蒼い月光と紅い皇炎   作:月詠 秋水

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投稿が遅れて申し明けありません。

第1章はこれにてお仕舞いでございます!

次からは入学編、2章が始まります!


9頁 聞かされた真実、固めた決意

僕は……

 

「え、今日だけと言わずに入学式までそのままでいろ?」

 

「そうじゃよ、ソッチの方も人気じゃからな。城の皆の士気が上がって良いと思うのじゃが」

 

なんと、入学式の日まで女性の姿でいろと言われた。

 

「流石に寝間着は持参してきた奴でも……」

 

「あ、すまぬ。もうすでにここにあるぞ」

 

伯父様の手を見てみると、フリル付きの可愛らしいピンクのパジャマがあった。ゲンナリしつつ、僕は部屋に戻った。すると、雅が笑いを堪えながら愉快そうに話してきた。

 

「お……おかえっ…プククッ……」

 

笑いを堪えている姿は、すごくプルプル震えていた。もう突っ込む気にもなれず、布団に寝転んだ。今日はなんて日だ……と落ち込んでいると、雅が僕の髪を撫でた。

 

「んっ……」

 

結んでいないため、あまり髪の毛の抵抗が少なく気持ちよく感じた。落ち着くような

、懐かしいような……。

 

「まぁ、女の子の格好でも冬風は冬風よ。私の大事なパートナーには変わりないわよ」

 

「ありがとな」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

僕はベッドから起き上がり、雅の方に向いた。僕が微笑むと、雅も微笑んだ。

 

「……入学式まで、あと少しか…早いな」

 

「そうね、人間の感覚だと早く感じるわね」

 

それはつまり、神の感覚では遅く感じられるということか?種族ごとに時の感じ方は異なるのかな……

 

「そう……だね」

 

雅に髪を撫でられながらごろごろしていると、突如ドアからノック音が転がってきた。

「冬風君、少々いいかな」

 

ノックの正体は伯父様だった。僕は即座に起き上がり、ドアを開けて部屋の中へ迎え入れた。

 

「如何なさったのですか?」

 

「もうそろそろ冬風君と夢依も入学式じゃろ?」

 

「そうですね」

 

「それでだ、新入生のリストを見ていたのじゃが君と同じ村……エーテル出身の子の母君がフィリアスの魔法学園に来てたそうなのじゃ、幸い入学はまだしないらしいがの」

 

「……っ!」

 

僕は血の気が引き、冷や汗が出た。呼吸が苦しくなり、息が整えられず僕は膝をついた。

 

「な……どう……して…」

 

「気持ちは分かる、じゃが……なにかおかしいのだ」

 

そう、エーテルにも若霧魔法学園はあるはずだ。それなのに……まるで、僕を追ってきたかのようにフィリアスの方に来るとは。

 

「そう……ですね、なんとなくですが……嫌な予感がします」

 

僕が一番恐れているのは……僕が手をかけた人たちの中の遺族、又は関係者じゃないかということだ。もしそいつが公に僕の過去を話したとしたら……

 

「一応探っては見る、じゃが学校で接触しないとも限らんのでな」

 

「……肝に銘じておきます」

 

「一番簡単なのは、名前を変更することなのじゃが……」

 

「それは多分無理でしょう、何せこの名前で登録しちゃってますし」

 

「そうなのだ、それが……」

 

僕と伯父様は考えた。どうにかしてこの状況を打開できないかと。でも、いい案は生まれず、僕は焦りを感じた。

 

「あ、あの……その人の名前分かります…?」

 

とりあえず名前を聞いた。もしその人が関係者だとしたら、僕は聞き覚えのあるはずだから。

 

「すまぬ、それは極秘機密事項なので話せぬのだ」

 

「そう……ですか」

 

僕はがっくりと肩を落とした。伯父様は(こちらも全力を尽くしてサポートするからな、安心せい)とだけ言い残し、戻っていった。

 

「はぁ……」

 

胸が締め付けられるようで、すごく息苦しい。思い出したくないことを無理やり思い出させられ、これから毎日同じ場所に居なくてはならない。決して逃げることの出来ない呪縛……

 

「忍……今頃まだベッドの上で寝ているのかな、それともまだ……」

 

最悪の結果だけが僕の頭をよぎり、僕を苦しめた。しばらくすると呼吸は少し楽になり、心もだいぶ静けさを取り戻してきた。

 

「……大丈夫?」

 

「なんとかね」

 

危うく泣くところだった。泣き虫なのは変わってないのが少し悲しいところでもある。僕は改めて腹をくくる事にした。でもヤケクソにはならない。皆に過去がばらされても、僕は夢依を守りぬく。ただそれだけだ……それに、伯父様は”母君が見に来てた”と行っただけで、”入学する”とは言っていない。だから接触することは…無いと思う。

 

「それにしても……腑に落ちない」

 

「どうして?」

 

「だって、入学するのであれば当の本人も来なければならないはず、なのに母君だけ来たということは……」

 

「おそらく、入る確率は低いと…?」

 

「うん」

 

そう考えると、少し気持ち的に楽になった。僕はその後夕食を済まし、風呂に入り自室に戻った。いつもどおり髪を乾かし、櫛でとかす。そして寝ようとしたが、心がもやもやして眠れなかった。時刻を見ると、夜の11時を示していた。僕は眠くなるまで

中庭に出ることにした。中庭に出ると、涼しい風が柔らかく吹き草木の匂いがする。月は満月で、すごく綺麗だ。

 

「そうか、今日は満月だったのか…」

 

「綺麗ね……」

 

雅と一緒に中庭のベンチに腰を下ろした。皆が寝静まってるからであろうか、雑音が全く聞こえない静寂な夜。すると雅が、服の裾から盃と酒を取り出した。

 

「冬風、ちょっとだけ付き合ってよ」

 

盃を手渡され、その中に酒が注がれた。盃の中に月が映しだされ、水紋と共にゆらゆらと揺れている。

 

「それじゃ……」

 

「乾杯」

 

盃と盃をコツンとくっつけた。雅はクイッと飲み干したが、僕は少しずつ飲んだ。やはり酒というのは飲むと喉が熱くなる。少し程度なら僕も飲める様になったようだ。

「これからどんな学校生活が始まるんだろうね…」

 

僕は雅に問いかけた。

 

「それは冬風次第よ、夢依以外にも仲良くするもよしだし」

 

「う、う~ん…」

 

僕は男友達を作ったことはなく、あまり人と接するのは苦手なのだ。特に学校ともなると、人目が多く気配も多い。落ち着ける場所など限られているのだ。

 

「大道……だっけか、あいつは結構良い奴だったよ。あの時僕達を助けてくれたしね」

 

「ふ~ん、やっぱり人は見かけによらないって事だね」

 

ニヤニヤしながら僕を見てくる。

 

「何笑ってんだよ、全く」

 

ため息混じりに月を見上げる。綺麗な満月と、それを取り囲むような小さい星々。幻想的で、僕は見入ってしまった。

 

「そう言えば冬風は夜空を眺めるのも好きだったわね」

 

「うん、こんな広大な宇宙で綺麗に輝いてる。力強く、儚げに輝いてる姿は……幻想的だよ」

 

中庭に出てからどのくらいの時間が経ったのだろう、僕の中のモヤモヤはすっかり消え失せ無くなっていた。

 

「さ~てっと、スッキリしたことだし部屋に戻ろうか」

 

「そうね」

 

僕は両腕を思いっきり伸ばし、中庭への出入り口に足を向けた。するとそこには、夢依が立っていた。

 

「……何してたの?」

 

どうやら僕達が中庭に居るのが気になり、様子を見に来たのであろう。

 

「ちょっと夜風に当たってただけだよ」

 

「そっか……そう言えばそうよね、今日はいろんな事があったんだし」

 

少し元気が無い感じだった。

 

「どうしたの、どこか具合でも?」

 

訪ねてみると

 

「ううん、ただ……冬風の事が心配になったの。学校でも上手くやっていけるかどうか」

 

「大丈夫だよ。それに僕は夢依を守ると約束したでしょ?だから僕は逃げない。これ以上逃げてもその先は……何も無いからね」

 

苦笑いしながら肩を竦めた。夢依は少し不安そうな顔をした後、微笑んだ。

 

「そう、ならお言葉に甘えて……お願いね、冬風」

 

「お任せを……夢依」

 

僕も微笑んだ。こうして少し話した後、僕達は解散して各部屋に戻った。

 

「うぅ……少し長居しすぎたかな?」

 

長く外に居たせいか、凍えていた。僕は素早く布団に入り、暖を取りつつ眼を閉じた。

父様の消息はまだ不明、秋水兄様の容体も分からない。忍の容体も……そんな不安と闘いながらも、大丈夫なことを祈りながら眠りについた。

 

澄み切った夜空に浮かぶ白い満月と無数の星々。星の数だけ出会いと別れがあると聞いたことがあるけれど、僕は未だに分からないままだ。だって、出会いは運命で別れも運命なのだから。現実は残酷で容赦なくて酷いけど、それも運命なのだと言うのなら……僕は逃げずにそれと向き合わなければならない。真実から目を背けるのはもう終わり、今度からは……ちゃんといろんな事に向き合って行こう。

 

そして、胸を張って生きていけるようになりたい。人間の強さは力だけじゃない、精神面的な意味も含んで初めて強いと言える。今のこんな僕じゃ、父様に嘲笑われるだけだ。もっと強くなり、今度こそ大切な人を守り切れる自分になりたい。あの時月を見て願ったのはそれだ。

 

~星々に願いを込めて、祈りを託す。それが廻りて星となり、光り輝く。~




1章いかがでしたか?

あまり時間が無いので、そこまで凝ったことは出来ませんがあしからず(苦笑)

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