神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第130話 懐かしき思い (前篇)

 戦場特有の空気はゴッドイーターだけでなく、アラガミにも同じ様な現象を醸し出していた。

 ここに残る結果は生か死の二択。どちらもまたその生に縋る為に自らの体躯を代償に相手を屠る事に全力を尽くしていた。

 一瞬の判断がその境目を分ける。誰もかに教えて貰った訳では無く、ここまで命を生きながらえたからこそ理解した真実だった。

 

 既にこの地は混戦状態となりつつあった。

 本来であればこの状況下であれば撤退の二文字が頭をよぎる。しかし、この地に置いてはゴッドイーター側からすれば安易にその手段を取る事は出来ない場所でもあった。

 まだ距離的にはそれ程問題にはならない距離。しかし、仮にここで退くのであればどんな結果が待っているのかは考えるまでも無かった。

 

 既に周辺状況を確認し、サテライトの候補地として選定が完了している。アラガミ防壁を組んでいる為に、ここでの撤退の後は膨大な時間が要求される可能性があった。

 以前の様な中型種ではなく、大型種。それもそのまま放置するには余りにもリスキーすぎるアラガミだった。

 

 ────ハンニバル浸食種とディアウス・ピター

 

 

 よりにもよってこの種だった。

 当初は互いが捕喰関係にあったはずのアラガミ。弱肉強食のアラガミの世界でも上位に入るそれの攻防は周囲にも多大な影響を与えていた。

 実際に本来ではあり得ないアラガミの種を駆逐し、周囲の生態系を大幅に変更している。

 仮にどちらが勝利したとしても、この地に与える影響は多大だった。

 当然ながら、アラガミの生活分布を予測した情報での建築ではあるが、この影響によって先が見えなくなる。

 そうなれば、ここまで投下した多大なリソースの喪失は免れなかった。

 だからこそ、この周辺で警戒したゴッドイーターがこの地を平定する必要がある。サテライトの建設予定地にクレイドルの主力が居たのは偏に偶然の産物でしか無かった。

 

 

「こちらリンドウ。周辺のアラガミの様子はどうなってる?」

 

《現時点でのアラガミの反応は交戦中の二体だけです。少なくともこれまでの履歴を確認しましたが、恐らくはこの二体が周辺での最上位かと思われます》

 

「どうりで……か。こっちは今の所大丈夫だが、向こうはどうなってる?」

 

《バイタルやアラガミの信号からは今の時点ではそれ程問題は無いかと思われます。ですが、相手が相手ですから油断は禁物です》

 

「了解。こっちはこっちでさっさと片付ける事にするさ」

 

《了解しました。ですが、無理はしないで下さい。現時点では援軍を送る事は困難な状況です。信じてはいますが、万が一の為に準備は進めておきます》

 

 リンドウの言葉に、聞けたヒバリの声はそれ程暗くは感じられなかった。

 事実、今回の戦いに於いては纏めて対峙するのではなく、事実上の各個撃破に近い形態を取っていた。

 両方と一度に戦うとなれば苦戦は必至。しかし、今回のメンバーを考えれば各個撃破の方が結果的には早く終わるかと思われていたからだった。

 その証拠に、リンドウがゆっくりと通信と繋げる事が出来たのは、目の前のハンニバル浸食種が大きくダウンしているから。

 勿論、通信中も意識がそこから途切れる様な事は一切無かった。

 

 仮にここで集中を切らせば、今の立ち位置は逆の状態になりかねない。となれば待っているのは自身の死。

 油断せず、意識を向けたまま情報の確認をしただけだった。

 通信が切れると同時に、少しだけ大きく呼吸する。リンドウの視界に映るのは、チャージクラッシュの準備の為に、闇色のオーラを纏い、刃を振りかざしたソーマの姿だった。

 視界に入るそれは、まさにハンニバルの頸を斬り落とさんとする行為。幾ら強靭な肉体を持ち、不死性を誇るとは言え、首を跳ねれば流石に大きなダメージを与えるのは当然の事だった。

 だからこそソーマは躊躇する事無くその一点だけに集中する。

 リンドウは周囲からの妨害が無い様にフォローする為だった。

 通信越しでの情報に間違いは無いはず。にも拘わらず、僅かに嫌な予感だけがしていた。

 

 

「ソーマ!すぐに離れろ!」

 

「チッ。もう回復したのか」

 

 振りかざした刃はそのまま下ろされる事は無かった。

 実際に担いだまでは良かったが、ソーマの目にもまた、横たわるハンニバルの目がまだ死んでいない事を確認していた。

 このまま強引にやっても問題ないかもしれない。これが通常のミッションであればそれも選択肢の一つだった。

 しかし、今回のこれはある意味では防衛でもあり、ある意味では連続するミッションとなる可能性もあった。

 幾らレーダーに映らないとは言え、何が起こるのかまではアナグラからは予測出来ない。

 リンドウだけでなく、ソーマも反応出来たのは、これまでに戦場で培ってい来た勘の様な物が働いた結果だった。

 

 ハンニバルは先程とは違い、直ぐに行動を開始している。まるで近寄ってきた物全てを排除するかのように太くて長い尾は大きく横に振られていた。

 回避ではなく、神機の性能を活かして防御に徹する。

 タワーシールド特有の重さがあってもなお、その攻撃の衝撃は大きな物だった。

 踏ん張った事により、大地に踏ん張った両足はそのまま後ろへと流れていく。これが軽量級の盾であれば確実に吹き飛ばされる威力だった。

 不満げなソーマの呟きすら聞こえない程に衝撃音が周囲に拡がる。見立てが甘かったのか、未だハンニバルの勢いは衰える事は無かった。

 

 

「距離を取れ!」

 

 誰が誰に対して何をどうするなどの具体的な指示は一切見当たらない。

 それはある意味では長年培ってきた互いのコンビネーションから来る物だった。

 完全に防ぎったからと言って、直ぐに反撃する事は出来ない。変形させるだけのロスタイム。これが至近距離の攻撃では完全に悪手になる事を知っているからだった。

 リンドウの言葉にソーマは直ぐに一定の距離を取る。

 先程までは強靭な盾があったはずの場所にはリンドウの腕から作成された漆黒の刃があった。

 大気を切り裂き、先程まで鞭の様にしなっていた尾に向けての斬撃。ハンニバルのくぐもった悲鳴の様な物が僅かに聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリサ。無理はしないで」

 

「大丈夫です。無理はしませんので」

 

 リンドウとソーマが戦っている頃、エイジとアリサもまたアラガミと対峙していた。

 ディアウス・ピター少なくともこれまでの戦ってい来たアラガミの中では厄介極まりない種の一つ。通常種であればそれ程苦になる事はないが、これが変異種となればその評価は一気に変わっていた。

 遠距離攻撃だけでなく、刃の翼を使用した強襲は色々な意味で最悪の攻撃。自身の体躯を使った重攻撃は、盾による防御を無へと変化させる。

 

 タワーシールドを使って全身で踏ん張ってもなお、その攻撃を完全に受け止める事は困難だった。

 だが、エイジもアリサもタワーシールドなど装備していない。

 仮に盾を装備していたとしても、今度はその質量に圧されてしまう。当然ながら攻撃に関しては余程の事が無ければ回避に専念するより無かった。

 

 当然ながら今回の対峙が初見ではない。因縁のアラガミでもあるそれに対する物はあるものの、それを乗り越えてもなお厄介な存在だった。

 お互いが適当な距離と執りながらもその動きを確認していく。

 エイジの視界に映るのは、ディアウス・ピターの肩の位置にあった小さな瘤だった。

 

 変異種。以前に一度だけ見たそれにエイジは内心焦りを持っていた。

 交戦したのはロミオを探索していたあの時にまで遡る。あれがどれ程厄介な存在だったのかはエイジの記憶にもまだ新しかった。

 ここは螺旋の樹の様な場所ではない。あの歪な場所だからこそ、あり得た存在のはずがここにある以上、アリサの事を優先するしかなかった。

 念の為にノルンには情報としては上げてはあるが、対峙した人間で無ければあの重圧は分からない。

 ましてや自分とアリサの持つ盾はバックラー。当然ながら防御そのものに信頼を寄せるには余りにも小さすぎていた。

 

 

「あれは変異種の可能性が高い。出来るだけ防御じゃなくて回避に専念してほしい」

 

「……了解です」

 

 エイジの言葉にアリサの表情が僅かに堅くなっていた。

 只でさえ厳しい戦いを余儀なくされる上に、変異種である事実は更に難易度を高めていた。

 アリサもまたエイジやリンドウから話だけは聞いている。だからなのか、エイジの言葉に一段と高い警戒をしていた。

 

 

 

 

 

 

「来るぞ!」

 

「はい!」

 

 エイジの言葉と同時にディアウスピターは二人の下へと突撃するかの様に疾駆していた。

 強靭な肉体を誇示するかの様にその勢いが衰える事は無い。その圧力は少なくともこれまでに対峙したアラガミの中でも上位に入る物だった。

 疾駆すると同時に大地が僅かに振動する。

 通常の生物とは違い、アラガミの持つ体躯は予想を遥かに上回る物だった。

 

 これまでに幾度となく討伐したはずの種。にも拘わらず、このディアウス・ピターに関してはそんな経験を払拭させる程だった。

 威嚇の為に咆哮しながら繰り出す右足からの払いはそのままエイジではなくアリサを狙っていた。

 本能なのか、それとも偶然なのか。これがアリサだけであれば確実に躰が硬直するかと思える程の攻撃。

 三本の爪は容赦なく華奢な体躯を引き裂こうとしていた。

 

 

 

 

 

「フォローをお願いします」

 

「ああ」

 

 アリサはエイジの言葉通り、その攻撃を直接受け止めるつもりは毛頭無かった。

 バックラー程度の能力では、この一撃が命取りになり兼ねない。かと言って、余裕を持たせた回避は次の攻撃を生む可能性を秘めていた。

 その結果、選択したのは攻撃のタイミングと距離を見切る事によってギリギリで回避する事。

 仮に体勢が崩れたとしても、エイジであればどうにかしてくれるとの思いからだった。

 エイジの能力を考えれば態々口に出す必要は何処にも無い。間違い無く攻撃と防御の距離を理解すれば自ずとアリサの考えている事など理解出来るからだった。

 

 口に出したのはエイジへの願いではなく自身への叱咤。

 アラガミの攻撃を紙一重で回避する技術はアリサも持ち合わせているが、それが常に実戦で使える訳では無かった。

 確実に実行出来るのは中型種まで。大型種ともなれば、自分が踏ん張れる事が無いからなのか、ある程度の余裕を持って行った。

 これが通常種であれば、こんなに際どい回避を選択はしない。変異種独特の攻撃を見極めると同時に、出来るだけ手数を少なくダメージを与える事を優先した結果だった。

 迫り来る重攻撃にアリサの六感は警鐘を鳴らす。

 全身からこみ上げる恐怖を強引に押し込む事により、その感情を無かった事にしていた。

 

 恐怖心は平常心を殺す。平常心を失う事によって起こる結果は今更だった。

 単独ではなく自分が最も信用出来るゴッドイーターが今は傍に居る。その重いを強く持つ事で、これまでに培ってきた戦闘経験が恐怖心を本能を封じ込めていた。

 

 アリサからの言葉にエイジもまたディアウス・ピターの様子を伺っていた。

 これまでに通常種に関してはかなりの数を屠ってきたが、変異種となれば話は別だった。

 蘇るのは無明が取った行動。あの時の光景は未だ脳裏に強烈に焼き付いていた。

 刃を模した翼は明らかに攻撃の範囲が広く、また速度が速い。

 本来であればタワーシールドを所持している者は確実に防ぐ事が前提だった。しかし、通常のシールドやバックラーとなれば話は別。護る事が出来るのは、少なくとも最低でも1度。上手く捌く事が出来たとしても、精々が3回程度でしか無かった。

 

 一番の理由は可変機構の不調。変形させる為の可変機構が動かなくなれば、事実上の丸腰でしかなかった。

 只でさえ厳しい戦いの最中に丸腰になる可能性は死を招く。極東支部の中で交戦した経験を持つからこそ、アリサにも警告を促していた。

 それと同時に、このディアウスピターを2人で討伐する事がどれ程厳しいのかも理解していた。

 当時の様に無明が居る訳でも無ければ、リンドウの様に圧力を跳ね返せる人間が居る訳でも無い。今の2人にとって出来る事は、出来る限り回避しながらも一方的に攻撃を仕掛ける事だった。

 だからこそ、アリサがギリギリで回避する隙をエイジが見逃す訳には行かない。出来る限りの致命傷を与える為に、その見極めを優先的に行っていた。

 

 

「今です!」

 

 三本の爪はアリサのバックラーに衝撃を与える事無く、そのまま空を切っていた。

 ディアウス・ピターはヴァジュラの様に雷を纏う様な攻撃は無い。遠距離としての攻撃はあるが、それ以外にはそれ程特殊な物は無かった。

 だからと言って弱いはずが無い。ヴァジュラの種の中でも最上級のアラガミはその力も攻撃の威力も全てが桁違いだった。

 攻撃の間合いを見切ったまでは良かったが、当初の予想通りアリサの体勢は完全い崩れていた。

 武道で言えば死に体の状態。ディアウス・ピターもまたそれを狙っていたからなのか、完全のその双眸はアリサだけを映していた。

 

 

(ここだ!)

 

 アリサの言葉と同時にエイジはそのまま神機を銃形態へと変形さえていた。

 元々アリサが作った隙を逃す必要は何処にも無い。アリサがどう考えているのかを一番理解しているからこそエイジに迷いは無かった。

 引鉄を引く事によって3発の銃弾の全てがディアウス・ピターの顔面と向かう。元よりこうの銃撃で仕留める事が出来るとは考えていない。

 

 エイジの狙いは回避した隙にそのまま時間を僅かに稼ぐ行為でしかなかった。

 威力ではなく連続性を高めた銃弾。時間にして数秒にも満たない時間ではあったが、完全にエイジの目論見通りとなっていた。

 撃った瞬間に着弾を確認せずに、そのまま変形を行使する。既にエイジの手にあるのは先程までのアサルト銃形態ではなく、漆黒の刃を纏った剣形態だった。

 近接戦闘に置いての秒数の隙は致命的でしかない。エイジが狙ったのはどちらかの眼球だった。

 疾駆しながらも、その視線がディアウスピターから外れる事は一度たりともあり得ない。アリサの影から飛び出す様に出来てきたのは刃を向けたエイジの体躯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリサはどう?」

 

「私は大丈夫です。それよりもエイジの方が…………」

 

 エイジがアリサを心配するよりも、アリサがエイジを心配する方がある意味では適切だった。

 奇襲とも取れる攻撃によってエイジの神機『黒揚羽』の刃は、そのままディアウス・ピターの片目へと突き刺さっていた。

 仮にそこから何かをしたとしても、距離感が狂えばその限りではない。正しく変異種のやるであろう攻撃を事前に潰すやり方だった。

 慣れない状況から距離感を修正するには、それなりに時間が必要となる。この隙を活かす事によって一気に決めるつもりだった。

 

 実戦は必ずしも自分の予測通りには進まない。エイジが突き刺した瞬間、ディアウス・ピターは一気に爆発するかの様にオラクルが吹き荒れだしていた。

 赤黒いオーラが周囲にまで影響を及ぼす。それはゴッドイーターであっても同じだった。

 深く突き刺さった事によって神機を抜く事に時間がかかっていた。その時間約2秒。本来であればその程度の時間は幾らでも挽回が可能な物。その可能性も鑑みた結果だった。

 

 オラクルの奔流はある意味ではゴッドイーターにとっては毒になっていた。

 暴走するオラクル細胞を制御する為には、それなりに集中して抑えるだけでなく、最悪は何らかの措置を取る必要もあった。

 以前に榊と紫藤の両博士による研究発表された内容。その内容は極東以外の支部に大きな波紋をもたらしていた。

 『感応種』と同じ様にオラクル細胞に何らかの要因で働きかける効果がある為に、常にその可能性を想定すべき。それが最近の研究内容だった。

 当然ながら、その可能性を発揮する個体は現時点ではディアウス・ピターの変異種だけ。その内容をアリサもまた知っているからこそエイジを心配していた。

 

 

「…………大丈夫。と言いたい所だけど、少しだけ動くのが厳しいかもしれない」

 

「だったら………」

 

「それはダメ。無謀な戦いは今は危険過ぎる」

 

 エイジの言葉にアリサは少しだけ拗ねた様な表情を見せていた。

 これまでにエイジが無茶をし、アリサが涙した事はこれまでに幾度となくあった。勿論、無茶をすればどうなるのかを理解している為に、今は自分しか居ないと言う現状を鑑みた結果だった。

 純粋な実力だけを見ればエイジよりもアリサの方が劣るのは理解している。しかし、今の状況を考えれば残された選択肢が少ないのも当然だった。

 オラクルの変調はゴッドイーターの肉体だけでなく神機にも影響を及ぼす。実際にエイジの体調はかなり回復している。

 しかし、肝心の神機はまだ時間がかかるのは明白だった。

 

 オラクルが乱れた状態で神機を使用するのは暴走しているのと変わりない。当然、それは持ち主にも影響を与える事をエイジ自身がだれよりも理解していた。

 只でさえ、黒揚羽はピーキーな出力を誇り、メンテナンスもまた面倒な部類に入る。

 これまでに万全に体制でやってこれたのは、ナオヤやリッカが事実上付きっきりになるからだった。通常の状態でそれならば、現状のままであればどうなるのかが予測出来ない。今はスタングレネードを使用した事によって時間を稼いでいるが、戦場はここだけでは無い。

 当然ながらこの近くにはリンドウとソーマがハンニバルと交戦している。

 厳しい最中に新たなアラガミが乱入となれば、その結果がどうなるのかは考えるまでもなかった。自分の命と仲間の命。天秤にかけるにはどちらも重い物だった。

 

 

「…………ですが」

 

「分かってる。このまま隠れているのが一番かもしれない。でも、自分の事だけじゃなく、仲間の事も考える必要はあるんだ」

 

 エイジはアリサに言い聞かせながらも自身の神機を見ていた。コアの部分だけでなく、周囲に散っている小さな欠片。それが偶然にも今の神機の状態を表していた。

 

 

 

 

 

《で、実際にはどうなってるんだ?》

 

「周辺にある物を確認したけど、大よそ四割回復って所かな」

 

《そうか………確か、今交戦してるのは変異種だったよな》

 

「ああ。ちょっとしくじったのが痛かった」

 

 神機を自分達の手足の様に使っているゴッドイーターと言えども、整備班の協力無しではどうにも出来なかった。

 実際に補修が出来ない神機はやがて崩壊する、それは既に神機ではなく人工的に作られたアラガミと同じ物。だからこそ、エイジもまた隠れてから真っ先に確認をしていた。

 自分の能力による無茶はするが、流石に神機に関してまでは出来ない。

 アリサを引き止めた以上はそれなりに対案が必要だった。時間こそ、それ程経っていないが、それでも今の状況下では長く感じていた。

 

 

《それは仕方ない。だが、その程度だとかなり制限する必要はあるな。ここからだと詳しい事は分からないが、可能性として言う》

 

 幾ら神機を優先するとは言え、それはあくまでに使う人間があっての事。ましてやクレイドルは極東支部に於いての最強の部隊。エイジ達は謙遜するが、事実として異論を挟む人間は誰も居なかった。

 だからこそ、通信先のナオヤもまた苦渋に満ちた声を発している。このままで良いなどと言う人間は誰一人として居なかった。

 

 

《銃形態への変形はするな。負担が大きすぎる。それと刀身に関してだが、出来れば三合程度。最悪でもその倍までにとどめておいてくれ。オラクルの暴走は何がキッカケで起こるのは分からない。様子を見るにも、こちらには情報が足りなさすぎる》

 

「………分かった。出来る限りそうする」

 

《出来る限りじゃダメだ。絶対にそうしろ。アリサ。聞いてると思うが、エイジには無理はさせるな》

 

 ナオヤの言葉にエイジが苦虫を潰した様な表情を浮かべ、アリサもまた同じ様な笑顔を浮かべていた。

 実際に整備班がそう言っている以上、無理な動きは完全に出来ない。それを胸に刻む事によって、今後の作戦を綿密に立てる必要があった。

 

 

 

 

 

「基本的にはシンプルに行こう。神機の制限がされてる今、アリサが全てになる。僕の所に意識を集注させるから、その隙を狙って欲しい」

 

「でも、それだとエイジにかかる負担が大きすぎます」

 

「それは仕方ないよ。実際に神機に制限がかかっている以上、アリサを主戦力に添えないと、最悪は共倒れになる」

 

 エイジが出した提案はエイジが囮に近い行動をする事だった。

 変異種の最大の特徴は圧倒的な重攻撃も然る事ながら、攻撃範囲の広さが問題だった。

 最悪でも3人居ればそれなりに距離を保ちながら攻撃する事が可能となっている。それは安全面だけでなく、間断なき攻撃をする時も同じ事。

 下手に近い距離に居れば、刃の羽の餌食だった。

 対策としては距離を保ちながら相対するしかない。そうなれば必然的にターゲットを間に挟むよりなかった。どちらか一方に意識させながら確実にダメージを与えていく。今の状況下ではこれが精一杯だった。

 

 

 


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