神喰い達の後日譚   作:無為の極

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完結した物語のセルフ・スピンオフとして連載をします。
物語の構成上、当時の状況を思い出す様な描写が多くなるために、作中の時間軸が大きく変化しやすいです。
内容そのものは分かり易い様にしているつもりです。

自己満足の世界ですが、宜しくお願いします。



第1話 思い出の1ページ

「本当に大丈夫?」

 

「はい。私の事なら大丈夫です」

 

 エイジとアリサは2人でのミッションの為に嘆きの平原に足を運んでいた。キッカケはアリサ自身の要望ではあるものの、通常のミッションである事に変わりはない。これまでも誰かを忌避する様な考えを持つ事が無かった事から、エイジはアリサの提案に関して断る事は無かった。

 一方のアリサは以前とは明らかに自分が違う事を自覚していた。それだけではない。洗脳じみた事をされていた当時には感じる事が無かったアラガミへの恐怖がここに来てやけに強く感じていた。

 眼下に居るアラガミが闊歩する姿は、これまでの様にただ討伐だけを考えていた感情が一切出る事は無かった。未だ気が付かないからなのか、シユウは周囲を見回しながら何かを捕喰している。これ以外のアラガミの姿が確認出来ない以上、後ははこの場から飛び降りてミッションを開始する事だけだった。

 

 

「時間だし、行こうか」

 

「は、はい」

 

 端的にアリサに言うと同時に、エイジは自分の神機を掲げ一気に降下していた。音も無く着地し、気配を消すかの様にゆっくりとシユウへと距離を詰める。既に準備していたのか、大きな黒い咢がシユウの下半身に大きく齧り付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私に戦い方を教えて下さい」

 

 洗脳から復帰したアリサはこれまでの様な冷酷な考え方は完全に消え去っていた。自分の無意識下で刷り込まれた内容はこれまでの様に恐怖感をも心の奥底へと追いやっていた。しかし、感応現象による事実はその追い込められた事実までもを浮上させていた。その結果、明確な記憶が戻った最初に感じたのは過剰なまでのアラガミが発する殺意の感受だった。

 生きる者すべてが捕喰の対象であると同時に、アラガミは本能の趣くままに攻撃を繰り返す。いくら対抗すべき手段があったとしても、それはアラガミその物がマイナスとなる事は一切無かった。

 幾ら部位欠損しようが、捕喰すれば最終的にはオラクル細胞の力で元に戻る。だとすれば強靭な肉体を持ち、目の前の生物を捕喰する事が如何に大事であるか、圧倒的な捕食者の意識が完全に自分に叩きつけらる事実を前に自我を保つ事が可能なのかが、今のアリサには厳しい現実として求められていた。

 本来ならばこれまで辛辣に対応してきたのだから断られる可能性は極めて高い。いくらそこまで嫌悪感が無かったエイジであっても、その事実に間違いは無かった。

 

 

「僕で良ければ」

 

「お願いします」

 

 そんなアリサの感情を他所に、エイジは快諾していた。今の第一部隊でまともに戦闘をしようと思えば、遠距離型のコウタやサクヤでは意味が無かった。単純にアラガミを討伐するのであれば問題は無いが、それでは接近戦になった場合、自分とアラガミの間合いが完全に異なってくる。かと言って、ソーマに頼んだ所で断られるのも間違い無い。最初はそんな消去法の様な、どこか妥協した様な考えがアリサにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘………」

 

 今のアリサはただ呆然とするしかなかった。最初の頃にリンドウとエイジと3人でミッションに行った際にはそうまで感じる事は無かったが、今の様に2人でミッションに来る事でアリサは改めて目の前で起こっている事実に目を背ける事は無かった。

 下半身を齧るかの様にバーストモードに突入した瞬間、エイジの神機はシユウの翼手の先端だけを狙っていた。シユウ種は下半身が強固な為に、よほど破壊力が高い神機かブラスト型の様に破砕に特化したバレットを使用しない限り、攻略そのものは限定されやすい状況が多分に存在していた。

 それはゴッドイーターであれば誰もが知る事実でもあり、ある意味では教科書通りの攻撃方法でしか無かった。同じ部分を寸分違わず攻撃し続け、短時間で結合崩壊を起こす。本来であれば更に追撃をかけるが、エイジはそんな事をする事もなく、すぐさまインパルスエッジで下半身を攻撃していた。

 

 シユウとてただ立っている訳では無い。自身の本能とも言うべき捕喰の有り方を存分に活かすべく、攻撃の所々でカウンター気味の攻撃を仕掛けていた。大きな翼手が刃の様に襲いかかる。いくら結合崩壊を起こしているとは言え、その攻撃力に遜色は無かった。

 本来であれば完全に防ぐか、攻撃の隙間で直撃を受けるのが普通だが、エイジはそんな素振りすらなかった。攻撃の瞬間を見切るのか、シユウは翼手を刃の様に回転させるが、攻撃レンジを見切っているのか、それすらも届かない。

 寧ろ完全に攻撃出来る多大な隙をめがけて一気に下半身だけでなく、跳躍しながら刃を向ける事で頭部までもを破壊していた。既にシユウの両翼手は着地した瞬間に斬り落とされ、攻撃しようにもその手段すら失われている。

 かろうじて両足があるだけだが、それもまたインパルスエッジの多用により、足の機能は事実上失われている。今のシユウに出来る事はこの場から無理にでも退却する事だけだった。

 

 

「アリサ!銃撃で決めろ!」

 

「は、はい!」

 

 エイジの言葉にアリサは無意識とも取れる感覚でレイジングロアの引鉄を引いていた。ガトリングに近い形状の銃口からは数多の銃弾がシユウへと襲いかかる。既に退却していたシユウはその全弾を背中に受けた事でその短い生涯を終えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリサ、大丈夫?」

 

「はい。でも、なんで私に最後を?あれならエイジが全部一人でやれたんじゃ……」

 

「でも、それだとアリサの為にならないよね?」

 

 鮮やかな攻撃はこれまでのアリサが知りうる戦い方を一気に後方へと追いやっていた。攻撃に澱みがないからなのか、流麗に動く斬撃と一点集中による攻撃はアラガミの反撃すら許す事は無かった。命を懸けて戦うべき戦場でありながら、どこかここが訓練室の一室だと言わんばかりの一方的な攻撃が何を意味するのかは、今の時点で漸く理解出来ていた。

 アリサの言葉通り、戦い方を教える。明らかに教科書通りと言いたくなる攻撃は既にアリサの予想を良い意味で大きく裏切っていた。

 

 

「そうでしたね。でも、今まであんな戦い方なんてしてませんでしたよね?」

 

「してない訳じゃないよ。今までもやってきてたんだよ。まだ一対一だから出来るけど、これが複数だと厳しいよ。僕だってまだまだ修行中の身だからね。せめてこれが複数でも出来れば良いんだけどね」

 

 今の戦いを見せられても、なお修行中と言われれば、これまで我が物顔で戦場に出ていたゴッドイーターは果たして何なんだろうか。今の言い方からすれば、決して満足している様には見えず、上にはまだ上が居る様にも聞こえて来る。確かに最初に声をかけた際には若干妥協した部分も存在していたが、今のアリサには既にそんな感情は何処にも存在していなかった。

 ある意味では理想とも取れる攻撃方法。反撃を許す事無く一方的な攻撃は、言い方を変えれば安全である事に変わりない。絶技とも取れる行動にアリサは知らず知らずのうちに魅入られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも実際にやろうとすれば何か特別な訓練をしないと出来ないんじゃないですか?」

 

「特別な事は何一つしてないよ。敢えて言うならば、攻撃は神機を出すだけじゃないって事だよ」

 

 戦場から戻りはしたが、余りにも呆気なく終わったミッションに汗をかく様な素振りすら無かったからなのか、エイジとアリサは訓練室に来ていた。当初はあまりにも早すぎた帰投だった為にミッションをキャンセルしたのかと思う部分もあったヒバリだが、運ばれたコアと破壊された細胞片を取得した事からミッションが終わった事を理解していた。

 シユウ一体であれば然程時間はかからない。ましてやこれが新型の二名でのミッションだからと理由付けする事で、それ以上考える事を放棄していた。

 

 

「でも神機を使わずに攻撃するってどうやるんですか?」

 

 アリサの言葉は尤もだった。これまでどの支部であっても、訓練の際にはアラガミを疑似的に投影したシミュレーションで訓練をするのが常だった。しかし、今の訓練室にはそのシミュレーションの元となるはずのアラガミの姿は何処にも存在していない。何も無い状況で出来る事は精々が肉体を苛める為にやるトレーニング位だった。

 

 

「動きを確実に自分の物にしているのかの確認は必要だろうね。因みにアリサは対人戦ってやった事ある?」

 

「格闘訓練程度ならありますけど」

 

「じゃあ、試してみようか?その代り全力で来ないと困るんだけどね」

 

 エイジは無手のまま、ゆったりとした構えを取っていた。半身になりながら左手を前に、右手は自分の胸の前へと出す。ゴッドイーターがなぜ対人戦なのかは理解出来なかったが、アリサもロシア支部にいた際には軍隊格闘術を多少なりとも経験していた。

 その事実を言わないままに構えた以上、アリサは少しだけ驚かそうと考えたからなのか、構えを作りエイジと対峙した瞬間だった。

 

 時間にしてコンマ数秒。厳密に言えば瞬きをした瞬間だった。お互いの視線を外す事無く対峙していたはずだった。距離にして3メートル程。しかし、今のアリサとエイジの距離は事実上の接近戦とも取れる距離でもある50センチ程度にまで接近されていた。既に構えから攻撃の態勢へと移行している。この距離で繰り出される攻撃を回避するだけの技量がアリサにはあったはずが、何故か回避する事が出来ないままだった。

 繰り出される拳が眼前に出された瞬間の出来事。迫り来る拳が一瞬にして消え去る。気が付けばアリサの眼前には肘が寸止めされていた。

 

 

「と、こんな感じなんだけど……」

 

 目の前で起こった事実について行く事が出来なかったのか、アリサはその場で膝から崩れ落ちていた。先ほどの刹那の時間に起きた現象の説明をする事が出来ない。お互い対峙したはずが、距離を瞬時に潰され拳が眼前に迫ったと思えば、気が付けば肘が目の前で止まっている。驚愕の事実に理解が追い付かなかった。

 

 

「ご、ごめんなさい。私では分からなかった…です」

 

 アリサの言葉を理解したのか、エイジは思わず頭をかいていた。意味を正しく理解出来るかどうかは本人次第ではあるが、体験した方が手っ取り早いと考えた結果でもあった。しかし、実際にはあまりにも短時間で起きた事実に理解が追い付かない理不尽な結果だけが残されていた。

 

 

「えっと……簡単に言えば、相手の様子をじっくりと観察して、その意識を外した部分で行動を起こすんだよ。組み手や対人戦をするのはその感覚を磨く事が目的なんだよ」

 

「それが訓練になるんですか?」

 

「そう。アラガミは確かに人間に比べれば力そのものは強いし、凶悪なのは間違い無いよ。でも、よく見れば生物特有の関節の稼動領域で攻撃範囲もある程度限られるし、そこから推測できるのも事実だからね。相手を見るのも訓練になるよ」

 

 そう言いながらエイジは用意していた飲み物を口にしていた。僅かな時間にも関わらず、強く集中していたからなのか、アラガミの討伐の時よりも汗をかいている様にも思える。それが何を意味するのかは改めて考えるまでも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、随分と懐かしいですね。でもこんな写真が何であるんですか?」

 

 今のアリサの手にあるのは当時の状況を映し出した数枚の写真だった。この頃の記憶は未だに鮮明に残っているからなのか、写真を目にする度に何かと思い出してた。あの時の状況は事実上の黒歴史でしかない。既にコウタやソーマからは散々弄られているからなのか、今のアリサに取っては手慣れた対応をする事が多くなっていた。

 

 

「偶々掃除してたら出てきたんだよ。こうやって改めて見ると何だか懐かしいね。アリサもまだあどけない様にも見えるからね」

 

 そう言いながらエイジは用意した食事をテーブルへと運んでいた。日付を見ればまだ三年しか経過していない様にも思えるが、その三年はあまりにも濃密な内容だった。三度の終末捕喰を迎え、その結果ブラッドの活躍で事実上の収束に向かった事は既に隠しようが無い事実となっていた。

 本来であればラウンジで食事をするつもりではあったが、幸か不幸か今日から明日の夕方までは珍しくお互いがオフとなっていた。何時ものであれば、どこか食事をしながらでも仕事が頭の片隅をチラついていたが、今回の作戦にはクレイドルとしてもかなりの作業が組み込まれた結果の休暇だった。

 

 

「じゃあ、今はどうですか?」

 

「そうだね………随分と綺麗になったかな。僕には勿体無いかもしれないね」

 

「もう、本当に口が上手くなりましたよね」

 

「そんなつもりは無いんだけど」

 

 何気なく言われた言葉にアリサの頬は赤く染まっていた。写真に写る自分の姿をを見たアリサは当時の自分と話をする事が出来るなら、今の関係を話したくなるだろう事を想像しながら目の前の出来事を見ていた。あの時の事は今思い出しても恥ずかしいだけでなく、他人に対してどこか申し訳ないと思う部分がった。

 まさかあれがキッカケでエイジの事を意識し出した事は結婚した今でも直接言った事は無い。色んな意味での宝石の様な思い出に違い無かった。

 

 一方のエイジもまた、そう言いながらシチューをよそった皿をテーブルへと置いて行く。出来立て故の湯気が立ち込めるだけでなく、サラダやスープ、バゲットまでもが次々と用意されていた。今では二人の状況に応じた食事を作る事が多くなっている為に、誰が作るとか言った分担事は無くなっていた。

 ただ、仕事が忙しすぎたり、自分しか食べないと分かっていれば、アリサもラウンジで食事をする事が多かった。勿論、食事そのものは美味しいのは間違い無い。しかし、ムツミには申し訳ないが、アリサにとってはエイジと一緒に食べる食事は何事にも勝る物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?こんな時間に何だろう?アリサ、何か予定ってあった?」

 

「私の方は無いですね。ミッションなら端末が鳴るはずですから」

 

 食事が終わり、後片付けをする頃、部屋のチャイムが唐突に鳴っていた。今日は緊急での要件は無いからこそ休暇が決定していた為に、呼ばれる様な事に記憶は無かった。

 仮に緊急時のミッションであれば各々の端末が鳴るはず。しかし、その端末も沈黙したままだった。このまま無視する選択肢は2人には無い。他の人間が来る可能性が低いのであれば、一旦は誰なのかを確認した方が早いからと、アリサは入口へと歩いていた。

 

 

 


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