神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第62話 それぞれの考え

 今回のミッションの結末はヤクシャ・ティーヴラの変異種であると結論付けされていた。

 これまでに数度アラガミの変異種を確認してきたが、その原因についてはまだ何も分からないまま。仮にこれが当然の様に出てくるとなれば、今後の対応は厳しい物へと変わり出す。

 流石の榊も今回の件に関しては打つ手が何も無かった。

 

 

「でも、あの暑さはたまらんな」

 

「確かにそうですね。でも、あれはあの変異種の影響が一番だと思うんですけど」

 

 アナグラへ戻ってから最初に行ったのはエイジとカノンの治療だった。

 リンドウとシエルも同じ場所に居たものの、至近距離で戦った二人に比べればそれ程の内容ではなかった。実際には分からないが、確実に気温は高かったからなのか、神機もあと1時間もあの場に居れば、最悪は機能停止を起こす可能性があった。

 既に戦闘の傷は癒えたものの、肝心の神機は高熱にさらされた影響を考えて完全オーバーホールとなった為に、エイジとカノンは完全休養となっていた。

 

 

「詳しくは分からなかったんですけど、そんなに暑かったんですか?」

 

「あれは……暑いを通り越していたとしか言えん。出来る事なら暫くは勘弁願いたいな」

 

 アナグラに帰る頃には既に時間も完全に日が沈みかけていた。

 元々突発的な内容に近い為にエイジもラウンジでの仕事は入れてない。そんな事もあってか、リンドウだけでなく、エイジとアリサ。それ以外にはソーマや他のメンバーもまた屋敷を訪れていた。

 既に時間は食事の時間。用意された食事をしながら今回の顛末を改めて思い出していた。

 

 

「そう言えば、例のジャミングの件ですが何か分かったんですか?」

 

「いや。原因はさっぱり」

 

「ビーコン反応が怪しくなったって聞いた時は心臓が止まるかと思いましたよ」

 

「ゴメン。結果オーライなのは良かったんだけどね」

 

 既に身を清めたからなのか、誰もが浴衣を着て食事を開始している。ねぎらいを兼ねたからなのか、事前に用意された配給ビールはこれまでの物とは違い、新たに開発中の試作品。これまで以上のキレとコクが口にあったからなのか、リンドウは出されたビールを片手に少しだけ上機嫌だった。

 

 

「あの件だが、恐らくは高温によってセンサーの認識が出来なかった可能性が一番だな」

 

「それって?」

 

 エイジとアリサの会話に何かを思いついたのか、ソーマが今回の件で疑問にあったビーコン反応の見解を示していた。

 元々今回のミッションで事が大きくなった最大の理由でもあるそれは、事実上の生命線に近い物があった。当初は高温によって腕輪の地一部が機能不全を起こした可能性も見られていたが、確認した際にそれは確認できないまま。となれば何かしらの問題がある可能性も否定出来なかった。

 まだ調査の段階ではあるが、今回の様に異常な高温の中で活動した為であると結論付けしている部分も多分にあった。

 

 

「バイタル信号の大元は脈拍や体温による確認だ。誰もがそうだが、激しく動けばバイタルの状態は大きく変動する。だが、それが常時続く事は人間にとっては想定していない。高温が故にバイタルのセンサーが誤認したと今は考えている」

 

「でも、そうまで高くなる事なんて………ああ、そう言う事ですか」

 

 ソーマの言葉にアリサも何か理解したのか納得した表情を浮かべていた。今回のミッションは最初から事実上の乱戦に近かったが、そんな中でも変異種による高温となったエリアは更に気温が上昇していた。

 熱で焼かれた様になった気管支は既に治療によって回復しているが、当時の状態を考えると決して良いとは言い難い状況でしか無かった。

 

 

「実際には検証する必要があるのかもしれん。かと言って、もう一度同じ状況が揃う可能性は無い。今はこの程度の事しか言えんがな」

 

 自分の見解を言い終えたからなのか、ソーマも再び食事を始めている。何時ものメンバーによるお馴染みの光景ではあったが、そんな中で、エイジだけが少しだけ浮かない顔をしていた。

 

 

「エイジ。何かあったんですか?」

 

「そうだ。アリサ、一つ聞きたいんだけど。カノンさんの神機ってどうしてオラクルリザーブの追加装備がされてないの?」

 

 エイジの一言にリンドウ以外の全員の手が止まったと同時にエイジに視線が向いていた。内心はどう思っているのは分からないが、それが何を意味しているのかは理解出来る。

 だからなのか、二人の会話のやりとりを黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

「えっと……」

 

「誤射の事は良いんだけど、それ以外で何か技術面で問題でもあったのかって」

 

「私も詳しい事は分からないんですが……」

 

「その件ならハルさんからの依頼だよ」

 

 言い淀むアリサのフォローとばかりにアナグラから戻ってきたナオヤが答えを示していた。

 元々カノンは第4部隊の処遇である為に、神機の扱いはこれまでと何も変わらなかった。

 これが防衛班であれば出先機関での整備が多いが、第4部隊はアナグラでやっている。だからなのか、ナオヤの言葉にエイジは更に疑問を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の件だけじゃないんだけど、あの威力で装備されていないって無理があるんじゃない?技術的にはどのブラストにも組み込めるんだから、普通は怪しむと思うけど」

 

「誰でも普通はそう思うよな。先に言っておくが、俺個人としてはカノンの神機に取りつける事に反対はしない。少なくとも俺だけじゃない。リッカも同意見だ」

 

 技術班的には問題は無いのであれば、尚の事意味が分からなくなっていた。食事の際にも言った様に、誤射があるだけでは到底意味が無く、仮にそう思うなら自分が回避すれば良いだけの話。

 特に今回の様に厳しいミッションではオラクルの枯渇がどんな結果をもたらすのかは言うまでもなかった。

 

 

「だったら、確りと説明すれば良いだけじゃないのか?」

 

「世の中そんな甘くは無いんだよ」

 

 改めてナオヤは今回の件に至るまでの事をエイジに伝えていた。

 元々エイジはクレイドルとしての任務がある為に、ここに滞在する事はそう多く無い。当然ながらその真実を何も知らなかった。

 

 

「だったら回避すれば良いだけの話だろ?」

 

「エイジ。誰もがお前みたいに回避出来る訳じゃないんだからな」

 

「それとこれは関係無いんじゃない?」

 

「大ありだ。お前だけだ。あんな事出来るのは」

 

 何気ないエイジの言葉にナオヤだけでなく、アリサやソーマ。リンドウでさえも呆れていた。

 元々カノンの誤射は今に始まった事では無い。今もなお誤射姫や固定砲台と影で言われるように射撃の腕は一向に向上する気配は無かった。

 事実、アナグラでの誤射の被弾率が0なのはエイジだけ。本人はかなり努力している様にも思えるが、結果がついてこないからなのか、その成果は目に見える事は無かった。

 

 

「でも、オラクルリザーブ付けた所で、結局はバレットの組み合わせが全てだと思うんだけどね」

 

「それを言われればそうなんだけど、やっぱり問題は……」

 

「周りのイメージって事だよね」

 

 エイジの純粋な意見は正論だった。オラクルリザーブそのものは神機に取っては何の問題も無かった。

 基本的には多大なオラクルの蓄積だけのシステムである以上、誤射をしようがしまいがバレットの構成が全てだった。もちろんナオヤだけでなくリッカや技術班の人間であれば誰もが知っている。

 多大なオラクルを必要とするバレットを開発した際に起こる可能性。自身に直接の影響はないが、やはり着弾した際に起こる爆風や衝撃までもが無くなる訳では無い。その結果、ギリギリの戦いを強いられている際に、行動が不能となる可能性を排除したいと考えた結果だった。

 仮に個人の意見だけであれば即却下となるが、これがそれなりの人数でハルオミの下に来た為に、なくなく今の状況に落ち着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は随分とカノンさんの事に話題が集中してましたね」

 

「そんなつもりじゃなかったんだけどね」

 

 食事も終わったからなのか、エイジとアリサは自室へと移動いていた。

 元々厳しい戦いであっただけでなく、アリサもまたソーマ同様に緊急としてエイジ達の場所へと向かった結果、サテライトの建設地には戻る事は不可能となっていた。

 距離があるだけでなく、夜間の移動は色々な意味で危険を孕んでいた。

 夜間の見回りはアナグラやサテライトでも行っているが、基本的には光が届く範囲までが基本となっており、襲撃が無い限りはその規則は確実に護られていた。

 

 こちらから目視は出来なくても、アラガミには関係無い。一時期は遠距離にまで投光器を使用する案も出たものの、結果的にその光でアラガミが近寄る可能性が存在していた。

 その結果、余程の緊急事態が無い限り、夜間の移動は誰であろうと禁止されていた。

 そんな事があったからなのか、アリサとしても想定外の結果に内心は喜んで居た。最近はサテライトの建設の兼ね合いでお互いの顔を見る機会がかなり減っている。

 だからなのか、久しぶりの逢瀬にも拘わらず会話の内容がカノンの事ばかりとあって、内心は少しだけむくれていた。

 

 

「だって、今までそんな話は一度もありませんでしたよ」

 

「そう?今回の事があったからだと思うよ。普段は然程気にならなかったんだけど、あれがまた起きると正直厳しいかもね」

 

 灼熱地獄と言いたくなるほどのミッションはエイジにとっても初めての経験だった。

 焼ける空気が肺に入らず浅い呼吸のままに戦った代償は予想を超えて厳しい物だった。

 気管支が焼かれただけでなく、酸素が行き渡らないからなのか、討伐が終わった瞬間、エイジだけでなくカノンも同じく意識を手放していた。

 何も状況が分からなかったアリサが暴れる寸前の所で意識が回復した為に他のメンバーへの参事は免れたが、それでも手放しでほめられる結果では無かった。

 ギリギリの戦いで生き残れるのは単に運が良いだけでは話にならない。そんな僅かな可能性も考えた末の話でしかなかった。

 

 

「私が隣に居るのに、ずっと他の女性の話題なんて……面白くないじゃないですか……」

 

 自分で何を言ってるのかを理解しているからなのか、アリサは顔を赤くしながら横に背けていた。

 元々エイジがナオヤと会話していたのは純粋なゴッドイーターと整備班の話。しかも内容が神機に纏わる話である以上、そこから色付いた話に発展する可能性は皆無だった。

 

 

「そんなつもりは無かったんだけど」

 

「分かってます。これは私の我儘みたいなものですから」

 

 そんなアリサを他所に、エイジは少しだけ方針を変更していた。

 元々今回の件に関してはカノン云々ではなく純粋な戦力としてのミーティングに近い物だった。

 それを知っているからなのか、リンドウも口を挟む事無く聞いている。アリサとて理解はしているが、やはりそれとこれは違っていた。

 ここ最近の忙しさはアリサだけでは無い。エイジ自身も多忙な日々を過ごしていた。

 時折時間の都合でラウンジで顔を合わせる事はあるが、まともに話をする程の時間の確保は出来なかった。

 本当の事を言えばアリサだけでなくエイジもまたアリサを渇望していた。厳しいミッションは肉体だけでなく精神をもゆっくりと蝕んでいく。幾らリフレッシュを図ろうが、心の奥底にある物を解消できなければ癒えるケースはそう多くなかった。

 それを理解しているからなのか、エイジはアリサの腰を手にこちらへと引き寄せる。突然の行為だったからなのか、アリサは驚いた様にこちらを向いていた。

 

 

「たまにはゆっくりしよう。アリサ、疲れてるでしょ」

 

「そうですね……」

 

 自分の方に意識が完全い向いていると判断したからなのか、アリサもまた少しだけ甘えようとエイジの肩に頭を乗せていた。

 一時期に比べれば少しだけ穏やかな時間を過ごすのは難しくなっている。

 特にアラガミ防壁が完成間近だからなのか、防衛する側も神経がピリピリしている中での休息はアリサにとっても穏やかになれる要因だった。

 

 何時もなら照明を付ける事が多かったが、今回は季節のイベントの準備に入っているのか部屋には薄明るい行燈だけの明かりが何時もとは違う雰囲気を出している。

 普段のアナグラの自室とは違い明るさは部屋の隅までは届かないが、お互いが近くに居ればその姿が見て取れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏の朝は早いからなのか、何時もよりも早い時間にメイジは目覚めていた。

 これがアナグラならラウンジの準備があるが、今は屋敷の為にそれをする事は無かった。隣に眠るアリサを起こさない様にゆっくりと動く。首筋に見える赤い花を確認しながらもエイジは精神を覚醒させていた。

 何時もとは違うが、まだ早い時間だからなのか、エイジは久しぶりに道場へと足を運んでいた。この時間ならナオヤが居るはず。規則正しい生活は今もなお変わる事はなかった。

 近づくにつれ呼吸音と同時に空気を斬り裂く音が聞こえてくる。ナオヤの方が早かったからなのか、エイジは着く頃には既に大量の汗をかいていた。

 

 

「珍しいな。どうした?」

 

「目が覚めたからね。久しぶりにやらないか?」

 

「ああ。俺は何時でも良いぜ」

 

「ちょっと着替えてくる」

 

「早くしろよ」

 

 ナオヤに促されるだけでなく、鍛練用の服に着替えながらエイジは少しづつ自身の感覚が入れ替わっていく事を確認していた。

 既に臨戦態勢に入っていたからなのか、ナオヤだけでなくエイジもまた先程までの起きた直後の様な雰囲気から、ミッションに入る直前の様に集中していた。

 何時もの教導とは違い、そこまで制限する必要が無い相手。お互いの視線は既に火花が散る様だった。

 

 

 

 

 

「まだここから回転が上がるのかよ!」

 

「昨日のミッションで何か掴んだ気がしてね!」

 

 お互いが既に力の差があるにも拘わらず、事実上の互角の戦いが道場内で繰り広げられていた。

 お互いは木刀と槍なだけに距離感がまるで違う。本来であればリーチに勝る槍の方が有利なはずが、素早い動きで行動する為に狙いは完全に絞り切れなかった。

 ナオヤの叫びと同時に三条の刺突が両肺めがけて突き出される。

 一方のエイジもまた木刀でそれを往なしていた。

 お互いの狙いは基本的に悟られる事は無い。これまでに幾度となく交戦した経験から互いにここを狙うであろう予測を立てた結果だった。

 

 神速とも取れる刺突は既に目標をギリギリで変化させるのか伸びきる直前に手首と肘を返して軌道を逸らす。生き物の様に曲がり来る刺突は完全にエイジの想定外だった。

 曲がったと錯覚さえすれば術中に嵌る。一方のエイジもまた僅かに力が入った手首の筋肉の動きを読んだのか、錯覚する事無く本来来るであろう軌道の穂先を完全に往なしていた。

 互いに一合二合と数える事すら忘れる程の攻撃の交差。既にお互いの目には相手だけしか映っていなかった。厳しい中で何かが分かり合えた気がする。お互いに決定打が入らないままに訓練は終了していた。

 

 

 

 

「また腕が上がったんだじゃないのか?」

 

「自分では分からないけど、昨日のミッションではリンドウさんが兄様みたいだって言ってたかな」

 

「成程な。何となくその意味が分からないでも無かったぞ」

 

 ナオヤも僅かながらにエイジの動きが無明と被った様にも思えていた。完全に動きは違うが、どこか気を色々な意味で緩める事が出来ない雰囲気とその行動原理はよく似ていた。

 これまでに何度も戦って来たからこそ分かる事実。また一歩近づいたんだとナオヤは感じていた。

 

 

「暫く見ないうちに随分と腕を上げた様だな」

 

 休憩の最中に聞こえた声に二人は思わず声の方向へと視線を動かしていた。

 視線の先に居たのは何かの用事があったからなのか、珍しく戦闘用の服装をした無明が立っていた。

 既に任務の終わりだからなのか、横に置かれたケースは何かしらのコアが入っている様にも見える。事実上の単独での任務をこなしているからなのか、いつもよりも雰囲気は異なっていた。

 

 

「先日のアラガミの討伐で何かを掴んだ様な気がしますので」

 

「そうか……だとうすれば一度は確かめる必要があるだろう」

 

 無明の言葉にエイジの気持ちは既に戦闘中の物へとかわりつつあった。

 これまでに自身が知る中で呼吸をする暇すら与えられず、刹那の時間さえも意識を他に動かせば自身の命すら危ぶまれる。そんな経験を嫌と言う程にしてきた。

 自身の目指す頂きの頂点。先日のミッションでどれ程の理解を深める事が出来たのかを判断にするにはお釣りがくる程の相手。まさかとは思いながらも準備するエイジには既に脳内であらゆるシミュレーションが行使されていた。

 

 

「準備は良いか?」

 

「はい。大丈夫です」

 

 お互いの距離は腕を伸ばせば確実に届く距離だった。以前の段階では手も足も出ないままに終わっている。前回のミッションでは何かを掴む事を理解したからなのか、どこかその雰囲気は違っていた。

 恐らくエイジは今の状況を理解し、更なる実力を身につけている可能性が高い。その事実を知るのは対峙した無明だけだった。

 

 

「予想したとは言え、だままだ先は長いな……」

 

 ナオヤが無意識に呟いた様に、既に教導の領域を遥かに超えた戦闘は命のやりとりそのものだった。

 至近距離で迫る刃は回避する事は事実上不可能。そんな至近距離で出来る事は来るであろう攻撃の起点を潰し、自身の持つ刃で往なすか受け流すしかない。

 

 時間にして僅かのやりとりの中に死を感じさせる攻撃が幾つも存在する。遠目で見ているナオヤでもすべての攻撃を確認する事は不可能だった。

 無明は攻撃の際に殺気を放つ様な事はしない。仮に出してもそれはあくまでも威嚇でしかなく、その結果、殺気を感じての防御は出来なかった。

 戦場で培った勘だけを頼りにエイジもまた迫りくる刃を流すしかなかった。

 

 

「……ここだ!」

 

 無明の体裁きが僅かに乱れたと思った瞬間、右手に持つ苦無は無明の喉笛に向かっていた。

 僅かに揺らいだ隙を狙うべく最短距離を一気に詰める。まさに乾坤一擲の攻撃。しかしそんな攻撃を知っていたかの様にエイジの持つ苦無はそのまま空を刺していた。

 

 

「まだ甘い」

 

 一言だけ告げられたまま先程とは真逆の状態。気が付けばエイジの喉元に無明の苦無が突きつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……銃撃に関してはアドバイスらしい物は出来ないが、基本的には投擲と変わらないはずだ」

 

 厳しい戦いを終えたからなのか、エイジだけでなくツバキやアリサ。リンドウもサクヤとレンを連れて朝食となっていた。

 話題に出たのは先日のカノンの件。誤射が問題なのか、それとも同行したメンバーが問題なのか。どちらとも言い難い内容をエイジは思いきって無明へと質問していた。

 

 

「投擲はそれ程殺傷能力は無い変わりに正確性が必要になる。それを上手く生かせばどうだろうか?」

 

 無明の言葉にエイジもまた自分の経験した事を思い出していた。

 確かに正確に狙わない事には致命傷はおろか、殺傷する事も出来ない。

 そうなればこちらの存在だけが一方的に知られる事になる。そうならない為にも正確な狙いが要求されていた。

 

 

「お前、まだ教導をするのか?」

 

「そんなつもりは無いですが、流石にあんな状況になれば嫌でも意識しますよ」

 

 リンドウの言葉にエイジはそう答えるしかなかった。

 今の時点でカノンに対し教導の名目でやる必要性は何処にも無い。しかし、第1世代の遠距離型はオラクルが枯渇すればどうなるのかを考えれば、今回の件に関しては実に悩ましい結果となる。

 一定以上の結果が出れば恐らくは今後の事を考えても多少なりと改善されるであろうと予測して結果だった。

 

 

「そんな事じゃない。隣のアリサにそれを説明したのかって事だよ」

 

 リンドウの言葉にエイジは改めに隣を見ている。揶揄っている事は気が付いているが、無いかと話をしたからなのか、アリサは何時もと変わらないままだった。

 

 

「今回の件はエイジにも影響が出ますから。私としても気になる点はありませんよ」

 

 穏やかな笑みを浮かべながらアリサは食事をしている。揶揄ったはずが空振りに終わったからなのか、それ以上の事は何も起こる事は無かった。

 

 

「リンドウ。お前の方こそ何かした方が良いのではないのか?」

 

「まぁ、その辺りはおいおいと……」

 

 ツバキからの言葉に先程とは違いリンドウの表情は少しだけ困っていた。

 ここ最近は新人の実戦に同行する事が多く、またその内容は少々厳しい物になりつつあった。

 新人の技量に合わない任務にリンドウが常にフォローする。そんな事が続いているからなのか、少し疲労感が滲んでいた。

 

 

「無理にとは言わないが、少し気を付けるんだな」

 

「了解です姉上」

 

 姉の言葉に誰もが納得していた。ここに来たのは多少なりとも気分転換を図る為。そんな意図があったからなのか、少しだけ穏やか時間を過ごす事になっていた。

 

 

 


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