神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第65話 ピクニック

 ギルはこれまでに無い程に焦燥感に苛まれていた。

 恐らくは自身が追い求めていたルフス・カリギュラの討伐以上に厳しい内容。しかし、ここを完全にシャットアウトしなければ皆の行為が完全に無になる可能性が高いのは間違い無かった。

 だからと言って今のジュリウスを止める為にはどうすれば良いのか。頭の中で最善策を練る為にフル回転する。しかし、何をどうひねっても今の状況を打破するには厳しい状況へと陥っていた。

 

 

「そう言えば、他の皆はどうしたんだ?ここに来る旨は聞いているが、時間がかなりかかっている様だな」

 

「アラガミの討伐に手こずってるんじゃないのか?」

 

「いや。先程アナグラのヒバリさんに確認したが、現在は帰投中だそうだ」

 

「だったら、突発的なミッションでも入ったんじゃねえのか?」

 

 先程からジュリウスは、まるで全員が早く来ないかと完全に待ちわびていた。

 元々何かを計画しているのかもしれないが、作業中にそんな話は全く何も無い。何時もであれば適当にお茶を濁す様な会話で誤魔化す事も可能ではあるが、今のジュリウスにそんな事は何も通用しない。

 気が付けば何かに付けてアナグラに通信している。逐一帰投の状況を確認しているからなのか、その都度返事をするフランの心情を察したギルは心の中で謝罪していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……でも、皆でやるんだよね?」

 

 万が一の事を考えたシエルが向かったのはエイジ達の部屋だった。

 ラウンジはムツミが担当している為に今のエイジは非番となっている。元々大きな予定が無かったからなのか、シエルが訪問した際には快く応じていた。

 

 

「はい。決してナナさんとリヴィさんの事を信用していない訳では無いんです。ですが、折角であればと思ったんですが……」

 

 シエルの言葉にエイジもまた思案していた。今やっているのは間違い無く善意であると同時にサプライズを仕掛けるつもりである事は間違い無い。しかもブラッドの内部となれば自分が態々口出しする必要が無いのもまた事実だった。

 今やっているのはサンドウイッチに違いないが、それだけの量を作るとなれば明らかに量が不足している。仮に出来たとしてもシエルが心配する様に全員に完全に行き渡る可能性は低いのは間違い無かった。

 時間的に余裕がある訳でも無い。何とかしてあげたい気持ちはあっても、材料が無ければ何も始まらなかった。

 

 

「まだ時間はあるよね?」

 

「はい……まだ多少は」

 

 シエルの言葉を確認するとエイジはどこかへと連絡を入れていた。何か色々と言われている様にも感じるが、会話の内容は一切聞こえない。だからなのか、今のシエルに出来る事はその会話が終わるのを待つ事だけだった。

 

 

「了解。じゃあ、悪いけど直ぐに行くよ」

 

「あの、大丈夫なんですか?」

 

「それなら大丈夫。じゃあ、行こうか」

 

 エイジの言葉と同時にシエルも行先は分からないままに行動を共にしていた。

 時間の制限がある以上、買い出しをする訳にも行かず、仮に何かを作るにも時間が足りない。

 そんな事はエイジとて理解している。だからなのか、シエルは無言でついて行くしかなかった。

 

 

 

 

「突然で悪いね」

 

「いや。俺の方は問題無いよ。それに食材だって自分で使う訳じゃないからさ」

 

 行先はコウタの部屋だった。元々コウタが自分で料理をするなんて聞く事は殆ど無い。

 しかし、先程の会話からすれば食材だけは常に保存されている様にも聞こえる。コウタが作らなくても作る人間が居る事を思い出したからなのか、これ以上は野暮だと判断しシエルは待っている事に徹していた。

 

 

「偶には自分でも作ったら?」

 

「家に帰れば偶に作るんだけど、ここでは中々ね」

 

「そう。マルグリットにもこの埋め合わせはするって言っておいて」

 

「……了解」

 

 エイジとコウタの会話の端々に普段の付き合いが見えていた。

 元々同期の間柄である為に、細かい部分で何かと付き合いがそこにあった。事実、今回の件に関してもジュリウスが望む意味は分からないが、以前の経験から任務以外の付き合いも案外と悪く無いと感じている。

 元々家族同然だと言うジュリウスの言葉ではないが、やはり団結した何かはクレイドルの方が強いのかもしれない。シエルはそんな取り止めの無い事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、誰の部屋で作ってるの?」

 

「今はナナさんの部屋です」

 

 食材を持ちながら今後の予定を考えると個人の部屋での調理は厳しいとさえ感じられていた。

 元々ゴッドイーターの個室にある調理器具やスペースはそう大きい物では無い。

 これが家族や士官が使うレベルであればそれなりに設備は充実しているが、基本的に個人の場合は簡素な物が取りつけらえている。

 その結果、ナナの部屋で2人が作れば、あぶれる人間が出るのは当然の話だった。

 

 

「せめてもう1人位誰かの部屋を提供した方が良いと思うよ。このままだと中途半端になるから」

 

「ですが、今の状況だと使える部屋がそう無いので」

 

「誰の部屋でも良いよ。特に特殊な調理方法をする訳じゃないから」

 

 移動する途中で、今回の件に対しエイジがやる事はレシピの提供と調理方法だった。

 元々ブラッドの親睦を深める為に行為に自分が出るのはお門違い。そんな言葉が出たからなのか、シエルは少しだけ緊張していた。

 もちろん、この件に関しても既に連絡しているからなのか、ナナだけでなくリヴィもまた快諾している。

 その結果、自動的にシエルの部屋でやる以外に選択肢は無くなっていた。

 

 

 

 

 

「シエル。大丈夫なのか?」

 

「多分……大丈夫かと」

 

 エイジから渡されたのは一部の調理器具と味付けに使うソース類。それとレシピだった。

 自分やアリサが作るのであれば態々用意する必要はどこにも無い。しかし作るのがシエルである以上、分かり易い書き方をした物が必要だった。

 器具や具材を用意する間にレシピがメールで送られてくる。一通り見て理解したのか、シエルは思い切って行動へと移していた。

 元々サンドウイッチをナナ達が作っているのであれば、シエルが付くるのはそれ以外の品。同じ物を作る意味は無いからとレーションも活用しながらの作製に取り掛かっていた。

 

 

「俺は何をすれば良い?」

 

「それでしたら野菜を洗って下さい。私はその間にやる事が有りますので」

 

 北斗が手伝いに来たからなのか、随分と作業の効率は高い物になっていた。

 一人でやろうとすると想定外の事が起きた場合何も出来なくなる可能性が高い。

 しかし、誰かがフォロー出来るのであれば、そんな問題すら解決できる。ましてや何だかんだと連続ミッションが発注されてからはそれなりに作る事も可能となっている。

 だからなのか、時間が押し迫る中で、シエルは冷静になる事に成功していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、今日に限ってどうしたんだ急に?」

 

「いや。大したことでは無いんだが、以前の件でコウタ隊長が来た際に見たあれが随分と印象に残っててな。それで今日、皆がここに来るならと思って提案したいと考えていたんだ」

 

「そうだったのか……」

 

 ジュリウスの言葉を聞きながらギルな内心冷や汗をかいていた。元々その発端となったあれは確かに自分が見ても十分に魅力的に感じていた。

 何かをお互いが言い合うのではなく、さりげなく気が付いた結果としてエイジが用意した物。

 もちろんそこには打算や妥協などと言った感情はなく、純粋に好意としての結果に過ぎない。

 

 エイジだけでなく、コウタもまた過度なありがたみを持つのではなく、日常の中での感謝の程度で終了していた。

 恐らくはこうれまでにも何度も同じような光景があったからなのか、それとも何か他の要因があったのかはわからない。そんな事があったからこそ、あの場に居た誰も遠慮なく口にしていた。

 何時もと変わらず旨い事に変わりはないが、それでも何時も以上の旨さを感じた事を思い出していた。

 

 

「そうか。だが、まだ帰投中であれば仕方あるまい。今は休憩しながら待つよりないな」

 

 どこか達観したした様な眼をしながらジュリウスは農場の方へ視線を向けていた。

 これまでに作った野菜の数だけでなく、それもがかなりの味わいを見せる程に成長していた。

 恐らくはのカレーの事でも思い出しているのだろうか。そんな感情がギルに課せられたミッションのハードルを一気に天高くへと押し上げていた。

 ロミオとは違い、ギルはコミュニケーション能力はそう高くない。これが酒でも入れば話は変わるのかもしれないが、今のギルにとって最大の関門とも取れる様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~ようやくこれだけ出来たよ。そう考えるとムツミちゃんやエイジさんは凄いよね、感心するよ」

 

 どれ程の時間を費やしたかすら分からない程に苦戦して出来た物は2人の努力の結晶だった。

 当初はおでんパンと同じ程度で軽く考えたまでは良かったが、問題だったのは具材だった。

 

 出汁の中に入れて煮込むだけのおでんとは違い、全てが一から作るそれは想像以上に手間取っていた。人数分作った事で達成感が沸き起こる。

 そんなナナに対し改めてリヴィは現状を眺めた瞬間、一つの可能性を考えていた。

 

 

「ナナ。これだけで足りるのか?」

 

「え?」

 

「いや。これだけでは明らかに足りない様に見えるんだが」

 

リヴィの言葉にナナも現状を改めて確認する。確かに一人分の分量を計算すれば確実に分量としては足りないのは明白。しかし時間は既に残されていない。

 今のナナに取って新たに作るには時間が足りなさ過ぎていた。

 

 

「どうしよう……このままだと全然足りないよ」

 

「そうだな……」

 

 お互いが見えない行く末を悩んだと同時に一つの事を思い出していた。

 本来であればここに居るはずのシエルは既に他の部屋で何かを作っているはず。

 調理をしながらだったからなのか、当時は何と無く返事をしたものの詳細に関しては聞いた記憶が一切無かった。

 気が付けばそれなりに時間が経過している。記憶が正しければ自室で何かをしていると言っていたはず。

 既に出来上がったタマゴサンドを形を整えるべく丁寧に切り分けていく。自分がやるべきことをやりくつしたからなのか、ナナとリヴィは改めてシエルの部屋へと移動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……これなら確かに簡単ですし、時間もそうかからないみたいですね」

 

 シエルはエイジから送られたレシピを見ながら丁寧に手順を守りつつ作業を開始していた。

 元々時間が無いのは当然の事。本来であれば一度に出来る作業はかなり限られていた。

 

 冷凍したパンを蒸篭に入れると同時に、小さく切った野菜も同じ様に投入する。北斗もまたシエルの作業の邪魔にならないように最低限の手伝いをこなしていた。

 元々一人でも出来ない事は無いが、2人でやれば作業効率はかなり高い。

 送られたレシピに特殊な技術を必要としなかったからなのか、北斗は用意したレーションをそのまま温めていた。

 

 極東支部のレーションは以前の様に乾燥した何かではなく、限りなくレトルトに近い食料となっているのが殆どだった。もちろん移動時間の事を考えて従来の様なタイプの品も存在するが、あくまでも緊急時用の意味合いが強く、実際にはラウンジで食べそびれた人間は配給されたレーションで済ますケースも少なくなかった。

 そんな経緯があるからなのか、北斗は隣に居るシエルを横目で見ながら自分がやるべき事をひたすらこなしていく。

 温めされたレーションを取り出すと、少しだけてを加える事で従来のレーションの色合いをかなり薄めていた。

 

 

「でも、あのレーションがまさかこんな風になるとはね……中々思いつかないもんだ」

 

「確かにそうですね。事実、ここのレーションはフェンリルでも一番だと聞いてますから」

 

 時間にゆとりが出来たからなのか、北斗だけでなくシエルもまた会話をする程度の時間が生まれていた。

 元々は思い付きに近い物ではあるが、実際にこうやったのは初めての経験。だからなのか、いつもとは違った感情がそこにあった。

 

 

「熱いですから気を付けてください」

 

「子供じゃないから大丈夫だって……熱っ!」

 

「ほら。言ったじゃないですか」

 

 蒸篭の蓋は予想以上に熱を持っていた。熱く熱せられた蒸気が北斗の手にかかる。

 何時もはアラガミの攻撃でも神機を手放さないはずが、反射によって今回は思わずそのまま落としていた。

 

 

「思った以上に熱かった」

 

「時間があまりありませんから急ぎましょう」

 

「了解」

 

 お互いが短時間でやるべき事をこなしていく。シエルの手だけでなく、北斗の手もまた止まる事は一切無かった。

 そんな中で不意にノックの音が聞こえる。こんな時間に来るのは大よそながらに予測出来る。だからなのか、シエルは返事と共にドアを開ける様に促していた。

 

 

 

 

「何だかそっち方が美味しそうに見えるんだけど……」

 

「これはレーションを使用してますから、ナナさんの方がよほど良いですよ」

 

 ナナが最初に見たのは自分と同じ事を考えた末の結果だったのか、北斗と一緒に何かを作っている姿だった。

 テーブルの上には幾つかの出来た物が置かれているが既に紙に包まれている為に全容が見えない。

 シエルからすればエイジのレシピに沿った物しか作っていないが、それでも見栄えはやはりに気になっていた。

 

 

「何だかなぁ……」

 

「そんな顔しなくても大丈夫だ。こっちはエイジさんからレシピを貰ってその通りに作ってるだけだ。ナナの方が凄いさ」

 

「そ、そうかな……」

 

 北斗の言葉にナナの機嫌は少しづつ元に戻っていた。確かに何とか作ったまでは良かったが、これだけでは足りないのは間違い無いと考えた末の結果。

 見た目も去る事ながらレシピの通りであれば、現地についてから食べればいい。今はその考えだけを優先していた。

 

 

「そろそろ時間が無い。ギルも大変だろう」

 

「そうだね。準備万端ならすぐに行こう!」

 

リヴィの言葉でギルの事を思い出したのか、各々が用意をしながらギルとジュリウスが居る聖域へと移動を開始していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですが、今後の事を考えると一定以上の収穫量をキープする必要がありますね」

 

「じゃが、この人数であれば限界も見えてくる。ここでは神機使いとしての能力は無いんじゃ。無理は禁物じゃよ」

 

 ギルの時間稼ぎは功を奏した形となっていた。

 あのまま何もせずにここい居れば確実にアナグラへと移動するのは目に見えていた。時間的にはそろそろのはず。そんな中で老夫婦と今後の予定について話を振った事でジュリウスもまたその話合いを継続していた。

 

 

《ギルさん。ナナさん達はそちらに向かいましたので》

 

「了解」

 

《次は私も誘ってくださいね》

 

「そうだな。そう伝えておく」

 

 話合いの中でギルの下に通信が届く。漸く準備が完了したからなのか、ギルは内心ホッとしていた。

 移動を開始しているのであれば後は簡単だった。時間をこれ以上時間を稼ぐ必要は無い。ギルはそのままジュリウスへと話を伝えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう!これ、私とリヴィちゃんが作ったんだよ」

 

 何も聞かされていなかったからなのか、ナナとシエルが持っていた大きなバスケットが何なのかを理解するまでにジュリウスは僅かに時間を要していた。

 元々考えはあったものの、まさか自分が考えている間に実行するとは思っていなかったからなのか、珍しく驚いた表情を浮かべていた。

 

 事の発端はまだフライアに居た頃にジュリウスが漏らした一言。この時代では中々実現するのは不可能に近い物だった。

 事実ピクニックと口にはするが、ジュリウスも体験した訳では無い。

 過去の映像や本に記述が載る程度の事でしかなく、以前の川でコウタが持って来ていたバスケットがやけに印象的だった。

 そんな事があったからなのか、ジュリウスもまた色々と模索していた。

 これまでに農業よりの話が多かったからなのか、ブラッドの全員とゆっくりとした時間を過ごした記憶は余り無い。そんな意味合いもそこに存在していた。

 

 

「タマゴサンドか。では…………」

 

 ジュリウスは言葉と同時に一口齧る。事前に味見はしている為に問題無いのは間違い無いが、やはり誰かだ食べるとなれば話は変わる。

 おでんパンや炊事の教導とは違い、自分達ですら普段はあまり作らない代物。だからなのか、ナナだけでなくリヴィもまた咀嚼しているジュリウスをジッと見ていた。

 

 

「……中々の味だ。これは玉子以外に……なるほど。刻んだ野菜も入れてあるのか」

 

「正解!玉子だけよりも美味しいかと思ったんだよね」

 

 ジュリウスの言葉を皮切りに全員がタマゴサンドをそれぞれが持つ。ジュリウスが言う様に単なる玉子だけでなく、中には刻んだ玉ねぎやパセリの様な物も入っていた。

 

 

「そう言えば、シエルの持っているそれは何だ?」

 

「そうそう。私も何が入ってるのか気になってたんだよね」

 

 ナナがシエルの部屋で見たのは柔らかく暖められたパンとベーグルだった。

 既に何かを挟む為に用意してのかレタスが敷かれている記憶しか無い。細かい所までは見せて貰えなかったが、レシピがある以上はそれなりの内容に間違い無かった。

 全員の視線がシエルの手荷物でもあるバスケットに移る。だからなのか、シエルもまたその蓋を開けていた。

 

 

「シエルちゃんズルい」

 

「え?」

 

「だってこんな美味しいの作るんだよ。私の立場が無いよ」

 

 シエルの用意したベーグルサンドは夏野菜とレーションの食材を取り入れた物だった。

 時間が無い割に見た目は随分と豪華に仕上がっている。

 元々レーションで使われている調味料を活かした為に、シエル自身が直接手を入れた部分は然程多くは無かった。

 

 

「これはレーションを使ってますから、私のやった事はそう多くは無いですよ」

 

「でもさ……」

 

 ナナの言いたい気持ちは誰もが理解していた。

 手間を考えれば確実にタマゴサンドの方が勝っている。しかしシエルの用意したそれはベーグルを使ったハンバーガー。

 中心となる具材でもあるハンバーグはレーションをそのまま流用していた。

 

 

「俺達のはエイジさんのレシピだ。ナナとリヴィの作った物と比べれば全然違うさ」

 

「それは嬉しいんだけど……でもね…」

 

 そう言いながらもナナはシエルの手元にあったハンバーガーを頬張っている。気が付けばロミオだけでなくギルもまた同じ物を口にしていた。

 

 

「だったら次の機会に作ってみたらどうだ?」

 

「確かに。今度は私もレシピを見ようかな」

 

「ちなみにこれは北斗が作ったんですよ」

 

「えっ!何だか北斗にも負けた気がする……」

 

 これだけでは心もとないと、追加で作った物の一つに冷製のコンソメスープがあった。

 蒸篭で蒸す事によって野菜に熱を入れる時間を大幅に短縮し、そのままコンソメの顆粒を活かして手早く作る。これもまたレシピに書かれていた内容だった。

 用意されたカップに口をつける。野菜の旨味が濃縮されたそれは暑い日には丁度良い冷たさ。そのまま食が進むのか、誰もが作って来た食事を平らげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんなサプライズを受けるとはな……」

 

「元々は俺のアイディアじゃない。例を言うならロミオ先輩だな」

 

 食休みなのか、木陰で休憩した際にジュリウスが不意に北斗に話かけていた。

 元々計画していたはずが、気が付けば自分が既にそれを受けている。以前にも食べたカレーもだったが、やはりブラッドだけでこんな機会を作る事は無かったからなのか、珍しく目を丸くしていた。

 

 元は2人からの出発だったブラッドも、気が付けば7人まで膨れ上がっている。

 当時の言葉では無いが、やはりブラッドだけで食べる食事は格別だと考えていた。

 全員が偶発的にやったとしても取り纏める人間は必ず必要になる。既に自分が原隊復帰したものの隊長職ではない。

 やはり自分の考えは正しかった。今はそんな思いが先に出ていた。

 

 

「いや、それでもだ。今日の事は嬉しかった」

 

「だったら帰りに全員に言えば良い。俺は何もしてないからな」

 

「そうだな」

 

 木陰から見る聖域にはこれまでに開墾した農場や果樹は幾つも植えられている光景が見える。失われた過去がこうやって蘇っている様な錯覚に陥るのは自分だけではないはず。

 そんな思いを持ちながらジュリウスは北斗と長話をしていた。

 

 

 


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