仮面ライダーリュウガ 〜暗黒を纏いし黒騎士〜   作:人類種の天敵

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高倉芳野サイドストーリーを、提供者からのプロットを元に書いております。




高倉芳野 サイドストーリー 『綴る者』
自由のない世界


 

 

 

 

ある日の放課後

 

 

「……だから、この時代には書き手には自由はない。オレの書きたい物が書けないのさ」

 

「書きたい物が書けない……だと?」

 

「オレが先日投稿した小説……覚えてる?」

 

「……男尊女卑の悪の国を凝らしめる女勇者の話だな……私をモデルに書いたと息巻いていた……あの」

 

「あはは、そこは忘れて…………あれ、本当はネタが違うんだ」

 

「なに?」

 

「持ち込んだら担当になった人から、『これはダメでしょ』……って言われちゃってさ。ああしろ、こうしろって言われるがまま書き直したんだよ」

 

「そうか……なら、本当の話は……?」

 

「千冬にだけ教えるけどね、実は……本当の話は………………」

 

 

 

 

 

蔵詩乃 夜鷹

クラシノ ヨタカ

 

純白のブリュンヒルデシリーズ

 

嗚呼、この世の果てで何を問う?

 

『現在、大人気のライトノベル小説家!先生の処女作である男尊女卑の世の中を大切な仲間たちと切磋琢磨しながら1人の女性として、世界を救う勇者として成長していく少女を描いたブリュンヒルデシリーズはアニメ化やゲーム化……更に金曜ドラマやアニメ映画・実写映画化されるほどの絶大な人気を誇っています!!蔵詩乃 夜鷹先生ですー!!』

 

『どうも、蔵詩乃 夜鷹です』

 

『先生!本日は先生の大大大大成功の秘訣を教えてもらいますよ!』

 

『いやぁ……私の話でよければ……是非』

 

『では最初に。男が女を虐げる男尊女卑の世界で、たった1人孤高に生きる主人公の勇者チフュですが、ズバリ!モデルとなった人物はいるのでしょうか!?』

 

『あっ、はい。クラスメイトに偶々そんな人が居たので暴力的な所とか、あんまりお洒落に興味がなかったりとか、恥じらいとかが皆無な所とか、色々と参考にさせて頂きました。いやぁ、暴力的な所とかほんっと、自分がされてきた事をそのまま書き殴ったと言っても過言じゃないですね……はは』

 

『ほう?………クラスメイトにそんな奴がいたのか……』

 

『はは………………………………………いや、嘘です。すみません今の所カットかNGシーンでお願いできますか?あ、無理?そうですか……あ、いえいえ、大丈夫ですよ?明日から病院の方に入院しなくちゃいけないかなって心配するぐらいで全然…………って、ちふ……織斑さん、いたんですか』

 

『大先生の高校生時代の同級生枠で…な。ふ、あの時クラス一番大人しかったお前が大出世したものだ』

 

『いやぁ、それ言ったら織斑さんも一緒でしょ?あと俺はあの時から顔が救いようのないほどに強面だったからせめてみんなを怖がらせないように……ね?』

 

『そうかそうか……つまり、みんなを怖がらせないようにしていたお前と違って、私は元から孤立していた……ということか』

 

『あっ!次!次の質問ないですか!出来れば学校の話とブリュンヒルデシリーズ以外で!え?宣伝?現在執筆してますブリュンヒルデシリーズ【英雄の章】とぶっ壊れた価値観だともっぱら評判の『嗚呼、この世の果てで何を問う?』上・中・下巻共々よろしくお願いします!……い、以上で!』

 

 

 

 

カランカラン………

 

閑古鳥の鳴く平日の喫茶店へと、ノートパソコンを脇に挟んだ男が1人、店の中へ足を踏み入れる。

 

「やぁ、リュウくん……って、何見てるの」

 

その人物はカウンターの席に座る1人の少年を見てニッコリと笑い、親しげな足取りで近づいて行く。

 

「ああ?またアンタか…………あ、いやいや、大先生に親しくさせてもらって大変光栄です……ええ、ええ」

 

「ちょ……いきなり何を……って、ああ、先日出演したテレビの話?」

 

カウンター席に座る少年の口調が、何時ものようなぶっきらぼう口調ではないことに気付いた男は、そこでようやく少年が弄るノートパソコンから、自身が出演したテレビ番組の収録を見て苦笑した。

 

「見てくれたんなら、是非とも小説の方を読んで欲しいね」

 

「ふん、興味が無い」

 

ならば是非にと茶化してみるものだが、目の前の可愛げの無い少年は、下らない茶番は終わりだとばかりに鼻で笑い飛ばし、何時ものようにカフェオレをゆっくりと啜った。

 

「連れないな、バトルの反対者……もとい、仮面ライダー同士、ちっとは仲良く出来ないのか?」

 

反応は可愛く無いものの、意外と義理人情に厚い少年の照れを知っている男は少しからかうつもりで何の気なしにそう言う。

 

「仲良く?反対?仮面ライダーは所詮戦う運命だ。馬鹿の1人2人に付き合ってたら体がもたん」

 

「そう言って何時も助けてくれるんだけど」

 

「………………あ゛?」

 

小声で呟いた言葉は、どうやら聞こえていたらしい。

この少年は気にしていないフリをしながら、実のところ、目ざとく耳を傾けているのだ。

 

「そりゃ残念だっ……てね。ま、オレもオレで周りの人間が護れればそれで良いけどさ………あ、いつものとあの場所空いてる?」

 

ピッとVサインでいつものを2個注文し、ガラガラの喫茶店の空席をわざわざ確認する。

 

「………あぁ。2つか」

 

注文を聞いた少年は億劫そうに返事しながらも、パッとカウンター席を立って注文に応えようとする。

 

「頼むよ。相棒は飲めないが形ぐらいは、な?」

 

「忠誠心が強いくせに変なこだわりを持ってんのはアンタくらいだよ」

 

「ハハハ……」

 

トポトポとコップの中へいつものが満たされていく。

その光景をジッと見つめていると、少年は手元を注視しながら話題を振る。

 

「そういえばハリウッド映画化もするんだよな、アンタの小説」

 

「…………してほしくないけどな」

 

「……は?」

 

ぽつりと素で答えた返答に、興味を持ったらしく、片眉を上げた少年が無言で続きを促している。

 

「普通なら喜ぶさ。普通なら、な」

 

そこで一旦区切り、言葉を考えていると。

いつかの思い出が、蘇ってきた。

昔もこうやって、放課後の教室に居残って誰かに語っていたような気がする。

 

「この時代には書き手には自由はない。オレの書きたい物が書けないのさ」

 

「書きたい物が書けない?」

 

「オレの作品覚えてる?」

 

「……男尊女卑の悪の国を凝らしめる勇者の話だろ」

 

「あれ、本当はネタが違うんだ」

 

「なに?……なら、本当の話はなんだ」

 

少年との会話は、あの日の会話を彷彿させるようなものであり、自然と、彼女と少年が血の繋がった姉弟のようだと錯覚してしまう。

 

「リュウ君にだけ教えるけどね……本当の話は……………おっと、ヤバいな。リュウ君、ミラーワールドに逃げな」

 

喫茶店の窓の外を見て軽く舌打ちをしてしまいそうだ。

どのような状況といえど、書き手ならば聞き手に対する作品のネタばらしは最後まで言い切りたいものだが、今回は流石に条件が悪かった。

 

『ギャーギャー!』

 

『ゲゲゲ』

 

相棒と、少年が従えるモンスターの一匹が人をコケにするような不思議な鳴き声を上げる。

 

「ゲリョス………?また織斑が来たのか」

 

嘆息する少年の顔は、無表情を装いながらも、喜びと、悲しみと、怒りの感情と、それに対する戸惑いを掻き混ぜた、複雑な色合いを見せている。

 

「犯人は戻ってくる。調査の基本、さ。

帰ったらホークスギアを通して伝えるよ」

 

本当なら自分で伝えたかったものだが、これもまた、時の運というものだろう。

 

「………」

 

少年は、ポケットから取り出したカードデッキを握りしめたまま、こちらに視線を向けて動かない。

 

「どうした?」

 

「何故俺にそこまで肩入れする」

 

油断ならない瞳、まったく、そんな目をして良いのはさ……戻れない人間だけだ、君はまだ、16歳の子供だろう。

 

「さぁね、理由としては、いつものが飲めないのは嫌だから………にしといてくれ」

 

「………」

 

「あとでケーキくれ、相棒の飯狩りもだな」

 

「………後でな」

 

「頼むよ、リュウガ」

 

ふん、と鼻を鳴らした少年がカードデッキを鏡に向けて、次の瞬間には黒い騎士へと変身する。

そして彼は鏡の世界……ミラーワールドへと姿を消した。

 

 


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