神喰い達の後日譚   作:無為の極

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第11話 護衛の裏で

「これおいしいぞ!食べてみるか?」

 

「本当。これ美味しいね」

 

 ユノはシオから渡されたクレープを一口食べると、普段は口にしないのか、果物の甘酸っぱさと生クリームの甘さが口の中へと広がっていく。余程気に入ったのか、笑顔で歩くユノの隣をシオもまた歩いていた。

 普段は外部居住区に出る事は無い為に、何か目新しい物を見つける度に2人はフラフラと寄り道を繰り返していた。既にクレープだけでなく、何かしらの買い物をしたのか、幾つかの紙袋を手に携え、楽しそうに歩いている。お互いが変装しているからなのか、誰もユノとシオが歩いていると気が付いた人間は居なかった。

 

 

 

 

 

「でも、私達がこんな事してても良かったんでしょうか?」

 

「最初は確かにそう思ったけど、これも任務だと言われれば仕方ないさ」

 

 2人の背後をついて行くかの様に歩くその姿は、ただデートしている様にも見えていた。男女は共に右腕に黒い腕輪をはめている。一人は銀髪の女性。もう一人は黒髪の男性だった。

 適度な距離を取りつつ、怪しまれない様に行動している。既に外部居住区でもブラッドの事は聞き及んでいるからなのか、住民の誰もが気にしている雰囲気は既に無い。

 色んな所をフラフラしている少女を眺めつつ、様子を伺っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事で君達に特殊任務を与えたいんだ」

 

「特殊任務ですか……」

 

 榊の真剣な表情に呼ばれた北斗の表情には緊張感が漂っていた。ここに来て以来、何度か特務と言う名の特殊任務をこなしてきたが、今回の内容はこれまでの物とは違うからなのか、榊の表情は何時もとは完全に異なっていた。

 本当に厳しいミッションだからなのか、北斗以外に副隊長としてシエルまで呼ばれている。ブラッドを招聘する以上、これから聞かされる内容は確実にこれまでの物とは違う事は間違い無いと考えていた。

 

 

「特に北斗君のFSDでの様子から君が一番の適任であるのは間違い無いんだ。しかし、今回の任務の特性上、単独は何かと憶測を呼びやすい。その為にシエル君にも同じくお願いしたいんだよ」

 

 仰々しく話す榊に対し、2人は更に緊張感が高まっていく。極東の一大事かもしれない可能性に、支部長室の空気は重くなっていた。

 

 

「で、その任務とは何でしょうか?」

 

「君達にお願いしたいのは、とある人物の護衛なんだよ。ただ本人の都合上、おいそれと公表する訳には行かないからね。北斗君は無明君からも聞いているので心配してないが、シエル君も同じ様な事が出来るとも聞いているんだ。

 我々としても苦渋の決断なんだよ。それと、今回の護衛に関しては当人に気が付かない様にやってほしい」

 

 榊のFSDと護衛の単語に何か違和感が有る様にも思えていた。ゴッドイーターが護衛任務に就くのは非戦闘員の移動に対してなので疑問は無いが、無明の名前とシエルの事を考えると幾つかの疑問が出ていた。

 公表出来ない人物となれば、有名人かVIPのどちらかでしかない。命令である以上、疑う様な事はしないが、誰が対象なのかすら聞かされていない為に、北斗だけでなくシエルも困惑していた。

 

 

 

 

 

 ユノの希望を叶えるべくサツキが考え抜いたのは、単独ではなく他の誰かと一緒に行く事だった。幾ら護衛を付けるにしても、如何にもと言った物では本人の精神的な負担になり易い。それでは折角の休養が休養にならなくなるのは当然だった。

 今回も本来であれば行かせる様な真似はしたく無い気持ちの方がサツキの中では勝っていた。しかし、休養の一環であるのと同時に、くっついて動かれると目立つのも間違い無い。となれば、付かず離れずの距離を維持しながら護衛出来ると言った、従来の考え方からは真逆の内容となっていた。

 

 それともう一つがユノそのものに興味を抱かない人物である事が条件だった。プライベートを見る為に、軽々しく公表する人間は以ての外でもり、幾ら口が堅いからと言ってその人間が完全に信用出来るのかと言えばそうでも無い。

 更に任務とは別の意味で接近されても困ってしまう。事実、極東にはサツキの希望を可能とする該当者は数人いるが、誰もが重要な人物に違いなかった。

 考えられる人選をしていくとそれに該当する人物は驚くほどに少なくなっていく。気が付けば、自ずと限られていた。

 

 

「本来ならばアリサ君やエイジ君に頼みたい所なんだが、彼らは彼らで目立つからね。今回の人選に関しては済まないが頼んだよ」

 

 あの2人であれば確かに間違いないのかもしれないが、榊が言う様にあの2人は十分すぎる程に目立っていた。これまでに何度も発刊された季刊誌には、これでもかと掲載されただけでなく、極東発の商品のグラビアまでもを飾る以上、外部居住区でも知名度はかなり高い物となっていた。

 決して外部居住区には出かけない訳では無いが、時折その姿を見れば人が集まってきた事実があった。となれば、目くらましには最適だが護衛としては失格となる。隠形の業を見に付けている神機使いに該当が無い以上、何故自分達が呼ばれたのかを北斗とシエルは理解したと同時に、この任務に対しての拒否権が存在しない事も同時に理解していた。

 

 

「分かりました。シエルと2人で任務に入ります」

 

「明日の午前中から行動する予定だから、十分気を付けてやってもらいたい。当日はユノ君だけじゃなくシオも一緒に動く為に、合せて頼んだよ」

 

 拒否権が無いとは言え、まさかシオまでが一緒だとは思ってもいなかった。これまでに何度か会った事はあるが、詳しく知っている訳では無い。精々が屋鋪に行った際に見る程度の認識しかなかった。

 そんな榊の言葉に頷きはしたものの、一つだけ確認したい言があった。護衛任務は本来であれば対象者にくっついて動く事が殆どの為に、今回の様に距離を取ると言った事の意味が理解出来ない。依頼は受けたが、やはりその真意を確認しない事にはどこかスッキリとしない気持ちがあった。

 

 

「一つ宜しいでしょうか?どうして今回は距離を開けると言った行為になるのですか?」

 

「それに関してなんだけど、ユノ君やシオ君の事を考えると自由に動いてほしいと言うのが本当の所だね。確かに極東支部は以前に比べれば治安は良くなっているから些末な問題の様にも思えるが、何せ全てに於いて彼女たちは微妙な立場だからね。幾ら親しい人間と言えど、プライベートの部分に入り続けるとストレスの原因になるからって事だよ。シエル君。君もそんな経験があるはずだよ」

 

 榊の言葉に何となくシエルは理解出来ていた。以前FSDに出た後、何かと注目された記憶は確かにあった。当時の状況を思い出すと今でも嫌な気分になってくる。

 自分はただのゴッドイーターにも関わらず、何かとプライベートでの視線を感じたり、メールもかなりの数があの後も来ている事を知っている。そんな状況を思い出したからなのか、それ以上の言葉は出てこなかった。

 

 

「それと、分かっているとは思うが、今回のこれは特務になる。他言無用は何時もと同じだよ」

 

 榊の笑みにそれ以上の言葉は出る事はなかった。突如として舞い込んだ任務はこれまでに体験した事が無い物。幾ら護衛とは言え、外部居住区の事をよく理解していない為に、今後の事について少しだけ考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外部居住区の事について聞きたい?」

 

「コウタさんの実家があるのであれば、一番知ってるかと思ったんですが」

 

 榊からの指令に対し、一番最初にやるべき事は周辺に何があるのかを確認する事だった。極東支部は他の支部内と比べてもかなり治安は良い部類に入っている。以前はそうまで問題視される事は無かったが、とある人物の拉致事件以降、メインとなる通りだけでなく、裏通りや一部怪しいと思える様な場所にも人の目が届く様な改革が成されていた。

 

 表向きは人的資源の絶対的確保とサテライトへの一部住人の移動に伴う区画整理となっている。当初は住人からも何かと異論はあったものの、結果的には治安維持と住環境の改善を全面的に押し出されると、住人としてもデメリットは僅かに窮屈になる程度でしかなくなる。治安が向上するのであれば今後の生活も安心できると喧伝した結果だった。

 

 

「何かあったのか?」

 

「いえ。少しだけ外部居住区の方に行こうかと思いまして。私も北斗もよく知らないので、ここはコウタさんに聞いた方が良いとエリナさんから聞きました」

 

 休憩時だったからなのか、コウタの隣にはアリサも事務仕事の為の処理をしていた。コウタは何も考えていなかったが、こんな面白い話を隣にいたアリサが聞き逃す事は何もなかった。アリサの聞き違いでなければ北斗とシエルが2人で外部居住区に行く事になる。

 何時もは自分の夫の様に訓練や教導に明け暮れるはずの北斗がシエルと一緒に行動を共にする。何かしらの考えが働いたからなのか、コウタの言葉を遮る様にアリサは2人に確認していた。

 

 

「因みに何をする予定なんですか?」

 

「えっと……それは……」

 

 不意にアリサから言われた言葉にシエルはどう返事をすれば良いのかを悩んでいた。先程聞かされた特務の件は、榊からは口外無用と言われた手前アリサに対し任務ですとは言えない。それを除外すると今度はどう答えて良いのかを言いあぐねていた。

 徐々に困り出すシエルを見たアリサは何かを閃いたのか、シエルの言葉を待つまでもなく、コウタの耳元に小声で話をしていた。

 

 

「多分、デートか何かです。コウタの知ってる範囲で何か答えたらどうですか?この前だってマルグリットと出ていたのは知ってますよ」

 

「な、何で……知ってるんだ」

 

「そんな事はどうでも良いんです。ここは少し、男を見せたらどうですか?」

 

 アリサからの言葉に今度はコウタが固まっていた。少し前にあったハニートラップの教導の後に、非番だからと実家に帰るついでにマルグリットと一緒に行動したのは間違いなかった。しかし、アリサにそれを知られているとは思ってもいなかった。

 確認を取ろうにも誰からか聞いた可能性しかなく、自分の彼女は生憎とミッションに出向いている。既に周囲を固められたからなのか、コウタは2人に対し、それなりに行ける様な場所をチョイスしていた。

 

 

 

 

 

「中々有用な話を聞けましたね」

 

「ああ。後は2人がどうやって動くかだが……当日の状況次第か」

 

 コウタが2人に伝えたのは、普段カップルを良く見かける場所だった。割と甘い物を売っている店やアクセサリーなどの小物類を取り扱う店が立ち並ぶ場所を次々と伝えて行く。

 コウタの言葉を聞き洩らさないとばかりにシエルはメモに記していた。そんな姿を見たからなのか、アリサとコウタは確実に何かを誤解していた。

 確かに用事が無ければ外部居住区に一人で言っても面白くはない。そんな先入観とお互いの勘違いが織り成す状況に誰もツッコミを入れる者は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シオちゃんは普段はここに来ないの?」

 

「普段は屋敷にいるぞ。たまにソーマとくるけど、いつも人がいっぱいになるんだ」

 

 クレープを食べ終えたと思ったら、今度はソフトクリームをシオは持っていた。事前に何かしら聞いたからなのか、フラフラする割に足取りはしっかりとしている。買ったばかりのそれを口にしながらシオは何も無かったかの様にユノと話していた。

 

 

「そっか……ソーマさんも大変だね」

 

「そうか。たいへんなのか……」

 

 何かを思い出したのか、シオの表情が僅かに曇る。何か拙い事を言ったのかと考えたユノは直ぐに話題を他の物へと変えていた。

 

 

「多分、ソーマさんはそんな風には思っていないと思うよ。きっと一緒に居ると嬉しいって思ってるはずだよ」

 

「そうかな……」

 

「もちろん。そうだよ」

 

 ユノの言葉にシオの機嫌も徐々に回復してく。既に殆ど食べ終えたのか、ソフトクリームの上部が無くなっていた。

 

 

 

 

 

「やはり私達も何かしら買った方が良いのではないでしょうか?」

 

 2人の尾行とも取れる護衛をするに当たって、怪しまれる行動をしないのは最低限の条件だった。何も買う事無く、立ち寄る事すらしないままの行動はやがて違和感を生む事になる。

 護衛のはずが一転してストーカー紛いとなれば話は大きく変わり兼ねない。そんな最悪な未来を招きたくないと考えたのか、シエルは改めて今自分達がいる場所について考えていた。

 周囲の様子を見ても、まだ誰も気が付く様なそぶりはどこにも無い。もちろんこのまま穏便に終われが良いが、その確証を持つにはまだ早計でしかなかった。

 

 

「確かにそうかもな。だが……」

 

 シエルの提案に北斗も断る選択肢は無かった。しかし、周囲を見れば甘い匂いが漂う店が多いからなのか、北斗の嗜好に合う様な類の物が見つからない。かと言って何も買わないままも怪しまれる原因となる為に、北斗は周囲を観察していた。

 

 

「あの……北斗さえ良ければなんですが……」

 

「何か気になる物でもあったのか?」

 

 北斗の観察を止めるかの様にシエルはおずおずと北斗に言い出していた。元々シエルは何事にも興味が無い訳では無い事は知っている。ただ、戦闘以外での自分の意志を表す事が苦手なだけである事を最近になって理解していた。そんなシエルの言葉に北斗はそのまま何を言うのかを待っていた。

 

 

「実は私もクレープを…食べてみたいんです……が、ダメですか?」

 

「い、いや。問題ない」

 

 何時もとは違った雰囲気で話しかけるシエルに北斗は僅かに動揺していた。特別高額な物を買う訳でも無く、それこそ子供の小遣いでも買える物をねだる様な言い方にどう対処すれば良いのかを考えていた。毎日戦闘や訓練に明け暮れる日常しか知らない北斗に今の状況を上手く回避する事が出来ない。一先ずは目に入った店に行く事が先決だと判断していた。

 

 

 

 

 

「そんなに美味しいのか?」

 

「はい。何時もはラウンジでも頂く事はありますが、今日のこれは格別だと思います。良かったら北斗も一口どうですか?」

 

 屈託の無い笑顔で差し出すされたのは先ほど少し食べていたクレープだった。何を思って差しだ出来したのかは分からないが、公衆の面前でそんな事をされるとは思っても居なかったのか、北斗は硬直していた。

 

 そんな北斗を見たシエルも冷静になりだしたのか、差し出したと同時に頬に朱が走り出す。しかし差し出した以上はそのままひっこめる事も出来ず、どうしようかと内心焦りを生んでいた。

 固まる2人に視線が徐々に集まり出す。他のカップルはほほえましく見ているが、男だけの集団はどこか恨めしく見ている様にも感じる。只でさえアラガミとの戦いで視線を感じる事が多い2人にとってこんな場所で視線を集める訳には行かなかった。気が付けば既に2人との距離は徐々に離れて行く。回避する手段が無い以上、今は差し出されたクレープを少し食べて移動する以外に無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は久しぶりに楽しかったよ。また一緒に行こうね」

 

「そうだな。今度はソーマもいっしょだな」

 

 ユノとシオの護衛任務は滞りなく完了していた。途中、変装の為の帽子が飛ばされたり、思わず歌を歌ったりと北斗とシエルがヒヤヒヤする場面が何度もあった。

 一時はバレるかと思われたが、まさかこんな場所に2人が居るとは誰も思わなかったからなのか、よく似てると言われますの一言で納得したのか、鮮やかに躱していた。このまま屋敷に滞在しても良かったが、やはり主軸は極東支部である以上、そのままサツキとユノはアナグラへと足を延ばしていた。

 

 サツキが予想した様にラウンジにユノの姿を見せると、何も知らない新人は色めき立っている。幾ら主軸が極東だとしても、中々お目にかかる事は余り無い。ましてや最近ゴッドイーターになった新人からすれば憧れる人物が目の前に居ればある意味仕方ない事でもあった。

 

 

「やっぱりここに来ると、帰ってきたって思うよね」

 

「そう?私からすれば、この視線はどうかと思うけど」

 

 何事も無かったかの様にユノはカウンターにいたムツミに飲み物を頼んでいた。何時ものアイスティーはやはり馴染んだ物だった。そんな中でも外部居住区に居た際に少しだけ気が付いた事があったのか、ユノはサツキに確認する為に改めて口を開いていた。

 

 

「そう言えば、今回の買い物って誰が付いてきてなかった?」

 

「さぁ。気のせいじゃないの?」

 

 気遣いのつもりではあったが、まさかとの思いにサツキは僅かに硬直していた。ユノが買い物に行く際にストレスを溜めない様にと榊に依頼したまでは良かったが、誰が一緒だったのかまでは聞いていない。

 何人かの可能性はあったが、特定した所で時間が戻る訳では無い。事実、今のユノは満足げな顔をしている以上、態々口にする必要は無いだろうと考えていた。

 

 

「あ、ユノさんだ。こんにちは!」

 

「ナナさん。こんには。もう任務は終わったんですか?」

 

「今日は北斗とシエルちゃんが居なかったから大変だったよ。まさかあんなにアラガミが来るとは思わなかったから……」

 

 何気なく声を掛けられたまでは良かったが、ナナの言葉にユノは僅かに疑問があった。ブラッドとしての任務は感応種の討伐が殆どで、今は通常種の場合はバラバラになる事が多かった。もちろん、その事実はユノも知っていたが、確か今日その2人を見た様な記憶があった。

 改めて周囲を見渡せば該当すべき人物の姿は見えない。偶然なのか、他人の空似なのか。些細なはずの疑問はゆっくりと大きくなりだしていた。

 

 

「ユノさん。お見えになってたんですね」

 

「あれ?シエルさんは今日は休みだったんじゃ……」

 

 何気ないはずの言葉にシエルは僅かに目を見開いていた。護衛任務が極秘であるのは当然ではあるが、まさか対象となるユノから言われるとは思ってもなかった。既に北斗は戻り次第、エイジとの教導をやってるからなのか、この場には居ない。

 誤魔化すにしてもどうすれば良いのか判断に困っていた。

 

 

「ええっと……まぁ、そんな所です」

 

「気のせいじゃ無ければ外部居住区で見た様な……」

 

「あれ?シエルちゃん。外部居住区に一人で言ってたの?」

 

 ユノの言葉に違和感があったからなのか、ナナはシエルに確認していた。ブラッドと言えど基本的に各自の休暇に関しては詮索する様な事は一切しない。ジュリウスの様に暇さえあれば農業に勤しむのとは違い、他のメンバーに関しては聞く事は殆ど無かった。

 しかし、ユノの言葉に休日のシエルの事が垣間見える。普段の事を知らないからなのか、ナナの関心はそこに移っていた。

 

 

「ええ。まぁ……」

 

「あれ?確か北斗さんと一緒だったような気が……」

 

 ユノの何気ない言葉にラウンジの空気はカリギュラですら不可能とも取れる程に凍結する勢いがあった。今日は確か2人とも休暇を取っていた事はナナも知っている。しかし、内容までは知っている訳では無く、しかも外部居住区で見かけたとなれば話は大きく変わってくる。

 現時点ではユノの言葉しか証拠は無いが、明らかにこの空気は何らかの事を聞かれる可能性が極めて高い。今のシエルにとってこの空気はアラガミと対峙する以上の何かを感じていた。

 気が付けば既に撤退する事は不可能。困惑するシエルを他所にナナだけでなく、その場にいたユノの視線も向けられていた。

 

 

「あれ?随分と早かったですね。もうデートは終わりだったんですか?」

 

 何かが音を立てて壊れたかの様な音が聞こえた気がしていた。緊張感漂う空気を壊したのはヒバリだった。自分の時間が終わったからなのか、それとも休憩だったからなのか、何も状況が分からないまま素直に告げている。堰を切ったかの様にシエルは周囲から質問攻めに合う事になっていた。

 

 

 


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