神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第47話 あの食材が再び

 ミッションの帰投時のそれぞれの対応は個人のパーソナリティを表すかの様に人によって異なっている。戦闘中でも無ければ、これから挑む訳でも無い。そんな空白の時間帯だからこそ、思い思いの行動を取る事は当然の結果だった。

 

 

「ねぇジュリウス。それって何読んでるの?」

 

「これか。実は今度聖域で何を作ろうかと悩んでてな。それと同時に、今残っている種の事を考えると中々順番も厳しい物があるんだ」

 

 帰投時の行動の中で以前であればジュリウスはレポートの作成の為の資料を作る事が殆どだった。しかし、現時点でのブラッドの隊長はジュリウウスではなく北斗となっている。

 もちろん困った際には多少なりともアドバイスをするつもりではあったが、気が付けばその役目はシエルが担っていた。当然そうなればこれまでよりも格段に時間が増える。だからなのか、今出来る事を優先した結果、新たな作物の栽培へと思考はシフトしていた。

 

 

「でもさ、今でも結構な物を作ってるよね?」

 

「そうだな。今は葉物や根菜類が多いのは事実だな。やはり主食を優先するのはある意味当然の事だ。本当の事を言えば、米の栽培にもチャレンジしたい所だが、あれだけは流石に小人数だと厳しいと聞いている」

 

「確かにお米は重要だよね。ムツミちゃんのご飯は基本的にはどれも美味しいんだけど、やっぱりお米が不味いと何食べても美味しくないからね。炊き立てのご飯か~何だかお腹空いてきちゃった」

 

「確かにそうかもしれない。だが、時期を考えると米に関してはその内にと言った所だな」

 

「そっか~残念だな」

 

「やれる様になったら頼むぞ」

 

「うん。任せて」

 

 ジュリウスとナナの会話を聞きながら北斗は少しだけアナグラの食事事情を思い出していた。

 フライアとは違い、ここでは完全に人の手によって作られている。ムツミの家庭料理の味わいだけでなく、エイジの店舗で食べる様な洗練された食事は確実にここでしか食べる事が出来ない。

 2人の料理人が作るそれはその方向性が正反対だからなのか、ラウンジの食事に対して、飽きる事は無かった。

 当初は和食を食べる機会が少なかったギルやロミオでさえも今では普通に箸を使いこなして食べていた。

 

 

「北斗、どうかしたんですか?」

 

「いや。ここに来てから皆随分と和食に馴染んだと思って。来た当初は皆大変だったからさ」

 

「そう言われればそうですね。気が付けば随分と食事の嗜好は変化したかもしれませんね」

 

 そんなシエルの言葉に北斗は一つ思い出した事があった。まだジュリスが囚われた際に思った出来事。自分が知りうる中ではジュリウスがそれを口にしている場面は見た事が無い。だからなのか、ナナとジュリウスの会話に割り込む様に北斗は口を挟んでいた。

 

 

「ジュリウス。それなら大豆を作らないか?あれなら色々な物に使えるし、それに栄養価も高いはず。主食ばかりよりも多少は副食としての何かがあっても良いはずだと思う」

 

「……なるほど。確かに大豆の様な豆類は一つの良案かもしれない。一度榊博士とも相談してみよう。態々提案してくれて済まないな」

 

「まぁ、そんな事言わなくても良いさ」

 

 半ば自分の悪戯心を刺激した話だったにも拘わらず、ジュリウスは感謝の念を伝えていた。

 確かに目的はそれだけではない。大豆から作られる物を考えれば、使い道は多い。だからこそ、それ以外の部分にも目を付けるかの様に提案していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。大豆は盲点だったね。確かに作れる物はここでも割と重要な物となる事は多いからね。それならばこちらも準備しておくよ」

 

「有難うございます。では用意が出来次第早速作りたいと思いますので」

 

「そうかい。出来上がりを楽しみしているよ」

 

 榊への提案は何の問題も無いままに了承されていた。

 大豆があれば味噌だけでなく豆腐や枝豆としても食べる事が出来る。もちろん、本来考えていた用途にも使える為に、北斗は内心喜んでいた。

 しかし、時間の経過と共に一つの疑問が浮かんでいた。ここで食べた記憶は自分も殆ど無い。ムツミに聞くよりもここはエイジに確認した方が早いと考えたのか、北斗はすぐさま通信を繋げていた。

 

 

 

 

 

「どうでしょうか?」

 

「一度作ってるから、そんなに手間はかからないはずだけどね。確かに言われてみれば、ここで出した記憶は無いかな。でも、ブラッドとして考えるならロミオは既に経験があるかもしれない。僕も全部を知っている訳では無いからね」

 

 ラウンジでは先程の話のやりとりを北斗はエイジとしていた。以前に聞いたのはまだ完全に出来上がった訳では無いが、味そのものは悪くは無いとの会話。北斗自身は口にした事があった為にそれ程気になる様な事は無かったが、それ以外のメンバーとなれば話は変わってくる。

 だからなのか北斗は誰も居ないと思われる時間帯を狙ってラウンジへと足を運んでいた。

 

 

「そう言われればそうですが……でも、目的はジュリウスなんで、その辺りは気にしない事にしてます」

 

「なるほどね。クレイドルのメンバーは大半が一度は口にしてるから多分大丈夫だろうとは思うよ。でも肝心の材料が無いと話にならないから、まずは作る事を優先した方が良いかもしれないね」

 

 エイジの言葉に北斗は少しだけ今後の事を思い出していた。

 聖域での作物の成長の度合いはかなり早い。これはブラッドだけの認識ではなく、他の人間もまた知っている事実だった。流通させるには数が足らない。しかし、そのまま放置するのも勿体無いとの考えから、僅かではあるが、ラウンジや他の報酬の代わりとなるべく少しづつ流れていた。

 

 本来であればそれそのものがかなり価値が高い物。ここが極東ではなく、本部や他の支部ともなれば驚愕とも取れる程の品となっている。しかし、元から食糧事情が良い極東ではそこまで話が大きくならなかったのは、偏に食材の味をしっかりと理解していない人間が多く、また食材のレベルが低くても調理する人間のレベルが高い事から口に入る頃にはそれ程の差を感じる事は無いのが原因だった。

 それだけではない。ミッションが苛烈になればなる程、体内はあらゆる栄養素を補給しようと味付けが濃くなりがちになっている。和食の様な完全に出汁や素材の味わいを優先しないからこそ、理解出来ない部分が多分に存在していた。

 

 

「確かにそうですね。恐らくは育成の速度も速いはずですから、出来た時点で一度持ってきます」

 

「そうだね。大豆ならリンドウさんとハルオミさんも喜ぶだろうからね」

 

 そんな些細なやり取りは時間の経過と共に記憶の奥底へと追いやられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紫色の小さな花が咲いてからは想像以上の早さで収穫が始まっていた。伸びた枝から生えるサヤは一気に大きくなっていく。元々大豆を作る事が目的ではあったが、ここで出来た一部だけを早めに収穫していた。

 

 

「まだ、途中だよね?本当に良いの?」

 

「これは、枝豆って言って取れたてを茹でて食べると美味しいのよ。本当なら完全に熟成した物を食べるのが一番だけど、これはこれで大豆のおいしさの一つなの」

 

 老婆の言葉にナナは少しだけ疑問を持ちながらも、茹でて食べるの言葉に、一部の棟だけ収穫を速めていた。まだ青々とした色合いのサヤはぷっくりと膨れてはいるが、まだ未成熟である事を物語っている。ナナと同じ様にジュリウスもまた一部だけを収穫していた。

 

 

 

 

 

「では早速……」

 

 収穫してからのナナの行動は通常のミッションと同じかそれ以上の早さを誇っていた。

 事前に用意してあった鍋に大量の水を入れ、沸騰するまでずっと番をしている。元々何が出来るのかを知らなかったシエルやリヴィは今のナナの行動に疑問を持ちながらも敢えて何も言う事はしなかった。

 グラグラと煮えたぎる鍋に塩を入れ、先程収穫した大豆のサヤを次々と投入する。未だどんな結果が待っているのかは誰も分からないままだった。

 

 

「なるほど。これはこれで良い味をしてるな」

 

「大豆ってこんな味がするんですね」

 

「これならビールにも合いそうだな」

 

 ジュリウスとシエルだけでなく、ギルもまた茹で上がった枝豆を口にした感想は正に感動の一言だった。これまでにも何度も収穫した物を口にした事はあったが、今回の様に直ぐに口にした事は一度も無かった。

 初めて作った際にはカレーにした事もあってか、野菜の味を確認する前に、カレーの香辛料の方が強かった為に素材そのものを確認した訳では無い。しかし、今回口にした枝豆は純粋に塩だけの大豆そのものの味。緑色の未成熟を他所に、その味は正に大地の味とも取れる程だった。

 気が付けば茹で上がった物を次々と口にしていく。ナナに至っては感想を出すよりも、素早くサヤから豆を取り出しながら口にしていた。

 

 

「なるほど……これが枝豆」

 

「ナナそんなに焦らなくても枝豆は逃げないぞ」

 

「思ったより美味しかったからつい……」

 

 北斗の言葉にナナは漸く手が止まっていた。気が付けばかなりの量を食べたのか、中身が無くなったサヤだけが積まれている。他のメンバーも同じく味わって食べるが、やはり収穫したての野菜の味が強烈だったのか、暫し無言のままが続いていた。

 

 

「お前さん方、野菜は収穫したてが一番旨いんじゃ。後はゆっくりと味が落ちていく。獲れたての野菜を食べる事が出来るのは作った人間の特権なんじゃよ」

 

 老爺の言葉に誰もが驚いた様な顔をしていた。

 これまでに食べた物もそれなりに味わい深い物だと認識していたが、今回の枝豆の味はまさにその典型だった。改めて自分達が作った畑を眺め、その視線が茹でた枝豆へと視線が動く。これまでにやってきた成果がどれ程の物なのかを漸く理解していた。

 榊が言った農業の意味。命を育む事の大切さは農業を営む者にとっては当然の話。しかし、これまでにそんな事を考えた事もなかった人間からすれば、改めて驚く結果でしかなかった。

 

 

「俺、これから好き嫌いはしないよ……こんなに野菜が旨い物だなんて知らなかった」

 

「そうだな。ロミオの言う通りかもしれない。私もこれからは玉子だけでなく、野菜も少しづつでも取る様にしよう」

 

 ロミオの言葉に感動したのか、リヴィだけでなくジュリウスもまた自分がこれまでしてきた成果を垣間見た気がしていた。

 当初は贖罪の意味もあったかもしれない。しかし、この新しい大地と戦った成果としてこの野菜を口に出来た事はこれまでも苦労すらも凌駕する程の物だった。

 ロミオが言う様にまだ何も知らない人間は大勢いるはず。だとすれば、これが完全に成熟した大豆もまた皆にとって忘れがたい物になるに違いない。そんな思いを胸に秘めていた。

 感動に満ちたそんな中で北斗だけは一人、今後の事を少しだけ考えていた。実際に口にはしたが、北斗自身はゴッドイーターになるまでに何度も経験している。確かに味が良い事は納得したが、他の皆とは違い、そこまで感動する事は無かった。

 それと同時に収穫した後の事を考える。これならばと一人だけ違う事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「例の物だけど、もう出来たよ。参考に聞くけど、北斗は取敢えずどうするつもり?」

 

「折角なのでラウンジで提供出来ればと考えています」

 

「でも、エイジさん。私もここでは出した事が無いんですけど、大丈夫なんですか?」

 

「それなら問題無いよ。以前にも一度ここでは無いけど出した事あるから」

 

 心配げなムツミの言葉にエイジは以前の記憶を辿っていた。まだそれが完全に出来ない頃、一人で研究した結果だった。

 既にあれからは似たような物が出回っている為に忌避感は無いはず。勿論ブラッドのメンバーだけでなく、ここに居る大半の人間は口にしているかは知らないが以前出した際には賛否両論が出ていた。

 そんな記憶があるからこそムツミの言葉にエイジはフォローを入れていた。

 

 

「それなら大丈夫ですね。でも、これ以外の物ですけど、本当に良いんですか?やっぱり私も手伝った方が……」

 

「ムツミちゃんも知っての通り、これは出来れば後はそんなに難しい物じゃないから大丈夫だよ。使い勝手は良いし、副食としても品数が出来るからね」

 

 既に仕込みを開始してるからなのか、エイジの手が止まる事はなかった。

 用意された物は幾つかの手が入る事によって次々と違う品へと変わっていく。北斗の本命のそれは、万が一の事も考え、数は少なめに設定してあった。だからなのか、他の人間が来てもその存在に気が付く事は無いまま時間が過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北斗がお願いしたなんて珍しいね。どうしたの?」

 

 大豆の収穫を終えた後、北斗は一部の製品をエイジに託すと言った体で一部を貰っていた。そのまま食べる事は無い位の事は理解したが、何故と言った疑問に北斗が出した回答だった。

 経由はすれど、最終的に行きつく所はただ一つ。だからなのか、北斗はそれ以上の質問を受ける事無くそのままエイジの手に渡していた。既にそれなりに時間が経過した頃。唐突に北斗の提案でブラッド全員がラウンジへと足を運んでいた。

 

 

「実は今回の件で、少し思う所がって、エイジさんにお願いしたんだ。で、今回はその結果って所だ」

 

 丁度夕食の時間も相まったからなのか、ブラッドは誰もが疑問に思う事なくソファーが置いてある場所へと座っていた。

 何時もとは違った様子に誰もが疑問を感じている。本来であれば気にする必要は無いはずが、今日に限っては少しだけ違和感があった。

 まだ気が付かないからなのか、各々の前に和食としての味噌汁やご飯が置かれて行く。

 そんな中で目にしたのは真っ白な豆腐と、他に用意された幾つかの小鉢だった。

 

 

「あの……これって」

 

「これは大豆を絞って作った豆腐と、それを材料にした白和え、それに卯の花だ。どれも大豆から作られた物だ。とは言っても俺は何もしてないが」

 

「そうでしたか。豆腐は偶に見る機会はありましたが、口にした事は殆ど無いですね。ではこれも同じ様な物なんでしょうか?」

 

 シエルが疑問に感じたのは、少し茶色をした和え物だった。豆腐と白和えは何となく理解できるが、これが一体なんなのかが分からない。色からしてもそれが大豆なのかと言われれば疑問だけが残っていた。

 

 

「それは卯の花。大豆の絞った残りだ。栄養価はあるし、味付けもちゃんとされている。そんなに違和感は無いはずだ」

 

「そうでしたか。無駄が無いんですね」

 

「シエルちゃん。それよりもそろそろ食べようよ。お腹すいちゃったよ」

 

 これ以上は待てないとばかりにナナは既に食べる態勢に入っていた。

 今回のミッションは何かと苦労した事もあり、何時もよりも空腹感は随分と強い。だからなのか、我先にと食べ出していた。

 

 自分達で収穫しただけでなく、素材の味を完全に引き出した今回の食材は以前に食べたカレーとはまた違った要素を含んでいた。

 ここでも時折出てくる豆腐はそれなりに何かをかけない事には味がどこかぼやけている様にも感じているが、今回出されたそれは、薬味や醤油をかけなくても十分に味が濃いままだった。

 その隣には緑色をした何かも同時に置かれていた。質感だけ見れば豆腐の様にも見えるが、それは自分達が知っている物では無かった。

 

 

「これも、豆腐なの?」

 

「どうやら枝豆を混ぜた豆腐らしい」

 

「随分と色が鮮やかだな」

 

 崩れない様に口に運ぶと、普通の豆腐とはまた違った味に、全員が改めて驚いていた。

 一つの食材でこうまで色々な物を作れると思ってなかったからなのか、物珍しいそうに食べている。本来であればここで終わっていたが、ここで漸く北斗が望んだ物が改めて用意されていた。

 

 

「北斗。一つ聞きたいんだが、これは腐っているんじゃないのか?」

 

「ジュリウスの言いたい事は分かる。だが、これは腐ってないんだ。ただ発酵しているだけ。チーズなんかと同じ様な感じなんだ」

 

 小鉢に出されたそれが今回、北斗がジュリウスに食べさせたいと考えていた物だった。

 厳密に言えばラウンジで出た事はこれまでにも数回あった。しかし、その見た目が悪いそれはどうしても口にするには勇気が必要だったのか、人気としては下位に位置している。

 もちろん身体の事を考えれば決して悪い物ではない。事実、ここに居るメンバーでそれを口にした事があるのはロミオと北斗だけ。ギルとナナ、シエルに関しては見た事はあったが口にするまでには至っていない事実があった。既にジュリスの前だけでなくリヴィの前にも同じく出されている。

 その独特の見た目と匂いがそうさせるのか、先程とは違い何時もの落ち着いた雰囲気のジュリウスはそこに居なかった。

 

 

「そうなのか……参考に聞くが、皆は食べた事があるのか?」

 

「それなら俺はあるぜ。見た目はあれだけど、案外と食べると旨いと思うぞ」

 

「確かに薬味として色々と入れると味も変わるから、案外と食べる事が出来ると思う。案外と人によっては味付けは違う事が多いな」

 

 想定外のロミオの言葉に北斗も追撃とばかりに言葉をかける。本来であればジュリウスの言葉はブラッド全員を指しているが、それをそのまま伝えれば確実に回避するのは明白だった。

 そんな思惑があったからなのか、北斗はロミオの言葉をそのまま全員の総意の様に話していた。ロミオの言葉に何かを思ったのか、リヴィはそのまま口にしていた。

 口の中に入れても箸は先程の糸が引いたのか、細い何かが垂れ下がっている。当初は恐る恐る食べたリヴィを見たからなのか、ジュリウスも改めて口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは初めて食べたが、恐らくは人によっては好き嫌いが出るかもしれないな。だが、総じて今回の食事はかなり有意義な物だったと思う」

 

 そう言いながら最後に出された豆腐を使ったデザートに全員が舌鼓をうっていた。

 元々今回の発端は北斗がジュリウスに納豆を食べさせたいが為に考えた物。結果的には全員が食べはしたが、やはり最初から口に合わなかったからなのか、ギルとシエルは苦戦していた。

 ナナに関しては当初はおっかなびっくりではあったものの、一度口にした際に、何かが良かったのか、何時もと何も変わらないままだった。

 

 

「でも、その割には納豆には苦戦してた様だが?」

 

「あれは人生の中で初めて口にしたな。まさかとは思うが極東には他にも変わった物があるのか?」

 

「旧時代であれば他にも色々と口にする物が多かったとは思うが、今の段階では何とも言えないな。以前に聞いた際には他にも復活した食材が有るらしい」

 

 納豆の衝撃がデザートによって和らいだからなのか、ジュリウスは既に何時もと変わらない表情を浮かべていた。豆が糸を引くケースは殆どが腐っている場合。もちろん衛生管理が厳しいラウンジでそんな事になる可能性は皆無に等しかった。

 

 

「なるほどな。だとすれば今後は食材の取り扱いも考えた方が良さそうだな」

 

「今の事だけで手一杯なんだ。それ以上の事は専門の人間に任せた方が合理的だぞ。それに一人でやれる事なんて知れてる」

 

「そうだったな」

 

 北斗の言葉にジュリウスは農業の導入の件でのやりとりを思い出していた。自分一人で出来る事は限界がある。だからこそ全員の力を頼り生きていく事を考える。

 改めて自分自身がやれる事だけを考える。そんな考えが思い出されていた。

 

 

 


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