仮面ライダーリュウガ 〜暗黒を纏いし黒騎士〜   作:人類種の天敵

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花鶏はライダー達のたまり場になったようです

 

 

 

暗い一室に、カーテン越しの朝日が溢れている。

部屋の中、ふかふかのベットから起き上がった少年がスマホを起動して時間を確認すると、丁度朝の5時だった。

 

「んがぁー………」

 

「………」

 

近くから親友のいびき。

フッと頰を綻ばせ、少年は直ぐに着替える。

黒地に灰色のラインを引いたシャツ、半袖の黒いパーカー、黒いズボンと全身黒一色に染め上げる。

……それにしても、緩いいびきだな。

まあ、アリじゃないか?亮介。

 

『ゴァァ……』

 

少年が静かな朝を堪能していると、鏡越しに黒い龍が優しく鳴いた。

 

「おはよう、ドラグブラッガー」

 

鏡の中から現れた龍の顔をそっと撫で、顎を優しく揉み込む。

たったそれだけで黒龍は気持ちよさそうに目を細めるのだ。

 

『ゴァ、ゴァ……』

 

黒真珠のように美しい鱗を持つ龍。

その龍が鏡から出てくるのを待つと、龍の身体が徐々に人の姿を形取って行く。

短く揺れる黒髪に、ルビーを思わせる紅い瞳、小さく口からちらりと 覗かせているのは小悪魔的な魅力を引き立てる八重歯。

そして何故かメイド服。

謎のメイド美少女の名前はドラグブラッガー。

少年の使役する黒龍である。

 

「ゴァ、ごぁ、ごぅぅ……ん、んん、ん」

 

「お前も、人の姿で喋るのは慣れてきたか。気分はどうだ?」

 

少年の言葉に、ドラグブラッガーと呼ばれたメイド少女はコクンと頷いた。

そして白く映える手のひらで自身の喉元をさする。

自分がちゃんと喋れるか、少年に言葉を伝える事が出来るのか……ドラグブラッガーの表情は懸念と心配と不安がないまぜになっていて、いつも見ているような、美しく、絶対的な力を持った龍の姿は鳴りを潜めている。

 

「大丈夫だ。ドラグブラッガー。何度も練習してきたんだろう?…俺が寝ている間。なら喋れるさ」

 

ドラグブラッガーの頭を包み込むように撫で、ミラーモンスターが人型に変身することについて、神崎士郎が言っていた説明の一部を、少年は思い出す。

 

 

ーーミラーモンスターが本来の姿を人型に出来ると言っても、人間特有の器官を使って声を作り、喋る事が出来るとは一概には言えない。

神崎士郎はそう言い、金髪美女のガルサンダーとゴルドフェニックスを両隣に侍らせながら『契約者講習会!学ばなければ生きられない!』などというふざけた名前の講義の中、苛立ちを覚える多数の契約者達の前でこう続けた。

 

契約者である少年の言葉を理解するーーつまり、人語を解するというのも正確には違う。

 

元々、どのミラーモンスターも本能のまま戦い、餌を喰らい、生きていた。

 

それが、契約者という存在と繋がりを得ることで、その契約者の思念や思想、記憶。

 

その他、契約者を形容する全てを共有することで〝契約者と似て非なる一つの自我〟を得る事が出来る。

 

それによって、ようやく契約者と意思疎通を図ったり言葉を解し使う事が出来るのだ。

 

つまり、契約モンスターはそれぞれ、部分部分で契約している契約者と共通するところがある。

 

 

「ご主人…様」

 

ポツリと溢れたドラグブラッガーの呟きに、少年は我に帰る。

そして少女を胸に抱き、もう一度呟いた。

 

「俺たちは、似ている。壊すことしかできないことも、現実には仮初めの居場所しか無くて。戦いに明け暮れていないと、怖い事も。……俺は、戦い続けることでしか存在を証明することが出来ない」

 

でも、と続けて、少年は心で呟く。

 

ーーーお前は黒だ。

全てを染め上げ、その上に君臨する絶対的な黒。

だけど俺は、黒でも無く、白でも無い。

………何者でもない灰色。

 

 

 

 

 

ーーこれは契約者達には知らされていないことであるが、例えば仮面ライダー龍騎こと城戸真司。

 

彼の契約しているドラグレッダーはツンデレ、暴力的などの性格の持ち主だが、意外と人懐っこく、ツンツンしているようで他人を気遣い、誰かの為に体を張ることもある。

あと直ぐに熱くなりすぎることやバカっぽいところも。

 

これも、〝守る為に戦う〟という感情、意思こそが城戸真司という男を表しているからに違いない。

更に城戸真司がバカであることにも起因している。

 

反対に蟹刑事こと仮面ライダーシザース……須藤雅史と契約しているボルキャンサーの場合は須藤雅史の根本にある残虐性を引き継いでいたり、神崎士郎が観測していたとある世界線では契約者である須藤雅史を契約が解除された瞬間に貪り喰うという冷酷さも持ち合わせていた。

正に須藤雅史の〝騙し、蹴落とし、勝つ〟という意思に染まっていると言える。

 

………現に今も、須藤雅史が入院している病院のトイレの鏡で須藤雅史を貪ってやろうとボルキャンサーはスタンバっているわけだが、須藤雅史は封印のカードを護符代わりに神崎から支給されている為、喰おうにも近づけられないといった状態である。

 

……夜な夜な奇妙な歯ぎしり音と泡と悔し泣きに濡れた床が見つかっているのだとか。

 

閑話休題。

 

自分を居場所のない人間だとドラグブラッガーに気付かれたくなくて心の中で自嘲した少年、龍賀アギトは知らない。

契約者とミラーモンスターは存在そのものが繋がりあっている為に、隠したい本心が筒抜けであることを。

アギトがこれまで抱き続けてきた苦悩を、怒りを、想いを、欲望を、アギトが何を欲して居て、自分に求めているのかさえも。

 

だからこそ、ドラグブラッガーは自分を求めてくれる、自分だけを見てくれるアギトを自らもまた求めたい。

 

互いに互いを独占し、独占されたい。

 

自分しか見て欲しくなくて、彼しか見えてない。

正に歪な愛、美しく正しい愛、矛盾した二つの相思相愛、欲望と本能のままに愛し愛される。

 

彼の色に、アギトの心の内に渦巻く欲望に。

自分という存在丸ごとーーー染められたい。

 

「ご主人様……シたい」

 

「……お前な、すぐ側で亮介が寝てるんだぞ。出来るわけない」

 

「ダメ。今すぐ繋がらないなら、ご主人様を石化させて誰の目にも、他の野良にも見つからない世界で二人っきりで………」

 

アギトの想いに当てられてドラグブラッガーの本能が暴走した暗黒系ミラもん的発想は終ぞ最後まで言い切ることはできなかった。

何故なら、彼女の唇の上からアギトの唇が重なり合っていたから。

 

「……声、抑えられるならやってもいい。抑えられるなら、な」

 

言外に、お前が感じる場所は全部知ってるぞと不敵な笑みを浮かべるアギト。

それに対してドラグブラッガーは人差し指を鏡に向けた。

 

「大丈夫。……ふふ、鏡の中ならどれだけ鳴いても何も聞こえない、誰にも聞こえない。だから……私が…果てるまで、何度…も、何度、で…も……喘がせて……欲しい…です…」

 

 

 

ピピピピピピピピピピ

 

少年と少女が鏡の向こうに消えて数分後、部屋の中で眠って居た少年が一人目を覚ます。

 

「ふぁーあ。……あー寝た寝た。おーい、アギトー、起きてるー?……てアレ、アイツ居ねえじゃん。……まあいいや。んじゃ、ヤるか?ウィングバード、ガンウルフ」

 

数刻前の黒龍のように、鏡の向こうから現れた鷲獅子と狼が、人の姿へと変わっていきーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんだ、起きてたのか。亮介」

 

「おー、アギト。どこ行ってたんだよ。こんな朝っぱらから」

 

「運動だ。体を動かしてた。汗を掻くのは……気持ち良いからな」

 

本日のお題はワンワンプレイ。

提供者 イビル手塚から貰った犬耳、目隠し、首輪、リード、やたら振動するアレ、尻尾、エトセトラ……などを持っていた俺は今回、ドラグブラッガーと擬似的な散歩体験をすることにしたのだ。

散歩感覚で道路をドラグブラッガーに四つん這いで歩かせたり、電柱に粗相をさせたり、我慢できずにそのまま…………。

感想?……大変満足でした。

今度、手塚が最近始めたという、触手型ミラーモンスターを用いた『新感覚触手凌辱』もやってみようか……な?

 

「へぇー。言うようになったじゃん?まあ、動くのは良いってところは俺も似たようなもんかなぁ」

 

ドラグブラッガーとミラーワールドで何発もヤッて帰ってくると、既に風霧亮介は起きていて、店のカウンター席に座ってゲームをしていた。

因みに、生身でミラーワールドに何時間も滞在していたわけだが、本来ミラーワールドの住人ではない人間がミラーワールドに存在していると、たった1分で時間切れとなり、消滅してしまう。

 

が、ドラグブラッガーと思考錯誤している内に考え付いたのが、体の一部分を現実部分に存在させ、その他の大部分をミラーワールドに置きつつドラグブラッガーと性行に及ぶ裏ワザ。

どちらの世界にも繋がっていて、ドラグブラッガーとも物理的に繋がっている。

しかも他人に見られる心配もドラグブラッガーの可愛い喘ぎ声を聞かれる心配もない。

文字通りドラグブラッガーを俺だけが独り占めできる方法ーーー勿論ヤるに当たって周辺(半径10キロ)の野良モンスターはドラグブラッガーが消滅させている。

 

「だけどまあ……少し、疲れた」

 

「あ、お前も?」

 

「…………『お前も』?」

 

「あ゛…………………。あー、ソウダナー(棒読み)イヤー、実は最近?寝起きのストレッチが楽しすぎてサー(棒読み)」

 

いつになく(いつも以上に)動揺している亮介を訝しんでいると、ズボンのポケットから震えるスマホのバイブ機能がメールの着信を知らせていた。

 

『真司くんから聞いたよ。花鶏に帰ってきてるんだって?IS学園の話、密着取材させてくれるよね』

 

…………by 高倉芳乃

 

「真司ィィィィィィィ……!!!」

 

みしり、スマホが軋む音。

ヒィッ、突然の殺気に亮介の悲鳴。

バカ真司……断頭台で迎えて殺るよ……。

 

その頃の真司。

 

「どわっ!?なな、なんだぁ?……う、うぅ、寒……ど、ドラグレッダー」

 

『ガァァァァ(何よバカ真司。いつもいつも私を暖房代わりにして…。ま、別にバカ真司を温めるなんて私にとっちゃ朝飯前のようなものだけど。あ、バカ真司!も、もうちょっとひっついてあげても良いわよ?というか少し近くだけじゃ寒いでしょ?だ、だからもうちょっと抱きつきなさいって!その逞しい腕で私を抱き締めなさいって!…ああ、もう!)ガアアアアアアアアア!!!』

 

「あーー!!?俺の猪木コレクションー……」

 

ツンデレ頭のお花畑というか、妄想というか……ドラグレッダーがいる限り、男 城戸真司に平穏は、無い。

 

 

 

 

 

「なんだい、あんた達。揃いも揃ってしけたツラして」

 

「芳乃が来る……」

 

「アギト怖い……」

 

「俺の猪木ぃ……」

 

「………あは、は。亮くんと真司くんは別として。アギトくんはなんで芳乃さんを苦手にしてるの?」

 

喫茶店花鶏のカウンター席に突っ伏していると、神崎士郎の妹、神崎優衣が困ったように苦笑しながら話を振ってきた。

…俺が芳乃を苦手にしてる……か。

 

「………なんか、あいつがいると…気が狂うんだよ。なんか、むず痒いっていうか……んー……?」

 

「あー、それな。お前、芳乃さんと喋ってるといつもの皮肉屋気取った営業スマイルが全然働いてねーよなぁ。なんていうの?芳乃さんって隠し事しようと思えない人じゃん?誰にでも真摯に対応するし、そもそも顔が怖いし」

 

「亮介ぇ……。それ、芳乃さんには言わないほうがいいと思う。ぜってえ凹むから」

 

芳乃、あいつは何時も俺と喋る時、他の奴には見せないような顔をする。

……まるで、出来の悪い弟を優しく見守る兄のような……昔の、記憶の中に封印した、姉さん(千冬)のような……。

 

「やあ、空いてる?」

 

来たか、芳乃。

ライトノベル小説家で、ボウガンによる遠距離攻撃を得意とする仮面ライダー。

スキンヘッドにサイバーサングラスを掛けた893のような男で、今年の『勝てる気がしない有名人』トップ10入りしていた。

 

「初めまして。君が仮面ライダーリュウガだよね。僕はアルス。アルス・ウォルコットだよ」

 

「あ?」

 

サングラスを掛けたスキンヘッド893の隣、愛想の良い笑顔をした男。

白人らしい顔つきに身長も高い。

それとなく見れば身のこなしも只者では無いと思わせる上に、こいつは俺を知っている。

 

「………」

 

アギトは顔から表情を消し、鋭い眼光で男を、アルス・ウォルコットを睨みつけた。

 

「リュウ君。アルス君は私たちと同じ仮面ライダーだ。邪険にしないでくれよ」

 

「………ふん。俺は知らん、好きにすればいい」

 

アルスとか言ったこの男。

得体が知れない、俺の目で見てもあまり深く探れなかった。

……まあ、俺の目、なんて他人の自分に対する感情を知れるだけなんだが、こいつのはなんていうか……好奇心を押し殺してるような?

 

(フゥ〜!日本の有名な…アレ!そうだ!ツンデレってヤツですよね!芳乃さん!?)

 

(どうどう。アルス君落ち着いて……。後、ソレ、リュウ君の前で絶対に言っちゃダメだから!あの子すぐ捻くれるから)

 

「(そうなのかぁ……伝説の『ツンデレ』持ちと会えたと思ったのに)おほん。僕が今日来たのには理由があって……。今現在確認されている仮面ライダーと面識を持つためなんだ。理由は天災しかり、浅倉しかりね」

 

天災と浅倉、この二つの単語に反応する店内の人物。

その中、風霧亮介は視線を床に向け、握りこぶしをギュウ、と締め付けていた。

その力は食い込んだ爪のせいで手のひらに血が滲むほどで、彼の怒りを表現していると言える。

 

そしてもう一人、龍賀アギト。

アギトは先日浅倉タケ子に襲われる一歩手前の悪夢を見ていたせいか、その顔は既に真っ青を通り越して気絶寸前だった。

主人の危機に気付いたドラグブラッガーがEカップある胸でアギトの顔をサンドイッチすることで顔面を強引にプレスし、血の気を循環させようと試みている。

その甲斐あってアギトの意識が程なくして戻ってくるのだが、他人のイチャコラを見せつけられていた場の空気は白けている。

 

「………こほん。もちろんみんなにも僕と交流のあるライダーを紹介するよ。と、言っても、今日来てくれてるのもいるし、来てくれなかった契約者もいるけどね」

 

「ちょっと待て」

 

他の契約者を呼ぼうとしたアルスをアギトが止める。

怪訝な顔でアルスの元に来たアギトは耳元でぼそりと、

 

「亮介はライダーじゃない。あまり、関わらせないでくれ」

 

恐らく、このアルスという男はライダーの殆どを、野良モンスターの駆除や万が一暴走した際のIS勢力に対する抑止力に近い存在にしたいのだろう。

もちろん、アギトは別にそうなっても良いのだが、親友の亮介は仮面ライダーではない(……とアギトは思っているが、実は亮介も仮面ライダー)ので、出来ればあまり仮面ライダー側に居ついて欲しくないと考えていた。

 

(あれ?風霧亮介は仮面ライダーバードとしてこちらは確認してるんだけど…おかしいな?)

 

困惑したのはアルスだ。

そもそも仮面ライダーもしくは事情を知っている者だけが集っている花鶏にいる時点で風霧亮介は仮面ライダーか、それに近しい存在ですと言っているようなものだが、アギトはそれを知らないらしい。

困った挙句に風霧亮介を、そして芳乃へ視線を投げかけると、彼らも困ったような苦笑いを浮かべ出した。

 

(ちょっと今言い出すのは……出来ればカッコいいタイミングで正体を明かしたいじゃん?)

 

(うーん。オレは今の内がいいと思うけどなあ。後で…って、リュウ君が1番嫌いなパターンだと思うけど)

 

(……ま、まあ、様子見で行くことにしますね。アハハ……)

 

「じゃあ、ここからは秘密の話として。悪いけど亮介君は席を外してくれるかな」

 

「あー、いっすよ。んじゃ、また後でな、アギト」

 

「ああ」

 

カランカラン。

 

亮介はジャンパーを羽織って花鶏を出る。

どうせその辺をぶらぶらぶらついてくるのだろう。

 

「じゃあ気を取り直して……紹介するよ」

 

店に入って来たのは、紫色を帯びた銀髪の女と、体格の良い糸目の男、そして、服を着たゴリラだった。

 

…………ゴリラ。

 

(ゴリラだ)

 

(うお、凄えゴリラ)

 

(ゴリラね)

 

(ゴリラじゃないか)

 

(ゴリラ)

 

(ほんっと、ゴリラね)

 

(これ、全員からゴリラって思われてるぜ……いかに陽気なアメリカ人でも全員からゴリラって思われたら凹むぜ……)

 

ゴリラは泣いた。

鏡の向こうではゴリラよりゴリラなゴリラが腹を抱えてゴリラゴリラと笑っていた(?)。

 

「………ん?んん!?あれぇぇ?3人だけ?え?水無月さんは?青海くんは!?」

 

「ああ、アルス君。朧君は探偵の仕事と取材が。青海君は彼目当ての女性客が大勢病院に詰めかけててこれなくなったってオレの方に連絡来てたな。後、天野君は士郎君と出かけて、小野寺君は喫茶店の仕事。黒山君は面倒臭い……」

 

「オゥ、マジですか………」

 

思ったように動いてくれない契約者達。

彼らはそれぞれが自身の想像の斜め上を生きているのだとアルスは脳内で修正を加えていた。

 






ゴリラは……これからもゴリラであることを強いられているんだ!

ちょっと今回出せなかったライダーは次にでも出します。

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