おやっさんはプロデューサー 作:デーモン赤ペンP@ジェームすP
忘れたころにシレッっとあげていくスタイル。いつプロデュース業に行けるだろうか
一年間であったことのひとつ
―池袋邸 探偵事務所―
日曜日。学生が、社会人の多くが、自由を謳歌するための日だ。そんな晴れた日曜日の探偵事務所には、三人の人間がイスに座っていた。一人は池袋 晶葉。もう一人は鳴海 荘吉。この家に暮らしている少女と、下宿させてもらっている男性だ
荘吉と晶葉は一列に並んでソファに座り、荘吉は正面を、晶葉は荘吉と正面を交互に見ていた
「なるほど・・・昨日の散歩中、近くで起こった事故に驚いた飼い犬が急に走り出した。同様に驚いていた君は走り出した飼い犬に反応できず、手に持っていたリードを手放してしまい、はぐれてしまった」
「・・・うん」
「そして探しはしたものの、最近引っ越してきたこともあって、周囲に何があるのかがわからず、よってどこに行ったのかも・・・わからない」
「・・・・・・うん」
「・・・そうですか」
彼らの正面には一の女性が人座っている。年は20台に入ったばかりぐらいだろうか、動きやすさを優先させているのだろう、黒地に文字入りのTシャツ一枚に、デニム系のジーンズを穿いており、髪は緩やかなウェーブのかかったショートカットがとても似合っている。見た目から体を動かすのが好きそうな人間だろうと推測できるが、今その表情は暗く沈んでいる。そんな彼女がこの鳴海探偵事務所の今回の依頼人である
「わかりました。まずはその周辺に行くとしましょう」
「よろしくお願います」
「荘吉さん。あの周辺って確か建物も多いし、けっこう広い自然公園があったと思うんだけど、どうするの?」
捜索に行こうと腰をあげる荘吉に晶葉が疑問をぶつけた。依頼人がイヌとはぐれた地点は交通量の多い道路で、付近には都会にしては、かなり大きな自然公園がある場所だった。もし自然公園に入っていたら、隠れるところは十分にある。かなり面倒なことになるだろうことは、すぐに予測できた
「なに、足には自信がある。それに首輪とリードをしているイヌが一匹で歩きまわっているのはかなり目立つ。目撃証言も聞いて回れば、そう遅くないうちに見つけられるだろう」
「そういうものなの?」
「そういうものだ。で、あなたはこれからどうしますか?」
「・・・私も探します。じっとしてられないですから」
依頼人の女性は、決意のこもった目で荘吉を見て、しっかりと告げる。できれば自分で見つけたいのだろう。前の世界から今まで受けてきた依頼を思い返し荘吉は、
「・・・なら探しに行きましょうか」
「いってらっしゃーい」
「・・・晶葉も来い」
「ウェ!?なんで私まで!?」
壁に掛けてある帽子とスーツを身に着けそろそろ出ようか、そんな時。さも当然のようにお見送りの挨拶をした晶葉だったが、荘吉の言い放った一言に驚愕した。それはそうだ。こんな天気のいい日に外に出る?私が?ありえない。どうして!?疑問が渦巻いた。その気持ちを正直に言葉にすると、それに対する答えが帰ってくる。それは
「その年で部屋にこもりっぱなしなのが気に食わん。それだけだ」
「何その理由!?」
「・・・ふふっ」
(晶葉にとっては)とてつもなく理不尽極まりない理由だった。それを聞いて晶葉は体全体を使って荘吉に抗議するが、当の彼は暖簾に腕押し、糠に釘、柳に風でしれっとしている。そんな二人を見て、依頼人の女性は、ほんの少し、笑顔を浮かべた
荘吉たち三人がたどりついたのは、いまだに交通事故の傷跡が残る交差点だった。車の部品であろう金属やらプラスチックやらの破片が散らばっている。流石に事故を起こした車両は撤去されており、人の往来はいつもと変わらない様子だ
「あそこが交通事故のあった場所で、ここがリードを手放した場所」
「うん、そのままあっちの方に走りだしちゃって・・・」
「・・・・・・」
そう言って女性は交差点の一方を見やる。改めて現場に来て当時のことを思い出したのだろう、その表情は暗い
あの時手を放さなかったら・・・自分がもっとしっかりしていたら・・・そんな考えが頭の中をグルグル回っているのだ
「事故現場とは反対に。あっちは確か、自然公園のある方だったか」
「そうです。私も事故のあった日に公園内を探してみたんですけど、その時は見つからなくて」
「・・・・・・」
荘吉が指さした方向。そこには緑が広がっていた。都内でも大きい部類の自然公園だ。もしここにペットが逃げ込んだとなると、捜索はかなり苦労するのではないか、そう思わせるほど緑にあふれた公園だった
「その時は他の場所にいたのかもしれません。公園を安全な場所だと認識していれば、そこを中心にウロウロしているはずです。保健所には連絡を?」
「しました。けど、それらしい子はいないって」
「・・・・・・」
「ならまだこの周辺、隠れる場所が多い公園にいる可能性は十分にあります」
「・・・そう、ですね」
「・・・・・・ねぇ」
彼が依頼人と情報交換をしつつ会話していると、さっきからずっと黙っていた晶葉が声をあげた。その声はさっきまで壮吉にギャイギャイわめきながら抗議していた元気がまるでない
息切れしていた
「どうした晶葉」
「大丈夫?えっと、晶葉ちゃん、だっけ?」
「・・・ちょっと、やすま・・・せて、ほしいです」
「まったく、体力のない・・・」
「・・・いやいや、私、技術畑の・・・人間、だからね?」
「家の外に出て体を動かさないからそうなる。自業自得だ」
「なんで、私が・・・こんな目に!?」
「理由はさっき言っただろう。体を動かせ。そろそろ行くぞ」
「なんだよその理由!?っていうか、休ませてって言ってるじゃん!あ、ちょっと待って・・・置いていか、ないでよ!」
晶葉の休ませて!という願いをバッサリ切り捨てて先に行く荘吉。そしてそれを慌てて、すこしよたつきながら追いかける晶葉。そして依頼人の女性は、晶葉に付き添うように後ろを歩いていく
「ふふっ」
その表情は、穏やかで自然な笑顔だった
「すいません、この付近でこの犬を見かけませんでしたか?」
「わんちゃん、ですか?ん~・・・あ、このワンちゃんならちょっと前に見ましたよ!」
「ホントですかっ!?」
「は、はいっ、たしか・・・あっちのほうで。リードを引きずっていたので覚えてますよ」
「ありがとうございますっ!」
「なら行ってみましょうか」
「だから・・・ちょっと、待っ、て」
ある時はカメラをもった少女に話をし
「この犬さんでございますか?見かけましたですよー」
「犬はどこで?」
「向こうのベンチでアイスを食べていた時でございますねー。アイスを少し落としてしまったときに飛びついてきたので、驚いたのを覚えていますねー」
「そうですか」
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえ、ライラさんとしても、お役に立てたのならうれしい限りでございますよー」
「ありがとうございました」
「犬さん探し、頑張ってくださいですよー」
「あの・・・休憩、を・・・」
「・・・大丈夫でございましょうかー・・・?」
ある時は公園でアイスを食べているアラブ系の少女から聞き込み
「その犬なら向こうのほうにいるのでしてー」
「・・・わかるの?」
「探し物がどこにあるのかー、なんとなくですがー、わかるのでしてー」
「・・・そっちのほうに行ってみましょうか」
「・・・・・・そうね」
「ハァ・・・ハァ・・・み、水を・・・」
「水ならあっちのほうにあるのでしてー」
「あ、あり・・・がと」
またある時には不思議な雰囲気をまとった女の子に道を示され
茂みを探したり、人づてに聞いて回ったり、自然公園を探してどれぐらいたったか。すでに太陽は西に傾き、公園の木々を赤く彩っている
探しものとは突然見つかるもので・・・
ワンワンッ!
一匹の犬が壮吉たちのもとに走ってきたのだ
「っ!わんこっ!」
「写真と同じ種類、首輪、リール。その子があなたの飼っている犬ですね」
「はいっ!本当に・・・本当にありがとうございました!」
再会できてうれしいのだろう、その犬はパタパタとしっぽを左右に振りながら依頼人の女性に飛びつき、顔をなめまわしている。探していた犬が見つかったからだろう、女性は涙を浮かべながら、笑顔でその犬を抱きしめていた
「おわった・・・やっと・・・・・・つかれた・・・もう、だめだぁ」
「ふふっ。晶葉ちゃんも、手伝ってくれてありがとうね」
「っ!?い、いや、別に・・・」
そんな光景を尻目に、前かがみになって両ひざに手をついた晶葉が息も絶え絶えに言葉を喉から絞り出した。一日歩き回ったのが体にキているのだろう。これで小学生というのだからもやしもいいところだ
そんな晶葉に女性は声をかける。一日だけだったけど、文句を言っていたけれど、それでもこうして一緒に探してくれたことへの感謝を込めた言葉だった
そんな言葉に目を丸くして女性を見た晶葉。すぐに意味を理解し、そっぽを向く。その耳が赤く彩られていたのは、夕日のせいだけではないだろう
「照れちゃって、かわいいなぁもう!」
「ひょわぁ!!か、かわいっ!?照れてなど・・・というか抱きつかないで・・・!うわぁ、犬まで!?ちょなめるな、くすぐったっ!やめ・・・ぐぁっ!足が・・・つる・・・っ!」
そんな晶葉の態度になにかがくすぐられたのだろう、女性はいきなり晶葉に抱きついた。抱きつかれるなど経験のなかった晶葉は焦ったり照れたり言い返したりするが、女性はなんのその、抱きしめながらナデナデに移る始末。それどころか探していた犬まで参加するからもう大変だ。晶葉はモミクチャになる前に抜け出そうとするが、ここで歩き続けた弊害が出た。疲労感や筋肉痛だ。動きが止まった晶葉
となる寸前で、二人と一匹の行く末を見守っていた荘吉が声を上げる
「これで依頼は完了、ということでいいですね」
「あ、はい。・・・今回は、本当にありがとうがございました」
「探偵として依頼を受けたんです。当然のことをしたまで」
女性の言葉に、さもあたりまえだと言わんばかりに、自然に言葉を発する荘吉。彼にとって依頼を達成するのは探偵として当たり前のこと。ストイックな姿勢をみた女性は、これ以上の言葉は無粋だと感じ、ただ一言
「・・・はい」
とだけ答えた
そこに、女性が荘吉と話し始めたことで、犬と一対一で遊んでいた(というよりおもちゃにされていた)晶葉が、犬を背負いながら(のしかかられながら)やってきた
「荘吉さ~ん、私疲れたよぉ。もうあるけなぃ・・・」
「・・・これから依頼があったら、ついて回らせることも考えたほうがいいな」
「ちょ、待って待って!そんなことしたら毎日こんなんじゃん!?」
「騒ぐ元気があるなら大丈夫だな」
「いやいやいや・・・っ!あ、あしがぁ・・・!」
まるで親子のようで、そうじゃない二人の会話。一方は静かにからかい、もう一方は大袈裟にリアクションしギャイギャイさわぐ。しかし二人の顔には、種類は違えど笑顔があった
「・・・あははっ」
(ここに依頼して、よかった)
その光景を見て依頼人の女性、水木 聖來は心からの笑顔で笑うのだった
こんな不定期どころじゃない作品を見てくれてありがとうございます