神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第46話 純白の刃

 今迄に見た事が無い程に白くなった刃は、迫り来るディアウスピターの後ろ足に大きく斬りつけていた。

 鋸状の刃は斬りつけた周囲を抉るかの様に巻き込みながら、通常の刃とは違ったダメージを与える。

 想定外のダメージを受けたからなのか、瞬時に怯んだアラガミに対し男は一切躊躇する事は無かった。刃より出した黒い咢はそのまま斬りつけた場所に喰らいつく。ブチブチと繊維を引き千切るかの様に齧りついた咢はそのまま残った繊維状の物を捕喰していた。

 斬りつけられた事なのか、それとも捕喰された事に気が障ったのか既にアラガミは怒りに震えながら、その男に対し威圧的な咆哮を出しながら突進していた。

 

 

「獣の分際で随分と偉そうだな」

 

 先程の咢によって全身にアラガミの生体エネルギーがこれでもかと激しく駆け巡っていく。既に自身の体内から激しい程のエネルギーが噴出したのか、上段に構えた刃には闇色のオーラを纏っていた。

 上段から繰り出される絶対の刃は突進したディアウス・ピターをも止める程の勢いがあった。振り下ろされた刃は大気を分断し、断罪するかの様に顔面へと斬り裂いて行く。

 刃筋は偶然にもディアウス・ピターの右目を綺麗に切り裂いていた。

 

 

「ったく。忌々しい程の攻撃力だな」

 

 吐き捨てるかの様に呟いた声はディアウス・ピターの悲鳴にかき消されていた。これまでに無いダメージに致命的な程の隙を与えたからなのか、純白の刃は目の前に倒れたそれを撫でるかの様に水平に閃光が走っていた。

 断末魔と共にその場に巨体が崩れ落ちる。息を吹き返さないかと確認した所で改めてコアを抜き取っていた。

 

 

「こっちは終わった。そっちはどうだ?」

 

《こっちも今終わったよ。周囲のアラガミ反応はどう?》

 

「ああ。特に問題無い。恐らくはアナグラのレーダーも同じだろう」

 

《了解。そっちに向かうよ》

 

「ああ。そうしてくれ」

 

 任務が終わったと同時に入った通信は自分と全く同じ状況だった。既にディアウス・ピターの個体は霧散し始めているからなのか、横たわったその輪郭が徐々におぼろげな物へと変化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待て。どうして俺にその話が来てないんだ?俺が使ってる神機だろうが!」

 

「それは止められたからね。仕方ないよ。でも、その分、神機の戦闘力は格段に上がってるから問題無いはずだよ。まさかとは思うんだけど、その謂れが恥ずかしいなんて思ってないよね?」

 

 神機のアップデートが終わったからとソーマはリッカの下へと足を運んでいた。

 ここ最近、研究の方が忙しかったからなのか、ソーマは珍しくアナグラと屋敷を往復していた。

 最大の要因は自分が普段使っている研究施設を珍しく榊が使っているからだった。元々ラボは榊が使用していた部屋。しかし、支部長に就任した事から使う頻度が少ないからと、ソーマが利用していただけだった。

 本来の持ち主が使用する以上、ソーマはどこかでやるしかない。だからなのか、屋敷へと直参する機会が格段に多くなっていた。

 

 

「そんな事は思っていない。ただ、なんでそれを使えたのかが知りたかっただけだ」

 

「それは私に言われても分からないよ。それこそ榊博士に確認したらどうかな?」

 

「ああ。そうさせてもらおう」

 

 整備班を後にしたソーマは迷う事無くラボへと足を運んでいる。ここ数日は何かしらやっていた事は知っているが、まさかそんな事をしているとは思っても無かった。

 確かにこれまで以上にイーブルワンの戦闘力が上がっているのは認めるが、まさかそれが原因だとは思っても無かった。

 

 

「おい、オッサン。どうしてあれを使ったんだ?」

 

「ソーマか。あれでは分からないよ。ちゃんと口にしてくれないとね」

 

 怒りが滲んだソーマの視線を榊は怯む事無く受け止めていた。本来であれば、あるはずの無い物。それが自分の神機に使われてるとなれば、決して気持ちの良い物では無かった。

 

 

「ハッキリと言ってやる。どうして()()()()()()()()があったんだ?」

 

「なに。簡単な話だよ。シオがアラガミから人間になった際に、一部の細胞らしい物が剥がれ落ちたんだよ。これまでは今後の研究の為にと思って保管してたんだが、不意に調べた結果、そろそろ維持するのも怪しくなりつつあったんでね。だとすれば上手く加工が出来れば神機にも使えるだろうと判断した結果だよ」

 

 シオが当時から今に至る結果となった事はソーマが一番理解していた。アラガミだった頃は自身の生体を形状変化させる事によって神機と似たような物を作っていた。しかし、一旦抜かれたコアを再び結合させた際に、神機となった部分の一部が欠片となって剥がれ落ちていた。

 確かに重大な研究材料である事は間違い無いが、それと同時にこれは確実に災いの種となるのもまた事実だった。螺旋の樹の騒動を起こしたラケルの姦計で、一時期情報管理局が介入した際には榊も少しだけ冷や汗をかいていた。

 発見される可能性は限りなくゼロに近いが、決してゼロではない。騒動そのものはそのまま終わった事によって問題が発覚する事はなかったが、再度確認した際に、僅かに劣化していた事実が判明していた。

 このまま風化させるのも一つの手かもしれない。しかしながら新たに人間として生きる事を選んだシオの事を考えたからなのか、一番近しいソーマの力になればと考えた結果だった。

 

 

「だったら、俺にも一言位良いだろうが」

 

「言ったら君は反対するだろ?だから言わなかったんだよ。リッカ君とナオヤ君がやってくれたんだ。神機としての性能は以前に比べれば格段の向上している。ソーマとしても多少は感謝してもバチは当たらないよ」

 

「そうか……」

 

 何時もの人を食った様な笑みにソーマはそれ以上の言葉を告げた所で無駄だと悟っていた。事実、今から何をしてもイーブルワンが元に戻る事は無い。これまでの鉛色の刃が純白に変わっただけ。自身でそう言い聞かせる事によってそのまま榊の居るラボから出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ソーマさんの神機って少し変わりました?」

 

「いや。何も変わっていない。それよりも今回の対象アラガミはディアウス・ピターとスサノオだこれだけ離れて居れば問題無いと思うが油断はするな」

 

 ソーマの言葉に、何か違和感があったと感じたロミオはそれ以上の事は言えないままだった。

 ロミオ自身がソーマと一緒にミッションに行く事が無いだけでなく、使っている神機の特性から考えても一緒に行く可能性はそう高くはなかった。

 事実ソーマは何となくだが苛立ちを持っている様にも見える。何かを悟ったのか、ロミオはそれ以上の事は何も言わないで置こうと胸に秘めていた。

 

 

「取敢えず、今回のミッションなんだけど、僕とカノンさんがスサノオに行くから、ソーマとロミオはディアウスピターの方に行こうかと思うんだけど、それで良い?」

 

 どこか苛立ちを持ったソーマが気になっているものの、それ以上の言葉をかける程ロミオは親しくは無かった。

 誰とでも話せるロミオではあるが、実際には声を掛け辛い人物の中でもトップに位置するのがソーマだった。クレイドルとも交流があるが、それはあくまでもエイジやリンドウが居るからであって、ソーマと直接話す機会は然程多く無い。研究職である為に、現場には余り出てこない事も要因の一つだった。

 しかし、過去の数字を見れば間違い無く極東支部の中でもトップクラスの数字を叩き出している。それだけでは無い。自身も使うヴェリアミーチはバスター型の神機。それに対してソーマの使うイーブルワンもまた同じくバスター型であるからこそ、何かしらの参考になればと思って今回のミッションに参加していた。

 初見では無いが、明らかに自分の記憶の中で見た神機とはどこか違っている。当初はカラーリングを変えただけだと思ったが、何となくその雰囲気も違う様に思えていた。

 

 

「ああ。俺は問題無い」

 

「お、俺も大丈夫ですから」

 

「えっと……私も頑張ります」

 

 エイジの指示にそれぞれが頷いていた。本来であればソーマの動きを参考にしたい気持ちがあった為に、ロミオとしては問題無かった。可能性としてはカノンと同じか一気に一体づつ討伐する事も考えられたが、このメンバーだからなのか、エイジに対し異論は無いままミッションは開始されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロミオ。ディアウス・ピターとの交戦経験はあるか?」

 

「そう多くは無いですが、あります」

 

 既にエイジとカノンは索敵とばかりにこの場を離れていた。ここに居るのはソーマとロミオだけ。やはり先ほどのやりとりのイメージが強すぎたからなのか、ロミオの返事はやや固い物だった。

 

 

「そうか。それとさっきの件だが、俺の神機はどうやら知らない間にチューニングされてたみたいでな。何も知らない間に弄られるのは気持ちが良い物ではない。気分を害したなら謝る」

 

「い、いえ。そんなつもりじゃないですから。そろそろ見えてきましたよ」

 

 突然の言葉にロミオはただ驚くだけだった。何気なく聞いただけのつもりがまさか謝罪されるとは思ってもいなかった。誰にだって気になる事や機嫌の悪い事がある。恐らくは先程のソーマの言葉が原因なんだと分かったからなのか、ロミオは誤魔化すかの様に周囲を見た結果だった。

 

 

「そう言えば、ブラッドアーツだったか。リンドウから聞いたが、破壊力は凄いらしいな。少しだけ期待してるぞ」

 

「え、あ、はい。頑張ります」

 

 ロミオのそんな様子を見たソーマは少しだけ口元に笑みが浮かんでいた。自分自身でも、まさかこんなやりとりが出来るとは思ってなかったからなのか、珍しく高揚していた。

 これまでであればそんな気遣いをした記憶は殆ど無い。偶然なのか必然なのか、これがこんな状態になった原因でもある一人の少女を顔を思い浮かべたソーマは改めてこちらに向かってくるディアウス・ピターに視線を移していた。

 

 

「ロミオ。あれは通常種だ。遠慮はするなよ」

 

 ロミオの返事を聞く事もせずソーマはイーブルワンを構え迎撃の態勢へと移行していく。既に捕捉されているのであれば、態々こちらから移動する必要は無い。だからなのか、それに習ってロミオもまた同じく行動を共にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冷静に対処すれば問題無い。絶対に慌てるな!」

 

「はい!」

 

 ソーマの指示にロミオはただ従うだけだった。元々同じ神機の構成だけあって、その行動原理は決して難しい物では無かった。

 一つ一つの動作を確実に行使すると同時に、際どい部分は確実に防ぎ、隙を見せた際にだけ斬りつけるといった極めてオーソドックスな方法だった。事実、通常種のディアウス・ピターは動きを確実に読み切れば対処そのものはそう難しく無い。際どい戦いをせず、確実に倒す事だけを行っていた。

 

 ロミオはソーマの基本的な指示に意外性を感じていた。バスター型の場合はどうしても動きが鈍くなりがちになる為に、焦りを呼べば確実に攻撃の間に致命的な隙を持ってしまう。これまでにロミオもその経験を痛いほどしていた。

 教導を受ける様になってからは格段に被弾率は少なくなったのは偏にナオヤやエイジのやり方が基本の忠実だったに過ぎなかった。ディアウス・ピターの放つ雷球をシャットアウトするかの様にカーザミーアには次々と衝撃が走る。タワーシールドの表面が僅かに焦げた程度の攻撃はロミオにまで届く事は無かった。

 

 

「ロミオまだ大丈夫だな」

 

「こっちは大丈夫です」

 

 ロミオの返事に迷いは無かったからなのか、ソーマは大きく迂回しながらディアウス・ピターに向けて走り出していた。元々人面に近い顔を持つ為に視界は然程広い訳では無い。

 事実、ロミオが攻撃を完全に防ぎ切った事からディアウスピターは再びロミオに向けて攻撃を開始している。視界げ狭い事を利用したその瞬間をソーマは狙っていた。

 純白の刃は真横から腹部めがけて刃を走らせる。本来バスター型では出せない程の斬撃は無防備な腹に喰らい付くかの様に斬りつけていた。

 

 

「ロミオ!今だ!」

 

 ソーマの指示にロミオは直ぐに銃形態へと変形させ、すぐさまディアウス・ピターに向けて発砲していた。ソーマとは違い、距離があれば剣ではなく、銃で対処する。第二、第三世代特有の攻撃は攻撃の隙間を作る事は無かった。

 顔面に着弾したバレットの衝撃にディアウス・ピターに大きく怯む。これがブラッドであればそのまま全員で攻撃を行うが、今のロミオはソーマしかいない。だからなのか、着弾を確認すると同時にロミオが走りだした瞬間だった。

 

 

「えっ……」

 

 ロミオの目に映ったのはソーマが既に場所を移動し、チャージクラッシュの態勢に入った場面だった。闇色のオーラを纏った巨大な刃はディアウス・ピターのマントに向けて振り下ろされていた。

 鋭い一撃はマントを引き千切るかの様に斬りつけ、そのまま勢いが衰える事無く大地を叩きつける。本来であればバスター型の神機使いの攻撃はそこで終わるはずだった。

 しかし、ソーマの斬撃が大地を叩きつけた反動で下からの斬撃へと変化している。V字の斬撃にこれがバスター型の攻撃なのかと、戦闘中にも拘わらず見ているだけだった。

 振り下ろしからの攻撃が、そのまま跳ねあがった攻撃へと変化する。その衝撃に耐えきれなかったのか、マントはその勢いに負け結合崩壊を起こしていた。

 

 

「ロミオ!ぼさっとするな!」

 

 ソーマの言葉にロミはすぐさま我に返っていた。元々バスター型の正しい攻撃方法なんて物は誰にも分からない。そもそも教導の際には大太刀を使用している為に、今の様な攻撃をする事は全く無かった。

 恐らくエイジやナオヤとてそんな攻撃方法を知らない訳が無い。だからと言って見よう見真似でやれるかと言えば否定しか出来なかった。

 本来であれば勢い余って大地に叩きつけた物を跳ね上げる発想は無い。あまりにも鮮やかな攻撃にロミオの常識は一瞬にして消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……俺にも戦い方を教えてくれませんか?」

 

「戦い方?」

 

「はい。さっきの攻撃方法は凄かったです。俺にはあんな風に攻撃する事は出来ません。だから…」

 

「お前は確かナオヤの教導を受けていたんじゃないのか?」

 

「それは……そうですけど」

 

「だとすればそのまま受けると良い。俺のやり方を誰かに教える事が出来る程の物ではない。ただ感情に任せて振るってるだけの物だからな」

 

 帰投のヘリでロミオは思わずソーマに懇願するかの様に話をしていた。これまでの教導が無駄では無いが、やはり自分のやっている事よりも先程のソーマの戦いの方が印象が強かったからなのか、思わず自分の考えを口にしていた。

 もちろん、これまでの事を蔑ろにするつもりは無い。今以上の戦いのバリエーションを増やす事によって僅かでも自分が生き延び、戦いに勝つ可能性が上がればと考えた結果だった。

 

 

「それでも!」

 

「……お前が何を考えているのかは分からんが、俺とお前の神機の特性や攻撃の方法が異なるのは当然だ。それと、あいつらの教導は基本を忠実にやっている。そう考えれば俺のやり方は邪道だ。基本が出来ない人間が小手先の技術に走っても碌な事にはならない。あいつらだってそれを理解しているからこそ、基本に重点を置くんだ」

 

 ソーマとてロミオの気持ちが分からないでも無い。教えるのは構わないが、そうなれば今度は自分の時間が取れなくなっていくる。確かに戦場には出るが、自分も既にベテランの域から場合によっては退役の勧告が出てもおかしく無い程の年月が経過している。

 そんな人間に教える事は無いと言いきった後、ロミオの視線を振り切るかの様にタブレットを操作していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「折角後輩が出来たんならそのまま教えてやれば良かったじゃねぇか」

 

「俺がか?柄にもない」

 

 帰投後にリンドウに掴まったソーマはそのままラウンジへと連れられていた。今でこそ落ち着いた雰囲気を醸し出しているが、当時はまだ手が付けられない程の有様。そんなソーマに何の打算も無く近づいたロミオを見たからなのか、リンドウは自分との呑みに誘っていた。

 グラスの中の氷がカランと音を立て、ゆっくりと溶けている。既にかなりの量を飲んだのか、リンドウの顔は赤くなっていた。

 

 

「またまた。何言ってるんだよ。当時のお前に今のお前の事を言ってやりたいぜ。まさかあんなに捻くれてたお前が真っ直ぐになるとはな」

 

 そう言いながらリンドウはグラスの中の琥珀色のの液体を流し込んでいた。既にソーマの返事など聞くつもりは無いとばかりに味わうかの様に飲んでいる。そんな雰囲気を察したのか、ソーマはそれ以上何も言う事は無かった。

 

 

 

 

「今日はエイジなんだ。私、モヒート一つ」

 

「エイジ、私はサラトガクーガーを一つ下さい」

 

 2人の沈黙を破るかの様にリッカちアリサもラウンジへと足を運んでいた。今日は弥生が不在な為にエイジがカウンターに立っている。2人の注文を受けたのか、そのまま手早くステアしていた。

 

 

「ソーマ。使い勝手はどうだった?」

 

「ああ。悪くは無かった。俺が想像した以上だな」

 

「だよね」

 

 何気に聞かれたリッカの言葉にソーマは嫌な予感を感じ取っていた。元々神機のアップデートをした人間がここまで来てその話をする必要性は何処にも無い。事実、リンドウとアリサは何を言ってるのか疑問を浮かべている。

 カウンターの中にいたエイジは何かを知っていたのか、珍しく口元には笑みが浮かんでいた。

 

 

「リッカさん。ソーマの神機に何があったんですか?」

 

「それはね……」

 

「リッカ!」

 

 ソーマが慌てて止めようとしたが、距離があった為にリッカの口を塞ぐ事は出来なかった。珍しくソーマの行動を呼んでいたのか、リッカの腰は既に浮いている。この時点でソーマが止める手段は無いに等しかった。

 

 

「シオの残った生体パーツを神機の一部に転用したんだよ。そのおかげで威力が上がって幾分か重量が軽くなったんだよね。いや~中々今回は良い仕事させてもらったよ」

 

「それって……」

 

「おいおい。マジなのか、それ?」

 

アリサとリンドウの視線がリッカへと向いている。既にリッカは止めるつもりがなかったのか、そのまま事実だけを告げていた。

 

 

「マジも大マジ。だってそれを作るのにアナグラの配線までショートした位だからね。いや~最初に聞いた時は流石に私も驚いたよ」

 

 ソーマは既に諦めたのか、再び椅子へと座り直していた。元々機密に近い話なだけに、周囲に人が居ない事を確認した上で話をしている。ここでソーマが大声を上げよう物なら確実に注目される事になる。

 シオの重大な機密をここで暴露する必要はどこにも無い。だからなのか、それとも諦めたからなのか、ソーマは再び沈黙していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事があったんですか」

 

 バータイムの時間も終わり、アリサは改めて自室でエイジから事の真相を聞いていた。

 あの場ではそれ以上騒ぐのは拙いからとお開きになったものの、やはり物が物なだけにアリサとしても詳細を聞きたいと考えていた。この部屋なら誰も居ない。だからなのか、何時もと同じくリラックスした中でエイジから聞いていた。

 

 

「僕も弥生さんから聞いただけなんだけどね」

 

「でも、今の状況を考えれば当然かもしれませんね」

 

 アリサの考えは奇しくも榊と同じだった。既にシオは本部にも顔を出している以上、多少なりとも認知はされ始めていた。まさか元特異点のアラガミだと言うつもりはないが、何かのキッカケで過去を探られるとこまる部分も多分にあった。

 現時点でのシオの立場は『紫藤明の義理の娘』となっている。フェンリルでも名うての研究者の身内となれば、手を出せない現実があった。

 これまでにも何度か問い合わせはあったが、全て断っているだけでなく、公の場でも徐々に姿が確認されている為に、下手な情報操作よりも簡単に出来る事を選んだ結果だった。

 

 

「確かに。それと以前の様に、ここに何かが介入されると困るってのもあったんだろうね」

 

「確かにそれは言えてますね。でも、ソーマもその位は素直になれば良いんですけどね」

 

「中々言えないんじゃないのかな」

 

「でも、羨ましいです。だって自分を気にかけてくれる人の物を見に付けるなんて中々出来ませんから」

 

「あれ?アリサには何も渡さなかった?」

 

「何も無いですね」

 

 アリサの言葉にエイジは改めてこれまでの事を思い出していた。自分の神機は確かにアリサから貰ったパーツをそのまま使っているが、自分からアリサに渡した記憶は無かった。

 そもそも渡せる物が何一つ無いのもまた事実。それ以上は藪蛇になるかと思ったのか、それ以上は何も言う事は無かった。

 

 

「私も何か欲しいんですけど……」

 

「善処するよ」

 

 上目遣いで見るアリサは何時もとは違った雰囲気だった。さっきまで居たバーの雰囲気がまだ残っているのか、何時もとはどこか違っている。そんな空気を察したのか、2人の部屋の明かりは何時もより早く消えていた。

 

 

 


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