウンジを利用している。利用する時間帯が違うから聞いた事が無いだけだった。

 

 

「やっぱりジュリウスさんが一番だよ」

 

「確かに。王子様だもんね」

 

 そんな会話を聞きながらシエルも最近になってそんな事を考え始めていた。

 確かにジュリウスはそんなイメージを持っているのかもしれない。

 普段の聖域での野良作業着をきている姿を見れば確実に幻滅する可能性は高い。だが聖域には気軽に足を入れる事は出来ないからなのか、その姿を知っているのは限られた極僅かの人間だけだった。

 何も知らない人間の会話を聞きながらシエルは食事を続けていた。

 

 

「シエル。どうかしたのか?」

 

「いえ。何でもありませんよ」

 

「そうか。笑みが浮かんでいたからそんなに旨いのかと思ったんだが」

 

「それもありますね」

 

 知らず知らずの内に笑みが浮かんでいたからなのか、北斗の言葉にシエルは笑顔で返していた。

 既に食事が終わったからなのか、北斗の手元にはお茶が置かれている。

 あまりの早さに少しだけ驚いていた。しかし、そんな笑みはそう長くは続く事は無かった。

 

 

「でもジュリウスさんよりも隊長の北斗さんも良いよね。実力もあるし、何だって終末捕喰を止めた人だしね」

 

「確かに。見た目は少し怖そうだけど、話すと気さくな人だよね。私、この前助けられたんだもん」

 

 先程まで楽しかったはずの食事が一瞬にして急転直下にまで落ち込んでいた。理由は先程の会話。隣に居た北斗は手持無沙汰だったエイジと話しているからなのか、先程の会話に気が付いていない。

 しかし、横目で見るとアリサは聞こえていたからなのか、シエルを少しだけ見ると同時に、どこか何時もと違った笑みを浮かべていた。

 

 

 


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