おやっさんはプロデューサー   作:デーモン赤ペンP@ジェームすP

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行きたい所に辿り着くことができるのか不安になってきた・・・
もし気長に待っていただけるのならば、短編で出しました「ダイジェスト」バージョンに目を通して

「こんな感じになるのかー」

と想像していただけたら


第四話 ―こちら鳴海探偵事務所―

○あれから1年がたちました○

 

 

 

東京都内にある住宅街、その中でも、とりわけ大きい部類に入る邸宅がひとつあった。敷地面積は一般住宅の二倍以上はあるか。そんな広大な土地にそびえ立っているのは、三階建ての一軒家、その大きさは三階建にも拘らず縦だけでなく、横幅、奥行も申し分なく大きい、むしろ少し分けてくれと言いたくなるような大きさを誇っている

 

三階部分はほとんどベランダになっており、一階の外からでも直接上ってこられるような構造になっている。そこは洗濯物を干したり、日光浴をしたり、はてはバーベキューでもやれるほどの広さがあるがベランダいっぱいにシーツやら衣服が干されているところを見るに、今日は洗濯物を干すために使用しているらしい

 

庭は芝生で、よく手入れされているのが見てわかる。門も立派で、高さ二メートル程の両開きの格子タイプだった。その門の横の表札には大きく「池袋」と書かれているのが見える

 

そう、ここはかの天才科学少女、池袋 晶葉のご実家だ

 

 

 

―池袋邸―

 

今この邸宅には二人の男女が住んでいる。一人はこの家の元からの住人で、先ほど名前が出た池袋 晶葉その人だ。今彼女は、二階にある自室で、ベッドの上で布団にくるまって眠っている。ついこの間まで機械をいじりながら寝オチしたり、使ったとしても仮眠程度だったベッドで寝ているのは、最近になって生活リズムに変化が現れたからだ。その表情はとても気持ちよさそうで、いい睡眠がとれていることを如実に物語っている

 

彼女の、正確にはベッドの周囲には機械の部品や、用途のよくわからない作品がちらほら転がっている。散らかってはいるものの、実はこれでもまだマシな方だと言える。半年前よりも以前は、これより輪をかけてひどかった。どれぐらいひどいかというと、技術畑の人間が見たら10人9人が「ゴミ屋敷」と発言するだろうぐらいひどかった。そのことを考えると、これでもかなり片付いているほうだといえよう

 

コン、コン、コンッ、と部屋の扉がたたかれる音がする。誰かが来たようだ。しかしベッドの晶葉は夢の中で発明の真っ最中で全く気がつかない。再度コンコンコンっ、とたたかれる扉。それでも彼女は夢から醒めることはなかった

 

晶葉の部屋の扉が開く。そこから男性が入ってきた。見た目30代前半のハンサムな顔つきの男だ。体はがっちりしており、背丈も180センチを超えているなかなかの男だ

 

その男が晶葉の眠るベッドへ、足元の発明品や部品を踏まないように近づく。そしてベッドにたどりつくとカーテンを開き・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっさと起きろ、この寝坊スケ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晶葉の布団をはぎとるのだった

 

 

 

・Side晶葉・

 

 

 

イヌが、いや動物全てが何を考えているか分かる発明品を完成させられる一歩手前で、眩しさと寒さで目が醒めた。朝?今のは夢か・・・残念、やっとわんこやペロと話せる機械ができたと思ったのに

 

 

 

 

「んぁ?ぅん~?・・・・・・むにゅう。ねむ・・・」

 

「・・・今何時だと思っている。朝飯ができてるから、早く食べてこい」

 

「・・・・・・まだ8時じゃないか、もう少し眠らせt」

 

 

 

起きぬけにかけられた言葉を聞いて、自然と部屋に掛けられた自作の時計を眺めた。時刻は8時を差している。この人が来る前で予定のない日ならば、おそらく余裕で寝ていた時間だっただろう。最近はいつもこの時間になったら強制的に起こされている気がする

 

でも眠い。昨日も日にちをまたいで機械をいじっていたから眠くて仕方がない。そんなこと考えてるうちに眠気がまた・・・このまま、ねちゃいそう・・・

 

 

 

コツン

 

 

 

「いてっ・・・なにするんだよ『荘吉さん』」

 

「朝飯ができてると言ったんだ。早く食え。それと早く着替えろ。それが最後だ」

 

「ちぇー、わかったよ」

 

 

 

頭を軽く優しく小突かれて、眠気がどこかへ行ってしまった。荘吉さんも私が起きないとここを動かなそうだし、ベッドから起き上がることにする。立ち上がって背伸びをすると、ぽきっ、こきっ、と小気味イイ音が聞こえてきた。荘吉さんに教えてもらった、朝を快適に起きるためのちょっとしたコツらしい。これをやると確かに、体がスッキリするんだよなぁ

 

 

 

「よしっ起きた!荘吉さん、今日の朝ご飯は?」

 

「サバ味噌と炊き込みご飯だ。顔洗って歯を磨いてこい。待っておいてやる」

 

「は~い!」

 

 

 

今日は和食かぁ、楽しみだなぁ!よぉっし、そうと決まれば洗面所にゴーだ!今ならごはんもお代わりできる気がするぞ!

 

 

 

・――・

 

 

 

・Side壮吉・

 

珍しく朝食の白米をおかわりした晶葉と共に朝食を食べ終わった後、使った食器を(晶葉作の)食洗機(霧吹き洗浄ロボMark3,5)に入れるために食器を運ぶ。形はどこの家庭にでもありそうな形の食洗機なのだが、晶葉いわく、ロボらしい。それと「3日間放置したカレーの汚れすらノックアウトする」とか。コイツは俺がここに来る半年前ほどにできた開発品で、専ら以前雇っていた家政婦が使用していたらしいが、今は俺が使っている。現状、この食洗機には大分世話になっている

 

洗浄から乾燥まで10分かからないというのは、正直感心する。どうも霧の力で汚れを浮かせて落とすらしい。そんな技術を使っているのに、一番手がかかった点は、電気代が市販のものと変わらないという。あいつの技術はどれだけ進んでいるのか、これが市場に出回れば確実に、大いに売れるだろう

 

 

 

「荘吉さん、私は研究室にいるから、何かあったら電話なり部屋に来るなりしてねー」

 

「ああ、わかった」

 

 

 

食器を放り込んだら、晶葉は早々に地下にある研究室に歩いて行った。研究室は部屋でするのとは違う、大きな発明のための部屋で地下にある広い部屋だ。かなり広かったのを覚えている

 

それに返事をした後、俺は晶葉の着替えた衣類や残りの洗濯物を洗濯機に放り込むために洗面所に行く。そこに備え付けてあるのはこれもまた晶葉作の洗濯機(球状洗濯ロボプロトタイプ)だ。どうもドラム式洗濯機のその先を目指したらしいが、深い内容ついては割愛する

 

その洗濯機に、先ほど晶葉が着ていたパジャマやシーツなどを放り込んでいく。球状の中身にどう洗濯物放り込むかというと、球状の洗濯層の上の部分に開閉部分がある。そこに放り込む。それだけでいい。洗い終わったら開閉部分がまた上を向く様に設計されているらしく、今までなにか不具合があったこともない。洗濯されたものもきれいに仕上がるから文句の一つも出ない。以前来ていた家政婦が使っていた時も高評価をもらっていたようだ

 

その家政婦だが、俺がここに来ることになったのと入れ替わるように去って行った。少し話をしてみたが、「前々からここはやめるかどうか考えていた。西園寺邸と桜井邸だけでもかなりの稼ぎになるしね」とのこと。ちなみに60を越えたふくよかな女性だったと言っておこう

 

 

 

 

 

 

・・・何故探偵の俺が晶葉の家にいて、寝ている晶葉を起こし、朝食を作り、片づけ、洗濯しているのか、それは1年前までさかのぼる。目を覚ました俺は、医者の篠原と「この世界でのこれから」についてを考えていた。探偵としてやっていくには、そのために衣食住、とりわけ住むところをどうするか考えていたとき、晶葉が、「私のところに~」といったことが発端となった。最初それを聞いたときは何を考えているのかよくわからなかったが、晶葉のあたふたしながらの説明と、篠原からの詳しい話を聞くうちにその内情を理解した

 

金銭面で既に世話になっているのは確かだが、しかしそれはそれ、と考えて晶葉の家に邪魔することを決意した。流石に治療費云々を払ってもらっているうえに、タダで家に転がりこませてもらうわけにもいかないので、晶葉の家の手伝いをして家賃の代わりにする、いわゆる下宿という形にすることにした。晶葉は別に良いと言ってくれたが、俺個人のケジメとしてそれは譲れなかった

 

それと並行して、あまっている一室を借りて探偵業をやらせてもらうことにした。たとえ俺を知るものがだれ一人いない世界だとしても、今まで積み上げてきたものがない世界だとしても、それは俺が探偵をやめる理由にはならない。ただ仕事の内容や量が変わるだけ。また駆け出しになったと思えばいい。そう思い、晶葉に相談した結果、現状に至っている。今は探偵業をしていない時は池袋邸の家事をしている

 

篠原のところには、最初のころはケガの回復の経過を見るために通っていたが、驚くほど速く傷が癒えたことでしばらく寄っていない。晶葉のことが心配なのか、二週間に一回ぐらいは電話をよこしてくる。晶葉も前は病院に足を運ぶことが多々あったらしい。俺が転がりこんでからは、家にいることが多くなったので、寂しいのもあるのだろう

 

 

 

「そろそろ出すか」

 

 

 

もう1年前になる病院での話し合いや、ここで探偵業を始めるためのキッカケを思い出しながらそう一人ごち、時計を確認する。時計の針は九時を指そうとしているところだった。俺は玄関から外に出ると、近くに立てかけていた看板を持って門の外に行く。看板の大きさは俺の胸くらい、150cmより低いぐらいだ。その看板を門の横に立てかけ、風で倒れないように仕掛けを作動させる。これでわかるだろうが、この看板も晶葉作だ。仕掛けについては語る必要もないだろう

 

看板にはこう書かれている

 

 

 

 

 

 

 

「鳴海探偵事務所」

 

「落し物の捜索や人探しなどなど、なんでもやります」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでもやるとは言ったものの、今じゃ万屋だな」

 

 

 

苦笑いを浮かべ、誰にも聞こえないような声でそう漏らす。この「何でもやります」のフレーズのせいか、ここ1年間、いろんな依頼がやってきた。その内容はざっと思い出してみてもろくなものではないものが多い

 

イヌやネコの捜索だったり、ストーカーをなんとかしてほしいだったりはまあいい

良い雰囲気のBarやうまい居酒屋の情報収集、酔いつぶれた女性たちのための運転代行、芸能プロダクションのモデル代役など・・・

 

もし風都にいたときの俺なら、「出なおして来い」か「他を当たってくれ」とでも言ったであろう、贔屓目に見ても探偵の仕事とは言えないようなものも多かった

だがこの世界の俺は駆け出しの探偵。仕事のより好みはできる立場ではない。これもまた人生経験、と割り切り、できることはやることにした

 

結果、この1年というわずかな期間で少しながらながらも良好な評判を得ているらしい。わざわざ晶葉がネットで調べて教えにきた。その時のあいつは、事務所の評価を自分のことのように喜んでいた。その笑顔を見たら、小さなことに悩んでいるのがバカらしくなったものだ

 

さてさて。今日は依頼人が来るだろうか、来るとしたらどんな依頼が来るか、落し物の捜索か、人探しか、また探偵の仕事とはいえないような変化球でも来るだろうか、バーの情報収集は飲みに行く店が見つかるので俺としてもありがたいが、運転代行は勘弁願いたいところだ・・・

 

 

 

「さて、今日も仕事を始めよう」

 

 

 

これが今の俺の探偵ライフ。翔太郎が見たら驚くのは間違いないだろう

 

だが・・・こんな日々も悪くない

 

空を眺めてひとつ伸び、気分のギアを仕事モードへシフト、する前に

 

 

 

「・・・洗濯機が止まっているころか。先に干しに行くか」

 

 

 

昼飯に掃除に・・・まだまだやることはありそうだ。俺はそう思いながら池袋邸の門をくぐり、玄関の中へと歩いていく

 

どんな依頼が来るかに思いを馳せる。願うなら、こんな平和な日が続いてくれるように願おう

 

 

 

 

 

 

 

鳴海探偵事務所、本日も開業。だ

 

 

 




一年間にあったことは閑話として描くかもしれません

とにかく言えることは、この世界の荘吉、探偵らしい仕事してないかも・・・(震え声

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