仮面ライダーリュウガ 〜暗黒を纏いし黒騎士〜 作:人類種の天敵
『ふん、ハァッ!!』
振り下ろした剣、飛び散る火花、崩れ落ちるのは異形と呼べる二足歩行のロボット。
『どうしたぁ…もう終わりかぁ?』
それは、戦いと言えるのだろうか。
紫色の鎧を纏った騎士は高笑いを上げ、膝をついたロボットにさらなる追撃を加えていく。
ロボットの左肩は接合部が切れて地面に落ちている、剥き出しになった配線がバチバチと火花を散らし、右肩は爆発を起こして腕部装甲が吹き飛んだ。
『ハハハハッ!オラァ!』
完全に機能を停止したロボットを蹴飛ばし、意気揚々とその場を去る紫の騎士は、次の瞬間に荒々しい男へと姿を変えた。
「ハハハハハ……。久々に楽しかったぜ」
ボン!
「あぁ……?んだこれは」
男ーーー浅倉威が破壊したロボットが独りでに爆発し、一通の紙がひらひらと空を舞う。
怪訝な表情でそれを手に取った浅倉は直ぐに獲物を見つけた野獣のような笑みを浮かべて“招待状”を棄てた。
『クラス対抗戦の御案内』
「次の祭りの場所はァ……其処かァ……!!」
野獣が今、静かに解き放たれる。
ピピピピピ………
「くぁ……ぁ朝か……ドラグブラッガー」
朝、目覚めと同時に鏡に手を伸ばす。
鏡の中から龍の顔が現れ、それは次第に人の姿を形成する。
「……お前、何か食ったか?」
「っ!……///」
かぁぁぁ、と顔を赤らませてドラグブラッガーは顔を伏せる。
そんな彼女(?)の口元には何かの染みが。
「ミラーモンスターが引っかかったか」
シャツを着て、パーカーを羽織り、その上に特注のブレザーを。
盗難防止のために預けていたデッキを受け取りそれを鏡に翳す。
「変身」
仮面ライダーリュウガへと変身した俺は、契約モンスター達に餌を与えるためにミラーワールドに足を踏み入れた。
今日の餌→ついにやって来たワニ
ステータス→結構強いワニ
好物→ハンバーグが好きワニ
数分後、適当に餌を見繕い、契約モンスターの腹を満たすと、今度は自分の腹を満たそうと、食堂に行く準備をするために一度自室に戻る。
「これは」
驚いた。
既に部屋のテーブルには味噌汁、白米、生姜焼きと、朝食の準備が済まされていた。
「お前が作ったのか?ドラグブラッガー」
「こくこく」
当然のことだとコクリと頷きながらもその顔は満足感に満ち溢れ、頰は緩み、染みを拭った口元は無表情を装いながらも喜色を浮かべているためにムニュムニュ動いている。
「一体いつ覚えたんだ?こんな芸当……」
教えた覚えはないし、俺が起きている間はドラグブラッガーは絶えず俺の周囲を付き添っている。
それが擬人態であろうとモンスター態であろうとだ、つまりドラグブラッガーは夜な夜な俺が寝ている時間帯に料理の腕を磨いていたということだろうか。
「……美味い」
「っ!ふんすふんす!」
ぱぁぁぁぁ、と目を輝かせるドラグブラッガーに苦笑をしつつ、本当に何からこんな料理の作り方を学んだのだろうと頭を捻った。
♡今回の犠牲者♡
「えっ、アギトに料理を作りたいから教えて?」
『……ゴァァ』→ドラグレッダーを軽く捩じ伏せながら。
「あー、いいけど。もう夜だから今度の『ゴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』ハイ!喜んでやらせて頂きます!!」→真司涙目。
同居人が1人寝不足で上司に怒られているなど知らないアギトは朝食を平らると、コンコンと部屋のドアがノックされる。
「誰だ」
「……簪、入っていい?」
俺の許可も得ずに、更に言えば「入っていい」の時点でドアを開けて部屋の中に入る更識簪の傍若無人ぶりに目つきを鋭くさせるが、この女はそんなもの、何処吹く風と飄々とした態度で部屋に居座りやがる。
「……ふぅ、何の用だ?」
「今日は、クラス対抗戦」
ああ、アレか。
「ミラーモンスターに邪魔されたくないから、協力して」
「俺が?なぜ」
「織斑を叩き潰す」
いつもの無愛想な面とは思えない般若顔だ。
あの織斑に、余程の怒りを持っているというわけか。
「ふん、良いぞ」
「ありがとう。それと、あれは誰」
怪訝な表情を浮かべる簪の視線、その先にはいそいそと食器の洗い物に勤しむドラグブラッガーがいる。
この辺の雑事は花鶏の時に婆さんにしごかれたためにこなれているらしく、鼻歌を歌いながらピカピカに洗っている。
「俺の従者だ」
「………そう」
納得の意を示したものの、簪の目は全然信用していないらしい。
「………」
「………」
ドラグブラッガーが注いできたカフェオレを啜っていると、2人は互いに見つめ合う。
簪は訝しげに、ドラグブラッガーは「あ?何こっち見てんだ喰うぞ小娘」という具合だろう。
「簪、そろそろ行くぞ」
「………分かった」
部屋を出ると、ドラグブラッガーがぺこりと頭を下げて洗面所へ行った。
洗面所の鏡からミラーワールドに入ったようだ。
簪を連れた俺は、今日も同じようにSHRをすっ飛ばしてアリーナへと向かった。
「きゃぁぁぁ!織斑くん、ガンバッテー!」
「鈴!負けるなー!」
クラス対抗戦、その第1試合。
アリーナ観戦席は大いに盛り上がっていた。
何せそのカードは中国の第3世代を操る代表候補生と、男性初のIS操縦者なのだから。
「ドラグブラッガー、臭うか?」
『ググゥ……ゴァァ』
スマホの鏡面をグルグルと回遊し、首を振る。
ミラーモンスターはない、ただ、あの織斑と篠ノ之束だ、こんなイベント、嬉々として仕掛けてくるだろう。
ドン
「あっ……」
「………」
人とぶつかった、軽い衝撃が伝わり、ゆっくりと相手が倒れようとする。
軽く舌打ちしながらそいつの背中に手を回し、右足を前に、左足を後ろに出して堪える。
「………あ。……ありがとう」
自分が倒れなかった、目の前の人物が支えてくれたのだろう……と、おおよその事を理解した女は片手を上げて礼を述べた。
「………男?」
青い前髪で片目の隠れたそいつは眉を顰め、全身をジロジロと舐めるように見た。
「…………ああ、例の」
それだけ言って、俺の手を退けた女は人ごみに消えた。
『ゴォゥ……』
「………そうか」
そして俺も踵を返す。
「………臭うか」
試合開始の合図が高らかに鳴った。
中国代表候補、鳳鈴音と織斑の白式が激突する。
「わあ!織斑くん、避けてー!」
「へえ、数回乗った程度にしてはよく動くじゃない。あの子」
「流石千冬様の弟ね」
織斑一夏対鳳鈴音、戦況は鳳鈴音が押している。
迫り来る風の塊を、織斑は必要以上に避けている………まるでバカ真司を見ているみたいだ。
「うおおおおおおおお!!」
「一夏ぁぁぁぁぁ!!」
風の塊を見切った織斑が攻勢に転じる。
両手に握った実体剣でもって鳳鈴音へと襲い掛かり…………、
『ゴァァァァ!』
「………上か」
ズドォドン!!
「なに!?」
「なんだ!?」
突如アリーナ上空から何かが飛来した。
織斑と鳳鈴音の動きは止まり、その視線は自ずとアリーナの真ん中に鎮座する何者かへと。
「あれはなんだ」
細い体に不釣り合いな極太の両腕。
気持ち悪い。
「なに、あれ……」
「また、先日の怪物!?いやぁ!」
周りが騒がしくなる、ドタバタと自分だけが助かりたい女たちは我先にとゲートへ走り、周りが見えないために力の弱い誰かを押し倒し、蹴り、譲り合いを知らぬが為にゲート面積限界以上の人数で押し入ろうとしてつっかえる。
「……滑稽だ」
これが、ISを扱う女達、これが、アメリカを凌ぐ数のISを保有する学園。
「醜いな。…………いや」
「行くぞ!鈴!!う、ぉおおおおおおおおおおおおおおお」
そう言って、ひっそりとアリーナを見下ろす。
気合いと共に侵入者へと突っ込んだ織斑は、
『オラァッ!!』
「っ!?ぐぁ、ぉぅふっ………!」
侵入者の背後から現れた新手に鳩尾を強く蹴られた。
「それは俺も、俺たちも同じか……なあ」
『ハハハハハハハハハ、ハハハハハハハ』
紫色の装甲、その相貌はまるで蛇。
『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ』
古代エジプトで使ってそうな杖の形状をした剣を持ち、ぐりんぐりんと首を回した蛇は。
『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!!!』
名を、王蛇、その本名は浅倉威。
ライダーバトル当時、全仮面ライダーの中で最も戦いを渇望し、生と死の際に魅入られた男。
『祭りの場所はァァ……………!!』
正に、最狂のライダー。
『此ォ処かァァァアアア………!!!』
「ドラグブラッガー」
『ゴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!』
『アァッ……!?』
ドゴォォォォォォォォォンンンッッッッ!!
「よし、これで終わりだ、さっさと帰ろう」
…………………クラス対抗戦乱入戦王蛇戦、完?
浅倉=サンもこれで終わった…………