Accelerated Red Invader 作:4E/あかいひと
もっと主人公らしい覚醒の仕方させたかったのに、どうしてこうなった?
究極的に、レッド・インベーダーができることは一つだけ。
『轢き潰す』
これに尽きる。
《レッド》のスペックは、一定速度以上で相手を轢き殺すことに特化し過ぎている。だから、彼の戦闘方法も一つの方向に絞られた。
『確実に、轢き潰す方法』
たとえどんな小細工を弄そうと、結局轢くという行動に集約してしまう。
故に彼は、阿呆の一つ覚えの様に、バイクを走らせた。
120km/hを超え、奔りはじめる炎。
赤く燃える侵略者の動きが、暗いステージによく映える。
「…………クッ!!」
さらに加速する赤。人間を超えたスペックのデュエルアバターでも追い切れない故、どうすることも出来ない寒色アバター。
轟音と共に、充分に加速した侵略者は、敵対者へ向かってさらにその速度を上げ始めた。
音、熱量、視覚。3つの方向からの殺意という名の威嚇は、歴戦のバーストリンカーと言えど、一瞬怯ませるには充分。
「…………チッ!!」
飛び退こうとする敵対者。しかし初動が遅れたことにより、体勢を崩す。
そしてその一瞬を見逃す程、赤き侵略者は悠長な性格をしていなかった。
「轢・き・つ・ぶ・すッッッ!!!!!!」
声を置き去りにして迫った炎の軌跡は、避けられぬ死の軌跡。
相対した寒色のアバターは、その装甲を圧し潰され、その身体をブチブチを引き裂かれ、撒き散る炎に焼かれ、絶命。
8戦目にしてようやくの白星。
7回の死に対する復讐劇の幕開けである。
◇◇◇
反撃が成功した後、俺はすぐさま加速し、マッチングリストに載っている直結しているプレイヤー《カリブ・ペネトレイター》をタップ。すぐに戦闘に入る。
現実世界で拘束され、加速世界で即殺されるのなら、その流れを断ち切ればいい。断ち切るのならば、主導権を握ればいい。
幸い、僕のポイントは減りはしたが372。しばらくの余裕はある。
負ければ-7、勝てば+40…………コンスタントに勝ち続けるのは相性とレベル差の観点から厳しいが、なんてことはない。ここからの勝負全てでこちらから挑むとして、6戦中1回勝てば-1ポイントで済む。
1回の勝負でギリギリまで逃げて時間いっぱい逃げ切ると仮定した上で所要時間1.8秒。コマンドを唱えて戦うまでのインターバルが2秒、1/6の勝率で勝ち続けたら、364回は戦える。それだけの回数を時間フルで使えたら23分は稼げる計算だ。そうなれば誰かが助けてくれるあるいは通報してくれることを期待できる。と言うか、1/5で勝てたらポイント収支ではこちらが+になる。うまくいけば、相手を追い込むことだって可能だ。
気の遠くなる様な話だ。それまで心が折れるか折れないかすら分からない。
だが、やる。やるったら、やるのだ。
「クソが…………テメェよくも─────」
「反逆の時間だガラクタ野郎がァァァァァアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!!!!」
◇◇◇
(チクショウ…………どうしてこうなった!!?)
《カリブ・ペネトレイター》は、焦りを隠せずに心の中で叫ぶ。
最初は、気持ち悪い相手に当たったものだと思った。
加入したばかりの《スーパーノヴァ・レムナント》で提示された、真に彼らの仲間となるための最初のミッション、『加速世界を掻き回しかねない2人目の《レッド》を全損させろ』。確実に望んだ反応、望んだ貌を見れる、愉しいゲームだったはずなのに、予想に反して《レッド・インベーダー》は落ち着き、全損させられると分かっていても調子を崩さず。感情が出来損ないの人間を見ている気がして気持ちが悪くなった。
次に、楽な仕事だが面倒だなと思った。
レベル差がそれなりにある為、一勝するのにそこまでの苦労は必要なかった。何せ、心臓を一突きで全てが終わるのだから。だが、そのレベル差のせいで1度に奪えるポイントが少ない為に、RPGで言うところのスライムを延々と倒し続ける作業に徹するのには苦労しそうだった。
最後に、なんだこのバケモノは? という感想だった。
赤系アバターの常で、本体自身は然程強くない。レッド・インベーダーもその例に漏れず、本体の強さはお察し、レベル1ということもあり、最低限人間を超えているだけのスペックの、人間のそれと近いそれだった。
だと言うのに、その最低限のスペックだけで、初撃を悉く外される。
最初は、大声による変調。確かに唐突な宣言にビビった彼は、決めなければならない最初の一手を出せなかった。
次に、向こうから一撃を入れられた。武道では、ノーモーションからの一撃は威力を犠牲にする代わりに躱せないと言うが、同じことをインベーダーをした。ダメージにもならない一撃だったが、引き離し、バイクに乗る隙を稼ぐには充分だった。
他にも、あの手この手を弄して、あの赤いアバターは初撃を免れ、バイクを駆り、そして轢く。
対処をすれば次の手を。また対処をすれば次の手を。繰り返す内に、勝率が段々と向こうの方に傾いていく。
ポイント収支で言えば、6試合で1回までなら問題なかった筈なのに、1/2のシーソーゲームを繰り返しているこの現状。
(クソ、クソクソクソ、クソォォォォオオオオオオオッ!!!!)
恐怖に震えていくペネトレイター。ポイントが着実に向こうに削り取られていることもあるし、襲いかかってくる炎と音、そして容赦無くこれ以上ない苦痛を与える車輪が、恐ろしいこともある。
だが何より、
「ぶっ飛べ暗青野郎ッ!!!」
「ヒッ!!?」
既に『100回』を越える戦闘を行いつつも、
「ウォォァァァァァアアアアアアアッ!!!!」
「イ、ギガァァァアアアア──────」
叫び声とは裏腹に、適確に自分に対処し続ける、人間離れした人型が、恐ろしかった。
最初に気持ち悪いと感じたのは間違いじゃなかった。インベーダーの中の人間は、見た目は普通としか形容できないただの学生のその精神は、形容できない程悍ましいそれなのだろう。
そう思った時点で、更にペネトレイターは動けなくなる。自分の意思の力でアバターを動かす以上、心が折れかければ動きが悪くなるのも道理。
自分から始めた直結対戦なのに、向こうに腹を括られた為に、こちらから逃げることはできないだろう。脇目も振らずあの少年は、勝負が終われば加速して、勝負を挑み続けるに違いない。それこそ、ペネトレイターのバーストポイントが消えるまで。
(…………逃げなきゃ)
恐怖にかられ、彼は離れた位置で助走距離を十分にとっている恐怖の対象へ、思わず口にした。
「レ、レッド・インベーダー!! 良いだろう、一旦見逃してやる!! お前だって、これ以上は厳しいだろう!!?」
だがその言葉は、最期の引き金だった。
「…………ふざけんな」
戦闘中の叫び声が嘘のように止み、静かにその言葉が漏れる。
しかし、その静かさは嵐の前の静けさ。
「ふざけんなよテメェ…………さんざ俺を殺すつもりで嵌めやがって、自分が死にそうになれば逃げたいとかほざくのかよ」
《レッド・インベーダー》は、劣等感からくる怒りの具現、劣等故に浴びせられる理不尽に対する怒りが形となったものである。
そしてそんなレッド・インベーダーが、《赤》という色を貰っただけの弱者を狙ったPK…………レベルで劣る自分に降りかかった、高レベルプレイヤーによるPKという理不尽を見逃し、放置するのか?
否、断じて否。
「ふざけんな、ふざけんなふざけんなふざけんな、ふざけんなッ!!! 逃がさねぇよ絶対!!! 理不尽は、轢き潰すッ!! 逃げる前に…………轢き潰すッ!!!」
彼の怒りに合わせて、《Red》に変化が訪れる。
より、空気抵抗の少ないフォルムに。
より、エンジンが大きく。
より走ることに特化したソレに変貌しきった時、インベーダーの視界にシステムメッセージが入る。
《You equipped an enhanced armament《The Red》》
そのメッセージを振り切りながら、レッド・インベーダーは走り出す。
すぐさまメーター上のレッドゾーンに突入。だが、まだ足りない。
空気の壁にぶつかり減速しそうになる。だが、ソレを無理矢理ブチ抜く。
加速加速加速、そして見えた速度の向こう側。限界を超えるという意味での、真のレッドゾーンを超えた時。
《ザ・レッド》の分解の開始。しかしそれは自滅ではなかった。
分解したパーツが、次々とインベーダーに装着されてゆく。
「レッドォ、ゾォォォォォオオオオオオンッッッ!!!!!!」
速度を維持したまま、其れは現れた。
所々に元のバイクの意匠が見られる、レッド・インベーダーより二周り大きい人型。
手、肩、膝、足の各部に配置された車輪がギュルギュルと軋みながら火を散らし、額から伸びる排気筒からは、これでもかと炎が噴き出す。
《レッド・インベーダー》の真の姿…………あらゆる理不尽を踏破し潰す、最強の侵略者の姿。
「アアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
全身を駆動させ、更に加速したインベーダーは、火花散るその拳を前に突き出した…………そう、カリブ・ペネトレイターへと。
「ヒィ─────」
悲鳴が聞こえたのは最初だけ。
その一撃は、悲鳴すら上げさせることなく、手の車輪の中に巻き込み…………見るも無惨なスクラップへと変貌させてしまったのだから。
「…………なんとか、なった」
最後に残したその言葉。レッド・インベーダーは、その巨軀を盛大に軋ませ自壊しながら、生き残ったことを喜ぶのだった。
原作TCGからして相手を追い詰めた時に力を発揮するようにできていやがる侵略者共…………こっちの主人公もそれにあてられて追い詰めた時に覚醒…………って死体蹴りじゃねぇか!!?
具体的なスペックはまた後日。というわけで第1章『レッドゾーン覚醒編』はこれにて終了です。