蒼い月光と紅い皇炎   作:月詠 秋水

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こんにちは、秋水です。

構成変更中、まだ変更前だと1話の途中だということに気が付き内心苦笑でした\(^o^)/


7頁 最悪の事態

目が覚めると、僕はベッドの上だった。隣には心配そうに見つめる夢依と、伯父様の姿があった。

 

「おぉぉ…眼が覚めたか、冬風君!」

 

「冬風……っ」

 

嬉しそうな伯父様と、夢依が僕の顔を覗き込んできた。僕はどのくらい気を失っていたのかと聞いてみた。

 

「ざっと1日じゃ」

 

つまり、丸一日寝てたわけか……

 

「ご心配おかけして、申し訳ありません……なんと詫びたら…」

 

「詫びなど良い、無事で居てくれればそれで良いのじゃ」

 

落ち込む僕の頭を、伯父様は優しく撫でてくれた。僕は包帯ぐるぐる巻きの体を起こし、微笑んだ。

 

「ありがとうございます、おかげさまでもう良くなりました」

 

立ち上がろうとベッドの端から出ようとした瞬間、夢依が泣きながら抱きしめてきた。

 

「ぐふぅ…っ」

 

勢いが良かったため、腹部がすごく痛んだ。そのため、少し顔を顰めたが夢依は僕の膝にボロボロと涙を零していた。

 

「ごめんね…私が、私が弱いせいで……こんなに痛い目にあわせちゃって……」

 

涙を零しながら、必死に謝ってきた。僕は夢依の頭を撫でながら言った。

 

「大丈夫、夢依のせいじゃないよ。夢依は最後まで諦めずに抵抗してたじゃないか、あそこまで出来れば弱くないよ。それを言うんだったら、僕が弱いせいであんな怖い思いをさせちゃって……ごめん」

 

「冬風のせいじゃない、私のせいよ……」

 

これは……無限に続きそうなので、ここで言葉を切った。かわりに、夢依が泣き止むまで頭を撫でていた。

 

「それで、そのガラの悪い奴らはどうしたんじゃ?」

 

伯父様が聞いてきた。

 

「そいつらなら、片方の腕の骨を潰した後にもう片方の腕を消し飛ばしてきました。切断と同時に血管同士で接続させたため、多量出血で死ぬことは無いと思います」

 

僕は平然と答えた。伯父様は少し驚いてから、そうか…と笑った。

 

「冬風君、君の実力は分かった。是非、これからもよろしく頼みたい」

 

改まって頭を下げてくる伯父様。僕は戸惑いながらも、承諾した。そして、安心した顔で微笑んだ後に、皇玉の間へ戻っていった。仕事があるみたいで、ない時間を縫い合わせて僕の様子を見に来てくれていたみたいだ。伯父様は……本当に昔から優しい御方だ。その頃には夢依は泣き止んでいて、僕のベッドの端の方に座っていた。

 

「……かなり心配かけちゃったみたいだね、ごめん…」

 

僕は謝ることしか出来なかった。誰にも心配をかけたくないという思いとは裏腹に、僕の軽率な判断のせいで迷惑ばかりかかってゆく。でも……あそこで夢依に何かあったら僕はもう、生きている価値が無くなる。守ると言っておきながら守り切れない自分なんて……僕は少し落ち込んでいた。

 

「……今回、多大な迷惑をかけたお詫びに夢依の言うことをなんでも聞いてあげるよ、何がいいかな?」

 

「えっ……いいの?」

 

なんでだろう、さっきまで泣き顔だったのに……あっという間に泣き止んじゃったよ。なんというか……感情のコントロールが上手いのね、夢依は。心の中で感心していると、夢依はまだうぅ~ん……っと唸っていた。余程決めかねているようだ、無茶ぶりが来なきゃいいけどな。そんな期待を、夢依はあっさり裏切ってくれた。

 

「じゃあね……女の子の格好して?」

 

「………?!」

 

僕は驚きのあまり、声にならない声を上げてしまった。まさか男の僕にいきなり女装をしろだなんて……

 

「あのさ、僕は男だよ?それに女性用の衣服もないしちょっと無理があるというか……」

 

僕が色々言ってると、後ろから雅が拘束してきた。

 

「えーい、男の子に二言は無い!なんでもするって言ったんだから女装でも何でもしなさい!」

 

「大体、僕に女装は……」

 

「大丈夫、私と夢依が可愛くしてあげるから!」

 

……そう言い切った雅の顔は、恐ろしく感じるほど清々しい笑顔だった。夢依なんてもう…メイク道具まで持って来ちゃってるし、僕に逃げ場なんて無かったんだ。

 

「はぁ……分かったよ。ただし、女装はこれっきりだからね!」

 

僕はそう言うと、縛ってある髪を解いた。その後に夢依が用意した女性用の服を着用した。セーターに少し短めのスカート、下はパンストだった。別室で着替え終わり、夢依と雅の前に姿を見せた。正直言うと、2人にドン引きか爆笑されると思っていた。しかし現実の反応は違った。

 

「何……これ」

 

「嘘……シャレにならないほど違和感ない。女の子って言われたら迷いなく信じちゃいそうなほどに可愛い……」

 

二人共、僕はまだ化粧すらしてないのに……まさかと思いつつ鏡を見てみた。そこには、僕ではない誰か……可憐な少女が写っていた。

 

「あれ…?鏡って自分の姿を映すものだよね?僕じゃない誰かが映ってるんだけど……この女性誰?」

 

僕は僕自信の姿に驚きを隠せず、自分だということを否定していた。自分で評価してみると……母様から譲り受けた顔立ちとこの髪の長さ、目の大きさや唇の色合いなど……スッピンのままでも女性として認識するには十分だった。夢依に借りたセーターは体のラインを強調するタイプで、パッドを入れているせいか胸が少し苦しかった。一見スラっとしている美少女に見えた。これが僕の率直な感想だ。勿論口には出さないけど。でも、いくら似合ってても僕はそろそろ高校に上がるわけだし……もうやらないと心に決めた時だった。

 

「……今度色んな服を揃えなきゃ」

 

夢依の言葉が初めて恐ろしく感じた。すると、雅が更に怖いことを言い始めた。

 

「ゴスロリや和服……メイド服なんてのも良いんじゃない?」

 

「後は……ナース服とか制服とか後は……」

 

雅の言葉につられて夢依も語りだした。なんでだろう、この先の未来がすごく不安だよ……特にナース服やゴスロリなんてもの着せられた日には、僕は恥ずかしさのあまり爆発四散して消え失せるんじゃないかな、割と本気で。

 

「と、とにかく……もう着替えていい?」

 

少し声のトーンを上げて話してみた。元の声が高いから、少し上げれば少しは違和感も和らぐと思うのだけれど……

 

「駄目!今日一日だけでいいから……その格好で居て?」

 

「うっ……」

 

縋るような眼で見てきた。やめてくれ、そんな目で見られたら……着替えようにも着替えることが出来ないじゃないか。

 

「分かったよ……はぁ」

 

僕は頭を掻きながら、諦めた。こうして僕は、今日一日女装を強いられることになった。自分のせいだとわ分かっていても、何故か悲しくなってくる。男の自分が可愛いなんて言われるのは、心境的にちょっと……来るものがあるけど、夢依が喜んでくれてるなら……まぁいいか。

 

「ねぇ、ちょっとお祖父様にも見せたくなっちゃった。一緒に来て」

 

「え……えぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

僕は返事の有無も聞かずに、手を引っ張り皇玉の間に連れて行く夢依に呆れた。僕の絶叫は久遠の彼方に消え去った。夢依に引っ張られてる最中、多くのメイドの視線が痛かった。

 

「お祖父様、夢依です」

 

「うむ」

 

皇玉の間へ着いて、夢依が扉を開ける。中には王座に座っている伯父様と、執事の雄斗さんが立っていた。僕はその前に夢依と立たされた。

 

「何用じゃ…?それと、その子は……?」

 

「この子は誰でしょう?」

 

夢依はふふふっという含みのある笑いをした。伯父様は首を傾げていた。

 

「はて……?」

 

「むむ……」

 

雄斗さんも流石に唸っていた。

 

「正解は……冬風でした、私が女装させてみました」

 

てへぺろという顔であっさり答えをばらしちゃったよ。僕は腹を括った。しかし、

「「な……何!」」

 

伯父様と雄斗さんの反応が被り、はもった。僕の中では非難の眼が来るんだろうなと、正直怯えていた。

 

「どう、感想は」

 

自信満々に胸を張る夢依。すると、伯父様は厳格な顔つきで雄斗さんに何やら支持を出していた。僕は聞き耳をたてていると……

 

「雄斗、今すぐにナース服の手配を…あと、メイド服も忘れるな」

 

「畏まりました」

 

雄斗さんは頷くと、ものすごい速さで皇玉の間から消えてった。僕は唖然としつつ伯父様に感想を聞いてみた」

 

「あの……やっぱりおかしいですか?」

 

「とんでもない!むしろそっちの方がよく映えるぞ」

 

なんと親指立ててグットサインを出した。予想と違う答えに、僕は転けそうになってしまった。

 

「え……えぇぇ~……」

 

今までにこんな困惑したことはない。生まれて初めての感じにすごく戸惑った。女性の眼ならまだ納得がいく。しかし男性の眼で……そんな目で見られると、怖いというか……

 

「この儂が許可する、冬風は今日一日その格好で居るように!……頼む、居てくれ~」

 

なんて威厳の欠片もない台詞……こういうやり取りをしている最中、雄斗さんが戻ってきた。……大量の女性服を抱えて。

 

「ゆ、雄斗さん……脇に抱えてる布は一体…」

 

「勿論あなたに着せるための服ですよ?冬風君……いえ、お嬢様」

 

「お願いですから呼び方まで変えないでください」

 

ため息混じりに言ったせいか、僕の言葉なんて聞こえていないようだ。あっという間に試着室が作られ、僕は大量の女性服とともに突っ込まれた。

 

「あ、あの……何を着れば」

 

「「「まずはメイド服をお願いします」」」

 

まるで打ち合わせでもしたかのように息ぴったりな返答。僕は仕方なく着替えた。

 

~数分後~

 

「着替え終わりましたけど…」

 

顔を赤くしてもじもじしながら出ると、伯父様と雄斗さんは鼻血の海に沈んだ。夢依はめっちゃカメラで激写してきた。

 

「こ……これは…」

 

「凄い破壊力……ですね」

 

地面に伏しながら鼻血を止める2人。僕は顔を真赤にしながら呆然としてた。その瞬間、見計らっていたかのように扉の向こうから城全員の使用人さん達が押し寄せてくる。

 

「な……何なんですか!」

 

あたふたしていると、雄斗さんが口を開いた。

 

「服を借りる際に事情を話したら……皆が見たいと仰るのでつい……」

 

「ついじゃないですよ!どうするんですかこの状況!」

 

僕は恐る恐る後ろに振り返った。すると……

 

「あぁ、まさか冬風様のこのようなお姿が拝見できるなんて……幼少の頃から見守っておりましたが、ご立派に……」

 

「う、美しい……すごく似合ってる」

 

皆の絶賛の声が心に痛い。……母様、僕はどうしたら良いのでしょうか。帰ってくるはずのない問を、心の中で呟いてた。

 

「どうするかのぅ……暫くこの姿で居てもらおうかな?」

 

「その方が宜しいかと…」

 

「私もそれに賛成」

 

そして僕無しで話は勝手に進められ、反論することすら出来なかった。こうして僕は4月の入学式まで、女性の格好をさせられるのでした。その日、僕は文房具を新しいのを買おうと思い出かけようとしてたのに……

 

「あのう、外に行く時だけ女装解いても……」

 

僕の言葉は途中で遮られた。

 

「駄目じゃ」

 

「容認できません」

 

「嫌よ」

 

………

 

「分かりました、それではあまり目立たない服装に着替えます」

 

僕は試着室に戻り、雄斗さんが持ってきた女性服の山を探った。あるのは……(ナース服)と(女性用の水着)と(純白のワンピース)と(ゴスロリ)と(巫女服)と(セーター)……まともなのが少ししかない?!諦めてセーターとスカートを着用し、上からコートを羽織った。

 

「じゃあ、僕はこの服装で少々買い物に行ってきます」

 

「あ、私も行く~」

 

「気をつけて行くのじゃぞ?」

 

「ナンパにはくれぐれもお気をつけを」

 

野次馬の使用人たちの中を、夢依と手を繋いで通って行く。


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