神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第14話 駆け出し研究者の一日

「ここは……そうか。どうやら寝落ちしたみたいだな」

 

 朝の光が部屋の中に差し込んでいたからなのか、既に部屋の中はゆっくりと明るさを取り戻し始めていた。時計が無い為に時間は分からないが、記憶の糸を辿ると昨晩の事を徐々に思い出していた。

 

 何時もであれば絶対にありえないはずだが、まさか無明にまで勧められると思わなかったからなのか、普段は口にしない日本酒をソーマは飲んだ事が発端となっていた。

 ソーマは普段から酒を口にする事は殆ど無い。ゴッドイーターではあるが、研究者でもある以上、アルコールで脳を麻痺させる事を良しとは考えない事が起因していた。付き合い程度で口にしても酔うまでの感覚には至らない。もちろん、緊急時の出撃の事も考えているが、どちらかと言えばスタンスは前者だった。

 時間は分からないが、部屋に入る光の加減でまだ早朝である事は理解している。このまま起きても良かったが、ここはアナグラの自室では無い。何か一つするにもそれなりに移動する必要があった。

 改めて周囲の確認する。ここが客間では無い事だけが辛うじて理解出来ていた。ソーマの記憶が正しければ客間には精々が机しか置かれていないはずだが、この部屋はどう見ても誰かが生活をしている様な配置となっていた。

 所々にある小さな机や小間物が置かれている棚。何かが入っていると思われる行李(こうり)。誰が何と言おうと、この部屋には生活感が存在していた。

 

 

「ここは、誰かの部屋なのか……何だ?」

 

 周囲を見れば個人を特定する様な物は無かった。屋敷では小さな子供からそれなりの年齢に達した者まで生活してる為に、明らかに私物である様な物がそこかしこに置かれる様な事は無い。ソーマとてここには何度も足を運んでいるが、こんなプライベートの部分にまで足を踏み入れた事はなかった。

 このままここに居ても埒が明かない。一度部屋から出ようかと視線を不意に動かした瞬間だった。先程まで寝て居たはずの布団が不自然に膨らんでいる。自分だけがここに寝ていたのであれば、あり得ない結果。酒の影響なのか、昨日の記憶が何も無い。まさかと思いながらも膨らんだ布団をただ見ている事しか出来なかった。

 

 

「う……んん」

 

 五感が鋭いソーマと言えど、今のそれが何なのかは態々考えるまでも無かった。布団からは女の声が聞こえている。しかも、明らかにソーマ自身が良く知っている声。ソーマの思考がまさかの言葉と同時に加速している。今出来るのはその声らしき物が聞こえた原因を探る事だけだった。

 

 布団をゆっくりとめくっていく。まだ気が付いていないからなのか、その声が何だったのかは考えるまでも無かった。ここに住んでいる人物で該当するのはただ一人。綺麗な白髪の様な頭の持ち主が誰であって、この部屋の主が誰なのかが一瞬にして理解出来た。

 このままここに居るのは拙い。今ソーマに出来るのはこの部屋から直ぐに出る事だけ。隣に畳まれた純白の制服を手に取り、そのまま部屋を出ようと襖を開けた瞬間だった。

 

 

「早いなソーマ。何だ、これからどこに行くつもりなんだ?」

 

 ソーマの眼前にこれから鍛錬の為なのか既に準備したナオヤが立っていた。背後に見える物を隠そうかとソーマは考えたが、ここの住人でもあるナオヤには無意味でしかなかった。

 目の前のナオヤは何かを言いたそうな程に良い笑顔を見せている。ここが誰の部屋なのかを理解している以上、ソーマは早々に諦めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな。この論文であれば恐らくは大丈夫だろう。だが、ここの部分が曖昧な書き方をしている以上、確実に何かしらの質問は飛ぶだろうな」

 

「だが、今の俺ではこれ以上の表現が出来ない。だとすれば口頭での対処の方が良いんじゃないのか?」

 

「質疑応答まで持ち込めれば……だな。今のままではそこに行くまでに終わるだろうな」

 

 研究者の駆け出しとは言え、自身の研究の成果は学会や論文と言った形で公表するのは今に始まった話では無かった。これまでにソーマ自身が書物でも確認した物が全て論文である以上、ソーマのその道を辿る事は当然の結果だった。

 事実上の技術面による物だけでなく、戦闘時の内容における物など方向性は多岐に渡るが、一研究を確認するとなれば、それは必然でしか無かった。事実、論文を添削しているのはフェンリルでも名うての研究者でもある紫藤。支部長に至っては『スターゲイザー』の異名を持つ極めて優秀な研究者。この2人が今の極東を支えているのは誰の目にも明らかである以上、下手な物は公表出来ないとばかりに常時添削されていた。

 

 

「ソーマ。何も難しい言葉を使えと言っている訳では無い。論文の世界では態とその言葉を使うのは単に説明する必要性を省くからであって、それが正しい訳では無い。もちろん一つ一つに注釈を付ければ量は膨大になるのは仕方ない。

 だが、今のお前はまだ駆け出しでしかない。既に数年以上研究している人間ならまだしも、まだその程度の物ならば気にする必要は無いだろう」

 

 バッサリと斬られた紫藤の言葉にソーマはそれ以上は何も言えなかった。確かにこれまでの内容を読めば難しい単語が並んでばかりだとしても、その意味を理解していれば自ずとその論文の意味が理解出来る様になる。だからこそ不可解な言い回しが多分に存在していた。

 もちろん膨大な量を記載する研究者も少なくないが、それがどんな結果に反映されているのかは考えるまでも無かった。改めて自分の父親の存在の大きさを痛感する。元から困難な道である事は理解していたが、まさかこうまで厳しい物だとは考えてもなかった。

 

 

「そうか……近い様で遠い物だな」

 

「ソーマ。さっきも言ったが、まだ駆け出しが長年やってきた研究者と同じ土俵に立つと言うのはそんな意味も含まれている。研究者と言えど全てが清廉潔白では無い。実際には足の引っ張り合いでもあり、論文の盗用もまたあり得る。

 ゴッドイーターがアラガミを討伐する事で存在意義を見出すのと同じで、研究者は論文の結果で己を見出す。そんな世界に足を踏み入れた以上、それは当然の帰結にしか過ぎない。それでもまだ、この道を歩もうと考えるのか?」

 

 紫藤の言葉にソーマは改めて自分が何故この道を模索したのかを考えていた。クレイドルは独立した組織である。それはフェンリルからだけではく、世間に対してもその存在意義を表す事が当然だった。だからこそサテライトの拠点を作る事で人道的な意味合いと、人類をアラガミから防衛すると言った壮大な計画の下に勧められている。

 そんな中でソーマは自信の考えを世間に浸透させる事を考えた末の結果なんだと改めて思い出していた。事実、これまでに読んだ書籍の殆どのヨハネス・フォン・シックザールの名前が記されている。今に始まった事では無いが、自分の父親と同じ道を歩む事によってどんな景色が見えるのだろうか。

 純粋な好奇心だけではこの道を歩み続ける事は困難でしかない。厳しい世界である事は最初から想定していたにも関わらず、この程度の事で諦めるのであれば最初から歩む必要は無かった。そんな思いがソーマの中にあった。

 

 

 

 

 

「そうだな。これならば問題無いだろう」

 

 そんなやり取りから数日が経過していた。これまでの問題点を一旦全部洗い出すと同時に、一つづつ聞かれるであろう可能性を潰しながら再度作り上げる。当初の量を大幅に越えただけでなく、その無い内容に関しても以前の物に比べれば拡充されていた。

 

 

「そうか……これで一安心だな」

 

 紫藤の言葉にこれまで張りつめた糸が切れたのかソーマは珍しく脱力していた。戦いであれば決して得られる事が無い精神的な疲労はこれまでに感じた事が無い程だった。出来に関しては問題無いのであれば、後はこれを本部へと送信するだけだった。

 

 

「何だ。もう終わったのか。まだまだ時間がかかると思って差し入れ持って来たんだがな」

 

「お前の差し入れは誰の為の物なんだ?少なくとも俺はそれを貰った所で嬉しいとは思わん」

 

 タイミングを見計らったかの様にリンドウが屋敷へと出向いていた。サクヤがクレイドルに参加してからはレンの事もあって頻繁に顔を出す機会が多くなっていた。

 まだ親離れ出来ないと当初は思われていたが、まだ物心つく前からここに居るからなのか、2人が任務に居る間に寂しがる事は一切無かった。気が付けばリンドウとサクヤの呼び方もパパ、ママから父様、母様へと変化している。誰にも言ってはいないが、雨宮夫妻にとってはかなり衝撃的な出来事でもあった。

 立場を考えればある意味では仕方ないのは共に知っている。だからこそ、今はミッションや仕事が終わればここに自然と足を向ける事が多くなっていた。

 

 

「そんなケチ臭い事言うなよ。これは普段飲んでいる物とは違う物だ。偶々試作で作った物が当たりだったから俺がチケットと交換したんだ」

 

 そう言いながらリンドウが持っている手にはラベルが張られていない一升瓶があった。本来であればラベルが必ず貼られている事はソーマも知っている。だからこそ、それが試作品である事も理解していた。

 

 

「リンドウ。それは誰から誰に交換した物だ?俺は許可した覚えは無いが」

 

リンドウとソーマのやり取りに横から無明は口を出していた。屋敷に於いて無明の許可なく何かをする事は事実上あり得ない。しかし、その中でも例外が一つだけあった。

 

 

「それなら私が許可した。これまでソーマも苦労して仕上げた論文を発表するならばと思ってな」

 

「そうか……なら仕方ない。が、今後は俺にも一言頼む。でないと、商談の際に困るんでな」

 

「今回だけだ。数はまだ問題無かったんだ。それで上級チケットと交換なら安い物だ」

 

ツバキの声に無明はそれ以上の言葉を出す事はなかった。ここ最近は何かと自身が動く事もあってか、屋敷の内部の事が割と停滞する事が多くなっていた。適材適所で中を回すが、決済の判断に困る場合、無明の許可が必要となる。しかし、今後の事も考えれば、折角ここで過ごす人材を放置する事は無いからと、ツバキに一部の移譲を行っていた。

 

 

「なるほどな。リンドウ。心の広い姉がいて良かったな」

 

「何馬鹿言ってんだ。これのチケットの枚数聞いたら半端な数じゃ無かったんだぞ。お蔭で俺の今月分が全部飛んだぞ」

 

「リンドウ。レンがここに居るから好き勝手出来ると思ったら大間違いだ。サクヤとて時間を色々と考えてやりくりしてるんだ。少しはお前もその位の事をしたらどうなんだ」

 

 ツバキとリンドウのやりとりを見ていたソーマは何時もの事かと既に関心を無くしていた。確認した訳ではないが、添削された論文がどれ程のレベルになっているのかは分からないが、少なくともそれに関しては極東からの推薦は出ている。

 フェンリル名うての研究者の推薦を簡単に蹴る事は今の本部にとっては随分と厳しい事に間違いはなかった。異議を唱えようにもその意義を出す事すら既に対処されている為に、口を挟む事が出来るのは精々が言いがかり程度。まともに見れば下手な研究者以上だとソーマが気が付くのはもっと先の話だった。

 

 

「まぁ、そんな事よりもこれ飲もうぜ。折角持って来たんだ。ソーマの論文の前祝いって事で」

 

「仕方ないな。本当に俺の前祝いならな」

 

 気が付けばここに居るメンバーで飲む事が決定されていた。本来であればソーマも断るが、ここに尽力を尽くした人間が居る以上、無碍に断る事は出来ない。もちろん、ここに居る全員がソーマの性格を知っている事を考えれば、断った所で険悪なムードにならない事も理解している。しかし、これまで苦労した論文の完成に偶には良いだろうと考えた末の話だった。

 

 

「これ、本当に旨いな。何時から流すんだ?」

 

「このままなら調整と出荷の状況に目途が立ち次第だから、1か月後だろうな。だが、最初は極東には流れん。佐官級のチケットから開始だな」

 

 ここ最近の嗜好品は最初に極東に出回る事は格段に少なくなっていた。販売を当面に置く事が前提で作る物の為に、極東内部ではそれよりも遅れて入る事が多かった。

 佐官級ともなれば極東では一部の人間、即ち支部長の榊とツバキ、リンドウとエイジしか該当しない。しかし、ツバキとエイジはここで手に入れる事が出来る為に事実上、外部を優先するのは全て資金面の調達の意味合いが多かった。リンドウに関しては身内と言う事もあり割と簡単に入手は可能だが、チケットの交換が原則の為に格安で卸す事は無かった。

 

 

「でもその内入るんだろ?だったら今はこれで我慢だ。ほら、ソーマも一献」

 

「ああ」

 

 アナグラでは配給ビールが多いが、ここでは日本酒の比率が多くなる。透明な液体が零れないようにゆっくりとお猪口に注がれる。何時もとは違った色合いの液体は一気にソーマの喉を通り過ぎていた。

 勢い良く飲むその姿をツバキと無明はただ見ている。付き合いが長いからこそ、ソーマの照れ隠しの様な行動がどんな物なのかを理解していた。

 

 

「少しは味わえよ。そんな一気に流し込んでい良い酒じゃねえんだからよ」

 

「祝いなんだろ?それ位許してやったらどうだ?」

 

「しゃあねえな。ほら、もっと飲めよ」

 

無明の言葉にリンドウも何時もと同じ様にソーマへとついでいく。遠慮が無かったソーマは並々と注ぐそれを一気に飲み干していた。酒の味は分からないが、喉にツルリと落ちるそれこれまでに感じた事が無い程極上だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、あんな展開になるとはな」

 

「偶には良いんじゃないのか?少しは気を緩めないと良い結果は出ないぞ」

 

 昨晩の事を思い出しながらソーマはナオヤの隣を歩いていた。居住の空間の為に、どこに何があるのかをソーマは理解していない。自分はこれから早朝の鍛錬だからと、ついでとばかりにソーマを母屋から離れへと移動させていた。

 

 

「……そうだな。これで少しは落ち着いた。今後は鈍った身体を多少身動かしたい所だな」

 

「……あれ?昨日はお楽しみじゃなかったのか?」

 

「あ?どう言う意味だ?」

 

 隣を歩くナオヤの顔を見ると、やはり何か言いたげな様にも見える。アリサやコウタ程ではないが、エイジよりもナオヤは砕けている。今さら言葉の意味が分からない程幼い訳では無い。何を言いたいのかを察知したのか、ソーマはその場で止まると同時に、一つの可能性が頭を掠めていた。

 今朝の事実を誰がどこまで知ってるのか?ナオヤは性格的に吹聴する様な事はしない。当人に対してはその限りでは無いが、それでも疑念が拭えるのかと言えば嘘になる。

 先程のまでの朝の爽やかさはどこか遠くへと去っている。これからの事を考えるとソーマの頭が痛くなる事だけは間違い無かった。

 

 

「シオの部屋ですっと一緒だったんだろ?酔ったお前を運んだのは俺だからな。知らない訳ないだろ?」

 

「……は?」

 

 ナオヤの言葉に流石のソーマも絶句していた。確かに直接見た訳では無いが、あの頭は紛れも無くシオで間違い無かった。しかし、自分が何をやったのかまでは記憶に無い。手を出した記憶はどこにも無いが、それを否定するだけの材料と確証はどこにも無かった。

 

 

 

 

 

 爽やかな朝を迎えたと同時に、ソーマも皆と同じく朝食を取ってからアナグラへと戻る予定となっていた。既に子供達は食事を済ませたからなのか、思い思いの行動を開始している。何時もであれば旨く感じる朝食のはずが、今のソーマはまるで砂でも噛んでいるかの様な状態だった。

 

 

「ソーマ。それ美味しくないのか?」

 

 今朝はシオが作ったと聞かされたのか、昨晩はここに滞在したリンドウとサクヤも一緒だった。何時もならばエイジが作るが生憎と今はミッションの関係でここには居ない。

 まだ以前の体制だった頃の第1部隊の人間だけの食事はあまりにも珍しい物だった。そんな中で珍しくシオが自分の腕を振るった朝食を食べている。リンドウとサクヤは関心していたのかシオを褒めていたが、肝心のソーマは何処か浮かない顔をしていた。

 そんなソーマを気にしたからなのか、シオは恐る恐る聞いていた。

 

 

「これか?これなら旨いぞ」

 

「でもソーマの顔はそんなんじゃないみたい」

 

 シオが心配してくれる事は有難いが、今のソーマにとってはそれどころじゃなかった。今朝の状況と昨晩の事。あまりにも不明瞭な事態に頭を悩ませている。だからこそリンドウとサクヤがどんな表情をしているのかを確認する事は出来なかった。

 

 

「ねぇ、シオ。昨晩はどうだったの?」

 

「昨日の夜か?昨日はすごかったぞ。ちょっと痛かったけど、うれしかった」

 

 何気なく聞いたサクヤの質問の答えはあまりにも意味深過ぎた。再びまさかの言葉がソーマの脳内を駆け巡る。気が付いていないがリンドウとサクヤの顔が終始笑顔だった。

 

 

「ほう。どんなだったんだ?」

 

「最初分からなかったんだけど、温かいきもちがあったからそのままだった」

 

「って事はシオは受け入れたのか?」

 

「うん。びっくりしたけどシオもそれをのぞんだから」

 

 リンドウの言葉にシオが平然と答えていく。既にソーマの視線は泳ぎ、面白い程に挙動不審となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それならそうだとサッサと言え!どれだけ悩んだと思ってるんだ!」

 

 これ以上は気の毒だと判断したのか、リンドウは早々にネタばらしをしていた。酔ったまでは良かったが、ここはアナグラではない。最低限の礼だけは尽くさない事には申し訳ないからとリンドウはナオヤに頼んでソーマをここから運び出す事にしていた。

 既に酔いが回ったソーマはピクリとも動く気配は無い。適当な場所に放り込もうかと思った際に、シオからの申し出で部屋へと運んだ経緯があった。寝たまでは良かったが、今度はソーマが寝返りを打ってシオを抱きしめたままだった。

 以前の様なアラガミの力は既にシオには無い。最初は何とか脱出しようかともがく事も考えたが、ゴッドイーターの腕力から抜け出る事は不可能でしかなかった。今の状態はガッチリと抱かれている為に、動く事が出来ない。色々と考えた結果が今朝の出来事となっていた。

 

 

「良い目覚めじゃなかったのか?」

 

「誰だって驚くに決まってるだろうが!」

 

「まぁまぁ。ソーマも心のリフレッシュが必要なんだし、偶には良いんじゃないの?でも、あのソーマがねぇ…」

 

 リンドウに助け船を出すかの様にサクヤが2人の会話に口を挟む。この2人に対し、それ以上は無駄だと思ったのか、ソーマは何も言わないまま朝食を食べていた。

 

 

「でも……一緒のふとんに寝たから、およめに行けないって言われた……」

 

 ションボリとしたシオの言葉に再びソーマが硬直する。シオの爆弾発言に何かを見出したのか、リンドウとサクヤはソーマの言葉を待っていた。

 

 

「そんな事は無いだろ?誰がそんな事言ったんだ?」

 

「やよい!」

 

 駆け引きではなく、そうやって言う物だと聞いたからなのか、シオは屈託のない顔で答える。ソーマは内心やっぱりかと思ったが、身の潔白が証明されている以上何も言う事は無かった。

 既に論文の祝いと言ったムードは完全に消え去っている。そこには何時もの日常だけが残されていた。

 

 

 


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