蒼い月光と紅い皇炎   作:月詠 秋水

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どうも、月詠秋水です。


今回からは第○章 ○頁……という感じで進めていきたいと思います。


第1章 1頁”最強の契約者と紅蓮の皇女”

雅が霊化し、寝起きでぼ~っとしている冬風をリードした。雅は霊化している間は声は出せない、だから念話で話しかけている。

 

……そうすれば心のなかで会話できるからだ。冬風はゆっくりと席を立ち、体を伸ばし背中を鳴らした。ゴキゴキっという快音を放ち、やがて全身まともに動くようになってきた。荷物を持ち、馬車を降りた。外はまだ寒く、鞄の中に入っていた黒いコートを羽織って街の門をくぐった。通りに出てみると、すごく人の多い……まるで中世を思わせる趣のいい街があった。

 

お金は兄である秋水から頂いているし、出発してから1日は経っている。今の時刻は午前の…9時、長旅で完全に腹を空かせていた。冬風はあたりを見渡すとすぐそこにパンを討っている店があることに気付く。そして近くにある店でパンを購入し、急いで食べてから地図通りこの街の中央である王宮へ向かった。王宮の門の前に着くと、門番が冬風を見て通した。

 

 

「これは冬風様、お待ちしておりました。どうぞ、お通りください」

 

冬風は挨拶しながら通った。なぜ冬風のことを知っているかというと、最初に言ったとおりこの国の王様である渚 彦道は冬風の遠い親戚に当たる……いわば伯父様にあたる。なので城の皆は冬風のことを知っている。冬風も城の皆を知っている、ただ冬風が生まれた頃に彦道の息子が結婚し、子供を産んだとかで喜んでいたと秋水が言っていた。冬風はその子には会ったことも見たことも無い、その為どんな容姿でどんな性格なのか分からない。冬風が最後に訪れたのは4年前……小学校を卒業した時に、招かれて以来来ていないのでとても懐かしく思えた。

 

冬風は城の人々に挨拶しつつ、伯父様のいる皇玉の間へと足を運んだ。大きな扉の前で身をと整え、扉番が叫んだ。

 

「冬風様のご到着!!これより扉を開きます!」

 

少しずつ開いてく扉。すると、彦道が椅子に座り待っていた。

 

「久し振りだね、冬風君。まぁ、そこに座り給え」

 

冬風は頭をペコリと下げ、椅子にゆっくりと座った。すると、とても綺麗なメイドが冬風の座っている場所の目の前にあるテーブルの上に紅茶の入ったカップを置いて、そそくさと消えていった。

 

「いやぁ、本当に久しぶりだ。昔は子供っぽかったのに、今では女性顔負けの子に育っておるわ、がっはっはっは」

 

これを言われたのは何度目だろうと心の中で呟く……小さい頃は彦道に合う度に、お約束のようにずっと言われていた。確かに今の冬風の見た目は女性っぽいかも知れない……背中まで伸びている髪を紐で束ね、黒いコートの下は白いワイシャツ、ズボンは黒いスラックスを着用していた。……でも、面と向かって言われるとやはり恥ずかしい。

 

「……そうかもしれませんが、僕は男ですよ伯父様?それとお久しぶりです、相変わらずお元気そうで何よりですよ。」

 

優しく微笑みながら話す、彦道もがははとまるでいびきでもいかてるかのように大口を開けて笑っていた。昔から彦道の性格はとても陽気というか気さくで、病気になっているところなんて見たこと無いどころか想像すらつかない。

 

しばらくそんな話をしていたが、ごほんっと咳払いをすると急に真剣味を帯びた表情に切り替わった。

 

「そうだな、それはともかく……冬風君、お主あの村で散々やったそうじゃな?」

 

やはりその話を聞いてきたか……と、心の中で表情には出さずに少しだけ気を落とす。

 

「はい……仰るとおりです」

 

冬風は俯いた……叱責されると思い歯を食いしばり、膝の上で拳をぐっと固めた。

 

少しの間沈黙の時が訪れた……しかし、叱責は飛んでこなかった。気になり顔を上げてみると、顎の髭を触りながら何か思い悩んだような表情をしたまま口を開いた。

 

「ふむ……それで、そうした理由を聞かせてもらいたい」

 

意外に理由を聞いてくれた。あの村では誰も理由を聞いては来なく、殺した……という結果だけで追いかけてきたのだから。

 

「理由……ですか、伯父様からしてはちっぽけなことと思いますが……僕の幼なじみである子覚えていますか?雨宮忍です」

 

「あぁ、よく冬風君と遊んでベッタリだった子じゃな」

 

冬風と秋水の2人の幼なじみ、雨宮忍という少女が居た。青い髪の子で好奇心旺盛で、面白いことにはとことん素直な女性。小・中学と同じ学校で、登校から下校までずっと一緒だった。周りからは恨まれるほどに仲が良かった。特に冬風の場合はいつも一人で感情も表に出さず無口でとっつきにくいところもあった。それに忍は髪の色が蒼色でとてもではないけど、目立っていた。なので男性どころか、女性ですら忍に近づこうと言う人間は居なかった。お互いに目立つ二人がいつも一緒にいれば、当然風評も悪くなる。それでも忍は僕から離れていく素振りなどは一切しなかった。そして、事件が起きたのは中学3年の冬の事……

 

「はい、中学に入っても忍は僕とずっと一緒でした。ですが、あの日……忍の帰りが遅いなと思い学校へ向かうと、1台の医療用緊急カプセルとすれ違いました。その後に、僕をよく思わないと思っているのを分かっていたから、あえて遠ざけてた先輩方と、僕をずっと睨んでくる同級生たちに囲まれました。そして彼らはなんと言ったと思います?忍を意識不明になるまで殴ったり蹴ったり……暴行を加え続け、動かなくなった後も加えていた、お前と離れていてくれたおかげでやりやすかったぜ……と喜々として語っていました。その時に頭が真っ白になり、気がつけば……血の海でした、彼らの頭と血意外は全て消し飛んでいました。」

 

うむぅ……と彦道は唸った。目を瞑り、腕を組み、椅子に完全に身を委託した状態。

 

「僕はその時覚悟もなく手にかけてしまいました。その結果逃げるはめに……そして家に帰り秋水兄様が謝ったことを知り、自分は叱られるのが……見放されるのが怖くなり、更に逃げ出し家の裏山の奥の祠で泣いていました。泣き疲れようやく落ち着いた頃に、雅と出会いました」

 

雅というワードが出てきた瞬間、彦道は目を見開き、立ち上がり机に手をつき、委託していた体を前のめりにして顔を近づけてきた。

 

「冬風君……雅と出会ったのか!」

 

それはものすごい迫力だった。

 

「えぇ、僕はその時あんな惨劇を繰り返さないよう、雅に力を求めました。そして、契約しました。そして僕は覚悟を決めました。大事なものを守る覚悟、そのために自分を犠牲にしてでも守る覚悟、そして……人を殺す覚悟です」

 

いつの間にか冬風の顔からは先程の優しき微笑みの表情は失せていた。彦道はまるで信じられないものを見た様な、驚愕した表情になっていた。

 

「冬風君、君はやはり春音と同じだな……」

 

落ち着きを取り戻しつつ、ゆっくりと言い放つ。

 

「……母様と?」

 

「春音もな、好きな人を守るために力を求めて雅と契約した。そして、彼女は見事守り、病に冒され死んだ。死ぬ数年前に生まれたのが、君と君の兄だ」

 

思わず冬風も驚愕の表情を浮かべていた。まさか冬風が辿ろうとしていた道は、春音と同じ……?と思ったからだ。

 

「だけど、守るために多くの人を殺めたのもまた事実……君たちにはそうなって欲しくはなかった…」

 

少し悲しそうな顔をする彦道。

 

「……僕は、元天使長であるルシファーとも契約しました。そして、永遠に死ぬことの出来ない肉体になってしまいました。……ですがどうかご安心ください、僕はそこまで人を無意味に殺めるつもりはありませんから」

 

冬風は何処か悲しい思いを瞳に秘めつつも、優しく微笑んでみせた。一方で彦道はルシファーという単語でまた驚きの表情を見せた。

 

「ルシファー……だと?冬風君、君はなぜそこまでして力を欲する?なぜそこまでして……」

 

それから先は、何も言わなくなった。冬風は静かに息を吸い込み、静かに思いの旨を伝える。

 

「先程お話したとおり、僕は守りたい人を守るため…そして殺意を持って向かってくるものには必ず自分が死ぬ覚悟や相手を殺す覚悟があると僕は推測します。そして僕はもうその覚悟を決めました……死ねないけど死ぬほどの苦しみ、痛みを背負う覚悟を……ですから圧倒的な力を求めたのです」

 

淡々としてて彦道は少し困惑していた。顎のふさふさした髭をまた触っていた。

 

「そうか……少し話は変わるのじゃが、君が若霧魔法学園に入学するのは聞いておるな?」

 

「はい、秋水兄様から聞かされております」

 

急に話題を変えられて戸惑ったが、冷静に答えねばっと思い即答する。

 

「それでな、実は儂の孫娘…つまり、この王国の時期国王になる夢依も今年入ることになっておるんじゃよ」

 

初耳だ。しかも、会ったことがないため初対面ということになる。

 

「それで冬風君には夢依を守って欲しかったのじゃ……卒業するまでで良い、あの子の力になって欲しかったんじゃ」

 

「……ですが、僕の力が異常なことはすでにご存知なはずです。その夢依さんにどんな影響が及ぶかもわからないリスクを考えたうえでのお考えですか?」

 

人並みを外れた魔力を持つ冬風が、他の人にどんな影響を与えてしまうか誰も予測がつかない。学園に居るだけでも力を抑えるので精一杯で、守る暇などあるとは思っていなかった。

 

「それに、僕と夢依さんは初対面です。そんな人に、自分を守ることを容認してもらえるとはとても……」

 

そして一番の問題点はそこだ、流石に夢依の感情を無視してまで守る義理などない。

 

「それに関しては問題はない、すでに話は通してある。それにどこの馬の骨かも分からぬ男に、夢依を任せておけぬ故な。ならば親戚にあたり、同い年の君に頼んだほうが安心できるというもの」

 

その話から察する辺り、見も知らぬ男に自慢の孫娘と突き合わせてたまるものか……と。

 

「それに僕は男、万が一といいますか……その、もしかしたら夢依さんにも許嫁がいるのでは?」

 

「それは大丈夫じゃ、夢依には許嫁などおらんし冬風君さえ良ければ夢依をあげても安心というものじゃ」

 

冬風は転けそうになった。しかし学園生活で一番ネックになってくるのは人間関係、特に同性同士の付き合い。噂というのは良いのも悪いのも流れるのはとてつもなく早い、その為悪い噂が流れ相手を不快な気持ちにさせ、誤解が誤解を生み、同性との友好関係を築くのが困難になってしまうのではないかと心配してしまう。

 

「ふむ……誤解も何も、入学した時に教師には説明しておくし、事情を知れば誤解も産まなくなるじゃろ?」

 

「でも……本当によろしいのですか?」

 

再確認のつもりで聞いた。すると、国王ともあろう彦道が机に頭を擦り付けるように頭を下げた。

 

「頼む、夢依の事を守ってやってくれ!夢依は過去につらい目を何度も経験している、だから友達といえるものは一人も居ないんじゃ。」

 

「わ……分かりました、お引受けいたしますから……頭を上げてください、伯父様」

 

冬風は慌て、立ち上がる。国王である彦道が、まさか冬風にこんなに頭を下げるなんて……そんなにも孫娘思いの良き方なんだろう、ただ心配性は昔から変わってない様子だ……と内心苦笑いで思った。彦道は冬風が受けると言うと、まるで安心したかのような表情で手を握ってきた。

 

「おぉ、引き受けてくれるか!有り難い、この際卒業しても護衛……もとい、夢依の伴侶となって欲しいものじゃ」

 

そして子供みたいな無邪気な顔で言われた。

 

「い、いや……伴侶は流石に……僕はそんな立場じゃないですし。そもそも、皇女様である夢依さんと僕じゃ不釣り合いというか、こんなのが相手じゃ夢依さんも不快に思うというか……僕は、自分の意志は後回しで夢依さんの気持ちを尊重してあげたいと思います。なので、出来ることは何でもやるつもりです」

 

「じゃあ結婚も……」

 

「それは夢依さんしだいというか……僕に女生と結婚する資格なんてありません」

 

そういうと、彦道は少し泣きそうな表情をした気がした。すると、冬風の背後から突然、雅が話しかけてきた。

 

「ふふふ……久しぶりね、彦道。相変わらず元気そうじゃない、安心したわ」

 

 

「雅……?」

 

「大丈夫よ、冬風は私とある約束をしたからね」

 

面白そうに笑う雅、すると少し嬉しそうに雅に笑いかける彦道。

 

「おぉ、雅!お主も久しぶりじゃな。そうか、お主達は約束をしておるのか」

 

「はい、これは内緒にして欲しいのですが……その、僕は雅と忍……出来るかわからないけど、雅が言う僕が好きになった女性と笑って話し合い、楽しく暮らしていけるような結末にする……と」

 

冬風は顔を真赤にして説明した。あの時自覚してなかったけど、いざ人に話すと……誂われそうで恥ずかしかった。すると、彦道は誂うどころか微笑んだ。

 

「そうか、それは素晴らしき目標じゃ。なら、存分に励むが良い。そして、儂が作り得なかった世界を見せて欲しい!」

 

その言葉に胸を打たれて、少し泣きそうになった。でも、頑張ってこらえた。

 

「はい、精一杯励みたいと思います!」

 

「私がサポートするから大丈夫、絶対に叶えてみせるわ」

 

自信満々に胸を叩く雅、冬風もより一層決意を固くした。

 

「そして、冬風君が好きになった女性が夢依なことも願うとするか」

 

さり気なく彦道は、冬風と夢依さんをそんなにもくっつけたそうにしていた。


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