神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第4話 それぞれの過ごし方

 道場の中から聞こえるのは2人の男の息遣いと、激しい打ち合いによる打撃音だった。既に状況は終盤に差し掛かろうとしているのか、これまでリズミカルに聞こえたはずの息遣いの所々が乱れ始めている。空気を斬り裂く音の後に続く音は一切無い。お互いは防ぐのではなく、回避している証左だった。

 既に体力の限界が近いからなのか、男はこの一撃に全てを賭けるべく、これまで斬り裂く様な行動から突きへと変更したのか、地面と水平に向けると同時に、刃引きされた刃は相手に向けられていた。自分の目に映るのは右腕に赤い腕輪をした人物。お互いが全力だったからなのか、その男もまた肩で息をすべく上下に揺れていた。

 僅かに漏れる息と同時に3本の剣閃が走る。狙撃銃の様に狙いすますのではなく、散弾銃の様にボンヤリとした狙いを付けたそれが襲いかかる。走った剣閃の内の2本は止められたが、そのうちの1本だけは肩口を僅かに掠めていた。

 

 

「あいかわらず出鱈目な攻撃だよね」

 

「あれを防がれたらもうやりようが無いぞ」

 

「エイジ。お疲れ様でした」

 

「ナオヤもよくやったね」

 

 2人の元に同じく2人の女性がタオルと水筒を持って駆け寄っていた。既に緊迫した空気は徐々に弛緩し、何時もの状態へと戻り始めている。お互いが全力の結果だったからなのか、既に肩で呼吸を繰り返していた。

 

 

「流石は教導教官ですね」

 

「あれ、来てたのか?だったら声の一つもかけてくれれば良かったんだが」

 

 ジュリウスの声が道場内に響いた。既に要件が終わったからなのか、入口にはジュリウス以外にブラッド全員が立っている。しかしよく見ればジュリウスとギル以外はどこか疲れたような表情を浮かべていた。記憶を辿れば、ここに来る前に子供達と遊んでいた結果だと理解するには然程時間は必要とはしなかった。

 

 

「流石にあの状態の中で声を掛けるのは難しいです。教導でもあれ程の緊張感を感じる様な事は殆どありませんので」

 

 ジュリウスの言葉にナオヤとエイジは渡されたタオルで汗を始末しながら会話を続けていた。先ほどの戦いに当てられたのか、北斗はどこかソワソワしている様にも見える。それが何を意味するのかを知っているナオヤは苦笑するしか無かった。

 

 

「そう言えば、ジュリウスとは組手とかした事無かったよな?」

 

「確かに。ですが、今の攻防を見れば既に自分の戦闘能力よりも大きく上回っているのは間違い無いですから」

 

「それは謙遜しすぎだ。どこまで行っても神機使いと一般人の力の差は覆らないのが事実だからな。俺がやれるのは技術があるからであって、同じ土俵に乗れば負けるさ」

 

 ナオヤの言葉に偽りは無かった。これまでの経験と、武に関する技術だけが自分の教官としての生命線である事を誰よりも自覚している。今の戦いに関しても、手加減はしないが力技に頼る戦いをエイジはしていない。純粋な技術だけの戦いは見ている者の視線すら奪う程に洗練されていた。

 誰もが気が付いていないが、あの戦いを直接見た人間はこれまで途中で声をかけた事が過去に一度も存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日から俺がお前達の教導をやる黛ナオヤだ。教えると言っても、俺もまだ修行中の身だ。そんな立派な事は言えんが、一定までの技量向上が今回の概要だ」

 

 新たに決まったカリキュラムは新人であれば素直に話を聞くが、問題なのはそれなりに実戦を経験した人間だった。まだ単独での中型種の討伐は認められていなくても、小型種の単独や、小隊としての行動での中型種の討伐を何度もしている側からすれば、腕輪をしていない人間をどこか見下した様な部分があった。

 幾ら事前にツバキから聞かされていたとしても、単純な力は神機使いに勝てる道理はどこにも無い。そんな驕る様な部分があったからなのか、ナオヤに向ける視線はどこか不躾な様にも見えていた。

 

 

「教官。失礼ですが腕輪をしていない一般人の様ですが、本当に大丈夫なんですか?下手に怪我でもされると、こちらも困るんですが」

 

 言葉そのものは丁寧だが、その視線は明らかに違っていた。下碑た様な視線は小馬鹿にしている様にも思える。幾ら有望な人間であったとしても、そんな事はナオヤには一切関係無かった。事実ツバキから言われた事は『鼻っ柱が高い半端者を叩きのめせ』と言われた言葉。今のナオヤにとって、目の前の男はまさにその典型でもあった。

 

 

「まぁ、その辺りは問題無いだろう。と、幾ら口で言った所でお前達も俺の力量なんて分からんからな。一度手合わせした方が効率的だろう」

 

 冷静を装いならがらもナオヤの本心は青白い炎が立ち込める様な闘志で溢れていた。今のナオヤをエイジが見れば、確実にどんな未来が訪れるのかは想像出来るが、一般人だと決めつけた目の前の男はそんな内心の変化には気が付かなかった。

 男は神機のモックを持っているが、ナオヤが持っているのは九尺に僅かに満たない棒の様な物を携えている。知る人間が居れば、明らかに槍術用の獲物である事は理解出来るが、この場でそれに気が付く物は誰も居なかった。

 

 

「どうでも良いが、必ず全力で来い」

 

「大怪我しても知りませんよ」

 

 お互いが正面に対峙しながらお互いの姿を見る。元々ゴッドイーターが対人用に訓練をする事は殆ど無い。その影響なのか、目の前の男は小型種のアラガミと対峙する様な距離を無意識の内に取っていた。

 既に準備が出来ているのか両者の視線が交差する。時間にして僅かだった。男の持っている神機はロングブレード型。器用に使う事が出来れば攻撃の幅は大きくなり、ダメージそのものはバスター型に比べれば大きくは無いが、それでも凡庸性の高さは一番だった。

 

 気合いと共に横なぎに振るう刃はナオヤが最初に言った様に、ほぼ全力に近い攻撃だった。空気を斬り裂く音が斬撃の速度を表している。確かに大きな口を叩くだけの力量はあるのだとナオヤは内心考えていた。

 まともにぶつかれば確実に獲物がへし折れる。誰もが分かり切った未来だったからなのか、振りきった男は一撃で終わる事を確信した様な表情を浮かべていた。

 

 

「雑だな」

 

 ナオヤは一言だけ呟くと同時に、横なぎに振るった刃を受け流すべく構えていた。幅広の神機は横に薙いだ以上、縦に面積が広くなる。幾らゴッドイーターの膂力があったとしても居合いの様な速度が出る事は無かった。事実、エイジとの模擬戦では基本は木刀でやる事が多く、その結果、常時神速とも取れる斬撃を躱すか往なす事が出来るナオヤからすれば、あくびが出るかと思う程度の速度でしかなかった。

 横に飛ぶ斬撃に対し、僅かに距離を離し間合いを開く。その瞬間、下から刃をかち上げる事でその斬撃を一瞬にして違う方向へと向いていた。

 全力で放った斬撃の方向が変わったからなのか、男の重心が大きく崩れる。完全に死に体となった身体に対し、ナオヤはその隙を見逃す事はしなかった。

 僅かに漏れる息と共に放たれた5発の突きに遠慮は無い。全てが人体の急所に入った事によって意識を完全に飛ばしていた。

 

 

「と、まぁこんな物だ。言っておくが、こいつが言った様に俺は神機使いではない。故に常に全力で相手をする事になる。元々技術なんて物は教わる物じゃなくて盗む物だ。最低限の型は教えるが、後は自分達の鍛錬しだいだ」

 

 瞬時に交わされた行為を完全に理解した者はこの場には居なかった。目の前の男は未だに白目をむいて意識が戻る事は無い。幾ら鍛えようが人体の急所に瞬時に撃ち込まれた突きの威力は並ではなかった。

 そんな状況を理解したのか、訓練室の中でナオヤに見下した様な視線を向ける人間は既に居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナオヤさん。大人気なくありませんか?」

 

「何馬鹿な事言ってるんだ。こっちはお前達みたいな強靭な肉体は持ち合わせていないんだぞ。常に全力でやらないと無意味だろ?」

 

 当時の状況を聞いた北斗の第一声に、ナオヤも少しだけやり過ぎた自覚があったからなのか、僅かに言葉に力が無くなっていた。確かにあの時はやりすぎたのかもしれないが、それ以降の教導は実にスムーズな物となっていた。

 次から来る人間はその事実を耳にしていたからなのか、指導一つ取っても実に素直なままだった。これまで戦略を考える事も無く、ただ目の前のアラガミを叩き潰すやり方しか知らなかった人間は次々と討伐のスコアが上昇していく。それは討伐の時間にも多大な影響を与えると同時に、生存率も大きく向上する結果となっていた。

 元々は新人から上等兵までの教導のはずが、気が付けば一部の曹長までもが対象となっている。整備の仕事と教導の二足の草鞋がどこまで出来るのかは考える事すらしなかった。

 

 

「言っておくが、全力でやったらどうなるのかは、お前達も身を持って知ったはずだぞ?」

 

「ええ。そうでしたね……」

 

 ナオヤの言葉に北斗だけでなく、ギルとロミオも思い出していた。腕輪が外れた事で一般人と同じ状態になった際に体験した事実はまだ生々しい記憶のままだった。対峙した瞬間、全身から嫌な汗だけが流れ、頭の中では常に警鐘が鳴り続けている。打ち込む隙すらどこにも無く、動いた瞬間に意識の外から来る突きは命の保証すらされていない物である記憶が蘇っていた。

 教導で命のやりとりを経験する事は本来であればありえない事実。そんな当時の記憶がまざまざと蘇っていた。

 

 

「そう言えば、自分も教導の映像を見ましたが、あれが本来の攻撃と言う事ですか?」

 

「本来かどうかは気にした事はないが、あれはあれで結構色んな業を使っているのは間違い無いな」

 

 何かを思い出したのか、ジュリウスも初めて教導の映像を見た事を思い出していた。純粋な技術の応酬がどれほど高度な物なのかは何となくでも理解していた。しかし、映像からは当時の迫力や駆け引きは何も伝わらない。しかし、先ほどの光景を見たからこそ、その本質に気が付いていた。

 

 

 

 

 

「折角ですから、私達も裸の付き合いをしませんか?」

 

 道場での一コマが終わる頃、唐突にアリサからそんな話が飛び出していた。様子を見れば、どうやらこの後は多少なりとも何かをする様な素振りが見える。このまま見ていても良かったが、折角だからとアリサは何か思う部分があった。

 冷静に考えれば、アリサとリッカ以外は子供達を遊んだ関係で、服は汗でしっとりとしている。自分の体力と精神をゴリゴリと削る遊びは既に訓練と同じ事だった。ミッション以上の疲労感はまだ残ったまま。汗の始末もしたいと考えていたからなのか、アリサの提案に対し誰も否定の言葉を出す者は居なかった。

 

 

「って事で私達は別行動をしますね」

 

「行ってらっしゃい」

 

 何かの思惑を持っているのか、アリサは女性陣と共に屋敷の中へと足を運んでいる。そんな姿を見ながらも、やはり先ほどの攻防を見ていたからなのか、北斗は教導とばかりにエイジとの対戦を申し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は、外湯にしませんか?」

 

「露天?偶には良いかもね」

 

 アリサの提案にリッカはそのまま応諾していた。他の3人は露天の言葉に疑問を持つが、ここに来てから露天に行った事は一度も無かった。殆どが内湯だった事から、その言葉の意味は何となく理解出来るが想像は出来ない。3人が出来る事は目の前を歩く2人について行く事だけ。

 ここの中を完全に把握していない以上、今はただその後を歩くだけだった。

 

 

「一つ確認したいんだが、外湯とはどう言う事なんだ?」

 

「さあ?私達もここには何回か来た事はあるんだけど、外湯は知らないよ」

 

「でも、リッカさんが露天と言っていたのでれば、可能性としては外なのは間違い無いかと」

 

 3人は前を歩く2人に聞こえない様に話をしていた。確かに汗を始末したいのは間違い無いが、そこから外湯の意味が分からなかった。2人の様子を見ればどこか楽しみにしている様にも見える。今出来る事はただついて行く事だけだった。

 

 

 

 

 

「うわぁああああ。何これ!」

 

「こんなだとは思いませんでした」

 

「まさかここまでとは……」

 

 露天から見える景色は何時もの庭とは一味違っていた。これまでの様な檜風呂に変わりはないが、ここから見える景色は何時もの様な浴室の壁ではなかった。眼前に広がる景色は明らかに何かしらの手入れがされた庭園が広がっている。露天と言うだけあって、浴槽の上には四阿(あずまや)の屋根だけが設えられていた。

 

 

「これ、最近改修したらしいですよ」

 

「だからなんだ。前はもう少し違っていた様な気がするからね」

 

 3人の驚きの声に反応したのか、アリサが今の状態を説明していた。今はあの事件での収束と、暫くの間はアラガミの活動状況を判断する必要があるからと、サテライトの建設に関しては一時的に中止されていた。

 元々棟梁だけでないが、職人の殆どはかなりの腕前を持った集団である事から、本来であればこう言った建築物の方が得意だった。仕事が無ければ干上がるのは間違い無いからと、その間を利用した回収作業が組み込まれていた結果だった。

 出来たばかりの四阿は樹の匂いがするのか、どこかリラックス出来る雰囲気が漂っている。3人とは違い、アリサとリッカは然程汗をかいていない事から掛け湯をしてそのまま湯船に入る。柔らかなお湯はシャワーだけのアナグラとは違い、心身共に安心できる雰囲気があった。

 

 

「そう言えばリッカさんに確認したい事があったんですが、昨日はお盛んだったみたいですね」

 

 アリサの唐突な言葉に隣に居たリッカは固まっていた。言葉の意味は正確には理解出来ないが、何を意味するのかは分かる。以前にもあったその出来事から考えれば、リッカの推測は間違っていなかった。

 既にゆったりとした空気は消え、まるで何かを確認する様な雰囲気だけが漂っている。何時か通った道にリッカも既に乗っている。ここは回避以外の選択肢がどこにも無かった。

 

 

「な、何の事かな?昨日は偶々美味しいお酒があるからって事でここに来ただけで、それ以上の事なんて……」

 

 ヒバリ程ではないが、リッカもこの手の話に対しての対抗手段は持ち合わせている。既にロックオンしたのかアリサはそんな言葉を端から信用するつもりは無かった。もちろん最初は何となくだったが、湯船に入った事で疑惑が確証へと変わっている。リッカはその事実に気が付いていないのか、未だ誤魔化したままだった。

 

 

「誤魔化しても無駄ですよ。まさかとは思いますけど、これ、そうですよね」

 

 アリサの指が差した先には僅かに赤い花が咲いていた。リッカのきめ細かい肌に対し、あまりにも不自然な位置にあるそれが何を意味するのかは口に出すまでも無い。二の腕の内側と腋の下辺りにひっそりと咲いたそれは自分で付けたと言うにはあまりにも不自然すぎる場所だった。

 

 

「え……嘘」

 

 リッカ自身が気が付かなかったからなのか、改めて自分の右腕を上げて確認する。アリサの指摘通り、そこには2つの赤い花がこれでもかと主張していた。それが付く行為は一つだけ。これまでの鬱憤を晴らすかの様な表情のアリサはどこか活き活きとしている様にも見えていた。

 

 

「もう……後で言っておくから。そう言うアリサだって、そうなんじゃないの?」

 

「私はもう問題ありませんから」

 

 リッカの視線はアリサの胸の上部を見ていた。同じく赤い花が咲いているが、既に消えかかっているのかかなり薄くなっている。既に証拠は無くなりだした結果だったのか、それともこれまで散々弄られた結果なのかリッカの言葉に大きな反応をする事は何処にも無かった。

 この場にヒバリが居れば更に収集が付かなくなるが、ヒバリはこの時間は他のミッションのオペレートをしているはず。今は2人だけのやりとりとなっていた。

 

 

「あの、すみません。私達も一応は居ますので……」

 

 2人が盛り上がっているところに水を差した様な状況だと判断したのか、シエルの言葉はどこか弱々しい物だった。確かにその話をしていた際には3人はまだ湯船には居なかったが、既に身体を洗い終えたからなのか、タオルで髪を上げてそこに佇んでいた。

 

 

「ゴメンゴメン。私達の事はいつもの事だから気にしないで」

 

「ですが、折角のお話に水を差したのは事実ですから……」

 

 おずおずとしながらも浴槽にゆっくりと入る。それに倣ったのか、ナナとリヴィもそのまま入っていた。先ほどの会話から何かを想像したのか、シエルとナナの顔は僅かに赤くなっている。リヴィはまだそんな事実について行けないからなのか、どこか疑問だけが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「でも、こうやってゆっくりと話をする機会は確かに無かったかもしれませんね」

 

 既に先ほどの空気を払拭する事が出来たのか、アリサは少しだけこれまでの事を思い出していた。あまりにも厳しいミッションだけでなく、その後は新しいプロジェクトと称して農業にも参加しているその姿は他のゴッドイーターからも色々な目で見られていた。

 今はまだ種を蒔いただけの為に、農業もやるべき事は限られてくる。詳しい事は分からないが、芽が出てからは本番だと聞かされたのはつい最近の話だった。

 

 

「確かに。でもこうやってゆっくり出来るなら悪くないかも。そうだ!聖域にも温泉出ないのかな?」

 

「この周辺は割と出やすいみたいですけど、実際には調査しないと分からないみたいですね。002サテライトも出たのは偶然みたいな物ですから」

 

 既にこの状況に慣れているからなのか、シエルとナナは寛いでいた。ただのお湯とは違い、温泉の成分が影響しているのか、これまで溜まった疲労感がゆっくりと抜けている様にも思える。数える程しか来た事は無かったが、それでも良い物である事は認識していた。

 

 

「となると002サテライトも同じ様な施設があるのだろうか?」

 

「あそこは、こことは違いますね。どちらかと言えば内湯をもっと大きくした様な感じだったと思いますよ。基本は住人の方々が利用する施設ですから」

 

 リヴィの疑問にアリサは当時の事を思い出していた。あの時も確か当初はどうするのかを悩んだ結果だった記憶があるが、実際にあの温泉施設の効果は絶大だった。

 工業プラントのイメージを払拭出来ただけでなく、温泉の影響もあってか、かなりの早さで入植出来た記憶があった。極東では旧時代にはこんな施設が幾つもあったと聞いている。ここまでのレベルの物なのかは分からないが、アリサも温泉に来るのは密かに楽しみにしていた。

 

 

「アリサ、まさかとは思うけど、ここではしてないよね?」

 

「そんな事はここではしません!リッカさんこそどうなんですか?何時からなのかは知りませんけど、冷静に考えればここに随分と馴染んでましたよね?」

 

「いやいや。アリサ程じゃないから。結婚してから更に艶々しているのはどうしてなのかな?」

 

「リッカさんこそ、最近は色気が出たって評判ですよ」

 

 寛ぎの空間は既に無く、何時もの女子会の様相となり出していた。特定の言葉を出してはいないが、それが何を意味するのかをシエルとナナも知らない訳では無い。何となく聞いた記憶があったからこそ、顔を赤くしながらも耳だけは2人の会話を聞くべくしっかりと意識していた。

 

 

「シエル。あの2人は一体どんな会話をしてるんだ?言ってる言葉の意味が分からないんだが」

 

「あの……情報管理局ではそんな話は出ないんですか?」

 

「出た記憶……は、一度も無いな。皆私よりも歳が上だし、こんな話をする機会も今まで無かったからな」

 

 赤い顔をしながらもシエルはリヴィの状況を思い出していた。厳しいミッションを潜り抜けた事実だけでなく、どこか内部はギスギスした様な空気が流れていた事を思い出していた。目の前で繰り広げられた会話を聞いているナナは先ほどよりも更に顔を赤くしている。

 詳細を聞いていないが、何かと赤裸々な話をしている事は気が付いているが、リヴィはそんな感じすら無い。個人的な感情だけで言えばシエルもアリサとリッカの会話を聞きたい気持ちはあるが、リヴィを蔑ろにする訳にも行かず、今は改めてどう説明すれば良いのかを考えていた。

 シエルとてそれほど色事に長けている訳では無い。これまでの教導の中でも多少の話が出た事を知っているだけに過ぎなかった。

 

 

「そうか。だとすればアリサとリッカにそれを聞くのが一番なんだな。よし。我ながら良いアイディアだ」

 

「ちょっとリヴィさん!」

 

 思案するシエルを尻目にリヴィは改めてアリサとリッカの下へと移動を開始していた。どんな話になるのかは分からないが、現状は違う話題へと移っている。色々と聞き過ぎた結果なのか、赤くなったナナを介抱しながら、シエルは人知れず会話に耳を傾ける事にしていた。

 

 

「どうやら私の想像を超えていたようだった。極東ではああ言った事を話すのが裸の付き合いなんだろうか?」

 

 リヴィの言葉通り、話を事実上の盗み聞きに近い状態で聞いたシエルは既にオーバーヒート気味だった。以前にもあった様に、湯あたりしたのか、それとも余りにも赤裸々過ぎたは話の内容なのかは分からない。それでも聞いている分には刺激が強すぎていた。

 

 

「何だか、あの2人の事は少しだけ今後のイメージが変わりそうです」

 

 既に話す事を終えたのか、アリサとリッカはまるで何事も無かったかの様にそのまま戻っていた。未だ現実に戻れないナナは全身を真っ赤にしたまま意識を戻す為に水を浴びている。裸の付き合いがどんな物なのかは分からないが、今のシエルとナナにとっては刺激が強すぎた内容だった。

 

 

 


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